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神田秀樹著 「会社法入門」

 岩波新書(2006年4月)

21世紀の「会社法」はIT革命と資本市場への対応をめざすもの

著者の神田秀樹氏は東京大学法学政治研究科教授で専攻は商法、証券法、金融法であると書いてある。会社法に専門外の私が興味を抱いたのは2005年のライブドアーのニッポン放送株をめぐってフジテレビの間で繰り広げた新株予約券発行をめぐるバトルがきっかけである。この騒動でニッポン放送株は急騰し、フジテレビはライブドアーの有するニッポン放送株を高い株価で買うことで示談が成立し、ライブドアーのホリエモンは数百億の利益を得たといわれる。この資金はさる大手の証券会社や投資ファンドの提供によるものである。株式会社が資本の仕掛けた攻勢を受けて大損を出すことは日本の企業を衰退させるものではないかと心配した。そこで多少は株式会社を取り巻く環境と法の状況を勉強しておかないと、事態の本質も分らない。神田秀樹著 「会社法入門」はそのようなニーズにこたえる素人向けの入門書と云うように感じられた。しかし入門書と書いてはあるが、この本を読んでみて気付いたことは、入門書レベルではないと云うことです。これから勉強すべき事が示されており、紙面の都合で委しく説明できないだけの事でした。理解と考察に必要な分野の項目が網羅されており、次につながる手続きが明示されている。中でも本書の第二章株式会社の機関と第三章株式会社の資金調達は最も充実しており、理解にとって必要な事はすべて書かれている。何十年も会社にいた私にとって、読めばそのまま頭に入ってくるように書かれている。あとは素人の私には理解できない事も多いのですが、よく分からなかった事は将来に取っておきましょう。

2006年5月に施行された「会社法」の背景と内容のポイントを解説するものであると序文に書かれている。1990年以降のバブル崩壊後の「失われた十年」の間に不良債権処理、デフレ経済、株価低迷、金融ビッグバン、企業買収を経験した日本企業の課題は深刻で、企業法制と株式市場法制の抜本的な改革が必要であった。何のための改革かといえば「日本企業が今後収益を上げてゆくことをサポートするため」であると云うのが本書の見解である。日本の眠っている預貯金は1400兆円とも言われても、なお株式市場への国民の信頼は薄い。それは「損失補てん」とか「飛ばし」と云う姑息な手段で一般投資者の信頼を裏切ってきたからである。「証券取引法」の改革も必要であり。会社法だけでなく会社を取り巻く総合的な環境の改革が同時になされないと効果が出てこないものである。2000年よりようやく当面の緊急課題を脱した日本は会社法をめぐる法整備に取り掛かった。その成果が全面的に「会社法」に結実しているとは言い難いが、今後のグローバル化やIT化の課題も取り込んで更なる法整備が必要である。

新「会社法」をめぐる環境

株式会社は1600年イギリスの東インド会社に始まるとされている。19世紀から20世紀にかけて世界中に普及し、いまや株式取引所や生命保険会社まで株式会社形態をとり、さらに医療、福祉、教育、農業、労働分野まで広がりつつあります。株式会社の核となる特質は世界中で共通であり、つぎの5項目が重要である。
@出資者による所有(利益の帰属者)
A法人格(二重の所有関係)
B出資者の有限責任(出資額だけの責任)
C出資者と業務執行者との分離(所有と経営者の制度上の分離)
D出資持分の譲渡性(株式と云う有価証券化)
最も抽象的な法人格とは、法人としての会社は会社資産に対して人としての所有を主張し、人である株主は会社に対しては物として所有を主張するのである。法人は人でありモノである。会社をめぐる法律には民法、商法、倒産処理法、刑法、労働法、会社法、消費者契約法、独占禁止法、金融証券取引法、その他というようにさまざまな法律が存在し、「会社法」はそのうちのひとつに過ぎない。簡単に云うと会社法は株主がお金をだし、それに基づいて会社の運営を決め、会社が活動すると云う面についてルールを定めているのである。日本には300万社以上の株式会社が存在し、証券取引所上場会社は約3800社で資本金5億円以上の大会社は約11000社である。新会社法では合名会社、合資会社、合同会社は「持分会社」に分類される。面白い事に会社法の上位にある民法、商法は2005年までは「漢字カナ文」であった。民法の現代語化は2004年に実現したが現代化はまだ出来ていない。商法は内容が膨大であるため商法から会社法だけ取り出して、2000年以降現代語化と現代化が同時に進んで今回の会社法の改正になったのである。現代語化と現代化は別物であるが、会社法だけは偶然に2005年に重なって完成した。日本の商法は1890年ドイツ法系として出発しめまぐるしく変わってきたが、ファイナンス(企業金融)は規制緩和の方向で、ガバナンス(企業監視)は規制強化から多様化の方向で、リオーガニゼーション(企業再編)は規制緩和で進んだ。

