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 R・Pファイマン著 釜江常好・大貫昌子訳 「光と物質の不思議な理論ー私の量子電磁力学」
岩波現代文庫(2007年6月) 

光子と電子の相互作用を解き明かす量子電磁力学QEDが描く物理学的世界像

R・Pファイマン著 「物理法則はいかにして発見されたか(岩波現代文庫)」という本を読んだことがある。この書は1964年コーネル大学のメッセンジャー講演会「物理法則の性質」と1965年ノーベル賞受賞講演会「量子電磁気学の発展」からなる。メッセンジャー講演会「物理法則の性質」は7回の物理学講義といえるもので、受講者はおそらく物理学研究者及び学生であったろうと思われるので、内容的には系統だっており、重力の法則から始まり、数学と物理の関係、保存則、対称性、過去と未来、確率と不確定性(量子力学的自然観)、新しい物理法則を求めて について概論的ながら興味深いテーマに関する講義であった。本書「光と物質の不思議な理論ー私の量子電磁力学」に最も近い内容といえば、やはり1965年ノーベル賞受賞講演会「量子電磁気学の発展」であろう。その講演内容は私には未だよくわからない点も多いが、次のような内容であった。
『ノーベル賞受賞理由のひとつである「繰りこみ理論」とは、数学的手品で難点を隠すだけのことで物理的にはいまだに分らないとファイマン教授に白状されてまたびっくりするだけである。ファイマン教授はいかにもアメリカ流の実用主義で、役に立たない哲学(物理像、モデル)よりは直感的(証明はあとまわし)数学方程式の提案に終始してきた。うまく難点をクリアーできる方程式が見つかれば、そして色々検証して矛盾が少なければそれで大成功という。天才的数学能力を縦横無尽に使って、うまい数学的形式を編み出すことの繰り返しである。古典電磁気学はマックスウエルの波動方程式で完成している。電磁気学の量子論には2つの難題があったという。ひとつは電子が自分自身と相互作用(電磁場作用)するとするとネルギーが発散すること。2つには場は無限の自由度を持つという理論上の問題であった。そこで学生のファイマン君は電子は自分自身には作用しない、他の電子にみ作用するという大それた電磁気学を構築しようとした。そこで彼がやった数学テクニックとは、作用積分Aの第1項は自由粒子の作用積分とし、第2項を電荷の電気的相互作用とした。この相互作用項にクロネッカーデルタ関数δij(i≠j)を持ってきた。量子論への移行において作用積分Sをラグランジアンの積分としてハミルトニアンを組み立てて量子力学を作ることが出来るだろうという企てである。数学的ひらめきはディラックの数式の援用でAexp[iε/h L]を用いることでシュレージンガー方程式が出てきた。ラグランジアンと量子力学の橋渡しができた。作用積分を解して量子力学とつながったのである。これが量子電磁気学への貢献というノーベル賞受賞理由である。ここでファイマン君は学位論文を印刷してPh.Dを取った。戦後は縦波・横波の電磁場を相対論的にするために座標軸の回転という難題に苦しんだが解決は無かった。有名なラムの水素原子の電子エネルギー準位実験結果を説明するため、δ関数の代わりにあるひろがりaを持つ関数fを導入し、電子の自己エネルギー計算してa→0とおくとエネルギーが有限になったという。ディラックの負エネルギー電子の海という難題に摂動計算にチャレンジしたが、殆どが「半経験のいかさま」の数式で解決をし、たくさんのチェックにも耐えたという。同じことは中間子論の摂動計算でも発揮され、ファイマン教授の計算能力と技術は世界最高といわれた(ただし証明はない)。ファイマン教授の問題はひとつひとつの命題に数学的証明を与えることであった。しかし彼は直感による方法によって、悪魔に魅せられたように多くの真理(有用性)を発見したことであろう。数学的テクニックがうまく難題を解決するように見えて、また別の問題を抱え込んだ。そのひとつはエネルギーに複素数が出てきて、確率の和が1にならないことであった。これをユニタリー性の破れという。そしてファイマン教授の反省は、この研究の途上で発展させた考え方が全部、最後の結果には使われなかったということである。大がかりな物理的推論を行い、数学的形式を書き改めて、結論は以前から分っていることを言い換えたに過ぎなかった。そこでファイマン教授は居直って、「最良の方法とは方程式を推論で探すことで、物理モデルなんか糞食らえ」と極言する。

