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五十嵐敬喜・小川明雄編著  「公共事業は止まるか」

 岩波新書(2001年2月)


暴走する公共事業を止めることは出来るのか。事例集

公共事業が21世紀初頭の日本で、最大の政冶争点になりそうだ。日本の公共事業は他の先進国に比べて異常なまでの巨額なこと、それが自然や社会保障を破壊するばかりか日本を財政破綻にまで追い込んだことは、かなりの国民の知るところとなった。都市部の票を失った自民党は公共事業のばら撒きへの批判票と受け止め、2001年夏の参議院選挙を戦うためについに「ミスター公共事業」といわれた亀井政調会長のスタンドプレーで公共事業の見直しを実施しました。ところがその内容たるや、すでに停止している233件の事業の停止(5万件の事業数から)の追認に過ぎず、公共事業総額は減らさないとか、整備新幹線は費用は倍増するとか、IT特別枠を設けるなど公共事業は縮小するどころか、「国土交通省」という巨大な利権官庁の発足によってまします勢いづいているようだ。バブル崩壊で低迷した日本経済をひたすら公共事業で切り抜けようとしているようだ。日本産業構造を土建からハイテク産業への切り替えは、掛け声倒れといわれかねない。株価50円以下の建設業界を救うことが日本再建といわんばかりであった。

道路を初めとする公共事業を支配している自民党橋本派と亀井派の内部闘争であったとも言われる、この2000年7月の「公共事業抜本見直し検討会」にもかかわらず、年間45兆円から50兆円といわれる日本の総公共事業費に比べれば削減されたのは0.004%以下に過ぎなかった。日本の公共事業は田中角栄、金丸信元などで大きな腐敗を生み、細川内閣、村山内閣でこの問題が意識されたのであるが政官財の鉄のトライアングルに阻まれ手をつけるkとは出なかった。2000年になって公共事業の見直しを公約に掲げた民主党の躍進によってようやく社会問題として議論されるようになった。それにもまして公共事業利権複合体を追い込んだのは、公共事業反対に立ち上がった市民の力であった。「長良川河口堰」、「島根中海干拓事業」、「諫早湾干拓事業」、「愛知万博」、「琵琶湖空港」などの反対運動は記憶に新しい。そして「全国市民オンブズマン」などの活躍も見逃せない。そのなかで長野県知事に田中康夫氏当選し「脱ダム」宣言をして、ダムに依存しない県政を始めたことは特筆される。公共事業が財政危機の元凶であり、社会保障制度の破戒の元凶であることも多くの国民が気付き始めた。年金、健康保険など社会保障の財源のうち国と自治体の合計負担率は1995年から1997年の2年間で33%から24%(21兆7533億円)にまで減少した。公共事業費は45兆円であるので社会保障費はその半分にも満たない。2000年度の国と地方の公的債務総額は645兆円(2007年で1000兆円ともいわれる)つまりGNPの129%に達すると大蔵省は予測した。そして銀行の倒産に国税を注ぎ込んだように、日本道路公団、関空株式会社、本四架橋公団などの特殊法人の赤字総額は300兆円に達しておりこれに税金を投入しようとする動きもある。そして郵便貯金や年金などが財政投融資で融資した金が不良債権化しそうである。我々の郵便貯金や年金積立金は既になくなっているかもしれないという恐怖に襲われる。1999年7月「年賦方式」で民間に公共事業に相当する開発事業を行わしめて、その代金を年賦で支払うことを可能とする法が制定された。第三セクター方式が殆ど破綻している今日にまた国が借金を増やしかねない。

本書には公共事業を止めようとする全国各地の運動が紹介されている。内容は新聞でも報道されているので省略して題名のみ記す。
1:熊本県 川辺川ダム
2:徳島県 吉野川可動堰
3:首都圏 中央連絡自動車道
4:農水省 土地改良事業
5:牧の原 静岡空港
6:東京都 都市巨大再開発(汐留、六本木、丸の内)
7:島根県 中海干拓
8:北海道 千歳川放水路計画

公共事業に頼らない取り組みの例として、本書は名産品生産運動をしている長野県栄村村長へのインタービューや、小沢氏の地盤で土建王国といわれた岩手県増田知事の県道工事中止決定と事業評価制度の確立、民主党鳩山由紀夫氏の「緑のダム構想」と公共工事削減公約についてインタービューを掲載している。まだ緒に就いたばかりで予断は許さないが、公共事業に頼らない社会をどう作るのかという本書の提案を聞いてみよう。ここの事業を止めるときの法的問題点として、それまでかかった費用の回収、受注業者への損害補償、住民補償がある。いずれもこれから法律を作ることになろう。それ以上に大切なことは公共事業全体のシステム制度設計である。計画・法律・予算を纏めてシステムと呼ぶ。システムの根本は「国民に選択の自由が与えられ、選択したらその責任を負うというシステム作りとなるだろう」。そのために国営事業と市民事業の二つに分け、国営事業を大きく縮小することである。国営事業は計画、予算、場所、事前評価と事後評価を国会で審議して議決する。そして地方が市民の立場から事業を計画するという民主主義のプロセスを公共事業に持ち込むのである。その意味で「市民事業」という。財源としては国と地方は別々の財源で行うことが理想である。地方は国の補助金に頼ってはいけない。市民事業は地方に根ざした地場産業や地域経済の発展に必要な工事を行うことである。


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