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原田武夫著 「仕掛け、壊し、奪い去るアメリカの論理」

 ブックマン社(2007年1月)

驚愕の米国支配者と金融資本主義の世界包囲網

私は中東での紛争と9.11テロの主因はアメリカにあるとの確信を抱き、次に示すようなアメリカの世界制覇に関する書物を読んできた。冷戦終了後のアメリカ一国覇権主義で大体の政治と軍事行動は読めるようになったのはノーム・チョムスキー著 「覇権か生存かーアメリカの世界戦略と人類の未来ー」のおかげである。しかしその行動が経済的利益に基づいているという仮説からは未だ十分説明できないことが多い。特に最近問題の北朝鮮をめぐる6カ国協議でのアメリカの変節が読めない。北へ対してアメリカが行動しないのは経済的メリットが無いともくろんでいるのか、もっとうまい利用法があると考えているのか良く分からない。
本書は主として米国の支配者と金融資本主義が日本に仕掛けてくる規制緩和と企業買収のもたらす危険性と対処法を描いたものであるが、金融資本主義の狙いなどは東谷暁著 「金融モラル崩壊ー金より大事なものがあるー」に詳しい。本書はそのショッキングな書名からして、米国金融資本の恐るべき収奪システムを明快に説明されている点で驚愕の一言である。世界中から資産を奪うために米国の政治・軍事・情報・金融機関が一体となって機能する構造を見るべきだという。日本の歴代政府・首相は唯々諾々とアメリカの要求に従って国民の財産を売り、世界にほこる生産システムや社会制度を構造改革と称して破壊してきた。生活が苦しくなる一方で、未来に希望が持てない国民は無力感に陥いるばかりではだめだということを本書は説いてくれる。最近稀に見る啓発の書である。
 姜尚中著 「姜尚中の政治学入門」
 相馬勝著 「北朝鮮最終殲滅計画」
 村上龍著 「日本経済に関する7年間の疑問」
 広瀬隆著 「アメリカの巨大軍需産業」
 ノーム・チョムスキー著 「メディアコントロールー正義なき民主主義と国際社会ー」
 ノーム・チョムスキー著 「覇権か生存かーアメリカの世界戦略と人類の未来ー」
 東谷暁著 「金融モラル崩壊ー金より大事なものがあるー」
 橘木俊詔 「格差社会」 
 宮田律著 「中東イスラーム民族史」
 関川夏央著 「世界とはいやなものである」
 島田洋一著 「アメリカ・北朝鮮抗争史」
 藤原帰一編 「テロ後 世界はどう変わったか」
 広河隆一著 「パレスチナ」
 酒井啓子著 「イラク 戦争と占領」
 藤原和彦著 「イスラム過激原理主義」

著者原田武夫氏は外務省勤務12年で自主退職され、本書に書かれた主張を伝道するためにシンクタンク「原田武夫国際戦略情報研究所」の代表になった。何で飯を食っているか知らないが、「米国と距離感を持って言うべきことを言う人は多いが、そのことを職業にする人は原田氏のみだ」といわれた。本書は東大教養部(駒場)での正規単位ゼミとして「実践的現代日本政治経済論」を2006年夏に開講された講義録が下敷きになっているようだ。1990年以降「平成バブル不況」に苦しみ続けた日本では、「平成の笛吹き男」小泉純一郎主宰政治劇場の抵抗勢力退治劇に拍手喝采をしている間に、取り返しのつかない構造改革が米国金融資本のために準備され2007年5月にその総仕上げを迎えて日本企業の買収が本番となる。「この改革は本当に私たちを救ってくれたのだろうか」、とんでもない。私たちの郵便貯金と簡保で蓄えた虎の子350兆円が米国金融資本に狙われたのだ。郵政民営化で民間企業になればM&Aで企業乗っ取りができるのだ。そして虎の子は無くなる。勿論日本の支配層もその買収劇で儲けるつもりである。国債を800兆円も借金してなお日本政府が平然としているのは日本国民が持つ個人資産1500兆円があるからである。日本の支配層はこれを食いつぶすまでは真剣に考えないどころか、もっと自分の懐を肥やすための仕掛け(国民財産を奪う計画)をたくらんでいる。日米支配層の思惑が足並みをそろえて、国民の虎の子を狙ってきた。改革騒動から目を覚ました日本人が一人ひとりが生きるべき道を考えるために本書は書かれた。「目を覚ませ!騙されるな!奪われるな!」

