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浜田和幸著 「石油の支配者」

  文春新書(2008年10月)

2008年石油価格急騰の仕掛け人は金融資本と産油国である 

原油先物取引価格の変遷
原油取引価格の変遷

東証株価と円・ドル為替の変遷
日経平均株価と為替の変遷

本書の紹介に入る前に最近の原油先物取引価格、東証株価と円ドル為替相場の変遷をグラフに示す。また2008年11月12日の朝日新聞はこう伝えた。「NY原油、終値60ドル割れ 1年8カ月ぶり 【ニューヨーク=丸石伸一】11日のニューヨーク商業取引所の原油市場は、国際指標となる米国産WTI原油の先物価格の終値が前日比3.08ドル安の1バレル=59.33ドルと急落し、終値では07年3月下旬以来約1年8カ月ぶりに60ドルを下回る安値をつけた。」 このバレル60ドルがまだ高いのか、まだ下がるのかは本書の中で明らかにしてゆきたい。それよりも先ず上の二つのグラフより、石油先物価格と日経平均株価とドル安(円高)は見事に連動している事である。2007年中頃からドル相場は低下しはじめ、連動して株式も暴落を始めた。そしてじわじわと原油価格が高騰し、2008年より原油価格は急騰した。偶然の相関といってしまうにはおしいほどの三者の一致を見れば、ひょっとしてこの三つの現象の根は同じだと理解するほうが分りやすい。その理由は素人の私でも大体想像が付く。石油価格はドル建てであるので、ドルの信用が低下しても原油価格が上がればアメリカにドルは流れ込む。従って石油価格を上げればよい。株式市場から資金を引き揚げて原油や穀物、金といった先物取引市場に資金が流れたのであろう。サブプライムローン破綻以降の金融資本(ヘッジファンド)の悪あがきであろうとわかる。まさに略奪金融資本主義である。2008年秋以降あれほど高騰した原油価格は急落し60ドルをきるまでになった。しかしドルの相場は相変わらず低迷して、株式市場への資金への流入は再開されていない。ヘッジファンドや金融資本の先物取引への資金が尽きたとも思えないが、これは石油価格高騰がアメリカと世界の経済全体を絞め殺しては、宿主がいなくなってしまうのでブレーキがかかったというべきであろう。一度石油価格を落として消費意欲が出てきたところで再度値を吊り上げるつもりかもしれない。またアメリカはとんでもない戦争を用意しているのだろうか。いつも世界は覇権国家アメリカのご都合政策で翻弄される。

春山昇華著 「サブプライム後に何が起きているのか」 宝島新書(2008年4月)に、信用破綻したアメリカ金融資本の今後の行方が論じられている。ここ20年の米国国債(10年)の金利を見てみると1984年に14%であった金利は長期的な低下トレンドであり既に4%以下である。そして株価市場NYダウは20年間上昇相場を形成した。金利の低下は住宅ローン金利の低下となって住宅ブームがおき住宅価格は上昇した。金利の低下は企業の資金調達にかかるコストを下げ業績を飛躍的に向上させた。企業は潤沢な資金をもっており、ビジネスターゲットは企業から消費者へ移行した。金融技術が著しく発展し証券化という手法で、消費者に住宅や高マージンの金融商品を売りつけたのである。2007年度は金融業界にとって、住宅バブル、証券バブルを謳歌した2006年度の天国から一転して地獄へ突き落とされた年になった。2007年の証券化ビジネスは好循環からあっという間に悪循環に変わる地獄を体験した。米国経済は住宅価格の上昇によって、住宅ローンが多く組まれて証券化商品の価格が上昇した。それが証券化商品への投資利益を生んだ。同時に証券化商品の価格変動が少なかったので、証券化商品の規模が増大して、証券化商品の信用・価値が著しく増加したのである。それが「いけいけどんどん」の好循環バブルとなった。ところがこれが逆回転しはじめたのである。バブル崩壊である。一度値崩れをすると証券化商品の大量売り圧力となった。待ちは無い、脱兎の如く売り抜こうとする。皆が逃げ出す、誰も買わない、誰も金を貸さない証券化商品となった。薄い金利差を大きく見せる手法がSIV、ABCPを使った「レバレッジ」という「鞘抜き」ビジネスである。これもすべてがうまくいった場合に限るのである。どこかでつまずけば損失も梃子の原理で拡大する。2006年度まで世界の金融市場は@アメリカの証券化資金 A中国の貿易黒字 B石油ガス生産国の貿易黒字で積みあがった余剰資金で支えられてきた。証券化バブルが崩壊した今日、レバレッジ手法は減少するだろう。黒字を溜め込んだ国が新しい金持ちになる

