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梅田望夫/茂木健一郎対談 「フューチャリスト宣言」

 ちくま新書(2007年5月)


ウエブは未来を創造する 「ウエブ進化論」の続編

梅田望夫著「ウエブ進化論」が書かれた動機は、グーグルの検索エンジン革命と、ロングテールという(微少収入×無限大需要)が一定のビジネス(クリック課金と公告業、アマゾンのWeb.2化)を成り立たせるということ、オープンソースとマスコラボレーションにより衆智を集めて迅速にソフト開発が出来ればマイクロソフトなど既存ソフトメーカに脅威を与える可能性の三要因であろう。 そこでもう一度「ウエブ進化論」の要点をおさらいしておこう。

ウエブ(ネット)世界の三大潮流
インターネット、コストダウン革命、オープンソースが次の十年間の三題潮流となって革命を引き起こす。ネット世界の革命とは1)世界的見地からの構想、2)ネット上の分身がビジネスをする経済圏、3)(微少収入×無限大需要)の価値の集積のことだそうだ。そしてこれらの革命が、IBM、マイクロソフト、メデイアなどのリアル企業を直撃して侵食しつつある事実である。膨大な投資に見合う情報と価値の独占企業が崩壊するという筋書きである。
グーグルー知の世界を再編成する
グーグルの使命は「世界中の情報を組織化してそれをあまねく誰からもアクセスできるようにすること」であった。2004年はIBMからグーグルへの象徴的なパワーシフト劇であった。グーグルは30万台のコンピュータを使って情報発電所システムを構築した。年間35〜40兆円といわれる世界公告市場に頼っていることである。アマゾンやヤフーというアメリカのネット企業もマイクロソフトのネット側への移行も、グーグルのテクノロジー革命に刺激され烈しい競争に入った。
ロングテールとWeb.2
アマゾンのWeb.2化とは(微少収入×無限大需要)を狙ったビジネスでネット書籍で成功し、メデイア(本屋、新聞、テレビなど)に大いに脅威を与えている。またグーグルのクリック課金による公告業参入を容易にしたことがネット経済圏の革命を推進した。
ブログと総表現社会
インターネット上で最近ブログが流行している。日本でも500万を越えた。プロの表現者がメデイア依存で飯を食っているが、メデイアは本質的に受動的である。ブログは玉石混合ではあるが総表現社会を生みつつある。それは検索エンジン機能の自動秩序形成システムにより良質な情報が選択できるようになればさらによい。

今回の本梅田望夫/茂木健一郎対談 「フューチャリスト宣言」は、脳科学者でコンピュータ研究者の茂木健一郎氏(NHKテレビ番組「プロフェッショナル仕事の流儀」の司会で有名になった。)を迎えて、ウエブ(インターネット文化)の未来に無限の希望を夢見る二人の異色の対談となった。1995年にインターネットが出現して12年経過した。さまざまなウエブビジネスを生みながら、情報公開を通じて既成社会に対して大きな変革の可能性要因になってきた。今後のウエブ未来に対して限りない信頼と期待をこめて二人は「フューチャリスト宣言」を行う。フューチャリストとは、専門領域を超えた学際的な広い視点から未来を考え抜き、未来のビジョンを提示することである。ある意味では楽天主義、肯定主義、革命主義である。決してペシミスト、コンサーバテイスト、エスタブリッシュメントではない。

黒船到来

本書の話題は言うまでもなくインターネット社会の革命的ツール、なかでもブログ、グーグル検索、ウイキペディア、ユーチューブの話に終始する。それらのツールが既成のリアルな社会組織を揺るがす革命が起こりつつあることを宣言するのである。人類が言語を発明して以来の出来事だというのだ。ツールはテクノロジーであると同時に文明的特長を兼ね備えている。公共性と利他性こそがインターネットの特質である。情報は伝達速度が無限大でコストがゼロになる。既存の電気通信会社の利権に対して真っ向から一人の人間が勝負するには色々なツールというテクノロジーの助けが必要で、既成の権力と闘うことが可能となった。研究手法も一人で蛸壺式に研究を掘り下げるのではなく、アイデアを提示して多くの人が寄ってたかって完成するのがウエブ2.0時代の研究開発スタイルとなった。大メーカのように、研究者、施設を囲い込んで莫大な費用をかけて開発する従前のクローズド研究開発スタイルはもはや時代遅れだという。そういう意味でグーグルは久しぶりにやってきた黒船だという。

グーグル

ブログのネット内脳空間は効率的で、移動したり、生身の人間に会うという面倒なこともない。梅田氏のように1日10時間ほどをネットで仕事をする人をネットアスリートという。500人くらいの研究仲間のブログをRSSリーダで見てこれぞと言うものを獲得する。こんな効率的な仕事法はない。グーグルは昨年動画サイトユーチューブを2000億円で買収した。これはいずれ映画・ビデオの著作権を揺るがすことになるだろう。ブログに書き込む多くの人の行為は結局グーグルに吸収され、グーグルを育てているのである。一日数千人から一万人以上に読まれているブログサイトは不特定多数の声に曝され教育され進化してゆくのだ。

「フューチャリスト同盟」

ここで梅田望夫と茂木健一郎両氏は「フューチャリスト」の使命感を確認しあって「フューチャリスト宣言」を行い握手する。大学なんかで教えるより、毎日1万人以上の人に教え・教えられる関係こそ今後の教育だと梅田氏は強調する。ネット大学や大学に行かずネットだけで研究して論文を公開しノーベル賞を取るような人も現れるのではないか。グーグルでは世界中の図書を公開することを進めている。之が完成したらあらゆる文献論文が図書館に行かずに読めるようになる。日本の教育の本質は談合だ。発展的志向性がない。狭い範囲でうごめいているだけ。組織と個人の関係も変わるだろう。組織のだれそれと言うより、自分はこういうものだとブログを読ませればいい。それで人間を判断する時代になるだろう。ネットベンチャーでも採用するときはその人のブログを重要視しているそうだ。

インターネットの未来

ウエブ社会の到来は負け犬(アンダードッグ)たちのチャンスである。今までの日本社会の勝者って談合(リアル)にうまく乗っかった人であろうか。ネットへのアクセスは基本的人権にしなければ機会均等ではない。ネットで外に開かれた遇有性(たまたま起きる必然性)で人間性が変化し人格も変る。ネットは本よりも遇有性に満ちた流れ行く空間だが、本はしっかりした固定点としての意味をもつのではないか。ネットは人間の学ぶ喜びと報酬回路を刺戟する。日本は談合社会で、こう有るべしという型を決めた土俵での戦いで、そこから外れた人には極めて冷たい。談合社会をぶち壊したいというか相対化したいというのが「フューチャリスト同盟」のミッションである。


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