江東五月麦秋城 江東五月 麦秋の城
晴午傷春戴酒行 晴午春を傷んで 酒を戴せて行く
幾日残花蝴蝶恨 幾の日か残花 蝴蝶は恨み
沙羅初夏杜鵑聲 沙羅の初夏 杜鵑の聲
○○●●●○◎
○●○○●●◎
●●○○○●●
○○○●●○◎
天色陰雲噪乳鴉 天色陰雲 乳鴉噪ぎ
苗田水漲只鳴蛙 苗田に水漲り 只鳴蛙
長江空漠黄梅雨 長江空漠たり 黄梅の雨
芍薬深紅怨落花 芍薬深紅 落花を怨む
○●○○●●◎
○○●●●○◎
○○○●○○●
●●○○●●◎
風後夏来啼郭公 風後夏来り 郭公啼き
雨餘春去落花紅 雨餘春去り 落花紅なり
興亡遷易豈非幻 興亡と遷易 豈に幻に非ずや
煩悩人生都是空 人生に煩悩するは 都て是れ空し
○●●○○●◎
●○○●●○◎
○○●●●○●
○●○○○●◎
極目蕭條緑正肥 極目蕭條 緑正に肥え
一簾細雨落英菲 一簾細雨 落英菲なり
残紅愁態春陰重 残紅愁態 春陰重く
恨満枝枝晩照微 恨枝枝に満ち 晩照微なり
●●○○●●◎
●○●●●○◎
●○○●○○●
●●○○●●◎
残春日落暮愁生 残春日落ちて 暮愁生じ
風急簷簾夜雨聲 風は簷簾に急に 夜雨の聲
憐色魂消常惹恨 色を憐んで魂消えて 常に恨を惹き
紅花散尽竟無情 紅花散り尽して 竟に無情
○○●●●○◎
○●○○●●◎
○●○○○●●
○○●●●○◎
傷春惆恨惜花愁 春を傷んで惆恨 惜花の愁
濡潤青梅宿雨収 青梅を濡潤して 宿雨収まる
深院唯残紅薬老 深院に唯だ残る 紅薬老い
沙羅誇勢緑新流 沙羅は勢いを誇りて 緑新たに流る
○○○●●○◎
●●○○●●◎
○●○○○●●
○○○●●○◎
西岸帰棲見暮鴉 西岸棲に帰る 暮鴉を見
麦秋靄靄望煙霞 麦秋靄靄 煙霞を望む
江城緑樹春将盡 江城緑樹 春将に盡んとし
落莫紅陽郭外斜 落莫と紅陽は 郭外に斜めなり
○●○○●●◎
●○●●●○◎
○○●●○○●
●●○○●●◎
春色狂人夢魂迷 春色人を狂わせ 夢魂迷い
中宵凭几重凄凄 中宵几に凭って 重ねて凄凄
曲窓寂寂残燈暗 曲窓寂寂と 残燈暗く
夜景沈沈片月低 夜景沈沈として 片月低し
○●○○●●◎
○○○●●○◎
●○●●○○●
●●○○●●◎
江邊啼鳥飽春風 江邊の啼鳥 春風に飽き
満樹緑深紅欲空 満樹緑深くして 紅空しからんと欲す
暗暗陰雲低大地 暗暗たる陰雲 大地に低れ
濛濛柔雨打残花 濛濛たる柔雨 残花を打つ
○○○●●○◎
●●●○○●◎
●●○○○●●
○○○●●○◎
江畔青田早苗肥 江畔の青田に 早苗肥え
横塘水漲燕雙飛 横塘水漲って 燕雙飛す
牽愁聲嗄鶯将老 愁を牽く聲嗄れて 鶯将に老いんとし
結宿花衰蝶已稀 宿を結ぶ花衰えて 蝶已に稀なり
○●○○●●◎
○○●●●○◎
○○○●○○●
●●○○●●◎
積翠愈深樹影横 積翠愈々深く 樹影横たわり
小園飛乱落花争 小園飛び乱れて 落花争う
