暑退先知守故林 暑退き先ず知る 故林を守るを
秋光冷照緑沈沈 秋光冷照 緑沈沈
西風一夜梧桐落 西風一夜 梧桐落ち
東畔千山江水深 東畔千山 江水深し
●●○○○●◎
○○●●●○◎
○○●●○○●
○●○○○●◎
残暑猶長葉未疎 残暑猶を長く 葉未だ疎ならずも
朝冷便覚早秋初 朝冷便ち覚ゆ 早秋の初め
碧花籬落催荒菊 碧花の籬落に 荒菊催し
白露庭除有嫩蔬 白露の庭除に 嫩蔬有り
○●○○●●◎
○○●●●○◎
●○○●○○●
●●○○●●◎
金帝時節送新涼 金帝時節に 新涼を送り
賓雁飛来天漢長 賓雁飛来りて 天漢長し
繊月悲悲生紫気 繊月悲悲と 紫気を生じ
蛩聲切切動清商 蛩聲切切と 清商動く
○○○●●○◎
○●○○○●◎
○●○○○●●
○○●●●○◎
商聲先到送涼時 商聲先ず到り 涼を送る時
朝露荷衰暑退移 朝露荷衰え 暑退移す
寂寂風高桐葉墜 寂寂と風高く 桐葉墜ち
凄凄月白動秋思 凄凄と月白く 秋思動く
○○○●●○◎
○●○○●●◎
●●○○○●●
○○●●●○◎
残蝉処暑一聲終 残蝉処暑に 一聲終り
玄鳥猶来百日紅 玄鳥は猶 百日紅に来る
晩夏疎疎荷葉雨 晩夏疎疎たり 荷葉の雨
早秋爽爽荻花風 早秋爽爽たり 荻花の風
○○●●●○◎
○●○○●●◎
●●○○○●●
●○●●●○◎
悠悠湖水色蒼蒼 悠悠たる湖水 色蒼蒼
月照漁家夜未央 月は漁家を照らし 夜未だ央ならず
岸送荷風炎熱散 岸は荷風を送って 炎熱散じ
憑欄払面一船涼 欄に憑れば面を払って 一船涼し
○○●●●○◎
●●○○●●◎
●●○○○●●
●○●●●○◎
山光瀲瀲水空流 山光瀲瀲と 水空しく流れ
古渡方舟避暑遊 古渡舟を方べ 避暑の遊
秋鏡一輪江上月 秋鏡一輪 江上の月
西風吹満酒家楼 西風吹満る 酒家の楼
○○●●●○◎
●●○○●●◎
○●●○○●●
○○●●●○◎
荷風湖上探涼宵 荷風湖上に 涼を探る宵
月照扁舟映水揺 月は扁舟を照らし 水に映じて揺らぐ
長日黄昏天際没 長日黄昏 天際に没し
波心鏡面鯉魚跳 波心鏡面に 鯉魚跳る
○○○●●○◎
●●○○●●◎
○●○○○●●
○○●●●○◎
小楼灯影泊船多 小楼灯影 泊船多く
古渡月明風動波 古渡月明く 風波を動す
夏去秋涼無限好 夏去り秋涼 限りなく好く
今宵爽気扣舷歌 今宵爽気 舷を扣いて歌う
●○○●●○◎
●●●○○●◎
●●○○○●●
○○●●●○◎
蒼江隔岸片帆風 蒼江岸を隔て 片帆の風
荻渚移舟避世翁 荻渚舟を移す 避世の翁
雨過千峰清徹骨 雨千峰を過ぎて 清骨に徹し
青霄隠映水連空 青霄隠映して 水空に連る
○○●●●○◎
●●○○●●◎
●●○○○●●
○○●●●○◎
遥看瀑布樹森森 遥か瀑布を看れば 樹森森たり
八月渓聲碧水深 八月渓聲 碧水深し
