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丸山茂徳・磯崎行雄 著 「生命と地球の歴史」

 岩波新書(1998年1月)

地球の変動の歴史と生命の進化を統一的に解明できる日は近い 

今(2008年7月7日)、「地球温暖化問題」で先進国G8が洞爺湖でサミットをしている。今から10年前1997年12月京都国際会議場(宝池)で開かれた「第3回気候変動枠組み条約締結国会議(COP)」で「京都議定書」が締結された。条約締結国は155カ国にのぼり、アメリカのゴア副大統領と日本の橋本首相が中心となった。この条約では温暖化ガス(炭酸ガス、メタン、一酸化チッソ、メタンガス、フロンガス[HFC,PFC,SF6]の6種類のガス)の削減目標を定めた。洞爺湖サミットでは京都議定書の枠組みが終了する2010年よりの新しい枠組みを協議することにある。連日テレビでは地球温暖化によって明日からでも環境が激変して天地がひっくり返るかのような恐怖物語がまことしやかに報道されている。いやそんなことはないとする「異論」も多い。さてどうなんだろう、その影響はいかほどのものかという素朴な疑問には、冷静にこれまでの地球の歴史を振り返って見る事も必要ではなかろうか。

人類が石炭・石油を燃焼させてエネルギーを得てからまだ200年ぐらいであり、早晩石油はなくなるだろう。石炭石油燃料は古い時代に繁栄した生物の化石から出来ているので、炭酸同化(空気中の炭酸ガスを生体有機物に変える)によって固定された炭素である。それを現代で再び炭酸ガスに開放しても、もとの古い時代の炭酸ガス濃度に戻るだけである。一体全体、宇宙が誕生して150億年、太陽系が生まれて45億年、その寿命もあと50億年たてば元のガス・塵に戻るらしい。地球と生命の誕生から今までの歴史を見ることは、すなわち地球環境と人類の運命を予測する事に役立つはずだ。基本的には地球は冷えつつあるのだ。温暖化がおきたことは一度もなかった。生物は氷河期を一番恐れていた。地下からマグマが噴き上げてくれば、温暖化よりも大陸が分裂する。生物の絶滅もあるかもしれない。そんな大きな時間とスケールで人類の命運を考えてみませんか、本書はそんな疑問に答えてくれるのではないでしょうか。

先ず簡単な著者紹介をしておこう。丸山茂徳氏は1972年徳島大学教育学部卒、金沢大学大学院修士課程を経て1977年に名古屋大学大学院博士課程修了。同年より米スタンフォード大学客員研究員。富山大学助手を経て1989年より東京大学教養学部、1993年より東京工業大学理学部教授。地球の表面に存在するプレート(厚さ約100km)の変動(テクトニクス)を扱うプレートテクトニクスに対し、深さ2,900kmに達するマントル全体の動き(対流運動)を仮説し、これらの運動をプルームテクトニクスと命名し、1994年に発表、当時の地質学界に衝撃を与えた。元々は変成岩岩石学を専門に地質学・地球科学の研究を行っていたが、次第に学際的な研究に興味を移し近年は惑星の地殻変動と生物進化の歴史を関連付ける試みを行っている。また地球温暖化問題と二酸化炭素との関係にたいして否定的な意見を持っている。 1:太陽の活動度が高まってきている。 2:産業革命以前と現在では大気組成中の二酸化炭素の割合が1万分の1%しか上がっていないこと。 3:温室効果ガスのほとんどが水蒸気である事。 また現在太陽の活動が頭打ちの状態にあり2050年には地球寒冷化の兆候が見られるはずだと主張している。

磯崎行雄氏は大阪市立大学出身、山口大学、東京工業大学をへて東京大学大学院(駒場) 総合文化研究科 広域システム科学系教授。専門は地球科学で、大地の生い立ちを探るテクトニクス・大量絶滅事件などの生命史についての野外地質調査が主体である。現在の主要研究テーマは生物大量絶滅事件の原因探究を中心に研究している。とくに史上最大規模の絶滅がおきた古生代・中生代境界事件(約2億5千万年前)を集中的に研究中。「超酸素欠乏事件」(superanoxia)やペルム紀中期末の寒冷化事件(Kamura event)などの新発見に基づき、マントル・プルーム起源の爆発性異常火山活動と環境崩壊/生物絶滅との関係(Plume Winter)の解明を進めている。とくに最近九州で発見した殻長50 cmの巨大二枚貝の消長パタンとグローバル環境変化との関連を探っている。さらに全球凍結とカンブリア紀の爆発的進化の原因、地球最古化石の生息環境など、地球生命史の中での大事件をテーマとしている。