1)奪われる日本、騙される日本人

世界の政治や経済を動かす基本的な原理が変わったことに気がつかない日本人全員が罠にはまっている。私たちの財布のなけなしの金が米国に奪われる仕組みが小泉改革にいたる歴代の「構造改革」の実態であった。歴代の政府が米国のこの企みに反対しなかったのは、彼らを動かす日本支配層もこの中で儲けられると見ているからだ。アメリカは戦後IMF、IBRD、GATTを通じて自由貿易体制により世界経済のルールを作ってきた。日本もその潮流に乗り日米安全保障条約により安定した高度経済成長を成し遂げた。しかるに東西冷戦が終了した1991年以降、アメリカは世界唯一覇権国家となった。日本でも社会党が消滅した。アメリカの軍事行動は常に経済的利権の獲得を目指した行動であると見れが中東や中央アジア、ユーゴ問題の本質が見えてくる。アメリカは日本を自由主義陣営の優等生としての宣伝効果という利用価値をかなぐり捨て、米国金融資本は収奪の対象として日本の個人資産1500兆円を狙ってきた。米国による国富の移転を可能とするためのシステム変更を日本人のエージェントにやらせたのが「構造改革」である。小泉前首相の「郵政民営化」や金融ビッグバンから規制緩和にいたるさまざまな道が引かれたのである。

2)構造改革とは

1980年代の後半までは、力をつけた日本による貿易摩擦が日米間の最大であった。スーパー301条などの発動で米国は攻撃してきたのも懐かしい思い出になった。アメリカの製造産業は軍需航空分野を除いて力を失い空洞化した。そしてアメリカが仕掛けてきたのはアメリカのための構造改革である。「日米包括経済協議」で日本にノルマをかけて経済摩擦から日本の国内問題にすり替えてきた。経済官僚が優等生的作文にせいを出している間に着々と米国型構造改改革が実行された。1997年から日本では特殊法人の民営化、郵便局の民営化、商法の改革、米国風会計システムによる企業統治(コーポレート・ガヴァナンス」の受け入れなどが進められた。制度を改めないとアメリカは東南アジアで起きた通貨危機(米国ヘッジファンドが仕掛けたといわれる)のように、「破壊ビジネス」を仕掛け一挙に相手国の経済・社会システムを破壊する。日本に対する「破壊ビジネス」は、日本人エージェントの活用、金融資本主義への転換、IT普及による情報の収集から音もなく始まった。日本人エージェントの活用とは規制緩和委員会の人々(政府、審議会委員、企業家、学者などなど米国流を是として活動する人)のことである。金融資本主義への転換は金融ビックバンから始まり、不動産バブルで苦しむ金融界のBIS規制、日銀金利ゼロ政策による金融商品への誘導、直接金融への転換(株の持ち合い制から株の放出と直接購入へ)という政策変更によって、これまで日本の企業はある程度集団で行動(護衛船団方式)していたのが、株式の直接金融になったことで米国金融機関の前で丸裸にされた。まさに企業買収や乗っ取りM&Aがやりやすい形態にされ、ヘッジファンドやハゲタカファンドの餌食となった。青山監査事務所問題でその本質が明らかになったが経営コンサルタントや監査法人は表の顔とは別に、破壊ビジネスの代理人でも有り、米国情報機関への情報流通者でもある。それが可能になったのがIT革命といわれるインターネット(米国ペンタゴンの開発による)である。日本企業のデータは須らく米国金融界支配者のもとへ送られている。

