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原子力災害対策本部著
 「IAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書 (概要)」

  官邸ウエブサイトより (2011年6月 ) 

IAEAの要請による日本国政府による東電福島原発事故の報告書

IAEA
IAEAの旗

2011年3月11日の福島第一原発事故の報は、世界とくに国際原子力機関IAEAを驚愕させた。IAEAとは、国際連合傘下の自治機関であり、原子力の平和利用を促進し、軍事転用されないための保障措置の実施をする国際機関である。2005年度のノーベル平和賞を、当時の事務局長モハメド・エルバラダイとともに受賞した。設立は1957年、本部はオーストリアのウィーンにある。加盟国は144ヶ国である。天野IAEA事務局長の提案により「原子力安全に関するIAEA閣僚会議」の開催が呼びかけられた。天野事務局長は次の事を議論したいといった。 @原発事故の予備的な評価をおこなう  A原発事故を踏まえ、緊急事態の係る準備及び対応の評価 B国際的な原子力安全の枠組みの見直しを行なう分野を特定する C教訓及び今後の行動について である。この提案に基づいて2011年6月20日から24日までウイーンにおいて30カ国の閣僚と1000名以上の代表団が参集した。日本からは海江田経産大臣、山花外務大臣政務官、中村安全・保安院審議官ら7名が出席した。会議第1日目の午前に海江田経産大臣が本報告書に基づいて、事故の経過と対応、プラントの状況、教訓について説明した。2日目の非公開作業セッションで山花外務大臣政務官が挨拶し、「福島原発事故の関する暫定的な専門家の評価」を議論し、3日目の同作業セッションでは「緊急事態に係る準備および対応」を議論し、4日目は「世界の原子力安全枠組みの強化」について議論した。こうして参加国は、原子力安全の強化の必要性、IAEAの終身的役割については一致したが、原子力安全関連条約の改正、安全基準の義務化、すべての既設原子炉のストレステストやIAEA安全評価によるチェックの義務化といった論点については意見が分かれたという。つまり「総論賛成、各論反対」という各国の態度であり、2011年9月のIAEA理事会と総会に事務局長の報告と行動計画が提出される予定となった。この6月のIAEA閣僚会議に要請された日本の事故報告画本報告書であるが、したがって本書は事故後2ヶ月半ほどの調査検証結果であり、原子力災害対策本部が作成した。作成作業は内閣総理大臣の命を受けた細野豪志内閣総理大臣補佐官が統括した。

本報告書の本文は約310ページからなるので、今回は概要版(40ページ)を読んだ。その内容を目次に従って示すと、1)はじめに 2)事故前の我国の原子力安全規制等の仕組み 3)東北地方太平洋沖地震とそれによる津波の被害 4)フィ串間原子力発電所等の事故の発生と進展 5)原子力災害への対応 6)報謝背物質の環境への放出 7)放射線被曝の状況 8)国際社会との協力 9)事故に関するコミュニケーション 10)今後の事故収束への取り組み 11)その他の原子力発電所における対応 12)現在までに得られた事故の教訓 13)むすび からなる。 個々の内容のまとめ方に別の報告書には無い簡潔さがあるが、検証期間も短いので表面的に流れており、取り立てて話題にするほどの事は無い。そこで本書の一番の核となる12)現在までに得られた事故の教訓 だけを取り上げて検討する。まず冒頭に「我が国はこの事故が世界の原子力発電の安全性に懸念をもたらす結果になった事を重く受け止め反省している。何よりもこの事故によって放射性物質の放出について不安を与える結果になったことを心からお詫びする」という世界に対する反省とお詫びの文で始まっている。また「今回の事故は原子力安全に対する国民の信頼を揺るがし、原子力関係者の安全にたいする過信を戒めるものになった。原子力安全確保の基本原則は深層防護である事を念頭に、次に5つのグループに分けた教訓を示す。この教訓を踏まえた我が国における原子力安全対策は、根本的な見直しが不可欠である事を認識している」というが、この反省と認識が本物である事を願う。

