南風漠漠麦秋天　　　　　南風漠漠として　麦秋の天
迎夏青苗水満田　　　　　夏を迎え青苗　水田に満つ
杜宇幽篁啼血過　　　　　杜宇幽篁　血を啼いて過ぎ
�關l緑樹枕書眠　　　　　�關l緑樹　書を枕に眠る

濛濛細滴入梅初　　　　　濛濛たる細滴　入梅の初め
連日雲陰倦読書　　　　　連日の雲陰　読書に倦む
多病翻愁今夜酒　　　　　多病愁を翻す　今夜の酒
懐人獨座欲何如　　　　　人を懐い獨座し　如何せんと欲す

六月雷声雨帯風　　　　　六月の雷声　雨風を帯び
残花老柳乱雲中　　　　　残花老柳　乱雲の中
連陰易濕黄梅落　　　　　連陰濕り易く　黄梅落つ
鬱意難開借酒功　　　　　鬱意開き難く　酒の功を借る

幽庭寂寞草萋萋　　　　　幽庭寂寞として　草萋萋
連陰霏霏水満堤　　　　　連陰霏霏として　水堤に満つ
燕子黄梅煙雨裡　　　　　燕子黄梅　煙雨の裡
吟衣懶出酒誰携　　　　　吟衣出るに懶く　酒誰か携う

疎疎梅雨橘花香　　　　　疎疎たる梅雨　橘花香る
寂寂桐陰満樹涼　　　　　寂寂たる桐陰　満樹涼し
榴火風来紅欲墜　　　　　榴火風来り　紅墜んと欲す
南薫入袖上池堂　　　　　南薫袖に入り　池堂に上がる

連日冥冥樹鬱葱　　　　　連日冥冥として　樹鬱葱し
昼昏雨未歇濛濛　　　　　昼昏くして雨歇まず　濛濛たり
空山入夜蘋風起　　　　　空山夜に入りて　蘋風起り
一片黄梅落水中　　　　　一片の黄梅　水中に落つ

春過麦熟稲粱肥　　　　 春過ぎ麦熟し　稲粱肥ゆ
首夏水煙欲透衣　　　　　首夏水煙　衣を透さんと欲す　
芍薬菖蒲新緑滴　　　　　芍薬菖蒲　新緑滴たる
雨収乳燕掠軒飛　　　　　雨収り乳燕　軒を掠めて飛ぶ

柳岸飛鶯水面鳴　　　　　柳岸の飛鶯　水面に鳴く
雨来閣閣乱蛙声　　　　　雨来りて　閣閣たる乱蛙の声
穿簾小燕雙雙好　　　　　簾を穿ちて　小燕雙雙と好し
入夜随風暑気清　　　　　夜に入りて風に随い　暑気清し

渺渺煙収水溢田　　　　　渺渺たる煙収まり　水田に溢る
雨餘緑樹碧涵天　　　　　雨餘の緑樹　碧天を涵す
臨流柳渚江風冷　　　　　流れに臨んで柳渚　江風冷かなり
捲簾前峰気爽然　　　　　廉を捲き前峰　気爽然

江潭六月熟梅天　　　　　江潭の六月　熟梅の天
水漲魚跳初夏燃　　　　　水漲り魚跳りて　初夏燃ゆ
颯颯南風吹麦浪　　　　　颯颯たる南風　麦浪を吹き
蛙声閣閣日如年　　　　　蛙声閣閣として　日年の如し

雨止連山緑一斉　　　　　雨止んで　連山緑一斉
風清杜宇喚晴啼　　　　　風清く　杜宇晴れを喚んで啼く
読書日午惟思睡　　　　　書を読みて　日午惟睡を思う
欲語�關l夢易醒　　　　　語らんと欲して　�關l夢醒め易し

迂愚易老問無由　　　　　迂愚老い易く　問うに由なし
一夢難成歳月流　　　　　一夢成リ難く　歳月流る
唯有生涯詩酒友　　　　　唯有り　生涯詩酒の友
芳醪酔臥復何求　　　　　芳醪酔臥　復た何をか求めん

京都聳漢四明峯　　　　　京都　漢に聳ゆる四明峯
浄界高僧座聴松　　　　　浄界　高僧座して松を聴く
高野禅庵隣好院　　　　　高野　禅庵隣好院
叩門師弟此相逢　　　　　門を叩きて　師弟此に相逢う

秋風惜別鳥声悲　　　　　秋風　別れを惜しんで鳥声悲し
辛苦酸心歳月馳　　　　　辛苦酸心　歳月馳す
回首無常君不見　　　　　首を回らせば　無常君を見ず
天乎落涙去何之　　　　　天乎落涙　去って何くに之く

一陣南風一陣涼　　　　　一陣の南風　一陣涼し
横塘暁露白蓮邊　　　　　横塘暁露　白蓮の邊
清晨処処初発響　　　　　清晨処処　初めて発く響き
荷気飄飄盈袖香　　　　　荷気飄飄として　袖に盈ちて香し

霏霏梅雨黒南風　　　　　霏霏たる梅雨　黒南風
漫漫江心一釣翁　　　　　漫漫たる江心　一釣翁
千里連山雲片片　　　　　千里連山　雲片片
客稀懶出緑陰中　　　　　客稀れにして出るに懶く　緑陰の中

溟濛小雨満天雲　　　　　溟濛たる小雨　満天の雲
閣閣蛙声隔岸聞　　　　　閣閣たる蛙声　岸を隔て聞く
深樹黄昏帰燕靜　　　　　深樹の黄昏　帰燕静かなり
鬱陶倚几酔醺醺　　　　　鬱陶として几に倚り　酔うて醺醺