本書はかなり専門書に近い内容とレベルを持っている。地質学・地球科学・生命史の概説書であろうか。丸山茂徳氏も磯崎行雄氏も野外調査(ハンマーと足で探す化石)を研究手法とし、そのグループには地質年代を同定する質量分析専門家や地球の地震波トモグラフィーの専門家などを抱えて議論しているようである。本書の地球科学分野の著述は丸山茂徳氏が、生命史と生物大絶滅事件分野の著述は磯崎行雄氏によるものであろうが、丸山茂徳氏は境界的な惑星の地殻変動と生物進化の歴史については磯崎行雄氏と議論をおこなっているようで、誰の筆なのか不明であるほどすり合わせができていると見られる。下の図は,地球史年表と地球変動原理の模式図である。この二つは本書を読む上でいつも座右の図表として理解しておく必要がある。詳細は各章で解説する。

   

地球史七大事件と地球の変動原理

この章は恐らく丸山茂徳氏の執筆による。 1970年代に、地球表層の変動を統一的に説明できる考えとして「プレートテクトニクス」(地球表層は何枚かの硬い板に分かれて、それらの相対的水平運動によって地球の変動がおきる)という理論体系が出来上がった。まさに地球の皮部分だけの運動であって、それがどうして起きるかはさらに深層の理解が必要である。1980年代になって内部構造を解き明かす「地震波トモグラフィー」という断層手法が開発され、新しい地球観が生まれた。これが「プルームテクトニクス」(マグマの対流的流れが大陸を合成したり、分裂させたりする)という理論によって総合的な地球変動の理解が進みつつある。上の右の図の構造模型図を見ながら、現在の地球の構造を概観しておこう。地球の半径は6400km、外側の1/2半径は岩石で、内側の1/2半径は金属で出来ている。外側の表面は地殻といい、海洋地殻の厚さは約7km、大陸地殻の厚さは約40kmである。外側半分はマントルであり、深度670kmを境にして上部マントルと下部マントルに分けられる。内側の1/2半径の核は液体の外核と固体の内核の二重構造を持つ。この構造を流れから見ると七枚の「プレートテクトニクス」(板状の地殻の流れ)、「プルームテクトニクス」(マントルのきのこ状の流れ)、「核の液体部分の流れ」の三つの孤立した運動が長い周期で影響しあっている。厚さ3000kmにおよぶマントルの巨大な上昇流を「スーパーホットプルーム」といい、下降流を「スーパーコールドプルーム」という。現在アジア大陸の下には「スーパーコールドプルーム」が一つ、南太平洋とアフリカの下には二つの「スーパーホットプルーム」がある。表面には大気圏は上空10km、海洋をあわせると生物圏は20kmにも満たない。地球変動の原因を統一的に理解する道が提示された。地球は冷却しつつある事がすべての原因である。宇宙へ向って熱輻射で表層から冷却されている地球は、先ず表層の外殻プレートが固化して海溝に向って水平移動して、厚いマントルの中へ崩落する。大規模な崩落が外核にまで達するとマントルの大対流(下降する冷たい流れと代わって上昇する熱い流れ)が生じるのである。これが大陸の移動、集合と分裂の原因となる。上昇流はマグマの爆発となって火成活動がおこる。簡単に言えば以上が地球変動の原理である。

150億年前に「ビッグバン」によって膨張を開始した宇宙は、小宇宙を単位として宇宙のかなたへ高速で移動中である。その小宇宙の一つに銀河系があり、銀河系の中心には「ブラックホール」が、銀河系の渦巻きの縁に太陽系が存在する。銀河系は2-3億年周期で回転している。太陽系の始まりは、水素とヘリウムからなる暗黒星雲、中でも「巨大分子雲」にはダストやガスが存在し星形成材料となる。しだいに収縮して「T−タウリ星」と呼ばれる段階を経て、恒星ができる「微惑星」となる。微惑星が衝突と合体を繰り返して太陽系の惑星が出来上がった。水星から火星、小惑星帯までの惑星は「地球型惑星」と呼ばれ、中心は金属、外側は岩石で出来ている。一方木星から冥王星、カイバーベルトはいずれも中心が小さな岩石でまわりを水素が取り囲んでいて「木星型惑星」と呼ばれる。地球が出来るころには水素やヘリウムのガスはなくなり、大気は二酸化炭素、水、窒素のガス成分が「原始大気」を構成していた。

