2007年5月の自作漢詩


杜宇一声

麦浪送春花影     麦浪春を送り 花影稀なり
梅青迎夏雨霏     梅青く夏を迎へて 雨霏霏たり
酒醒不禁思郷涙     酒醒めて禁ぜず 思郷の涙 
杜宇一声促我     杜宇一声 我が帰を促がす

(赤い字は韻:五微 七言絶句仄起式 )


他郷老

不寝客愁夜復     寝ず客愁 夜復た晨
何人遺恨一傷     何人か恨を遺して 一に神を傷ましむ
未帰展転他郷老     未だ帰せず展転と 他郷に老ゆ 
夢破遥思幾度     夢破れ遥かに思う 幾度の春

(赤い字は韻:十一真  七言絶句仄起式)


初夏水村

魚躍橋西一釣     魚躍り橋西に 一釣垂れる
晴江燿燿夏雲     晴江は燿燿と 夏雲奇なり
菖蒲相映風清処     菖蒲相い映じ 風清き処
傍水村村麦熟     水に傍い村村 麦熟す時

(赤い字は韻:四支 七言絶句仄起式 )


卯花籬

細雨濛濛遊子     細雨濛濛 遊子悲しむ
繊繊碧草卯花     繊繊たる碧草 卯花の籬
暮春滴血翻紅薬     暮春血を滴せ 紅薬翻る 
濃緑陰中啼子     濃緑陰中 子規啼く

(赤い字は韻:四支 七言絶句仄起式 紅薬とは赤い芍薬の花)


帰郷

枕上愁心夜幾     枕上愁心 夜幾更
懐母不寝数帰     母を懐て寝ず 帰程を数ふ
断腸故郷隔千里     断腸故郷 千里を隔つ 
叫血子規啼一     血を叫んで子規 一声を啼く

(赤い字は韻:八庚  七言絶句仄起式)


村居晩春

江潭四月熟梅     江潭四月 熟梅の天
芍薬榴花落日     芍薬榴花 落日の邊
麦浪蕭蕭春去月     麦浪蕭蕭 春去るの月 
晩風吹靄筑峰     晩風靄を吹く 筑峰の烟

(赤い字は韻:一先 七言絶句平起式 四月は旧暦 筑峰は筑波山)


首夏酒旗

首夏求涼坐水     首夏涼を求め 水軒に坐す
臨流岸上立黄     流に臨んで岸上 黄昏に立つ
暖風吹送飄衣袂     暖風吹き送て 衣袂を飄し 
待月夕陽照酒     月を待て夕陽 酒樽を照らす

(赤い字は韻:十三元  七言絶句仄起式)


初夏農村

田頭農叟叱耕     田頭に農叟 耕牛を叱る
曲水悠悠抱村     曲水は悠悠と 村を抱いて流る
麦熟舞風如白髪     麦熟し風に舞い 白髪の如し 
梅黄経雨落難     梅黄雨を経て 落ちて留め難し

(赤い字は韻:十一尤 七言絶句平起式)


夏来

迎夏紅飛葛葉     夏を迎へ紅飛び 葛葉覃ぶ
花衰紫散緑波     花衰へ紫散じ 緑波涵す
送春野水青於黛     春を送りて野水 黛於りも青く 
将暮山陰碧似     将に暮れんと山陰 藍似りも碧なり

(赤い字は韻:十三覃  七言絶句仄起式)


初夏江村

五月江村水満     五月の江村 水田に満ち
山園三畝麦秋     山園三畝 麦秋の天
残花芍薬紅如灼     残花芍薬 紅灼くが如く 
鶯老青梅翠似     鶯老い青梅 翠煙に似たり

(赤い字は韻:一先 七言絶句仄起式)


緑陰

打麦南風入柳     麦を打って南風 柳條に入り
幽篁如絲紫藤     幽篁絲の如く 紫藤揺れる
翠陰濃淡烟浮竹     翠陰濃淡 烟竹に浮び 
山遠霏霏雨洗     山遠く霏霏と 雨蕉を洗う

(赤い字は韻:二蕭  七言絶句仄起式)


江村

菖蒲紫散緑陰     菖蒲紫散じ 緑陰繁し
芍薬紅飛曲上     芍薬紅飛んで 曲上の村
夕照幽篁臨水映     夕照の幽篁 水に臨んで映じ 
老鶯恨命送黄     老鶯命を恨んで 黄昏を送る

(赤い字は韻:十二元 七言絶句平起式)


農村

四面農忙緑一     四面農忙しく 緑一村
休鋤田家食龍     鋤を休め田家 龍孫を食う
蛙声閣閣春塘晩     蛙声閣閣と 春塘晩れ 
竹外園林夏木     竹外の園林 夏木繁し

(赤い字は韻:十二元  七言絶句仄起式)


田植

麦秋水漲雨声     麦秋水漲り 雨声微なり
農叟挿田翠滴     農叟田を挿し 翠衣に滴る
軒下青梅迎夏結     軒下の青梅 夏を迎えて結び 
江天乳燕送春     江天に乳燕 春を送って飛ぶ

(赤い字は韻:五微 七言絶句平起式)


初夏田園

田家薫風緑四     田家薫風 緑四囲
蝸牛振角上柴     蝸牛角を振て 柴扉を上がる
春過南畔梅始熟     春過ぎ南畔に 梅始めて熟す 
首夏波間燕学     首夏波間に 燕飛ぶを学ぶ

(赤い字は韻:五微  七言絶句仄起式)


晩春江景

残花春盡独傷     残花春盡き 独り情を傷ましむ
月転日斜万感     月転じ日斜めに 万感生ず
緑柳舞風繊有影     緑柳風に舞い 繊として影有り 
紅稀江畔寂無     紅稀れに江畔 寂として声無し