2012年12月に政権が変わると、「そんな約束は知らない、見直しは適当に再稼働が緊急課題だ」ということにはならない事を見守りたい。そうでないと日本政府は反省のない約束を守らないという評判が定着することになり、ますます国際的信頼をなくするのである。教訓を読むと分かるが、政府官僚のいう対策とはあまりに表面的(パッチワーク的)で姑息であり、即時対応可能な事項を原因として、それをなくする対策をするというオーム反しにすぎず、かつこの時点ではやむをえないとしても本質的・具体的提案になっていない。官僚の模範解答(作文)とはこの程度の事なのか。東電に任せばいいような、実に些細な設備的指摘をして満足しているのか、事故の本質を忘れている。今回の事故ではっきりしたことは、政府官僚が作文した防災法規や体制、マニュアルがすべて機能しなかったことである。これも想定外の事故のためといってしまえば、もう今後の対策は存在しないことになる。事故による混乱は当たり前ではあるが、あまりにもお粗末な作文仕事をしてきた政府官僚の体制(サプライヤー利益の重視、国民安全の無視)を根本的に改革しない限り「人災」は未来永遠に続くことになる。これまでの原子力規制官庁(保安院と原子力安全委員会)は事業者の虜となって(国会事故調の表現による)、事業者の言いなりに規制を緩和してきた。これは小泉改革時に保安院を原発推進役の経産省に組み入れたことが原因である。規制官庁は小泉流にいうと「事業者の味方なのか敵なのか」といえば、まさに「鵺的存在」であった。その政府官僚が本当に教訓と感じているのか、単に宿題のお題目をならべているのか、読んでいて実に空しい空文である。本報告書の「結び」に「原子力安全基盤の研究強化」と「原発の安全確保を含めた現実のコストを明らかにして、原発のあり方について国民的議論を行なってゆく」と書かれている。これまでの表から裏からの政府補助をなくしたら、とても民間事業者ではやってゆけないほどの発電コストになるなら、経済原則からして民間事業者は原発から手を引くであろう。まして原発事故の損害賠償も事業体の責任であるからこれもコストに入れると、保険会社は誰も担保しなくて手を引くであろう。それでも国有化して税金でリスクを負担してでも原発を運転するのか、脱原発(廃原発、卒原発)の方向へ向かうのかは国民が選択することである。

現在までに得られた事故の教訓

第1の教訓のグループ: シビアアクシデント防止策の強化
1) 地震・津波への対策の強化

今回に地震は複数信言の連動による極めて長時間の大規模地震であった。そのため福島第1がbb発の原子炉建屋基礎基盤上で観測された地振動の加速度スペクトルが設計の基準振動の加速度スペクトルを一部周期で超えた。外部電源はすべて切断された。地震による原子炉の重要機器施設については外観上大きな損傷は確認されていないが、詳細な状況は不明であり調査が必要である。(国会事故調報告書に比べて、この表現は慎重であるである。地震による大きな損傷はなかったとするが、小さな損傷を否定していないので、配管や弁のわずかな漏れから冷却水が漏れていたとすれば長時間では冷却水がなくなることも否定はしていない。とにかく何十年先になるかは分からないが、原子炉を解体して徹底的な状況調査をまたなければならない) 津波については設計上の想定高さを超える14―15mの規模であった。これによって非常用ディーゼル発電機を失い全交流電源喪失により原子炉冷却機能の確保が出来なくなった。また海水余熱冷却ポンプも水没して使用不可能となった。消火系を使った冷却の対応しか残されていなかった。津波に対しては達成すべき安全目標との関係で、適切な再来周期を考慮する取り組みとはなっていなかった。

教訓: 地震・津波への対策の強化
地震に対しては複数信言の連動の取り扱いを考慮するとともに、外部電源の耐震性を強化する。津波に対してはシビアアクシデントを防止する観点から、津波の発生頻度と十分な高さを想定する。この十分な高さを超える津波の侵入に対しては敷地への浸水影響を防止する構造物の安全設計を津波の破壊力を考慮に入れて行なう。冠水に対してはポンプや配電盤など機器の水封性を高める。