2008年9月リーマン・ブラザーズが倒産した。メリルリンチも救済合併に陥った。2008年初頭五大証券のうち3社がサブプライムローン危機で倒産したように金融機関牡の倒産はすばやい。株式市場は大荒れになって、石油・国債・金に資金が流れているのである。原油価格は2007年1月バレル50ドルで取引されていたが、2008年1月には100ドルとなり、7月には147ドルが記録された。9月には100ドルに沈静化し、11月には60ドルを割っている。日本は1日平均540万バレルの石油を消費しているので、バレル50ドルから100ドルにあがると1年間に約10兆円余計に支払った事になる。日本経済の脱石油体質が浸透しているので、GDPに対する石油代比率は数%である。しかし原油だけでなく先物取引商品の高騰は穀物・金属などにも飛び火した。バターや小麦粉まで日本の食品価格はあがって消費者物価指数は横ばいから上昇へ転じた。なぜこれらの現象が今起こったのだろうか。それを解き明かすのが本書の役割である。過去石油ショックは4回あった。1973年第4次中東戦争を契機として第1次石油ショックが起こり「トイレットペーパ買い付け騒ぎ」がおきた。バレル3ドルから12ドルになった。とんでもない反応を起こすのが恐慌である。1979年イラン革命が起きてイスラム教国が誕生して、第2次石油ショックで石油価格は40ドルになった。1990年湾岸戦争で第3次石油ショックが起きて、バレル50ドルの時代となった。そして2007年より2008年にかけて、今回の第4次石油ショックでバレル100ドル以上に高騰した。第1次から第3次までの石油ショックは全てアメリカの戦争による計画的石油価格高騰で説明が付くが、今回の第4次石油ショックは中東の戦争・政変がない。今回の石油価格高騰の主役は「石油投機筋」という商品先物市場の仕切り屋と石油メジャー、産油国の共演である。実需の数十倍から数百倍の石油市場を「仮想原油」といい、そこで賭博が行われるのである。恐ろしい世界である。本書は1.石油投機マネーの世界、2.石油資源開発、3.日本の対石油戦略にわけて考察する。

著者の和田和幸氏は経済学者と云うことになっているようだ。東京外国語大学中国語科卒業、米国ジョージワシントン大学大学院でドクター取得、現在「国際未来科学研究所」代表と云うことである。「近未来学」と云う当らない事で有名なシンクタンクらしい。この人については情報不足である。著作業なのか本当は何で飯を食っているのか関知しない。著書は文春新書に「ヘッジファンド」がある。

1.石油投機マネーの世界

今回の石油価格高騰の犯人と指摘されるのが「投機筋」である。投機筋は本当に頭がいい。石油はだぶついているのに戦争で供給不安の噂を流して値段を吊り上げるのが常套手段である。アメリカのブッシュUは石油メジャーの代理人であり、彼らの利益のために実際に戦争を起こすのである。9.11謀略説はその好例である。アフガン戦争でユノカル社の顧問であったハミド・カルザイを大統領につけることでユノカル社のガスライン権益とアフガニスタン支配が出来た。イラク戦争で石油権益は全てアメリカの石油資本の手に落ちた。利益を得た者が真犯人であると云う犯罪学の鉄則によれば、アフガン・イラク戦争はアメリカの石油資本がブッシュUをけしかけたよいえる。原油高騰の70-80%は投機筋の仕業であるというのが結論だ。投機筋とは、ヘッジファンド、投資銀行、年金ファンド、大学退職金基金、各種財団、個人的富裕層、そして政府系ファンド(国富ファンド)のことである。今回の取引はインデックス投機筋による一方的買いの注文で、売りがなく長期保有を狙った買いである。2008年3月には先物取引に投資した資金は2600億ドルである。このため25の主要商品は183%も上昇した。彼らが買い集めた原油は11億バレルである。同じ手法でトウモロコシや小麦も買い込んだ。アメリカの需要の2年分を買い込んでいる。その目的は長期の商品先物市場価格のコントロールである。金融市場は世界全体で44兆ドルと膨大である。先物市場は確かに小さいが故にコントロールしやすいのが投機筋の読みであろう。ブッシュ政権の実質大統領といわれたチェイニー副大統領は「投機筋は先物市場で欠かせない存在だ。市場に自由に資金を投入する事で市場の健全性が保たれる」と投機筋の暗躍を促す発言をしている。これにはアメリカの金利政策が絡んでいる。2008年5月には金利は遂に2%になった。金利が下がったので、ファンドはハイリターンを求めて金融商品や先物市場に殺到した。

