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和田純夫著  「プリンピキアを読むーニュートンはいかにして万有引力を証明したか
講談社ブルーバックス(2009年5月)

近代科学の出発点となった運動の法則や万有引力を確立したニュートンの金字塔

アイザック・ニュートン(1642-1727)の著書のひとつ『自然哲学の数学的諸原理』は、1687年に刊行されたニュートンの力学体系を解説した書である。全3巻よりなり、運動の法則を数学的に論じ、天体の運動や万有引力の法則を扱った、古典力学の基礎を築いた画期的な著作で、近代科学における最も重要な著作の1つであるといわれている。Principia という略称でもよく知られている。日本語では『自然哲学の数学的原理』、『プリンキピア』、あるいは『プリンシピア』とも表記される。昔学生のころガリレオ・ガリレイの「星界の報告」〈岩波文庫)を読んで、面積速度一定の法則がよく理解できなかったことを思い出した。当時の天文学の膨大な観測データーから星の動きの法則を探るという方法は難解だったことでしょう。近代科学発祥の時期に書かれた科学の名著というのは、今の時代の教育に毒された人には理解することはかなり困難になっている。つまり私たちはニュートンの肩の上から科学の世界を見ているからです。当時の思考の制約、データの不足からくる帰納的推論の証明法は難解を極めたことを、もはや実感できないからです。その証拠にニュートンは「プリンキピア」において、命題の証明には幾何学的論理のみで構成しています。代数的、微分積分学的表記法は一切採用していません。17世紀末の当時の物理学界はそういう方法でしか理解しなかったからです。整理された数学形式でしか教わらなかった我々の頭は逆に当時の思考法についてゆけないのです。現代流に書けばこうなるという和田氏の注釈が各所において見られますが、こうした現在に引き戻す方法は逆効果になります。かえって混乱を引き起こし、イライラ度を増します。私はあるところで以下のように書きました、。「おそらく日本人で原典でプリンピキアを読んだ人はいないでしょう。こんな難解な本はないと言われています。あるノーベル賞受賞の物理学者が大学で「ピリンキピア」を講義した本の訳本が日本で15000円もします。 和田純夫著「プリンキピアを読むーニュートンはいかにして万有引力を証明したのか」(講談社ブルーバックス 2009年)という本があるので読んでみた。原本は私のようなものには到底理解できないでしょう。解説本で勉強するという手もあります。プリンキピアに無縁であるよりもましです。それでも容易には理解できない。なぜ理解できないのだろうかを考えた。一番の理由は研究者は帰納的に理論を構成する。ところが勉強する人は演繹的に考える。いわゆる公式主義である。日本の教育はすべて演繹的で出来上がったきれいな構成で教えられる。もっと専門的に言うと、私たちは関数論と微積分(ニュートンの発明による)を使って考える癖が出来上がっている。ところがニュートンは自身が微積分学を創設したにもかかわらず、一切の関数的数式は使わないで、幾何学のみで論理を作っている。代数学らしいものは比例関係だけである。ニュートンがなぜ幾何学のみにこだわったか、それは理論の構成の一貫性を重んじたからでしょうか。だからこの本を読むときは、学校で習った微積分学を忘れなさい。解析学は捨てて、幾何学に徹しなさいということです。頭の中のこれまでの知識の武装解除をし、ニュートンの前に全面降伏しなさい。そうするとニュートンのやり方が少しづつ分かってくる。」

ここでニュートンの業績を振り返って、常識的なプリンキピアの位置づけをしておこう。ニュートンは、彼以前の自然科学上の成果がひとつの流れとなり流れ込む流入点のような、また、彼以後の研究の流れが源を発する水源地のような人でもありました。この注目すべき書物でニュートンは、タルターリアに始まり後にステヴィン、ガリレオ,ホイヘンスによって展開された力学上の数々の成果や、コペルニクス、ブラーエ、ケプラー、ガリレオ、ホイヘンスによる天文学上の諸々の業績を系統立てて、ひとつにまとめたのです。本書は、科学史上のみならず人類文明史上においても革命的意義を持つと言っても過言ではないほどの大きな影響を示した著作であり、科学を完全に、根本から変えてしまったのでした。科学が宇宙を理解するひとつの方法であるとすれば、ニュートンは、新しい宇宙観、宇宙の新しい「パラダイム」を作り上げたのでした。ニュートンの「プリンキピア」は三編から成っています。第1編は、ユークリッドの「原論」風に、いくつかの定義から始められています。ニュートンは、質量、運動量、静止力としての慣性、外力、求心力などを、すばらしく簡潔に、論理的に明快に定義しました。そして、それらの基本的概念にもとずく有名な三つの法則、いわゆるニュートンの法則を提示しました。第一法則は慣性の法則で、全ての物体は外力の作用を受けない限り静止または等速度運動の状態を続けるというものです。第二法則は、運動の変化に加えられた外力の大きさに比例し、力の加えられた直線方向に起こるというもの。第三法則は、二つの物体が相互に及ぼす力、作用と反作用は、大きさが等しく方向は反対になるというものです。運動の三法則と万有引力によって、惑星の軌道が楕円になることを証明したことが、プリンピキアの第一の功績です。この第三法則がニュートンの力学上の業績でとりわけ独創的なものでした。最初の二法則は彼の先駆者たちの研究によってすでに定義されていたのですが、それらを厳密に数式で表わし、論理的に系統立てたのはニュートンが最初だったのです。第2編では流体力学を論じて、デカルトの渦動宇宙論を徹底的に排除しています。ニュートンの最大の業績である万有引力論が登場するのは第三巻です。そのなかでニュートンは、二つの物体はある力をもって相互に引き合うこと、そして、その力はその物体の質量に正比例し、物体の間の距離の二乗に反比例するという相互引力の法則がすべての物体ほあてはまると主張しています。ケプラーの第三法則、及びホイヘンスが1673年その主著「振子時計」 に書いている等速円運動の場合の求心力を求める公式から導かれる結論、力は二つの物体間の距離に反比例しなければならないということはニュートンはもちろん、ロバート・フックならびに他の科学者たちを当時すでに知っていました。しかしこの法則は、等速円運動をしている物体や天体などにのみ応用できるので、ケプラーの第一及び第二法則に従うような楕円運動をするものには適用できなかったのです。ニュートンはそれら全てを総合し、引力理論に基づいて、力学を宇宙全体の学問に用いられることを確かにした唯一の科学者だったのでした。すなわちニュートンは極微粒子から巨大な天体に至るまで宇宙にあるすべてのものにあてはまる単純明快な理論を樹立したのです。これこそがニュートンの万有引力理論であって、この理論によってニュートンは、アインシュタイン以後の現在でも、われわれがなお常識的に抱いている力学的宇宙観の不動の地位を築き上げたのでした。 惑星の楕円軌道の証明が、第1編命題11でなされているが、全3編からなるプリンキピアには命題(定理といってもいい。証明が必要)が約200ほどある。議論されている話題は多岐にわたり、力が離れた距離の2乗に反比例する通常の形以外の場合とか、大きさのある天体の万有引力、第3の天体による楕円軌道の変形、時点位依る地球の変形、緯度による地表上の重力の変化、潮汐などが議論され、さらに空気抵抗、振子運動と周期、水や空気の波などの力学現象の考え方を広範囲に取り扱っている。現代の力学の教科書は微分積分を中心とする数学によって記述されるが、プリンピキアの記述の特徴は図形を多用した幾何学に基礎をおいている。だから現代人にはピリンキピアは難解なのである。力学の様々な問題を幾何学によって証明してゆくニュートンの能力は驚嘆するほどである。中学校程度の幾何学で万有引力を証明してゆく態度は、同じく初等数学しか使わないで特殊相対性理論を創設したアインシュタインの態度に共通する天才的なきらめきを感じる。1687年にプリンキピアが出版されて以降、解析的な議論に書き換える努力が数多くの人によってなされてきた。それらを「ニュートン力学」と呼ぶとすると、プリンピキアは「ニュートンの力学」と山本義隆氏は呼ぶ。「ニュートン力学」の本は無数に出版されているが、プリンキピアはほとんど知られていない。著者和田純夫氏もプリンキピアンのラテン語原典は読んでいないと白状している。中野猿人訳・注 「プリンシピア」と、チャンドラセカール著 中村誠太郎監訳「チャンドラセカールのプリンキピア講義」を読んで理解したうえで、本書 和田純夫著  「プリンピキアを読む」(講談社ブルーバックス)を書いたという。そして「誰も理解できない」プリキピアをかみ砕いて高校レベルの数学で理解できるように咀嚼することが本書執筆の動機である。だから本書の表現はニュートンのプリンピキアの儘ではなく、分かりやすいように現代風に書き換えているそうだ。ここで著者和田純夫氏のプロフィールを紹介しておこう。氏は1949年生まれ。東京大学物理学科卒業後、ケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所研究員、ボローニア大学原始物理学研究所研究員を経て、東京大学教養学部(駒場)専任講師を務めて定年退職された。専攻は素粒子物理学だが宇宙物理学にも詳しい。宇宙論を素粒子物理の見地から研究し、宇宙の誕生と量子力学の関係を論じてきた。1986年よりケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所のホーキング教授のグループで研究生活を経験した。著書には「量子力学が語る世界像」(講談社ブルーバックス)、「物理講義のききどこr」(岩波書店)、共著に「数学が解き明かしたブル知の法則」(ベレ出版」、訳本にはコリン・ブルース著「量子力学の解釈問題」(講談社ブルーバックス)などがある。