褪紅老薬将無色 褪紅の老薬 将に色無からんとし
蝶舞傷春似有情 蝶舞い春を傷んで 情有るに似たり
●●○○●●◎
●○○●●○◎
●○●●○○●
●●○○●●◎
午刻薫風花底遊 午刻薫風 花底に遊び
城門朱染夕陽収 城門朱に染め 夕陽収まる
紅燈酒坊客常少 紅燈の酒坊 客常に少く
朧月照枝鶯尚愁 朧月枝を照して 鶯尚を愁う
●●○○○●◎
○○○●●○◎
○○●●●○●
○●●○○●◎
緑水疎籬江草斉 緑水疎籬に 江草斉い
残春寂寂鳥慵啼 残春寂寂 鳥啼くに慵し
白雲麦隴碧千畳 白雲麦隴 碧千畳
深院海棠紅半渓 深院の海棠 紅半渓
●●○○○●◎
○○●●●○◎
●○●●●○●
○●●○○●◎
五月黄昏曳暮霞 五月黄昏 暮霞を曳き
傷春芍薬断腸花 春を傷む芍薬 断腸の花
漱流避地塵心息 流れに漱ぎ地を避け 塵心息み
枕石耕雲道意加 石に枕し雲を耕し 道意加わる
●●○○●●◎
○○●●●○◎
●○●●○○●
○●○○●●◎
何情和雨妬花風 何の情ぞ雨に和し 花を妬む風
春尽新泥遂落紅 春尽きて新泥に 落花を遂う
為惜薫憂詩有債 為に薫憂を惜んで 詩に債有り
誰知惆恨酒無功 誰か惆恨を知らん 酒功無し
○○○●●○◎
○●○○●●◎
●●○○○●●
○○●●●○◎
江村簷燕遂風飛 江村簷燕は 風を遂って飛び
野蕨夭夭着雨肥 野蕨夭夭と 雨を着けて肥る
幾日残花紅半堕 幾れの日か残花 紅半ば堕ち
青梅細草碧相依 青梅と細草 碧相い依る
○○○●●○◎
●●○○○●◎
●●○○○●●
○○●●●○◎
尋芳酔月暮春天 芳を尋ね月に酔う 暮春の天
獨占香風花下眠 獨り香風を占めて 花下に眠る
戯蝶翩翩来酒盞 戯蝶は翩翩と 酒盞に来り
綿綿夢想潤吟箋 綿綿と夢想は 吟箋を潤す
○○●●●○◎
●●○○○●◎
●●○○○●●
○○●●●○◎
香雲靄靄彩霞浮 香雲靄靄と 彩霞浮び
簷燕舞飛煙雨収 簷燕舞飛んで 煙雨収まる
千樹枝枝新翠滴 千樹の枝枝に 新翠滴り
一樽酒力撲春愁 一樽の酒力 春愁を撲つ
○○●●●○◎
○●●○○●◎
○●○○○●●
●○●●●○◎
酔臥高楼寂絶喧 高楼に酔臥すれば 寂として喧絶え
月光皎皎照乾坤 月光皎皎と 乾坤を照らす
嬌紅落尽春無跡 嬌紅落ち尽して 春跡無く
繊手香魂夢有痕 繊手香魂 夢痕有り
●●○○●●◎
●○●●●○◎
○○●●○○●
○●○○●●◎
花吐清香春夢残 花は清香を吐いて 春夢残り
中宵和月獨憑欄 中宵月に和して 獨り欄に憑る
傾樽静語非無暇 樽を傾け静に語る 暇無きに非ず
共楽無朋自少歓 共に楽しむ朋無ければ 自ずと歓少し
○●○○○●◎
○○○●●○◎
○○●●○○●
●●○○●●◎
春宵萬井曳軽烟 春宵萬井 軽烟を曳き
江月遊霞到暮天 江月霞に遊び 暮天に到る
燈下満園香脈脈 燈下満園 香脈脈
花王似笑色娟娟 花王笑うに似て 色娟娟
