071029

 
岩瀬達哉著 「年金の悲劇」
 
講談社(2004年4月)


年金制度を破壊したのは誰か  社会保険庁年金無駄使い編
 

官僚がその病巣であろうことは予測したが今回そのものずばりのドキュメンタリー曝露本を読んで怒り心頭に達した。日本を支配する腐敗官僚と政治家(半分は官僚出身だ)どもを皆殺しにするにはもう革命しかないとまで思った。これでも怒らない人は支配層の人間か牙を抜かれた犬だ。再度この本から数値を拾って怒ろうではないか。

1:下る年金給付額、上る年金掛け金

年金には商店主や自由業者のための国民年金と会社員のための厚生年金がある。国民年金が創設されたのは1961年であった。我々が加入している厚生年金や国民年金は十分い納得のいく説明もなしに5年に一度毎回のように給付金がカットされ、掛け金が引き上げられてきた。約束されていたはずの年金額が支給されないばかりか重い負担ばかりを強いられてきた。官僚どもは「少子高齢化によって制度を支える現役世代が減少する一方年金受給世代が急増するのだから年金額のカットや掛け金の引き上げはやむをえない」ような発言を繰り返した。本当にそうなのか?少子高齢化は日本だけでなく先進国では共通の現象である。年金給付額にあたる現在の所得代替率は配偶者の基礎年金も含めて59.3%で、2025年には50.2%に下げる予定だ。年金掛け金比率は現在13.5%であるのにこれを2017年には18.3%へ引き上げる予定だそうだ。日本の年金制度が危機を迎えているのは、単に少子高齢化だけが問題ではなくて、政策実行能力のない年金官僚たちの制度への寄生とその甘い汁の吸い上げ構造に根本問題があるようだ。このような情況に対して国民が不審を抱くのは当然の帰結で、下の年金掛け金納付率の減少傾向はもはや押し止めようもない。2002年には3人に1人は納付していない。特に若者の失望感は高い。社会保険庁も「国民年金制度への根強い不信感と不安感」を認めざるを得ないようだ。なぜこうなったのか、ではどうしたら信頼を回復できるのかに対して官僚どもは無策無能どころかさらに不信感を強める腐敗にまみれており、もはや官僚どもに政策当事者能力は無いと判断し、期待を一切抱かないことが必要である。泥棒に追い銭の愚を繰り返してはならない。ではつぎに数値を見てゆくことにしよう。気を失わないように気を確かに持って見て行こう。

減少著しい年金納付率・・年金への信頼喪失はいつからか・・



2:年金基金は官僚の利権に化した

年金掛け金納付率がここまで下るともはや年金制度を維持できないことは火を見るより明らかだ。とすれば当然掛け金を集めて制度を運営する現行の社会保険制度をやめ、税金で給付財源を賄う税方式に切り替えるべきという議論が出てくる。なんとそれに対して厚生労働官僚は税方式には反対で取り立てやのまねをしても現年金制度の枠内で納付率を上げたいようだ。それはなぜか。答えは簡単だ。税方式になったら給付財源は財務省に移るので、厚生官僚の年金掛け金の管理運用権がなくなる。官僚のこだわりはこの年金管理運用権にあり、これが打ち出の小鼓だったのだ。すなわち我々の年金掛け金は官僚の甘い汁になっていた。事実と金の流れを丹念に積み上げてゆくことから次のような年金官僚の失態と腐敗が明るみに出た。これは多くの人たちの怒りと努力の結果である。事実の積み上げはこのページではできないので、表題の本を読んでいただくとして結果だけをしたの表に纏めた。またこのような官僚の利権構造は年金官僚に限ったことではなく、国土交通省の道路建設公団利権、旧郵政省の貯金・簡保基金運用利権(これが最大派閥橋本派の権力維持につながっている)、経済産業省の石油税を吸い上げるNEDO、農水省米利権などなど挙げだしたら切が無い。これが日本の黒い霧だと親父ギャグ。

失われた年金掛け金の累計総額(2004予算ベース)