1965年のノーベル賞受賞講演に対して、本書「光と物質の不思議な理論ー私の量子電磁力学」は1983年5月カルフォニア大学UCLAにおける「アリックス・モートナー記念講演」をもとにしている。ずぶの素人向けの「量子電磁力学」QEDの講演である。本としては1985年に刊行され、専門外の翻訳者大貫昌子さんにスタンフォード大学教授(線形加速器センター)釜江常好氏が相談に乗って日本語に翻訳され、1987年に岩波書店から刊行された。2007年6月岩波現代文庫に組み入れられた。「アリックス・モートナー記念講演」は4回に分けて講演会が持たれ、章立ては1)初めに(光子の確率論序論) 2)光の粒子の性質 3)電子との相互作用 4)未解決の部分(原子核物理 素粒子論)となっている。数式は一切用いない物理モデルでの解説なので、分かったような気にさせるが、どこまでがたとえ話でどこまでが実体的な物理学なのか、理解の程ははなはだ怪しい。しかしここに述べられている物理現象は光子の性質だけなので、非常にすっきりした理解が得られる。用いる手法は確率論の常套手段である、@一つの事象の興る確率は最終矢印の長さの自乗に等しいということ。 A矢印の向き(角度)は光の移動距離(時間)に比例し、反射と透過という反対事象の向きは180度変える。この二つだけというアプリオリに与えられた手法で魔法のように光の反射、屈折、干渉、回折、レンズ、分光、などを確率の数学だけで解き明かすのである。この手法は昔私が大学2年で学んだ「確率統計学」の酔歩問題に似ている。碁盤の目の街で前後不覚の酔っ払いは果たして家に帰れるだろうかという問題である。答えはでたらめに歩けばゼロに戻るのである。量子力学は本質的に確率論や不確定性原理に基礎を置いている。光は光学(レンズ)の世界では光線というように粒子の動きのように理解されていた。しかし光は電磁波であり波の性格を持っている。回折や回り込みもするのであるが、光電効果に見るようにその粒子数(塊)としてカウントすることも出来る。電子も最初粒子の運動と理解された。電子線回折現象を起こすことから波の性質も現れた。いったい電子は波なのか粒子なのかに決着をつけるべく、1925年ハイゼンベルグが行列力学を、1926年にシュレージンガーが波動方程式を提出したことで量子力学が誕生した。ここで目を通じて見て来た世界が全く通用しない事を思い知らされたのである。これを理解するには想像力が必要だ。相対性理論を理解した人は1ダースはいたが、量子力学を本当に理解できた人はいなかった。アインシュタインも生涯理解できなかったらしい。喩話として有名な「2つ孔の実験」がある。私は若い頃朝永振一郎の本で読んだ。同じ話をファイマン教授がしているところを見ると、1960年代の量子力学の理解が推し量られて面白い。ここでは繰り返さないが2つの孔を潜り抜けた、粒子、波、電子の様子を示したものである。粒子では確率分布の和として、波では干渉縞として、電子ではひとつの孔では確率分布として、2つの孔では干渉縞が現れるという話である。電子は粒子の様でもあり、波の様でもあり同時に二つの顔を持つことを「ハイゼンブルグの不確定性原理」という。要は決められないということだ。科学を発展させようとすると、実験をするには能力が、結果を報告するには正確さが要求され、結果を解釈するには知力が必要なわけである。最後に本書は4回の講演を収録したし、内容だけも4章で構成されている。1)初めに 2)光の粒子 3)電子とその相互作用 4)未解決の部分であるが、ここでは第1章から第3章までを紹介し、第4章は素粒子論の概要であるので、第4章は割愛する。ごく最近の素粒子論は2008年ノーベル賞受賞者による南部陽一郎著 「クオーク」、小林誠著 「消えた反物質」 (講談社ブルーバックス)を参照して頂きたい。

1) 初めに(確率論の手法)