地球史45.5億年は大まかに4つの時代に区分される。45.5−40億年を「冥王代」、40-25億年を「太古代」、25-6億年を「原生代」、6億年から現代を「顕生代」となずけている。各時代はさらに細かく区分されている。上の図の左の表は地球史を整理したものである。何回も出てくるのでその度に診てゆこう。地球の歴史は不可逆的に変化した特徴的な時代を七つに特徴つける事が可能である。その各々の地球史変革の事件の内容を示す。

@ 微惑星の衝突によって地球の基本的構造が出来た(45.5億年前)

原始地球は最初直径10kmくらいの微惑星が衝突合体を繰り返して雪だるま式に大きくなった。約45億年前に今の地球の直径の1/3くらいの大きさの時に、別の惑星が地球に衝突し、地球が分裂して月が出来たとする「ジャイアント・インパクト説」が有力である。その時点では地球と月は中心までマグマの海であった。2/3直径の時、鉄のような重い金属は中心に沈んで核を形成した。こうして核・マントル・マグマオーシャン・原始大気という成層構造が生まれた。しだいに冷えてマグマオーシャンが冷えて地殻が形成されると、大気(炭酸ガス、水蒸気)は地表まで下降して液体つまり「原始海洋」ができた。海洋の形成は40億年前といわれる。マグマオーシャンの完全な固化には43億年までかかった。地球誕生から40億年前までの時代を「冥王代」というが、何も証拠のない分らない時代という意味である。

A プレートテクニクスの開始、生命の誕生(40億年前)

40億年前の地球には、原始海洋が出来て大気の炭酸ガスを吸収したために地球が冷却し、マントルを形成する玄武岩が水を含んで二酸化珪素にとんだ花崗岩が固まった。表層の岩石が剛体化して「プレートテクトニクス」が機能するようになった。地球上の最古の花崗岩の年代は40億年前で、オーストラリアで発見された最古のバクテリアの化石が35億年前である。溶岩に飲み込まれたバクテリアは炭化するが、生物は小さい炭素同位元素を同化するので、化石炭素の同位体組成を分析すれば生物起源かどうかわかる。ただし岩石の変成作用中に同位体組成は変化するので細心の注意が必要であるらしい。40億年前から27-20億年前を「太古代」という。

B 地球磁場の誕生、酸素発生型光合成生物の誕生と浅瀬への移動(27億年前)

28-27億年前、地球の核内部に大きな対流が起き始め、地球には強い磁場が発生した。原因は地球の冷却によって低温のプレートがまとまって下部マントルまで崩落し、外核表面の異常冷却部が局部的に出来たため液体鉄が対流を起こしたことによる。磁場によって宇宙粒子のバリアーができたので、生物は浅い海まで進出して、酸素発生型光合成が27億年前に始まった。これは「ストロマトライト」化石に観察されるシアノバクター(藍色細菌)であった。又海水中の鉄イオンはバクテリアに利用されて酸化鉄に変化し海中に沈殿した。これが人類が利用する鉄鉱石である。

C 超大陸の形成(19億年前)

地球の歴史で、27億年前と19億年前が一番激しい火成活動(マグマ)がおきた時代である。地球の冷却によって、低温のプレート集積物が下部マントルに崩落すると、下部マントルから上部マントルに向って対流が発生する。これを「マントルオーバーターン」(マントルの入れ替え現象)とよぶ。一部の熱い下部マントル物質が地表へ吹きだして火山活動となり地球内部の熱を放出する。太古代末までは乱流的な対流だったマントルの流れは、27億年前にプルームの数の減少と大型化がおきついに単一の巨大な下降流「スーパーコールドプルーム」が発生した。「スーパーコールドプルーム」の周辺ではすべてのプルームが集合して一点に飲み込まれるため、大陸は衝突・会合・融合を繰り返して「超大陸」が誕生した。ローレシア大陸、ヌーナ大陸と呼ぶ。この時期以降、大陸は10億年前、5.5億年前、3億年前に「超大陸」を生んだ。この大陸の離合集散のサイクルを「ウイルソンサイクル」という。生物の進化は21億年前に核が膜に包まれて安定した「真核生物」が出現し、10億年前には多細胞生物が生まれた。25億年前から5.5億年前を「原生代」と呼ぶ。