1) プリンピキアの誕生まで

ニュートンはガリレオが亡くなった1642年英国のウールスソープに生まれ、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジで学んだ。当時の大学はギリシャ哲学なかでもアリストテレスの体系を学ぶことが中心であったが、図書館ではデカルト、ガリレオの新しい学問を知ることができた。1665年ペストの流行で大学が閉鎖され、一時ウールスソープに帰省したニュートンはそこで1年半研究を進めたという。デカルトの影響を受け、方程式による曲線や曲面の分類、無限級数の理論、微分積分という概念を確立した。リンゴが落下するのを見て万有引力を発見したかどうかは定かでなないが、1666年ニュートンは地球上の物体に働く力(重力)と、地球が月に及ぼしている力を比較して、その力が距離の二乗に反比例するなら(逆二乗則)ば、同じ力であるという計算をした。いわゆる万有引力の法則を発見である。落下運動だけでなく一般の運動の法則の学問が始まった。これが近代科学の始まりであったといえる。しかしプリンキピアという本が出版されたのは21年後の1687年のことである。ペストがロンドンで終焉した1667年にニュートンは大学に復帰し、教授職を得た。ニュートンの名は次第?に知られるようになり、光の研究、反射望遠鏡の発明など行った。英国のロイヤル・ソサイアティは反射望遠鏡に関する論文を寄稿するよう依頼した。それに対してニュートンは1672年太陽光はさまざまな色を持つ光の集まりであることを示した「プリズムの実験と報告」を提出した。そもそも光とは何であるかについて多くの人の考えとは相いれないものであり、特にロバート・フックからの反論にニュートンは悩まされた。1680年巨大な彗星が11月に現れ消えて、12月にはっきりと尾を引く彗星が出現した。この2つの彗星が同じものではないかと気が付いた人が、グリニッジ天文台長のフラムスティード(エドモンド・ハレーはその助手)であった。フラムスティードはニュートンに手紙を送り、彗星は太陽に引きつけられ方向を変え、そしてその力は磁力ではないかといった。ニュートンは高温の太陽に磁力はないとして太陽かた引力を受けて太陽の周りを旋回して戻ってきたという推論を述べたという。天体間に働く重力、そしてそれによって軌道が曲がるという力学の基本概念を述べたのである。フックも1679年に惑星の運動をそのように考えニュートンの意見を求めている。このことがフックとニュートンの惑星軌道論の先陣争いに発展した。惑星と太陽との間の力が距離の二乗に反比例するとすれば惑星の軌道は楕円になるということをニュートンが証明したのもこの頃のことである。重力の逆二乗則はケプラーの第3法則から推定はできるが、惑星の軌道が楕円軌道となる?戸をニュートン以外には誰も気づいていなかった。1684年ハレーはニュートンに会いこのことを論文にするようにと説いた。そこからニュートンによるプリンキピア(自然哲学の数学的原理)の執筆が始まった。1686年4月に第1編が完成しそして1687年7月に全編が完成した。プリンピキアという本は、コペルニクスの仮説の数学的な証明に止まらず、目指すところは普遍化された物体の運動の法則の確立であった。プリンピキアではまず物質の量、運動の量、力などの用語が定義され、3つのニュートンの運動の法則に向かう。それに続いて様々な命題、定理、補助定理が整然と続く。距離の逆二乗則の力が働く惑星の運動のみならず、地球の扁平度、歳差運動(自転)、月の運動、潮汐、抵抗を受けた物体の運動、彗星の運動など様々な問題が解かれる。そして万有引力という力が、単に惑星軌道の問題ではなく、すべての現象の背景にあることを明らかにする。こうしてプリンピキアは新しい自然観を打ち建てたのである。ニュートンの思想に影響を与えた人物は、ガリレオ、デカルトである。プリンキピアによって地動説は完全に勝利した。地球は天体の一つである(過ぎない)という位置づけを行った。さらにプリンピキアによって、物体の動きは数学によって厳密に記述できることが明らかになった。ここに近代科学が始まったと言っていい。

ニュートンがプリンキピアを書いた時、どのような科学的知識を前提としていたのだろうか。天動説は地球を中心として太陽や惑星がその周りを円運動をするという、アリストテレス的ギリシャ時代の自然観に基づいていた。運動は「神聖な円運動」以外は考えられないのであった。実際は単純な円運動だけでは惑星の動きは説明できないので、円運動の複雑な組み合わせで補正をしていた。これに対してコペルニクスは1543年(ニュートンが生まれる約100年前)に惑星が太陽の周りをまわるという地動説を提示したが、軌道は円運動にこだわっていた。天体観測データと近似的な整合を得るためにはやはり円運動の組み合わせとして考えなければならないという、科学的には天動説とさして変わらなかった。コペルニクス的転回とは惑星が回るか太陽が回るかどちらを信じるかだけの問題で、科学的には変わるところはなかった。その後ティコ・ブラーエの精密な観測データを基にケプラーは惑星の軌道を計算し、1609年と1618年に公表した。ケプラーの主張は後年「ケプラーの三法則」と言う名前で呼ばれた。
「ケプラーの三法則」
@第一法則: 惑星の軌道は、太陽の一をひとつの焦点とする楕円である。
A第二法則: 惑星と太陽を結ぶ線分が単位時間に描く面積は一定である。(面積速度一定の法則)
B第三法則: 惑星の公転周期の二乗と、楕円軌道の長半径の三乗の比率は一定である。(公転周期は長半径の3/2乗に比例する)
楕円軌道とは短半径の内接円を一定方向に引きのばした図形で、長半径分だけ伸びている。こんな直感的な定義では何を言っているかわからないという人には、作図法として二つの焦点を結ぶたるんだ一定の長さ(長半径の二倍)のひもに鉛筆を立て、ぐるっと一周させて書いた図形であると言えばわかるだろうか。それでもわからない人には関数論的にx^2/a~2+y^2/b^2=1を満たす(x,y)の描く曲線と言えば、x<a,y<b一の範囲でxを代入すればyの値は計算できる。丁寧に計算してゆけば一応楕円曲線を描くことはできる。後で示すことになるがなぜ惑星軌道が楕円曲線になるかということは、二つの惑星間に距離の二乗に反比例する力が働くからである。長径、短径は二つの惑星の質量と重力加速度できまり、運動速度は天体発生の時の初期速度によって決定されるので誰にもわからない。面積速度一定則(第二法則)は、惑星が太陽の近くを通る時(掃引半径は小さく)速度は早くなり、惑星が太陽から離れる時(掃引半径は長く)速度が遅くなるので、半径×速度(面積速)は一定になるということを表している。第三法則は惑星間で(公転周期)^2/(長半径)^3を計算するとどの惑星でも同じになるということである。ちょっと面白い数学形式をしているが、あとで示すが万有引力の大きさが距離の二乗に反比例する結果からきている。地球は太陽の周りを高速で動いているのは何の力が働いているのかを考察したのが、デカルトやガリレオの「慣性」の発見であった。ガリレオは1632年の「天文対話」を表し、相対性原理を明らかにした。等速でまっすぐ動き続ける運動、すなわち等速直線運動を「慣性」と呼び、意識する人間も地球と同じ速度で運動しているのでこれを感知することはできないという。地球の運動軌道は実際は円運動に近いのだが、大きな円を描くので地球の動きの曲がり具合は非常に小さい。だから直線等速運動と見なしても間違いではない。力学の基本法則とされるニュートンの運動の三法則とは次の法則である。
ニュートンの運動の三法則
@運動の第一法則(慣性の法則): 物体にその運動を変える力が加わらないかぎり、静止あるいは一直線上の等速運動を続ける。
A運動の第二法則: 運動量(質量×速度)は、加えられた力に比例し、その力の方向を向く。
B運動の第三法則(作用・反作用の法則): 二つの物体間では、すべての作用(力)に対してそれと等しく反対向きの反作用が存在する。
運動の三法則のうち最も重要な観点は第二法則である。ガリレオは1604年頃落下の実験をした世界最初の人である。斜面をころがり落ちる球の距離は時間の二乗に比例することを発見した。従って垂直落下の時も同じことが主張できるとした(普遍化)。又速度は時間に比例して増加することも主張した。1638年「新科学論議」においてガリレオは落下運動と水平運動の動きを合成して、物体の軌道が放物線になることを証明した。これらのことは現代の力学の初歩に従えば、速度v=a・t、距離x=(1/2)a・t^2であり、微分積分関係より自明であるとされている。運動の起因である力についての考察としては、デカルトの渦動説(機械論)、ギルバートの「磁石説」がある。ギルバートは地球全体が一つの磁石であることを明らかにして、それが運動の起因であるとした。ケプラーも磁石説ではあったがこれを「遠隔作用」といって直接物体が触れ合わなくても働く力の存在を主張した。そういう意味では「遠隔作用」に基づく力学的な発想をしたのはケプラーが最初であった。ケプラーは力が惑星の運動に方向に働くという見方であったが、ニュートンは直線運動に太陽の作用による落下運動が合成された軌道となるという見方である。ケプラーは慣性の法則を知らなかった、しかし惑星は太陽から遠ざからず、絶えず太陽方向に軌道を修正しながら(引力を受けながら)公転する。ケプラーは万有引力を発見できなかったが、遠隔作用と太陽からの作用という発想をニュートンにもたらしたのである。

2) 世界の体系への道 (プリンキピア第V編前半)

和田純夫著  「プリンピキアを読む」はプリンキピアの順序を逆にして第V編が、ニュートンの言いたいことが一番よくまとまっているという。本を読むとき、前書きとあとがきをまず読むようなもので、本の言いたいことがよくわかるからである。プリンピキアの第T編と第U編は命題が中心の論理的構成になっている。第T編には命題が91題で分量では本書の中心をなす。第U編では命題が53題あるが本書ではその一部を解説するに過ぎない。第V編では命題は42題あるが本書ではほんの少しだけを解説する。もちろん第T編の諸命題の証明の素晴らしさ(巧みさ)を味わうことがプリンキピアを読む醍醐味であるが、いきなり本論と各論に入ると、その証明の展開に目を奪われて、流れの概略を見失いがちになる。そこで本書ではまず概略を把握するために、ニュートンの世界観がよくまと待っている第V編前半を先に解説する。第V編前半部には4つの「規則」、6つの「現象」、14の命題からなる。第V編の表題は「世界の体系」である。第V編前半では14の命題を取り上げて、太陽系の運動がどのように生じているかを示す。太陽系の運動を「万有引力」という力を適用することで明快に説明できることが示される。第V編前半ではニュートンは命題に入る前に、「哲学における推理の規則」および「現象」という項目を置いている。「哲学における推理の規則」ではいわば科学の方法論みたいなニュートンの姿勢が示される。ニュートンは多くの人の反論を予測して最初に、新しい概念、発想を採用する際の論理の根拠を提示しているのである。規則1から規則4を次に示す。
「哲学における推理の規則」
規則1: 自然現象の原因は、それらの諸現象を真にかつ十分の説明するもの以外を認めるべきではない。
規則2: 同じような問題には、できるだけ同じ原因をあてがうべきである。
規則3: 物体の諸性質のうち、少なくとも我々の実験の範囲内ですべての物体に属すると知られているものは、ありとあらゆる物体の普遍的な性質と見なされるべきである。
規則4: 諸現象を一般化することによって推論された命題は。たとえ反対の仮説が考えられても、推論された命題に反する他の現象が見つかるまでは、真実あるいはそれに近いものとみなす。
ニュートンが万有引力の提唱にあたって、いかなる現象を根拠としたのかを、つぎの「現象」に示す。
「現象」
現象1: 木星の周りの諸衛星は、木星から見たときに面積一定の動きをしている。またそれらの周期は、木星からの距離の3/2乗に比例している。(ケプラー第3法則)
現象2: 土星の衛星についても、木星の衛星と同じ事柄が見られる。
現象3: 五つの惑星(水星、金星、火星、木星、および土星)は太陽の周りを回っている。
現象4: 5惑星および地球が太陽のまわりを回っているとすると、それらの周期は太陽からの平均距離の3/2乗に比例する。(現象1の一般化)
現象5: 惑星の運動は、地球を基準として見たときは面積速度は一定ではないが、太陽を基準として見ると面積速度一定である。
現象6: 月の運動は、地球を基準として見たときに面積速度一定である。

