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広瀬隆著 「アメリカの巨大軍需産業」

 集英社新書(2001年4月)


グラマン製B2ステルス爆撃機

書評コーナーでいきなり爆撃機の写真をお見せして恐縮です。この飛行機は忍者戦闘機といわれるグラマン社製B2ステルス爆撃機です。1999年5月7日アメリカミズリー州の空軍基地から飛び立ったB2ステルス爆撃機はユーゴにある中国大使館に5発の爆弾を打ち込んで帰りました。アメリカはこれを「誤爆」といっていますが、誰も信じません。1台5兆円ともいわれる高性能機の試験爆撃をしたかったのと、中国への牽制球を投げるためでした。 この少し前3月27日ロッキード・マーティン社製のF117 ステルス戦闘爆撃機がユーゴの対空ミサイルで撃墜された、これによってステルス神話は崩壊しています。見えないはずのステルス戦闘機がレーダでキャッチされ、機体の残骸をロシアがユーゴより入手して高度な設計機密を盗んだ。ペンタゴンはさぞ真っ青になったことだろう。

もうひとつの重大問題は、今日本が一番神経質になっている北朝鮮のミサイル迎撃能がはたして米国にあるのだろうか。無敵といわれるアメリカのハイテク軍事機器である国家ミサイル防衛構想において、莫大な軍事費を食っている弾道ミサイル迎撃システムは殆ど効果のないことが囁かれており、迎撃実験は失敗続きで成功と発表された事例も全くのウソ実験だったことが判明しました。いまのところミサイル迎撃システムは「絵に描いた餅」です。この前の日本上空を通過した北朝鮮テポドン実験のときも、米軍は全くキャッチできなかったそうだ。

ステルス爆撃機とミサイル防衛システムをとりあげたが、戦争は地域紛争や民族間対立で起きるのではなく、米国の景気循環、失業と雇用問題、巨大軍需産業とペンタゴンの軍事予算の都合で起きるのが現実であるということを、本書は強調している。「戦争の口実はやくざやならず者の難癖やがんつけに等しい。興奮が鎮まり後で見れば馬鹿馬鹿しいくらいの幼稚な口実である。イラクの大量破壊兵器の疑惑がその典型である。新聞テレビメディアの戦争を煽り立てる手口(メディアコントロール)はまさに犯罪的といわなければならない。民族紛争を論ずる前に紛争の現地で使われた兵器のブランド名をみれば戦争の意味がよく分る。国連もそこに注目すべきである」と本書が述べるくだりは迫力がある。本書の内容はアメリカの建国からの成功物語から軍需産業の成り立ち、ペンタゴンやホワイトハウスとのシンジケート、戦争史、ハイテク軍事技術などに及ぶ。極めて多岐にわたりそこに登場する事実・人物・企業・機関名も覚えられないくらい多い(自分の脳細胞の劣化のため)ので、つぎの話題に限って本書の言わんとするところをかいつまんで紹介する。

軍需産業とホワイトハウス・ペンタゴンコネクション

アメリカの軍需産業を動かすエネルギーは巨大な国防予算にある。金がなければ勝てないことは自明の理であるが、そのためアメリカという国は建国から今日まで兵器産業につながる財閥によって資本が受け継がれ支配されてきた。アメリカの国家予算に占める軍事費の割合を歴史的に見ると、建国時にはイギリス戦争のとき80%、メキシコ戦争のときも80%、南北戦争のとき90%となった。20世紀になると世界的な戦争が頻発し第一次世界大戦時は60%、第2次世界大戦時には80%、朝鮮戦争時には60%、ベトナム戦争時には45%、1980年冷戦時には30%になり2000年時点で15%になった。一見軍事比率が下がってきたように見えるが、これはアメリカの経済規模の拡大による分母効果である。そこで国防予算を絶対値で見ると、ベトナム戦争後1980年代にカーター政権とレーガン政権において国防予算は飛躍的に拡大し3000億ドルとなった。冷戦終了後1990年代には国防費は著しく縮小したしたが、2000年ブッシュU政権下では国防費は上昇に転じ2005年予算では3300億ドルとなった。これは日本円に換算して36兆円、日本の国家予算の40%を超えた。