まずファイマンさんは、物理学の歴史を述べる。物理学とはいくつかの現象をいくつかの理論に纏める作業のことである。古くは天体運動、力学、熱、音、光、重力などが相互に関係のないバラバラの理論で説明されてきた。ニュートンが力学運動法則を発見すると、音は空気の分子の運動として理解でき、熱も熱統計力学として理解できるようになった。こうしてたくさんあった物理理論の数々が単純な理論に統合された。今日でも重力だけは説明不能で孤立している。1873年に電気や磁気という現象はマックスウエルが電磁波という理論を打ち立て、19世紀末には、力学運動の法則、電磁気の法則、そして重力の法則が存在した。そして20世紀初め物質とは何かという理論である「物質の電子論」が生まれ、重い原子核の周りを電子がまわっているというボーアの模型が出ました。ところが天体のような運動力学で説明しようとすると完全な失敗に終わった。1905年にアインシュタインの相対性理論が出て力学の修正を行った。物質の中の電子の振る舞いを理解する物理はずいぶん年数がかかりましたが、量子力学という学問が確立された。分子の反応を調べる化学も量子力学の発展形です。マックスウエルの電磁波の理論は1929年シュレージンガ−らの波動方程式で量子化されました。こうして量子電磁力学QEDが生まれました。次にディラックは相対性理論(アインシュタインによると電気と磁気は見方を替えたに過ぎないという)を利用した電子理論を作って、光と電子の相互作用において磁気モーメント(実験では1.00118)を1としました。ところがQEDで計算すると(どのような計算をするのか私には分かりませんが)無限大という結果になったのです。この発散問題は数学的にはゼロで割ればエラーが起るようなものですが、1948年シュウィンガ−と朝永振一郎・ファイマンが「シェルゲーム」を使って修正計算をして実験値に近い数値を出しました。これは「組み込み理論」といわれ1965年に3人はノーベル賞を受賞した。量子電磁力学QEDは生まれてから50年以上になるが、現在では実験と理論の間に有意な違いはないと断言できるという。ファイマンはまた重力と原子核以外の物理現象はこのQEDで説明できるといいます。分子を扱う化学についてもQEDが理論を提供している。さらにQEDは原子核内で起きる核現象を説明する新しい理論のプロトタイプにもなっている。本書では簡単にするため光子と電子だけを論じる。理論は実験の結果を予測できるかどうかで検証されます。理論は自然がどのようにふるまうかを説明できるが、自然がなぜそのような振る舞いをするかはだれも説明できません(神のみぞ知るなのでしょうか)。なお本書では物理学者がやっていることは解説するが、どういう風に計算をやるかは大学院の3回生になるまでの訓練がなければ分からない事なのでここでは説明しないという。

光とは振動数で規定される電磁波で、普通は振動数の小さい(波長の長い)順にいうと、ラジオ波、テレビ波、赤外線、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線という風に呼びます。太陽の光というと、スペクトルの強弱はありますがこれらすべての光を含むものです。可視光は赤から紫までの色からなります(虹)が連続した色を含み、単色光はレーザーのように人工的に作り出せます。ニュートンは光が粒子から成り立つと考えましたが、結論的に正しいのですが部分的には間違っています。光は放射線検知器(ガイガーカウンター)のように、粒子がぶつかるときの音として実感できます。この装置を「光電倍増管」といいます。一個の光が入るとそれが何段もの電圧をかけた電極で増幅され「カチン」という音を出す仕掛けです。光の強い弱いという尺度はカチンという音の強さではなく、音の出る間隔(頻度)できまることから、アナログではなくデジタルつまり光が粒子であることを証明しています。これから光のごく普通の性質である、直進、ガラス屈折、鏡面反射、虹の分光、レンズの集光といった、ニュートン光学で光線として幾何学的に作図される現象を見てゆきます。まず光は光源から発せられ四方八方(球の全方位)に放射されますが、なぜかニュートンは光源と観察者の目を結ぶ直線にしか注目しません。光は目的意識的に直進するわけではありません。そして反射の場合も光学では光源と観察者の鏡面の中間位置で反射されるように描き、それが最小距離であることは容易に幾何学で証明できますが、光は観測者を意識して着地点まで計算して進むものではないでしょう。あらゆる光線の方向が組み合わされて反射光の分布があるべきなのです。最小光路が一番強いだけなのです。繰り返しますが、自然がなぜそのような振る舞いをするかはだれも説明できません。ニュートン光学は近似的な説明であって、光学機械「カメラ、分光器など)の設計にはそれで十分なのでしょう。当たり前の部分反射という現象を考え出すと、ニュートンもだいぶ悩まされたそうです。たとえばガラスの表面による光の部分反射とは光源から出た光(レンズで集光され平行光束となって直線的に進むと仮想してください)100という明るさの光がガラスの表面で4だけ反射されて戻り、あとの96という光はガラスの中へ入ります。なぜ4%の反射なのでしょうか。しかもその反射率はガラスの材質や表面によって異なります。(ナトリウムガラス、白ガラスの透過率は各86%、92%というふうに) これを説明するため物理学者はいろいろな珍説(穴あき説など)を出しました。結局物理学者は確率という概念にたどりつきました。それが真実かどうかは別にして実験結果を見事に説明してくれました。ガラスは厚みを持った板として、表と裏の二つの表面で反射を考えなければなりません。そこでガラスの第2面(裏面)での反射も考慮して、透過して出てくる光の強さを透過率といい、2回の反射によって戻ってくる光の強さを反射率とする。するとガラスの厚みによって、反射率は0-16、透過率は100−84という実験結果でした。しかもガラスの厚みの薄さによってこの反射率の値は繰り返しサイクル(周期関数のように)しています。ごく精密な実験が必要ですが、反射率は0から16まで(平均を8%として)を振幅とする三角関数なのです。ニュートンは反射の場という境界を考え「光の気まぐれ」と言いましたがこれは間違いです。現在でも2つの表面による光の部分反射を説明できる良い物理モデル(説明すること自体が無意味なのでしょうか)はありません。我々は確率を計算するしかないのです。