万有引力の法則を確立するため、ニュートンは木星や土星の衛星の話から入る。それが万有引力を証明する命題1から命題9(定理)である。これ以降の説明では定理の証明は図や式の展開を記述しなければ理解できないが、HTML文法ではその表現は不可能であるので省略する。そこを楽しむのが数学の醍醐味であるので各自に任せる。論理の筋だけを理解してゆこう。さらにニュートンは解法には徹底して幾何学から入る。ニュートンの頭の中はさておき。、代数や解析学は基本的には表記には用いていない。まさに「幾何学を知らない人はこの門に入るべからず」といったプラトンのアカデミアの世界である。
@ 命題1: 木星の衛星は、木星方向の力を受けており、その力は木星からの距離の二乗に反比例する。土星の衛星についても同様である。
(この命題は第T編命題2「物体がある曲線上を動き、ある点からの面積速度が一定の場合、その物体はその点からの向心力を受けて動いている」と、第T編命題4系6「いくつかの物体がある点の周りを等速円運動をしており、その周期がその半径の3/2乗に比例しているとき、それらの物体に働いている向心力は距離の二乗に反比例する引力である」に基づく。)
A 命題2: 惑星は太陽方向の力を受けており、その力は太陽からの距離の二乗に反比例する。
(この命題は第T編命題11「物体の軌道が楕円であり、その向心力の中心がその焦点であるとき、向心力は距離の二乗に反比例する」と、第T編命題15「いくつかの物体が、距離の二乗に反比例する共通の向心力により楕円運動をしている場合、その周期は、その長半径の3/2乗に比例する」に基づく)
B 命題3: 月は地球の中心から、距離の二乗に反比例する力を受けている。
C 命題4: 月は地球の重力により、地球に向かって落下し続ける運動をしている。
D 命題5: 木星の衛星の土星の衛星も、そして太陽に対する惑星も、それぞれ木星、土星、そして太陽の重力に引かれて直線運動からそらされ、円運動あるいは楕円運動をしている。(重力の一般性)
E 命題6: すべての物体は各惑星に向かって引かれる。その強さ、つまりその惑星によって生じる物体の重さ(引かれる力F)は、その物体がもつ物質の量(質量m)に比例する。(重さと質量の関係 F=mg)
F 命題6系2: すべてのものの重さは、それらが持っている物質の量(質量)に比例する。それは物体という物体のすべてについて認められるべきものである。
G 命題6系5: 磁力にはそのような性質はないので、磁力と重力は別の力である。
H 命題7: すべての物体には、それぞれの物体がふくむそれぞれの物質量に比例する重力がある。
(この命題は、作用・反作用の法則であるが、第T編命題69及びその系で「物体A,B,C,Dがあり、Aが他の物質に与える加速度は、他の物体との距離のみで決定され、各物体が及ぼす力はその物体の質量に比例する」というもので、2物体A,Bの質量をmA,mBとし、2物体の距離をrとすると、万有引力はF=GmA・mB/r^2とあらわされる。Gは重力定数と呼ばれる)
I 命題8: 互いに引力を及ぼし合う2つの球体において、球体内の物質分布が球対称(均質)であるなら、その2つ球体の間に働く重力はそれぞれの球の中心間の距離の二乗に反比例する。
(第1編命題75,76によって、その質量が中心に集まっているとした結果が成立する)惑星の軌跡を円運動で近似して、ニュートンは天体の質量比を計算した。第T編命題4より、惑星の質量mA、惑星の周期をTとするとGmA=(2π)^2・r^3/T^2となり、重力定数は分からなかったので太陽の質量を1とする比は計算でき、太陽:木星:土星:地球=1:1/1067:1/3021:1/169282と計算した。
J 命題9: 均質な天体内部での重力波中心からの距離に比例する。
(これは第T編命題73に基づく)

次にニュートンの宇宙像が命題10から14に示される。それは断定でも事実でもないので「仮説」として示される。
K 命題10: 惑星の運動に対する空気の影響は、超上空での空気密度がほとんどないのでその軌道には影響しない。
L 仮設1: 世界体系の中心は不動である。ある人はその中心は地球だと言い、ある人は太陽だという。このことからどのような結論が出てくるかを見てゆこう。
M 命題11&12: 太陽系全体の重心は不動である。太陽自体は常に動いているが、太陽系の重心から遠くはなれることはない。
(現代ではこの推論は間違っている。太陽系は銀河系の中で回転している。が太陽系の中では恒星は視差を生じない。だから太陽系の重心こそ宇宙の不動の中心とみなされべきであり、太陽それ自体はそれに対して常に動いているが、意大きな動きではないとニュートンは考えたのであろう)
N 命題13: 各惑星の運動は太陽を焦点とする楕円であり、太陽から見たときの面積速度は一定である。
(惑星が一つしかないとき命題13のとおり惑星の軌道は楕円である。ただ木星の軌道は土星の重力の影響を受ける。木星―土星の距離と太陽ー土星との距離の比は約4:9であるので、太陽と土星が木星に及ぼす重力の比は命題8の質量の比を入れて計算すると。211:1となる。第T編命題67によって土星への木星の影響を取り入れることができる。地球に関しては月の影響がかなり大きい)
O 命題14: 惑星の軌道の遠日点(楕円上で長軸の太陽より最も離れている点)は固定されている。
(これも惑星が一つなら第T編命題11のケプラーの法則より厳密に正しい。小さな惑星では木星や土星に影響で100年に30分移動するが、これは非常に小さい)
P 命題14の系: 惑星の軌道に及ぼす遠日点に対する恒星の位置(方向)は不変であり、遠日点は固定されていると考えると恒星は不動である。不動であるのはそれぞれ反対向きの引力で釣り合っているからである。恒星は太陽から非常に離れた位置に静止しているとニュートンは考えた。その位置は多くの恒星のバランスで決まる。
(この見解は現在では非現実的と見なされている。銀河宇宙の中で星は動き回っており、かつ宇宙空間は膨張している。離れてゆくのである。宇宙の生成はプリンキピアの範囲外で在ろう)

3) プリンキピアの命題(定理) 第T編、第U編、第V編

本論(第T編、第U編、第V編)に入る前に、「定義」(力学用語集と絶対時空間)と「公理すなわち運動の法則」(ニュートンの運動の3法則)が導入されている。定義と公理はその人の考えであるから疑うべからざるの前提として論理展開を見てゆこう。
「定義集」
定義1: 物質の量すなわち「質量」とは、物質の密度と体積の積である。この量は、ニュートンが行った精密な「振子の実験」により、質量は重さに比例することがわかった。
(質量=密度×体積 ニュートンは物質の量とは基本的に原子の数であると考えていたようだ)
定義2: 運動の量すなわち「運動量」とは、速度と質量の積である。
定義3: 物質固有の力、すなわち「慣性」とは、静止しているか等速運動をしているかどうかにかかわらず、物体がその状態を保持しようとする一種の抵抗力である。物体は他の力が働いてその状態を変えようとする場合のみ、それに対抗してその力を発揮する。
定義4: 「物体に加えられた力」とは、それが静止しているか等速直線運動しているかどうかにかかわらず、その状態を変えようとするために働く作用である。その起源は衝突、圧力、向心力など多種多様である。
定義5: 「向心力」とは、物体を中心となる一点に向かって引くあるいは押すちからである。
(向心力の例として重力、磁力、惑星を公転させる力をあげ、月が地球の周りを回るには、月の速度とこの力の大きさが適切なものであるからだという)
定義6: 「向心力の絶対値」とは、力の原因の能力の大きさである。(F=GMm/r^2))
定義7: 「向心力の加速的量」とは、単位時間内の速度の変化に比例する量である。
(加速度=F/m=GM/r^2  地表上ではすべての物質は同じように加速される、いわゆる重力加速度gのこと)
定義8: 「向心力の動的量」とは、単位時間内の運動量の変化に比例する量である。
時間、空間、および運動という用語: 絶対的なそして数学的な時間は、何物にも関わりなく一様に流れるものである。機械時計や日時計のような運動によって計られる時間は相対的な見かけの時間である。絶対空間は、いかなう事物にも無関係に、常に不動で、同じ形のものとして存在する。相対空間は絶対空間の中にあるが、可動であって、諸物体に対するその位置により決定される。例えば地球上の諸物の関係である。絶対運動は、絶対空間のなかの絶対的な場所から他の絶対的な場所への物体の移動である。相対運動とは、相対的な場所から他の相対的な場所への移動である。相対的な場所とは航行する船体内部において、船と共に動く。相対的静止とは船の中での物体の静止状態を言い、絶対的停止とは絶対空間での物体の停止である。同じことは地球に対する船の相対運動と、船の対する物体の相対運動の差し引きによって得られる。空間自体は我々の感覚では直接見ることはできない。したがって真に静止しているかどうかは、我々がその位置を観察できる領域の諸物体の関係からは決定できない。真の運動もそれを見かけのものから区別することは難しい。(ニュートンは原子論者であり、まず空間があり、そこに様々な原始や物体が配置されているという見方をした。地球上の運動は地球基準という。基準が動いているかどうかは物体と無関係に決められ、絶対的に静止している基準g存在するとニュートンは考えた。実際問題として本書の議論は絶対空間の存在は必要ない。それは運動の第1法則「慣性の法則」のためである。ニュートンは運動は相対的なものであるという注釈をつけている。現代物理では空間と時間の問題は、アインシュタインの相対性理論に基づいて理解されている。空間と時間を一体化したものを時空というが、相対性理論では絶対空間や絶対時間は否定するが、絶対時空と呼ばれる物は存在する)

