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水野和夫著 「金融大崩壊」

  NHK出版 生活人新書(2008年12月)

「アメリカ金融帝国」の終焉

2007年サブプライムローン問題に端を発したアメリカの金融信用不安は、2008年秋には「リーマン・ショック」に始まる世界金融危機となって爆発した。それは米国型「投資銀行」ビジネスモデルの崩壊とともに、アメリカの購買力に依存した世界経済も同時に大変な恐慌に突入した。日本においても最初は「他岸の火事」視していた政治家もあったが、いまや猛烈な経済収縮と不況が日本を襲っている。減税(給付金)、緊急財政出動(補正予算第1次、第2次)とあわただしく政府与党は「対策」をしているが、派遣労働者の首切り、採用取り消し、自動車・電機など輸出型産業の赤字転落と日本は激震に見舞われている。1995年から米国型「投資銀行」ビジネスモデルはいわゆる金融ビックバンで世界を席巻したが、僅か13年くらいで金融バブルははじけ飛んだ。日本の住宅バブルなどとは比較にならないほど、世界実質経済に対する影響は深刻である。レバレッジ(梃子原理)を利かせたバブルであるだけに、実質経済の数倍に及ぶ規模であり、その影響は5年以上続くと考えられる。

この30数年間は、新自由主義、新保守主義のドル全盛時代でもあった。しかし2008年11月13日G20 を前に、フランスのサルコジ大統領は「米ドルはもはや唯一の基準通貨ではない」と言い放った。ルービン財務長官と共に強いドルを推進したグリーンスパン前FRB議長は「100年に一度あるかどうかの金融危機」だといっている。4つの市場(株式、債券、外国為替、国債商品先物取引)は激しく下落した。2008年12月中ごろで、東証の日経平均株価は50%以上低落し8000円以下となった。円・ドルレートは80円/ドルを切った。NY原油はなんと35ドル/バレルとなった。信じられない下がりようだ。エンジンを失った飛行機が急降下しているようだ。本書はこの4つの市場の動きから水面下で起きていることを明確にして、日本経済を再生する方策を考えようと云うのである。

1995年以来國際資本の完全移動性(無国籍性)が実現した事で、資本は国家に対して優位に立ったのだ。「資本は世界を徘徊する」と云うマルクスの予言が名実共に現実化した。1995年ごろには、アメリカは「強いドル政策」に転換して、「すべての金はウオール街に集まる」システムを築きあげた。「アメリカ金融帝国」はこうして100兆ドルの金融資産を増やした。金融工学や金融バブルと云う策略で無から有の金を奪った。その結果が金融崩壊であった。中産階級を相手とした商売でなく、貧困層を身ぐるみ剥いで行く略奪ビジネスであった。まさにハゲタカ稼業である。ヘッジ型金融ビジネスはもともと弾ける事を前提としなければ成り立たないバブル経済であり、言葉は悪いが「強奪詐欺商売」みたいなところがあった。サブプライムローンと新自由主義は、資本ー国家ー国民の三者連合を断ち切ったグローバル金融資本の墓銘碑として永遠に記憶されるだろう。近代資本主義は繁栄への「大きな物語」を信じて、多くの人が中産階級になることが目標であった。それは2008年をもって終焉した可能性が高い。同時に「主権国家の時代」の終焉でもある。資本が国をズタズタに切り裂いた。ついに2008年9月アメリカの五つの投資銀行がすべて消滅した。アメリカの経済構造そのものが「投資銀行」であったので、この時点でアメリカは世界の主役の座から降りた事になる。

近代資本主義とは工業化であり、その仕組みのもとで厚みのある中産階級を生み出すのが近代国家であるとするならば、最も成功したのが日本であった。「日本輸出株式会社」の性格を持つ日本国家そのものがいまや危機に瀕している。日本の株が売られて半分の価値しかなくなった。これは1982年の水準である。ところが激動する市場のなかで微動だにしない市場がある。ゼロ金利政策と日本国債の利回り(10年以上2%以下)である。「国家の退場」の象徴である。世界金融危機に対して各国は財政出動を競っているようであるが、はたして焼け石に水で有効に成長に持ってゆけるとは思えない。政府に対しても、経済成長に対しても国民は期待をもてないのである。まして政党の云うことは全く信用できないのだ。

