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バルタザール・グラシアン著  「賢人の智恵」

 ディスカバー21(2006年12月)



ある日、駅近くの本屋の一番売れ筋の場所にうず高く積み上げられた白くて分厚い本があった。何となしに取り上げてぱらぱらめくってみると、厚い再生紙の上に大きな見出しの文字と短い文章が並んだ実に読みやすそうな本だった。一題一頁にまとめられ、きっかり240ページで終わる。処世訓のような、警句のような、道徳のような、随筆のような、神の啓示のような不思議な文章が240節書き込まれていた。退屈しのぎにふっと買ってしまった。

著者バルタザール・グラシアンは17世紀スペインのイエズス会修道士だそうです。かって神学者で哲学者のショーペンハウエルはこの本のドイツ語訳を手がけ、日本では明治時代森鴎外が部分的に日本語訳を手がけたそうです。ドイツの哲学者ニーチェはこの本を人生の道徳律と絶賛しました。聖職者の書いた本としては神の国のことではなく、この世の世界を冷静な視点で見つめ思慮分別と洞察力を説いたもので、400年を経た今日でも欧州では読み継がれているようです。バルタザール・グラシアンは雄弁な伝道師として圧倒的な名声をほしいままにしたが、1657年逮捕され追放されて1年後に没したようです。このような冷徹な処世訓を書いた人物も、人生を誤まったようで、やはり無難に人生を終えるのは至難の術で、反面教師として読むのも一興かもしれない。

本書は240節からなるとして、大きく八つの章に分かたれている。
1:人とのかかわりについて(47節)
2:駆け引きについて(32節)
3:会話について(25節)
4:知性について(30節)
5:自分自身について(34節)
6:才能について(13節)
7:成功について(34節)
8:人生について(18節)
一つ一つの節には教訓と智恵が説かれている。私の人生もこの本を読んでこのように行動したならば、今ではすばらしく出世して最高の地位を得ていたかもしれない。後の祭りとはこのことである。とは言うものの出来るわけはない。こんなにたくさん教訓を垂れられても、覚えていられない。宗教団体の発行する日めくりカレンダーにすれば売れるかもしれない。「人は丸く、腹は立てず、自分は小さく」という類である。


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