そしてドルの交換レートが下がれば、産油国としては原油価格を上げざるをない。なぜなら原油の取引はドル建て(ペテロダラー)が原則だからだ。ブッシュの進めたドル安政策が原油高騰に一役買っている。アメリカは石油コストが低いのでペイしないと油田開発を怠ったままここまで来た。国内には多くの油田は眠ったままである。ブッシュ一族が関与する石油ビジネスの利益を手っ取り早く上げるには、供給量を制限して価格を上げるに限る。イラク石油を押さえて供給しないのはブッシュUの政策である。国際原油価格はアメリカのウエスト・テキサス州のWTI原油価格で決まる。それはニューヨーク商品取引所(NYMEX)とロンドンのICEで取引される。ICEはアメリカの大手投資銀行ゴールドマン・サックスが支配している。けっきょくゴールドマン・サックス が商品インデックスを介して原油価格をコントロール下に置いている。そして産油国と投機筋が水面下で手を組んでいるとしたら、これはもう出来レースである。国際石油業界は従来欧米資本であるエクソン、シェル、BPといった7社が業界を仕切っていた。いまやロシア、イラン、サウジ、中国、ブラジル、ベネズエラ、マレーシアの政府系石油会社が仕切っている。原油は投機商品であるとともに「政治商品」である。もともと採掘原価はバレル1−10ドルである。彼らは原油を20ドルで手に入るのである。日本だけがアメリカの言い値で120ドルとかの価格で買っている。アメリカの石油市場に呪縛された日本だけが高値をつかまされているのである。

現在世界には40を越す政府系国富ファンドSWFがあり、その60%が産油国のSWFである。SWFの総資産は5兆ドルになるといわれる。ヘッジファンド総資産1兆6000ドルよりはるかに大規模の資本を有している。中でも中国の投資ファンドCICは別名「紅いハゲタカ」といわれる。サブプライムローン破綻後のアメリカ大手証券会社の株を10%ほど取得した。シティやモルガンスタンレーなどに融資して、中国はまさにアメリカを買い占めているのである。SWFは一切情報を公開しないので実態がつかめない。氷山の上に出てきた時はすでに買占めが終った時かもしれない。ブッシュUの親父ブッシュ・シニアーが顧問を務める、投資顧問カーライルグループがある。プライベート・エクティ・ファンドで個人富裕層の金を動かして325億ドルの資金で世界中のめぼしい投資案件を仕切っているようだ。2001年9月11日同時多発テロの当日、サウジアラビアのビン・ラディングループに投資説明会を開いていた。アメリカがテロの首魁とするオサマ・ビン・ラディンはその一族の息子である。このことから9.11事件は謀略といわれ、ブッシュUとオサマ・ビン・ラディンの組んだ猿芝居とも言われている。目的はアメリカのイラク原油の確保とサウジとの山分け、そして付随的に石油高騰による儲け話であろう。中国のCICはそのカーライルグループの買収にも乗り出してきた。

投機筋に巨額な金を融資し、原油高を一層煽っている産油国ファンドの実態がある。全世界の投機マネーは170兆ドルとも言われている。投機筋とは、ヘッジファンド、投資銀行、年金ファンド、大学退職金基金、各種財団、個人的富裕層、そして政府系ファンドSWF(国富ファンド)のことだと先に書いた。ヘッジファンドのマネーは1兆ドルといわれるが、レヴァレッジ効果(梃子原理)を働かしているので、実勢は良くは分からないがその100-1000倍の金が動いている。投機筋に日本の金融商品の金が流れている。日本の金が石油高騰に手を貸して自分の首を締めているようなものだ。アメリカの市場には日本以外からも膨大なマネーが集まり、有利な投資先を求めてさ迷っている。数年前までは不動産市場に、次はIT バブルに、そしてサブプライムローン危機以降は先物取引(コモディティ)市場へ向って、原油バブルとなった。SWFとくにイスラム金融「シャリアファンド」で総資産は1兆ドルを超えた。SWFの資金を原油市場に投資して高値を煽り、そして中東に膨大なオイルマネーが流れ込むと云う自己増殖サイクルである。