本書を読んでの第一印象は、大変わかり易いことである。ありえない期待を持つ事をいましめ、数値に基づいた予測をするので絶望することもなく納得させられる。著者水野和夫氏は、80年早稲田大学経済学を終了後、八千代証券(現、三菱UFJ証券)入社、現在は三菱UFJ証券参与である。証券マン一筋というところか。本書を紹介するに当り、サブプライムローン問題とその影響については、春山昇華著 「サブプライム問題とは何か」 、春山昇華著 「サブプライム後に何が起きているのか」 (いずれも宝島新書)に詳しいので、ここではその詳細な説明はしない。

サブプライムローン問題とアメリカ発世界金融危機

2008年9月15日、アメリカ大手の投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻、いわゆる「リーマン・ショック」は世界の金融業に激しい動揺を生んだ。これが危機の第一段階であった。世界中で株式市場から投資資本を引き揚げる動きが加速し(株安)、さらに低金利の日本円を借りていた世界中の投資機関(原油・穀物の投機に投じていた)が、借金を日本に返すために円を買う動きによって急激な円高・ドル(ユーロ)安が進んだ。10月28日東京株式市場は7000円を割りこみ1982年10月の水準に落ちた。ここまで株価が下がるともう実態経済への影響は避けられない。アメリカの投資銀行とは日本の証券会社にあたり、債権業務や投資、M&Aに特化していた。1999年グラス・スティーガル法を撤廃して商業銀行も関連会社を通じて投資銀行業務が認められたので、投資銀行と商業銀行の境界は薄れた。リーマン・ショックの前、2008年3月投資銀行第5位のベアー・スターンが資金繰りに行き詰まり、J・Pモルガンに救済合併された。7月には長い間アメリカンドリームを支えてきた政府系住宅金融機関のファニー・メイとフレデリックが破綻の危機になり、7月30日住宅公社支援法によって公的資金が導入された。このころから、アメリカ政府は金融危機を乗越えられるのか、世界中に疑念が覆い始めた。9月17日保険会社アメリカン・インターナショナル・グループAIGが政府管理下に入った。リーマン・ブラザーズは破綻させておいてAIGは救済すると云うFRBのダブル・スタンダードに世界は大きな疑念を持った。アメリカ政府への不信は、欧州では銀行間取引金利ライボーのスプレッド(政策金利に対するアップ分)は4.5%に上昇し、パニックに近い信用収縮が起きた。金融安定化法は9月27日には否決され、10月3日には成立すると云う政府議会のドタバタはあったが、公的資金として2500億ドルで不良債権の買取が開始された。これでも銀行間取引のパニックは沈静化せず、10月10日ワシントンで開かれたG7ではアメリカ救済策は出なかった。市場は、G7が助けられないほどアメリカ政府が追い込まれ後手後手に廻っているのを見て、アメリカは金融システムに対する危機管理能力を持っていないのではないかと疑念をますます深めた。

「リーマン・ショック」の結果、アメリカの金融業界の地図が一変した。5月に第5位のベアー・スタンズは救済合併され、9月に破綻した第4位のリーマン・ブラザーズは野村證券と英国バークレイズが分割買収し、第3位のメリルリンチは9月15日バンクオブアメリカに買収され、第1位のゴールドマン・サックスと第2位のモルガン・スタンレーは商業銀行へ形態転換した。こうしてアメリカの五大投資銀行はすべて半年の間に消滅した。世界に君臨していた「アメリカ投資銀行株式会社」、「アメリカ金融帝国」の中核だった五大投資銀行が潰えたのは。大変深刻な状況で、一つの時代の終焉を意味していた。アメリカの「新自由主義・金融経済・ドル一元支配」という経済政策の考え方が、ここで役目を終えたのである。これが危機の第二段階であった。

