枇杷都熟雨聲餘 枇杷都て熟す 雨聲の餘
竹院深泥懶出廬 竹院深泥 廬を出るに懶し
日午蕭森無客到 日午蕭森として 客の到るなく
繙書老骨欲何如 書を繙いて老骨 何如せんと欲す
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迎夏石榴紅満枝 迎夏石榴 紅は枝に満ち
依雲静降雨如絲 雲依り静に降る 雨は絲の如し
青蛾馳遂夢千里 青蛾馳遂して 夢千里
丹瞼我存天一涯 丹瞼我存す 天の一涯
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蔦覆窓昏緑正肥 蔦覆って窓昏く 緑正に肥え
難開室湿捲簾幃 開き難く室湿い 簾幃を捲く
如晶熾日侵吟榻 晶の如き熾日 吟榻を侵し
帯熱炎風透白衣 熱を帯びた炎風 白衣を透る
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連日梅霖水満田 連日梅霖 水は田に満ち
長江湛湛路迢迢 長江湛湛と 路迢迢たり
樹帯滴翠泥猶湿 樹は滴翠を帯び 泥猶を湿え
客舎寂寥魂欲消 客舎寂寥 魂消えんと欲す
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晴日吹風拾翠遊 晴日風に吹れて 拾翠の遊び
玉波蕩漾迹悠悠 玉波蕩漾 迹悠悠たり
帆船霞湖荷花浦 帆船の霞湖 荷花の浦
水郷潮来杜若州 水郷潮来 杜若の州
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黄梅六月雨餘天 黄梅六月 雨餘の天
如泣青峰映碧川 泣く如く青峰 碧川に映ず
西隴揺風無麦浪 西隴風に揺らぐ 麦浪無く
東池満水有荷銭 東池水を満して 荷銭有り
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江北山園緑一村 江北山園 緑一村
南風五雨竹生孫 南風五雨 竹は孫を生ず
槐陰声遠鳩鳴午 槐陰声遠く 鳩午に鳴き
茅屋籬前犬吠昏 茅屋籬前に 犬昏に吠える
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樹暗清陰翠滴衣 樹暗清陰 翠衣に滴り
故園洗目白薔薇 故園目を洗ふ 白い薔薇
田頭槐夏新秧長 田頭槐夏 新秧長じ
野望麦秋双燕飛 野望すれば麦秋 双燕飛ぶ
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偕楽園林冒雨尋 偕楽園林 雨を冒して尋ね
千波湖畔悩吟心 千波湖畔 吟心を悩ます
棘茨六月黄梅熟 棘茨六月 黄梅熟し
雲霧冥冥碧蘚深 雲霧冥冥 碧蘚深し
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寂寂新林蒼翠堆 寂寂たる新林 蒼翠堆く
疎疎宿雨熟黄梅 疎疎たる宿雨 黄梅熟す
対山細滴連雲起 山に対し細滴 雲に連りて起こり
隔水荷花払霧開 水を隔てて荷花 霧を払って開く
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溟濛小雨水生紋 溟濛小雨 水紋を生じ
白露幽香草欲薫 白露幽香 草薫ぜんと欲す
日落故園終漠漠 日落故園 終に漠漠
吟翁破屋酔醺醺 吟翁破屋 酔て醺醺
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連陰漠漠燕飛低 連陰漠漠 燕飛低し
荷影池蛙喚雨啼 荷影池蛙 雨を喚んで啼く
雲霧難開常懶出 雲霧開き難く 常に出るに懶く
飽書獨坐酒誰携 書に飽き獨坐 誰か酒を携ふ
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寂寂桐陰滴翠余 寂寂たる桐陰 滴翠の余
疎疎霧雨入梅初 疎疎たる霧雨 入梅の初め
魚欣湛湛江湖潤 魚欣び湛湛と 江湖潤い
両岸斉斉楊柳徐 両岸斉斉と 楊柳徐ぶ
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双燕梅霖臨水低 双燕梅霖に 水に臨んで低く
蒼林鬱鬱夢魂迷 蒼林鬱鬱として 夢魂迷う
帰思難歇疎疎雨 帰思歇み難く 疎疎の雨
涕涙未乾寒色凄 涕涙未だ乾かず 寒色凄なり
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六月故園冥霧中 六月故園 冥霧の中
黄梅欲落雨濛濛 黄梅落んと欲し 雨濛濛たり
柴門翠覆猶深閉 柴門翠覆って 猶を深く閉じ
南向桐陰只僅通 南向の桐陰 只僅に通ず
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遊魂自叫捲簾聴 遊魂自ら叫び 簾を捲いて聴く