2001年以降改正ラッシュにある会社法の基本的な考え方は、ファイナンス分野では市場機能の重視で、事前の手続き規制の緩和である。もうひとつは「オプション理論」の認知と適用である。将来の新株発行のみならずそれ自体の価値を計算する「ブラック・ショールズ式」を採用した。ガバナンス分野では法遵守のコンプライアンスと競争力強化のためのガバナンス体制の議論である。委員会設置や監査役制度強化をむしろ企業価値を高めるために適用する事である。会計法制では国際会計基準を受けての改正である。「剰余金分配規制」も重要である。ベンチャー企業育成のための最低資本金制度廃止がある。新「会社法」の条文は1:総則、2:株式会社、3:持分会社、4:社債、5:組織変更、合併、分割、株式交換、株式移転、6:外国会社、7:雑則、8:罰則からなり全979条からなる膨大な「会社法」である。

株式会社の機関

会社の機関とは株主総会、取締役、代表取締役など、自然人または会議体のことをいう。会社法は、株主自身は定時または臨時に株主総会を開いて、基本的な事項について会社の意志を決定し、これらの基本的事項以外の会社の経営に関する事項の決定と執行をさせるため取締役を選任するのである。会社の経営は取締役会が選んだ代表取締役が責任を持つ。一方株主総会は取締役の選任権と解任権によって取締役を監督し、又大きな会社では株主総会は監査役を選任して取締役の仕事を監査させる。規模の大きな「大会社」とは資本金が5億円以上、または負債総額が200億円以上の株式会社である。「公開会社」とは会社法では上場企業を指すのではなく、全株式の譲渡制限がない会社である。中小企業のような「非公開会社」は「譲渡制限会社」である。
会社法では機関設計に基本的なルール
@すべての株式会社は株主総会と取締役が必要 
A公開会社には取締役会が必要
B公開会社には監査役または三委員会と執行役が必要(三委員会とは指名委員会+監査委員会+報酬委員会+執行役) 
C取締役会を置かない場合は監査役または三委員会と執行役をおく事はできない 
D大会社には会計監査人が必要
E会計監査人を置くには、監査役または三委員会と執行役のいずれかが必要
である。しかし100%子会社であって規模が大きい大会社では定款で全部株式譲渡制限を定めれば監査役会を置かなくてもいいとされる。 戦後何回も会社の制度について改定が行われてきたが、大会社の機関に関して最近の会社法の傾向は第一に所有(株主)と経営(取締役会)の制度的分離を進め、経営権を代表取締役に集中させ、取締役には幅広い裁量権を与え、過失責任を問うのである。第二には経営を監督するために監査役や会計監査人を置く。中小企業の場合会社機関の設計は自由である。

日本の会社では3月31日で事業年度が終了し、3ヶ月以内に株主総会を開かなければならない。株主総会の権限は会社の意思決定に限られる。意思決定とは
@取締役・監査役など機関の選任・解任に関する事項 
A会社の基本的変更(定款、合併、分割、解散)に関す事項
B株主の利益(剰余金配当など) 
C取締役の報酬など取締役に任せられない事項
  の決定である。株主総会の2週間前には召集通知・計算書類・事業報告を発送またはウエブ開示しなければならない。1株1議決権ルールである。総会での議決の方法は普通議決では半数以上の株主の出席で半数以上の賛成で議決される。重要な事項については特別議決が設けられ2/3以上の賛成を必要とする。

