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吉田武 著 「虚数の情緒ー中学生からの全方位独学法」
東海大学出版部(2000年2月)

全人的科学者よ出でよ! 好奇心に満ちた健全なる精神を持った人のために

吉田武著「虚数の情緒」  オイラーの贈り物

吉田武氏の著書については、吉田武著 「オイラーの贈物 人類の至宝eπi=-1を学ぶ」(東海大学出版部 2010年)「私の速水御舟ー中学生からの日本画鑑賞法」(東海大学出版部 2005年)を読んだことがある。本書「虚数の情緒ー中学生からの全方位独学法」は2000年の出版である。吉田武著 「オイラーの贈物」の元本は20世紀末にA5版として出版され、次いで文庫版として受け継がれて10万部を発行したという。旧版は絶版として、2010年に文庫本では読みにくいので再度A5版で東海大学より出版された。そういういきさつから吉田武著 「オイラーの贈物」の姉妹本として本書「虚数の情緒」が2000年に出版されている。「虚数の情緒」は数学の本とすれば、本書はさらに広く科学方法論と数学、物理学を包括している。とはいえオイラーの公式が生かされた分野の確認作業の旅に出たという趣旨で本書は書かれている。だから数学的内容としては吉田武著 「オイラーの贈物」より少ないが、数論の初歩についてはかなり詳しく数値計算手法も援用して書かれている。そこで吉田武著 「オイラーの贈物」から虚数の数学について概観しよう。
『物理学者ファイマンがこういっている。"We summarize with this,the most remarkable fomula in mathmatics: this is our jewel"
数学、特に複素解析におけるオイラーの公式とは、に示される指数関数と三角関数を虚数が媒介して成り立つ等式をいう。 θ = π のとき、eiπ = -1 というオイラーの等式と呼ばれる式が得られる。この公式は複素解析をはじめとする純粋数学の様々な分野や、電気工学・物理学などであらわれる微分方程式の解析において重要な役割を演じる。物理学者のリチャード・ファインマンはこの公式を評して「我々の至宝」かつ「すべての数学のなかでもっとも素晴らしい,そして驚くべき「方法」」だと述べている。第1部でオイラーの公式を導くための数学の基礎全般を概説し、数論、級数、代数方程式、関数論、微分、積分を概説する。準備が整ったところで、第2部ではオイラーの公式の骨格をなすテイラー展開、指数関数と三角関数の特徴を概説する。そして第3部でオイラーの公式を導き、ベクトルと行列に応用して物理学への展開を述べる。付録としてアドバンスコースを設け、オイラーの公式の利用のすごさを実感してもらう過程となっている。今の数学教育ではお目にかかれない連分数や、√2、π、eが無理数である事の証明やフェルマーの最終定理など数論の基礎的話題は魅力に満ちている。4次までの代数方程式は何とか解けることの実習にかなりのページを割いている。行列形式による微分方程式の解法はベクトル形式を利用して物理学への重要な意味付けを扱っている。3行正法行列の行列式の計算とラプラ−ス変換による微分方程式の解法は有意義な勉強であった。本書はオイラーの式が持つ意味を理解するための総合的な数学入門であり、従来の分野別数学書ではない。  吉田武氏の著書「虚数の情緒」に、オイラーの公式の三次元化が述べられている。一寸面白いオイラーの公式の視覚化なので紹介する。yz平面においては,パラメータを使った円の表現がなされており(半径1の円である)、xy平面にcosθのグラフ,zx平面にsinθのグラフが同時に描かれている。それをx軸方向に引き伸ばして,あたかもばねの様に立体化させたものがこの図である。』

吉田武著 「オイラーの贈物」の構成を順に概説すると、以下のようである。
第1部 基礎理論
第1部の基礎編では、「パスカルの3角形」で2項定理と数列の面白さを、「方程式と関数」では2次方程式の解と虚数の登場と関数の性質を知るためのグラフの活用を、微分積分の定義と基礎公式を概説する。2,3の初歩的事項をあくまで丁寧に分るように具体的に説明する。これでは本のページ数が多くなるのはやむをえない。専門書のような、理解できない人には大きな壁を感じるような冷たさは無い。素数を求める「エラトステネスの篩」という方法を知った。連続という概念、循環小数を分数で表す方法は面白かった。これはもうビンゴゲームを超えるパズルといってもよい面白さがある。(a+b)のn乗を展開する2項定理の係数が、相異なるn個のものからr個をとる順列組み合わせから求められる。上の二つの項の和であるパスカルの3角形の数列と前の2つの項の和で決まるフィボナッチの数列が、同じ数表の斜め読みでつながっていたのは、確かに当然である。数列が収束する条件と、等比級数、等差級数の和の公式はまさに天才技(奇想天外)である。2次方程式の解法で初めて虚数が登場する。関数とグラフ、微分積分は普通の高校の教科書と同じなので割愛する。又計算機で数値的に方程式の解をもとめるニュートンラプソン方は随分お世話になったので、その重要性はいうまでも無い。そしてこれが√の開法にもなっていたのだ。
第2部 関数の定義
第2部はオイラーの公式の三大構成要素である、テイラー級数展開と指数関数(対数関数)、3角関数の基礎を述べる。級数の和を求めることの逆で、ひとつの式を級数に展開できないだろうかn次高次代数方程式の微分を行なうと、ひとつづつ次数が減じていくことを利用してテイラー展開が可能となった。2項定理も改めてテイラー展開に含められた。指数関数は実に簡素化された性質を持つ。その最大の性質は微分をしても関数の形を変えないことである。そしてe0=1と定義するので(eはネイピア数という無理数)、そのテイラー展開はより簡素化されたxのベキ級数で表される。対数という関数は指数関数の逆関係にあり、微分すると1/xとなるという便利な形式をもつ。3角関数は円と切り離せないほどの関係があり、円の関数といってもよい。小川洋子さんが不思議がる必要もなく、πは角度θとみればオイラーの公式のひとつの特殊形であった。πも無理数である。本書によるピタゴラスの内接n正多角形によるπの漸次計算法は、連√形式ではあるが、ぺートル・ベックマン著「πの歴史」の説明よりずっと整理されていて分りやすい。周期関数である3角関数の諸定理は高校の教科書と同じであるので省略する。(cosx)2+(sinx)2=1の解として、A=cosx+isinx  B=cosx−isinxとおけば、A,Bは指数関数と同じ性質をもつので、ド・モアブルの定理(cosx±isinx)n=cosnx±isinnxが得られて、3角関数、虚数、指数関数の間に密接な関係が見られ、オイラーの公式の準備が整った。3角関数もテイラー展開が出来ることはいうまでも無い。
第3部 オイラーの公式とその応用
A=cosx+isinxを級数展開すると、指数をテイラー展開した形とおなじであり、xをiθに置き換えると、eiθ=cosiθ+isiniθというオイラーの公式がえられる。ここでそれぞれ独立して定義された関数、単調関数である指数関数と周期関数である3角関数が虚数を取り込むことによって結びついている。そしてこの公式は調和振動子という物理学に直結するのである。θ=π(180度)とおけば、eiπ=-1となり円周率とも手を結ぶのである。sinθ=1/2i(eiθ−e-iθ),cosθ=1/2i(eiθ+e-iθ),tanθ=(eiθ−e-iθ)/i(eiθ+e-iθ)と書き換えれば、3角関数の理論は複素平面(ガウス平面)上の指数関数に移され、指数関数の簡素な法則(微積分によって関数形を変えない)を利用して見通しのいい関係が出来る。オイラーの公式は複素数の幾何学(解析幾何学)そして極座標からベクトルへと応用される。オイラーは剛体の力学に回転の極座標を導入したことで有名である。ベクトルの代数表現として行列があるが、本書の行列についても大学1年で学習する行列と行列式の範囲を出るものではないので割愛する。単位行列と虚数行列(直交行列)を定義してオイラーの公式の行列表現ができる。そして微分方程式の行列解法になくてはならないケイリー・ハミルトンの固有方程式が2行2列の行列に関して導かれた。
第4部 発展的話題
第1部から第3部の解説において、煩雑を恐れて話題としなかった事項について、基礎をひととおり理解した段階でさらに高度な内容へ進むのがこのアドバンス・コースである。内容は多岐にわたり、22の事項が解説されている。整数論では最大公約数を求めるユークリッドの互除法という割り算の漸次アルゴリズムをBASICという言語でプログラムすることが述べられている。本文ではN=1または2の場合のみ詳しく解説して、Nの一般式を誘導しているが本当はその証明がなかった。これを証明するのが数学的帰納法である。これも高校で習ったところだ。素数が無限大に存在することを、数学的帰謬法で証明している。順列組み合わせの一般項の公式も高校で学習したことである。無理数、ネイピア数e、円周率π、黄金数を連分数で計算することを通じて、パスカルの3角形からフィボナッチ数列へ、フィボナッチ数列から黄金数へ、黄金数から円周率、ネイピア数へ、そしてオイラーの公式を通じて虚数へとひとつの橋が架けられた。数学的に重要な定数はお互いに暗渠で通じ合っていたとしか言いようの無い見事さであった。(これら定数はどうしても有理数にできない超越数という) 話題として3次以上のピタゴラスの定理をみたす自然数は存在しないというフェルマーの最終定理や、5次以上の代数方程式の一般的代数解法は無いことにこだわり続けた人々(ガウスはn次代数方程式は複素数の範囲にn個の根を持つことを証明したが、解法は知らないという)から、ガロア群論がうまれた契機となった。この第4部で4次代数方程式の一般的解法の解説に力を入れているようだ。三次のタルタニアーカルダノ解法、4次のフェラーリの解法とその演習である。行列による微分方程式の解法に随分ページを割いている。1階線形微分方程式の一般的解の公式を導いて、2階線形微分方程式を解くという手法である。例題として、物理学的に重要な問題、自由落下の方程式、強制調和振動子、減衰調和振動子の解法を説いている。そしてスカラー3重積から重要な性質を導き、三次の正方行列と行列式を解説している。これも大学1年で学んだ事項である。微分方程式の演算子法解法で、微分積分を考察する変数を複素数に拡張することによって、単なる代数計算に置き換えることができる。F(s)=∫e-st・f(t)dt これをラプラース変換という。定数、一次変数t、指数関数、1階導関数、2階導関数のラプラ−ス変換などが出来るが、何でも出来るわけでなく、初期値問題では意外に応用が広い。』

第T部 方法序説

本論を始めるについて、HTMLというソフトの制約から式の展開、図形は一切表せないので、すべて言葉で表現したい。従って話はかいつまんだ流れだけを追うことになるが、数式を追いたい人は本書を買って読んでください。あっと驚くような醍醐味は数式の展開にあるので。、「わさびの付いていない寿司を食うようなものでつまらない」という人は、ぜひ本書を買って悪戦苦闘してください。それが数学の神髄なのですから。巻頭言を見てびっくりしました。漢字のほとんどにルビが降ってあるからです。漢字を積極的に用いた表記にし、かつ誰でも読めるように初出の漢字にはルビを振るという原則です。本書を読み進めるにつれルビは少なくなります。読むという行為は書くという行為よりも大事です。ワープロがあるので書くことは苦労しません。まず読めて意味を取ることからすべてが始まります。著者はそういう国語教育をしたかったのでしょう。巻頭言には「自分の頭で、他人の干渉を許さない絶対の意志の下で、基礎的な数学の訓練を受けておく必要がある」という本書の趣旨が書かれている。何故なら今日頼りになる大人が全くいない情けない状況であるからだ。現在の日本型教育の最大の問題点は「教え過ぎ」である。知識に溺れる者は、考えることを放棄するものである。詰め込み教育は浅薄な訳知りの「10歳の老人」を生み出す事を目的としているようである。必要なのは「驚く能力」を持つ「百歳の少年」である。時間に余裕があり、先に進むことを目的とせず、じっくり数学の古典を学ばねばならない。本書は好奇心溢れる健全な精神を持った人間を作ることを目指している。では第1部「方法序説ー学問の散歩道」に入ろう。吉田武著 「オイラーの贈物」には、この方法序説という内容はない。なぜ数学を学ばなければならないのか、数学を学ぶと何が変わるのか、吉田氏はここから数学教育を論じたかったようである。むろん知識の体系から言うと数学は一部に過ぎない。すべての学問の中の数学という「全人的数学」を学ぶ意志があるのかということが求められる。第1部は全1000頁の本書からすると120頁に満たない、約1割強である。だから気楽に読んで著書の気持ちを知っておくことが重要である。数学教育の問題点は公式を暗記すると考えると、もう万事休すである。公式はいつどこでも自分の力で導出できるようでなっていなければならない。そのためには概念の定義を知り、そこから導かれる定理の展開に目を見張ることから数学への興味が始まるのである。公式はメモ程度の備忘録である。そうでないと前提条件を忘れたり、適用範囲を誤り、無益な演算をやることになる。数学から生徒を遠ざけたのは、教師の怠慢であり、おそらく自分で導くことができない公式を無暗に生徒に憶えさせたからである。定理や公式よりまず定義が大切なのである。そうでないと問題設定ができないからだ。数学教育の目的は出来上がった公式を使って計算させることではなく、定理を証明する論理を学ぶことである。そのためには初等幾何学は格好の演習の場となる。2次方程式の解の公式を使って、解を計算することは計算機(電卓)に任せておけばいい。文部省式教育指導はお題目のように「選択の自由と個性の重視」を謳ってきた。読み書きそろばんの最低限度の知恵が身についていれば、大学教育はそうであってもいいのだが、小学生や中学生にそれは通用しない。勉強は服装のファッションではない。論語の素読と同じように数学の基礎は訓練を施さなければ身につかない。個性とは自分自身で考え、他人になりえない精神の独自性をいう。個性とは精神のことである。個性化教育とは付和雷同の流れやすい人間を作ることでしかない。自己と必死に格闘した精神が個性になる。自由とは何かからの逃避に過ぎず、その逃避の仕方を個性と言っているようである。