3)アメリカ社会の支配者

米国の国内でも実は永久的に支配する側と支配される側の関係が固定されている。普段は見えにくい支配する側を「奥の院」と呼ぼう。奥の院は何かというと金融資本主義で利益を上げる複数の閨閥家族である。それはイギリスからの移民者でアメリカを創造した家族の子孫である。具体的にいえばロックフェラー家、カーネギー家、ヴァンダービルト家、アスター家、メロン家、ヂュポン家、モルガン家などを指すようで、資産額は10−20兆円である。米国は「自由で民主的な国家というイメージで語られるが、これは奥の院の余裕なのだ。奥の院はその富でもって政府、軍、情報機関を支配する。奥の院はこれらの機関を使って、買収する企業や国の価値をまず下げる工作、リスクの演出をする。株の価値が下ったら買収にかかる。奥の院は家の資産運用会社を通じて米国内の投資ファンド(一兆円以上の運用金を持つ)に出資し、米国系大手投資銀行をコントロールして、日本の支店を通じて日本の大手証券会社に買収を指示する。証券会社は人気のある買収ファンド(村上ファンドみたいなもの)を使ってターゲットとなる日本企業を買収するのである。そして合理化やリストラをやらせ企業価値が上がってきたら高値で株を売って利益を確保する。奥の院の日本への破壊ビジネスは2007年5月に本格的に開始される。日本支社を使った三角合併が解禁になり、数々の構造改革(確定拠出年金への移行、学校医療への投資条件緩和、解雇紛争の金銭解決化、残業代不払いのホワイトカラーエグゼンプション、派遣労働者規制緩和など)で日本を丸裸にすることが目白押しに計画されている。かって東南アジアの通貨危機において米国が行ったヘッジファンドによる破壊工作が日本を襲う。ただ破壊し尽くすと米国型スタンダード社会になって更なる利益は期待できないので、次は放任して各国特有のシステムが生まれるように仕向けるのである。それが民主党の役割である。多元的価値を標榜する民主党は各国社会の創造を誘導する。新たなシステムの創造が出来たところで、共和党政権がこれを戦争や買収などで破壊して奥の院へ金を運ぶ役割を演じる。これが2大政党の任務分担である。大体8年おきに世界の潮流が変化するのである。「民主党は鳩派」なんていうのは真っ赤な嘘で、軍事費は着実に準備している。世界構造の階層(ヒエラルヒー)の頂点にはマネージャー国家米国がいて、別格にイギリスがある。イギリスは次のサブマネージャ国家の顔も持つが米国と同じ国際金融資本を抱えたハイパーマネージャー国家である。米国と共生するサブマネージャ国家(フランス、中国、ロシアの 国連常任理事国、核保有国)の他は収奪対象となるワーカー国家(日本、ドイツ、東欧、中東,アフリカ、東南アジア、中南米)が底辺を占める。さらにハイエナ国家(悪の枢軸 イラン・イラク、北朝鮮)というアウトローがいる。日本は残念ながら収奪対象のワーカー国家である。働き蜂である。

4)新しい教養とは、市場では

ここで著者は一億総投資家への道を教える。これには米国・日本の支配層がたくらむ資産収奪から逃れるためには、ひとりひとりが自分の財産を金融資本から守る必要があるのだそうだ。たんす貯金でも現金は守ることは出来るがインフレをかけられたら価値は減少する。既に逆戻りが出来ない構造改革のもとで私たちは金融資本主義に対する理解、情報リテラシー、ネットワーク分析を学ばなければならない、これが新しい教養である。ということで著者は金融商品(株式、債券、為替、商品)の常識的な手ほどきをするのである。しかし結論として素人が扱えるのは株式だけである。後は恐ろしい仕手屋の世界である。日本のプロでも国債プロにやられてしまう世界だ。プロが仕掛ける情報かく乱に対する正確な情報を公開情報から得ることは不可能で、人的ネットワークもない。これは個人資産防衛の本当の解決になるのだろうか。著者の考えは危険すぎて納得できかねる。臆病な私はたいした資産もないので結局たんす貯金でいくしか能がない。