1989年のベルリンの壁崩壊とソ連の崩壊によって冷戦は終了した。そして軍需産業も縮小の嵐に直面し、失業者が増大し業界も買収と合併によって再編成された。再編後の1998年における米国軍需産業上位10社を列記しておく。ロッキード・マーティン社(戦闘機F16、輸送機C13 、ロケット)、ボーイング社(早期警戒機AWACS、ヘリコプター)、レイセオン社(ミサイル)、ゼネラルダイナミック社(M1戦車)、ノースロップグラマン社(戦闘機部品、レーダ関係)、ユナイテッドテクノロジー社(ヘリコプター)、テクストロン社、リットン・インダストリー社、テネコ社、TRW社であるが、上位3社に国防予算が集中している。軍需産業は受身の受注で大きくなってのではなく、ホワイトハウスを動かす人脈とコネクションを有するコングロマリットを形成したのである。尚参考までに世界の巨大兵器メーカの10位に入るのはアメリカの9社とヨーロッパからはEADSの1社のみである。
外交政策とは無関係に行動できる。即ち国家には拘束されない國際資本の原理とも言うべきものである。国家の対立という次元の低い問題は軍需産業では考慮されないのである。そのために軍需産業の間にシンジケートが形成される。日本の建設産業間の談合みたいな協力関係が出来ている。ペンタゴンや国連のPKOは実は兵器輸出センターである。現地軍隊の将軍と司令部ペンタゴンと兵器産業は実は人的に一体である。

2000年度までの米国の軍事予算は日本、イギリス、フランス、ドイツ四カ国の合計の二倍であった。つまり八カ国の軍事費が米国一国に相当する。歴史的にアメリカの軍事宇宙製品輸出額は大統領が共和党か民主党かということには関係が無かった。むしろ民主党の大統領のときに軍事費の拡大が大きかった。アメリカの軍事従事者数(戦闘員、軍部官僚、軍事産業労働者)は第2次世界大戦の2629万人は別格として、1990年までは500万人以上であり、冷戦終了後1990年以降は500万人を切った。米国は戦争が終わるたびに大量の失業者を民間産業に吸収しなければならない。89年の冷戦終了で平和ショックが米国軍需産業にを襲った。ブッシュT大統領は兵力削減を打ち出し12%を削減した。失業率は10%近くまで上昇した。この失業者を救うためペンタゴンは1991年湾岸戦争を強行したが相手が弱すぎたため戦争は1ヶ月で終了し、カンフル剤にもならなかった。戦争規模と失業率と軍事予算と国民総生産GNPには密接な相関が認められる。国連のPKOを隠れ蓑とする兵器輸出も活発になった。戦争規模は小さいが、軍需産業によって世界中に紛争が起された。199年クリントン大統領のときNATO軍のユーゴ空爆によってアメリカの失業率は下がった。クリントン、ゴア、オルブライトが鳩派なんて言葉は絶対に信用しないことだ。さらに犯罪的なことはこのコソボ紛争で劣化ウランが戦車攻撃に使用され多くの人が白血病などで悩んでいる。これはまさに小型核兵器である。戦争に持ってゆく戦術としてメディアコントロールによって、一種の心理戦で相手を悪魔として描き出し、国民に恐怖を植え付け「相手を殲滅するまで戦う」という社会的情緒を醸し出すことが重要な戦術として使用された。東チモール紛争では国際世論は独立を求める東チモール住民の肩を持って見事に英・米・オーストラリア軍の介入を招いた。これまでインドネシアの独裁者スハルト将軍を援助してきたが、真の狙いは小国東チモールを独立させることで石油利権を自由にするオーストラリアの戦略であった。自己責任の自由の国アメリカが人道とか人権とか言い出したら戦争が起きると考えた方がいい。

200年にブッシュUが大統領になって国防長官にラムズフェルト、財務長官にオニール、国務長官に黒人コリンパウエル、ライス、ほかにチェイ二ーらがアフガニスタン攻撃、イラク戦争、イラン包囲を指導した。ブッシュUの黒幕は石油産業だということはブッシュUの行動を見れば自明となる。石油の匂いがするところで次々と戦争を起し石油利権を略奪した優秀な大統領だった。


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