「ニュートンの運動の三法則」
すでに1)プリンピキアの誕生まで」で紹介したの再掲しない。その三法則の後に次の系が6つ続く。一般に系とは定理から導かれるものであるが、ここに出る最初の系とは運動の方向を決めるための規則のことである。
系1: 「運動の合成」 ある時間、一つの物体に二つの力が働く場合、それぞれの力が個別に同じ時間働いたときにできる平行四辺形の対角線方向に動く。その対角線の長さと方向が物体の受ける力の合成である。
系2: 「力の合成と分解」 系1より力の合成も分解も説明される。
(ニュートンはこのことから、ちょっと込み入った幾何学作図でてこの原理を証明する。このニュートン独特の幾何作図が本書の醍醐味であり難解なところでもある。それは今後一切省略して命題の筋だけ追うことにする。天秤の原理ともいわれる。二つの質量の違う物体のつり合い条件は、mA・l=mB・l' mA/mB=l'/l)
系3: 「運動量保存則」 二つの物体の運動量の和は、その物体の間の作用からは変化を生じない。たとえば物体の衝突したとき、「第三法則」の作用と反作用は等しく、第二法則からそれぞれが逆方向の運動量の変化をもたらすからである。
系4: 「共通重心」 複数の物体の共通重心は、それらの相互間の作用によっては運動あるいは静止の状態を変えない。それらの物体全体が外部からの作用を受けなければ、その共通重心は静止したままか、一直線上を等速で動く。
(共通重心の位置とは、全質量をM,各物体の一座標(長さ)をlとすると、加重平均となる。煤im・l)/M  ニュートンは第三法則「作用・反作用」を使って証明する。第一法則「慣性の法則」があるかぎり、複数物体系の全体としての運動は外部から作用がなければ物体は等速運動を続けるのは第三法則が保証しているという。が、これは難解である。ニュートンは微分の考えを奥にかくして回りくどいことをいっているだけである)
系5: 「相対空間、基準空間、座標系」 物体の運動は、それを表す空間が静止しているか、回転せずに一様に(等速)うごいているかにかかわらず、異なることはない。
(空間が動いていても、その動きが一様なら物体の相対的な速度には影響しないことである。船の中で球を上に投げまた落下して手に戻る運動を見ると、船の外に静止する観測者が球の動きを見ると放物線を描いて上下するように見えるということ)
系6: 諸物体が等しく平行に加速されても、互いに相対的な運動は変わらない。
運動の法則についてニュートン自身が注釈をつけている。ニュートンはガリレオの物体の垂直落下運動及び放物線運動を、第一法則と第二法則及び系1、系2を使って説明をした。そして二つのひもで吊るした剛球を衝突させ反発しててどこまで上がるかを測定した。第三法則「作用反作用」から、運動量保存則を証明する。また静止する3つの物体(実は一つの物体を3部分に分けて考えただけ)の引力についても、作用と反作用は等しくなければならないと説明する。(公理として運動の三法則の関係は、現代風に解説すると、第2法則を力=質量×加速度と書くと第一法則をも含むことになる。力ゼロなら加速もゼロとなり、等速運動すなわち慣性の法則のことである。力を第二法則のこととみなして、第一法則の完成を「固有の力」とは見なさなくなったのは18世紀中頃である。すると第一法則は無用となるのだろうか。第一法則は第二法則の特殊ケースであるかどうか議論がある。


3-1)  第T編

セクション1 「諸命題の証明に補助として用いられる諸量の最初と最後の比の方法」
プリンピキア全体を通じてニュートンが使う技法が説明されている。現代風にいうと微分のことであるが、代数的な方法(数式の展開による方法)ではなく、幾何学的な方法(図形による方法)である。〈現代流に書くとXの微小変化量をΔX、それに対応する量Yの微小変化量をΔYとすると、極限に於けるΔY/ ΔXを求めることである)それwpニュートンは図形を小さくして行った時の極限で、様々な比がどうなるかを論じた。まず補助定理2で曲線で囲まれた図形の面積を求めること(求積法すなわち定積分)である。ニュートンが微分・積分の創始者であったことを、徹底的に図形的に追跡することである。
補助定理2: 「曲線で囲まれた図形の面積」 上部が曲線で囲まれる図形の面積は、内接する狭い幅を持つ長方形の面積の和を考え、その幅を減少させていった場合の面積に究極的に等しい。つぎに外接する狭い幅を持つ長方形の面積にも究極的に等しくなる。
補助定理5: 「相似図形の比」 二つの相似図形の対応する辺の長さは(直線でも曲線でも)すべて比例し、面積は辺の比の二乗に比例する。
(相似な直角三角形の対応する辺の比をrとすると、三角形の面積はの比はS2/S1=r^2)
補助定理7: 「極限での曲線の長さの比」 滑らかな曲線ACBを考える。Aでの接線、法線を引き、法線上の一点Rから接線上のD点を結び曲線と交わる点をBとする。DをAに近づけると、直線AB、弧AB,、およびADはゼロに近づくが、その比は1:1:1である。
(曲線の2点間の直線間距離、曲線の弧、接線上の距離は、2点間の微小な極限を考えると3者は一致する)
補助定理9: 「辺の比と面積の比」 相似な三角形を作るため曲線とX軸上に各2点にとり、その比を保ったまま1点に近づけると二つの三角形の面積比は対応する辺の比の二乗に近づく。
(図がないと理解できないが、言いたいことは二つの微小な三角形に縮小しても、辺の比は保持される。だから面積比は辺の比の二乗となる)
補助定理10: 「ガリレオの落下の法則」 ある物体がある力によって動き始めるとき、その移動距離は最初は経過時間の二乗に比例する。ただし初速度はゼロとする。
(補助定理9で横軸に時間、縦軸に速度とすると、面積(移動距離)は時間の辺の二乗に比例する。この場合曲線ではなく原点を通る三角形の面積問題となる。S=(1/2)vt×t=(1/2)vt~2 なんと見事な証明ではないか)
補助定理10系1: 力が働いていない物体は直線上を動くが(第一法則)、力が働くと軌道がずれる(第二法則)。そのずれの長さは最初(ごく短時間)経過時間の二乗に比例する。
(慣性運動のベクトルと力の作用ベクトルの合成である。第二法則部分が補助定理10より明らか)
補助定理10系2: 力による軌道のずれは、最初は経過時間の二乗と力の積に比例する。
(加速度をa=力/質量 一定、経過時間をtとすると売れの長さは(1/2)at~2である。定理10より明白である)
補助定理11: 「接線からのずれの長さ」 重力による放物線落下の問題である。曲線AbBがあり、接線AD、法線ACとする。DがAに近づけた極限で、ずれの長さDBは直線ABの二乗に比例する。
(これも図がないと理解できないが、補助定理7により, 弧AB=直線ABとなるので、相似三角形の辺の対応計算より極限ではBD=AB^2/直径となる)

