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鎌田實著 「いいかげんがいい」

  新潮社(2008年10月)

なにごとにも柔らかにイキイキと生きよう

「いいかげん:良い加減」とは広辞苑には、1、よい程あい、適当 2、条理を尽くさないこと、徹底しないこと 3、(副詞的に)相当、かなり と解説している。両義語である。「適当」という言葉も両義語で、この言葉も広辞苑には1、程よくあてはまる、2、要領よくやる、いい加減と書かれている。このばあいの「いい加減」は良くない意味である。よいニュアンスと悪いニューアンスを併せ持つ言葉で、まさに「いい加減な言葉」である。鎌田實氏は48歳で病院長の重責から「パニック障害」という不安症候群になった経験から、完璧を目指さないで、ほどほどに生きようという気になったそうだ。気持ちが折れないためにはしなやかさが必要であると悟ったそうである。鎌田氏はパニック障害になって、人生の流儀を変えて乗り切ったようである。55歳で諏訪中央病院長を辞め、いまは一人の医師として、またテレビ、ラジオ、NGO活動、講演・執筆活動など七面八肱のご活躍である。還暦を迎えられたそうだ。私は鎌田氏の著作から、「がんばらない」、「あきらめない」、「それでも やっぱり がんばらない」を読んだ。鎌田氏の略歴は本読書ノートコーナーで鎌田實著 三部作「がんばらない」、「あきらめない」、「それでもやっぱり がんばらない」で取り上げたので、そちらも参照してほしい。独特の風貌でいかにも脱力系、癒し系の人のようだ。鎌田氏の文は永六輔氏の文のように、経験の語り口であり、肩のこらない、学術的ではないので極めて読みやすい文である。

さて本書「いいかげんがいい」は、多くの人との出会いから話が紡ぎだされてゆく。以前の本と違って、タレントや有名人とのお付き合いが多くなったのを反映して、そういう人の話が多くなっている。木村拓哉の母木村まさ子さん、作家瀬戸内寂聴、歌手ロザンナ、歌手加藤登紀子、料理研究家辰巳芳子、教育者タレント無着成恭、華道家仮屋崎省吾、女優小山明子、歌手ペギー葉山、歌手三輪明宏、歌手白井貴子、落語家林家正蔵、ワタミ社長渡邊美樹、映画監督コリーヌ・セロ、作家嵐山光三郎、タレント黒柳徹子、夕張市の医師村上智彦氏らである。彼らの話についてはテレビのワイドショーなどで語りつくされた感がするので、また既によくご存知だと思うのでここでは紹介しない。

鎌田氏は面白い企画をしている。バリアフリーツアー「鎌田實とハワイへ行こう」、「鎌田實と温泉に行こう」では高齢障害者の旅をボランティア-をなされている。またNGO活動では、「ピースボート」の長期の船旅で地球問題への意識を高めたり国際交流を深める旅の企画、JCF「日本チェルノブイリ連帯基金」ではロシアのベラルーシ市の放射線被曝事故による白血病治療などの医療活動と薬の援助をなされ、JIM−NET「日本イラク医療支援ネットワーク」ではイラク戦争で米軍が使った劣化ウラン弾によるがん発生の調査活動や薬の支援活動をなされている。またNHKラジオ放送「鎌田實 いのちの対話」でホストを務めておられる。すごいがんばり様で信じられないほどの活動力である。それでも諏訪病院では一医師として命と向き合っておられる。


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