アメリカに発する金融危機の震源地であった「サブプライム・ローン問題」のメカニズムは、詳しくは春山昇華著 「サブプライム問題とは何か」を参照するとして、その意味を意義を簡単に振り返っておこう。今回の金融危機は資本主義誕生以来の最大の危機であるが、実体経済へ与える影響は、1929年の大恐慌の状況とは違い(すでに対策済みなので)それほどは大きくならないだろうと予想される。今回の危機が示すものはそういうことではなく、資本主義が抱えている構造自体が大きな問題をはらんでいることである。1995年クリントン政権で就任したばかりのロバート・ルービン財務長官は強いドル政策を打ち出します。すると当時世界の金融資産と名目GDPの比が2.17であったのが、2007年には3.45にまで一直線に拡大した。これは遥かに金融経済が実物経済を圧倒する状態を意味する。浜田和幸著 「石油の支配者」(文春新書)においても「原油先物取引では実需の数十倍から数百倍の石油市場を仮想原油といい、そこで賭博が行われるのである。」といっている。16世紀に成立した資本主義では資本と国家と国民の三者が根本の利益で一致することを前提としていた。ところがサブプライムローン問題は、資本が国家と国民に対して優位に立ったというか離れてしまったことである。サブプライムローンの投資家は自分の行為がアメリカの国家や国民にとって良い事をしていると云う認識はなかった。むしろ裏切り行為だと云う認識であった。確信犯の犯罪行為であることは薄々分っていてやった。そういう意味でサブプライムローン問題は資本主義の成立以来資本と国家,国民との三位一体関係をぶち壊したことが最も大きな意義といえる。

アメリカの消費ブームの背景にはかならず住宅ブームがある。アメリカの住宅価格の上昇はバブルだとわかっていて引き返せない資本の宿命である。返済能力の怪しい貧困層に住宅を売って、住宅ローン会社は住宅ローンを投資銀行に売って、「住宅ローン担保証券」MBSに証券化する。そして他の証券と混ぜ合わせてリスクを低減(隠く)した「債務担保証券」CDOに変える。そして格付け会社が提灯持ちよろしく「スリーA」の信用を与えるのである。そもそもCDOはリスクが見えなくなっている。CDOをつくった人は早く売って早く逃げようと考えていたのだろう。さらに手の込んだリスクヘッジ(回避)として、保険をつけるクレジット・デフォルト・スワップCDSを生んだ。その金融商品の保険会社モノラインも住宅ローンが焦げ付き始めると、CDOが損失を生み、CDSを売った保険会社では支払うべき保証金が膨らんで破産したのである。アメリカの住宅ローンは約10兆ドル、そのうちサブプライムローンは約1兆3000ドルといわれる。最初から住宅価格の上昇を前提にしていたサブプライムローンは、低所得者に無理なローンを組ませ、返済不能となるや、彼らから住宅を剥ぎ取った。アメリカンドリームでアメリカにわたってきた移住者を中心とする低所得者の夢を打ち砕き、アメリカ社会に深い傷あとを残した。ベトナム戦争敗北以来のアメリカ社会の癒せぬ傷である。