子供を一律に無邪気ととらえる見方は誤っている。子供も生存競争に曝されており自己防衛本能の虜になっています。これを正しく教育することが「躾」であり「教育」の役割なのです。子供は極めて利己的な存在で、早く大人になりたいという憧れを持っています。子供に「民主主義」を教えることは、次期尚早です。大人の論理である極めて政治的な概念は理解できないでしょう。教えるべきは言葉であり、文化そのものでなければならない。文明は物質・技術であり、文化は精神です。読書こそまず始めなければならないことです。読書とは言葉を仲介として他人を理解することで、それを鏡として自身を知る行為です。どのような人でも先人の肩に乗っていろいろなことを見渡すことができます。資源を持たない日本では科学技術を国是としていますが、科学者は専門を持たないことが普通です。「科学的な考え方」を唯一の武器として、困難に立ち向かいます。そういう意味で科学者は「狩猟民族」で、専門性を持つ技術者は「農耕民族」といえます。アインシュタインは「理解できることこそ不思議である」と言い、朝永振一郎は「不思議だと思うことこそが科学の芽です」といっている。数式が出てくると拒否反応を示す人が多い。数式の効用は筆舌に尽くせないほどあります。文章だけですと曖昧になり、一目瞭然という理解ができません。式の簡潔性は言うに及ばず、概念、数値などの情報が手に取るようにわかります。「方程式はその作者よりも賢い」と言われます。もしその物理的意味合いは異なっていても、数式が同じなら裏のからくりは同じとなります。たとえば電気と磁気の関係で、マックスウエルは電磁波という概念で両者を統一しました。あらゆる無駄を省き研ぎ澄まされた表現こそ数式の醍醐味なのです。これを嫌っていては一歩も前に進みません。概念が演算できるのです。すると目に見えなかったからくりが形を表します。例えば万有引力の法則とケプラーの第2法則(面積速度一定)を数式に表して、推論を重ねてニュートンは微分積分法を作り上げ、さらに角運動量の保存則に発展した。数式とは「抽象性の高い言語」に翻訳することで、その本質を抉り出すことが出きるのである。物理学は実験科学の側面だけでなく、論証科学としての能力を持っている。論理学の方法には「帰納法」と「演繹法」があることはよく知られている。現象から法則を導くのは帰納法によるが、法則から現象を説明するのが演繹法である。文章だけでは帰納と演繹の能力は低く、数学的に表現することが不可欠である。青年期には帰納すべき具体例を楽しむ根気が必要である。膨大な天文学データーからケプラーは天体運動の3原則を発見したし、ガウスはたゆままず循環小数の動きを計算することから整数論を発展させた。小中学校時代の計算は馴れることで便利なやり方を考案する「数覚」を磨くことになる。天才少年ガウスの級数の和の求め方は今でも公式となっている。努力や忍耐なしには達成感や満足感は起りえない。こうした手間や努力を厭うとどうなるだろうか。私は文系だから数学は敬遠したいという人は人として大成しない。ナイチンゲールは天使とあがめられた人だが、実は衛生の統計学を収め、英国陸軍病院の死亡率を半減させたことは意外に知られていない。森鴎外は陸軍医統監に上り詰めた人だが、脚気による死亡率を激減させた人手でもある。文系・理系とか、東洋・西洋とかいう2分法はほとんど益がない。だから中庸がいいということも浅薄である。また理系の人が人文を嫌ってはいけない。読む能力、書く能力、文の内容を掴む能力はすべての学問に必須の要件である。数学的に自然および文化の諸現象を見ることが本質的理解には求められている。著者はここで宇宙の誕生ビックバン(太陽系の誕生を含め)から生命のの誕生、人類の誕生、文化(4大文明)の誕生に至る150億年の歴史を概観する。そして我々とは何かをという質問をする。「歴史とは何か、それは私である」という結論をだす。人間が知性という営みを身につけ、情緒を下支えとして人間的な意義を持つ、それが本書の題名の由来である。そこで若者の旅立ちを応援する教育の意味を授けたのである。ニーチェの言葉は「高く上りたければ、自らの脚を用いよ」という。さていよいよ本題に入ろう。

第U部 数学

第1章 自然数

数学の勉強は「数」そのものを知る事から始まる。本書の特徴は電卓をたたいて、数学の理解を深めることです。公式や定理から入るのではなく、電卓をたたいて計算し、数字の不思議な性質をじっくり覗くことです。だから第2部は、自然数、整数、有理数、無理数、時数、虚数、指数、最後にオイラーの定理で終わる予定です。吉田武著 「オイラーの贈物」でも、簡単にこのことに触れていますが、ここでは中学生対象ということで(果たして中学生に理解できるかどうかは別にしておこう)、数の性質をかみ砕いて説明しています。中学生から未知数をIと置いて、代数の手法が始まります。数が文字に置換されることで抽象性が高くなり、数の性質を良くく知らないととんでもない問題が起きます。人類が数を発明した(ゼロの発見はもっと後のこと)のは生活のため(家畜の管理、農耕地の面積や、交換取引での数量など)であるといわれますが、未開人では多いか少ないかぐらいの概念しかなかったし、動物は数を知っているようには思われない。ここから人類の発展・文明が始まったようです。自然数とは、1,2,3,4,5,,6・・・・n・・・と続いてゆく項差が1の無限の数列です(電卓の世界では10桁または12桁以上の自然数は「オーバーフロー」が表示され扱えない)。そして数の大小関係が「数直線」に並べる幾何学的直観から決められます(この数直線は数の粗密や連続という性質を論じるときに再登場します)。次に我々は九九の表(掛け算)を暗記させられました。2×3=6という等式を学びました。これは実に便利で間違いのない表記法です。自然数の中では、加法(和)、乗法(積)は自由にできる。引き算はマイナスやゼロを教わっていなければ、できない場合もある。徐法(商)は分子が分母より大きく、割り切れなければできない(有理数を学ぶまで)。次に交換則として、a+b=b+a、a×b=b×a ができる。自然数が倍数から成り立つとき(6=2×3)、2は6の約数であるとか、6は2の倍数であるとかいう。真の約数を持たない数を「素数」と言い、約数を持つ数を「合成数」という。この素数を求める方法を「エラストテネスの篩」という。例えば100までの素数(2を除いては、もちろんすべて奇数である)とは、2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31,37,41,43,47.,53,59,61,67,71,73,83,89,97である。自然数に基本要素である素数も無数にある。いま2つの自然数の公約数と公倍数を求めてみよう。42と60をみると、まず42を素数に分解すると(2,3,7)である。60の素数は(2,2,3,5)である。従って42と60は公約数として2と3を持ち、最大公約数は2×3=6である。42と60を合成すると素数としては(2,2,2,3,3,5,6)であるが、小さいほうの42の素数(2,3,7)にあと(2,5)を加えた(2,2,3,5,7)=420が最小公倍数である。自然数を中心に数の性質を研究する分野を「数論」と称する。自然数は2で割り切れる偶数(2n)と割り切れない奇数(2n+1)の分かれ、それは交互に現れる。その偶数と奇数の数はnが自然数であるので1対1の対応がとれ、自然数と同じ数だけ存在する。つまり部分と全体が一致するという結論を出したのがカントールという人で、後に集合論となった。ゼロという概念は実に便利な数で、10進法という位取りを可能とし、計算を容易にしたことは、吉田洋一著「零の発見」(岩波新書1939年)に詳しく書かれて周知だと思うので省略する。

第2章 整数

自然数のにゼロを加え、さらにマイナス(負)の整数を加えて「整数」という数の集団が生まれた。ゼロは加法ではa+0=a、0+a=a、乗法では0×a=0、a×0=0を満たす。古代インドでゼロが生まれ、位取り記数法をきわめて容易にした。マイナスの数字という概念は虚数と同じように極めて抽象的な概念であるが、これが演算において重要な役割をすることは皆さん実感されているはずである。マイナス記号ーは引くという演算操作だけでなく、「数直線」のゼロの位置から左側に整列する数として機能する。-1-1=-2において最初の-1は数であり次のマイナスは引き算という操作である。こうして整数は自由に加減乗法計算ができるのである。整数の和の結合則は、a+(b+c)=(a+b)+cで計算の順序に因らない。a+0=a、0+a=aより、ゼロは加法の単位元であり、1×a=a,a×1=aより、乗法の単位元は1であると呼ぶ。a+(-a)=a-a=0であることは言うまでもない。整数同士の掛け算は整数となり、正の整数同士の掛け算は正の整数、正と負の整数の掛け算は負の整数となり、負の整数同士の掛け算は正の整数となる。整数は「数直線」で方向性をもちゼロを折り返し点として、正は右方向、負は左方向に並ぶ。これはベクトルの考えである。指数の場合マイナスの指数とは逆数を意味している。例えばa-3乗とは1/a3tということで、a0とはa(5-5)=a5/a5=1である。そして整数の濃度であるが自然数と同じ濃度である(これを加算濃度を持つという)。整数の演算法則には交換法則(和a+b=b+a、積a×b=b×a)と結合法則(和(a+b)+c=a;(b+c)、積(a×b)×c=a×(b×c))そして分配法則(和(a+b)×c=a×c+b×c、積c×(a+b)=c×a+c×b)が成り立つ。和と差の2乗の展開式、(a+b^)2=(a+b)(a+b)= a^2+2ab+b~2および(a-b)^2=a^2-2ab+b^2、および(a+b)(a-b)=a^2-b^2は数式の展開で無条件に重要な式である。覚える必要ないが、繰り返し計算して身につけることである。(a+b)^2=(a+b)(a+b)=a^2+2ab+b~2の延長線上に(a+b)の3乗以上の展開を二項展開という。そしてその二項係数が実に面白い数列をなすのである。0乗:1、1乗:1,1、2乗:1,2,1、3乗:1,3,3,1、4乗:1,4,6,4,1、5乗:1,5,10,10,5,1、6乗:1,6,15,20,15,6,1これらを平面上にピラミッド配置すると「パスカルの3角形」が得られる。数列は構造的には「回文数」になっている。本書では第2章整数の中で、基本的な図形の持つ性質を挿入している。幾何学の初歩については小平邦彦著 「幾何への誘い」(岩波現代文庫)を見るとして、この節は整数論に直接関係ないのでオミットする。そして本章は三平方の定理(ピタゴラ氏の定理ともいうが、ピタゴラスが知っていたのはごく特殊な整数3,4,5であった)に入る。直角三角形の3辺の間に成り立つ関係 a^2+b^2=c^2を三平方の定理という。この定理の証明法はたくさんあるが、代数と幾何の解法が分かりやすい。ピタゴラスは3^2+4^2=9+16=25=5^2であるが、この定理は整数に限られない。実数全体で成り立つ関係である。そしてこの関係から直角2等辺三角形1^2+1^2=2=(√2)^より2無理数√2が生まれたのである。整数のみの三平方の定理の例は無数にある。つまり整数だけで成り立つ三平方の定理の一般化ができるのである。二次二項展開の式(a+b)^2=a^2+2ab+b~2と(a-b)^2=a^2-2ab+b^2より(a-b)^2+4ab=(a+b)^2が導かれ、a=m^2,b=n^2とおくと4ab=(2mn)^2となり、(m^2-n^2)^2+(2mn)^2=(m^2+n^2)^2が得られる。(m^2-n^2)、(2mn)、(m^2+n^2)が3辺の数となる。こうしてm,nを選択してゆくと、無数の整数による3平方の定理を満足する解が得られる。さらに話題はa^n+b^n=c^n(ただしnは3以上の自然数)となるとこの式を満足する自然数(a,b,c)は存在しないことが予想され「フェルマーの大定理」余呼ばれた。そしてオイラー(n=3)、フェルマー(n=4)、ルジャンドル(n=5)、クンマー(n-=7)がフェルマ―の予想が正しいことを証明したが、ついに1993年ワイルスがフェルマーの予想を肯定的に解決した。

第3章 有理数

自然数、整数から有理数の段階にやってきました。自然数にゼロとマイナスを導入した整数によって引き算ができるようになりました。数の拡張にはいつもどんな計算が自由ににできるかが大問題です。今までは加減乗法をやってきました。徐法を自由に行うには新しい数の集まりの定義が必要です。新しい数とは、分子の数と分母の数の比(分子÷分母)で表せる数のことである。分母はゼロでないので、整数÷自然数これを分数または有理数(有比数)と呼ぶ。割られる数が割る数より小さい時、小数点という表記法がある。分数で表すか少数で表すかには一長一短がある。小数点法は数の大小関係が実に小さいレベルで判定できる利点があり、割り切れない時には演算に誤差が付いて回る。分数には約分や通分という操作が面倒な点、最後まで比で行けば割り切れなくても分かりやすいという利点がある。分数どうしの足し算・引き算では通分という、両者の分母をそろえてから分子を足すまたは引くという操作をするが、そのとき重要な手法が「1の変形」である。例えば2/3+1/5の足し算で、前の分数に5/5を掛け後ろの分数に3/3を掛けると、分子の演算は(5×2+3×1)=13となり、分母は共通で3×5=15、答えは13/15となるやり方である。必要なら分子分母の約分をする。分数の掛け算は分子、分母同志を掛ければいい。分数の割り算は分母に来る分数の逆数を掛けるというやり方である。こうして有理数は加減乗除が自由にできる。分数を少数表示する時、分子は整数倍と考えると分母の逆数だけが本質的な演算である。たとえば1/3、あるいは1/5では前者は割り切れないで繰り返しが続くが、後者は0.5で割り切れる。その理由は2,5だけを素数に持つ数の分母の場合が「有限小数」となる。割り切れない場合は「無限小数」という。無限小数でも同じ繰り返しである場合は「無限循環小数」という。割り算の余りに注目すれば循環小数になる理由がわかる。たとえば1/7では、0,142857142857・・・と繰り返す。少数の表現法であまりに当たり前でありがたみが薄いとみられる10進法ではゼロの羅列を避けることができ、数の大きさが一目瞭然である。特に物理定数で顕著である。電子の電荷e=1.60217733×10^ー19C、万有引力定数G=6.667259×10^-11Nm^2Nm^2/Kgなどである。数の表し方の代表は10進法だとして、コンピュータ内部で欠かせないのは2進法である。エジプトのパピルスに書かれた2進法による計算法や、「エジプトの分数」といわれる分数を単位分数(分子が1の分数)で表す方法があった。例えば2/5=1/3+1/15という表記法である。なぜこのような表記に拘泥したのかは不明である。少数を2進法で表すのは大変厄介でかえって計算速度を遅くするので便利さは場合によりけりである。古代バビロニアの楔形粘土板に不思議な計算表がある。これを「バビロニアン・テーブル」という。a,b,c3つの数表がかかれ、b/aが60進法で記されている。これを10進法に直して解釈すると何と直角三角形の角度α=tan-1(b/a)を求める計算表であった(ピタゴラス数)。おそらく土地の測量のために必要であったのだろうといわれている。0と1の間にある有理数の濃度に限定してもその数は無限である。これを「有理数は稠密である」という。いくらでもミクロな数になりうるのである。