四囲青峰山似黛 四囲青峰 山黛に似て
長江白壁石如林 長江白壁 石林の如し
○○●●●○◎
●●○○●●◎
●●○○○●●
○○●●●○◎
高臥披襟気爽然 高臥し襟を披けば 気爽然
山亭床下聴流泉 山亭の床下に 流泉を聴く
満庭紫荻香和月 満庭の紫荻 香は月に和し
峰影松風色帯煙 峰影に松風 色は煙を帯びる
○●○○●●◎
○○○●●○◎
●○●●○○●
○●○○●●○
翠樹揺風山雨晴 翠樹風に揺れて 山雨晴れ
仰看青嶂白雲横 青嶂を仰看れば 白雲横たわる
洗塵点滴波紋冷 塵を洗い点滴 波紋冷かに
渓路桐陰蝉翼軽 渓路の桐陰に 蝉翼軽し
●●○○○●◎
●○○●●○◎
●○●●○○●
○●○○○●○
香城高野自仙寰 香城高野 自ら仙寰
洗暑蝉吟萬緑山 暑を洗い蝉吟ず 萬緑の山
石蘚青青流不盡 石蘚青青 流れ盡きず
空院仏閣聳雲間 空院仏閣 雲間に聳ゆ
○○○●●○◎
●●○○●●◎
●●○○○●●
○○●●●○◎
吉野伽藍山四囲 吉野伽藍 山四囲
青峯重畳白雲飛 青峯重畳 白雲飛ぶ
桐陰清潤忘長夏 桐陰清潤 長夏を忘れ
満耳潺潺繞翠微 満耳潺潺 翠微を繞る
●●○○○●◎
○○●●●○◎
○○○●○○●
●●○○●●○
窓外黒雲我爾生 窓外に黒雲 我爾に生じ
填填鼓撃午眠驚 填填と鼓撃 午眠驚く
疾風遂暑睡神去 疾風暑を遂い 睡神去り
雨歇須臾蝉有聲 雨歇み須臾に 蝉聲有り
○●●○○●◎
○○●●●○◎
○○●●●○●
●●○○○●○
香山仙境樹千重 香山仙境 樹千重
臥看渓南万事慵 臥して渓南を看れば 万事慵し
眼下俗塵渾不管 眼下の俗塵 渾て管せず
終宵繙帙意従容 終宵帙を繙き 意従容たり
○○○●●○◎
●●○○●●◎
●●●○○●●
○○○●●○◎
江天夕照廃耕耘 江天夕照 耕耘を廃すれば
何急風狂起墨雲 何ぞ急に風狂い 墨雲起る
沛雨油然終済旱 沛雨油然 終に旱を済し
於簷點滴水生紋 簷より點滴 水は紋を生ず
○○●●●○◎
○●○○●●◎
●●○○○●●
○○●●●○◎
沛然驟雨漲南軒 沛然と驟雨は 南軒に漲り
俄爾烏雲天色昏 俄爾烏雲 天色昏し
空送涼風兼洗熱 空涼風を送って 兼て熱を洗い
梧桐活死潤枯根 梧桐死を活し 枯根を潤す
●○●●●○◎
○●○○○●◎
○●○○○●●
○○●●●○◎
烏雲翻墨黒風催 烏雲墨を翻し 黒風催し
慈雨須臾酒百杯 慈雨須臾に 酒百杯
隠隠雷聲駆暑去 隠隠たる雷聲 暑を駆って去り
煌煌電影遂涼来 煌煌たる電影 涼を遂って来る
○○○●●○◎
○●○○●●◎
●●○○○●●
○○●●●○◎
筑西炎暑計将窮 筑西炎暑 計将に窮まらんとし
農老迎龍祈社公 農老迎龍 社公に祈る
沛雨忽消三伏熱 沛雨忽ち消す 三伏の熱
疾風何急水連空 疾風何ぞ急に 水空に連る
