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国貞克則著 「財務三表一体理解法」

 朝日新書(2007年5月)

損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書のつながりを理解する会計学の学習法

簡単に著者紹介をする。国貞克則氏は現ボナ・ヴィータ コーポレーション代表取締。1961年岡山県に生まれ、83年に神戸製鋼所へ入社。プラント輸出、人事、企画、海外事業企・の仕事を経験した後、2001年に独立。経営コンサルタントとしての道を歩み始める。96年にはビーター・ドラッカー 経営大学院にてMBAを取捨。経営分析や経営手法を説明するコンサルタントではなく、中小企業を中心に経営者の右腕として企業に乗り込み、様々な課題を解決することを得意としている。なお著者は六本木ヒルズのビジネススクールや日経ビジネススクールで会計研修を開催している。 本書はそこでの研修内容が主体である。

私には全然専門外の分野の本である。企業で役職にいたときは、毎月の決算書が打ち出されてくるので見なければならない。経営指標のイロハぐらいはかじったつもりでも、悲しいかな科学を専門とする研究者であった私には良くは分からない。勉強不足は否めない。白状するが、研究開発費が何処に入れられているのかも良く分からなかった研究バカであった。この年になってなぜ財務を勉強したいと思うようになったかと言うと、不良債務、株式市場のこと、M&Aのこと、市町村の経営破たんのこと、鐘紡粉飾決算に会計事務所の加担、大きくは国家財政破綻のことなど経済報道が多くて、財務の基本的な理解がないとおかしな議論になってしまうからだ。特に地方自治体の経営破綻では,借金がどう処理されてきたのかが分らないと、福祉関係予算の削減に安易に走る市長らに、市の経営改善策がはたして的を得ているのか正確な意見を持つことが出来ないと感じたからである。財務表と言うと、会社四季報という本に上場会社の成績表が出ている。その読み方も知りたい。株はどういうメカで動くのかも知りたい。知りたい事だらけで、とりあえず財務三表から入ることにした。

そもそも決算書は何のためにあるかと言うと、会社の状況を資本家や債権者などのステークホルダーに正しく伝達することが目的である。正しく決算書を書かないと鐘紡のような粉飾決算となり株式市場から追放されるのである。すべての会社は「お金を集めて」、「そのお金を何かに投資し」、「利益を上げる」という三つの活動をする。この会社の三つの活動を数値で表したのが決算書です。大手の企業では毎日の金の動きを「毎日決算」として経営幹部に共有している。中でも「財務三表」といわれる、「損益決算書PL」、「貸借対照表BS」、「キャッシュフロー計算書CS」が基本になる。そして重要なことはこの三表はつながっているのである。図で示すとわかりやすいが、残念なことにHTMLソフトでは図は書けない。PDFソフトでは図を書いてホームページに添付できるがブログではすべて言葉で表現するしかない。お金を集める行為は、貸借対照表の右側の負債の部で借りた金を記入し、自分のお金は純資産の部に記入する。その集めたお金を元手に原料を買ったり設備に投資する行為は大社対照表の右側の資産の部に記入する。右の資産の合計と左の負債・純資産の合計は一致する。純資産の部の繰越利益剰余金は損益計算書で計算された結果の当期純利益に同じである。(CSで計算した当期純利益がBSの右の資産の部の繰越利益剰余金に入るという)CSには直接法と間接法があるが、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローの3つを合計するのである。CSの動きで会社の経営の実態が反映されるので(何に苦労しているか、何をしようとしているか)重要な経営分析資料である。現実に決算書を作る経理部門の人には仕分けのルールが必要だが、決算書が読めればいい人には財務三表が一つ一つの取引・行為でつながっている事が理解できればいいとするのが本書の特徴である。事業計画書に添付される数値計画が単なる収支計算書でなく財務三表の変化として理解できるのである。