第4章 無理数

有理数の小数表現は、割り切れて有限になる場合と、割り切れず循環が続く場合に分けられた。無限に続く場合でも、無限に続くが循環しない数の場合(無限非循環小数)は、有理数にはない数の形(無理数)である。ギリシャ時代には的確に捉えられ、さらにバビロニアの粘土板には正確な計算用数表もあったという。数を少数で表す場合、循環小数になる場合とそうでない場合の2種類に「2分法」で分類し、ある数が無理数であることを証明するため、直接的に「無限に循環しない」ことを証明する必要はなく、有理数だとすると見准をきたすことを示せばよい証明法がある。これを「帰謬法」と呼ぶ。無理数の代表例として√2を考えよう。1の2乗は1,2の2乗は4、だから2乗して2,3になる自然数は存在しない。幾何学でいうと一辺が1である正方形の対角線の長さが√2である。だからピタゴラスの定理において、自然数の組み合わせにならないというピタゴラスにとって許せない事態が生じたといういわれのある数である。今これが有理数であると仮定しX=n/m(n,mは自然数)すると、x^2=2はn×n/m×m=2という形になる。n/mの分子、分母はすでに約分されているので、分子・分母に共通の素因数は持たない。n/mを2回掛けても共通の素因数はないのだから、さらに約分されて2となることはない。この矛盾は「有理数」と仮定したことからおきるので、この数は有理数ではない。すなわち√2は無理数である」。これが「帰謬法」である。√2=1.41421356237・・・と無限に続くのである。√2に自然数を足しても、その数は無理数である。A=K(有理数)+√2(無理数)であるから、Aが有理数であると仮定すると、A(有理数)ーK(有理数)=√2(無理数)となり、有理数=無理数という矛盾となる。従ってAは無理数である。こうしていくらでも√2に近い有理数を足しても無理数となるので、無理数は無限にありそうである。無理数に有理数を掛けた数は同じく無理数であるので、√2を限りなく小さくして無限の無理数を得る。指数法則はm,nが自然数の時、a^m×a^n=a^(m+n)、a^m^n=a^(m×n)、a^(-m)=1/a~m,a^0=1である。指数同士の足し算、掛け算を定義したものである。そこで指数が有理数の場合、2つの有理数l/k,n/m(ただしl,k,n,mは自然数)に対して、自然数の指数法則a^(l/k)=a^(1/k)^lに表せるので、指数が有理数でも指数法則は有理数に対して成立する。無理数は循環しない無限小数で表されるので、無理数を小数で表すことはできない。次に指数法則を無理数にまで広げるとどうなるだろうか。無理数として√2を選びこれを小数点以下の位取り1/10,1/100,1/1000 …と無限表示すると、各々は有理数なので指数法則は成立する、したがって無理数にやいしても指数法則は成立する。弦の分割で音程(音律)を持つ楽器の音について著者は詳しく述べているが、これは余興として聞いておくにとどめ省略する。ここで数式として表現することは難しい「連分数」を知っている人は少ないだろう。数学教育では教えていないからである。無限に続く連分数は無理数であるが、有限の繰り返しで終わるなら有理数(分数)である。連分数と同じような入れ子形式である√の漸化関係、an+1=√2+anは2に収斂する複雑な数である。本書にはこのような数の性質について豊富な例をげて説明している。興味は尽きないが本書を直接読んで確かめてください。

第5章 実数ー連続な数

この有理数と無理数を共に取り込んだ新しい数を「実数」という。ここから、これまでなかった数の連続という概念が発生し、関数論が展開できた。実数から数の本格的な応用につながり、関数はグラフになり代数学と幾何学が一つに融け合った。実数は数直線上で全く穴のない連続性を持つと定義する。0.9999999999999999・・・=1  厳密な意味で1に等しいという。いくら1に近づいても1ではないとするなら、そこには穴が開いていることになる。有理数であろうとも無理数であろうとも、計算結果が行き着く先を持っている数、それが実数である。例えば10の平方根は3.16227766016,さらに平方根を求めると、1.77827941003,・・・・・・という風に30回平方根を求めると確実にに1に等しくなる。しかもその数の減り方は小数点以下をみれば、半分、さらに半分という風に等比級数的に半分づつ減少し確実にゼロになる。実数は加減乗除が自由にできる数の集まりである。さらに指数法則も成り立つ。実数の濃度を決める為、まず(0,1)に含まれる実数は自然数の濃度を持つ、すなわちこの範囲の実数は、自然数を用いて番号を付けられると仮定すると、自然数からはみ出る数があることを導き、自然数の濃度でないことをカントルが鮮やかな方法で証明した。これを「カントルの対角線論法」という。この証明法を表現することがここではできないので、この証明の醍醐味は本書で直に味わってほしい。いよいよ代数と幾何の関係を取り結ぶグラフあるいは関数に入ろう。具体的な実数の代わりに抽象的な記号を用いる。等号で結ばれた関係を「式」、「数式」といい、いつも成立する「恒等式と特別な場合に成立する「方程式」、定義に相当する「定義式」と呼びます。方程式には「未知数」という求めたい数があります。普通、数学で公式というと恒等式のことです。(公式は自分で導くもので暗記するものではありません。)未知数Xの一次系である一時方程式は、ax+b=0(a,bは定数) と書き、比例関係x=-b/aを表す「比例の方程式」です。y=ax+b と書くとyはxの関数〔y(x)とも書く]であるといいます。xに順次数字を代入してyの値を計算し、これをx,y座標の図に描くことを「グラフ」と言います。座標としては、1次元(直線)、2次元(平面)、3次元(立体)がありますが、座標の導入によってデカルトが解析幾何学という代数と幾何との融合を成し遂げました。一次方程式はグラフに書くと、y=(直線の傾き)×+(y切片)のことになります。2つの未知数(変数)を含む一次連立方程式は、片方のy(x)を求めて、もうひとつの方程式に代入することでxが求まり、それからy(x)でyが求まります。これを「代入法」と呼びますが、グラフでいえば2つの直線の交点を求める操作のことです。すべての一次関数y=ax+bは座標変換により、y-b=Y,ax=X と置くことにより Y=Xとなる。ずらしや拡大という幾何学操作は座標変換のことです。言い換えみたいな座標変換を侮るなかれ、アインシュタインはローレンツ変換という座標変換によって特殊相対性理論を導き、世界を見る目を激変させたのです。実数の濃度については、0と1の間に自然数と同じ濃度(アレフ)を持つことを示した。では平面の濃度(x,y)は、xおよびyを実数とし無限の小数で表して、一桁づつずらして表現し新しい数Aを作る。するとAは実数である。従って無限に広がる平面全体の濃度は、実数そのものの濃度に等しいことになる。2乗倍、3乗倍ではなくアレフに一致するのである。カントルやデデキントを悩ました無限の神秘である。

第6章 実数―拡張

実数の応用編として、2次関数と2次方程式、円周率、フィボナッチ数列の美、アルキメデスの「方法」より求積法を考える。二次方程式の解(根)を求めるには、因数分解して2つの一次方程式に還元することが根幹となる。そして根の公式が導かれた。ax^2+bx+c=0→x^2+(b/a)x+(c/a)=0そしてこれが完全平方式にするため、元の二次方程式を変形する。(x+b/2a)^2=x^2+(b/a)x+(b/2a)^2→(x+b/2a)^2=(b^2-4ac)/4a^2 ここで(b^2-4ac)/4a^2をD^2とおくと、(x+b/2a)^2=D^2 よって(x+b/2a)=±Dになる。従って根の公式はx=(-b±D)/2a、ここでD=√(b^2-4ac)である。判別式D'=D^2=b^2-4acが重要な役割を果たす。2つの根の和 (x1+x2)=-b/a、2つ根の差 (x1-x2)=√D、2つの根の積 (x1・x2)=c/a これらを根と係数の関係という。根の性質を表している。判別式がマイナスとなる場合、根が虚数となるのである。円周率π(円周を直径で割った数、3.14159265301・・・)は無理数である。πの研究についてはペートル・ベックマン 「πの歴史」  (ちくま学芸文庫 2006)は一読に値する。そこでは、(1)ヒッピアスの円を正方形にする作図  (2)ユークリッド「幾何学原論」  (3)アルキメデスの多角形法  (4)クザーヌスとホイエンスの定理  (5)ヴィエトの解析的な式  (6)スネリウスの「測光法」  (7)デカルトの解析幾何学  (8)パスカルの三角形  (9)ウォリスの無限乗積解  (10)グレゴリーの無限級数  (11)ニュートンの積分法  (12)オイラーのアークタンジェント級数解 などの研究が紹介されているが、本書「虚数の情緒」では吉田氏は(3)のアルキメデスの多角形法をおもに採用している。単位円に内接する「正(6×2^n)角形」(6角形ー12角形ー24角形・・・・)において3平方の定理を適用し、2分割される弦の長さを漸次求めてゆく方法で、An+1=√(2-√(4−An^2)という漸化式を得る。漸化式の数値計算の誤差の積算を避けるための常とう手段である分子の有理化を行い桁落ちを避けるという。3An・2^n( 6角形ならn=0で3×1=3,・・・n=11なら6144×A11=3.14159253504を得る。πは代数方程式の解となりえない無理数で「超越数」となずけられる。自然対数eも超越数である。ここで角度をπで表現すると、360 度/2π=1ラジアン=57.2957795132…度となり、180度はπ=3.14159265358ラジアンである。二次方程式をy=ax^2+bx+cと表すと二次関数となる。二次関数はグラフにすると放物線になるので、最大値もしくは最小値が存在する。またy=ax^2+bx*+cを変形すると、y=a(x+b/2a)^2-D/4a (D=b^2-4ac である。)そこで、X=x+b/2a、Y=y+D/4a とおいて座標を変換すると、Y=aX^2となる。よって二次関数は放物線であるという。二次関数がX軸をきるxが根で、D=(x1−x2)^2=0という重根も含む。放物線の接線は微分法を使えば傾きm=2xだあるが、y=x^2とy=mx+nが放物線上にある(α、α~2)を通る条件m=2αから求めている。こうして関数の連鎖二次曲線y=ax^2+bx+c →接線の方程式m=2ax+b→接線の傾き2a→0が得られ、これは微分でいうところの1階微分y'→2階微分y"のことである。一般にはx^n→nx^(n-1)となる。x^2=Cから x=√Cという平方根を開く方法を、接線の漸化式から二次方程式の解(根)を求める数値解析では有名なニュートン・ラフソン法で求めてみよう。二次方程式x^2-C=0の根はx=±√Cである。y=x^2-Cというグラフ放物線でy軸の交点はCで、x軸の交点(根)は±√Cである。いま根より大きな任意の数x0を設定し、x0での放物線の接線がX軸を交わる点をx1として、順次xnを求めてゆくと、xn+1=(1/2)(xn+C/xn) という漸化式を得る。xn+1は限りなくCに近づく。漸化式を相加平均と考えると、(a+b)/2 ≧√(ab)であるので、xn+1≧√Cとなるので計算結果はいつも求めるべき数より大きく、計算するごとに小さくなってゆく到達点があるという2つの性質が保証される。そこで初期点2(>√2)から2の平方根を求めると、x1=3/2, x2=17/13, x3=577/408, x4=665857?470832=1.41421356237となる。y=√xを無理関数と言い、X軸、Y軸を交換すれば放物線である。無理関数y=√xと接線一次関数の連立方程式が重根を持つことより接線の傾きはm=1/(2√x)となる。これは√xの微分形に等しい。

長方形の縦横比は、例えばコピー用紙では√2対1になっている(A4では297×210mm) つまり縦横比が一定ということは、すべてのJIS規格用紙は相似形であるということです。もう少しスマートな用紙(横長)は黄金分割です。黄金分割の定義は「長方形の中から最大の正方形を取り除いてできる長方形が、元の長方形と相似関係にある」ということです。縦の単位を1として、横の長さxとすると、定義よりx:1=1:(x-1)より x^2-x-1=0という二次方程式が得られ、根はx=(1+√5)/2=1.61803398874…という無理数です。x^2-x-1=0を変形すると、x=1+(1/x)またはx=√(1+x)とも書ける。これはそのままの解ではないが。解の様子を暗示させる形である。数値解析には有用な展開式である。x=Nとおいて、Nn+1=1+(1/Nn)(これは漸化式ではなく、黄金数の連分数と呼ばれる)。最も有理数で近似しがたい数である。n=37までこの連分数を計算するとx37=38609069/23861717=1.61803398305となり黄金分割比の近似になっている。x=√(1+x)からは連根数(入れ子計算)となり、やはり黄金比に近似して行くのである。昔の数学者はこの余りの美しさに虜となった。漸化式が前の数だけでなく、もう一つ前の数によって決まる関係であるAn+2=An+1 + An (1,1,2,3,5,8,13,21,34,55,89,144・・・)を「フィボナッチ数列」と呼ぶ。フィボナッチ数列の前後の数の比が黄金数に近づいてゆくとか、図では示せないのが残念であるか、パスカルの三角形数列はフィボナッチ数列のななめ配列になっているとか、「フラクタル理論」の図形表示で美しい文様を描くなど、「美には論理があり、論理には美がある」という不思議さに憑りつかれるのである。アルキメデスはギリシャ時代の数理科学者・工学者であった。実用的問題である浮力の測定(アルキメデスの法則)、てこの原理の応用、船の重心の決定、円錐曲面の求積などの功績を挙げた。ここに、斎藤憲著 「アルキメデスの方法の謎を解く」(岩浪科学ライブラリー 2014)に放物線の求積法がくわしく解説されている。放物曲線の求積法では、アルキメデスは「取り尽くし法」と「二重帰謬法」を採用した。放物線をy=x^2と設定し曲線状に任意の2点A.Bを決め、直線ABと放物線が囲む面積を求めるのである。手順は点AとBにおける放物線の接線をひいて接線の交点をNとする。三角形ABNにおいて、ABの中点MとCNを結ぶ直線が放物線を切る点をCとする。MNは放物線の軸に平行になる。三角形ABCは三角形ABNの半分である。またMNで分割された三角形の面積は等しい。このことを何回も繰り返して(式の連鎖)小さな三角形が放物線の中に作られてゆき、放物線を取り尽くすのである。僊BCに面積をS0とすると、S1=1/4S0、S2(1/4^2)S0・・・・・となり、ΣSn=(1+r^1+r^2+r^3+・・・r^n)  r=1/4 隣すなわち公比?とする級数の和となる。級数の和の公式 ΣSn=1/(1-r)=4/3=1.333333・・・・として求める方法もあるが、アルキメデスの時代には無限級数という概念はなかったので、計算を続けるとn=5あたりで1.3330078125で十分良い近似値を得る。収束条件ε=a/n(nが∞でも)εはゼロになるということを2重帰謬法で確認している。本書ではこの放物線の求積しか示していないが、円錐柱を切る様々な曲線の面積、円柱体に内接する放物体の体積、回転双曲体、回転楕円体の体積、爪形体の体積などを、分割してその和を計算する方法を定式化している体積比は。円錐::球:円柱=1:2:3となる。詳しくは「アルキメデスの方法の謎を解く」を見てください。

