071031

長妻昭著 「消えた年金を追って」

 リヨン社(2007年10月)

社会保険庁「消えた年金」編:「ミスター年金」衆議院議員長妻昭氏が国会で暴く
政府と社保庁がひた隠すあなたの消えた年金

著者長妻昭氏を簡単に紹介する。東京都練馬区出身。東京都立練馬高等学校、慶應義塾大学を卒業し、日本電気の営業マン、日経ビジネス記者を経て、1995年7月22日に行われた第17回参議院議員通常選挙に平成維新の会公認で出馬するが、落選。その後、新党さきがけを経て旧民主党結党に参加し、1996年10月20日実施の第41回衆議院議員総選挙に東京都第10区から出馬し、当時自由民主党・清和会元職で後に志帥会旗揚げ参加の小林興起に完敗した(新進党現職鮫島宗明と支持層が重なった事が最大の敗因)。2000年6月25日に行われた第42回衆議院議員総選挙において東京都第7区から出馬し、大勇会で現職の粕谷茂を破り初当選を果たした。続く第43回総選挙(2003年11月9日)でも小選挙区で当選。第44回総選挙(2005年9月11日)では、自由民主党新人で当選後に清和会に属する松本文明に敗北したものの、比例復活により三選した。

長妻氏は年金記録問題の際、急先鋒として一年以上にわたって政府・社会保険庁を追及しつづけ、5000万件の「年金もれ」の存在を明らかにした。このことから「ミスター年金」という異名を持つようになった。小泉純一郎政権時の2006年夏ごろから、委員会等で厚生労働省や社会保険庁の施策を盛んに追及するようになり、同時に支払った年金が未納扱いになっている事実を採り上げるようになった。2006年6月には前記の年金未納問題および「国民年金の未納者を行方不明者として扱い、納税率が上がったように見せる」「年収用件を満たしていない対象者の年金免除や猶予を意図的に行わない」ことを指摘し、さらに2006年7月には4件の年金記入漏れを社保庁に公式に認めさせることになった。 安倍政権となった2006年秋以降追及は本格化し、11月には36万人分の年金漏れを指摘し、2007年2月には年金の納付記録漏れが2006年6月現在で5000万件以上あることを柳沢伯夫厚生労働大臣に認めさせるに至った。 2007年5月の年金記録問題では民主党内で率先して自民党の対応を批判し、それがメディアで報道された。テレビ朝日系列の『サンデープロジェクト』に出演した際には、田原総一郎から、「民主党は長妻さんに5000万くらいボーナスを出すべきですよ」と冗談を受けた。

「年金は、国家の礎である。年金制度が信頼を得ている国は発展します。年金制度が信頼を失うと、国家の信頼も失墜し国力は衰退するのです。年金が消えてしまうのは欠陥国家です。生活者にとって安心な仕組みセーフティーネットは、規制緩和を推進する政府や業界にとって厳しい制度となり、いい加減な政府役所や企業は生き残れません。しかし、逆にまじめに生活者の立場に立つ政府や役所企業が出れば、評価され信頼され発展します。その結果国際競争力も高まるのです」と著者は本書の冒頭で宣言する。この論理は、かっての公害規制で非常に厳しい基準をクリアーした日本の自動車産業が世界を席巻したことを思えば、まじめに努力する企業が発展すると言う分りやすい論理です。年金問題は大きくは年金保険料浪費問題(約9兆円の累積無駄使い、これも年金から消えた)と現在の「5000万件の消えた年金」問題です。年金保険料浪費問題は社保庁の解体と年金支払い外使用禁止で解決しそうです。「5000万件の消えた年金」問題は前の問題とあわせ根の深い官僚機構との闘いです。すべて官僚機構が引き起こした問題で誰一人責任を取る人がいないのです。