2) 電源の確保

今回の原子炉事故は必要な電源が確保されなかったため原子炉冷却機能喪失となったことによる。電源の多様性が図られていなかったこと、配電盤などの設備が冠水にたえられなかったことが原因である。また電池の寿命が交流電源回復までもたなかったこと、複合災害による作業困難から外部電源の回復に要する時間の目標が立たなかったことである。

教訓: 電源の確保
空冷ディーゼル発電機、ガスタービン発電機など多様な非常用電源の整備、電源車の配備などによって電源の多様性を図る。環境耐性の高い配電盤や電池の重電要発電機などにより長時間にわたって現場で電源を確保出来る様にする。

3) 原子炉及び格納容器の確実な冷却機能の確保

海水ポンプの機能喪失によって、最終の熱の逃がし場であるヒートシンクを失った。注水による原子炉冷却機能が作動したが、水源の枯渇と電源喪失によって炉心損傷に至った。格納容器のサプレッションチャンバーを使った原子炉の減圧と注水の繰り返しにおいても、アクシデントマネジメントとして消防車の注水を考えてこなかったため作業は困難を極め、こうして原子炉および格納容器の冷却機能が失われた。

教訓: 原子炉及び格納容器の確実な冷却機能の確保
代替注水機能の多様化、注水水源の確保と多様化や容量の増大、原子炉空気冷却方式の導入など、長期にわたる最終ヒートシンクの確保をおこなう。

4) 使用済み燃料プールの確実な冷却機能の確保

今回の事故で使用済み燃料プールの冷却ができなかったことが重大な問題となった。これまで代替注水を全く考えてこなかったが、今後使用済み燃料プールの冷却もシビアアクシデント防止対策に盛り込まなけれがならない。

教訓: 使用済み燃料プールの確実な冷却機能の確保
電源喪失時においても使用済み燃料プールの冷却を維持できるように、自然循環冷却方式または空気冷却方式の代替冷却機能を導入する。

5) アクシデントマネジメントAM対策の徹底

電源や原子炉冷却機能の確保の失敗など様々な対応において、アクシデントマネジメントは不十分であった。またアクシデントマネジメントは事業者の自主的取り組みとされ、法規制上の要求とされなかった。安全委員会のシビアアクシデント対策指針は1992年以来見直されることはなかったので、AM対策は充実強化が図られることはなかった。

教訓: アクシデントマネジメント対策の徹底
事業者による自主的取り組みを改め、これを法規上の要求とするとともに、確率論的手法も活用しつつ設計要求事項の見直しを行なう。

6) 複数炉立地における課題への対応

複数炉が共通外部事象によって同時に事故が発生する事態となり、人的・資源的に対応が困難を極めた。また近接する2つの炉で設備を共有したり、配管が合流したりいており、一つの炉の事故が他の炉にも影響を与えた。(私見:合理化と設備費節減のため、近接する原子炉での設備共用が常識化していた。また原子炉の密集が一つの建屋の水素爆発で隣の建屋の壁を破壊するなど一般防災の視点からも良好な配置ではなかった。そもそも狭い敷地での多数の原子炉が密集しすぎている状況は、いかにも日本的で安易な立地計画と言わざるをえない。)

教訓: 複数炉立地における課題への対応
原子炉の工学的独立性を確実にし、互いに事故対応が影響しあわないようにする。あわせて炉基ごとに安全確保の責任者を選任し、独立した事故対応が行なえる体制の整備を進める。

7) 原子炉発電施設の配置などの基本的設計上の考慮

使用済み燃料プールが原子炉建屋の高いところにあったため消防車による散水冷却作業に困難が生じた。また原子炉建屋の汚染水がタービン室に流れ込んだ。

教訓: 原子炉発電施設の配置などの基本的設計上の考慮
原子力発電施設の配置などの基本設計においては、シビアアクシデントを予想して冷却を確実に行なえるため、施設や建屋の適切な配置を進め、既存の施設については同等の機能を有するよう追加的な対策を講じる。

8) 重要機器施設の水封性の確保

今回の事故を深刻にしたのは、補機冷却用海水ポンプ、非常用ディーゼル発電機、配電盤などの重要機器施設が津波で冠水し、冷却機能が失われたためである。

教訓: 重要機器施設の水封性の確保
津波た洪水の破壊力を踏まえた水密扉の設置、配管など浸水経路の遮断、排水ポンプの設置などにより、重要機器施設の水密性を確保する。