会社法では取締役、会計参与、監査役を「役員」と呼ぶ。取締役の任期は二年である。取締役会の職務
@業務執行に関する意思決定(重要な業務執行、多額の借財、重要な使用人の人事、組織変更、社債の募集、内部統制システム)
A業務執行(執行権限は代表取締役と選定業務執行取締役にある)
B監督(取締役会は代表取締役の業務執行の監督と解職が重要である)
3ヶ月に1度以上開かれる取締役会の決議は半数以上の取締役の出席で半数以上の賛成で決定される。一人一議決である。電子的方法や持ち回り賛否意思表示でもいいとされ、取締役会の開催を省略できる。代表取締役は取締役会で取締役の中から選ばれる。最近は取締役会に規模を縮小するため、具体的な業務執行を執行役員(取締役ではない)に任せる会社が増えている。取締役には「忠実義務」、「善管義務」、「監視義務」、「リスク管理体制構築義務」などが重要である。

監査役は取締役の仕事を監視する機関である。監査役は会社の取締役や使用人を兼ねることはできない。監査役会設置会社では3人以上の監査役が必要で、その半数以上は社外監査役でなければならない。社外監査役は過去にその会社の役員・使用人であってはいけない。任期は四年である。監査役は会計監査を含む会社の業務全般の監査を行う権限がある。取締役会に出席する義務があり、適法性監査、妥当性監査を行って株主総会へ監査報告を作成する。監査役は取締役に対して「差止請求」を行えるし、会社の危機には会社代表となる。会計監査人は公認会計士または監査法人でなければならない。任期は一年である。監査役会を置く会社を「監査役会設置会社」といい、監査役会を三委員会で置き換える会社を「委員会設置会社」という。三委員会とは指名委員会+監査委員会+報酬委員会+執行役である。最近はこの「委員会設置会社」に移行する会社が増え100社以上となった。

役員(取締役、会計参与、監査役)、執行役、会計監査人を「役員等」という。職務を委任された役員等は「忠実義務」、「善管義務」を負うので、任務懈怠の場合、会社に対して賠償責任を負う。株主全員の同意がある時取締役の責任を問う。新会社法では一定の条件で責任軽減を認めた。株主総会決議による事後の責任は軽減され、定款規定を置いた上での取締役会決議に基づく責任の軽減である。また株主や債権者の損害を想定した会社以外の第二者に対する損害賠償責任を規定した。会社に代わって株主が取締役を訴えることができる「株主代表訴訟」もできた。この時株主は自分の利益は得られないが、訴状に貼る印紙額は8200円でよいと云う規定ができたので、訴訟を起すことが容易になった。一株主運動はここから始まった。取締役や監査役に提訴判断を任せておくだけでは十分でないと見られるような、大和銀行、野村證券の事件が多発したからである。

株式会社の資金調達

会社は資本と労力を結合して利益を生み出す仕組みである。資金を提供する者で株主については詳細にルールが決められているが、債権者や労働者は会社法には殆ど登場しない。会社法の中心は私法的ルールといわれ、会社に関る人々の利害を調整する基本ルールが定められている。第一は株主間の利害調整、第二は株主と会社債権者の利害調整、第三は株主と経営者の利害調整である。
1、株主間の利害調整: 会社が事業により利益を出した場合、そのまま内部留保するか利益分の一部を株主に還元するかは株主総会の一般決議の過半数の賛成で決め、会社を解散して株主は資金を回収する場合は特別決議(2/3以上の賛成)で決めるのである。株主は投下資本を回収したしたい時は株式を第三者に譲渡する事ができる。そのため株式を有価証券化する道と振替制度を認めている。会社法は株主間の利害調整のルールを用意していることで、株主は安心して株式会社に出資できるのである。
2、株主と会社債権者との利害調整: 会社債権者とは銀行のような貸付債権者、社債権者、取引先の三者のことである。会社が利益を出した場合、利益から債権者に一定額を返済してその残額を利益とする。その残額の利益を処分法は1の株主間の場合と同じである。会社を解散する場合は先ず債権者に元利金を返済した上で残余財産の分配をするのである。会社債権者にとっては株主=経営者とみなす。ということで会社法は債権者を第一優先者とする。
3、株主と経営者との利害調整: 経営者が自分の利益のために会社で一生懸命に働かない場合や横領や不正行為を防ぐため 、株主は経営者に「忠実義務」、「善管義務」、「監視義務」、「リスク管理体制構築義務」などの義務を課して、民事責任を強化し株主の権利を保護するルールを決めている。

