文藝散歩 5

季語集

 坪内稔典著「季語集」 岩波新書(2006年4月)

生活習慣の激変や環境破壊によって季節感が身の回りから逃げ出しています。季語は漢詩や和歌・俳句の詩歌にはなくてはならぬ手法でもあったのですが、形式主義でマンネリに陥り、正岡子規からは「月並み(陳腐)」と言われ、桑原武雄からは「第二芸術」と言われ虐待の憂き目にあっています。しかし季語は時代と共に遷ろうものです。

子供は季節を考えず目の前のものに夢中です。季節を感じる隙も無く、時間はあっという間に過ぎ去ってゆきます。つまり子供は存在そのものが自然に近いからだそうです。人がことさらに季節を意識するようになるのは中年になってからです。心身がやや衰えかけたとき、そのような自分を支えて時間の中に身をゆだねるために季節を意識するようです。今日俳句を始める世代はあきらかに中年からです。

季節は普通は四季(春、夏、秋、冬)と考えますが、古代では民俗学的には農業生活上から二季(正月から盆、盆から正月)があったそうです。四季は中国から来た新しい区切りで、広く普及するのは平安時代からだとされています。古今和歌集から歌を四季に分け、その四季観は現代にいたるまで基礎的なものとして受け継がれています。四季とは一つのめがねのようなものです。このめがねを通して自然界が四季に区切られるのです。

中世の連歌、江戸時代の俳句の季語、今日の歳時記に至る季語を確立したのは古今和歌集であります。この四季の考えを受け入れて時候、天文、地理、生活、行事、動物、植物などを四季に分類したのが季語で、これは一つの約束である。

この季語の約束を本意といいます。言葉の持つイメージを決めるものです。例えば「春風」は「そよそよと優しく吹く」というのが本意です。季語の持つイメージを別の言葉と組み合わせるときに微妙な本意のずれを楽しむのが季語の楽しみでもあります。自分の気持ちの新しい表情を表現するのが季語の本意のずれの目的です。

本書に集められた俳句の季語は300で、1991年より毎日新聞に連載された。四百字詰め原稿用紙一枚(新書版で1ページ)に本意と著者の気持ちそして2句を挙げられている。一つ一つの季語の内容は本書を見て味わっていただくとして、次の表は本書の季語300を分類した。

俳句季語分類
分類
時候 立春
光の春
 春は曙
木の根開く
啓蟄
春寒
彼岸の入り
永日
春宵
蛙の目借り時
春昼
魚島時
行く春
麦の秋
りら冷え
明易し
晩夏
立秋
二百十日
新涼
残暑
秋の宵
爽やか
秋彼岸
夜寒
夜長
秋の日
雀海に入りて蛤となる
暮秋

神無月
小春
師走
冬至
年の瀬
松の内
底冷え
大寒
春隣
節分
天文 淡雪
春一番
貝寄風
陽炎
春の月
梅雨

春風
青嵐
ブルーへイズ
青葉雨

青梅雨
梅雨闇
炎天
夕凪
雲の峰
夕焼け
西日

晩夏光
野分
海鳴り
月夜
月光
十五夜
星月夜

爽籟
秋空
天高し
いわし雲
後の月
秋日和
 
小春日和
時雨
木枯らし
すきま風
風花
北颪
寒月
冬の月
地理 薄氷
水ぬるむ
春の土
春の滝
春の川
春の潮
青岬 秋の川 枯野
冬の庭
山眠る
雪嶺
生活・行事 花菜漬
バレンタインデー
花粉飛ぶ
野焼き
春の匂い
卒業
春の風邪
雛の家
お水取り
挿し木
朝寝
球春
はんなり
草餅
釘煮
あんパン
春愁
風車
野遊び
新入社員
筍と若布のたいたん
遍路
虚子忌
啄木忌
鯉幟
森林浴
祭り
草刈り
新茶
鯨来る
水無月

デッキチェア-
溝さらい
雨降り小僧
浴衣
昼寝
ビール
氷菓子
祇園祭
花氷
海水浴
サーフボード
夏痩せ
端居
帰省
キャンプ
花火
桜桃祭
独歩祭
河童祭
鬼貫祭
原爆忌
敗戦日
踊り
生御魂
盆飯
茄子の馬
俳句の日
草泊まり
登高
月見
団子盗み
老人の日
柿の木問答
秋祭り
けんか祭り
ハローウインと亥の子
秋の灯
栗飯
新米
紅葉狩り
おしまいやす
子規祭
 
七五三
雑炊
夜話
毛糸編み
マフラー
セーター
懐炉
湯豆腐
義士祭
障子
鼻水
風呂吹き
終い弘法
火事
柚湯
クリスマス
冬篭り
仕事始め
なずな打つ
十日戎
成木責め
かじかむ
おでん
煮凝り
雪女郎
日向ぼっこ
探梅
動物 猫の恋
白魚
春の河馬
雲雀

蛍烏賊
亀鳴く
磯巾着

時鳥
郭公
毛虫
クサギの虫
みみず


こおもり
女郎蜘蛛
赤い河馬


蝸牛
金魚

小鯵
鱧の皮

河童
草雲雀
小鳥来る
秋の蚊
秋の蛇
虫の声
いなご
赤蜻蛉
ひよどり
水鳥

海鼠
植物 梅が香
レタス
椿
いぬふぐり
蕗の薹
種漬花
菜の花
葦の角

えんどうの花
チューリップ

藤の花
白詰草
薔薇
馬鈴薯の花
桐の花
睡蓮
夏草
若葉
ジューンドロップ

くすぐりの木

夏みかん
桑の実
枇杷
トマト
猫じゃらし
鉄道草
鳳仙花
草の花
すすき
荻の花
蔦の花
露草
思い草
野菊
曼珠沙華

糸瓜

莢隠元
さつまいも
丹波の黒豆
青蜜柑

椎の実
林檎

木守り柿
照葉
 
石蕗の花
帰り花
枯れ尾花
落葉
水仙
枇杷の花
枯れ草
大根

冬苺
蜜柑


随筆・雑感・書評に戻る   ホームに戻る
inserted by FC2 system