D 海水のマントルへの侵入、スーパープルームの開始、硬骨格生物の誕生(7.5-5.5億年前)

地球が冷却され、7.5億年前海水が海溝から深さ30kmのマントル境界へ注ぎ込んだ。と言っても海水ではなく含水鉱物である。そして少しづづであるが海水が減少して、陸地面積が増えた。7.5億年前の陸地は5%であったが、現在は30%が陸地である。陸地の大量の堆積物が河川によって海に運ばれ、光合成生物を堆積岩に封じ込めた。これによって急速に大気中の酸素量が増え、酸素環境で生物は大型化した。6-5億年前の生物は硬い外骨格生物が出現して浅瀬に進出した。酸素が増えて、4.5億年前にはオゾン層が出来、紫外線が遮られると、水中の動物が陸上に進出した。そして爆発的な生物の多様化が始まった。また陸地の土砂が海に流れ込むと塩化ナトリウム成分が増加して海の塩分が増えた。そのため塩分に耐性を獲得していない生物は陸地へ逃れた。7.5億年から5億年前に地球史上3番目の大規模な火成活動が起きた。スーパープルームの上昇によって大陸が分裂するのである。

E 古生代の終わりでの生物大量絶滅(2.5億年前)

2.5億年前アフリカの下で「スーパーホットプルーム」が誕生して、超大陸パンゲアが分裂し、マグマの大爆発で大気に撒き散らされた塵によって光合成が妨害され生物の96%が絶滅したという。またこの時期海洋では「スーパーアノキシア」と呼ばれる2000万年間に渡る酸素欠乏状態が続いた。一方アジアでは「スーパーコールドプルーム」が誕生した。アジアの「スーパーコールドプルーム」とアフリカ、南太平洋の「スーパーホットプルーム」は現在も続いている。今大陸はアジアに向って動いているのだ。6500万年前恐竜が絶滅し、哺乳類が取って代わった。

F 人類の誕生(500万年前)

約500-400万年前アフリカのリフトバレーで人類が誕生した。長い間人類(猿人類から原人)はアフリカにいたが、人口は15万人ぐらいであった。100万年前人類はアフリカを脱出して世界中へ移動し、北京原人、ジャワ原人と進化したが、アフリカに留まった人類から20万年前に新人(ホモサピエンス)が誕生した。我々の直接の先祖である。世界中へ広がって、ヨーロッパにはクロマニヨン人、アジアにはモンゴロイドらが適応した。モンゴロイドの一部は1万3000年前アメリカ大陸へ移動した。1万2000年前に最期の氷河期が終り、間氷期になる。温暖な気候で人類は農耕を発明し、約5000年前に初めて文明を築く事になった。

地球生命史七大事件と生命の発展

この章は恐らく磯崎行雄氏の執筆による。 生命とは何かと云う定義は、物体として「独立空間」を保有し、外界と物質やエネルギーを交換する「代謝」をおこない、「自己複製」を行う事である。研究者によってはこの3条件以外に「進化」を特質として加える。バクテリアから人類にいたるまで全く同じ遺伝情報を持っていることは真に驚くべき事であろう。約40億年の地球上の生物の歴史を見ると次の七つ著しい革新が起きた。

@ 原始生命の誕生(約40億年前)

宇宙の元素は赤色巨星内で起きた核融合反応によって合成され、超新星爆発を通して星間空間に放出されたと考えられている。宇宙から飛来する隕石や彗星には多様なアミノ酸が含まれているから、生命体の一部は宇宙から地球に搬入されたのかもしれない。地球生命が誕生した時期は実は直接的な証拠はない。38億年前の堆積変性岩中の化学化石が唯一の情報である。岩石中の炭素元素の同位体組成が生物起源だと、天然にくらべて偏っているのである。何度も生まれては隕石などの破壊によって抹殺されたかもしれない。どのような微生物であったかは全く分らない。ただ生物起源と見なされる炭素組成が38億年前の変成岩中にあったというだけである。