本書は株式会社制度を記述しながら、「株式とは不思議な仕組みである」とか「株式会社とは不思議な存在である」という感嘆詞、ため息が何度か出てくる。これは人間の頭が作った仕組みであるから、抽象的で「有るか無きかの危い存在」に見える事から出てくるのであろう。人間の約束ごとにしてはよく出来たシステムだと云う満足感も混じっているのかもしれない。それはともかく、株主は資金を出す人であり、会社の事業の所有者であると云う大前提からスタートする。会社が必要な資金は、会社が儲けた利益を次の事業の資金とした内部資金と、外部から調達する外部資金がある。外部資金とは銀行から借りる場合と最近主流になった株式や社債を発行して資本市場から資金を集める方法がある。株式や社債の発行について会社法はさまざまなルールを置いている。株や社債を有価証券化(紙に書いた)または無券面化(電子化)した振替制度による。社債権者も株主と同様な保護におかれる事は先の利害調整に述べた通りである。授権株式制度と云うのjは重要な制度である。会社が将来発行する予定の株式数を定款で定めておく。経営者は機動的な資金調達を可能とするため、株主総会の決議に寄らなくても四倍までは増資できるのである。発行可能株式総数を決めておくことは株主の持ち株比率の低下の下限が分るようにしておくのである。新株発行において既存株主の利害を調整するため三つのルールが考慮される。
第一ルール 新株は必ず既存株主に対して持株比率に比例して発行するルール
第二ルール 既存株主に対して経済的損失を与えないような払い込み金額を考慮するルール
第三ルール 新株発行をするべきかどうかを既存株主自身が決定するルール
日本の会社法は非公開会社(全部株式譲渡制限会社)については第一のルールを主としルール三も考慮する。第三者に特別に有利な払い込み金額での新株発行も株主総会の特別決議を経れば可能である。(第三者有利発行は株主総会特別決議を得ていない場合は差止事由となる)既存株主は授権株式数の枠まで持株比率の低下は覚悟しなければならないが、それ以上の希薄化に対しては第三ルールで対抗できる。株主に対して不利益をもたらす株式発行が不正であるかどうかを判定する場合、その発行目的が合理的であれば許されることを「主要目的ルール」という。

多数の者が安心して株式会社に出資する事ができて初めて株式会社制度が成り立つ。株主は出資金額だけの責任を持つ(株の価値がゼロになっても文句は言えない)。株主の自益権は会社から直接経済的利益を受ける権利で、共益権とは会社の経営に参加する権利である。共益権には株主総会での議決権と会社の監督是正権である。会社法では株式の権利の内容は同一であることが原則である。これが「普通株式」のことであるが、特別な目的のため「優先株式」を発行する事ができる。議決権はないが、配当を特別に高くするとか、利益がなくとも利益を受ける権利を保留するといった「非参加的」「累積的」優先株である。優先株式を一定期間後に普通株式に強制転換株式とすることも可能である。株主平等の原則のために株券と云う有価証券を発行する。2004年度からは株券不発行制度というペーパーレス化を推進し2009年に振り替え制度に移る。上場会社は全て振り替え株式会社になる予定である。株主名簿の名義書き換えから口座欄への数の増減の記載が譲渡の効力要件となる。

設立、組織再編、事業再生

株式会社の設立は次のプロセスを経る。
@団体の根本規則である定款を作成し、公証人の承認を得る
A株式発行事項を決め、株式の引き受けを確定する
B取締役など機関を決める
C株式引受人が出資を履行し、会社財産を形成して、設立時の株主を確定する
D設立の登記をする この登記によって株式会社は法人格を得る
会社法は発起設立と募集設立を定めている。発起設立は発起人が設立時の株式を全て引き受けることである。募集設立は発起人は一部の株式を引きうけるだけで、株式引受人を募集して会社設立時の当初株主となる。募集設立は設立時の面倒な事が少ないので利用する会社は多い。最低資本金制度は廃止しされたので起業しやすくなったといわれる。定款(原始定款)には目的、商号、本店の所在地、設立出資額、発起人の氏名住所、発行可能株式総数の記載が必要である。設立時発行株式数と払いこむ金額と成立後の資本金・資本準備金の額については発起人全員の同意が必要である。