アメリカは約53兆ドルという天文学的な累積債務を抱て破綻しないのは、ドルが世界中から流れ込むからだ。キャッシュフローがあれば倒産しないという自転車操業、綱渡りである。だから投機マネーには一切規制しない態度を貫くのだ。世界の原油生産は日産8500マンバレルで推移している。ところがWTIの原油先物取引量はその8倍近い量を取引している。ありえない需要を動かす。WTI原油先物市場総額は約1900億ドルで東証株式総額が4兆ドルである事に較べれば大きくはないから、動かしやすいとも言える。原油価格を動かしているのはアメリカの金融戦略である。第1次石油ショックの真相を知る人は少ない。1969年アメリカは深刻な景気後退局面に陥った。ドル売りから金融パニックとなった。1971年ニクソン大統領はドル・金の交換を停止し、1973年ドルの10%切り下げを断行した。ドルの信用が低下して世界の金は欧州と日本へ流れた。1973年10月第4次中東戦争が起きたので、原油価格は4倍に跳ね上がった。このオイルマネーはそっくりアメリカに還流し不動産や株式に吸収された。見ようによっては、アメリカの経済状態を救うために中東戦争が計画され、原油高から上がった金がアメリカに還流する事でアメリカは経済破綻から救われたといえる。この筋書きを書いたのがキッシンジャー国務長官であった。そして原油取引はドルに限ると云うペトロダラーが始まった。第1次石油危機は非産油国の原子力発電への傾斜を強めた。石油のみならずドルからの独立を目指す動きであった。1978年欧州ではEMSという欧州通貨制度へ向けた第1歩が始まった。世界中がアメリカに背を向け始めたのだ。まさに自業自得であろうが、さらに危機感を深めたアメリカは第2次石油危機を作り出した。1978年アメリカ政府のイラン政策が変更され、パーレビ国王に対する支援を打ち切りフランスにいたホメイニ師を呼び戻す事を決定した。これは中東を分断して混乱を常態化する植民地支配の王道である。ホメイニ師は原油削減を宣言し、原油価格は高騰した。このイラン政変で損をしたのがソ連と日本の石油利権である。撤退せざるを得なかった。また原子力発電で脱石油をはかる日本など非産油国をけん制するため、1979年スリーマイルズ島の原発事故を誘発した。9.11事件謀略と同じ手口である。結果としてアメリカは原子力発電から遅れ、いまだに原油に依存する経済システムから逃れられないのである。これも暴力の効果に酔いしれたアメリカは結果として経済が停滞しドルの信用を落とすので自業自得というべきであろう。何回やっても麻薬的効果でしかないことを自覚して正業にもどるべきではないか。1980年代に日本は今の中国のように、実業で世界一になったが、1990年バブル崩壊でアメリカから冷水を浴びせられた。浮かれた日本人と云う定評がたったが、実はこの日本のバブル崩壊を仕組んだのがアメリカであった。円高ドル安でアメリカの不動産投資と企業買収に走らせた。そして湾岸戦争で、第3次石油危機が演出された。イラクをクエートにけしかけたはアメリカ大使であった。アジア市場から日本を追い出すために仕組まれたヘッジファンドによるアジアの通貨危機、アメリカのドル依存から逃げ出そうとする途上国の債務取り立て、ソ連に近かづいて資源開発を進めた日本への報復がアメリカの本音であろう。

2.石油資源開発競争

石油は無限にあるのか、有限な資源なのかと問われれば、多くの人は有限であると答えるだろう。また石油の起源を有機物堆積(化石燃料)によると考える人は多いが、実はその根拠が意外とないのである。いままで温泉は火山地帯だけに噴出すると考えていたが、深く掘れば温泉は大都会の地下からも湧き出すのである。近年都会で温泉スパーが増えたのはそのせいである。しかし堀窄コストは高くつくが。常識はいつも覆されるので信じて馬鹿を見ることのないように。石油についても有限な資源からくる「ピークオイル説」が主流である。ところがロシアでは石油無機生成説で深く掘ればいくらでも出ると云う「石油無限説」が有力である。