A 原核細胞(バクテリア)の出現(38-35億年前)

オーストラリアのノースポールで35億年前の「フィラメント状のバクテリア」化石が発見された。深海堆積物のT型チャートといわれる石英からなる岩石(枕状溶岩)であった。岩石の生成の特徴から、深海の熱水噴出孔(ブラックスモーカ)付近で棲息していた独立栄養嫌気性耐熱細菌と見られる。現在の遺伝子系統図からいえば原核細菌(遺伝子の核はあるが核膜はない)の元祖に当るのであろう。当時はまだ海洋表面や地表部分は紫外線に曝されるので危険だった。深海で化学栄養からエネルギーを得て生きていたのであろう。

B 光合成の開始(27億年前) 

西オーストラリアのピルバラから27億年前の柱状「ストロマトライト」化石が発見された。酸素発生型光合成細菌シアノバクター(藍色細菌)であった。細菌のコロニーが石灰岩と層状構造を有する。捕食者が現れる前の先カンブリア紀の浅い海底にストロマトライトが林立していたと想像される。シアノバクターは水と炭酸ガスからエネルギーを得る光化学系U型で酸素を放出する。これは植物の先祖である。海底でストロマトライトが発生した酸素ガスは鉄を酸化して酸化鉄が沈殿し、今日の縞状鉄鉱層BIFを作った。

C 真核細胞の出現(21億年前)

20億年前には海水中の溶存酸素量が増え、大気中の酸素分圧は飛躍的に増加した。三村芳和著 「酸素のはなしー生物を育んだ気体」 中公新書でも紹介したが、電子伝達系という膜たんぱく質系で、生物は水素を電子供与体、酸素を電子受容体とするシステムを作って効率のよいエネルギー生産が出来るようになった。それを集中して行う器官としてミトコンドリア、葉緑体を持つ生物へ移った。このミトコンドリアという小器官はたんぱく質製造工場であるリボゾームと同様に親細胞とは違う独自の遺伝子情報を持つ。すなわち生物は共生菌からこのように特化した器官を導入したのである。21億年前に誕生した我々の先祖である真核性細菌の進化系統図を描くのは現在ではまだ難しい。おおまかにいえば、光合成細菌から分岐した真正細菌系と、古細菌系の二つの輪があるとされている。27億年前に生まれたシアノバクテリアから葉緑体が発生し、ミトコンドリアや葉緑体というエネルギー代謝に重要な細胞内小器官はいずれも光合成細菌に由来する。生物は酸素利用型の効率的エネルギー獲得システムへ進化した。細胞の大型化と細胞内小器官によって、細胞は飛躍的に進化し性分化もできた。

D 多細胞生物の出現(10億年前)

カナダの藻類化石(紅藻に似た)が最古の真核多細胞生物の記録である。シベリアには9億年前の細胞壁を持つ植物化石も発見された。化石の中で生物由来の化石(バイオマーカー)が著しく多くなるのも10億年以降のことである。大型化・多様化・植物と後生動物が特徴である。そして生物は従属栄養(捕食関係)が主体となる。生物の形態はフィラメント状からシート状に変化し、体に中心が見られるようになる。これは外骨格の形成につながるのである。又中枢神経系の発生ももうすぐである。

E 硬い骨格生物の出現(5.5億年前)

初期後生動物から柔らかい体を持つ「エディアカラ生物群」を捕食するハンターである「カンブリア紀動物群」が5.5億年前から隆盛を向かえた。海老や蟹のような硬い殻を持つ生物化石がでてくるのである。捕食上位の動物には俊敏な運動能力、アゴのような機械的破細器官、溶解液分泌器官が必要である。カンブリア紀初めには後世動物の多様化は目覚しく、節足動物、鰓動物、海綿動物などが出現した。これを「カンブリア紀の大爆発」と呼ぶ。

F 人類の出現(500万年前)

