061214

藤原正彦著 「国家の品格」

 新潮新書(2005年11月)



2006年度流行語大賞第一位は「品格」であった。この言葉は勿論数学者藤原正彦著「国家の品格」から来たものであろう。著者藤原正彦氏は私が大学生のときに読んだ岡潔著「春宵十話」の本に良く出てくる言葉「情緒」の再来かと間違うほどに、岡氏と同様に情緒を大切にする数学者である。二人の数学者がともに数学の出発点は情緒だというからには、やはり私は大学2年のとき学科選択を数学にしなくて良かったと思う。というような私事は別にして、藤原正彦氏は欧米科学主義の論理と自由・平等・民主主義に異を唱えられている異色の随筆家である。数学者といわないのは本書が数学の帰結ではなく、あくまで数学者の見た社会批評であるからだ。数学は本書に直接関係はないとしておこう。

本書が書かれたいきさつはやはりバブル崩壊後の日本社会の迷走にあったと見られる。金銭至上主義からくる品格の喪失、アメリカ主導のグローバル化による日本的価値の喪失にある。氏の主張は、単純な論理は破綻しか生まない、日本的情緒や形を教育によって取り戻そうという日本主義回帰運動のひとつである。樋口清之著「梅干と日本刀」と同じ流れにある。

本書は近代的合理主義の限界、論理だけでは世界は破綻する、自由・平等・民主主義を疑うという風に現在の危機的状況を指摘しておられる。確かに私も指摘された点には全面的に同意するが、ではどうしたらいいのかという点では先生のご提案があまりに論理を超えているので賛成とも反対とも言えない。日本的な情緒と形を見直してゆこうと先生は主張されるが、その先に日本の武士道が世界を救うかどうかは眉唾ものだ。


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