061215

藤原正彦著 「祖国とは国語」

 新潮文庫(2006年1月)



藤原正彦氏は気象庁技師で作家の新田次郎氏と藤原てい氏のご子息である。従って文章一家の中で育っておられるので文章は巧みである。藤原正彦氏は数学者でお茶の水女子大教授であるので小説家ではない。文章は読みやすいが反面説明を飛ばした飛躍の多い結論だけの散文になっているので、ねちっこい文章好きの私には物足りない。そして本書もそうだが、どれもこれも短い随筆調で四百字詰め原稿用紙1枚にも満たない小文からなる。本書は「国語教育絶対論」と「満州再訪記」のみが読み応えがあった。後の小文は本としての体裁と分量を増すための詰め物に過ぎない。本書の題名「祖国とは国語」ということからは「国語教育絶対論」だけを紹介する。

「1)バブル崩壊後の日本の経済の混迷とグローバリズムによる日本の破壊、改革という名の市場主義による日本社会の伝統の破壊には目を覆いたくなるものがある。この国家的危機の本質は誤まった教育にあり、教育を立て直すことは日本を立て直すことである。国家の浮沈は小学校の国語にかかっている。
2)国語は全ての知的活動(全教科)の基礎である。国語は思考力そのものである。読書は教養の土台、大局観の土台である。
3)国語は論理的思考を育てる。
4)国語は情緒を養う。情緒はわが国の有する普遍的価値でもある。又日本人が有する美しい情緒は世界の普遍的価値でもある。
5)祖国とは国語である。国語を愛するとは祖国郷土を愛することである。
6)これからの国語教育は子供を読書に向かわせることを目標にすべきである。国語の中心はあくまで読みである。特に古典、文語体の美しさと情緒を学ばせる必要がある。国語は日本人のアイデンティティである。」
と藤原先生は主張される。日本語の大切さは申されるとおりで否定すべくもないが、国語や古典教養を身につけたはずの戦前、戦後の指導者が道を誤まって国を危機に陥れたとするならば、国語で日本を救うとは矛盾した話だと思う。国を誤まるのは国語の教養のなさではない。別の次元の問題である。こんな世間知らずの学者の話は聞き流しておけばいい。


随筆・雑感・書評に戻る   ホームに戻る
inserted by FC2 system