セクション2 「向心力と面積速度一定の法則」
固定された1点から引力を受けた物体の運動について考えよう。このような力を「向心力」(求心力)と呼ぶ。この一点を力の中心と呼ぶ。重力のように、距離の二乗に反比例する力とは限定せず一般的な議論から入る。最初の命題は「面積速度一定の法則」と呼ばれるケプラーの第2法則に関する。惑星と太陽を結ぶ線分が単位時間に描く面積は一定であるというものだ。惑星の軌道は太陽を中心とする円運動ではなく、太陽と惑星の距離は絶えず変化し、惑星が遠方にいるときは惑星が一定時間内に動く弧は短く(速度は遅く)、近くにいるときはいて一定時間に描く弧は長い(速度は早い)。惑星の動く様子を小刻み(微小時間)の動画の一コマにとってみると、「撃力」を受けて動く方向を内側(太陽側)に曲げられている。
命題1: 「力が向心力なら面積速度が一定である」 公転する物体(惑星)が、ある固定された1点(力の中心 太陽)に引かれて運動する場合、その物体と力の中心を結ぶ線分が描く面積は時間に比例する(すなわち面積速度一定)。
  (小刻みの劇力を受けて動く三角形の面積儡ABと次に時間に動く儡BCの面積が等しいことは、B点で劇力を受けて、慣性力と撃力の合成による平行四辺形から、底辺を共通とする三角形の面積は等しい。幾何学的に極めて容易にわかる証明である)
命題1系1: 「軌道から速度を求める」 中心点に引かれて運動している物体の各位置での速度は、その位置での軌道の接線にその点(中心)から降ろした垂線の長さに反比例する。
(命題1から面積速度一定であるので、三角形の面積は(1/2)×高さ(中心との距離)×底辺(単位時間に動いた距離 速度)より速度と中心との距離は反比例する)
命題1系3: 「力の大きさを求める」 動く点の軌跡がA-B-C-D・・・・であるとき、各点で受ける撃力(引力)の大きさの比は、図形における慣性と引力が作る合成された平行四辺形の中心と結ぶ線分上にある一辺の長さの比である。
(補助定理10系2よりこの距離は時間の二乗と力の積に比例する。時間は単位時間で共通なのだから、力の比は距離の比に比例する)
命題2: 「面積速度が一定なら力は向心力である」 物体がある平面上の曲線上を動き、その平面内のある天板する面積速が一定の場合は、その物体はその転移向う力によって動いている。
(中心をS、最初の位置をA、一定時間動いて撃力を受ける点をBとし、次の撃力を受ける点Cまで進むとすると、面積速度一定が仮定されるので僊BCと儡BCの面積は等しい。二つの三角形の底辺SBは共通なので、高さが等しくなければならない。命題1より力の分解から慣性の方向と撃力の方向に分けると撃力は中心に向かう線分上にある)
命題3: 「月が地球と太陽から受ける力」 地球の対する月の運動が面積速度一定なら、月は地球から向心力を受けているほかに、地球が太陽から受ける加速度と同じだけの加速度を太陽から受けている。
命題4: 「等速円運動の向心力と加速度」 ある物体が中心Sの周りを等速円運動している。その時 @その物体は中心Sからの向心力によって動いている。 A向心力は一定の時間に動いた距離の二乗を半径で割った量に比例する。 等速円運動の向心力∝(移動距離)^2/半径 
(プリンキピアでは法則は比例関係でもべられるが、これを等号の法則にするには加速度を定義しなければならない。等速円運動の加速度=(力/質量)=(速度)^2/半径という数式になる。補助定理10系2より、移動距離=(1/2)加速度×時間^2である。補助定理11より接線からのずれはQR=移動距離^2/直径。(移動距離/時間)=速度であり、これより加速度=(速度)^2/半径となる)
命題4系2: 「向心力(加速度)は半径/(周期)^2に比例する」
(速度=円周/周期=2π×(半径/周期)より自明)
命題4系3: 周期が等しいならば、向心力は半径に比例する。逆に向心力が半径に比例するならば周期は一定、すなわち半径は関係しない。
命題4系6: 周期が半径の3/2乗に比例するとき、速度は半径の平方根に反比例し、加速度は半径の二乗に反比例する。
(ケプラーの第3法則は惑星の軌道楕円軌道に対する法則だが、楕円でなく円軌道だったら系6の仮定に他ならない。)
命題4系7: 周期が半径のn乗に比例する時、速度は半径の(n-1)乗に反比例し、加速度は半径の(2n-1)乗に反比例する。その逆も正しい。
命題5: 「力の中心を求める作図」 向心力によって運動している物体に軌道上の各点での速度が分かっているとする。その時力の中心の位置を作図する方法は、軌道上の3点P、Q、Rにおいて軌道曲線に接線を3本引く。その接線の交点V、Tを求める。次に3点のおける速度に反比例する長さの法線を引き、端をA、B、Cとし、法線に直角な直線を引き交点を求めE、Fとすると、直線VEとTDを引いて交わる点が力の中心である。
(図がないと何のことやらわかりませんが、ニュートンは超人的な幾何学的作図法によって、命題1系1より速度に反比例する点が力の働く中心線にあることを証明して見せる。素人にはただ舌を巻くばかり。これが幾何学の醍醐味です。)
命題6: 「向心力の大きさ」 Sから向心力を受けて、微小時間に間に物体が軌道曲線上のPからQに動いたとする。Pでの接線YPを引く。中心SとQを結ぶ直線が接線と交わる点をRとする。その時向心力は軌道からのずれQRに比例し、微小時間の二乗に反比例する。
(補助定理10系2より QR∝向心力×時間^2 ゆえに向心力∝QR/時間^2)
命題6の系 同じ作図上で。、Qから中心線SPに垂線を降ろし交点をTとする。点Pd接線が共通でPとQを通る円を考え中心線の延長と交点Vとする。するとQがPに近づいた極限で、1/向心力∝SP^2・QT^2/QR∝SY^2・PVとなる。
(図がなくては理解に苦しむでしょうが、式の展開は三角形の相似関係で求められる。これも舌を巻くような補助線の魔力である。この結果は円運動の定理へ引き継がれる)
命題7: 「力の中心が円運動の中心に一致しない時の円運動」 物体が向心力により円周上を動いており、向心力の中心がSであるとき、Sは円の中心とは限らないが、円周上の点Pでの向心力はSP^2・PV^3に反比例する。ただしVはSPの延長線上の円周上の点である。
(三角形の相似関係からAV/PV=SP/SYとなり、これを命題6の系に代入して、向心力はSY^2・PV=SP^2・PV^3/AV^2に反比例する。  AVは直径で一定である)
命題7系2 物体は、Sを中心とする力によっても、Rを中心とするある力によっても、同じ周期、同じ半径の円運動をするとする。そのとき円のPにおける二つの力の比は、SP^2・SP/SG^3に等しい。ここでGとはRPと平行にSから引いた直線の、Pでの円の接線殿交点である。
(円の接弦定理より同じ弦が作る円周角は等しい。命題7より二つの力の比を計算できる)
命題7系3: 系2の結果は、軌道が円でない場合でも面積速度が等しいければ成立する。
(命題7と系2の結果は円運動でなくても、楕円運動でも成立するということである。円運動で考えておいてその結果は円運動でなくても成立するというやり方は、考えてみれば卑怯なようでもあるが、少しでも考えやすいほうを選び、円運動の条件を外してもいいということである)
命題10: 「距離に比例する力の下での運動」 物体が楕円上を回転しており、力の中心Sが楕円の中心Cに一致するとき、この楕円上の各点Pでの向心力は、中心からの距離CPに比例する。
(またこの定理の逆定理、距離に保冷する向心力の場合、軌道は必ず力の中心を中心とする楕円になる。楕円軌道では焦点からの距離の二乗に反比例する力を受けるが、楕円の中心Cからの距離に比例する向心力受けることになる。距離に比例する向心力問いのはばね振動に他ならない。楕円の中心から見たPの座標をばね振動と同様に、x=Asinωt、y=Bcosωtとすれば、x^2/A^2+y^2/B^2=(sinωt)^2+(cosωt)^2=1となり、これは楕円方程式に他ならない。2次元的な楕円軌道でも中心からの距離に比例する向心力を受けるバネ振動をしているのである。)
命題10系2 距離に比例する同じ向心力を受けて動く、同じ質量の物体の回転の周期は、楕円の大きさにも形にも依存しない。
(楕円の性質から、相似な楕円の場合には周期は等しいこと、長軸が共通な楕円の場合には周期が等しいことからこの系2が得られる)

セクション3 「ケプラーの法則の証明」
命題11: 「楕円軌道からの逆二乗則の導出」 物体(惑星)の軌道が楕円であり、向心力の中心が楕円の焦点である場合、向心力は距離の二乗に反比例する。
(証明はかなり複雑で言葉だけで説明できるものではない。命題10の場合楕円の中心であったがいまは力の中心が焦点である。次の命題12では軌道が楕円ではなく、双曲線であり、向心力の中心がその焦点である場合にも、力は距離の二乗に反比例することを証明している。命題13では軌道が放物線の場合を示した。従って逆二乗則に従う力の下では、楕円、放物線、双曲線の2種が証明されている。これらの曲線は総称して円錐曲線と言われる。放物線や双曲線では距離が無限に離れてしまうので、本書では楕円の場合だけが取り上げられる)
命題13系1: 「逆二乗則に従う力の下ででの軌道」 任意の物体がある位置から任意の速度である方向に動き、中心となるある位置から距離の二乗に反比例する向心力を受けるなら、その物体の軌道はその点を焦点とする何らかの円錐曲線となる。
命題15: 「ケプラーの第3法則の証明」 ある点を共通の力の中心とする、距離の二乗に反比例する共通の向心力によって楕円運動をしている物体(惑星)がいくつかあったとする。各楕円運動の周期はその長半径の3/2乗に比例する。
(命題11よりL=(2・短半径^2/長半径)は、L∝焦点からの距離^2すなわちLは面積速度^2に比例する。ここまでを命題14で証明し、楕円の性質から、周期=楕円の面積/面積速度=(長半径×短半径)/√L∝長半径^3/2となる)
命題16: 「楕円運動の速度を求める」 物体が楕円軌道上のP点での速度を考えると、焦点SからPでの接線に降ろした足をYとすると、速度=√L/SY^2である。あるいはL∝速度^2・SY^2
(ニュートンの得意な微小部分の相似関係から速度=弧PQと命題15の結果より証明される)
命題17: 「軌道の作図」 距離の二乗に反比例する力が働いているとき、ある点Pからある方向にある速度で動いている物体のその後の軌道を求めよ。
(この物体の軌道が楕円であると仮定し、Pと焦点の一つSが与えられたとき、もう一つの焦点Hを求める音である。楕円の基本的性質よりPHの長さを求めればHが決定される。S,H,Pが与えられれば楕円が決定される。幾何学的関係よりPH=SP・L/(2SP+2PK-L)である)

セクション6〜8 「時刻と位置」
セクション4、セクション5は純粋に幾何学の章である。円錐曲線を描くタイプの問題であるので省略する。セクション6〜8は物体の運動の問題である。このセクションでの問題意識は各時刻で物体はどこにあるかといういわば関数論(解析幾何)である。世界の力学体系の話よりは数学方法論となるので、かいつまんで紹介するにとどめる。
命題31: 「楕円軌道上での各時刻における物体の位置」 Oを中心、Sを焦点、ABを長軸とする楕円上の点Pが動いている。もし点Pが時間t後に長軸上のAに達する位置であり、比t/T(Tは周期)が与えられているとすると、その時のPの位置を求めよ。
(変形扇型APSの面積/楕円の全面積=t/Tが成り立つ。この命題の幾何的解法は空前の巧妙さに満ちているので図がなく言葉だけでは表せない。何しろ一筋縄の関数形ではあらわせないサイクロイド曲線を用いる。楕円に外接する円(第1円 半径OA)の点Aを転がしてできるAの軌跡は時間軸を横軸としたサイクロイド曲線となり、さらに外がわにOG=OA^2/OSなる半径を持つ第2円を描く。一切の代数を使用しないで幾何学で解くということの困難さは筆舌に尽くしがたい)
命題32: 「逆二乗則の力を受けた物体の垂直落下」 距離の二乗に反比例する力の中心がBにあり、最初Aで静止していた物体が、Bに向けて一直線に落下する。途中の経過点Cにつくまでの時間は、ADC+僖BCの面積に比例する。ただし曲線ADBはABを直径とする半円である。
(この命題も驚嘆に値する幾何手法で解く。ABを長軸とし焦点をSとする楕円曲線APDを考え、この楕円は円を押しつぶしてゆき極限には直線ABになるという想定で、焦点Sは最初円の中心Cから極限にはBに一致するとする。落下時間を楕円運動のPまでの移動時間と考え、直線上のCと楕円上のPと円状のDは同時間として対応する。そして面積速度一定から経過時間/T∝楕円の変形扇型ADSCA、そしte円の部分面積ADBCA=ADC+僖BCに比例する。円の部分面積を求める問題に帰した)
命題39: 「積分を使って速度と時刻を求める」 向心力を受ける物体の、各点での速度あるいは時間を見出す方法、あるいは速度または時間が与えられたときの物体の位置を見出す方法。@速度: 物体EがAの静止位置からCに向けて落下するとする。力の中心はCにあるとする。各点における力の大きさに比例した垂線をEで引きそれが描く曲線をBGとする。Eでの速度とは面積ABGEの平方根に比例する。A時刻: 速度に反比例する点をMとし、それらを結んだ曲線VMを描く。すると物体がAからEに落下するのにかかる時間は、面積ATVMEに比例する。
(これは積分の概念に幾何学的な基礎を与えたものである。面積は向心力の積分であるから仕事もしくはエネルギーに相当する。時間についても同じことである。微積分の式で表すと現代人には分り易い)
命題40: 「速さの変化は高さの変化だけで決まる」 Cを力の中心とする任意の向心力があったとする。その物体がその力により何らかの運動をしているとき、他の物体がCに向かって直線的に落下しているとする。それらがある高度(Cからの距離)で速さが等しいならば、他のすべての高度でも速さは等しい。
(高度が等しいということは一エネルギ―が等しいことであり、また速さが等しいとは運動エネルギーが等しいということである。この力は逆二乗則でである必要はないが、その力はCからの距離だけで決まるとする。つまりどのような軌跡を描いていようと、直線的落下という運動と等価であることが示される。)