問題追求ー官僚の隠蔽体質

年金には厚生年金と国民年金(加入者比で6:4)とがありますが、今後の話では断りがなければ両者一括で話を進めます。平成19年6月までに社保事務所にきて相談した人は398万人ですが「八人に一人が記録の訂正をした」と言う実態です。消えた年金被害者には@政府が認定した被害者 A政府より訴えを却下された被害者 B自分が被害者だと気がついていない被害者があり、深刻なのは申し出がないと認定しないことで数が一番多いのではないかと心配されます。年金加入者1億1500万人全員に履歴を送付してチェックを御願いする作業はまだ始まっていません。何時終わるのかも不明です。社保庁と言うお役所は年金支払い開始は申請性であるといって、確認業務も申請主義を取るのは仕事をしたくないための詭弁です。「年金保険料の支払いは国民の義務である」と言ってその帳簿をなくしてしまう事業体がどこにあるのでしょうか。民間企業であれば信用をなくして即倒産です。これほど信用できない役所を相手にするには、先ず国民一人一人が自分の納付履歴一覧を見て抜けがないかどうかじっくりチェックすることです。社保事務所で見られます。名前の記入間違いが多いのでいろいろな読み方で検索してもらうことです。コンピューター検索であなたの記録がないといわれたら、手書きの紙台帳(マイクロフィルム)を探すように要求しましょう。ないといわれたら役所の相談員の名前の入った確認書を要求しましょう。それだけで相手には緊張感を持たすことが出来ます。それから総務省の「年金記録確認地方第三者委員会」に申し立ててみることです。

平成9年1月よりすべての年金保険加入者に一人ひとつの番号である基礎年金番号がつけられました。職を変えた場合複数の番号を持っていた人の統合漏れが先ず考えられます。議員の調査要求に対して社保庁は最初統合漏れはないとの一辺倒で寄り付く島もなかった。ところが平成18年6月16日、国会の衆議院厚生労働委員会で「消えた年金」問題を追及する機会がやってきた。質問に立ったのが長妻昭氏であった。65歳以上で基礎年金番号に統合されていない記録は約2300万件であることがわかった。未統合記録全体数を要求して平成18年8月11月20日にやっと数字が出た。65歳未満の未統合記録数は約2700万件、さきの65歳以上の未統合記録数2300万件とあわせて、約5000万件と言う数値を社保庁は認識したことになる。平成19年1月29日の衆議院本会議で民主党松本氏の質問には、安倍前首相は悠長な姿勢でまだ事態の深刻さには気がついていないような感じであった。平成19年2月14日の衆議院予算委員会での緊急事態宣言を要求する長妻氏の質問に、安倍前首相は「緊急事態宣言をすべての被保険者にだす、これは年金制度そのものに対する不安をあおる結果になる危険性がある」と官僚特有の愚民政策答弁を繰り返した。平成19年2月17日、日経新聞朝刊一面に5000万件の数値が始めて報道された。社保庁の官僚は火消しに躍起となり「問題はない」と説明に走り回ったようである。平成19年五月8日衆議院本会議で長妻氏の質問にたいして安倍前首相は「すべての保保険者、年金受給者に納付記録を点検してもらうことは、大部分の記録が真正であるので非効率的だ」と対策は不要といわんばかりの官僚答弁書を丸呑みしていたようだ。慌てた政府は5月25日「年金時効撤廃法案」を強行可決した。ところがこの強行可決で幕引きを図ろうとしたにもかかわらず、毎日新聞が5月27日に内閣支持率調査結果「内閣支持率11%急落、最低の32%」で安倍内閣を動かした。この間の安倍内閣の態度は批判をする者は敵とするような自信のない攻撃的なものであった。既に問題提起から1年たって「年金記録問題検証委員会」が設置された。