○○●●●○◎
○●○○●●◎
○●●○○●●
○○●●●○◎
春風微吹払楊條 春風微かに吹いて 楊條を払い
吟歩前庭香暗飄 前庭を吟歩すれば 香暗に飄る
妖艶競妍紅芍薬 妖艶妍を競う 紅の芍薬
苔茵落影緑芭蕉 苔茵に影を落す 緑の芭蕉
○○○●●○◎
○●○○○●◎
○●●○○●●
○○●●●○◎
紫散緑深春一村 紫散じ緑深まる 春一村
紅飛皎皎月臨軒 紅飛び皎皎と 月は軒に臨む
老鶯泣血聲環屋 老鶯血に泣いて 聲は屋を環り
花吐軽陰影映門 花は軽陰を吐いて 影門に映ず
●●●○○●◎
○○●●●○◎
●○●●○○●
○●○○●●◎
濃艶花王月下看 濃艶なり花王 月下に看て
舞風撩乱惜春残 風に舞って撩乱 春残を惜しむ
紅消為恨情猶在 紅消え為に恨む 情は猶を在りて
人散誰知興又闌 人散じ誰か知る 興は又闌なりと
○●○○●●◎
●○●●●○◎
○○●●○○●
○●○○●●◎
花陰夜会酔芳莚 花陰の夜会 芳莚に酔い
凭几中宵抱月眠 几に凭れ中宵 月を抱いて眠る
寂寂高楼含翠色 寂寂と高楼 翠色を含み
沈沈水面帯軽煙 沈沈と水面 軽煙を帯びる
○○●●●○◎
○●○○●●◎
●●○○○●●
○○●●●○◎
紅艶吐芳桃杏春 紅艶芳を吐く 桃杏の春
白沙鷺睡曲江濱 白沙に鷺睡る 曲江の濱
一堤戯蝶草生夢 一堤戯蝶 草は夢を生じ
千樹嬌姿花笑人 千樹嬌姿 花は人を笑う
○●●○○●◎
●○●●●○◎
●○●●●○●
○●○○○●◎
花有清香春已闌 花は清香を有し 春已に闌なり
軽風剪剪夜窓寒 軽風剪剪と 夜窓寒し
中宵月照紫藤架 中宵月は照らす 紫藤の架
雅客尋芳紅薬欄 雅客芳を尋る 紅薬の欄
○●○○○●◎
○○●●●○◎
○○●●●○●
●●○○○●◎
花王已散恨綿綿 花王已に散じ 恨綿綿
歌管楼台酔欲顛 歌管楼台 酔て顛せんと欲す
千朶紫藤狂上下 千朶の紫藤 上下に狂い
空高雲雀舞翩翩 空高く雲雀 翩翩と舞う
○○●●●○◎
○●○○●●◎
○●●○○●●
○○○●●○◎
洛城花下酔春宵 洛城花下 春宵に酔い
雲過長江水月漂 雲は長江を過ぎて 水月漂う
鏡面軽烟何渺渺 鏡面に軽烟 何ぞ渺渺たる
人眠不得夜蕭蕭 人眠るを得ず 夜蕭蕭たり
●○○●●○◎
○●○○●●◎
●●○○○●●
○○●●●○◎
人生行楽不如春 人生行楽 春にしかず
五月香風酒幾巡 五月香風 酒幾たび巡る
妁妁海棠紅點砌 妁妁たる海棠 紅砌に點じ
芳菲百草緑成茵 芳菲百草 緑茵を成す
○○●●●○◎
●●○○●●◎
●●●○○●●
○○●●●○◎
酒坊人散寂無喧 酒坊人散じ 寂として喧無く
紫麓朦朧日欲昏 紫麓は朦朧として 日昏れんと欲す
絮吐軽陰楊柳路 絮は軽陰を吐く 楊柳の路
月移樹影落花村 月は樹影を移す 落花の村
●○○●●○◎
●●○○●●◎
●●○○○●●
●○●●●○◎