セクション9  「軌道自体が回転する運動」
惑星の運動は楕円軌道を描くのであるが、よく観察すると楕円の伸びている方向(長軸)が、軌道の焦点にある太陽を軸にして少しづつ回転していることが分かった。惑星は太陽から力(距離の逆二乗則、あるいは距離に比例する力)を受ける以外にも他の惑星からも影響を受けるからである。通常軌道は一周するごとに変わるのである。見方によっては近似的に一定の軌道が一周ごとに少しづつ回転するということもできる。このような軌道を回転軌道と呼び、軌道が動かないとする場合を固定軌道と呼ぶ。この回転軌道と力の働き方をこの9章で論じる。
命題43: 「向心力による軌道の回転」 ある向心力によって、ある固定された軌道(固定軌道)上での物体の運動が行われているとする。この軌道を物体の角速度と比例させて向心力の中心のまわりに回転させる。この回転軌道上の物体の運動は、別の向心力によって実現される。ただし物体は各時間で、固定軌道上の位置に対応する、回転軌道上の位置を動くものとする。
(固定軌道上のV点の回転角速度δ、固定軌道上のP点の回転角速度θとすると、δはθに等しい。すると固定軌道面を回転させる軌道の面積速度一定則はひとしい。すなわち固定軌道面を回転させる力についても面積速度一定の法則が成り立つような別の力が覇Tらいている)
命題44: 「軌道を回転させる向心力の表現」 固定軌道上の運動を実現させる向心力と、回転軌道上の運動を実現させる向心力の差は、力の中心からの距離の三乗に反比例する。
(最も難解な命題です。引力(回転ー固定)を求めることですが、ニュートンの空前絶後の幾何的考察力によって、煙に巻かれたような証明が与えられます。途中は図形上のことで省略するが、固定軌道の引力=1/CK^2 回転軌道での引力=1/CK^2+1/CK^3 よって引力(回転ー固定)=1/CK^3)
命題44系1: 回転軌道におけるpでの力と、固定軌道におけるPでの力の差は、同じ物体がKCを半径として円運動をする力の(α^2-1)倍である。ただしα=∠VCp/∠VCP(固定軌道上の移動角度/面の回転角度は命題43よりPの位置に関係しない定数)
命題44系2: 「逆三乗速の回転の速さとの関係」 円近い軌道の場合、固定軌道を実現する力が距離A(円の半径)の二乗に反比例するとき、回転軌道を実現する力は 1/A^2+R(α^2-1)/A^3に比例する。
(命題44によって力は二乗に反比例する項と三乗に反比例する項の和である。それと例題44系1から導かれる)
命題44例題2: 「一般の冪乗則の力を受けた回転運動」 力がA^n-3に比例しているとき、円に極めて近い軌道における長軸の動きを求めよ。物体の軌道は円に近い楕円軌道が少しづつ回転する回転軌道であるとして、その長軸の回転速度を求める問題である。
(A^n-3=A^n/A3という力を変形し、α=G/Fから回転速度が決定される。α^2=1/nより長軸の回転速度は2π(1/√n-1)となる。2πは固定軌道で物体が1周した時の回転で、回転軌道ジュの物体は2πα=2π/√nだけ回転するからである。n=4ならば長軸の回転は-πとなり、固定軌道で一周した時回転軌道では中心の周りを半周しかしていない。すなわちA^n-3=A距離に比例した力を意味する。n=1ならA^n-3=A^−2で距離の二乗に反比例するので楕円運動となる)
命題45系1: 「軌道の回転速度と力の法則」 向心力が力の中心からの距離のなんらかのべきに比例する場合、そのべきは長軸の運動から見出すことができる。
(α=物体の回転角/長軸の回転角=(360+x)/360 固定軌道ではxだけ余計に動く必要がある。 力の形をA^(n-3)とした場合、α^2=1/nであるのでn=(360/360+x)^2 これを付きの運動に当てはめるとx=3度よりn=0.9835 力は距離の2.0165乗に反比例する。別の力が加わったと考えるべきである)
命題45例題3: 「力の一般形式の場合」 力が(A^m+cA^n)/A^3に比例しているとき、軌道は半径Rの円に近い楕円だとすると、軌道の回転速度を求めるパラメータαは α^2=(1+c)/(m+nc)で与えられる。ここで円の半径Rは1とする単位を使う。
(例題2と同様に、A=R+x とおく。xは小さい値で冪展開は一次の項のみを取ると、上式が得られる。ニュートンは月のケースを取り上げ、月に働く力をm=1,n=4とすると、1/A^2+cA ここでc=-1/357.45とすれば、1回転で1.5度長軸が前に進む。この力は地球の引力と太陽の重力効果の和だが、後の命題66系7で再度取り上げる)

セクション11 「2体問題、3体問題」
前のセクション10は,物体がある平面、曲線上に限定され、力はその平面の外にある場合の運動が取り上げられる。興味深いテーマであるが、割愛する。セクション11はこれまでの問題を現実の問題と結びつける話題が選ばれている。厳密に言うと運動の第3法則「作用・反作用の法則」から力の中心の物体も中心に静止することはあり得ない。物体が二つの場合を2体問題(月、地球)、三つの場合3体問題(月、地球、太陽)、さらに多体問題を扱う方法を前章の結果を利用して進める。
命題57:相互に引き合いながら運動する2つの物体の、それらの共通重心を基準として見た場合と、それぞれの物体を基準にして見た軌道はすべて互いに相似である。
(共通重心とは、2つの物体を結ぶ直線を質量に反比例して分割した点である。共通重心を基準点として見た場合とどちらかを基準として他方の物体の軌道は互いに相似である。それはどの基準点から見ても2点間の距離は一定だから相似形になる。共通重心が等速直線運動をする。)
命題58: 「2体問題と1対問題の関係 その1」 相互に引き合う2つの物体S,Pの重心Cを基準とした軌道と相似な軌道が、片方の物体が固定されている場合の同じ力による他方の物体の軌道として実現できる。
命題59: 「2体問題と1対問題問題の関係 その2」 相互に引き合う2物体S,Pの軌道の周期と、Sが1点に固定されているときのPの相似する軌道の周期の比率は、質量をms,mpで表すと√ms:√(ms+mp)である。
(重心の定義よりk=CP/SP=ms/(ms+mp)   軌道の長さの比はkであり、速度の比はその平方根なので、周期の比もkの平方根である)
命題61: 互いにに引き合う2物体の運動は、どちらも重心から力を受けていると考えてもいい。重心からの力の法則は、2物体間の力の法則と同じである。
(現代の2体問題は向心力が固定された1体問題として扱う。PとSの換算質量を(mp・ms)/(mp+ms)とした1体問題である。もしms>>mpならば質量はmsとなりSは固定されてPがSの周りを運動しているとみなしてよい)
命題64: 「距離に比例する力が働いているときの多体問題」 多数の物体があり、どの2物体間にもその距離及び質量の積に比例する力が働いている。その時の物体の運動はどうなるか。
(地球Sの周りに3体T,L,Vがあるとする。まずT,Lの共通重心をD、T,L,Sの共通重心をC、そしてBはCとVの重心とする。Bが4体の共同重心である。物体VはCを中心とする楕円運動で、SはT,LのDを中心とする楕円運動の早さを強める。そしてSとDはCを中心とする楕円運動をする。物体がいくつあろうとも距離と質量のみで決定される重心を中心とする楕円運動をする。ニュートンは質量に比例し、距離の二乗に反比例する3体問題(月P、地球T、太陽S)を検討する。プリンキピアでは命題65と命題66で具体的な問題を扱った。そこでは太陽がほぼ重心で惑星は太陽を焦点とする楕円運動を行うとする従来通りの考え方で、他の惑星の効果を補正する。また地球や月が受ける力は太陽の引力が最も大きいが、地球と月の距離は太陽との距離の1/400 である。太陽から受ける力はほぼ等しく月と地球を太陽を焦点とする楕円軌道を描くが、地球と月の相対的運動には影響を与えない。地球は月より80倍ほど重いので近似的には地球が太陽の周りを楕円運動し、さらに月が地球の周りを楕円運動をすると考えてよい。)
命題66系2: 「面積速度の増減」 命題66において、太陽Sが存在しない時には、月Pを地球Tから見た時の面積速度は一定だが、太陽の影響を考えると、月が太陽と地球の一直線上に並ぶ時の面積速度は大きくなり、月が太陽と地球を結ぶ線に直角な位置では小さくなる)
(面積速度を変えるのは太陽の地球への力と月への力の差である。ただし月の地球の周りでの軌道は円運動としている)「速度の増減」 月が太陽と地球の一直線上に並ぶ時の月の速度は大きくなり、月が太陽と地球を結ぶ線に直角な位置で速度はは小さくなる。
命題66系4: 「曲率の増減」 太陽Sの影響を考える前の月Pの運動は円軌道(曲率一定)であったとすると、太陽の影響を考えると、月が太陽と地球の一直線上に並ぶ時の曲率は小さく、月が太陽と地球を結ぶ線に直角な位置では曲率は大きくなる。
命題66系5: 「軌道の変形」 月Pは月が太陽と地球の一直線上に並ぶ時に比べて、月Pが太陽Sと地球Tを結ぶ線に直角な位置では地球より遠ざかる。
命題66系7: 「長軸の回転」 月Pの軌道の長軸の前進と後退を繰り返すが、平均としては前進(回転)する。
(太陽による月の地球に対する引力と地球による月の引力の比をcとすると、命題45例題3より、c=2×(月の公転周期27.3日/地球の公転周期365日)^2=約2/179 となった。)
命題66系9: 「楕円の変形」 遠地点から近地点へと月Pが地球Tに近づく際に、太陽Sの影響のため、向心力が距離PTの逆二乗よりも大きな割合で増加する。結果として「楕円のつぶれ」が増す。
命題67: 「3体問題では2物体をまとめて考える」 3つの天体P,T,Sが互いに距離の二乗に反比例する力を及ぼしているとする。PとTの重心をOとする。Sの軌道は重心Oを焦点と見なした場合の方が一層楕円に近く、面積速度も一定に近い。
(この配置はTを太陽、Pが内側の惑星、Sが外側の惑星だとみなすことができる。あるいはTが地球、Pが月、Sが太陽だと見ると地動説になるがどちらを基準にしても同じことである。この場合地球と月の共通重心Oの軌道の方が太陽を書Y店とする楕円に近い。)