問題の原因

問題のある納付記録にはどのようなものがあるのだろうか。@統合されていない記録、これは本人が気付いて申告する必要がある A入力ミスでデータが壊れている記録、これでは検索ができない Bコンピュータになくて紙台帳のみにある記録、紙からコンピュータ入力漏れか間違いがあるばあい  Cコンピューターに存在するが受給額を決定する情報(納付年月日、標準報酬月額)が未入力か間違いがあった記録 Dコンピューターや紙台帳から完全に消えている記録、本人の領収書以外に証明する手はありません。職員による横領のケースも含まれます。社会保険業務センター(三鷹)のNTTデータに記録されている納付記録は約三億件です。社保庁はあきらにしないが、本書では基礎年金番号のみの記録が1億件、基礎年金番号に統合された記録が1億5千万件、未統合記録は5000万件ですので、合計3億万件という数になる。すると6件に1件が未統合と云う比率となります。1億156万人の基礎年金番号通知のさい、未受給者に複数の年金番号を持っている人をアンケートしたところ916万人いたそうだ。だが既に受給している人にはこのアンケートは配られなかった。統合が進まない原因にはデータの入力ミスがあります。入力作業の杜撰さ、ダブルチェック体制不備、監督不十分のままの委託業務がミスを招いた大きな原因と思われます。厚生年金の場合。企業主が保険料を社会保険庁に納めていないケースもある。平成18年8月21日から12月28日までに社保事務所に記録に抜けがあると相談にきた人のうち10858人は証拠不十分で却下されたが、84人は領収書を持参したの記録訂正を求められた。なおこの84人について社保庁が紙台帳まであたった結果29名の記録が見つかった。平成18年8月21日から平成19年3月31日までの苦情相談で、記録が完全に消えてしまったケースが235人いました。この原因を社保庁は、20歳で自動的に国民年金資格取得になっていない人、厚生年金から国民年金の資格取得になっていない人、市町村から社保庁への通知漏れなどの原因を想定している。国民年金は領収書があるのが、厚生年金の場合は領収書はないので事態は一層深刻だ。平成18年8月21日から平成19年2月2日までの相談者で却下された人は13933人いるが、厚生年金者が10994件、国民年金者は2939人です。厚生年金者は国民年金者の3倍以上です。平成19年6月12日に野党の要請で実施された国民年金サンプル調査結果が出てきた。ランダム抽出で3091件のサンプル調査では9件の入力ミスがあった。これを国民年金3200万件に単純拡大すると41000件のミスがあることになる(データの恣意的却下がなければ)。

余りに数値が羅列されたので、分りやすいように数値をまとめる。
1)統合されていない納付記録   5095万件  国民年金:1128万件 厚生年金:3966万件
2)氏名欄が空欄          524万件
3)生年月日が特定できない    30万件
4)社保庁に記録がなかったが本人の領収書で訂正できた  235人
5)相談したが却下された      35786人(平成18年8月21日から平成19年6月30日まで)
6)受給額が受給途中で変更   21万件(平成13年から平成19年2月末まで6年間)
7)58歳通知で訂正要求をした人 41万人