5)情報とメデイァの真実

情報とは何か、情報はどうしたら集められるかを「インフォーメーション」といい、集めた情報を分析し判断することは「インテリジェンス」に属する。情報を得て株価に生かせればそれは価値のある通貨みたいな物である。公開情報で95%の本質は洞察できるが、5%の真実も非公開情報に残っている。「証券アナリスト」の株情報は信用するなというように公開情報は常に信憑性を疑ってかからないといけない。それがメディアレテラシーを磨くということである。経済情報に限らずメディアはある意図を持って情報を流通させるので、いつもなぜを連発しないと情報操作人の手に載せられて泣きを見る。大手新聞社の広告主には米系企業が多いのでアメリカによる情報操作を受けざるを得ない。とくにリスク(地域紛争など)報道は大手新聞といえど取材に行けないので殆ど米系メジャ新聞に頼っている。そのためまんまとリスクを煽ったり株価や石油価格の乱高下に一役買わされているのである。CIAを通じて米国は世界中にリスク要因を手中にしている(北朝鮮もその例かも、紛争相手と通じて紛争をあおるのは日常茶飯事で、米国はオサマビンラデーンやアルカイダを保護下においているとも言われる)。非公開の5%情報に近づくことは素人には難しく、下手にするとインサイダーになりかねないが、企業買収に同伴して投資してファンドと行動を共にすることで利益を上げることを「イベントドライブン」という。これは違法ではない。

6)明治時代と朝鮮情勢

日本がアメリカの収奪対象でしかないなら、日本の片思いは棄てなければならない。その意味で明治時代の列強がしのぎを削った19世紀末の朝鮮半島をめぐる国際情勢は極めて興味ある現代の問題でもある。明治維新政府は潜在的敵国をロシアとして朝鮮半島に進出した。日本も経済的理由で植民地を求め帝国主義列強の仲間入りを狙った。英国を味方につけ1894年日清戦争、1905年日露戦争を戦い抜いて、1910年朝鮮を併合した。その間ドイツ、フランス、アメリカも虎視眈々と中国を狙っていた。日本は中国へ出るにもまず朝鮮を確保しなければならず、そのためには北の脅威ロシアを叩く必要があった。勿論イギリスは清の戦争賠償金公債を引き受けて巨利を得た。そこで一挙に現在の北朝鮮問題を考える。2006年7月にはミサイル発射実験、そして10月には北は核実験を行ったと発表した。米国はありもしなかった大量破壊兵器を口実にイラクを破壊した。これは石油利権というおいしい成果を期待したからだ。ところが北朝鮮は一向に攻撃する気配すらない。何故か。北朝鮮問題は1990年から始まり、1994年クリントン合意で北に対するKEDO機構を立ち上げたが北に反故にされ、2003年8月より延々と6回も6カ国協議をやって一向に埒が明かない。ようするにアメリカは自国が利益を上げることが出来るビジネスモデルがなかなか仕掛けることが出来ないのである。その最大の理由が奪う資源が北朝鮮には乏しいからではないかと私は想定する。初め米朝2カ国協議はしない、直ちに出て来いと威勢が良かった米国が最近こっそりと米朝二カ国協議を始めたり、米中北朝鮮でこそこそ話している。これは不可解である。そして米国は日本政府に拉致問題の火をつけて日本が北朝鮮に接近するのを妨げているようだ。6カ国協議は核問題ではなく経済問題で、北朝鮮を買い占めた中国と世界の支配者米国が利権を分け合う交渉をしているのではないか。それに債権国ロシアが待ったをかけると面白いのだが、ロシアにそれだけの力があるのか。一番の馬鹿面は韓国でついで日本だ。

7)君たちはどう生きるか

アメリカ奥の院の日本破壊ビジネスに対して白旗を揚げて降伏し、利益の一部の分け前に預かるのは(日本支配層・金融資本)であるが、我々は良くて協力者にしかなれないだろう。しかし協力者には残酷な末路(村上ファンド、ライブドアー)が待っている。2007年アメリカが巨大ファンドを使って日本の伝統的企業の株を買い集めM&Aを仕掛けてくるのは改正会社法が施行される2007年5月以降である。その後に待っているストーリーは次のようなものである。 1)次には破壊から創造に時期に移る(来年12月の米大統領選挙で民主党大統領が出来てから)だろう。そのときには日本人エージェントは棄てられる運命にある。
2)米国は金融資本主義から商品資源主義へ転換するかもしれない。それは爆発する中国市場が資源を大食いするからだ。
3)少子高齢化社会では医療・教育と並んで介護ビジネスが有望である。NPO法人がキーになるかもしれない。
戦後身についた米国のための日本人エージェントの生き方を選ぶか、それとも日本独自のシステム構築に励むか、「国家の品格」とか「武士道」という懐古趣味に逃げるか、いずれにせよ私たちの生き方が試される。


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