生物の陸上進出はシルル紀(約4億5000万年前)に始まった。陸上の景観が変わるのも4億年前からである。シダ植物が広く繁殖し、デボン紀から石炭紀(4億年前ー3億年前)には森林という景観が地球上に現れた。脊椎動物の中から両生類・爬虫類・哺乳類、節足動物の中から昆虫類が現れて多様化した。恐竜の絶滅が6500万年前にあって哺乳類に代わったが、ついに500万年前に人類が誕生した。

生物大量絶滅

この章は恐らく磯崎行雄氏の執筆による。 最近の5.5億年間は、過去の生物の活動記録がそれ以前と較べると圧倒的に多く残されている。そのため「顕生代」という名称が与えられているのである。伝統的な地質学と古生物学の進歩によって、化石の形態変化が時間的に不連続である事が分った。一つの種が他の種にとって変わられたというような変わり方ではなく、多種類の生物しゅが一斉に強制的に根絶したような「絶滅」(カタストロフィー)という考え方に近い。「顕生代」はさらに「古生代」、「中生代」、「新生代」と三区分されているが、その間に5回の主要な生物絶滅が起きたようだ。4億4000万年前、3億7000万年前、2億5000万年前、2億年前、6500万年前の5回であった。絶滅原因説には、巨大隕石の衝突、新星爆発の影響など「地球外因説」と、海後退・食料不足・気候変化などの「地球内因説」に分かれる。そこで顕著な生物絶滅として新しい順に、約6500万年前に起きたK/T絶滅、約2億5000万年前のP/T絶滅、約5億4000万年前のV/C絶滅の三つを取り上げて検証しよう。

@ 中生代/新生代境界 K/T絶滅(6500万年前)

中生代という地質時代には陸上には恐竜に代表される爬虫類、裸子植物、海にはアンモナイトという貝が繁栄していた。恐竜が姿を消したのは中生代白亜紀末(約6500万年前)であった。実はこの絶滅は古い2回の絶滅に較べると規模は小さかった。K/T境界の地層から、イリジウムやオスミウムという地球には稀な元素が発見され、地球外隕石の衝突があったと推測される。隕石が落ちた場所はメキシコ・ユカタン半島で直径100kmのクレーターがある。隕石による衝撃で巻き上げられた粉塵が太陽光を遮り、地球には寒冷期が襲った。そして粉塵の雨で酸性雨となり生物が死滅したと考えられる。真っ先に絶滅したのは捕食関係のピラミッドに立つ巨大動物であった。

A 古生代/中生代境界 P/T絶滅(2億5000万年前)

古生代は筆石、三葉虫、四射サンゴなどで特徴付けられ、中生代はアンモナイトや恐竜の時代である。古生代の海底で固着生活をする生物が大打撃を蒙った。海棲無脊椎動物の死滅率は96%と計算される。陸上でも脊椎動物、昆虫、植物も死滅した。この絶滅原因はいまだ明らかではない。いずれにせよ極端な環境変化が起きたようだ。このペルム紀末に起きた地球史事件は、超大陸パンゲアの形成・分裂と2000万年に及ぶ深海酸素欠乏状態(スーパーアノキシア)である。地球内部の「スーパーホットプルーム」による火山活動は超大陸の形成・分裂を生み、海底大爆発による毒性の強いガスの大量噴出やマントル重金属の散布などが生物を絶滅させたというシナリオが考えられる。

B 原生代/古生代境界 V/C絶滅(5億4000万年前)

先カンブリア紀末に繁栄したエディアカラ型大型多細胞生物が一斉に絶滅し、硬い骨格をもつ新型の生物が登場した。原生代末にはロディニアという大陸があったが、5億5000万年前にゴンドワナという大陸が誕生した。原生代末の超大陸の形成と分裂は地球内部のスーパープルームによるもので、当然内部熱の放出があったと予測される。大規模な環境変化に対して、生物は硬い骨格を持つ生物群が隆盛を見るのである。生物は常に地球内外の凄まじい力で根底から生存場所を奪われるような環境変化を受けて大量絶滅した。次の時代にはさらに一段と進化した生物群がたくましく登場するのである。