企業の買収、再編、提携といった組織再編について述べられる。企業の買収の法的手段としては
@買収の対象会社の事業の譲り受け
A対象会社の吸収合併
B対象会社の吸収分割
C対象会社の株式を譲り受けて、経済的に対象会社を買収する。株式交換、株式公開買い付け、第三者割り当てを受ける方法。新設合併、新設分割、新設移転などの方法で新たに会社を設立して、買収会社がその会社を支配する。
買収に対して、企業グループ内での事業の移転は、一般に企業の再編といわれる。会社法では組織変更、吸収合併、新設合併、吸収合併、新設分割、株式交換、株式移転と云う七種類の組織再編行為が認められた。会社法では再編を容易にするため対価の柔軟化という株式の交換ではなく現金や財産で交付することを可能とした。買収反対株主といった少数株主の排除がが目的である。2007年より三角合併が可能となり親会社の株式を交付できクロスボーダー買収がしやすくなったといわれる。とはいえ現在の会社法では敵対的な買収は容易ではない。合併や株式交換契約は買収対象会社の株主総会決議が必要である。株式を買い集めて会社の取締役を入れ替えたりして株主総会の多数派工作をおこなういわゆる敵対的二段階買収もあるわけだが、本来買収は友好的な企業再編が目的である。もともと支配関係にある会社間(議決権の90%以上保有)では組織再編成を行う場合には、被支配者会社の株主総会の決議は不要とする略式手続きが出来た。組織再編行為に際しての会計処理にかんする「企業結合に関る会計基準」などの会計基準が急変している。取得した会社の取得原価は資産と負債に時価で配分し、「のれん」代は20年の償却を行うのである。破産法、民事再生法、会社更生法で扱われる事業再生は本書では記述がすくないので省略する。

会社法の展望

2005年の2月から3月にかけてのニッポン放送株をめぐるライブドアーとフジテレビの攻防は新聞で華々しく報じられて、国民に「新株予約券発行」という言葉が浸透した。新株予約権が行使されると、ライブドアーの保有割合は42%から約17%に低下し、フジテレビは約59%に上昇するものであった。新株予約権とは株式のコール・オプションである。日本ではインセンティブ報酬として取り締まりや従業員に賦与するとか、資金調達(新株予約権月社債)、株主優待として株主に発行するとか買収防衛策に使用するためである。今回の場合は勿論最後の買収防衛策の使用された。結局高裁は差止の決定をした。最近の株式の「敵対的買収」が持つ特徴を以下にまとめると
@真に経営参加の意志がないにもかかわらず、株価を吊り上げて高値で会社に引き取らせる目的でおこなういわゆる「グリーンメイラー」である買収
A買収した会社の情報,知的財産、顧客や取引先を奪うなどいわゆる「焦土化経営」が目的の買収
B買収した会社の財産を、買収グループの会社の担保や原資にする買収
C買収した会社の不動産や有価証券を売却してその処分利益でもって高配当にまわしたり、株価上昇の機会を狙って高値売る逃げを図る買収
など買収された会社を経営する意図はなく、食い物にするだけが目的の買収を「「敵対的買収」と呼ぶ。ライブドアーの真意は@にあったことは結果的に判明している。村上ファンドの動きなどは@のグリーンメイラー型であろう。支配権を有するほど買い付け資金がない場合、「発言する株主」とかいってメディアへの話題提供だけで株価が上昇することを狙った火事場泥棒である。買収防衛策としてライブドアーで有名になった時間外取引を規制する「立会外取引規制」が直ちに実施された。買収者以外への新株予約権発行による買収者の議決権比率を低下させる方法や友好的な企業に拒否権付き株式(いわゆる黄金株)を保有させる方法とかが出来るようになった。買収騒ぎの原因は規制緩和の隙を狙ったものである。今後会社法で検討すべき課題である。

コーポレート・ガバナンスをめぐる議論が一連の企業不祥事で盛んになった。アメリカでは経営の監視、モニタリングと云う意味で使われ、欧州では経営者の説明責任、アカウンタビリティと云う意味で使われている。企業の不祥事防止という消極的な意味から企業のパフォーマンス向上という意味で議論しなければならない。アメリカでは株主の利益の最大化が経営の目的であると云う考えが主流である。最近の流れは取締役会の少人数化と執行役員制への以降、社外取締役の普及、三委員会式取締役会の普及である。欧州は外部監査の強化で進んでいる。いずれにせよコーポレート・ガバナンスは公正さと透明さが求められ、取締役会の機能が非常に重要である。情報開示(デスクロージャー)に重要性はいうまでもない。

会社法は国の経済政策の一つの重要な制度インフラである。21世紀の会社法は競争力を高める法的サポート、IT革命に対応した会社法、資本市場の拡大に対応した会社法が求められる。


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