「ピークオイル説」は、石油価格は指数関数的に上がるといわれ、いつも産油国や石油メジャーが膨大な利益を上げるために流布されてきた。有限である石油をめぐる世界的な争奪戦はアメリカの「テロとの戦い」と云う隠れ蓑に覆われて、油田の権益確保を目的とした帝国主義的略奪であった。そのため世界中の学者やシンクタンクを総動員して「ピークオイル説」で世界中を洗脳してきたが、産出量は釣鐘状にピークを描いて下降する運命にあると云う理論(ハバートモデル)は、石油産出量は1980年以降下降せずに一定値である事実からして、見事に破れている。新油田の開発があったからだと言い訳をしているが、少なくとも予言は外れた。今インド、ペルー、ブラジルで新油田開発が盛んである。「ピークオイル説」の主張する石油埋蔵量は1兆2000億バレルに対して、3兆7400億バレルと予想する人もいる。国際エネルギー機関IEAも楽観的な見通しを持っており、「ピークオイル説」を信じてはいない。IEAは原油や天然ガスに代わる代替エネルギーは10兆バレルは可能出ると云う。これで200ー300年は大丈夫と云う計算である。代替エネルギーの中心は軽質オイル以外のオイルで、採掘コストと環境コストが重要である事は論を待たない。技術開発が要求される事は当然である。また北極圏に無尽蔵な石油があるといわれ、今からロシアとの熾烈な競争が始まった。

最近言われだしたロシアの「原油無機説」は注目に値する。「原油有機説」を否定するものである。げんゆは地球のマグマに近い超深部で無機的に合成され、マグマに推されて地球表面に押し出されてくると云う説である。1995年のニューヨークタイムズ社の取材に、「有機起源説は石油の価格を永久に上げ続けようとする西側石油資本の陰謀である」とまでロシアの学者は言い切る。ロシアでは軍事技術から転用した超深度掘削技術を利用して新油田を開発してきた。ドニエプル・ドネッツ油田開発に成功した。又この技術をベトナム沖のホワイトタイガー油田開発に生かしてきた。メキシコ沖ユウジンアイランド330油田開発もその好例である。これに力を得たロシアのプーチンは強気の国策資源開発政策を打ち出し、日本や外国資本との共同開発をキャンセルした。これに危機感を抱いたアメリカは東欧にミサイルやレーダ基地をおいてロシア包囲網を作りつつある。まさかロシアに攻め込むつもりはないだろうが、一角を切り崩すためグルジア紛争では大いに干渉している。

石油埋蔵量データや石油将来需要予測データは実にいい加減な数値である。信用してはいけない。2004年アメリカ政府は今後の石油需要は年率2.4%で増加するといっていたが、2005年の集計では3.5%の実績であった。これでは経済予測も出来ない。OPECなど多くの産油国では外国の調査会社を締め出し、自国の機関で埋蔵量などのデータを独占している。闇の中の数値である。石油埋蔵量は蜃気楼のように前へ前へと遠ざかる。IEAとOPECのデータがいつも食い違うのはしかたがない。産油国やアメリカなどが原油高というマネーゲームにうつつを抜かして、地道な石油精製プラント能力の整備を行ってこなかったため、産油量より精製量がネックになっているのである。それも産油国の狙いなのかもしれないが。

石油をめぐる熱き戦いは中東からロシア、中国、アフリカに重心を移しつつある。アメリカの謀略機関はこの地に紛争の種を作るべく虎視眈々と狙っている。グルジアにロシアが侵攻したのは、カスピ海の天然ガス輸送パイプラインをトルコを経由しないで黒海に持ってくるためである。1980年代のソ連のアフガニスタン侵攻もやはりガスパイプライン確保を狙ったものだ。これはアメリカの謀略機関に巻き返され、ソ連邦崩壊の元を作った。今回のグルジア侵攻は、ロシアが持っていたイラク内の油田開発権益を、イラク戦争で見事にアメリカとイギリスに奪われた仕返しでもある。東欧と西欧はロシアの天然ガスパイプラインで生活しているといって過言ではない。天然ガス産出国との連携を強めOPECのような「天然ガス同盟」を画作しているようだ。もうひとつの火種は中国の石油覇権である。年率GDP成長2桁を続ける中国は、産業用と自動車用に大量の石油を必要としている。尖閣諸島の海底油田開発とアフリカ原油獲得に努めている。アメリカと中国は今やアフリカの油田をめぐって激突している。原油生産量は世界の12.5%sであるが、油田開発が進めば3分の1はアフリカ原油になるだろうといわれている。安定した国家がないのがアメリカの付け入るもとである。アメリカ国防省は「アフリカ軍司令部」を設け、本格的なアフリカ進出に乗り出した。アフリカのどこかで戦争が起きる日は近い。ナイジェリアの国民にとって原油の発見は悲劇と不幸の始まりである。石油権益の殆どは欧米資本の独占で、僅かのおこぼれが国内部族の長と腐敗役人の手にはいるが、圧倒的な国民は石油の恩恵にあずかれず相変わらずの貧乏と環境破壊に泣いている。中国は格安石油を確保するため、いまや60万人の人民軍をアフリカに常駐させている。さらに3億人の移民計画をもっているらしい。アフリカで新冷戦が展開している。