第7章 虚数

虚数iは二次方程式の根から生み出された「想像の数(imaginary)」である。x^2+1=0の解であるi=√-1のことである。iを虚数単位とすると、これを階乗すると、i→ー1→-i→1となる、実数にはない変な数が誕生した。Z=a+biは実数と虚数くぉもつ「複素数」という。Z*=a-biを共役複素数という。Z+Z*=2a、ZZ*=a^2+b^2は共に実数である。そこで|z|=√(ZZ*)=√(a^2+b^2)をZの絶対値という。複素数の演算法則は。加法がZ1±Z2=(a±c)+(b±d)i、乗法Z1Z2=(ac-bd)+(ad+bc)i、徐法Z1/Z2=(ac+bd)/(c^2+d^2)+i(-ad+bd)/(c^2+d^2) 加減乗除の結果は複素数の形のままである。こうして複素数は加減乗除が自由にできる数の体系である。複素数の大小は比べられない。二次方程式の判別式Dが正なら2つの実根をもち、判別式がゼロなら重根をもち、判別式が負ならば2つの虚根をもつ。X軸を実数、Y軸を虚数だとすると、複素数は二次平面(二次元)となり複素平面(ガウス平面)と呼ぶ。複素数はガウス平面ではベクトルという方向を持つ線分である。2つの複素数ベクトルを加えると平行四辺形の対角線(ベクトルの加法法則、平行四辺形の法則)となる。n次方程式は複素数の範囲内で必ずn個の解を持つが、5次以上の代数方程式は代数的には解けないことを、共にに20代で亡くなった天才アーベルとガロアが証明した。特殊なn次方程式に面白い幾何学的な性質がある。x^n-1=0を「1のn乗根」(または「原始n乗根」)と呼ぶ。x=1はすべてのnに対して根であるので、x^n-1=(x-1)(n-1次方程式)となるので、n-1次方程式=0を「円分方程式」という。n=1次なら根x=1、n=2ならx^2-1=0なので、根は1,-1である。n=3ならx^3-1=(x-1)(x-^2+x+1)でその根は1,(-1+√3i)/2,(-1-√3i)/2の3個の根を得る。n=4ならx^4-1=0より(x+1)(x-1)(x+i)(x-i)となり、根は1,i,-1,-iの4個の根を得る。n=5の場合、時数を下げる置き換えをして複雑な演算になるが1と4つの複素数の根を得る。n=6の場合、因数分解をしてx^6-1=(x^3+1)(x^3-1)を解くことになり、根は―1,,(1+√3i)/2=−w^2,(1-√3i)/2=-wとすると、根は±1、±w,±w^2の6つを得る。こうして、1のn乗根は、複素平面上に正n角形を構成する。虚数を介して代数方程式と幾何学はつながった。 ガウスは複素数の範囲で整数論を考え、「複素整数」(ガウス整数)a+biとした。演算則より分解不可能な数(-1-2i,-2+i,2-i,2±3i,1±4i,2±5i,1±6i・・・・)を「ガウス素数」と呼んだ。ガウス素数を複素平面でプロットすると不思議な文様となる。アイゼンシュタイン整数とはガウスの弟子アイゼンシュタインが考えた複素整数であり、a+bw(wはw^2+w+1=0の解)とした。そして3で割って2余る素数を「アイゼンシュタイン素数」といい、これを複素平面で表すと不思議な文様を得る。この複素整数論を「代数的整数論」と呼び、高木貞一氏は「類体論」を生んだ。しかしヒルベルトが20世紀になって整数論を顧みなくなって以降、整数論には発展がなくなって久しい。2次方程式の根が虚数となるのは判別式D=b^2-4<0である。係数b、cの範囲を-9から9とすると、方程式の数は19×19=361で、そのすべての方程式について判別式を計算させるプログラムを実行すると、判別式が負となる方程式は73個(確率0.2022・・)であった。整数係数の範囲をもっと広げて、n=100000としてプログラムで判別式が負となる確率を求めるとなんと0.002108まで減少する。従って係数を適当に選んだ二次方程式はほとんどの場合実根を持つと言える。これを係数b.cの二次元グラフで確認すると、判別式が負となるのはb^2<4cすなわちc=(1/4)b^2の二次曲線(放物線)の上にある範囲である。これを係数が-kからkの範囲の正方形の面積と比較すると、アルキメデスの求積よりS1=(4/3)S0=(8/3)k√kを正方形の面積4k^2で割って、確率P=2/(3√k)となる。係数の範囲kを100を代入すると、(整数ならプログラムからの数え上げでP=0.06608・・・)実数は面積比であるのでP=0.066666・・・・となる。確率の話として、誕生日の言い当て確率、物の並べ方と階乗(n!)の話は虚数とは関係ないので省略する。

著者吉田氏は本書の題名「虚数の情緒」について語り始める。数学には美しさが必要だに始まり、数学の研究には感情が中核をなすといった岡潔氏の言葉を引用する。私も高校生の頃読んだ岡潔氏の「春夜十話」という本で、情緒が大切だというくだりを読んで、なぜと訝ったことを覚えている。その問題はそのままのして五十年が流れた。ここでまた吉田氏から情緒の話を聞いた。分かるということは人様々の理解があること、そこには脳の根底において納得という感情が強く働いているである。虚数の情緒とはなんだろう。虚数がもたらす多面的な美しさを本書はこれでもこれでもかと指し示した。虚数は確かに数学の見方を一変させた。これに不満な人も多いだろうが、これほど理論の美しさはないと吉田氏は言う。代数とは具体数の計算より、17世紀にデカルトにより数の代わりに文字を用いることで抽象化の道をたどった。2次方程式の判別式が負となることは、根を持たないというべきか、虚数根を持つというべきか大いに議論があった。16世紀タルタニアが一般的な3次方程式の解法を虚数を前提とした手法にしたのである。負数の平方根に意味を持たせた。以来ガウス、コーシー、アーベル、リーマン、ワイエルシュトラウスらにより、虚数の数学が本格化した。負数の平方根を堂々と「虚数」と呼ぼうという様になるのに200年かかった。実数と虚数の和を複素数とすることで複素平面という二次元ができた。微分積分は平面における連続関数を基礎として、「解析関数」の研究がデカルトによってはじめられた。20世紀になると量子力学において、シュレージンガ-方程式 ih'φ=Hφ(h'プランクの定数 Hハミルトニアン、φ波動関数)に堂々と頭に虚数を冠している。物理の実世界においても、虚数なくしては表現できないのである。アインシュタインの特殊相対性理論、ディラックの一般相対性理論は時空の物理学を創設した。そこにおいて用いられるのが、ローレンツ変換で不変な量 s^2=x^2+y^2+z^2-(ct)^2を、s^2=x^2+y^2+z^2+(ict)^2とおくと、時間と空間を区別せずに扱える「時空のユークリッド化」という相対性理論ができたのである。ここで虚数が重要な位置を占めている。ホーキングは時間は虚数なのではないかという、一方的な時間の流れを提起している。実世界を研究する物理学において「虚数の実在性」さえ主張されている。数学的取扱いに便利な仮の数という意味ではなく、重力や量子電磁気学の「場の理論」において虚数の実在性が議論されている。

第8章 指数

指数とはけた違いの数を扱うのに便利な「冪」、「累乗」のことで、定数aの肩にある数を指数という。定数を底といい、常用対数の底は10(指数関数y=10^x)、自然対数の底は(指数関数y=e^x)超越数(ネイピア数e=2.7183・・)である。指数関数の最大の特徴は何階微分しても元の関数の形を持っていることである。指数関数y=e^kxとすると、一階微分y'=k(e^kx)、2階微分y"=k^2(e^kx)、n階微分するとy''''''=k^n(e^kx)である。この性質が絶大な効果を生むのである。ここで指数の演算法則をおさらいしておこう。掛け算拝趨の足し算になります。a~m×a^n=a^(m+n) 冪の冪は指数の掛け算になります。(a^m)^n=a^(m×n) (ここでm,nは整数である) 指数のマイナスは逆数になる。a(-N)=1/(a^N) 指数は有理数においても有効である。a^(n/m)=(a^n)(a~1/m) 例えば10^(1/2)=√10=3.162277・・・である。指数が無理数でも有効である。例えば10^√2=25.9545・・・である。こうして指数は実数となった。y=10^x を指数関数と呼ぶ。x=0ならy=10^0=1なので、x=0近くでは指数関数グラフの傾きは一定である。y'=1つまり直線であると言える。これは数値計算でも確認できる。指数関数y=10^xの(0.1)の接線の傾きを求めよう。傾きK=凉/凅において、凅=(1/2^n)とおいて、nを増加させると凾は限りなくゼロに近づくので、n=16からKは2.3026・・・に漸近する。その時凉=0.00003513527・・・である。y'=1+凾凵1.00003513527 よって凅=(1/K)凉=(1/K)(y'-1)  y=10^凅=10^(1/K)(y'-1)=[10^(1/K)]・[10^(y'-1)] ここに新しい数 e=10^(1/K)=10^(1/2.3026)が生まれ、10=e^(2.3026)という関係ができた。数値計算でeを計算するとe=2.7183・・・に漸近する。そこでy=e^xはXがゼロ付近で接線の傾きを1とする、eはそういう特別の数である。1階微分y'=e^x、2階微分y''=e^xつまりXに定数がない時何階微分をしても元の指数関数そのものである。演算をきわめて簡単にしてくれる理想的な数である。むろんeは超越数で(無理数)「ネイピア数」と呼ぶ。xゼロ近辺では、e^x=1+xとなりすっきりした近似を与える。そして底が10の場合に確認した指数法則が成り立つ。xゼロ近辺では、近似式e^x=1+xの精度を上げるには、K(x)=1+(1/2)xと補正して、e^x≒1+x+(1/2)x^2という2次の近似式で数値計算では十分である。これからは底をeとする自然対数だけを考えよう。10=e^(2.3026) e=10^(1/2.3026) y=e^xである。この章で吉田氏は専門の数値計算をふんだんに使ってx=0付近での解析しているが、私達には指数の数式があればその方がすっきりしているので、数値計算の妙は割愛した。あしからず。

第9章 虚数−全数学の合流点

e^x≒1+x+(1/2)x^2という指数の近似式において、指数の虚数乗を行う。その意味は後で考えるとして、x→±ixと置き換えるとe^(ix)≒1±ixー(1/2)x^2となる。この関数f(x)=e^(±ix)=1ー(1/2)x^2±ixは複素共役数となっており、実部は二次関数、虚部は原点をとおる直線の式である。いまこの複素共役数をA±iBとおくと、e^(ix)=A+iB、e^(−ix)=A−iBとおくと、e^(ix)・e^(−ix)=e^0=1=(A+iB)・(A−iB)=A^2+B^2=|e^(±ix)| e^(ix)・e^(−ix)=[1ー(1/2)x^2+ixi]・[1ー(1/2)x^2-ixi]=1+(1/4)x^4 つまりxが十分に小さいときにのみ1となる。x=1/1024(1/2^10)ならばe^(ix)≒0.99999952316+0.00097655625iであるが、(e^i/1024)^1024=e^iこれを数値計算するとe^i≒0.54030218006+0.84147106420iとなる。この数値計算でe^(ix)=iとなるxを求める計算を行うと(過程は本書を見てください)X=1.57079609315 すなわちπ/2に等しくなる。こうしてe^(iπ/2)=iとなり両辺を2乗すると、e^(iπ)=-1(これがオイラーの公式の一形態である。本書は何と数値計算から追い込んできたのだが、これはすべてを知っている人から見るとなんと面倒なやり方になる。)e^(it)という指数関数の虚数乗は周期2πを持つ。e^(it)の絶対値は1であったので、e^(it)のグラフは半径1の円を描く。つぎに虚数の虚数乗を求めると、i^i=[e^(iπ/2)]^i=e^(-π/2)すなわち虚数の虚数乗から実数が得られた。i^i=0.207879576・・・となる。e^(it)という単位円でtは角度になります。π/4は45度に対応し、その時のe^(iπ/4)=√i=(√2/2)(1+i)は一辺の長さが(√2/2)の正方形の対角線の長さ1になる。e^(it)は三角形と関連付けることで、その幾何学的な意味が明らかになった。このときtを角度とみると複素平面では、1を半径とする三角形の辺の長さに対応する。複素平面で、絶対値が1である複素数は Z=A+iB  |Z|=√(A^2+B^2)=1であるので、単位円周上にある数である。Zと原点を結ぶ斜線の角度をθとすると、直角三角形の関係から三角関数表示ができる、Z=cosθ+isinθとなり、複素数と三角関数が結びついた。角π/6に対してはZ(π/6)=(√3/2)+i(1/2)、角π/4nに対してはZ(π/4)=(√2/92+i(√2/2)となり、これらはe^(iπ/6)およびe^(iπ/4)に等しい。指数関数の虚数乗と三角関数が全く一致したのである。ここで「指数関数」、「虚数i」、「三角関数」、「ネイピア数e」、「円周率π」が固く結びついた。これをオイラーの公式と呼ぶ。すなわち一般形では e^(±iθ)=cosθ±isinθである。θがπ(180度)のとき e^(iπ)=-1と表現できる。「オイラーの贈り物」という本の表紙にはこの形の公式が印刷されている。そしてオイラーの公式の幾何学的表示を考えると、まず複素平面で半径1とする単位円を描く複素数、実部X軸ではcosθとする三角関数(振幅1の周期関数)、虚部Y軸ではsinθ(cosの位相をπだけずらせた)という三角関数、最後に全体としては初めに3次元像を示したように、θを軸とする螺旋である。

別法としてオイラーの公式より三角関数の加法と倍角定理が導かれる。e^(iα)=cosα+isinα、e^(±iβ)=cosβ+isinβ、するとe^(iα)・e^(±iβ)=e^i(α±β)=cos(α±β)+isin(α±β)、よって(cosα+isinα)・(cosβ+isinβ)=cos(α±β)+isin(α±β)となる。左辺と辺の実部と虚部は等しいので展開して、sin(α±β)=sinαcosβ±cosαsinβ,cos(α±β)=cosαcosβ?sinαsinβという三角関数の加法定理をえる。それから直ちに倍角定理や半角定理が導かれる。つぎにe^(ix)の接線の傾きはie^(ix)でありこれを三角関数で表すと元の指数関数e^(ix)=cosx+isinxの接線の傾きはie^(ix)=i(cosx+isinx)=-sinx+icosxとなる。つまりcosxの接線の傾きは-sinxに、sinxの接線の傾きはcosxで表される。本質的にsinx関数とcosx関数は同じ関数で位相のずれに過ぎない。このことは加法定理から導くこともできる。sin(θ+π/2)=sinθ・cos(π/2)+cosθ・sin(π/2)=cosθとなる。sin関数とcos関数はπ/2ずらせば、同じ関数なのである。オイラー公式の近似式を使って三角関数の値を四則演算から導いてゆこう。第7章虚数の章において、x^n-1=0を「1のn乗根」(または「原始n乗根」)と呼んだ。x=1はすべてのnに対して根であるので、x^n-1=(x-1)(n-1次方程式)となるので、n-1次方程式=0を「円分方程式」といった。こうして、1のn乗根は、複素平面上に正n角形を構成した。5次方程式の場合、根の一つから、360/5=72度 すなわち2π/5での実部cos(2π/5)、虚部sin(2π/5)の解が計算でき、90度でsinx ,cosxの値は知っているので、90−72=18度(π/10)での実部cos(π/10),虚部sin(π/10)の解が計算できる。こうして順序で次々と3度(π/60),6度(2π/60)・・・・・・・・・45度(15π/60)を3度刻みで解を求めてゆくことができる。次に第6章の円周率の節において、正多角形の漸化式を求めた。sin(π/6×2^n)=an/2 そしてan+1=√[2-(√(4-an^2)]であった。30度(π/6)n=0からスタートしsinxを次々と計算し、つぎにcosxを求めるのである。xが小さければsinθ≒θとなる様子がはっきり分かる。古代バビロニアの楔形粘土板に記された三角関数表(tanθ)はどのようにして求めたかは不明であるが、ピタゴラスより何千年前に「三平方の定理」は知られていたことは驚きである。虚数を介して数学の諸形式が関連しオイラーによって統一されたことを見てきたが、虚数をありえない数といって捨て去るのではなく、一段高いところから全体を見渡す余裕が、情緒というものではないだろうか。何ともいえない不可思議感に満たされて数学の実相(脳細胞の動き)に漂うことである。虚数、指数関数、三角関数という独立な数学的要素が見事に融合した美の化身それが「オイラーの公式」である。次に物理の部において、振子やばねの振動を扱うがこれもオイラーの公式の応用問題とみなせるのである。吉田氏は物理の問題を「振り子の運動法則」から始める。