第2の教訓のグループ: シビアアクシデントへの対応策の強化
9) 水素爆発防止対策の強化

連続して原子炉建屋の水素爆発が発生した。格納容器には不活性化するため窒素ガスを注入し可燃性ガス濃度制御系を持っているが、炉の圧力容器内で派生した水素ガスを、圧力容器の減圧のためサプレッションチャンバーに導き、何らかの損傷により格納容器から原子炉建屋に水素ガスが漏れる事を全く想定していなかった。したがって原子炉建屋の水素対策(高放射線量被曝対策も)はとられていなかった。(私見:ありえない事態の可能性はゼロに近いので、長時間の電源喪失というシビアアクシデントは考慮する必要は無いとした1992年の安全委員会の指針は、事業者に配慮して対策コストをかけたくないという、規制当局でありながら安全神話に毒され傲慢であったといえる。この国の良識は腐っている。) 

教訓: 水素爆発防止対策の強化
格納容器における水素対策に加えて、シビアクシデント時の原子炉建屋での可燃性ガス濃度制御、水素ガスを外に逃がすための設備など、水素爆発防止対策を強化する。

10) 格納容器ベントシステムの強化

シビアアクシデント発生時の格納容器ベントシステムの操作性に問題があった。(国会事故調によると、ベント操作の取り扱いマニュアルもなく、図面関係も不備で、かつ一度も訓練したことはなかったという) またベントライン系の独立性が十分でなかったため(配管が合流する場所があった)水素ガスが他の原子炉建屋に漏れた可能性があった。そしてベントにより減圧を行なったとしても排ガスの処理機能も付帯していなかったので環境への放射線汚染に繋がった。

教訓: 格納容器ベントシステムの強化
格納容器のベントシステムの操作性の向上や独立性の確保、放射性物質除去機能の強化などにより、格納容器ベントシステムを強化する。

11) 事故対応環境の強化

事故対応時に中央制御室は放射線量が高くなり運転員さえ入れないような状況で、今でも長時間の作業は困難である。また緊急時の原子力発電所緊急時対策所も放射線量の上昇、通信環境や照明の悪化によって事故対応活動に大きな支障をきたした。

教訓: 事故対応環境の強化
中央制御室、緊急時対策所の放射線遮蔽の強化、現場の専用換気装置、交流電源に拠らない通信、照明などを強化し、継続的な事故対応活動を確保できる環境を整備する。

12) 事故時の放射線被曝の管理体制の強化

事故発生初期に、津波により個人線量計や線量読み取り装置が失われ、放射線業務従事者が現場作業に従事した。

教訓: 事故時の放射線被曝の管理体制の強化
事故時に大量の個人線量計と被曝防護用資材(注:被曝防護用資材は存在しないが、ここでは防塵服やマスクのこと)を備えておくこと、また事故時に放射線管理要員を拡充できる体制とする。

13) シビアアクシデント対応の訓練の強化

シビアアクシデントに対応する関係機関との適格な連携を実現する実効的な訓練がこれまで十分に行なわれていなかった。例えば、現場緊急時対策所と原子力現地災害本部、原子力災害対策本部、自衛隊、警察、消防との連携体制の確立に手間取った。

教訓: シビアアクシデント対応の訓練の強化
シビアアクシデント発生時に、事故対応のため発電所内外の状況把握、住民の安全確保などを行なう人材の緊急参集や関係機関の連携を図る訓練を強化する。

14) 原子炉及び格納容器などの計装系の強化

原子炉圧力容器と格納容器の状態パラメータ−(圧力、温度、水位、放射線量など)を知る計測系がシビアアクシデントのもとで十分に働かず、事故対応操作に必要な情報を迅速に得ることが出来なかったことが事故対応を困難にした。(注:シビアアクシデント発生時に十分機能する計装系を強化するということが回答になっているのか?計装系を別のバックアップ直流電源とするとか、センサーの耐熱耐震強度を上げるということなのか)