ニュートン光学が述べる部分反射を考え直すにあたって、確率統計学が提供する手法の約束事を2つだけ述べます。この手法はほかの物理問題を扱うQEDにおいても重要な方法となります。一つ一つの事象の連続過程(または平衡現象)を→でたどってゆき最終矢印を得ること(矢印の足し算)が基本となります。
@ 一つの事象の起る確率は矢印の自乗に等しい。つまり4%ということは0.2という長さの矢印(最終矢印)のことです。16%ということは0.4という長さの矢印のことです。酔歩でいったでたらめの方向を統計的に合算すると最終矢印は(ゼロ)元に戻ることです。
A 想像上の時計の針がまわっていて、針の角度が時間もしくは速度に比例する。そこでガラスの全面で跳ね返る光の時計の針の向きは逆(180度)にむけて描くことです。光の進む方向であれなおなじ向きで→を描き、反射は反対方向に→をむけます。だからガラスの第1面と第2面での反射の合計は、0.2という長さの→(第1面)と0.2という長さの←(第2面)の頭と尻を結んで合成するので、非常に薄いガラス厚みでは針はほとんど進まないので最終矢印の長さはゼロとなります。次第にガラスが厚くなると光の時間(光路)差が出てくるので、→足す←の合成は三角形の1辺となりその辺(合成事象)の長さはガラス厚みとともに変化します。第1事象(第1面での反射)の針は固定すると、第2事象(第2面での反射)の針はガラス厚みとともにくるくる回転します。合成された3角形の1辺が最終矢印となり、その最長の長さは→足す→で、180度の位置で長さは0.2+0.2=0.4です。確率は@より0.2×0.2=0.16(反射率16%)となり、ガラス厚みと連動して反射率は(ゼロを最小とし、16を最大とし、平均を8とする)周期関数となります。またこの矢印は確率論では「事象の確率振幅」と呼びます。つまりある事象の確率振幅を計算していることになります。
この反射の周期現象は、可視光の波長(波動論の波長という言い方をそのまま採用するとして)による分光を行うことになり、虹現象、あるいは油膜現象(シャボン玉)と呼ばれ美しい玉虫色が周期的に現れることを説明しています。下の図に反射確率振幅の手法を示す。

 
2) 光の粒子(光子)

前章「はじめに」で光のガラス面での部分反射を一例に取り、確率振幅という手法を説明した。第2章では同じ原則で鏡面反射、回折、屈折、レンズ集光、透過、直進といった光子の振る舞いを説明する。これらの結果は驚くべきもので、今までのニュートン光学の見方をすっかり変えることは間違いない。しかしニュートン光学の教えるところは別に間違っているわけではなく今もそのまま使って計算できるのであるが(近似的には正しい結果を与えてくれる)、部分的には説明不可能という点があるだけのことである。鏡面反射、回折格子、屈折、不確定性原理、レンズ集光、透過(多段連続事象)、独立事象といった事象を図を使って説明する。

1) 鏡面反射 
ニュートン光学は鏡面での反射は、入射角と反射角が等しい時が一番短距離であるといいます。いわゆる鏡面に対する観測点の虚点を考えれば光源と虚点を結び、幾何学的に鏡面にぶつかるところが最短距離の入射点をなし、入射角と反射角が等しいことが証明できます。ところが光源から光は四方八方に拡散しますので、狙いを定めて光束が入射点をめがけて進むと考える方が滑稽です。しかも最短距離を計算しながら進むとは不可能です。そこで下図のように光源Sより発した光が鏡面のすべての点の到達し反射して光電子倍増管Pに至る道を考慮する。鏡面を等間隔のに分割し、各点のS→Pの長さ(光の時間)は真ん中でフラットになる凹曲線を描く。→を頭と尻で結んでゆくと大体C点からK点までが最終矢印に寄与している。それ以外の離れた点からの光は打ち消し合っているとみられる。最短時間の経路とは入射角と反射角が等しい点であることは幾何学からわかる。矢印が同じ方向を向いているのは、矢印の表す各径路を光子g通過する時間がほぼ同じだからです。此の光路周辺の光は重なって強めあいます。こうしてQEDは鏡の中央が光の反射に関して大切な部分であり、周辺の部分の反射は結局打ち消し合い事になる多数の矢印を足しているだけになります。

