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丸川知雄著 「現代中国の産業ー中国産業の強さと脆さ

 中公新書(2007年5月)

中国を代表する家電、パソコン、自動車産業の低コストの秘密と同質化の罠

著者丸川知雄氏は東京大学社会科学研究所教授である。東京大学経済学部卒業後、アジア経済研究所に入所、中国の社会科学院工業経済研究所で二年間研究し、2001年より東大社会科学研究所助教授となった。いわば中国産業の研究者である。中国は人口12億という日本の10倍の規模の効果もあるが、今や中国は繊維、鉄鋼、電子製品で世界最大の生産量を誇り、自動車産業でも第三位につけている。眠れる象から昇る竜へ変身した。本書は中国の産業論を書いているつもりが、結局は日中産業構造の比較や日本産業の活路課題というナショナリズム論になっている。そうならざるを得ないくらい日本産業は追い詰められているといっても過言ではない。「前門の虎、後門の狼」という構図である。日本はアメリカと中国の板挟み状態で呻吟しているのである。

1990年代初頭は日本家電ブランドは香港経由の「密輸」で大量に輸出され中国市場を席巻した。たとえばVTR販売量200万台のうち140万台が「密輸」であり、カラーテレビ1100万台のうち400万台が「密輸」であった。激しい競争に曝された中国の家電業界は、日本製品に対抗して100社近いテレビメーカーが乱立ししのぎを削っていたが、1996年ごろから中国国産三大ブランドが大勢を支配した。そして日本の松下、ソニーらのシェアーは下降線をたどり、2004年にはどの日本メーカも4%以下のシェアーに落ちた。冷蔵庫、洗濯機、エアコン、電子レンジなども2003年にはいずれも4%以下になった。日本企業が特にふるわないのが携帯電話である。日系企業全部あわせても5%に過ぎない。中国のメーカーの台頭の要因はなんだろうか。第一に中国の品質が向上したことである。第二にコスト低減が著しいことである。第三に販売網やサービス網の整備が進み日本メーカーより優位になったことである。これには中国政府の政策が深く絡んでいて日本のメーカーの努力を阻んできた。例えば家電製品の販売会社の設立が2001年中国のWTO加盟まで認められないとか、自動車生産が認められなかったからである。第四に重要なのは中国産業構造の「垂直分裂」という変化である。同じ東京大学の経済学部藤本隆宏教授らの「21世紀COE ものづくり経営研究センター」のプロジェクトでは統合型(インテグラル、摺りあわせ)製品モジュラー(組み立て)型製品という分類をしているが、丸川知雄教授はこれを「垂直統合」と「垂直分裂」という言い方をする。内容は同じである。中国は「垂直分裂」によって、基幹部品の生産開発能力がなくても、部品メーカーから競争購買をして安く早く製品を作るシステムを作り上げた。巨大な初期投資を必要とするエンジンの生産や、ICの生産、CPUやマザーボードなどは国内生産はしないで互換性を持つものを専ら購入し、中国メーカはケースや製品コンセプト設計のみに集中するのである。最新の技術開発が必要で巨大な投資が必要な要素部品はいつでも買えるので時代の流れについてゆける。中国では垂直分裂がパソコンやデジタル機器、テレビ・家電、携帯電話そして自動車までに及んだのである。しかし同時に垂直分裂に伴って製品の同質化も著しく差別化はありえない。そして価格競争が激烈で黒字を出せる企業は半数である。多くの中国企業は零細中小企業である。同一産業内の企業数が多すぎるといわれる日本の比ではないほど企業がひしめいている。

本書は中国企業の特徴が最も良く現れている家電産業、携帯電話、パソコン産業、自動車産業の四分野について、その産業の歴史、構造から中国企業の強さと弱さを明らかにすることである。それと同時に中国産業の拡大の中で日本産業がどこに活路を見出すのかを探ることである。本書の論点は実は藤本隆宏教授らの「21世紀COE ものづくり経営研究センター」のプロジェクトの一環になっている。共同研究といってもよい。本書を読む上で読書ノートでは次の 藤本隆宏著 「ものづくり経営学」 光文社新書(2007年3月)を先行して取り上げた。参考に読んでいただきたい。本書の理解を助けるため藤本隆宏氏の論点をまとめた。