(赤い字は韻:八庚 七言絶句平起式)


歓会

凰城将暮夕陽     凰城将に暮れんとし 夕陽収まる
半夜吟友売酒     半夜吟友 売酒の樓
歓会花陰論世事     歓会花陰に 世事を論じ 
春宵一刻楽風     春宵一刻 風流を楽しむ

(赤い字は韻:十一尤  七言絶句平起式)


啼鳥惜花

野水疎林緑欲     野水の疎林 緑流れんと欲す
山禽啼鳥惜花     山禽啼鳥 惜花の愁い
紅稀吹恨風双蝶     紅稀に恨を吹き 風双蝶 
雲暗寄情雨一     雲暗く情を寄せ 雨一鳩

(赤い字は韻:十一尤 七言絶句仄起式)


春還

江村日暮乱飛     江村日暮 乱飛の鴉
山遠煙霞寂不     山遠く煙霞 寂として譁ならず
高閣無知人去盡     高閣知る無し 人去り盡す 
春来還発旧時     春来りて還り発す 旧時の花

(赤い字は韻:六麻  七言絶句平起式)


暮春雷雨

飛電狂風雨脚     飛電狂風 雨脚斜めなり
無情落盡断腸     無情落ち盡す 断腸の花
魂消一夜慰愁酒     魂消え一夜 愁を慰す酒 
人老残春懶更     人老い残春 懶更に加わる

(赤い字は韻:六麻 七言絶句仄起式)


残花不語

陰雲飛去雨将     陰雲飛び去り 雨将に晴れんとす
紅錦落来萬恨     紅錦落ち来り 萬恨生ず
緑樹影濃花不語     緑樹影濃く 花語らず 
蛙声閣閣送春     蛙声閣閣 春を送って鳴く

(赤い字は韻:八庚  七言絶句平起式)


初夏惜花

夕陽赫赫照書     夕陽赫赫と 書幃を照らす
満樹正肥翠滴     満樹正に肥え 翠衣に滴る
江畔黄梅迎夏結     江畔の黄梅 夏を迎えて結び 
欄前国艶送春     欄前の国艶 春を送って飛ぶ

(赤い字は韻:五微 七言絶句平起式)


晩春野望

麦秀江村緑満     麦秀で江村 緑堤に満つ
春深竹陰晩鶯     春深く竹陰に 晩鶯啼く
落花為惜茫如夢     落花為に惜む 茫として夢の如し 
人散誰知望欲     人散じ誰か知る 望迷わんと欲す

(赤い字は韻:八斉  七言絶句仄起式)


雨中残花

深緑紅稀春欲     深緑紅稀に 春空しからんと欲す
吟魂惆恨白頭     吟魂惆恨す 白頭の翁
寒威徹骨連朝雨     寒威骨に徹す 連朝の雨 
落盡残花一夜     落ち盡す残花 一夜の風

(赤い字は韻:一東 七言絶句仄起式)


惜花

暗雲夕刻雨兼     暗雲夕刻より 雨風を兼ねる
坐見幽庭緑樹     坐して見る幽庭 緑樹の叢
色褪飛花春已盡     色褪せ飛花 春已に盡く 
無情一夜打残     無情なり一夜 残紅を打つ

(赤い字は韻:一東  七言絶句平起式)


春宵陪宴

花王灼灼帝城     花王灼灼 帝城の春
半夜樽前酒幾     半夜樽前 酒幾たびか巡る
朱檻前庭紅錦麗     朱檻前庭に 紅錦麗し 
高樓一樹緑羅     高樓一樹 緑羅新なり

(赤い字は韻:十一真 七言絶句平起式)


春夜尋坊

春宵吟歩寂無     春宵吟歩 寂として喧無し
如染照花日欲     染むるが如く花を照し 日昏んと欲す
人散鐘声雲外寺     人散じ鐘声 雲外の寺 
帰鴉一路月中     帰鴉一路 月中の村

(赤い字は韻:十三元  七言絶句平起式)


春宵悲君

管弦樓台一刻     管弦樓台 一刻の宵
半簾待月更傾     半簾月を待ち 更に瓢を傾ける
人生万事無情甚     人生万事 無情甚し 
此夜悲君春酔     此夜君を悲しみ 春酔醒む

(赤い字は韻:二蕭  七言絶句仄起式)


緋牡丹

翩翩蝴蝶遂風     翩翩と蝴蝶 風を遂って旋る
小雀迷雲落舞     小雀雲に迷い 舞筵に落つ
酔看花王紅艶艶     酔て看る花王 紅艶艶 
醒吟葉影翠娟     醒めて吟ず葉影 翠娟娟

(赤い字は韻:一先  七言絶句平起式)


紫藤

霧雨潤花作薄     霧雨花を潤し 薄寒を作す
登樓此夜惜春     樓に登り此夜 春残を惜しむ
如絲風弄紫藤架     絲の如く風は弄す 紫藤の架 
酔月徘徊紅薬     月に酔て徘徊 紅薬の欄

(赤い字は韻:十四寒  七言絶句仄起式)


春夜思母

人生看得幾多     人生看るを得たり 幾多の春
夜色沈沈迫老     夜色沈沈と 老身に迫る
片片風前花已散     片片と風前に 花已に散じ 
思母落涙酒殊     母を思て涙を落し 酒殊に頻なり

(赤い字は韻:十一真  七言絶句平起式)


春宵酒宴

碧水連天江上     碧水天に連る 江上の村
春宵花散緑陰     春宵花散じて 緑陰繁し
香風馥郁飄衣袂     香風馥郁と 衣袂を飄へし 
片月清冷照酒     片月清冷と 酒樽を照らす

(赤い字は韻:十三元  七言絶句仄起式)




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