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藤原正彦/安野光雅対談 「世にも美しい日本語入門」

 ちくまプリマー新書(2006年1月)



藤原正彦氏はお茶の水女子大教授で数学者、安野光雅氏は水彩画家で何の関係があって本書の対談をなされたのか興味がわいた。実は昭和20年代末、安野光雅氏は武蔵野市第4小学校の図工の先生で、藤原正彦氏はその生徒という関係であったそうだ。勿論この本の題名「美しい日本語」に共感するものがあったのであろう。私は随分昔から安野光雅氏のファンで、ヨーロッパのメルヘン世界を清らかな(水彩画で濁っていたら生命がなくなるが)色彩で情緒溢れるタッチで描かれていた画家であった。恐らく童話絵本の作家として有名だったのではないだろうか。私も何冊か絵本・絵葉書を買って見た。人物の顔は描かず、身体も棒のような形であくまで人は点景にすぎずヨーロッパの古都・古城・田園風景を描かれる作家であった。ところが最近「平家物語」という絵巻を刊行された。それは繊細な絵物語であった。高い本(?万円)なので本屋で立ち見をしたに過ぎないが、安野光雅氏は私にとって身近な存在であった。この二人が文学的叙情で結ばれていたとは大変な発見であった。

藤原正彦氏はお茶の水女子大で数学の講義以外に「読書ゼミ」をやっておられる。そこで1週間に1冊岩波文庫の古典を読まれるそうだ。又私事で恐縮だが私も岩波文庫派である。もう何百冊読んできたことか。最近の学生が読書離れしているそうだが、古典教養を身につけることが如何に重要かを実践しておられる。
近年小学校での国語の時間が週4時間くらいだそうで、戦前の3分の1以下であることを藤原正彦氏は嘆かれている。それに伴って思考力・情緒・愛情も低下しつつあるそうだ。字画数にこだわらず古典を子供にどんどん教える国語教育の再興が必要だそうだ。
日本人の言語には昔から特有のリズム(五・七・五・七・七など)があり、日本は世界に誇る文学遺産「万葉集」、「源氏物語」、「古今和歌集」、「枕草紙」、「平家物語」、「徒然草」などを持っている文学の国であった。小学校の童謡唱歌には文語体の魅力が溢れている。

以上、二人の回顧談義は尽きない。たしかに欧州に中世文学がないことや、朝鮮には古代中世文学が何も残っていないことを見るとき、日本文学の豊富さ貴重さは論を待たない。しかしギリシャ哲学・劇や中国の文学・史学・詩、欧州の近代文学・哲学・啓蒙思想・科学、ペルシャの学問などを総合的に見れば、日本文学だけが突出していたとは到底主張できない。藤原正彦氏の独断(全体を見ない)と断定(根拠がなく飛躍だらけ)にはほとほとお付き合いできないものがある。単純な日本回帰主義には追随してゆく必要はない。


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