2) 回折格子 
下図のように、反射鏡面を等間隔に分割し、分画面を一つ置きに削除した鏡面を考えましょう。反射面のある分画での矢印は大体同じ方向で、削除した部分では反対方向の寄与がありません。その繰り返しですので、入射角を変えるとある方向への反射光が非常に強くなります。この原理を回折格子といいますが、光ではなくX線を使い、入射角をスキャンしながら反射光をフィルム上に焼き付けます。その干渉縞を解析して結晶の格子の幅や傾きを計算する。虹もこの原理です。これは分光という原理ですが、見る角度によって空気中の水分によって屈折した色(分光)が強められることです。こうして鏡の中央部だけでなく全面からの反射があることを考慮することに意義があります。それはある事象の起り方一つ一つに振幅(矢印)があるということで、矢印を全部加え仲ればならないということです。

3) 屈折
下図に、光の水面での屈折を示します。光電子倍増管は水中Dにあり、光源Sからのすべての光線を考えます。水中では光の進む速さが遅くなりますので、Dに達する時間凹曲線が一番低いところ所要時間が一番短いという光線です。その水面への突入点は光源Sから検知器Dを結ぶ直線(最短距離)が水面にぶつかるところより少し右にあります。空気と水と言った媒質の光学特性によって決定されます。蜃気楼(逃げ水)という現象は、地表と空気の温度差があるとき、空の景色が入射して地表空気で屈折した光を見ていることです。地表を見ているのではなく上空の揺れ動く光を見ているのです。

4) 不確定性原理
均質な媒質の中を光が通るとき、必ずしも光は直進するわけではありません。幅のない1直線の光だけでは振幅が足りません。光源から検出器に達する確率が足りません。その近くのほとんどまっすぐな経路の光を寄せ集めて一定の確率が必要なのです。これを光束といいます。光源に絞りをつけて開閉度を変えてみましょう。開度が十分にあるときは直進線の周りの光束を集めて中心部は強い光を検出し、周辺部の光は打ち消し合って検出されません。つぎに絞りを十分絞りわずかな経路の光しか通れないようにすると、弱いですが周辺部の光が中心部の光と同じ位に光ります。これは光量(経路の数)が少なすぎて、打ち消し合うほどの矢印がないからです。時間的な差もなくなるので最終矢印(確率振幅)が出てくるのです。光が遮蔽物のどこを通るかということと、通った後どこへゆくかということは予測できないという意味で「不確定性原理」という恐ろしい名前が与えられました。確率の概念を使えば「不確定性原理」などは考えなくてもいいのです。光の直進性に対して、光の周辺部の「回り込み現象」ともいいます。昔は波動論で説明されていました。光が直進するという言い方は、身近な世界で起こる現象の近似に過ぎません。

5) 凸レンズの集光
光は媒質の中を通るとき空中(真空という方が正確です)よりも速度が落ちます。下図のような巧みに研磨された曲面を持つガラスを考えましょう。光源Sから検知器Pまでにかかる時間がすべての光線に対して同じように設計された曲率を有するレンズを考えているのです。そこでは所要時間は同じですので、矢印は単純の加算され最終矢印の一直線となり振幅はとてつもなく大きくなります。これを凸レンズの集光作用と言います。ところが光は波数によって波長が異なりますので、所要時間に差が出てきます。これを色収差と言います。

6) 透過(連続事象の確率の足し算)
下図はガラス板を通過する光の事象を分解して示したものです。連続事象の確率の足し算となります。第1:空気中(回転のみ短縮なし) 第2:ガラス第1面での反射と透過(短縮0.98) 第3:ガラス中の通過(回転のみ短縮なし)、第4:ガラス第2面での反射と透過(短縮0.98)、第5:空気中(回転のみ短縮なし)の通過という5段階のステップを考えます。(ガラス第1面での反射、ガラス第2面での反射をも考えると10ステップになるが、ステップごとの矢印の回転と短縮を考える。繁雑になるのでここでは省略する) つまり透過の確率はは0.98×0.98=0.96となるがそれは平均であって、反射光は0-16%であるので透過率は100%-84%である。ここで回転は加えるもの、確率は乗じるものである。

  

7) 独立事象(ハンブリ―・ブラウン・トウィス効果) 下図は2つの光源と検出器があるケースを考える。独立した事象がいくつか付随的に含まれる場合にも矢印は乗じる必要があります。光は全方位に拡散するので光強度は球の表面積4πr2で割ることになります。すなわちある距離を透過する光の量はその距離の2乗に反比例することです。XからA(YからB)へゆく光の振幅を0.5とすると、XからB(YからA)の振幅は0.5である二つの事象は独立して起る。この2つの事象の光路差によっては事象の確率は打ち消し合ったり強めあったりする。この現象は「ハンブリ―・ブラウン・トウィス効果」と言われ、宇宙の遠くにある電波源が一つか二つかを判別するために使われる。