第V部 振り子の物理学 

第10章 力学

第10章と第11章は力学についてです。第10章は力学の基礎をおさらいします。ガリレオの力学からニュートン力学で古典力学は完成し、アインシュタインの特殊相対性理論で20世紀の量子力学が幕を開けるまでを述べることになります。まず静止状態でも「作用・反作用の法則」が働いています。これは、西欧の考えの中心をなす二分法からくるものです。次に質量と重さは違います。重さには地球の重力が掛ってきます。これを「重力質量」と言います(質量をmとすると重さは重力mgのことである)。ですから質量は動かない人が決めるべきで不変量です。次に静止しているときは静止を続け、動いているときはその運動を続けようとする「慣性の法則」という性質です。この時の質量は「慣性質量」と呼びます。ガリレオが慣性の法則をまとめました。。地震計は機器が動いて錘が静止する相対的運動原理です。運動とは静止の対語である。物体の大きさを問題としない(問題とするときは剛体となる)小さな「質点」を運動の主体とする。運動の速さとは、移動距離/所要時間のことで、物理量には必ず次元(ディメンジョン)が必要で、次元の違うものを比べても意味がありません。工学的には[MKS]単位系を使います。時間を横軸に移動距離を縦軸にとると、速さはグラフの線の傾きになります。これをv=dx/dtと表します。これを速度と言い、方向を持つベクトル量で、大きさのみはスカラー量といいます。運動量モーメントp=mvは基本的な量で保存される速度が一定ならば、移動距離は∫vdt=∫ktdt=(1/2)kt^2となり、速度が一定でないときは物体の移動距離は、曲線と座標軸で挟まれた面積に対応します。これが積分の解析幾何学的意味です。速度が一定でない場合、速度が変化する割合を「加速度」といい、加速度=速度変化/時間です。力学では時間、位置、速度、加速度の4つが基本です。運動が放物線運動なら、移動距離s=t^2→速度v=2t→加速度a=2という関係にあります。これは微分形での連鎖です。力は運動量の時間的な変化率である。F=(mv)/dt=m・(dv/dt)=m・a(aは加速度)と表せる。力が働いている時間を力積という。剛体の回転運動を著者は大好きな野球のバットを例にして解説する。バットが質量中心(重心rにてボールをとらえるとき、力のモーメントはN=r・F(F=mg)となる。運動の力に対応する回転運動量をトルクNといい、N=角運動量の変化率である。ωを角速度(運動の速度に対応)として、角運動量L=Iω(I:慣性モーメント 運動の質量に対応)は保存される。仕事をする能力をエネルギーと言い、単位はジュールである。時間あたりになされる仕事を仕事率と呼び、ワットという単位である。重力の位置エネルギーmgh(hは高さ)をポテンシャルと呼ぶ。運動のエネルギーFs=(1/2)mv^2、回転エネルギーIω^2と表す。これら3つを力学的全エネルギーといい、力学的エネルギーは保存される。これで力学の基礎を説明しておいて、本論に入る。その前にニュートン力学の3法則と、ケプラーの天体力学の3法則をまとめておこう。ここに、朝永振一郎著 「物理学とは何だろう」 (岩波新書 1979)がケプラー、ガリレオ、ニュートンの順に力学の研究を語っている。
ニュートン力学の3法則とは、
法則1)(慣性の法則) すべての物体は、その静止の状態を、あるいは直線状の一様な運動を、外力が働かない限りそのまま続ける。
法則2)(加速度の法則) 運動の変化は及ぼされる起動力に比例し、その力の方向に行われる。
法則3)(作用・反作用の法則) 作用に対して反作用は逆向きで相等しいこと、あるいは2物体間の作用は常に相等しく逆向きであること。
ケプラーの3法則とは、
1) すべての惑星は太陽を焦点とする長円上を運行する。すべての惑星の軌道面は太陽という点を共有する。
2) 太陽と惑星を結ぶ線分(動径)が進む面積は一定である。惑星の軌道は楕円軌道であるので、惑星の速度は太陽に近い時は重力が強く働くので速度は早く、遠い時は重力が弱くなるので速度は遅くなる。理想的に軌道が円であるなら重力は一定に働き、角速度は一定となる。
3) 惑星周期の2乗と軌道の長径の3情との比はすべての惑星について等しい。周期をP、長径をRとすると、P^2/R^3一定という関係です。
しかしガリレオはケプラーのことは何も知らなかったとは皮肉なことであるが、ニュートンによって70年後に再発見された。

ガリレオが「近代科学の父」として尊敬されるのは、彼の業績が実験 に基づいているからです、ケプラーとイタリア人のガリレオが活躍したのはほぼ同時代です。ティコやケプラーは終始天体を研究対象とする天文学者だとすると、ガリレオは地上の物体の運動を主とする物理学者だったといえる。ガリレオは振り子時計の等時性を発見したといわれています。 ガリレオの真骨頂は落体運動に関する実験を行ったことです。アリストテレス以来の通説に従うと、重いものは軽いものより早く落下するということに疑問を持ち、すべての物体の落下の仕方は重さには関係しないとして、落下実験を行った。ガリレオの「天文対話」や「新科学対話」に落体実験のことが書いてある。100メートルの高さから、鉛と樫の木の球を落とすと、着地点で1メートルほどの訛りが先に落ち、鉛と石の球ではほとんど同時に着地したという。鉛と樫の木の違いは空気の抵抗によるものです。落下する過程を調べるためガリレオは斜面上をころがり落ちる距離と時間を求めました。ある時間に転がる距離を1とすると、次には3,5,7,・・・と奇数の比になったという。ニュートン力学から重力加速度をgとすると、h(n+1)-h(n)=1/2g{t(n+1)^2-t(n)^2]=1/2g(2n+1)から分かることであるが、次第に落下速度が増すことから、ガリレオはすでに加速度の概念を持っていたようである。(斜面では回転運動距離ではなく、落下距離成分だけを見てゆけば落下運動になります) ガリレオはこの斜面運動を落下問題だけでなく、ニュートン力学の「慣性の法則」につながる論に用いています。つまり物体はそれに力が加わらない限り、静止しているものは静止を続け、運動しているものはそのまま運動し続けるというものです。この慣性の法則は円運動を理想とするアリストテレス以来の考えでした。しかしニュートンの無限の直線運動という考えはアリストテレスの運動論にはありません。そして天動説へガリレオは向いました。アリストテレスの運動論では、高い塔から落とした球は塔の直下に落ちることを地球不動の論拠とします。これに対してガリレオは動く船の帆の上から落とした球は帆の直下に落ちることで論破しました。球も船も等速運動をしていれば相対的に球だけの運動はないように見える。、船は動いている地球と同じであるといってアリストテレスの論拠を打破しました。これは「ガリレオの相対性原理」と呼びます。動かないように見えるのは、全員が等速運動をしているからに過ぎない。本当は動いていると考えた方がよいというのはガリレオが投射体の実験から得た結論であろうと思われます。投射体の実験は「新科学対話」に詳しく述べられています。高いところに静止した球をはじくと、落下する球の投射曲線が得られます。これはニュートン力学でいうと水平方向へは等速運動で、鉛直方向へは重力の加速度運動を合成した運動となる。横軸を時間、縦軸を落下距離とする関数の2次平面でのy=1/2gt^2という曲線は2次曲線で放物線である。このような実験結果を得たガリレオは地動説を唱えますが、実はケプラーの天文学説には全く考慮していません。つまりガリレオは天文学者ではなく物理学者(相対性論)で、ニュートンの一歩手前まで来ていたのであった。よくある力学の問題で大砲を打つ角度(仰角)は45度の時最も遠くへ飛ぶという定理も得られます。運動の公理を得ると、いちいち実験をしなくとも、他の定理を基本法則から導くことができるという科学が生まれました。この論証性を物理学の重要な特徴と認識していました。物理学は実証科学であると同時に論証科学である。そのためには法則を数学の形で表現しなければなりません。ガリレオは「自然の書物は数学の言語によって書かれている」といいます。またガリレオは望遠鏡を用いて月や太陽の表面を観察し自転をしていると結論しました。この結果はケプラーを勇気づけましたが、ガリレオは全くケプラーを知らなかったとは皮肉なことです。

次に「温度と分子の運動」という節で、気体分子運動論と熱力学の極めて初歩的な説明を行っている。朝永振一郎著 「物理学とは何だろう」 (岩波新書 1979)にはより詳細な説明がある。クラウジウスは次の2つの基本法則を公理とし、その上に立って熱力学の体系を組み立てました。
熱力学第一法則(エネルギー保存則)は、ジュールやマイヤー、ヘルムホルツらによって発見されていたエネルギー保存則である。クラウジウスは次のように表現した。「熱の作用によって仕事が生み出されるすべての場合に、その仕事に比例した量の熱が消費され、逆に、同量の仕事の消費においては同量の熱が生成される。」 dU = dQ - dw これはエネルギー保存則の初の定式化である。
熱力学第二法則(エントロピー増大の法則) 「熱は常に温度差をなくする傾向を示し、したがって常に高温物体から低温物体へと移動する。」 
19世紀後半から物理学は少しづつ原子の世界に入ります。クラウジウスの熱の法則はエネルギー保存則、エントロピー増大則を明らかにしましたが、個々の物質の熱特性を導くことはできません。物理学者らは「熱エネルギーは原子の運動による力学的エネルギーだ」という考えに取り組み始めた。カルノーに先立ってランフォードは「熱とは物体内部に損じする目に見えない運動だ」と18世紀の終わりごろに述べています。19世紀初頭にドルトンの原子論が出て、19世紀も中頃になるとヘルムホルツは、熱エネルギーの担い手は原子であるとはっきり表明しました。ところが原子は目に見ることはできません。「観察事実に拠り所を求めつつ自然の法則を追求する」のが物理学のやり方だとしましたが、何らかの仮説をもとに推論して実験で確かめることは許されます。イギリスの化学者ドルトン(1766−1844年)は1808年「化学の新体系」を書いて、気体の物性論を創始しました。凝集引力や原子の反発力によって物質は固体、液体、気体の3つの状態が現れる。気体には反発力(斥力)によって圧力を持つ。そして2種類の気体を混ぜるとそれぞれの混合気体の圧力の和になる(ドルトンの分圧の法則)事を発見しました。ドルトンは気体が容器の壁に圧力を及ぼすのは原子の斥力だといいましたが、ヘルムホルツ、クラウジウス、ジュール、クレーニヒらは分子の熱運動に原因を求めました。ところで気体の圧力P、温度T、体積Vについては2つの法則が実験的に知られています。ボイルの法則とゲイーリュサックの法則です。まとめるとPV=nRT(Rアヴォガドロ数 nモル数)という関係式です。気体分子の運動が次の条件を満たせば、圧力の原因を熱運動の結果ということがように導かれる。その条件とは理想気体について@気体分子の体積の総和は容器の体積に比べて無視できるほどに小さい、A気体分子同士、気体分子と壁との衝突は、分子が自由に動いている時間に比べると無視できるほど小さい、B前と同様に気体分子の運動は直線運動とみなされる。ということです。クレーニヒとクラウジウスは計算の結果「壁の受ける圧力に容器の体積を掛けた値は、中を飛び交う分子が持つ運動エネルギーの総和に数因子2/3を乗じたものである」とした。PV=(2/3)ΣE ボイルの法則PV=nRTより「圧力は気体の量に比例する」から「圧力は気体分子の個数N=nRに比例する」と言いなおすことができます。クラウジウスの式PV=(2/3)ΣE の両辺をNで割ると、PV/N=(2/3)ΣE/Nを得る。すなわち分子1個あたりの運動エネルギーΣE/Nは一定となる。そして「分子1個当たりの平均運動エネルギーは温度の関数F(T)となる」 そしてゲイーリュサックの法則「1定量の気体の体積は、一定圧力のもとでのその絶対温度に比例する」ということから、絶対温度に何らかの定数を掛けた1次式 分子1個あたりの運動エネルギー=3/2kT(kはボルツマン定数)になる。この定数を導き関係式をさらに整備したのが、マックスウエル(1831−1879年)です。この3とは3次元方向のエネルギーの和という意味ですから1/2kTと書けます。そして関係式はPV=kNTと整理できます。PV=nRT式と同価値です。こうして温度は気体分子の平均エネルギーと関係づけられました。マックスウエルは力学と確率統計とを併用した計算により衝突の追及をしました。結果だけを示しますと、n(Vx,Vy,Vz)/N・凾3=f関数とします。f=(α/π)3/2・e-α(Vx~2+Vy^2+Vz^2) が得られた。定数αは平均運動エネルギーン密接に関係する定数です。すると平衡状態において「マックスウエル分布」が求まり、それはVx軸のゼロで極大値を持つ正規分布関数です。分子1個当たりの平均エネルギーが計算されます。それから圧力が計算されます。マックスエルの成果により、気体内の熱伝導、気体の拡散、気体の粘性などの問題にアプローチできます。分子同士の衝突に起因する変化の確率論的仮定は「衝突数の仮定」と呼びます。外力と衝突の原因によって起る分布関数の変化を求めて分布関数の時間的変化を微分方程式で得ました。これを「ボルツマン方程式」と言います。分布関数の時間変化、位置変化、外力による速度変化、衝突項の微分方程式である。エントロピーに相当する量を定義する式はH(t)=ΣvΣxyz n(X,Y,Z;Vx,Vy,Vz;t)logn(X,Y,Z;Vx,Vy,Vz;t)とボルツマンは提示しました。計算結果によるとH(t)は減少する関数で決して増加しない関数であったとして、極小値が存在し極小値を与える分布関数はマックウエル分布に他ならないことを示しました.。マックスウエル分布をH(t)に代入して計算すると、エントロピーの符号を替えたものであることが分かり、エントロピー S=-kHという関係にあることです。これを「ボルツマンのH定理」と呼びます。