教訓: 原子炉及び格納容器などの計装系の強化
シビアアクシデント発生時に十分機能する計装系を強化する。

15) 緊急対応用機材の集中管理とレスキュー部隊の整備

現在は事故や被災対応の関係者、諸機材を結集し後方支援をおこなう「Jヴィレッジ」が対応しているが、事故当初は緊急資材やレスキュー部隊の動員は地震・津波のために道路事情のため困難を極め、現場要求に応じられなかった。

教訓: 緊急対応用機材の集中管理とレスキュー部隊の整備
過酷な環境下でも緊急時対応の支援ができるよう、緩急応用資機材の集中管理やこれを運用するレスキュー隊の整備を進める。

第3の教訓のグループ: 原子炉災害への対応(支援システム)の強化
16) 大規模な自然災害と原子力事故との複合自体への対応

自然災害と原子力災害の複合災害が発生したため、組織の立ち上げ、人の動員、物資の運搬、住民避難行動の面で困難が生じた。

教訓: 大規模な自然災害と原子力事故との複合自体への対応
複合災害に応じた適切な通信手段の確保、円滑な物資調達方法を確保できる体制・環境を整備する。また事故が長期化する事態を想定して実効的な動員計画の策定を強化する。

17) 環境モニタリングの強化

現在緊急時の環境モニタリングは地方自治体の役割となっているが、地方自治体のモニタリング機器が地震・津波で損害を受け、かつ緊急事態対応拠点が避難せざるを得なかった。したがって適切な環境モニタリングが出来なかった。

教訓: 環境モニタリングの強化
緊急時には、国が責任を持って環境モニタリングを確実にかつ計画的に実施する体制を構築する。

18) 中央と現地の関係機関などの役割の明確化

これまでの原発防災規則では、中央と現地の関係機関の分担や責任関係がかならずしも明確でなく、また情報通信手段の確保が出来なかったために混乱した。原子力関係者つまり、東電、原災対策本部、原災現地対策本部、政府関係機関、東電内部においても本店と現場の、責任と権限の体制が不明確であった。

教訓: 中央と現地の関係機関などの役割の明確化
原子力災害対策本部を始めとする関係諸機関の責任関係や役割分担、情報連絡の責任と役割の見直しと明確化を進める。

19) 事故に関するコミュニケーションの強化

周辺住民に対する情報提供については、事故当初通信手段の被害によって困難が伴った。住民に対して避難の根拠となる国際放射線防護委員会ICRPの考え方の分かりやすい説明に失敗した。国民への情報公表という点でもわかっていることとリスクの見通しまでは区別して示したとはいえない。かえって今後のリスクの見通しに住民の不安を招いた。

教訓: 事故に関するコミュニケーションの強化
事故の状況や対応などに対する適格な情報提供と放射線影響に対する適切な説明などの取り組みを強化する。事故が進行しているなかでの今後のリスクの見通しを示す事を反省点とする。

20) 各国からの支援などへの対応や国際社会への情報提供の強化

海外各国からの資機材などの支援の申し出に対して、政府内での体制が整わず十分な対応ができなかった。また低レベル放射線汚染水の放流について近隣国への次善の連絡がなされなかったことなど国際社会への情報提供が不十分であった。

教訓: 各国からの支援などへの対応や国際社会への情報提供の強化
事故対応に必要な在庫リストをあらかじめ国際協力により作成しておく。また国際通報制度の改善により情報共有の体制を強化する。

21) 放射性物質放出の影響の適格な把握・予測

緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステムSPEEDIは、事故時の放出源情報を得ることが出来なかったため機能を発揮できなかった。仮の放出源情報で放射能の拡散方向や傾向を推測した結果は活用されなかった。かつ避難当初に公表されずかえって放射線濃度の高い地域へ避難移動する結果となった住民もいた。

教訓: 放射性物質放出の影響の適格な把握・予測
放出源情報が確実に得られる計測設備を強化し、SPEEDIの活用を図る計画を立て、こうした予測結果は当初から公開する。