3) 電子との相互作用

本章は光と電子の相互作用について述べるものであるが、最初からこのQEDは重力と原子核に働く力については論外であることを宣言している。前章で述べた事象を再度定義しなおすことから始まる。事象としては前章と重複する。できることはある事象が起きる確率を計算することである。前章で述べた反射の確率(直角に入射するときの反射率は4%であるが、斜めに入射するにつれ反射率は増加する)の考え方は、電子との相互作用でも通用する。これを「合成のルール」と呼びます。
@事象がいろいろな経路を経て起こりうる場合には、その一つ一つの経路について出した確率を加える。
Aいくつかのステップにわたって起こる一連の事象の場合や、独立していくつものことが付随して起る事象の場合は、そのステップ(付随的な事柄)の一つ一つについて出した確率を乗じる。
QEDに成功の秘密は、確率を1本の矢印(最終矢印)の長さの自乗として計算することであった。矢印の長さが確率につながり、確率を乗じることを「矢印」を乗じるのである。矢印の角度をどう計算するかは本書には書いてないが、平面上の矢印は、頭と尻をつないでゆく行くことで「加える」ことができ、短縮と回転を続けてゆくことで「乗じる」ことができる。この矢印は大きさを持ち、代数の法則(A×B=B×A、A+B=B+Aなど)に従うことにより数学的には「数」とみなせる。大きさと方向を持つことから「複素数」と呼ぶことができ、「事象の確率は複素数の絶対値の自乗」である。つまり確率とは複素数の代数法則のことである。前章で論じた光学現象を光子と物質の電子の相互作用という観点で前章の結果を深めてゆこう。まず光子の性質のひとつ「干渉」について見ておこう。

1) 干渉
本論に入る前に、光の振る舞いのひとつ「干渉」という事象を考えてみよう。非常に弱い単色光が一度に一個光源Aより発射され、穴の開いたスクリーンの反対側の検出器Dに達する場合です。(A-Dの距離が1mなら穴の径は0.1mm程度、光子は1%の確率で穴を通過する) こうしてBの穴をふさいでも、反対にAの穴をふさいでも検出器はカチカチと音を立てます。すなわち光は直進するという考えは成り立たないのです。両方の穴を開放して測定すると、音を出す回数が予想されるより0−4%増加する場合もありますが、穴の間隔によっては音が出なくなります。両方の穴を開放した場合の干渉とは2つの振幅(確率)を加えることです。どちらの穴を光が通るかという問題ではないのです。ところがAとBに信頼できる検出器を置くと、干渉は全く観測出ません。これは観測系でしか現象を判断できないためによるものです。下の図の右に検出器Dの干渉を示す。両方の穴を開放した場合の光の量は0-4%の振幅を持つ(a)、AとBに信頼できる検出器を置くと干渉は消え振幅は2%一定(1%+1%)である。検出器の感度によってc,dのケースとなる。こうして振幅(最終矢印)の自乗を計算するということが干渉の確率を与えるということである。

 

2) 粒子の量子力学的行動:3つの作用
電子は1895年に粒子として発見された。1個の電子のマイナス電荷も測定され、電子の移動が電流であることもわかりました。1924年ルイ・ド・ブローイが電子に波の属性を発見し、X線と同様な波長をもつことが分かりました。前節「干渉」で、光の量が少なくなると光の直進説は破れ、干渉が現れることが分かりました。このことは電子についてもいえ、大きな空間(マクロ)では粒子として振る舞えるが、原子のような小さい規模(ミクロ)では空間が小さいため電子はいろいろな振幅(確率)でいろいろな方向へ動くようになり干渉という現象も重要になってきます。光子も電子も波のようにも、粒子のようにも振る舞うのです。光子・電子のみならず原子核の素粒子など自然界の存在する粒子はかならずこの量子力学的行動をとります。そこで光と電子に関するすべての現象の基になる3つの基本作用を次に示す。
@ 光子がある場所から他の場所へと移動する。その振幅をP(A→B)とする  Pとはphotonのこと
A 電子がある場所から他の場所へと移動する。その振幅をE(A→B)とする Eとはelectronのこと
B 電子が光子を吸収あるいは放出する。
@とAについて、この作用は時間と空間という場(時空)において考えるのであるが、今は簡単に空間は一次元にしておき、横軸に空間(X軸)を、縦軸に時間軸とする。光が進むということはA(X1,T1)→B(X2,T2)と表し、(T2-T1)の間に(X2-X1)だけ移動することです。この振幅の大きさをP(A→B)と呼びます。アインシュタインは光が1メートル進むに要する時間を時間の単位とせず秒という時計を単位としたため、光速cという定数をやたら多く書かなければならなくなった。(どうもファイマン氏はアインシュタインをあまり良く評価しない。相対性理論はニュートン力学のごく小さな修正であるという) アインシュタインの相対性理論は4次元の距離I=(3次元空間の移動距離の自乗−移動時間の自乗)だけに依存すると教えてくれる。下図の右図に示すように、P(A→B)の最終矢印の長さに主として寄与するのはI=0の時(光の速度c)であり、I>0またはI<0は互いに相殺しあう場合が多い。光が光速に等しい速度で進むとき、振幅は最も大きく、光が通常の光速より早く進むとか遅く進む場合の振幅も存在する。光は直進する場合だけでなく、光速だけで進む場合だけではない。電子の移動の振幅はE(A→B)で表す。電子の移動する経路が直線的にA→Bと進む場合には、E(A→B)はP(A→B)と全く同じ式になる。ところが電子がさまざまな経路をたどってB点に行く時、経路のステップごとに振幅を加算する。2段階ならE(A→B)=P(A→B)+P(A→C)×n2×P(C→B)となる「n」という数をファイマン氏が導入した。