藤本隆宏著 「ものづくり経営学」のまとめと産業構造論の予備知識

本書の構成は次の内容からなる
第一部 「ものづくり経営学総論」:統合的ものづくり、アーキテクチャー、人つくり、ITと組織能力の相性、製品開発力、先行技術開発、組織間学習
第二部 「ものづくり経営学各論」:日本の自動車産業、ホンダ、家電産業、光デスク産業、機能性化学品、アサヒビール
第三部 「非製造業のものづくり」:イトーヨーカ堂、郵便局、建築産業、病院、金融商品、ソフトウエア-、家庭用ゲームソフト
第四部 「アジアのものづくり」:韓国自動車産業、中国自動車産業、中国二輪車産業、中国の家電産業、台湾の自動車産業、トヨタ海外生産拠点(タイ・トルコ・豪州)、インドの自動車産業
本書を読んでの直接的な感想は、日本の成功例をトヨタの統合型(インテグラル、摺りあわせ)製品つまり自動車産業にあるとする見方である。日本の強みをトヨタ型生産方式であるとして、この方式を全産業でどう生かして敷衍してゆくかということに尽きるようだ。そこにしか日本の産業の生きる道はないとするのはあまりに現状追認で発展性の乏しい発想ではないだろうかというのが私の第一印象である。従って本書の各論における解析が良くできているのは自動車産業ついで家電産業であって、他の産業や企業の分析はカタログ程度の資料しか持ち合わせていないのではないかと疑いたくなるほどお粗末である。たしかに経営論で会社が運営できるわけでもなく、危機を克服できるほど理論は強力でもない。全ての企業・産業にとって生き残れるかどうか、発展できるかどうかは経営者の力量や哲学や経営資源によるものであくまで個別的な事象である。すると経営学とは何だろうか。会計学や法学は確かに実務として必要だが、戦略論や組織学や経営論は無力ではないか。他社の成功は参考にはなるが、単純に自社に適用するのは危険である。擦りあわせで創り上げてゆくインテグラルな製品は構成要素と全体の機能を常に関連付けながら調整してゆくいわばマニュアルのない職人芸といえる。それに対して構成要素(部品)の独立性が高くインターフェースに適合すれば安くて優秀な部品がどこからでもかえるモジュラー(組み立て)型製品、つまり家電製品などは日本の企業は米国・中国・東南アジアにコスト面でかなわない。そしてITソフト産業も日本は強くない。そこで本書が持ち出すのがトヨタ方式の海外生産拠点の成功例である。

丸川知雄著 「現代中国の産業ー中国産業の強さと脆さ」 お忙しい方のための結論

中国企業の戦略の特徴は、第一に積極的に他社の商品を真似して、垂直分裂生産方式により投資資本の少ない取り掛かりやすい分野に技術がなくても参入する。第二に基幹部品を他社から購入する際には、複数調達で安く仕入れ、依存を避ける。第三に外国資本の下で輸出向け生産下請けになるより、自社ブランドで巨大な国内市場を狙う努力をするものだけが伸びていること。第四に政府が産業の垂直分裂を押し進めることで、自国産業の育成を行っていることである。すると日本産業は「インテグラル統合型産業」のみに注力していていいのかという疑問が出てくる。日本製の携帯電話はいたずらに機能を詰め込む複雑な製品化に流れているが、世界の潮流は単純な電話メール機能だけである。本書で取り上げた家電産業、携帯電話、パソコン産業、自動車産業の四分野以外の中国産業分野では、石油産業は統合型で推移しているが、鉄鋼産業では日本のような徹底した首位直統合型一貫産業ではなく分散した状態で分裂した圧延、製銑、製鋼などの小企業がバラバラに存在する。これが効率的かどうかは疑問だが。化粧品でも製造はOEMで委託し、ブランドの宣伝のみの会社が多い。これらは後進国の範疇で捉ええる事ができる。日本企業を先進企業、中国企業を後発企業と定義してもいい。中国の消費者はとにかく価格に厳しい。そのために技術、投資が少なくて、早くキャッチアップできる産業分野では外国企業を追い出した。この事情は日本の戦後の経済成長の後追いであろう。この垂直分裂構造の行き着く先は、同質化と薄利多売による利潤低下である。成熟した中国企業の進むべき道は一つは「閉じられた垂直分裂」に転換することかもしれない。基幹部品の統合である。いずれ生き残るために製品差別化の道に向うであろうか。雨後の筍が乱立して百家争鳴している現状から統一帝国が生まれるように、まだまだこれから先の中国産業の進むべき道は複雑である。中国の市場が中国ブランドを求め続けるなら、日本企業は基幹部品の販路に力点を集中して「名を捨て実をとる」戦略で行くしかない。

第一章 家電産業ー垂直分裂と互換性

中国の家電製品市場で日本企業がシェアーを落とし、中国企業が台頭した背景には徹底した「垂直分裂」の進展がある。「垂直分裂」とは手っ取り早く言えば、企業は最終製品に特化し、基幹部品(ブラウン管、液晶デイスプレイ、コンプレッサー、ICなど)は外注(海外メーカーを含めて)として、自社ではケースのみの設計製作しか行わないのである。中国企業の設備投資は極めて少ないので、中小企業でも容易に進出できる。ところが日本企業は製品差別化のため基幹部品こそが製品の機能を担うと考えている。日本の大手電機メーカは1990年以降「選択と集中」を合言葉に事業の集約を進めており、基幹部品の提携により「垂直統合」を志向している。2003年には世界のDVDプレーヤーの88%、ルームエアコンの46%、電子レンジの42%、ブラウン管テレビの41%が中国で生産された。以下にテレビ、エアコン、VTR業界を取り上げて中国の垂直分裂構造を見て行こう