大気・海洋・地殻の歴史

地球上に20kmの厚さを占める生物の生存圏である大気・海洋・地殻の歴史を眺めてみよう。地球は43億年前に固化して以来、大気から水蒸気成分が抜けて海をつくり、炭酸ガスと一酸化炭素が原始大気の成分となった。海が炭酸ガスを吸収するので地球は急速に冷却した。大気中の成分である炭酸ガスは海に溶けて炭酸カルシウムとなって沈殿してゆき、いっぽう酸素ガスは光合成細菌の活動で増加し13億年前には炭酸ガスと同じ気圧になった。酸素濃度は55.5億年前に急増した。今では炭酸ガスは400ppm、酸素ガスは19%と完全に逆転している。信じられないくらいの酸化的雰囲気になった。生物由来の酸素によって炭酸カルシウムや縞状鉄鉱石が出来た。それによって我々の現代文明は鉄筋コンクリートの巨大建築物を建造している。

地球表層は厚さ30kmの花崗岩地殻と厚さ7kmの海洋地殻で覆われている。海洋地殻は地球表層の2/3を占めているが、海洋地殻はプレートテクトニクスで移動しているため地層は若く、最古のものでも2億年前に満たない。それに対して大陸地殻は古く、40億年に遡るものもある。海洋地殻は中央海嶺で生まれる。厚さ7kmの海洋地殻の下にはマントルが対流して、海洋地殻の中に「マグマ溜り」を作る。地殻に流入した海水はマグマ溜りで沸騰し「ブラックスモーカー」という海底噴出口から熱水プルームを噴出している。

大陸地殻はプレートの沈み込み帯で火山活動によってできる。地震は造山帯の地質構造を作る。例えば日本列島は太平洋海洋プレートが日本海溝で大陸の下に沈み込み、加圧溶融の変成作用で出来た堆積物付加体が盛り上がって日本列島を構成した。いずれ日本列島は大陸に合体する。プレートが収束する境界構造は日本列島のような「沈み込み型」だけでなく、ヒマラヤ山脈のような「衝突型」もある。このヒマラヤ山脈のおかげで温湿なアジアモンスーン気候が出来たのである。世界中のすべての7枚のプレートはアジア超大陸に向って動いており、太平洋は縮小し、大西洋は拡大しつつある。アフリカはいずれ分裂しアジア大陸に吸収されるはずだ。

マントルと核の歴史

地球史七大事件と地球の変動原理の繰り返しになるが、地球が出来た当初44億年前は、マントルは溶融したマグマの海(マグマオーシャン)であった。しだいに冷えるにしたがって40億年前には地殻と上部マントルに分離し、上部マントルは固化したテクストフェアーと半溶融状態の対流するクリープという多層構造に分かれた。太古代末になってマントルオーバーターンが生じて、上下部一つとなった対流スーパープルームが始まった。19億年前の採取の超大陸が生まれ、7.5億年前に海水がマントルに流入して陸地が増加した。5億年前の顕生代の地球表層とマントル温度は、0-15度、1300度である。核は地球の半径の半分3500kmである。鉄とニッケルを主成分とする。外核は液体状態の鉄、内核は半径1300kmの小さな個体で、鉄とニッケルの合金である。外核温度は4000℃、内核温度は6000-7000℃と推定されている。外核の液体鉄の流れで地球磁場が出来ている。

終章:生命と地球の共進化

地球と生命が相互に強く影響を与えて進化してきたことを「共進化」という。生命が生きられる範囲は極めて狭い。なぜなら生物は90%が水からなっている。陸上は酸素濃度が極めて高い。自然発火をしそうなくらいである。生命は酸素下で効率的なエネルギー獲得をするように進化してきた。生物は温度差に弱いが、寒冷化は生物にとっていつも致命的であった。水面下では温度は安定であるが酸素濃度は極めて低い(常温で8ppm以下)。惑星地球の位置は絶妙である。水星、金星は500℃以上で生物の生存限界ではない。火星、木星では極冷で、且つすべての惑星には大気が存在しない。炭酸ガスの保温効果を云々するまえに大気がなくては保温も期待できない。地球の大気中酸素は生物の光合成で作られたものだ。5億年前には現在の酸素濃度になった。さらに4億年前にはオゾン層ができて、有害な宇宙由来電磁波バリアーに守られている。地殻大変動で何回も生物は大絶滅を経験したが、その度に別の系統の生物が現れて進化してきた。遺伝子構造解析は進化の機構は説明しても進化の理由を説明できない。地球に生まれた生物に幸いあれ!


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