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アインシュタイン著/内山龍雄訳・解説 「相対性理論」 
岩波文庫(1988年11月) 

動く物体は時間も距離も縮小させる 天才アインシュタインの出世論文「動く物体の電気力学」

相対性理論について以前、大栗博司 著 「重力とは何か」(幻冬舎新書 2012年5月)を読んだことがある。数式を一切使わないで解説された面白い本であった。その本の91頁に「特殊相対性理論は時間と空間が伸び縮みすることを明らかにしました。それに対して一般相対性理論では、物体の質量も空間を歪み、時間を伸び縮みさせる。その変化が物体の運動に影響を与える。それこそがアインシュタインの解明した重力の仕組みです。」と書かれている。相対性理論の理論物理学での位置づけは20世紀初頭にさかのぼる。本書に見るように、ニュートン力学と光の相克がアインシュタインの「相対性理論」をもたらした。特殊相対論は時間と空間が伸び縮みすることを明らかにした。この特殊相対性理論の発表から10年後にアインシュタインは、一般座標系まで含む理論である一般相対性理論を発表した。一般相対性理論は物質の質量も空間を歪め時間を伸び縮みさせるという重力の仕組みを明らかにした。相対論はマクロの世界を扱うのに対して、量子力学はミクロの世界を扱う物理学である。マックスウエルは光が電磁波であることを定式化したが、アインシュタインは1905年に「光量子仮説」を提出して、光は粒子の性質を持つといって以来、1920年代に量子力学が多くの俊英(天才)によって築かれた。物質の根元の姿をもとめる素粒子論は次々と新規の素粒子を予言・発見という過程を経て、あまりに多くの素粒子が出てきて整理が必要となった。日本の素粒子論は1949年湯川秀樹の中間子、1965年朝永振一郎の量子電磁気学以来、2008年には南部陽一郎、益川敏英、小林誠がノーベル賞を受賞して、物質の究極の素粒子模型が解明されるかのように見えたが、理論的には前途多難である事を曝露しただけであった。量子力学と宇宙の生成の数多くの謎の相克から、量子力学と重力理論を乗越えた究極の統一理論が求められる。原子核物理はからずしも重力理論を必要としないが、理論物理学はその数学的統一性から重力との折り合いに悩んでいる。R.P.ファイマン著/江沢洋訳 「物理法則はいかにして発見されたか」 (岩波現代文庫 2001年3月)その中で、「電磁気の場と重力の場のメカニズムの解明は難しい。極微の世界(核内)で重力はどうなるか、重力の量子化は今後の課題である」とファイマン教授は言っているが、それにしても重力の法則の数式は単純で美しいとファイマン教授はいう。

本書は特殊相対性理論についてであり、アルベルト・アインシュタイン(1879-1955年)が1905年に発表した電磁気学の理論である。19世紀末頃において、マックスウェル方程式は当時観測可能な電磁気現象をほとんど説明したが、その理論の前提として電場と磁場はエーテルなる絶対空間に固定された媒質を介して伝わるものであるとされていた。つまりはマックスウェル方程式はエーテルに対して静止した座標系から観測される電磁気現象を記述する理論であった。ヘルツ、ローレンツ、フィッツジェラルド、ポアンカレなどはいくつかの理論を提唱したが、運動する物体が実際に収縮する(ローレンツ)などの現実には受け入れがたい理論であった。それらとはほぼ独立にアルベルト・アインシュタインは「運動している物体の電気力学について」において、特殊相対性原理光速不変の原理というものを導入することで運動座標系における電磁気現象を簡潔に静止座標系におけるマックスウェル方程式に帰着させる理論を提唱した。その理論が特殊相対性理論である。特殊相対性理論により絶対座標系(エーテルの存在)は否定され、その理論的帰結として磁場は電場の相対論効果(変身)であることが示唆された。磁場とは異なる座標系から測定した電場にすぎないという。本論文はニュートン力学の訂正に関する特殊相対性理論だと思ったら、なんと電磁気学から説き始めている。その理由としてローレンツが1904年にエーテル収縮仮説に基づいてローレンツ変換式を公表しているため、アインシュタインはこの電磁気理論の論争に相対性理論から切り込んだためである。話題は電磁気学であるが、アインシュタインは特殊相対性理論から見事に論争に終止符を打つことができることを誇示したかったのである。そういった歴史的いきさつからアインシュタインの1905年の論文は「動いている物体の電気力学」という題名となって、第T部は「運動学の部」、第U部は「電気力学の部」となっている。時間、空間に対する相対性理論の考え方は、量子力学と併せ20世紀の造り出した誇るべき知的財産である。難しい数学を駆使せず、初等数学(代数学)の知識だけで展開された科学論文としての最高傑作であるといわれる。アインシュタインはこの50頁(文庫本にして)程度の論文を、専門外の人を対象とした物理の啓蒙書として書いたのではなく、平易な表現の科学論文である点が画期的である。あまりに表現が平易すぎて、物理の専門家たちはあっけにとられたであろう。訳者内山龍雄氏は「この論文の第1部は、実に見事で、芸術品と称えてもよいほどに、美しいものである。まさに物理学の最高傑作と言えよう」と解説の冒頭に述べている。岩波文庫本はこの科学原論文を一般読者向けに翻訳という形で出版した。こんな文庫本は見たことはない。それはアインシュタインの論文の素材が見事であり、丹念に読んでゆけば必ずわかるものだというだという確信があったに違いない。とはいえ訳者内山龍雄氏は、本論文訳(文庫本で47頁分)に、論文の論旨に忠実な解説(87頁分)を加え、補注・用語解説(42頁分)を加えている。私は本論文を読むにあたっては、アインシュタインの展開を追って、各式の導出を確認した。久しぶりの代数式の演算であるので、結構時間がかかった。だけどそれはそれで楽しく行えた。ローレンツ変換は普通行列式で表現するものだが、アインシュタインは一貫して代数式で行っている。また直感的には解析幾何学で表現すると分かりやすいのだが、アインシュタインは幾何学は用いない。訳者の内山氏の解説では解析幾何学を説明している。式の展開と導出と物理的意味が本論文の醍醐味であるので、やった人だけの楽しみであるので文章にはできない。物理的意味については上に書いた通りで、その適用例については本書にはない。


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