質点の運動を記録する座標の見方について考えよう。一定の速度で運動する系(例えば動く船、車)のなかで、真上に打ち上げられ玉(質点)は船の中の人から見ると、上ってまた下に戻る運動にしか見えない。だが舟以外の静止す系(大地)かまみると、打ち上げられた玉は放物線を描いて船の元の位置に落ちる運動に見える。この系を記述すると、水平方向へは s=v0・t、垂直方向へは h=h0-(g/2)t^2で物体の運動はベクトルである。すると時間は共通なのでtを消すとh=h0-(g/2)(s^2/v0^2)すなわち距離sを横軸、高さhを縦軸にとれば、二次曲線(放物線)でるある。さらのボールそのもの座標では何の運動も起きていない。こうした動く座標を「動座標」と呼ぶ。動座標では X=s-v0t=0、h=h0-(g/2)t^2となり、X軸方向の運動はなく、高さ方向への運動のみとなる。こうした座標の変換で運動を消すことを「ガリレオ変換」と呼ぶ。この質点の運動を光の運動に変えたのがアインシュタインの「特殊相対性理論」である。「光はどこまでも直進し、その速さは宇宙で最大の速度で、一定の速度で運動している二つの系で全く同じである。」という仮定から始まった。光だけが絶対的であり、距離も時間も相対になるという転換である。舟や車から発せられた光が光速cで移動し、高さhのところで反射され、Lだけ動いた船(速度v)でキャッチするという想定である。質点の運動なら重力による放物運動であるが、光は直進するので3平方の定理から、光の動く距離は √(h^2+L^2)、船の上の人からみてそれにかかる時間はt=h/cであるが、光から見た所要時間はt'=√(h^2+L^2)/c となる。舟の運動系 L=vt' h=ctを代入して ct'=√((ct)~2+(vt')^2) よってt'=t/√(1-v^2/c^2) これを「ローレンツ変換」という。 つまりアインシュタイン光の絶対性を守るために、時間や空間の普遍性を捨てたということである。ニュートン力学と光の相克がアインシュタインの「相対性理論」をもたらした。特殊相対論は時間と空間が伸び縮みすることを明らかにした。この特殊相対性理論の発表から10年後にアインシュタインは、一般座標系まで含む理論である一般相対性理論を発表した。一般相対性理論は物質の質量も空間を歪め時間を伸び縮みさせるという重力の仕組みを明らかにした。アインシュタイン著 内山龍雄訳 「相対性理論」 (岩波文庫)によると、特殊相対性原理と光速不変の原理というものを導入することで運動座標系における電磁気現象を簡潔に静止座標系におけるマックスウェル方程式に帰着させる理論を提唱した。その理論が特殊相対性理論である。特殊相対性理論により絶対座標系(エーテルの存在)は否定され、その理論的帰結として磁場は電場の相対論効果(変身)であることが示唆された。磁場とは異なる座標系から測定した電場にすぎないという。本論文はニュートン力学の訂正に関する特殊相対性理論だと思ったら、なんと電磁気学から説き始めている。その理由としてローレンツが1904年にエーテル収縮仮説に基づいてローレンツ変換式を公表しているため、アインシュタインはこの電磁気理論の論争に相対性理論から切り込んだためである。話題は電磁気学であるが、アインシュタインは特殊相対性理論から見事に論争に終止符を打つことができることを誇示したかったのである。そういった歴史的いきさつからアインシュタインの1905年の論文は「動いている物体の電気力学」という題名となって、第T部は「運動学の部」、第U部は「電気力学の部」となっている。時間、空間に対する相対性理論の考え方は、量子力学と併せ20世紀の造り出した誇るべき知的財産である。難しい数学を駆使せず、初等数学(代数学)の知識だけで展開された科学論文としての最高傑作であるといわれる。アインシュタインはこの50頁(文庫本にして)程度の論文を、専門外の人を対象とした物理の啓蒙書として書いたのではなく、平易な表現の科学論文である点が画期的である。あまりに表現が平易すぎて、物理の専門家たちはあっけにとられたであろう。訳者内山龍雄氏は「この論文の第1部は、実に見事で、芸術品と称えてもよいほどに、美しいものである。まさに物理学の最高傑作と言えよう」と解説の冒頭に述べている。

第11章 重力と振り子

近代科学の祖ガリレイは風に吹かれて揺れる聖堂のランプを見ながら、自分の脈拍を時計にしてその揺れる時間(周期)を測定し、「振り子の等時性」を発見したと伝えられる。実験物理学者ガリレイは働いている力は重力のみであることから、「調和振動子」という理想の振り子の動きを解析した。実際の振子のことは後で考えるとして、調和振動子というばねの振動をまず考えて数式化してゆこう。ばねがその伸びに比例した力を発生する「フックの法則」において、ばね定数をK、伸びをxとすると、力は F=-Kx=ma となる。この力は小さな可動範囲において、あらゆる往復運動(周期運動)に見いだされる。二次方程式の根とオイラーの公式(e^ix) を使って調和振動子の運動方程式 F(t)=-Kx(t)の解を求める。加速度を aとして、ma=-Kx a=-(K/m)x  ここでω=√(K/m)とおけば、運動方程式は微分方程式 a=-ω^2xとなる。加速度aはIを時間tで二回微分(x'')したものである。この解としてはオイラーの公式が一つの候補となる。ここで微分演算子Dを使えば、指数関数e^(λt)は、De^(λt)=λe^(λt)、D^2e^(λt)=D(De^(λt))=λ^2 e^(λt) すなわち指数関数は微分しても係数が乗算されるd家で関数形は変わらない。D→λと同形である。a=D^2(x)=-ω^2x これより(D^2+ω^2)=0となり、 λ^2+ω^2=0という演算子で表す「特性方程式」を得る。(λ+iω)(λ-iω)=0より、λ=±iωとなる。オイラーの公式より虚数の指数関数を三角関数で表すと、x1,2(t)=cosωt±isinωtが調和振動子の解である。また解の和x(t)=C1x1(t)+C2x2(t)も解となる。解は線形方程式である。一般にはf(αx1+βx2)=αf(x1)+βf(x2)の関係が成り立つとき、関数fは線形関数(一次関数)と呼ぶ。オイラー公式の複素数は単位円を回る二次元ベクトル(実部と虚部)であるので線形関係が成立する。調和振動子の運動方程式(D^2+ω^2)=0より、L=D^2+ω^2と演算子を定義する。運動方程式x=0となる。L(a1x1+a2x2)=a1Lx1*+a2Lx2で、Lは線形演算子であることが分かります。D^2+ω^2=(D+iω)(D-iω)=0と「因数分解」するとD=±iωとなる。そのまえにD+=(D+iω)、D-=(D-iω)の両演算子は交換可能(どちらを先にしても同じ)であることは容易にわかる。すなわちL=D+D-=D-D+ Lx=0よりD+D-x=D-D+x=0 酔って調和振動子の運動方程式の解はD+=(D+iω)=0、D-=(D-iω)=0の二つの方程式に分解された。D-x1=(D-iω)x1=0 よってDx1=iωx 1s すなわち x1(t)=C1e^iωt=C1(cosωt+isinωt) 同様にx2(t)=C2e^iωt=C2(cosωt-isinωt) なのでこれらの線形結合x(t)=C1e^iωt+C2e^iωt が一般的な解である。定数C1,C2を複素数で表して、x(t)は距離であるので実数でなければならないとして虚数部をゼロとおくとC1=a1+ib1、C2=a1-ib1とC1とC2は共役複素数となる。x(t)=C1e^iωt+C2e^iωt→x(t)=A1sinωt+A2cosωt+i×0=A1sinωt+A2cosωtとなり、xをtで微分すると速度v(t)=ωA1cosωtーωA2sinωt =ω(A1cosωt-A2sinωt)となる。初期条件をt=0でばねを位置Aから静かに加速度0で離すと、x(0)=A、v(0)=0  という条件から、x(t)=Acosωt、v(t)=-ωAsinωtとなる。Aを振幅という。 バネのする仕事は力の積分であるから、力F=-Kx=-mω^2x  仕事W=∫Fdx=∫mω^2x dx=(1/2)mω^2x^2(力も距離Iもマイナス方向なので)となる。位置エネルギー(1/2)mω^2x^2=(1/2)mω^2A^2cos^2(ωt)と運動エネルギー(1/2)mv^2=(1/2)mω^2A^2sin^2(ωt)の和 全エネルギはE=(1/2)mω^2A^2 であり時間に関係しない定数となる。これが全エネルギ保存量である。振幅Aの二乗に比例する。位置エネルギーと運動エネルギーはsinとcosの位相のずれた関係にある。周期TはωT=2πより T=2π√(m/K)であり、振幅Aに無関係である。これを「等時性」と呼んだ。定数ωは「角振動数」と呼びfで表すことが多い。ω=2πfという関係にある。古典力学ではすべての時刻における位置と速度を決定することである。初期条件を与えると、唯一の解が求まる。これを「古典力学的世界観」という・。この立場を鮮明に主張するのが「トランジェクトリ」という「相空間」において、初期条件からの質点の歴史は絶対に交わることがない。一方的に広がるか、閉曲線であるか、動かないかのどちらかである。閉曲線なら周期運動である。調和振動子の全エネルギーの式を変形すると、E=(1/2)mω^2x^2+(1/2)mv^2の式をEで割ると、1=x^2/(2E/mω^2)+v^2/(2E/m)となる。位置xと速度vは長径√(2E/mω^2)、短径√(2E/m)の楕円を描くのである。位置と速度を座標とする仮想空間を「相空間」と呼ばれている。ここで調和振動子の相空間上のトランジェリックは楕円であるという。

調和振動子の結果を用いて、実際の振子運動を記述する。考える上で振り子の錘の質量と、ひもの長さ、錘に働く重力だけが本質的要素である。錘が垂直線となす角度をφ、錘の質量mとすると錘をひもに沿って動かす力は-mgsinφであるので、運動方程式は、ma=-mgsinφ、すなわち運動の加速度a=-gsinφとなり、振り子の運動はひもの長さと重力加速度だけで決まる。振り子の底の小さなφの範囲でsinφをφで近似すると、ma=-mgsinφ=-mgφ=-mg(x/l) =-m(g/l)x( ここで接線方向への変位x=lφ∴φ=x/l)となる。√(g/l)=Ωと置くと、a=-Ω^2x これが錘の運動方程式である。少振幅の振子は調和振動子と見なされ、周期T=2π/Ω=2π√(l/g)となる周期運動を行い、位置x(t)=lcosΩt、速度v(t)=-ΩlsinΩt、最大速度はφ=0で得られ、vmax=√(gl)φmaxとなる。この結果は小さい角度でsinを近似しているので20度くらいまでであれば近似は有効である。ガリレオは斜面をころがる質点の速度から重力加速度gを計算したが、振り子の周期T=2π√(l/g)より、g=4π^2l/T^2となり周期Tよりgを求めることができる。ひもの長さl=1m、周期2秒であればg=9.87m/s^2を得る。振り子の等時性はその振幅が小さい時に成り立つ近似的なものである。任意の振幅で等時性の成り立つ振り子の一つの試みが「サイクロイド振り子」である。サイクロイドとは円がすべることなく転がる際に円周の一点が描く軌跡である。結果だけ示すが、半径aの円が作るサイクロイド曲線の底面からの距離sとすると、質点に働く力は-(g/4a)s(高さni相当するh=s/4a)、サイクロイドの運動方程式は調和振動子となり、周期T=2π√(4a/g)となる。これは長さ4aの振子と同じである。ホイエンスはひもにサイクロイド曲線の制約を加えると、錘の描く軌跡はサイクロイド曲線になることを発見した。これは実は「最速降下線」と言い、重力の場では2点を結ぶ直線が最短距離ではなく、サイクロイドの沿った曲線が最短時間となる。このほかに「橋渡し振子」では、T=2π√(a/μg)(μは摩擦係数)、また「波のu字管振動」では、T=2π√(l/2g)となる。さらに「人体振子」とは心臓の拍動で血液が移動するたびに反動で宙に浮いた人体も振動する。振動の周期は0.8秒、65グラムの血液を送り出すごとに0.96mmの振幅で振動する。現実の振子は棒の先に錘を繋いである。これを「実態振り子」または「剛体振り子」という。先に示した回転の運動方程式は、角運動量の時間的変化の割合を「トルク」Nとすると、N=IDω(I:慣性モーメント)である。腕の長さをl、錘の質量をmとすると振り子に働くトルクはN=mglsinφ、慣性モーメントI=ml^2、角運動量はml~2ω∴N=IDω=ml^2Dω≒-mglφ、よってD~2φ=-(g/l)という角運動方程式が得られた。これは振子の運動方程式D^2x=-ω^2xと同じ方程式となる。周期はT=2π√(I/mgrG)(rGとは支点から重心位置までの距離)、ここで等価振子の長さleとすると、T-2π√(le/g)  le=I/mrG のことである。これ以降著者は野球バットの運動を論じるが、著者の個人的趣味の域を出ていないので私は興味はない、実野球でこんなことは議論されていないので省略する。