「アメリカ金融帝国」の誕生から終焉まで

1960年以降のアメリカ経済を振り返ろう。ジョンソン大統領は福祉国家と軍事国家の両方を、「大砲もバターも」という政策を進めたが、ベトナム戦争は泥沼化し財政支出が増えインフレが加熱した。1971年ニクソン大統領は貿易赤字が増え金交換に必要に迫られると、ドルと金の交換を停止し「変動相場制」に移行した。これを「ニクソン・ショック」という。国家が「大きな政府=福祉国家」と金本位制を維持することができなくなったのである。そして1973年石油ショックがおきてインフレと不況が同時におそう「スタグフレーション」に陥った。もはや財政支出による景気対策と云う、ケインズ主義の「大きな政府」を続けるのは無理だと云う事態になった。全体のパイ(GDP)が右上がりになる時代は去り、そのしわ寄せは労働側に寄せられた。福祉国家を転換し、労働側への分配率を下げると云う「新自由主義」の時代になった。「努力する人は報われる」(報われない人は努力しない人と云う差別・格差社会)と云う考え方である。1974年ごろに先進資本主義国は高度経済成長の一つのピークを過ぎた。長期金利も企業の利益率も停滞し始めた。実物投資による利潤率は以降30年間以上下がり続け、何をやっても利益が上がらない低成長時代から抜け出す事は殆ど不可能となった。そもそも資本主義は常に外へ外へ拡大して成長する経済モデルであった。軍事力を背景とした膨張主義による資本拡大の時代は終了した。新自由主義ではマネタリズムが台頭し、マネーサプライをコントロールすることによって、インフレの抑制、長期金利の低下に成功した。

1970年代後半になって、経済学はハイエクやフリードマン全盛時代となり、政府より市場のほうが正しい資源配分が出来ると考えるようになった。だから政府の介入を出来るだけ少なくしたほうがいいとする新自由主義が政策の中心を占めた。これはつまり福祉国家を目指す事をやめ、労働分配率を下げ、資本側のリターンを増やすことです。しかし1985年の「プラザ合意」での円高ドル安政策は失敗し、1987年「ブラックマンデー」を招来した。この1980年代はまさに「日本産業株式会社」の一人勝ちで「シリコンバレー冬景色」と歌われたものだった。1995年ルービン財務長官が強いドル政策に転換し、経常収支は赤字のままでそれを上回る資金を世界中から集めて、消費生活を維持しそれを再び新興国へ投資することで利潤を上げた。この「マネー集中一括管理システム」により、アメリカは「アメリカ投資銀行株式会社」となり、「アメリカ金融帝国」となった。こうして日本が土地バブルによる後遺症の金融再編成に悩んでいる間に、アメリカは金融ビックバンによる新自由主義の全盛時代を迎えた。

IT革命と共通の会計基準・総資本利益率によってアメリカは金融グローバルスタンダードを目指した。アメリカは長い間のジレンマである「経常赤字の増加は成長の足を引っ張る」を蹴っ飛ばして、強いアメリカドル(ファンダメンタルが強ければ世界中はアメリカに投資する)から出発した。経常収支は赤字でもマネーフローさえあれば消費大国としてアメリカ生活は維持でき、新興国に投資して高いリターンを得ることが出来るという論理である。実質経済よりキャピタルゲイン(財テク)で生きようとしたのだ。ジェネラルエレクトリックGE社の金融革命がその変化の典型であった。しかも実物経済に比べキャピタルゲインは高利回り商品に投資し回転を高めると、金融資産は実物経済に較べて遥かに速いスピードで増加することが可能である。2001年よりBRICsに焦点を絞った投資となった。1987年自己資本率に関する国際基準BISでは、普通銀行は自己資本率を8%以上にすることが義務つけられている。これでも自己資本の12.5倍の投資が許されるのであるが、投資銀行にはそもそもこの自己資本率基準の適用はない。低金利の円を借りれば無限大のレバレッジが可能である。日本の低金利政策がアメリカの新興国へのレバレッジ投資を後押しした。実物経済では最高の成功をなした日本であったが、アメリカの金融政策に日本円が実に有効に利用されたのである。日本は1999年2月よりゼロ金利政策をとり量的緩和策でマネーサプライを増やそうとしました。1998年アジア通貨危機の翌年にはアメリカの一人当たりのGDPは再び日本を上回るようになった。