問題の解決法ー信頼の回復

政府が真摯に全面的解決を進める以外に信頼を回復する道はない。それには徹底した実態解明、責任追及、抜本的解決策の実行である。
1)徹底した実態解明
長妻昭氏が社保庁に請求してまだ回答のない主な項目は、消えた記録の実態(特に厚生年金)、5000万件の実態、特例納付の記録の実態、脱退手当金の実態、不在者デッチ上げの実態(分母隠し)、障害年金の実態(突然の打ちきり)、年金申請もれの実態、標準報酬月額入力ミスの実態、厚生年金未払いの実態、保険料払いすぎの実態、期限切れ納付の実態、受給死亡停止の実態である。
2)徹底した責任追及
責任には大きく三つある。発生責任、不作為責任、実態隠蔽責任である。問題は実に永い歴史を持っている。昭和38年行政管理庁が「整備不能、不完全、不明の台帳がある」と指摘したことに始まる。これに対して厚生省は年金給付時点で裁定するとか言い逃れをして調査しなかった。昭和60年9月国民年金台帳の廃棄命令が出た。それまでは5年保存であった。本当は生存者がいる限り保存しなければならない。廃棄命令について社保庁は国民保険・厚生年金者記録は膨大であるからと言い逃れをしているが、公務員共済年金など公務員の記録は永久保存している。官尊民卑思想が官僚に蔓延っている。そして政府と官僚の馴れ合いで政治家は殆ど官僚をコントロールできないことである。憲法15条「公務員は全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」を楯にとって、政治家からの独立,コントロールを受けない理由としている。かっての統師権を楯に取った帝国陸軍のようである。そして次は1年以上、国会での追及があったのもかかわらず、沈静化を口にした安倍内閣の不作為責任である。さらに事実を隠蔽し資料請求にまじめに対応しなかった村瀬社保庁長官、柳沢厚生労働大臣、厚生省官僚の実態隠蔽責任もある。
3)抜本的解決法の提示と実行
・1億人に詳細な納付履歴一覧表をアンケート葉書つきで郵送し国民にチェックを御願いすることである。
・1年以内に上台町と照合するために、どれだけの人・金・期間が必要か工程表を出すことである。
・被害者情報をホームページに全面公開すること。
・預金通帳のような年金通帳を発行してはどうか
・莫大なオンラインシステム費を使いながら、社保庁にコンピュータを扱えるシステムエンジニア-がいない。社保庁に管理体制を強化すること。
・社保庁を解体し、国税庁に吸収合併して、「歳入庁」として、年金と税金を一体管理する。英国、米国、カナダ、スウェーデンでは実施している。
・保険年金料の流用を禁じ、年金支給以外には使わないこと。これで年金を人質にし利権化している官僚の死命を制することができる


総務省「年金検証委最終報告案」 2007年10月30日朝日新聞インターネット版より
 

 社会保険庁のずさんな年金記録管理を調べる総務省の「年金記録問題検証委員会」(座長・松尾邦弘前検事総長)の最終報告案の全容が29日、明らかになった。政府が「詳しい内訳は分からない」としている宙に浮いた5千万件について、検証委は住民基本台帳ネットワークと照合するなどして7840件のサンプル調査を実施。報告案に盛り込んだ。持ち主が分からず「宙に浮いた年金記録」約5千万件からのサンプル調査で、入力ミスや結婚による名前の変更前の分など、今後の持ち主の特定に支障が生じる可能性のある記録が最大で38.5%にのぼった。安倍前首相や舛添厚生労働相は「最後の一人、最後の一円まで確実に給付につなげる」としてきたが、作業は難航しそうだ。
 結果は、この38.5%のほか、住基ネット上の氏名や生年月日、性別などが一致し、生存の可能性が高い者の記録33.6%死亡者や、加入期間が25年間に満たず年金受給の対象外の者、すでに持ち主に統合済みの記録27.9%――だった。
 38.5%の記録には、今後の名寄せ作業で問題になる「生存している人で本人を特定できなかったケース」と、住基ネットが稼働した02年8月以前に死亡して追跡できなかった人の分が両方含まれている。生きている人の割合がどれぐらいかは不明だ。
 社保庁は入力ミスや姓の変更があっても、ある程度、持ち主が特定できるプログラムを開発。来年3月末までに作業を終えて、本人に通知するとしている。ただし、記録自体が大幅に違っていれば、特定作業に支障が生じる可能性がある。
 また、少なくとも33.6%については持ち主の生存がほぼ確実で、現在の高齢者の受給漏れや、現役世代の将来の受給額の減少につながりかねない。しかし、本人が特定できたことで、今後の作業自体は比較的容易に進められそうだ。
 報告案は、支払ったはずの保険料の記録が残っていない「消えた年金」にも触れ、「(職員らの)横領が原因の一つという可能性が否定できない」とした。
 さらに、記録問題の根本的な理由として「厚生労働省、社保庁の組織全体の使命感、責任感が決定的に欠如」と厳しく批判。多くの職員が記録の誤りを漠然と認識しながら、「定量的に把握・検証・補正する組織的な取り組みが行われなかった」とした。
かなり厳しく官僚の無責任体制を批判しているが、結局1億人の全照合はどうするつもりなのか、長妻氏の批判を待ちたい。


随筆・雑感・書評に戻る  ホームに戻る
inserted by FC2 system