著者は、いろいろな物理対象で振り子モデルとなるものを紹介している。振り子の周期を長くするにはひもの長さを長くすればいい。上で論じたように周期は長さlの平方根に比例するので、9mのひもでも周期は6秒でしかない。遅い振り子「長周期振動子」の例として「ヤジロベエ」を取り上げる。2つの棒の先に質料mの錘を持ち、足の長さをlとすると、足の開き角度を2θとすると、慣性モーメントI=2ml^2、トルクN=-2mglcosθsinφ(φ垂直からの傾き角度、φは小さいと仮定してsinφ≒φと近似する))であり、運動方程式は調和振動子(剛体)に等しく、D^2=-(N/I)φ=-(gcosθ/l)φから、周期はT=2π√(l/gcosθ)となり、開き角度160度で周期は4.8秒である。2θ=0なら1つの錘の振り子の周期2秒に等しく、2θ=0なら静止(周期∞)状態である。板バネのさきに錘を持ち、逆さに立てた「水平振子」は傾斜記録計や地震計として利用される。運動方程式はD^2φ=-(mgl-C/ml^2)(Cはばね定数)より、周期T=2π√(ml^2/C-mgl)である。次に早い振り子を作るには、T=2π√(I/mgl)の慣性モーメントIを小さくすることである。そこで質量m、長さ2aの棒の両端を長さlのひもで吊るし、棒の中央に質量Mの錘を吊り下げた「日本吊り振り子」では慣性モーメントI=ma^2/3、運動方程式D^2φ=-3(m+M)gφ/maで周期T=2π√(ma/3(m+M)gとなる。m=0.1 M=0.9、2a=0.6とすると、周期は0.063秒となる。周期より面白いには2つの錘を棒の両端に吊るし、棒の両端をさらにひもで天井に固定する「連成振子」であろう。一方の錘を動かすと次第に他方の錘が動きだし、他方の錘の動きが弱くなると一方の錘が動き出す。この交互の動きが繰り返すのである。さらにおもしろいのが錘の軌跡が閉曲線を描く「ブラックバーン振子」である。天井から棒の両端を吊るし、棒の両端から一つの錘をひもで結んだ、2つの直交する振動を組み合わせたもので、ひもの長さを調節することにより様々な三角関数の位相が合成できる。この錘の描く図を「リサージュの図」と呼ぶ。次に振子の運動に様々な抵抗がかかり、それが速度に比例すると仮定した運動方程式は、加速度a=-ω^2x-2γv (γ抵抗定数 ω=√(K/m)) とおいて「減衰調和振動子」という。したがって特性方程式は(D^2+2γD+ω^2)x=0となり、解は容易に求まる。ω、γの定数によって減衰の様子は「過減衰」、「減衰振動」、「臨界減衰」の3種に分かれる。レバーと空気減衰器の付いた「ドアークローザー」がその臨界減衰の実用化である。剛体は質量の中心(重心)と一定の慣性モーメントIをもち、一つの実体振子と扱うことができる。これを「固有周期」、あるいは「固有振動数」を持つという。外力として調和振動子に共振を起させる力を加えると、「強制調和振動子」の運動方程式は、a=-ω^2x+cosΩtであり、特性方程式は(D^2x-cosΩtD+ω~2)x=0となり、解はx(t)=x0cosΩt+(f/ω^2-Ω^2)(cosΩt−cosωt)である。固有振動数ωと外力の角振動数Ωとの差があまり大きくない時には、とてつもなく振幅が増幅される。楽器の調弦の失敗で2つの振動数が近くなると「唸り」余呼ばれる現象はこの振動弦の共振のことである。どちらの振動数でもない音がゆっくりとした周期で起きることを「不協和音」と呼ぶ。音楽的に極めて不愉快な音である。最後に2つの弦が完全に同じ振動数を持つなら、解がx(t)=x0cosωt+(f/2ω)t・sinωtとなり、時間と共に振動は大きくなって弦を破壊するまでになる。これらの剛体の強制振動は建築学的にも極めて重要である。大地の震動を検知し、その逆の振動を建物に加えることを「免震構造」、「制震装置」という。自動車のタイヤの懸架機構(サスペンション)もドアークローザーと同じ減衰調和振動子機構である。そのためタイヤ部の質量はできる限りか軽くしなければならない。アルミホイールが採用されわけである。音響学で受信機の特定周波数を選択する機構(チューニング)や、スピーカーの振動数を選択する機構は「LCR回路」と呼ぶ。コンデンサー、コイル、抵抗で共振回路を通ることをいう。フーリエは、周期をもったいかなる形の関数も、三角関数の足し算でッ書き表せることを示した。この級数を「フーリエ級数」と呼ぶ。合成音楽器「シンセサイザー」の理論的根拠となった。例えば矩形波(クラリネットなど管楽器)は、sinx+1/3sin3x+1/5sin5x+1/7sin7x +・・・・、 三角波(トランペット、オーボエ)は、sinx-1/9sin3x+1/25sin5x-1/49sin7x+・・・・・、 のこぎり歯(チェロ、ヴァイオリン弦楽器)は、sinx+1/2sin2x+1/3sin3x+1/4sin4x+1/5sin4x+1/5sin5x+・・・・と言った次第である。振動子の物理学は、車・車両の安定走行に応用され、「振子電車」では車軸の移動機構を持ってカーブの遠心力に耐える機構を持つ。船体の揚力や飛行機の揚力は航行・飛行の自立安定性にとって重要であるが、戦闘機では安定性は最小限として、旋回重視の翼となっている。地球は自転していることを確かめよう。非常に高いところから落としたボールは直下には落ちない。このボールの軌跡は「ナイルの曲線」という。たとえば赤道直下の高層ビル500mで落としたボールは約24cmずれた地面に着地する。地球の自転に関連して現れる現象を実験した「フーコの振子」について述べよう。天体を観測しているだけで地球は自転していることに気が付くが、フーコが行った偉大な実験とは、1個の振子(ひもの長さ67m、錘の重さ28Kg)を用いて平面上の錘の軌跡を観察した。しかも北極点においてである。地球の北極点に固定した回転台の中心に吊るした錘の振動面は一日で1回転した。これこそが地球上にいて地球が回転することを確かめた偉大な実験であった。逆に赤道では振動面は変わらない。他では緯度に応じて回転する。フーコの振子のように運動に対して直角の方向に働く力「見かけの力」を「コリオリの力」と呼ぶ。視点の変換(座標変換)となった、フーコの振子の実験は掛け値なしの「史上最高の素晴らしい実験」であった。地球の自転の角速度をωEで表すと、緯度λにおける有効な角速度成分はωEsinλとなるので、フーコの振子がい周する周期Tは時間をhrを単位として、T=2π/ωEsinλ=24/sinλであるので、北緯35度の西脇市での周期が求まる。41時間と51分である。

第12章 波と粒子ー量子力学

最後の章は「光の問題」である。最初光はニュートンにより、粒子的なものとして考察されtが、「干渉」や「回折」など「波」として考えなければ理解できなくなった。光は粒子か波動かと議論は沸騰したが、光は粒子でも波でもない「量子」となずけられた。こうして原子核を含む量子力学が20世紀前半に確立した。アインシュタインが絶対神に祭り上げた光でさえ虚なるモノ(虚数)であった。波動論は「マックスウエル方程式」で頂点に達し、量子力学は「シュレージンガ−方程式」で確立した。光と電子の関係を電磁場の量子化は「量子電磁気学」としてファイマンが「経路積分法」を切り開いた。そしてデイラックが一般相対性理論の重力が組み込まれた統一場の理論を展開したが、「場の量子化」は発展途上である。
まず始めに「波動方程式」から入ろう。「波」という物理現象は「ある形のものが、形を崩すことなく移動してゆく様」と言える。運動を伝える「媒質」(気体、液体、固体)は物質を運ばないが、パターンの繰り返しの運動のエネルギーや運動量の担い手である。その数学的表現は言うまでもなく三角関数である。波には伝わる方向と一致する「縦波」(疎密波)と、その垂直方向の横波(地震など、固体でしか発生しない)とがある。波の方程式は基本は三角関数であるが、後の事を考えると「オイラーの公式」から解くほうが一般的である。e^ixの指数部ixを位相と呼ぶ。e^ix=cosx+isinxであるからだ。空間的な位置変動はe^ikx(kは定数で次元は距離の逆数)となり、時間的な変動はe^iωt(調和振動子の解)である。そこでφ(x,t)=e^i(kx±ωt)が波動関数の解となると予測する。e^i(kx-ωt)は速度v(v=ω/k)でx軸を正の方向へ等直線運動をする進行波である。e^i(kx+ωt)はx軸の負の方向へ進む後退波である。どちらにも進まない波を「定常波」と呼ぶ。φ(x,t)=e^i(kx-ωt)は2変数関数であるので、時間の微分演算子Dt(速度)、2回微分演算子Dt^2(加速度)、位置Iの微分演算子Dx(力)、2回微分演算子Dx^2とすると、指数関数の特徴である元の関数形は保持されて定数(ω、k)のみが乗算される特性を生かして、φ(x,t)が消去され、(Dx^2-(1/v^2)Dt^2)φ(x,t)=0という波動方程式(偏微分方程式)を得る。線形方程式であるので解の重ね合わせができる。ω=2πfは角振動数(fは振動数)、k=2π/λを角波数(λは波長)という。λf=vは波の速さをいい「分散関係」と呼ばれる。両端を固定した弦の波動方程式(調和振動子)に比べると、波は無限個の調和振動子の集まりである。光が粒子であるとするニュートン光学では理解できない、波でなければ説明できない現象を、「干渉」と「回析」について見る。波の干渉現象を波動方程式のもっとも簡単な解である三角関数から理解しよう。a1sinxとa2sin(x+φ)をみると、2つの波の干渉は位相差φが決定的に重要になる。φがゼロなら2つの波は合成されて増幅される。φがπ/2(90度)ならsinとcosの和であるので一部が打ち消し合い、振幅はφ=0に比べると振幅は小さくなる。φ=πなら完全に打ち消し合い2つの波の振幅の差のみとなる。これが波動方程式が線形であり、解の重ね合わせができるという基本的な性質があるからである。ここで波の強度を、各々I1=a1^2、I2=a2^2として全体の強度Iをもとめる。I=I1+I2+2√(I1I2)cosφである。2√(I1I2)cosφを波動関数の「干渉項」と呼ぶ。φ=0なら1最大強度はI=(a1+a2)^2であり、φ=π/2なら最小強度I=(a1-a2)^2となる。波動が無限個の振子の集団という理解は画期的な見方であったが、さらに「複素数のベクトル」という見方を導入する。波をオイラーの公式よりa1e^ix=a1(cosx+isinx)、a2e^i(x+φ)=a2〔cos(x+φ)+isin(x+φ)] と表現すると、実数部分a1cosx、a2cos(x+φ)と虚数部分a1sinx、a2sin(x+φ)という2つのベクトルになり、平行四辺形の法則で2つのベクトルの和が求まる。それが位相差φによって先に計算したI=I1+I2+2√(I1I2)cosφと同じ結果が求まる。指数の計算則と三角関数の計算則が一致する。三角関数によるよりも複素ベクトルとみる方が格段と見通しはよくなるし、波の数が増えても(回折現象)困難性はない。波の干渉現象を説明する格好の例は間隔dに開けた2つのスリットを通った光が離れた壁に映し出す干渉縞である。スリットから出た光はあらゆる方向に伝播するが、光路差がα=dsinθとなる2本の平行光線が十分遠くで像を作るとき、ベクトルで表現するとW=ae^i(kr2-ωt)+ae^i(kr2-ωt)=ae^-iωt(e^ikr1+e-ikr2) 振幅は|W|^2=4a^2(coskα/2)^2  ここでkα=φとおくとW=2acos(φ/2)e^-iωtとなる。k=2π/λであるので、φ/2=kα/2=πdsinθ/λであるので、振幅は角θに依存し、その強度も同じである。面白いのはスリット間隔dと波長の比d/λの選び方によって干渉の様子が異なる。すなわち干渉縞が生じるのである。これを「ヤングの光波動実験」という。このモデルはスリット間隔が光の波長レベルという。どうして開けるかは別問題である。

干渉の数学的基礎は分かったとして、多数のスリット(回折格子)を通過した光の干渉はどうなるかというと、波の本来の進行方向に対する周辺への回り込み現象が問題となる。ここでは複素数のベクトル解析が中心となる。壁のdの範囲にn本のスリットが切ってあるとする。同じ振幅、同じ位相で正面から角度θの壁に到着する波全体は、合成波W=ae^(-iωt)Σe^(ikr n)で、隣同士の波の位相差はα=dsinθ/(n-1)である。このあとすごい巧みな演算が行われ、級数の和が求めあられる。最終的に合成波のベクトルは、φ=kαとおくと、W=a〔sin(nφ/2)/sin(φ/2)]e^(i[kr-ωt+(n-1)φ/2])、強度は2乗してI=|W|^2=a^2〔sin(nφ/2)/sin(φ/2)]^2 φ=2πdsinθ/(n-1)λ、θがゼロ付近では集中が激しく、sinφ≒φで近似すると、I≒(an)^2となる。光は波動であるという理解から。回折格子(干渉)を説明できるのであって、粒子説では隣り合った光線どうしの干渉は説明不可能である。さらに言えばこの波動説でいう光線の概念も怪しい、波動はあらゆる方向へ伝播するはずで隣からくる波動との和が一番大きく増幅されるところがいわゆる見かけ上の光の進む道ということである。このことはファイマンの量子電磁気学のベクトルにも通じることである。波の本来の進む方向に対する周辺への回り込みを「回折」という。干渉とべつに違うことではない。光に関していえば複数のスリットがあいた障壁物を「回折格子」と呼び、先ほどは透過型回折格子を示したが、反射型回折格子もある。反射型回折格子の代表にX線回折は結晶の分子構造の規則性を解析する装置である。また分光になくてはならないのが回折格子である。表面に多数の細い溝を刻んで光を反射させると、特定の角度で光の分光スペクトルを得る装置である。また音楽や映像関係でCDやDVDはビットと呼ぶ微細な凸凹にレーザ光線を照射し、特定の角度で強い信号を得る情報装置にも回折格子の原理が働いている。この節で行った多数の波の合成をオイラーの指数でと三角関数で説明したが、ここにベクトルという幾何学的な考えを紹介する。同じ位相のずれを持つn本のベクトルを順につないでゆくと、合成波の振幅を求める問題は、合成ベクトルの弦の長さを求める問題になる。円の半径Rとベクトルの長さaには、a=2Rsin(φ/2)という関係があり、求める合成ベクトルの長さAはA=2Rsin(nφ/2) よってRを消去すると、A=a〔sin(nφ/2)/sin(φ/2)]が得られる。この方が直感的に理解しやすい。次に一つの幅広いスリットを通る波を考える。先ほどの干渉も回折格子の場合も一つのスリットを通る波は一つというちょっとおかしな約束事で進めてきた。今一つのスリット(幅l)に無数の波が存在する場合、より自然な設定の下で計算したいのである。それは無限個のベクトルの足し算になる。波が無限大にあるということは、nが無限大ということで弦ではなく円周で近似できるのである。ベクトルの長さa=2Rsin(φ/2)≒Rφ 合成された波の振幅はA=2Rsin(β/2) 波の強度I=a^2〔sin(β/2)/(β/2)]~2  ここでβは両端での位相の差であるので、β=2πlsinθ/λである。I(θ)は独特の曲線になる。スリットの中心部分ではsinβ≒βであるので、I=a^2は成立する。スリットと波長の比l/λによってさまざまな強度曲線となる。l/λ=0.5では回折が大きく像はぼやけて、l/λ=2では回折はほとんど見られない。ここでヤングの実験(2つの幅を持ったスリット問題)を実際に即した設定で取り扱う。つまり一つのスリットの幅が十分であるのでそのうちに無限個の波があるとする。無限個どうしの2つの光線の干渉を考えることである。強度Iは2つの幅の狭いスリットを通る一個の波の合成はI=4a^2cos^2(φ/2)であった。一つの広い幅に無限個の波があるときの波の強度I=a^2〔sin(β/2)/(β/2)]~2 (ただしφ=β=2πlsinθ/λ)であったので、この合成強度はその積である。計算すると、d/λ=8,d/l=4においては、θ=0を中心に多数の干渉縞が出る。