紅落幽篁杜若汀 紅落ち幽篁 杜若の汀
回首西天残月白 首を回せば西天に 残月白く
筑峯渺渺暮煙青 筑峯渺渺と 暮煙青し
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南北東西江水平 南北東西 江水平に
玉波蕩漾午風軽 玉波蕩漾 午風軽し
無窮草樹映簾翠 無窮の草樹 簾に映じて翠に
木漏日光当欄明 木漏れ日の光 欄に当りて明なり
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晴色奇雲首夏天 晴色奇雲 首夏の天
江村水漲碧田田 江村水漲って 碧田田
西山赫赫支斜日 西山赫赫 斜日を支え
高閣黄昏曳暮煙 高閣黄昏 暮煙を曳く
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釣艇無風任所之 釣艇風無く 之く所に任し
櫂聲裕裕緑垂絲 櫂聲裕裕 緑絲を垂る
晴江潮動水窮處 晴江潮動 水窮る處
天色依峯雲起時 天色峯に依りて 雲起る時
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遊行池亭碧水隈 池亭に遊行す 碧水の隈
薫風帯雨送香来 薫風雨を帯び 香を送って来る
濶ィ泛渚蛙聲息 濶ィ渚に泛んで 蛙聲息み
楊柳垂絲草色開 楊柳絲を垂れ 草色開く
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枕樽酔臥睡難成 樽を枕に酔臥すも 睡成り難く
寂寂残燈夜幾更 残燈寂寂と 夜幾更
闇色凄凄人未起 闇色凄凄と 人未だ起きず
雲流皚皚月猶横 雲流れ皚皚と 月猶ほ横たわる
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吐血悲風悩殺人 悲風に血を吐き 人をして悩殺せしめ
酒醒遊子轉傷~ 酒醒め遊子 轉た傷~たり
江樓野望樹将夏 江樓より野望すれば 樹将に夏ならんとし
眼下悠悠水尚春 眼下に悠悠 水尚ほ春なり
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濃緑陰中杜宇飛 濃緑陰中 杜宇飛び
深山幽谷鎖残暉 深山幽谷 残暉を鎖す
丹赤落日依峯盡 丹赤の落日 峯に依りて盡き
香閣疎鐘隔澗微 香閣の疎鐘 澗を隔てて微なり
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子規飛過卯花籬 子規飛び過る 卯花の籬
滴血聲聲報我知 血を滴し聲聲 我に報じて知しむ
紅少残花空有夢 紅少く残花 空しく夢有り
緑多幽趣竟無期 緑多く幽趣 竟に期無し
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荷風六月泛舟遊 荷風六月 舟を泛べて遊び
東岸槐陰映碧流 東岸の槐陰 碧流に映ず
麦熟青空雲漠獏 麦熟し青空に 雲は漠獏
梅黄欲落水悠悠 梅黄に落んと欲し 水は悠悠
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春過橋上望江南 春過ぎ橋上より 江南を望めば
暖日薫風新緑酣 暖日薫風に 新緑酣なり
樹影草深迷暗逕 樹影は草深く 暗逕に迷い
窺魚白鷺漾晴潭 魚を窺う白鷺は 晴潭に漾ふ
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黄梅六月麦秋天 黄梅の六月 麦秋の天
夕照深紅榴火燃 夕照深紅に 榴火燃ゆ
陽落水郷霞浦月 陽水郷に落ちて 霞浦の月
昏昏常陸筑峰烟 昏昏たり常陸 筑峰の烟
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十風五雨水迢迢 十風五雨 水は迢迢と
執楫無翁遊艇漂 楫を執る翁無く 遊艇漂ふ
槐夏翠山煙一色 槐夏に翠山 煙一色
麦秋紅落柳千条 麦秋紅落ち 柳は千条
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江潭首夏白薔薇 江潭の首夏 白い薔薇
幽草深深翠滴衣 幽草は深深と 翠は衣に滴たる
雨後土龍穿地迸 雨後土龍は 地を穿って迸り
窓前双燕椋簷飛 窓前の双燕は 簷を掠めて飛ぶ
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傷春蝶舞紫花痕 春を傷んで蝶は 紫花の痕を舞い
百畝苗肥緑一村 百畝苗肥え 一村緑なり
水殿田頭泥滑滑 水殿田頭 泥は滑滑
蛙聲閣閣雨昏昏 蛙聲は閣閣 雨は昏昏
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