財務三表の構造

損益計算書 PL
損益計算書には「五つの利益」がある。売上高から売上原価を引いた売上総利益(荒利)、荒利から販売費や一般経費を引いた本業の利益である営業利益、営業利益から営業外収益(利息)など本業以外の収支を引いた経常利益、経常利益から臨時に発生した特別利益・損失を入れた税引き前当期純利益、税引き前当期純利益から税金を引いた後の利益である当期純利益が計算される。製造業では「製造原価」まで勉強しなければならないが、簡単な商品を仕入れて販売するモデルを考える。PLを数年間比較すると経営規模の変化を知ることが出来る。売上高のスケールメリットとして一般管理比率が下がり効率が良くなる。利益率が10%であったとすると、一般管理費を使うときその10倍の売上が必要というコスト感覚が身につく。
貸借対照表 BS
BSの右の負債と純資産の部はお金の調達を示す。負債は借りてきたお金、純資産は自分で稼いだお金である。BSの左の資産の部はお金が何に使われているかを示す。右左の部内でのお金の項目は現金に流動化しやすい順に並んでいる。流動負債は1年以内に返さなければならない負債、固定負債は1年以上先に返すべき借金である。純資産の部は資本家から入れてもらった資本金や自分で稼いだ利益剰余金ですので返す必要はない。左の資産でも流動資産(現金、売掛金、商品)は1年以内に現金になるもの、固定資産は有形(設備など)、無形(暖簾料など)にわかれ、さらに開発費などの繰延資産は現金化するには1年以上先と見込まれるもの。この会社がお金を支払う能力があるのかは流動比率=流動資産÷流動負債でわかる。比が1より大きければ安心だ。資産から商品(在庫)を引いた当座資産を使った当座流動比率の方がもっと確実である。当座比率が0.8以下であれば危険な会社である。このあたりを営業マンは気をつけなければならない。なぜ収支計算書では会社の全貌がつかめないかと言うと、現金の入りと出だけを記載した収支計算書では財産や借金の規模が見えないからである。会計は現金だという見方は近視眼的である。またPLと現金の動きは一致していません。利益が出ているのに現金がないという事態もあるのです。だからBSが必要なんです。
キャッシュフロー計算書 CS
CSはまさに会社の家計簿です。2000年より有価証券報告書にはCS提出が求められています。営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローの3つに分かれていますが、これは下から「お金を集めて」ー財務キャッシュフロー、「お金を何かに投資し」−投資キャッシュフロー、「利益を上げる」ー営業キャッシュフローになるからである。中小企業の「資金繰り表」と基本的におなじです。営業キャッシュフローの下の小計には、分類の曖昧な利息受け取り支払い、法人税支払いなどを入れる約束である。直説法CSは分りやすいが、間接法CSでは営業キャッシュフローが税引き前当期純利益から始めるため、お金の動きがない場合でも利益が動くためいろいろな補正項目があって差し引きゼロに持ってゆく必要が出てくる。殆どの企業はこの間接法CSでやっている。三つの財務表には五つのつながりがある。@PLの当期利益がBSの繰越利益剰余金に入る。 ABSの左右は一致する(集めたお金と投資したお金は一致) BBSの現金及び預金はCSの現金残高に一致する。 CPLの税引き前当期純利益は直接法CSの営業キャッシュフローの税引き前当期純利益に入る。 DCSの直接法と間接法は一致する。今三表のBSを中心にすえて考えると、BSの「繰越利益剰余金」の内訳計算書がPLであり、BSの「現金及び預金」の内訳計算書がCSであると言う言い方も出来る。

財務三表一体理解法 演習編

この演習編の解説は図表がないと出来ないので省略する。演習は次の順に行われる。一つのステップ作業は極めて簡単で一瞬に分るものである。そのステップを辿ると資本金を投入してから第一期の決算をして税金を払うところまでが経理音痴の私にも容易に理解できた。約束事も多いので何故といわずに先ずは覚えてしまいましょう。次のようなステップで財務三表の作成作業が演習できる。本書は2005年の会計基準に準じている。
@資本金で会社を設立する(資本金) A事務用品を購入する(販売及び一般管理費) Bパソコンを購入する(有形固定資産) CHP作成を外注し現金で支払う(販売及び一般経費) D創立費用を支払い計上(繰延資産の創立費) E販売商品を現金で仕入れる(PL売上原価に計上) F商品が売れた(PL売上高計上) G運転資金を借りる(BS流動負債、資産現金、CS財務に計上) H商品を買掛で仕入れる(PL売上原価、BS流動負債に計上) I売掛で販売(PL売上高、BS流動資産に計上) J買掛金を支払う(BS流動資産へり、流動負債抹消) K売掛金を回収する(BS流動資産の現金増え売掛金へる、CS営業収入計上) L役員報酬を支払う(PL役員報酬、CS人件費計上、税預かり金を流動負債に計上) M商品発送費を一括払い(PL販売費、BS現金、CSその他営業支出計上) N短期借入金と利息を支払う(PL営業外費用利息、BS流動負債借入金へる、CS投資 利息支払い、財務 借入金返済計上) O在庫をたな卸し認識する(PL売上原価棚卸高、流動資産商品計上) P設備減価償却と創立費繰延資産償却を計上(PL設備は一般管理費減価償却、営業外費用繰延資産償却に計上、BS固定資産、繰延資産減額) Q法人税を計上するだけ、来期支払い(PL法人税計上、BS流動負債未払い法人税計上) R退職金給付会計で給付費用を計上する(PL一般管理費退職給付金費用計上、BS固定負債給付引当金計上) S貸倒引当金計上(PL販売費貸、BS流動負債に倒引当金計上) (21)株・有価証券を取得する(時価会計でBS現金減り、売買目的は流動資産、持ち合い株や関連会社株は固定資産へ計上) (22)期末時価会計で評価損発生(PL営業外評価損計上、流動資産有価証券減額 子会社・関連会社株は動かず) (23)減損会計で固定資産評価替え(PL特別損失計上、BS固定資産減額 設備が将来生み出す価値を現金化して評価) (24)自社株を会社が現金で買う 株主総会承認B&A対策(BS株主資本に、CS財務にを自己株式をマイナス計上) (25)税法で法人税を支払う(課税所得で計算された法人税をPL、BS現金と流動負債に計上) (26)税効果会計を適用、会計上の補正をする(課税所得と利益は異なる。PL法人税調整額計上、流動資産に繰延税金資産を計上)