  

3) 光子の交換
ここでは量子力学的作用のB 電子が光子を吸収あるいは放出することを見てゆく。この場合吸収でも放出でもどちらでも「分岐」または「結合」と呼ぶ。下図の左の図で、時空を移動する電子は直線で、光子は波線で表し電子が光を吸収し放出することを示します。この事象の振幅は定数j(-0.1)で、10分の1の短縮と半回転を意味します。この値は電荷(e-)と呼ばれる。ここで2つの電子と光の相互作用という複雑な状況を見てみよう。2個の電子が1から3、2から4へ移動する経路は第1経路が1E(1→4)×E(2→4)、第2経路がE(1→4)×E(2→3)ですが、下図の右の図に直進以外の経路を示しました。最初と最終状態は同じでも途中で光を交換することもありうるのです。ここで光を放出・吸収するので、第3経路はE(1→5)×j×E(5→3)×E(2→6)×j×E(6→4)1×P(5→6)となります。放出され吸収される時点の位置により一番右端のように光子は時間を後ろ向きに進んだということもできますが、ただ「交換された」といいます。その振幅はj2=0.01です。寄与は小さくなります。コンピュータを使えばjの6乗くらいまでの確率を計算できます。

  

4) 光の散乱
散乱という事象は、下図の(a)のように光子が電子に吸収され、別の光子が出てくることですが、(b)のようにその順序が逆転したり、(c)のように電子が光子を放出してから時間を後戻りし、やってきた光子を吸収して再び時間を前進する奇妙な経路も考えられます。時間を逆に進む電子のことを正の電荷をもつe+(jが正)といいます。このような電子は陽電子(ポジトロン)を呼び、「反粒子」の一例です。(ディラックが1931年に予言し、翌年アンダーソンが実験的に発見した) この現象は一般的なもので、自然界の粒子はどれも必ず時間を逆に進む振幅をもち、それぞれ反粒子を持っている。粒子と反粒子は衝突すると互いを打ち消し合い、別の粒子を作る。陽電子と電子が消滅しあうとふつう光子が1,2個生まれます。原子の中の電子の振る舞いは、重い原子核の中に少なくとも1個ある陽子と相互作用をしながら原子核の周りを回っています。たとえば水素原子は1個の陽子と1個の電子からなるもっとも単純な原子です。陽子は周りを回っている電子と、光子を交換することによってそばに引きつけている(弱い結合)。光子交換の振幅は(-j)×P(A-B)×(j)すなわち2個の結合と光子が移動する振幅の積である。陽子が光子と結合する振幅は(-j)である。電子が光子を吸収する振幅は(j)である。ガラス層で光を部分反射する事象は前章の始めに述べたが、光子が原子核の電子により散乱させられる現象である。水素原子中の電子が光を散乱させる場合、電子と原子核が光子を交換しているところに、原子の外から光子がやってきて電子にぶつかり、吸収されてから新たな光子が1個表出される。電子が光子を散乱させる全部の可能性の振幅をSとして矢印でまとめることができる。Sの大きさ物質の原子の中の電子の配置によって決まる。本当は光子は表面で反射させられているのではないのです。ガラスの中の原子核の電子によって散乱されて、新しい光が検出器に向かって放たれるのです。