失われた年金掛け金の総額(2004年予算ベース) 8兆9924億3708万7794円
内訳 金額(円)
T:天下り団体が食いつぶした年金掛け金
年金福祉施設の建設・整備維持費
年金関連団体への委託費・補助金(年金病院・老人ホームなど)
年金資金運用基金(株運用損失・年金住宅融資事業焦げ付きなど)
グリーンピアへの持ち出し(建設・維持費・解体費など)
計 6兆7775億3213万9382円
1兆5820億6825万1952円
1665億8354万9736円
5兆0288億8033万7684円
3781億2654万2919円
U:本来の給付金ではなく、年金業務経費として流用された掛け金
掛け金からの年金事務費への流用
掛け金からの福祉施設費への流用(オンラインシステム費・旅費など)
計 2兆2149億0494万8412円
6337億1532万7000円
1兆5811億8962万1412円

1961年〜2004年の間、厚生労働官僚はなんと9兆円の年金をすでに食いつぶしていたのだ。これを「掛け金の中抜き」というらしい。預けたつもりがなんと管理元でくすねていたというものだ。我々が納付した掛け金と年金支給金の差額を積立金というが、現在144兆円ある。この積立金に官僚は昆虫のように群がっていたのだ。その中抜きの規模の順に列記すると、


  1. 年金資金運用基金(運用による損金と年金住宅融資事業の焦げ付き)  5兆円
  2. 年金福祉施設の建設・整備維持費(厚生年金病院・年金会館・老人ホーム・グリーンピアなど)     1兆5820億円
  3. 福祉施設費として事務費に流用(オンラインシステム費・出張費・庁費など)    1兆5811億円 

断突一番は年金資金運用基金という外郭団体による損失である。十分な経験も無い官僚による金儲けは危険すぎる。通常は国内債券運用で止めておくべきものを、やってはいけない株運用によるハイリスク運用に手を染めたようだ。外国では考えられないような危険な運用策で大穴をあけてなお平然とし、無能官僚どのは責任を取るどころか出世して甘い汁を吸い続けている。こんな危ない連中から基金を取り上げなければ我々の積立金が霧散してしまう。二番目は軒並み赤字経営の病院・国民休暇村・年金会館などなど、そして最近取り潰しの趨勢になったグリーンピア保養施設(超豪華ホテル並み保養施設)の杜撰経営などなど、官僚による経営とは赤字は無限にある積立金を流し込めばいいという感覚らしい。そしてほぼ同額2位といっていい事務費への流用である。ここに高給腐敗官僚の甘い汁が隠されていたのだ。


3:年金掛け金が天下り年金官僚に流れ込む仕組み

仕事らしい仕事はしないお茶ひき爺の飲み食い、高額給料・退職金というサラリーマンではありえない優雅な老後生活が保障される仕掛けがあった。7000万円ほどの官僚退職金を貰ってから、2,3の外郭団体の理事を渡り歩くと1〜2億円の収入を得るといううまい生活があったようだ。 現在天下り年金官僚の数は2512人で彼らが懐に入れる年金掛け金は876億円/年である。一人当たり3400万円を懐に入れている。まさに民間の社長並みの年俸である。しかも高額の年金もしっかり頂戴しているというではないか。官僚の力量とは、金が流れ込む仕組みの外郭団体を作る法律を国会通過させることらしい。そうすれば何十年にわたって関係官僚の老後は安泰ということだ。

厚生労働省天下り官僚が行く関連団体とそこへ流れ込む年金掛け金
官僚の懐に消える年金掛け金の総額876億2237万円



4:公的年金制度を再建するためには

高速道路建設公団総裁を首にしたように、年金官僚の手から年金積立金を取り上げることが最善である。そのためには破綻した年金制度を税方式に変え財務省の管理下に年金基金を置く事である。そうすれば素人博徒、無能経営者や盗人役人から年金財源を守ることが出来る。そして国民が信頼できる年金制度(公的年金の一元化)を再建できるのではないか。


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