風度天光月更清 風度り天光 月更に清し
凄涼秋色満江城 凄涼と秋色 江城に満つ
夢回多事丹心苦 夢は回る多事 丹心苦しむ
望断老懐白髪明 望は断ち老懐 白髪明らかなり
天清菊散満庭徐 天清く菊散り 満徐に満つ
霜落露凝事静虚 霜落ち露凝り 静虚を事とす
病骨回首秋已老 病骨首を回らせば 秋已に老ゆ
孤燈屈指雁無書 孤燈指を屈すれば 雁書無し
故国千山過白雲 故国千山 白雲過ぐ
行人万里惜離群 行人万里 離群を惜しむ
明年此会知誰健 明年此会 知る誰か健やかを
去就留詩復那云 去就詩を留め 復た那をか云わん
一天片雨水滔滔 一天片雨 水滔々
千里陰雲冷透袍 千里陰雲 冷袍を透す
掻髪疎疎無限思 髪を掻けば疎疎と 無限の思い
吟詩密密酔芳醪 詩を吟ずれば密密と 芳醪に酔う
風急天高秋色哀 風急に天高く 秋色哀し
江村波面鳥飛廻 江村の波面に 鳥飛び廻る
百年多病懐郷日 百年多病 郷を懐う日
一夜新停濁酒盃 一夜新たに停む 濁酒の盃
玉露凋傷草樹荒 玉露凋傷と 草樹荒る
風雲接地更凄涼 風雲地に接して 更に凄涼
江間波浪兼天湧 江間の波浪 天を兼ねて湧く
老骨寒衣強挙觴 老骨の寒衣 強いて觴を挙ぐ
風雲掃地雨初乾 風雲地を掃いて 雨初めて乾く
空外秋声到遠巒 空外秋声 遠巒に到る
遶野孤看荒径菊 野を遶り孤り看る 荒径の菊
一天星斗大江寒 一天星斗 大江寒し
秋霖寂寂雨声悲 秋霖寂寂と 雨声悲し
夜半凄凄一葉衰 夜半凄凄 一葉衰う
離思母親腸欲断 離れて母親を思えば 腸断んと欲す
郷愁帰夢老方知 郷愁帰夢 老いて方に知る
金色染雲正落暉 金色雲を染め 正に落暉
黄昏漠漠暮烟飛 黄昏漠漠として 暮烟飛ぶ
蕭然双鬢無限思 蕭然と双鬢 無限の思い
清露侵衾音信稀 清露衾を侵し 音信稀なり
秋光如浪照蕎花 秋光浪の如く 蕎花を照らす
寂莫西郊隔暮霞 寂莫たる西郊 暮霞を隔つ
処処幽篁臨水映 処処幽篁 水に臨んで映ず
騒人緩歩興無涯 騒人緩歩すれば 興涯り無し
満目蒼蒼雨後天 満目蒼蒼と 雨後の天
雲竜千尺最翩翩 雲竜千尺 最も翩翩
江水流急波頭躍 江水流れ急にして 波頭躍る
気爽探楓落葉前 気爽に楓を探る 落葉の前
江上陰雲暮雨過 江上の陰雲 暮雨過ぎる
秋霖滴滴打残荷 秋霖滴滴と 残荷を打つ
孤燈臥聞蕭蕭響 孤燈臥して聞く 蕭蕭の響
郷思誰知奈老何 郷思誰か知る 老いを何せん
前峰後嶺暮天雲 前峰後嶺 暮天の雲
寂莫雁声静夜聴 寂莫と雁声 清夜に聴く
病骨老来多感慨 病骨老来りて 感慨多し
忘憂数盃酔醺醺 憂いを忘れ数盃 酔うて醺醺
前峰浩浩月如霜 前峰浩浩と 月霜の如し
秋老凄涼野景荒 秋老いて凄涼 野景荒る
露草蒼蒼虫切切 露草蒼蒼 虫切切
無言黙座夜方長 言無く黙座す 夜方に長し
露下天高秋水清 露下天高く 秋水清し
寒燈夜色満江城 寒燈夜色 江城に満つ
蘆花冷落身将老 蘆花冷落し 身将に老んとす
有酒焚香到五更 酒有り香を焚きて 五更に到る
雨後西郊露菊香 雨後の西郊 露菊香る
江天颯颯午風涼 江天颯颯として 午風涼し
連空碧水沙鴎静 空に連る碧水 沙鴎靜なり
秋色染雲橘半黄 秋色雲を染め 橘半ば黄なり
秋霖不歇響蕭蕭 秋霖歇まず 響き蕭蕭
連日江村細雨澆 連日江村に 細雨澆ぐ
獨座読書方丈室 獨座して書を読む 方丈の室
幽人陰陰意無聊 幽人陰陰と 意は無聊
冷雨打窓日暮時 冷雨窓を打つ 日暮の時
秋霖寂寂草虫悲 秋霖寂寂と 草虫悲し
哀心不歇弧衾裡 哀心歇まず 弧衾の裡
身老天涯莫我知 身老い天涯 我を知る莫し