この「アメリカ型金融帝国」モデルには隠された秘密がある。アメリカの投資の有り方が完全にバブルうを前提としたモデルに立っているからだ。たとえば「アメリカ投資銀行株式会社」が1兆ドルを借りて、7000億ドルを経費や賃金に費やし、残った3000億ドルを海外投資に廻したとする。ここに経費や賃金と云うのは「経常赤字」に相当する。極めて高コストなおかしな会社であるが、4000億ドルから1兆ドルを返すには投資先から3倍から4倍のリターンが必要である。そんな利潤が得られる投資とは実物経済ではありえない。必然的にキャピタルゲインしか方法はない。こんな高い収益構造は投資先の海外でバブルを引き起こすしか手は考えられない。古い資本主義経済学では金融経済は実物経済の動向で決まる付属物と考えられてきたが、しかし金融資産の膨張によって実物経済の数倍の規模で動いているので、逆に金融経済が実物経済を振り回すようになった。金融資産の価格が下落すると、実体経済は不況に陥るのだ。アメリカは金融機関を救済するために公的資金を導入するといっているが、それは国債に頼ると云うことだ。2008年度のアメリカ財政赤字は4548億ドルである。2004年新規国債発行高が年間平均4000億ドルとなって以来、買っているのは94%が外国である。第1位はイギリスで1850億ドル、第2位は中国で730億ドル、第3位はブラジルで350億ドル、日本は僅か30億ドルだ。アメリカには新規国債発行の引受能力も償還のあてもない。値下がりがわかっているドル建てのアメリカ国債を,アメリカ金融システム安定化のために引き受ける国はもうないだろう。G7,G20のサミットでそれが示された。アメリカの対内対外証券投資の収支を見ると、2007年までは外国からの資金流入が優っていた。しかし2007年後半から逆転し、外国の資金回収がプラスとなり、資金流入はマイナスとなった。もうアメリカに投資する流れが途絶えた。そうするとアメリカは国民が消費を減らし生活レベルを落とさざるを得ない。次期オバマ政権の経済成長率は2009から2012年まで年平均マイナス0.6%と予測され、2009年のアメリカの財政赤字は1兆ドルとなる見込みである。G7というアメリカ追随国会議の役目は終った。そうなると世界金融経済の主役からアメリカが降りた後、だれも主役になる国はいない。いわゆる「無極化」へ向かう。

しかし投資銀行は残ったとしても活躍の場はない。これ以上の金融緩和は考えられないからだ。ヘッジファンドのレバレッジも普通銀行なみに12.5倍以下にする規制も考えられている。今回の金融危機で国家と国民の傷は大きかったが、金融資本は儲けた100兆ドルの資産を持っている。この資本が次に向かう先はBRICs諸国への投資、新興国・EUの実物経済への投資であろう。先進国10億人では1%の成長率ではたいした利益は上がらない。しかしBRICs相手だと30億人を対象に7%の成長が期待できる。すなわち先進国より21倍のリターンが期待できるのだ。又途上国全体で7%の成長率を見込めば10年間で世界のGDPは2倍となる。そうすれば新興国の実物経済が膨らんで、金融経済と実体経済のバランスを取り戻すことになるだろう。政治的に安定している4億のEUやトルコも魅力的な市場である。

世界はいつ不況から脱出できるか、日本の生きる道はどこか

実体経済への影響は2008年11月より深刻化してきた。これが危機の第3段階である。実体経済への影響は象徴は自動車産業である。アメリカが金を借りられないとなるとまず耐久消費財である住宅と自動車産業が直撃を受けることは必至である。米国自動車産業のビックスリーである、GM、フォード、クライスラーは1000万台の需要(日本国内需要は2008年度は500万台と1980年に戻った)では再編され、ビッグスリー体制は崩れるであろう。公的資金注入が検討されており、事実上の国有化になりかねない。銀行の国有化をはじめ、自動車会社も国有化すれば新自由主義は何処へ行ったの、社会主義になったのだろうか。アメリカの不良債権はいつ解消されるかといえば、それは住宅価格がどこまで下がるかできまる。銀行の不良債権では名目ベースの住宅価格が決定するのだが、住宅価格傾向線の延長線上より2008年度は40.2%も高い状態である。2002年度レベルの乖離率に戻すには名目ベースでは29%下がる必要がある。下落ペースを年10%とすれば3年ほどで下げとまる事になる。不良債権処理には3年ほどかかり、1兆2700億ドルの不良債権処理になりそうだ。IMFの報告では金融機関の損失は1兆4050億ドル、既に損失処理されたのが6330億ドル、半分以上は未処理である。しかし住宅価格の低下を29%とみたが、若しこれが40%も下がるなら損失2兆ドルを超え、アメリカ全銀行の株主資本1兆3000億ドルを超えることになる。。