22) 原子力災害時の広域避難や放射性防護基準の明確化

事故直後の周辺住民の避難誘導や実施については、地方自治体や警察などの関係者の協力により、迅速かつ確実に行なわれた。その後避難が長期化するに伴い、計画的避難区域・緊急時避難準備区域を設定するに当たっては、急遽ICRPやIAEAの指針を援用した。こうして防護対策をこうじる区域は10Kmを大幅に上回った。

教訓: 原子力災害時の広域避難や放射性防護基準の明確化
原子力災害時の広域避難の範囲や放射線防護基準の指針を明確化する取り組みを強化する。

第4の教訓のグループ: 安全確保の基盤の強化
23) 安全規制行政体制の強化

経済産業省原子力安全・保安院による安全規制・監督、内閣府安全委員会による保安院への助言・監視、地方自治体と文部省における放射線モニターの実施など、原子力安全規制組織が分かれていることにより、国民に対する安全確保に第一義的責任を負うものの所在が不明確であった。たとえば環境モニタリングデーターの責任が3つの地方と中央の機関で分散することになった。

教訓: 安全確保の基盤の強化
原子力安全保安院を経済産業省から独立させ、原子力安全委員会や各省の原子力安全規制行政屋環境モニタリングの実施体制の見直しに着手する。

24) 法体系や基準・指針類の整備・強化

今回の事故により、原子力安全や原子力防災の法体系や基準、指針類の整備について様々な課題が出ている。IAEAの指針・基準に反映するべきことも多くでると見込まれる。

教訓: 法体系や基準・指針類の整備・強化
原子力安全や原子力防災の法体系や基準、指針類の整備を進める。既存施設の高経年対策についても再評価する。さらに許認可済みの施設に対する新法令に基づく要求即ちバックフィットの法規制上の位置づけを明確にする。これらのデーターをIAEAの基準・指針の強化に反映させて貢献する。

25) 原子力安全や原子力防災に係る人材の確保

中長期的な原子力安全の取り組みを確実にするため、原子力安全や防災に係る人材の育成が重要である。

教訓: 原子力安全や原子力防災に係る人材の確保
教育機関における原子力安全分野の人材育成に加えて、原子力事業者や規制機関などにおける人材育成活動を強化する。

26) 安全系の独立性と多様性の確保

安全系の信頼性の確保については、これまで多重性は追及されてきたが、共通事象による故障を避けることが出来なかった。独立性や多様性の確保が十分でなかった。

教訓: 安全系の独立性と多様性の確保
共通原因故障への適格な対応戸安全機能の一層の信頼性向上のため、安全系の独立性や多様性の確保を強化する。

27) リスク管理における確率論的安全評価手法PSAの効果的利用

原発施設のリスク低減の取り組みを体系化する上で、これまでPSAが効果的に活用されてこなかった。PSAにより大規模津波を定量的に予測することは困難であるが、リスクを明示することで施設の安全性を向上させる努力を怠った。

教訓: リスク管理における確率論的安全評価手法PSAの効果的利用
不確かさに関する知見を踏まえ、PSAを積極的かつ迅速に活用し、それに基づく効果的なAM対策を図る。

第5の教訓のグループ: 安全文化の徹底
28) 安全文化の徹底

IAEAの「原子力安全文化」とは「原子力の安全問題に、その重要性にふさわしい注意が必ず最優先で払われるようにするため、組織と個人が備えるべき統合された認識た態度である」とされている。我が国の原子力事業者は安全確保の第一義的責任を負うものとして、公衆の安全に係るリスクが十分低く維持されきたか、真摯に安全性向上に努力してきたか反省しなければならない。同様に原子力規制に係る官庁は、国民の原子力安全の確保に責任を有するものとして、僅かの疑念もゆるがせにせず、新しい知見に対して敏感に対応してきたか反省しなければならない。

  
教訓: 安全文化の徹底
原子力安全の確保には深層防護の追及が不可欠であるという原点に立ち返り(注:国会事故調によると、IAEAは5段階の深層防護をといているが、日本は3段の防護しかなかったという) 原子力安全に係るものが絶えず安全専門知識の学習を怠らず、安全性向上の余地は無いかどうかの吟味を重ねる姿勢を持って、安全文化の徹底に取り組む。

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