セクション12 「大きさのある物体の重力」
地球がもし完全な球対称なら、それによる重力を考えるときには大きさを無視し、地球すべての構成要素がその中心に集中しているとみなしても厳密に正しいという定理を証明しよう。このことは力を受ける側にとっても適用され、例えば月が地球から受ける重力は、月と地球のそれぞれの中心間距離に逆二乗する力を考えることである。ニュートンはこの定理を得てプリンキピアの執筆を始めたといわれるほど、重要な仮定であった。まず天体は球対称を前提として進める。
命題70: 「球面内部の重力」 内部が空洞の球体があり、内部の点Pに位置する物体には、球対称の位置にある球面上の各部分から、距離の二乗に反比例する同じ力が働くとする。質量の一様分布を仮定している。そのとき点Pでの合力はゼロである。
(Pに及ぼす力の比=楕円表面の質量比/距離の二乗の比=1であることは、質量∝弧の面積=Pからの距離^2であることから自明である。従って両側の楕円による引力は打ち消し合うので、Pでの動力はゼロとなる)
命題71: 「球面外部の重力」 点Pが球面の外部にあるとすると、ただし球の内部は空洞であり質量は表面だけにあるとする。点Pにある物体は球の中心に向かう、球の中心からの距離の二乗に反比例する力を受ける。
(球の内部は空洞である点位において命題70を継承している。Pから球の中心を結ぶ線にある角度θをもって描く細い球面上の帯(円環)の面積を求めある。向心力=楕円表面の帯の質量/距離の二乗である。ここから筆舌に尽しがたいニュートンの曲芸的微小部分の作図手法で証明が行われ、その力の和は、点Pにある物体は球の中心に向かう、球の中心からの距離の二乗に反比例することをいう。質点とは大きさの無い粒子のことである。これより内部が詰まった球どうしの重力についての定理に進む。いくつかのステップを経て最終的には命題76で球対称な物体間の重力を扱う)
命題72: 「相似関係にある球と質点との間との重力」 2つの密度は等しいが半径の異なる球がある。(球1、球2)それぞれの外部に位置Pとpをそれぞれの中心からの距離を半径の比に等しく決める。するとPとpにおかれた質点に働く力の比は球の半径の比に等しい。
(力の比∝質量の比/距離の比~2であるが、内部が詰まった球の部分微小領域の質量は全質量×角分割である。球の質量は半径の3乗に比例するので、力の比=半径^3/半径^2=半径の比となる)
命題72系3: 「相似関係にある物体と質点との間の重力」 密度が等しい相似な2つの立体がある(球である必要はない)。それぞれの外部に、相似な位置におかれた質点には、2つの立体の相似比に比例する力が働く。
(距離の二乗に反比例する力は命題72により半径のみに比例するので、すべてが相似なので線形比例関係が成立する)
命題73: 「球の内部の質点が受ける重力」 一様な密度の球があり。その内部を自由に動ける質点があったとする。その質点が受ける力は中心からの距離に比例する。
(仮想質点であるが、中心を通る細いトンネル内部の点と考えればいい。内部に作る同心球面上に点Pがあるとする。同心球面よる外部によるPへの引力全体は、命題70より球対称側の打ち消しによってゼロである。同心球面内部によるPへの引力は命題72より同心球面の半径に比例する)
命題74: 「球の外部の重力が逆二乗則を満たすこと」 球の外に位置する質点には、球の中心からの距離の二乗に反比例した力が働く。
(球を暑さが無限に小さな同心球面に分割する。命題71より内部が空洞で薄い層からなる球体の集合体を考え、その構成球体各層から受ける力を合計したら、距離の二乗に反比例した力の合計になる。大きさの無い質点、あるいは大きさが微小な物体が受ける重力がその質量に比例することは命題ではなく、定義で示されている。しかし大きさのある物体が持つ重力について次に示す)
命題74系1: 「球による重力がその質量に比例すること」 均質な球の引力は、中心からの一定の距離においては、球自身の質量に比例する。
(均質で密度の等しい物質からなる2つの球1、球2を考える。中心からの距離が半径に比例する相似な位置関係にあるとする。命題72より質点が受ける引力の比は半径に比例する。次に点PをQに移動する、QS=ps するとこの点で受ける引力も比は距離の二乗に反比例するので(SP/sp)・(SP/SQ)^2=(SP/sp)^3 半径の3乗とは体積比すなわち質量に比例する)
命題75: 「均質な球どうしの重力」 2つの均質な球がある。その微小部分どうしの間には、その間の距離の二乗に反比例する力が働いている。その時2つの球の間には中心間の距離の二乗に反比例する力が働く。
(位置P,Sに質量m1とm2の球1,2がある。球の対応すする微小部分どうしの間には距離の二乗に反比例する力が働いている。片方を質点、他方を球として力のベクトル的な合計はSP間の距離の二乗に反比例する。作用と反作用で逆も成り立つ。結局、引力∝m1・m2/SP^2である。)
命題76: 「均質とは限らないが質量分布が球対称な球どうしの重力」 質量の分布は球対称だとする。すると、球の間の力は中心間の距離の二乗に反比例する。
(球の内部に行くほど密度が高くなるが球対称性は保たれているとする場合、均質な球を無限個重ね合わせて作った球と見なせる。命題73により、球の外にある質点が受ける力は距離の二乗に反比例する。全体としてその合力もやはり距離の二乗に反比例する力が働く)
命題77: 「距離に比例する力が働く時の球どうしの重力」 物質が球対称に分布している2つの球がある。その各部分の間には距離に比例する引力が働いているとする。2つの球の間の引力は、その中心間の距離に比例する。
(力が距離の二乗に反比例する場合と同様に議論すればいい。この場合球をPSを結ぶ直線の垂直に輪切りにする板を考える。力はPCの反対側どうしで打ち消すので、PS方向の力のみの力を積算することになる。その力は距離の比例するので結局球の全質量の引力は距離に比例するのである。)

セクション13 「球ではない天体の引力ーニュートン積分」
命題78-命題84は一般的な力の計算法を扱うが省略する。プリンキピアでニュートンが積分的手法を使う章である。微積分の創始者があえて、微積分を使わないで議論を進めることがプリンピキアの最大の特徴であった。この章は例外である。
例題90: 「円板がおよぼす力」  距離によって決定される何らの力を及ぼす物質からできている、一様な厚さの円板がある。その中心を通る垂直線上の任意の位置にある質点に働く力を求める方法。
(質点をP、板の上の任意のいちをEとする。このE点を板のスタート点AとしDまで移動させる。EからPまでの距離xで決定される力のグラフ、関数形で表すとf(x)を別途描くことができる。積分範囲はAPからADとして、グラフの面積が力である。これを現代風に微小幅の円環半径をxとし微小幅を凅として、単位面積当たりの力をf(y),y^2=a^2+x^2として、力=2πa∫f(y)dyと表現される)
命題90系1: 力が距離の二乗に反比例する場合、力の曲線は1/y^2であり、積分範囲はPAからPH、 1/y^2の積分形は-1/yであることを使うと、力の合計∝PA・(1/PA−1/PH)=1-PA/PH=AH/PHである。
命題90系2: 力が距離のn乗に反比例する場合、力の曲線は1/y^2となり、力の合計=PA(1/PA^n-1 -1/PH^n-1)に比例する。
命題91系1: 「円柱が及ぼす重力」 AB軸にDGCEという円柱の断面を描く。円柱は一様な物質からできており距離の二乗に反比例する力を及ぼすとしたとき、軸の延長線上の質点Pに働く円柱全体の引力はAB-PE+PDに比例する。
(円柱の半径をrとし、点Fで円柱を薄い円板に分割する。PF=xとすると命題90の結果より、∫(x/√(x^2+r^2)dx=√x^2+r^2=PE-PD 、積分範囲はPAからPB  力の合計は命題90系1より力の合計はAB-(PE-PD)=AB-PE+PDに比例する。
命題91系2: 「扁平な楕円体による重力」 一様な物質からできた回転楕円体ACBGを考える。ただしこの回転楕円体はABを軸として楕円を回転させたものであり、AB方向に縮小した扁平楕円体である。この回転楕円体がAB軸上の外に位置する点Pに及ぼす引力と、ABで内接する球がPの質点に及ぼす引力の比を求めよ。
(驚嘆に値する作図法で、AB上の点Eにおいて、扁平楕円体の薄い円板を考え、質点Pとの距離をPE=x、扁平楕円体の円板の半径ED=yとする。ER=PDとするRの描く曲線の弓の面積がPDの積分となる。PD=√(x^2+y^2)、離心率をeとするとa^2/b^2=1-e^2である。大変な変数変換をして結果が求まる。その結果も複雑すぎて応用の価値が分らないのでここでは省略する)
命題91系3: 「回転楕円体内部で働く重力」 回転楕円体の内部の質点に働く力は、中心からの一直線上で比較すると、中心からの距離に比例する。
(球の場合の内部の質点に働く力は命題73で求めたが、それと同様な結果が得られることを証明する。命題70より楕円内部の点が作る2つの対応する円錐台の力は打ち消し合い、命題73より距離に比例する力が働く)