3.日本の対石油戦略

地球温暖化問題は東西冷戦構造が崩れた際に、その空白を埋めるために生まれたグローバルなテーマであった。それはEUがアメリカに対して仕掛けた高等戦術でもあった。アメリカの石油政策を制約する新たな手であった。ところがアメリカのエネルギー企業「エンロン社」が排出量取引をビジネスにするための策謀と云う面が強い。エンロン社は1990年代初め「硫黄酸化物排出権取引市場」を開いた。ゴア副大統領は炭酸ガスの排出権取引ビジネスに目をつけた。エンロン社とゴアらは環境保護団体や気候学者らを動員して遠大な戦略を立て、地球温暖化の原因は人間の活動によるという証明のしようのない学説をでっち上げた。嘘は大きければ、反論するにも手間がかかる。御用学者を動員して尤もらしい学説を述べ立てた。エンロン社の落しどころは石油使用を制約された先進国は、代替エネルギーや新エネルギーに向うだろうから、風力発電や太陽光発電の会社を傘下のおさめて、待ち伏せビジネスを狙うということである。環境ゲリラといわれる過激なグリーンピースを養成したのもエンロン社で、いかにもアメリカの暴力と謀略好きからきている。ヤクザや右翼を養って対抗起業に恐喝をかけるようなものだ。地球温暖化に関する科学的な検証を行う公聴会をすべて潰していったのもエンロン社のロビー活動である。地球温暖化炭酸ガス説に異を唱える学者を脅迫するのは、赤子の手をひねるようなものであった。つまるところ京都議定書そのものがエンロン社のようなマネーゲームの亡者たちによって賭博場のように利用されていた。その京都議定書のスタート点を欧州の策略を理解できずに1990年としたところが日本の無智、お人よしといわれる由縁である。京都議定書の削減目標は達成できないとみられ(6%削減が目標だが、既に8%増加している合計14%削減となる)、そのために支払う排出量取引額は2兆円と見られる。2000年とすべきであった、であれば純粋の6%削減で達成可能であったのに残念。ロシア・東欧の崩壊で産業活動が激減していたので欧州ロシアは何もせずに目標達成と云うトリックは直ぐに気が付くべきであった。

中国とインドはOPECを経由しない産油国との石油買い付けの道を切り開いている時、日本はアメリカからしかられる事を恐れて高い原油を買い付けていた。資源開発の現状や可能性に関して官民ともに無策であった事は否めない。各国が石油資源外交を展開している時、日本は小泉政権のもとで、なんと石油公団を廃止した。特殊法人改革で官僚は権益確保のため骨抜き改革で、政治家と国民の目を誤魔化していた最中に、本当に石油公団を廃止した。百年の失策といえる。ロシアの資源共同開発からは締め出され、尖閣諸島では中国に出し抜かれて無視され、日本の資源リサイクルは底が抜けて中国に国内資源が流出し、2008年第4次石油ショックではアメリカの言いなりにバレル140ドルの原油を買っている。誠に無策な日本の石油世戦略である。ところが日本には過去のオイルショックから立ち上がった数々の技術が存在する。そこを強みに変えて脱石油社会を作ることである。石油備蓄は140日体制で、日ノ丸石油の比率は2006年度で16%となったが、まだ外国に較べると低い。しかし日本にはハイブリッド自動車、省エネ家電、原子力発電、電燃料電池発電、水素吸蔵合金、造水技術、環境技術などがあるではないか。


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