19世紀に至って電気と磁気に関する数々の法則が発見された。「クーロンの法則」、「ガウスの法則」、「オームの法則」、「ジュールの法則」、「キルヒホッフの法則」、「フレミングの法則」、「ビオ・サバ―ルの法則」、「アンペールの法則」、「ファラディの法則」などである。電気・磁気の物理に統一的理論「電磁気学」を与えたのが「マックスウエルの方程式」であった。電磁波の予言も含まれていた。今日の物理学を導いたのはいうまでもなく、「ニュートン力学」と「マックスウエルの電磁気学」と「アインシュタインの相対性理論」であり、ここまでを古典物理学と呼ぶ。1864年に提出された「マックスウエルの4つの方程式」とは、@▽・E=ρ/ε。 A▽・B=0 B▽×E=-(∂/∂t)  C(1/μ。)▽×B=ε。(∂E/∂t)+Jである。本書では電磁気学は詳しく解説していないし、マックスウエル方程式の意味も説明していない。このようなきれいな形に方程式をまとめたのは実はマックスウエルではなくヘルツである。電磁気学とは電気と磁気を統一した理論であっただけでなく、物理学にの考えを導入した最初の理論である。重力のような遠隔作用ではなく、近接作用としての「場の作用」を考えたのである。Eが電場、Bが磁場のベクトルを表す。場の理論如って、力学的機構は考える必要はなくなったのである。ε。は真空の誘電率、μ。は真空の透磁率であり、マックスウエル方程式を展開すると、(Dx^2+Dy^2+Dz^2-ε。μ。Dt^2)E=0 (Dx^2+Dy^2+Dz^2-ε。μ。Dt^2)B=0 が導出される。なんとこれは一次元の波動方程式(Dx^2-(1/v^2)Dt^2)φ(x,t)=0 を3次元化した波動方程式である。スカラー表示、ベクトル表示の違いはあるが。すると電場、磁場は何らかの波動であり、その伝搬速度はv=1/√(ε。μ。)となる。電場と磁場は共に横波で独立な波ではなく同じ位相で互いに直交している。つまり波動方程式に従う無限個の振子と考えられる。だから電磁波の正体は変動する電磁場のことであった。そしてv=1/√(ε。μ。)は計算の結果、光速に一致した。マックスウエルは光は電磁波のことであると結論した。1888年ヘルツは電磁波を人工的に作りだすヘルツの実験」に成功した。再短長波長のガンマ線は10^(−15)メーター、最長波は10^5メーターまでさまざまの長さの呼び名がある。波長の短い方から順に言うと、γ線、エックス線、真空紫外線、紫外線、可視光線、赤外線、遠赤外線、マイクロ波、ミリ波、センチ波、極短波、短波、中波、長波、超長波である。ですから光は電磁波です。光を理解することを光学といいますが、17世紀デカルトは、光はエーテルという完全弾性体を伝わる圧力波と考えました。屈折の法則は1621年スネルにより発見され、1657年フェルマーは光路の「最小時間の原理」を発表しました。薄膜の干渉現象は「ニュートンリング」と呼びますが、ボイルとフックが発見しました。フックは回折現象の発見者としても有名です。光でさえ有限の速度を持つことをレーマーが木星の観測で示した。光のプリズムによって光が波長によって屈折率の違うことで色分解されることを1666年ニュートンが発見した。彼は光の「粒子説」を唱え、「光学」を著した。これに対してフックは「波動説」を唱え、ホイエンスは波動説を発展させた。彼は光の反射と屈折を波動説から説明し、偏光現象から光は横波であると主張した。オイラーは公然と光の波動説を支持したといわれる。19世紀になるとヤングは波動説に基づく干渉理論を1801年に発表した。ラプラースやビオは光の粒子説を強力に支持したが、フレネルは回折現象を波動説の立場から見事に説明した。彼は地球上の光と宇宙からくる光に一切違いはないことを主張した。ハミルトンは解析力学として知られる力学的手法で光学の理論を整備した。エーテルを媒質とする光の波動説は19世紀の光学を支配した。トムソン、キルヒホッフらがその旗手であった。19世紀中頃マックスウエルは電磁波の存在を予言し、電磁気学と光学は統一されていった。1888年ヘルツが実験的にマックスウエルの予言を実証した。マックスウエル方程式は力学的モデルを持ちえなかったが、こうして波動論が勝利したのである。電磁気学と力学が分離された結果、場の理論が生まれたのである。1905年アインシュタインは「特殊相対性理論」を著して、ニュートン力学とマックスウエル理論を統合し、光のマックスウエル波動論に軍配を上げたのである。彼は光の速度cの普遍性の基礎をおいて、時間と空間の「時空」が変化するという破天荒な理論を発表した。こうして力学との折り合いを求めるエーテル媒質説は完全に葬られた。光は媒質なしでも伝わる電磁場であることが確立した。反対に光と物質の相互作用に波動論は無力であった。光が物質に吸収されることは、19世紀にフラウエンホーファーやブンゼンらが「吸収線」として発見した。光学は、光を吸収する物質すなわち原子核物理学に変容していった。20世紀になって、革命がおこった。プランクは新しい原子論を、溶鉱炉の温度測定から展開したのである。彼は光を調和振動子と考え、振動子のエネルギーは振動数νに応じた一定の量hνを単位として放出するという、不連続なエネルギーを導入した。これが量子力学の始まりであった。プランク定数hは、ε=hν h=6.6260755×10^-34 J・sという小さな値を持つ普遍的な定数である。アインシュタインはプランク説を受け入れ、光電効果を説明するために「光量子(フォトン)仮説」(新たな粒子説の衣替え)を発表した。プランクの不連続エネルギ放出とアインシュタインの光量子仮説によって、20世紀前半の量子力学の建設が開始された。「粒子と波動」論争が再開されたのである。

プランクの「エネルギー量子」とアインシュタインの「相対論」と「光量子仮説」の二つの革命によって20世紀は切り開かれた。それに続いたのがデンマークのボーアで、彼の原子模型は古典物理学との折衷案で今日では「前期量子論」と呼ばれている。ルイ・ドブロイは粒子説と波動論の折衷みたいな「物質波」を提唱し、どちらかの説に肩入れするわけではなく、電子も波、光も質量を持った物質といった混然一体の理論構築につとめた。1926年理論家シュレージンガ−はド・ブロイのアイデアを練り上げて「波動力学」を創設した。ハイゼンベルグが数学的な整理を行い、ボルン、ヨルダンは「行列力学」という行列式による整理を行った。ディラックは波動力学と行列力学が同じものであることを示し、量子力学の定式化が行われた。ではこれから量子力学の内容に入ろう。コンプトンはX線と電子の衝突実験から、光もエネルギーEを持つと同時に、粒子と同様運動量pを持つことを示した。E=cpを見出し、アインシュタインのE=hν=h(c/λ)を適用して、p=h/λを得た。これがド・ブロイの物質波のことになる。角振動数ω=h'ω、角波数k=2π/λを用いて、粒子と波動の2重性を与える関係式「アインシュタインード・ブロイの関係式」 E=h'ν、p=h'k  (ここにh'=h/2π ディラックの記号)を得る。波動の方程式はオイラーの公式を使って、φ(x,t)=Ae^i(kx-ωt)であった。そして粒子性は「アインシュタインード・ブロイの関係式」よりk=p/h'、ω=E/h'(粒子のν=波動のω)を波動の方程式に代入すると、φ(x,t)=Ae^i(px-et)/h' となる。これは強引なやり方で、波動方程式の量子化ができたことになる。この式は「運動量pとエネルギーEをもち、x方向へ進行する粒子の如き波」と理解される。位置xについて2回偏微分をすると、指数関数の関数形保持のおかげで、Dx^2φ=(ip/h')^2φ=-(p/h')^2φとなり、E=p^2/2mより、−(h'^2/2m)Dx^2φ=Eφ が得られる。ここで左辺の演算子−(h'^2/2m)Dx^2と右辺の定数Eが等価の形になる。ここでH'=−(h'^2/2m)Dx^2という演算子を定義する。するとH'φ=Eφに簡略化された。ある関数fにある演算子を作用させたものが基の関数の定数倍(これが指数関数の微分形の最大の特徴であった)となるとき、関数fを、その演算子の固有関数という。定数を固有値と言い、この方程式を固有方程式という。時間tについて減微分を行うと、同様にDtφ=(-iE/h')φより両辺にiを掛けて整理すると、Eφ=ih'Dtφが得られ、先のH'φ=Eφと組み合わせると、H'φ(x,t)=ih'Dtφ(x,t)が得られる。これが自由粒子にたいする「シュレージンガ−方程式」であり、φ(x,t)は量子力学における波動関数になったという。この式の右辺に虚数iが堂々と存在する。量子力学は虚数なしには成り立たない。これは実在という意味を持っている。電子と光子を扱う物理学を量子電磁気学というなら、原子核の基本粒子を扱う物理学を素粒子物理学という。素粒子の構成とクォークの統一像は現在混迷を続けているが、素粒子の測定には対象を傷つけずに実行することは不可能である。量子力学の測定では、その対象の位置と運動速度を同時に確実の求める方法は存在しないことを「ハイゼンベルグの不確定性原理」という。そういう意味で量子力学は力学ではない。量子力学には「力」トウ言う概念はほとんど使われないのである。量子力学は厄介であるが、数学的手法が駆使される。しかしそれが物理像と乖離していては意味をなさない。ここでシュレージンガ−方程式の導出の逆を考え、方程式H'φ(x,t)=ih'Dtφ(x,t)があったとして、それを解いて解φ(x,t)=φ(x,t)=Ae^i(kx-ωt)を得る数学的取扱いと物理的意味を議論しよう。つまりハミルトニアン演算子H'の交換可能性を検討するのである。ここで方程式をH'φ=p'φと置いたとき、H'=p'^2/2m、p'=-ih'Dxと定義した量子化演算子である。波動関数φ(x,t)は対象の状態を表している。運動量を知りたい時はp'φ(x,t)=-ih'Dx[Ae^i(px-et)/h']=pφ(x,t) となるので、p'→pに対応している。エネルギーが知りたければ、H'φ(x,t)=(p'^2/2m)φ(x,t)=p^2/2m=E 方程式の右辺はih'Dtφ(x,t)=ih'Dt[Ae^i(px-et)/h']=Eφ(x,t)と同じことだから、H'(ih'Dt)はEに対応している。波動関数φは、エネルギー演算子H'と、運動量演算子p'の同時固有関数となっており、その固有値はそれぞれEとpである。次に位置と運動量の測定について調べると、x'=xを乗じるとし、p'=-ih'Dxという二つの演算子の互換関係は、x'p'φ(x,t)、p'x'φ(x,t)の演算結果を比べることである。それには差をとってx'p'φ(x,t)ーp'x'φ(x,t)=-ih'(xDx-Dxx)φ=-ih[x,Dx]φ=ih'となり、[x',p']=ih'という結果になり両演算子は演算の順序によって結果が異なるため、位置と運動量は厳密に測定できないことになる。(エネルギーと運動量は同時測定が可能である。) これをボーアは「相補性原理」と呼んだ。最後に波動関数の物理的意味を考えよう。これには朝永振一郎氏の「光子の歳晩」という名著があるので、思考実験のほとんど省略するが、2つのスリットを抜ける光子は観測をすると干渉縞が消えるという現象は光子は観測されない場合は二つのスリットを同時にすり抜けるのであるという。つまり波動関数は光子の存在確率を意味し、ボルンは「波動関数の絶対値の二乗で与えられる」という確率解釈である。ベクトル表示するとφ=φ1+φ2, |φ|^2=φ1^2+φ2^2+(φ1φ2*+φ2φ1*)  φ*は共役複素数であり、(φ1φ2*+φ2φ1*) は干渉項である。光子は干渉する能力を持ち、大量の光子の場合干渉縞となる。これが「波動」の意味であり、それに対して個別に数えられることが「粒子」の意味である。「光子が波でもあり粒子でもある」ということが本当の意味である。

電磁場は無限個の調和振動子に等しいことを先に示した。そして光も電磁波であったことが示された。そこで量子力学における調和振動子の量子化を行おう。古典力学での調和振動子の運動方程式はD^2x=-ω^2xであり、(D+iω)(D-iω)x=0 調和振動子の全エネルギーは、E=p^2/2m+(1/2)mω^2x^2(p=mv →mDx)であった。Eを因数分解すると、(1/2m)(ip+mωx)(-ip+mωx)となり、b=(1/√(2m)((ip+mωx) b*=(1/√(2m)(-ip+mωx)と定義すると、全エネルギーはE=b・b*=|b|^2となる。ここで強引に量子化演算子を導入する。x'=x×、p'=-ih'Dで置き換え、量子力学的演算子a',a'†(量子力学的共役複素数記号†はダガーとよむ)を、a=(1/√(2mh'ω))(mωx'+ip')、a'†=(1/√(2mh'ω))(mωx'-ip')を定義する。位置演算子x'と運動量演算子p'は、x'=√(h'/2mω)(a'+a'†)、p'=-i√(h'/2mω)(a'-a'†)となる。ここで演算子a',a'†の互換関係を調べると交換可能でないことが容易にわかる。固有方程式はH'φ=Eφ ただしH'=h'ω(N'+1/2) N'=a'†a'である。N'演算子は「数演算子」と呼び、a'は「消滅演算子」、a'†は「生成演算子」と呼ぶ。こうして固有方程式はH'φ=h'φ(N'+1/2)φ=h'ω(n+1/2)φ=Enとなる。n=0を基底状態として、(1/2)h'ωをゼロ点エネルギーと呼び、(3/2)h'ω,(5/2)h'ω,(7/2)h'ω・・・という飛び飛びのエネルギー値をとる。エネルギーh'ωの粒子がn個存在することで、アインシュタインの光量子仮説に他ならない。「数演算子」N'は光子の数を表すのである。つぎに本書はファイマンの量子電磁気学について述べているが、これはR・Pファイマン著 釜江常好・大貫昌子訳 「光と物質の不思議な理論ー私の量子電磁力学」(岩波現代文庫)に詳しいし、吉田武氏の演算の独自性はなくファイマン説の紹介に過ぎないので割愛する。そして最終節「場の量子論」に入る。アインシュタインの「特殊相対性理論」はニュートン力学をマックスウエルの電磁気学基礎方程式と同じ変換則「ローレンツ変換」に従うように作り変えたもので、電磁気学と極めて相性がいい。ディラックは「相対性量子力学」を作り上げた。プランクの定数h'と光速度cが同じ方程式に同居する「相対的波動方程式」いわゆる「ディラック方程式」を作った。数学の様式美を追求しその成果は、電子スピンの理論、反粒子の存在など多くの副産物を生んだ。粒子の生成消滅を扱うためには、先に見たように電磁場の量子化という「生成・消滅演算子」の因数分解により、電磁場を量子化し粒子数の増減を含む理論として「量子電磁気学」が必要であった。量子電磁気学の成功は、場の量子化をもたらした。電子は古典的な粒子ではない。電子を電子場の量子として捉え、それから陽子場、中性子場、中間子場として考えることができるようになった。場同士の相互作用が物理的な実態であり、その場にその力を仲介する「媒介粒子」が存在するということが規範の見方になった。これを「場の量子論」という。ニュートン力学は「遠隔作用」の肝上げで理論が構成されている。波を伝える要素「近接作用」のように何かが起れば順にそれを伝えてゆくそういう空間を「場」と呼んでいる。場には過去の履歴が準備されている。重力場、電磁場など構成された作用に従って現象が生じるという考えである。重力や電磁気力を波動として伝える媒質、それは現代物理学では「真空」と呼ばれる確かな存在である。場の量子論では考察対象である粒子が何もない空間を真空と呼ぶ。それは最低のエネルギー状態を意味する。あらゆる粒子が生まれる場である。真空にエネルギー光子を与えると粒子に変身する。これらを「対消滅」、「対発生」という。R・Pファイマン著 「光と物質の不思議な理論ー私の量子電磁力学」に詳しく描かれている。不確定性原理はエネルギーと時間に関して、ΔEΔt≧h'/2という関係をいう。幅を持った関係である。真空はエネルギーを得て粒子を生成し、消滅させて元に戻ることができる。エネルギー固有値がnh'ωである状態はn個の光子が同じエネルギーレベルの存在することである。いくつでも同じ状態に存在できる粒子を「ボース・アインシュタイン統計」に従う粒子「ボソン」という。それと反対に電子は同じ状態に2つとしてはいらない性質を「パウリの排他原理」といい、これを満たす粒子は「フェルミ・ディラック統計」に従う「フェルミオン」と呼ぶ。電子はフェルミオンの代表であり、陽子や中性子はスピン値を持つフェルミオンで原子あるいは広く物質はフェルミオンから構成されている。スピンが整数値を持つ粒子はボソン、半奇数値を持つ粒子はフフェルミオンとなる。光子のように「生成・消滅演算子」は、ボソン一般に利用しうる。素粒子論における現在的問題は、南部陽一郎著 「クオーク」、小林誠著 「消えた反物質」(講談社ブルーバックス)を参考にしていただくとして本書の紹介は終了する。


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