3-2) 第U編

第2編では天体ではない普通の身の回りの力が扱われる。運動する媒質による抵抗力などが話題になるが、この 和田純夫著 「プリンピキアを読む」では、第1編と同じ分量がある第2編を紹介することはできないとして、大幅に割愛し、トピックスの拾い読みとなった。
話題 1  「抵抗力と重力を受ける質点の運動」
セクション1では抵抗が速度に比例する場合、セクション2では抵抗が速度の二乗に比例する場合、セクション3ではそれらが合わさった場合、セクション4ではもし惑星が宇宙空間で抵抗を受けたらどんな運動になるのかという問題が議論される。
セクション1: 「物体の垂直落下運動」
ここに働く力とは、重力と抵抗力である。抵抗力は速度に比例し重力の反対方向に働くとすると、F=mg-kvである。例えば雨粒の落下運動を考えると、重力で加速されるが、速度が増えると抵抗力が大きくなり力がバランスする時がある。物体の合力はゼロとない、慣性の運動により一定の速度で落下するようになる。終速度v∞=mg/kとなり、力はF=k(v∞-v)と書ける。力の逆数を縦軸に、速度を横軸にしたグラフを積分すると、∫(1/F)dv=t(時間)と表せる。
命題3: 初速度ゼロから落下する物体が速度vになるまでの時間は、グラフのv=0からvまでの面積に比例する。その時までの落下速距離は∫(1/F)dv−(1/kv∞)・vに比例する。終速度においては∫(1/F)dv−1/kである。
(現代風に微分で考えると、F∝dv/dt 1/F=dt/dv すなわち1/F=dt/dvをvで積分すると時間tとなり、また落下距離をxとすると、dx/dvをvで積分すればいい。dx/dv=(dx/dt)・(dt/dv)∝v/Fだから、x=∫dx/dv=∫v/Fdv=∫1/Fdv-1/kとなる。)
セクション2: 命題5: 重力を受けずに動いている物体が速度の二乗に比例する抵抗を受けると、経過時間がα倍になるごとに速度は1/αとなり、その間の移動時間は一定である。
(微積分で表せば容易に証明できる。)
次のセクション3では速度に比例する抵抗力と速度の二乗に比例する抵抗力が共存する場合の運動が議論される。
セクション4:命題15 物体が力の中心Sからの距離の二乗に反比例する重力を受けており、また媒質の密度はSからの距離に反比例しているとき、物体の軌道は等角螺旋となる。
(等角螺旋とは、軌道上の点で接線の方向と中心への方向の角度が常に一定である螺旋を言う。宇宙空間には、天体に抵抗を及ぼす物質などは存在していないということである。惑星が太陽に向かってスパイラルにぶつかってゆくことはあり得ないからである)
話題 2 「流体の性質」
セクション5: 「流体の密度と圧縮及び流体靜力学」
命題22: 圧力と密度が比例する流体が、中心からの距離の二乗に反比例する重力によって引かれているとすると、中心からの距離の逆数が一定の値だけ減るごとに、その流体の密度は一定の割合だけ減る。
(気体の圧力と密度が比例するというのは「ボイルの法則」である。ボイルの法則が提唱されたのは1662年なので、ニュートンはこの法則を知らなかったのか、何か見当違いな議論をしている)
話題 3 「振り子」
セクション6: 「振り子」
重さとはその物体に働く重力であり、質量とは加速されにくさであって重力は関係しない。しかし2つは数値としては同じであり、重さと質量は比例関係にあるので、混同しても害はない。重力が質量に比例することをガリレオはピサの斜塔の実験で示した。しかしニュートンは自身が行った振り子の実験で質量と重力が比例することを精密に確かめた。
命題24: 真空中では、長さと振幅が決まった振り子の周期の二乗は、振り子に付けた物体の質量と重さの比に比例する。
(同じ長さの振子を同じ振幅で振らせた時の周期が、その振子に付ける物体を変えても変わらなければ、質量と重さの関係は物体に因らず一定、すなわち質量と重さは比例する。この振子では振幅を合わせているが、バネの振動のように、変異と復元力が比例しているなら振動の周期は振幅に関係ないのだが、振り子にはこの関係は厳密には成り立たない。従って振幅は同じにしておく必要がある。空気の抵抗は考えないし、実験場所の地球上の位置によって質量と重力の関係は異なってくるがこれは欧州で実験するので無視する。ここからニュートン推論の論理の厳密さを数式を使わないで堪能できる素晴らしい記述の箇所である。それはニュートンのすばらしさでもあり、著者の頭脳の明晰さからくるのであろう。長くなるが詳細に書いてゆこう。異なる物体をつけた同じ長さの2つの振り子が、同じ振幅で振れているとする。軌道も同じ、力の方向も同じなので、軌道を細かく分割して対応する部分を比較する。2つの振り子の周期が違うとしても各部分の通過時間は比例関係にあり、各部分での速度も比例関係にある。距離が等しければ、速度と時間は反比例関係にあるので、速度の比=通過時間の逆数の比=周期の逆数の比、また速度とは加速度の積算なので、速度の比=速度の変化の比なので、速度の比∝通過時間×重力/質量ここに通過時間×重力の変化は運動量の変化である。mv=F・t  速度の比∝通過時間×重力/質量=周期×重力/質量となり、周期の逆数の比=周期×重力/質量の比、すなわち質量/重力=周期の二乗の比よって(質量/重力)/周期^2=一定という定理が証明できた。この関係を数式で書くと数行で済むのだが、ニュートンは論理の積み重ねで行った。)
話題 4 「物体の形状と抵抗」(流体力学)
セクション7: 大きさを持った物体の流体中での運動」
命題34: 等しい直径を持つ球と円柱が、希薄な媒質中を運動するとき、球が受ける抵抗力は円柱が受ける抵抗の半分である。
(媒質には粘性はないとし、渦ができることもないとする。しかし抵抗力は物体の各部分において異なる。これらをすべて積分をしなければならないが、円柱と放物面の体積の比率が2:1なので命題は証明されるとニュートンは考えた。ニュートンは系の「問題」において、円錐台の抵抗を最小にする形、放物回転体の形などを検討している。
話題 5 「波動」
セクション8: 「U字管の中の水面の振動」 この振動の周期は水管に入っている水深の半分に等しい。


3-3) 第V編後半(命題18以降)

話題1: 「地球の形」 天体が完全な球体であれば、セクション12で示した重力の性質は簡単になる。実際には惑星は完全な球ではない。例えば地球の両極間の距離は赤道の直径よりも1/300 ほど短い。つまりわずかに扁平である。ニュートンの時代には地球の形は計測されていなかった。1736年モーペルチュイが極地探検で地球が扁平であることを明らかにした。地球は自転のため遠心力が働いて赤道方向へ膨らみ扁平となる。ニュートンは重力理論を用いてどの程度扁平になるのか計算した。扁平になったため場所によって重力がどの程度変化するかも検討した。
命題18: 「惑星は自転軸方向に潰された扁平な形をしている」 
命題19: 「惑星の自転軸の長さとそれに直角な方向の直径の比を求めよ」
(地球の北極Pから中心Cまでと赤道上の点Aから中心までが細い管まで連結されていると想定する。赤道の直径をAB、北極と南極を結ぶ自転軸上のPQの細管内の力を重力と重さによる圧力がバランスしているとして、次の3段階で考察を進める。@ACとPCの上に働く重力の違い、AACとPCの長さが違うことによる総質量の違い、BAC方向にのみ遠心力が働くことである。出発点として仮にAC/PC=101/100としたら重力がどれだけ違うのだろうかを考える。
「第1段階」: 長さPCを半径とする地球に内接する球S1を考え、球と扁平楕円上のPでの重力を比べる。第1編命題91系2の定理を使えば、離心率e^2=1-(PC/AC)^2=2/100 となるので、Pでの重力/内接球上S1の重力=126/125となる。
「第2段階」: 赤道上のAで外接する球体S2を考え、扁平な楕円体との重力とに比較は、S2上での重力/Aでの重力=126/125.5
「第3段階」: 命題72より相似関係にある球の重力の比は半径の比に等しい。S1上での重力/S2乗での重力=100/101 以上の3段階の結論をすべて掛け合わせると、極Pでの重力/赤道Aでの重力=(126/125)・(100/101)・(126/125.5)≒1.002(501/500)
要素@の結論:極の方が1%短い場合には、極での重力が0.2%大きいことになった。要素Aの結論:重力が違うことによる単位質量あたりの重量比=質量比×半径比=(100/101)・(501/505)=501/505≒0.992 要素Bの結論:遠心力は=速度^2/半径であるので、赤道上での重力/遠心力≒9.8:0.0337≒1:0.0034 となる。赤道上では重力は0.8%少ないのに、遠心力は0.34%しかない。つまり重力差が生じている。木星では扁平率は1/12(赤道と極方向の半径の差の、赤道方向の半径に対する比率)であった。地球が扁平なら緯度によって重力が異なり、振り子時計の進み方も違う。
命題20 地表上での緯度の違いによる重力の変化を求めよ
(地表上の各緯度での重力はその位置での、地球の中心からの距離に反比例する。楕円曲線論から緯度の角度をθとすると、離心率eはゼロに近いとして、楕円長軸半径a、球半径rとすると、(1/r-1/a)∝(sinθ)^2
話題2: 「潮汐」
ニュートンは惑星を動かしている万有引力という作用によって、潮汐という現象も説明できることを示した。3体問題第1編命題64以降の議論が出発点になる。月が地球と太陽を結ぶ線上にあるときは、力の差は月を地球から遠ざける。月が地球と太陽を結ぶ線と直角の位置にあるときは、力の差は月を地球に近づけるように働く。ここで地球から見て潮を月に見て、太陽を月に見ると、地球の月側の海水は膨らみ(満潮)、反対側の海水は干上がる(干潮)。月が及ぼす干潮力は距離の3乗に反比例し、万有引力の大きさに比例する。干潮力∝天体の質量/天体までの距離^3、月の干潮力/太陽の干潮力=(月の質量/太陽の質量)×(太陽までの距離/月までの距離)^3である。太陽と月と地球が一直線上にある時(満月または新月)、二つの潮汐力が一致し大潮となる。半月の時小潮となる。大潮/小潮=(月の潮汐力+太陽の潮汐力/月の潮汐力ー太陽の潮汐力)=9/5(観察値) すなわち月の潮汐力/太陽の潮汐力)=7/2、月の質量/地球の質量≒1:40である。)
題V編には命題は45あるが紹介しきれないので、テーマだけでも紹介する。@地球や月の自転軸の動き、A月の楕円軌道からのずれ、面積速度の変化、B月の赤道面と地球の公転軌道面の傾きの動き、その交差点の動き、C彗星の軌道計算 などである。


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