●○○●●○◎
○●○○●●◎
●●●○○●●
●○○●●○◎
白日渾如堕瓶中 白日渾て 瓶中に堕するが如く
北窓衰老望雷公 北窓に衰老は 雷公を望む
前庭不雨黄埃満 前庭雨らず 黄埃満ち
擒捉籠蟲六七童 籠蟲を擒捉す 六七の童
●●○○●●◎
○○●●●○◎
●○●●●○●
●●○○●●○
大暑青蠅亦懶飛 大暑に青蠅 亦た飛ぶに懶く
生霊欲死午風微 生霊死せんと欲す 午風微なり
旱雲不滅石将爍 旱雲滅せず 石将に爍けんとし
街路氛埃過客稀 街路氛埃 過客稀なり
●●○○●●◎
○○●●●○◎
●○●●●○●
●●○○●●○
江西溽暑小窓憑 江西溽暑 小窓に憑り
連日高眠又不能 連日高眠 又不能
斗室一間炎気入 斗室一間に 炎気入り
如湯午熱瓶中騰 湯の如き午熱 瓶中騰る
○○●●●○◎
●●○○●●◎
●●○○○●●
○○●●●○◎
如湯午熱欝情窮 湯の如き午日 欝情窮まり
瞬時清涼一扇中 瞬時の清涼 一扇の中
大地生霊憂旱意 大地生霊 憂旱の意
不成霖雨起炎風 霖雨成らず 炎風起る
○○●●●○◎
●●○○●●◎
●●○○○●●
●○○●●○◎
江村雲雨竟虚無 江村雲雨 竟に虚無
街路炎炎不可居 街路炎炎 居るべからず
矮屋蒸蒸如瓶裡 矮屋蒸蒸 瓶裡の如く
蚊来難遂睡工夫 蚊来遂い難く 睡工夫
○○○●●○◎
○●○○●●◎
●●○○○●●
○○○●●○◎
青蠅擾擾聚盤盂 青蠅擾擾 盤盂に聚り
赤日炎炎気欲枯 赤日炎炎 気は枯れんと欲す
翠蓋旱乾泉水涸 翠蓋旱乾し 泉水涸れ
白膚溽暑汗為珠 白膚溽暑により 汗珠を為す
○○●●●○◎
●●○○●●◎
●●●○○●●
●○●●●○◎
山城鞍馬絶塵埃 山城鞍馬 塵埃を絶し
翠蓋紅妝含露開 翠蓋紅妝 露を含んで開く
暁色青冥香世界 暁色青冥 香世界
恐秋風早月徘徊 秋風の早きを恐れ 月徘徊す
○○○●●○◎
●●○○○●◎
●●○○○●●
●○○●●○◎
江上午天雲気蒸 江上の午天 雲気蒸し
盂中残飯去来蠅 盂中の残飯に 去来の蠅
難眠矮室蚊雷響 眠り難く矮室に 蚊雷の響
不可逃争臥曲肱 逃争すべからず 臥して肱を曲ぐ
○●●○○●◎
○○○●●○◎
○○●●○○●
●●○○●●○
午熱如湯日焼空 午熱湯の如く 日は空を焼き
紅爐似火望雷公 紅爐火に似て 雷公を望む
不成霖雨呼雲会 霖雨成らず 呼雲の会
揺扇鳴鈴謾是風 扇を揺らし鈴を鳴らして 是風かと謾く
●●○○●●◎
○○●●●○◎
●○○●○○●
○●○○●●○
喘月無涼気欲枯 月に喘ぎ涼無く 気は枯れんと欲し
北窓高枕汗如珠 北窓枕を高くし 汗珠の如し
難眠短夜驚残夢 短夜眠り難く 残夢驚き
裸体長躯為暑痩 裸体の長躯 暑の為に痩す
●●○○●●◎
●○○●●○◎
○○●●○○●
●●○○●●○