財務分析指標

よく利用される主要な財務分析指標は大きく分けて、「成長性」、「収益性」、「安定性」である。
「成長性」指標はPLの数値を期間比較すれば分る。会計は前期と後期の分けられるので、比較は前年度同期比較となる。売上高や利益が±%で書かれる。
「収益性」指標:売上高経常利益率、総資本経常利益率、ROA=営業利益/平均総資本(6%以上なら優良)、ROE=当期純利益/自己資本が用いられる。
「安定性」指標:流動比率=流動資産/流動負債(150%以上なら適正、100%未満は危険)、当座比率=当座資産/流動負債(80%未満は危険)、自己資本比率=自己資本/総資本、固定比率=固定資産/自己資本(100%以内が理想、200%以上は危険)、固定長期適合率=固定資産/(自己資本+固定負債)(120%以上は要注意)、有利子負債倍率=有利子負債/自己資本(0.4以下が優良、2倍以上は危険)、債務償還年数=有利子負債/(営業利益+減価償却費)(1.5年以下は優良、10年以上は危険)
上場会社の有価証券報告書はEDINET(https://info.edinet.go.jp/EdiHtml/main.htm)で見ることが出来る。各業界の財務分析指標標準値はTKC(http://www.tkcnf.or.jp/)で見ることが出来る。是を使って会社の経営分析の演習をしてみよう。

キャッシュフロー計算書CSはなかなかの優れものらしい。ごまかしが難しいうえに、会社の状況や戦略的な立場がある程度分る効用がある。(営業CF,投資CF,財務CF)を各々(+−)でみると次のような会社の特徴の八つのパターンが見えてくる。ここで営業CFが+と言うことは本来業務で利益が出ていることで企業にとって一番重要なことである。投資CFが−ということは設備投資や有価証券を買っているこになり、+は固資産や有価証券を売却していることになる。財務CFが+と言うことはお金を借り入れていることで、−は借入金を返済していることである。
(+、+、+):利益を出してなお借り入れを行い現金を増やしている。固定資産や有価証券を売却している。将来さらに大きな投資のため金を集めているようだ。
(+、+、−):利益を出して、固定資産や有価証券を売却して現金を生み出し、借入金を返済している。財務体質の強化の段階にある会社だ。
(+、−、+):営業活動で利益を出した上に借入金で現金を増やし、投資を盛んに行っている。将来戦略も明確な優良企業のパターン。
(+、−、−):営業で上げた利益を投資に当て、借入金を返済している。潤沢な剰余利益のある企業である。
(−、+、+):営業赤字を借り入れや固定資産や有価証券の売却でまかなっている。問題企業の一般的なパターンである。
(−、+、−):営業赤字を借入金返済と固定資産や有価証券の売却で切り抜けようとしている。過去の大きな蓄積を切り売りして事業を継続するパターン。
(−、−、+):営業赤字だがさらに借り入れと株発行によって、設備投資をおこなっている。よほど魅力的な将来計画があるのだろうか。
(−、−、−):営業赤字だが設備投資を行い、借入金を返済している。信じられないほどの過去の自己資本蓄積がある会社のやれること。


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