アメリカ国民の可処分所得は10兆2000億ドルで、新規融資を年平均で1兆1000億ドルを受けていた。ローンで10%程度生活レベルを上げていたのだ。ところが2008年5月期には銀行は融資を停止し、アメリカ家計は借金ができなくなった。すると所得を返済に回して消費生活はどんどん落ち込んでゆく。アメリカの過剰債務(住宅ローンを可処分所得で割って、ベースからの乖離)は2007年度で3兆8000億ドルである。1兆3000億ドルを不良債権とすれば、アメリカ国民は2兆5000億ドルを返済してゆかなければなりません。それには5年位かかると予想される。アメリカのGDPに対する個人消費率は2005年で76.5%であったが、過去の平均は71.6%で5%も生活が膨らんでいた事になる。額にして3兆5000億ドルである。その金額は先ほどの過剰債務と同じである。つまり地価の値上がりを担保に借り入れをして、それを住宅と消費に回していた構図が明らかになった。従ってアメリカ人がどこまで生活レベルを落とす事ができるかが実物経済の影響が解消する時にかかっている。

日本は「輸出立国」を宣言して経済成長してきたが、その成長は実はアメリカの個人消費支出に支えられてきた。GDPに対するアメリカの個人消費率の上昇と、日本の輸出率の上昇はぴったり一致するのである。また日経平均株価のドル建ての動向とNYダウの動向もぴったり一致している。つまりアメリカ金融投資株式会社と日本輸出株式会社は連結決算会社なのであった。アメリカ経済と日本経済はコインの表裏であった。したがってアメリカ資本の日本株の換金が一段落した時が日本の株式の回復期になる。アメリカが借金を返済した時に日本の株式が回復する。なぜなら日本市場の外国人投資家シェアーは6割から7割であるので、アメリカの株式動向は日本の株式動向と一致するのである。日本の産業の連結利益は、決算海外子会社で6-7割、北米だけで5割であるので、アメリカの金融損失が3割であったので、最大5割の利益が吹っ飛んでしまったのである。グローバル化というのは、損失というリスクを負っているのである。いい事ばかりではない、悪い事がリスクなのだ。こうして日本の株式価格は2008年春の東証株価1万8000円台から、あれよあれよいう間に12月には8000円台になり82年以来の水準に落ち込んだ。この20数年来の努力は一瞬で空しくなった。これから日本には雇用切り捨てによる就職氷河期、円高による輸出産業への影響、中小企業の経営難、賃金低下、社会制度というセーフティネットへの影響が襲ってくる。

そこで必要な方向を考えよう。1986年には日本の輸出に占めるアメリカのシェアーは37%だったのが、2008年には20%まで低下し、アジア向けは26%から48%へ増えている。しかしアジア向けは最終的にはアメリカ向けになる。これから日本が本当に成熟した形で輸出立国を目指すなら、新興国の中産階級をターゲットにする必要がある。そうした実質成長経済の地域と一体化することが、本当のグローバル化でしょう。資金面では日本は欧米に一歩遅れている。だから高い技術力で勝負することである。日本産業は2002年度からの景気拡大過程で二極化が進行した。電機・IT産業・鉄鋼・自動車産業の「グローバル経済圏企業」では年率9.7%成長をあげ、一方中小企業や非製造業の「ドメスティック経済圏企業」は年率1.7%のマイナス成長であった。政府による中小企業融資などという姑息な手段よりも経済構造を変える取り組みが必要である。つまりグローバル化に繋がる産業育成が大事です。まず円高対策のために輸出産業への減税が一番緊急政策となろう。「バラマキ政策」、「公共投資」という財政出動はもう効かないことを認識すべきです。


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