5) 光の反射
光源というのも、光子が放出される振幅は時間とともに変化しています。白色光はさまざまな色の光が含まれ光源は無秩序に光子を放出します。単色光源とは振幅の角度が一定の速度で変化することです。そこでファイマン氏は前章で矢印の角度を決めていた「要した時間」というものは、実は特定の経路の振幅は、その光子がいつ光源から放出されたかに依存するという単色光源のことであったわけです。部分反射の新しい分析法をしめす下図の(a)では、ガラスの上で最も重要な点は散乱の振幅が相殺しない光線の向かう中央にあることを示す。(a)ではガラス層を6枚に分けX1〜X6に中央を示す。「時空図」(X,T)の(b)ではこれを縦にして検出器がカチンとなる事象の確率計算を行う。6つの時間(T1-T6)で放出された光子が、ガラス層(X1-X6)で電子が光子を散乱させる。出てきた光子は検出器に向かって進むのである。6つの各径路には次の4ステップが考えられる。
@1個の光子がある時刻に光源から発せられる。Aその光子は光源からガラス内の6点の一つに向かって進む。B光子はその点で、電子によって散乱させられる。C新しい光子が生まれ、検出器に向かって進む。第2、第4のステップの振幅の長さは一定であり、回転はないものとする。第3のステップのガラス内での散乱の振幅は一定で、必ずある量Sの短縮と回転ガラスでは(90度)がある。同時に検出器に到着するために6つの時間が6つの経路ごとに異なります。(b)に示すように単色光源がある時間に光子を放出する振幅は時間がたつにつれ少しずつ反時計方向に回転します。(c)に示すように6本の矢印を順々につないでゆくと最終矢印はこの弧に対する弦となります。この詩集野次る胃の長さに事情がこの事象の確率でとなり、0〜16%まで周期的に変化します。図の(d)は全面と裏面の2面だけの実験事実を使う方法もあります。(省略)

6) 光の透過
反射にしないで、光子が電子に吸収されずにガラスの層をすり抜ける(透過)確率もちゃんと存在するのです。それを下図の(a)に示します。ガラス層を透過して検出器に行く光の振幅の最大のものは(a)に示す透過光であることは実験的に自明である。図ではガラス層を6層に分け(X1-X6)各層で散乱させられる場合の6本の小さな矢印を加える散乱の長さは各層で同じで向きも同じである。従ってガラス層を透過する光の最終矢印は、ガラス層をまっすぐ進む矢印に比べてかなり回転している。ガラスの中を光が進む速度が落ちているように見える。光がびっしつ中を通過するとき、最終矢印を余分に回転させる度合は屈折率と呼ばれる。凸レンズの原理もこれにより説明できます。ガラス層に吸収がある場合(b)のように最終矢印はかなり短くなることを示す。

7) 光の「誘導放出」と電子の「パウリの排他原理」
つぎに自然界の物質が多種多様になる秘密を光子と電子の性質から説明しましょう。2つの光子が別々のところに行くとしたら、最終矢印の長さは時空中の相対的位置関係でまちまちのあたいとなるいわゆる「干渉」が現れます。もし2つの光子が同じ点に行くとした事象を下図の左に示します。1および2の点から放出された光子が3に集まるとき、P(1→3)×P(2→3)もP(2→3)×P(1→3)は全く同じであり、これを加えると2倍の長さになる。その自乗は4倍となる。つまり光子は時空中で同じところに行きたがるという性質をもち(2個の光子間の干渉は常に正である)、これがレーザーの原理である。これはアインシュタインが「誘導放出」と呼ぶ現象で、量子論の確立過程で発見された。ところが電子の場合は偏極(スピン)があるため、下図の右の図に示すように、2本の矢印は引き算される。2個の電子が地空中で一つの点に行こうとすると偏極のため干渉は何時も負となり最終矢印の長さはゼロとなる。2個の電子が時空中で同じ位置を占めることを嫌う性質は「排他原理」と呼ばれる。物質自体の存在に欠かせない性質である。同じ場所を占めないということが哲学的な物質観の基礎となっている。そこからさまざまな化学的属性が現れる。電子には2つの偏極状態しかありません。例えばリチウムという原子は3個の陽子と光子を交換し合っているので、核の近くを占領した2個の電子に比べ、第3の電子はずっと核から離れた位置にあり交換する光子も少なくなり、核から離れやすく飛び出しやすくなります。これが金属の特性の電流を流しやすい性質になるだけでなく、結合性(反応性)に富んだ元素を作り出します。化学には化学の言葉があり、周期律表による整理、原子価などという近似的な理解が進みました。そして無数の物質や分子を生み出しています。

  

8) シュウインガ−の磁気モーメント補正計算
デイラックが1と定めた電子の「磁気モーメント」は修正に修正を加えて現在では1.00115965221と計算されています。下図の上に示すディラックのモデルでは、1個の運動する電子は磁石から来た光子と結合する第1近似でした。1948年シュウインガ−はこの補正計算を行い、j×jを2πで割った値を得ました。電子が別の経路を取る過程を考え、電子がある点から他の場所に行く以外に、しばらくまっすぐ進んだ後突然光子を放出し、自分の放出した光子をまた自分で吸収するという経路です。これにもっと複雑な第2次補正項をいれ、陽電子―電子対を入れて4段階の分岐を考えたり、さらに6個のjを追加した事象、8個のjを追加した事象によりさらに超高精度の計算がなされ、現在では理論値が1.00115965246、実験値は1.00115965221です。


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