1)テレビ製造業

中国の家電産業は社会主義経済の時代において政府がバラバラに工程別の企業を起こしたからである。企業の選択の結果とは言いがたい。中国ではカラーテレビは1990年代より急速に普及し、ブラウン管の製造が追いつかなかった。ブラウン管メーカーは四社あったが、政府の規格統一は設備投資が出来ずに失敗し、テレビメーカ大手八社はブラウン管プラス偏向ヨーク回路で購入して、調整回路を別途用意しておくことで、ブラウン管の事実上の互換性を成し遂げた。同じ型番のテレビでブラウン管メーカーが異なるという日本では考えられもしない事態を平気でクリアーした。どうせ消費者にはブラウン管の違いなぞ分らないという論理である。製品差別化を競争力の源泉にしようとする日本メーカと、価格競争を重視する中国メーカーとの違いがここに現れている。昔の真空管時代の製品では真空管には互換性があった。音にうるさい真空管オーデイオマニアは微妙な違いを重視するのだが、普通の人には分らないのとおなじ関係である。すると中国のブラウン管テレビメーカーは「クローズドインテグラル」のテレビを複数購入して同じ型番で売っているのと同じことになる。経済合理性(価格競争力)からみると、一般論として中国企業の垂直分裂のほうが有利である。最初は量と安さで勝負するほど市場が拡大している時は部品の調達先を増やし部品メーカを競争させる戦略が有効である。今中国の市場はその時期にあるのだ。すると中国市場での日本メーカーの生きる道はエンドユーザー向けの高価な製品と、中国テレビメーカーへの部品供給に活路を見出すしか手はない。テレビ用ICは中国メーカーテレビの八割を日本が占めているのである。中国でも2005年に液晶やプラズマの薄型テレビの時代が始まった。中国は台湾から割安な液晶パネルを購入して、日韓よりも安い液晶テレビを商品化した。そして25社がひしめく混戦となって値下げ競争が激化して、2006年には赤字に転落した。この同質化と薄利多売の競争を中国は製品と技術が変わっても何時まで繰り返すのであろうか。

2)家庭用エアコン製造業

1992年よりエアコン製造業の発展が始まった。エアコン本体では日本メーカは低迷しているが、コンプレッサー(圧縮機)は年500万から1200万台の八割以上が日立、三洋、三菱、東芝、松下の日本製である。利益率も10%以上と高い。中国メーカーはコンプレッサーの互換性も成し遂げている。日本は基幹部品の供給に徹している。

3)VTR製造業

最初中国政府が描いた垂直分裂の構図は、基幹部品であるヘッド、シリンダー、シャシーという「メカデッキ」の生産に高額の投資と技術が必要なことのため中国のメーカーでは出来なかったため挫折した。メカデッキを松下の技術導入で合弁工場を作った頃から、市場はVTRからCD、DVDへ移行し始め、1993年に300万台あった市場は1997年には80万台に縮小した。こうしてVTRの中国企業の生産は頓挫した。

第二章 携帯電話機ー製品開発と流通機構

中国の携帯電話のユーザー数は2006年に4億5500万人となり世界最大の市場となった。中国での携帯電話市場において日本メーカーは全くふるわない。2005年にはフィンランドのノキア、米国のモトローラ、韓国のサムスン、中国の波導で50%以上を占める。日本は世界で最も電話の進化した国である。カラ−液晶、カメラ、インターネット、ブラウザーなどが最初に搭載された。何故日本メーカが振るわないかというと、一つには規格の違いがある。欧州、中国はGSM規格で、日本は独自のPDC規格である。GSM規格を使うには10%の特許料を払わなければならない。しかし韓国のサムスンはクロスライセンスで特許問題を解決している。もうひとつの理由は携帯電話の流通機構が違うことである。日本では携帯電話メーカーは通信事業者に納め、携帯事業者は高額な通信料金の中に電話機代金を含めて、消費者には格安の値段で電話機を提供している。携帯電話機販売店(携帯事業者の系列で統合化されている)では数千円(ただという場合もある)で消費者に売り、あとで携帯電話事業者が数万円の販売促進費を販売会社に供するという仕組みである(これを抱き合わせーバンドル販売という)。中国ではメーカが消費者に売る構造である。中国メーカは最初出遅れたが、2003年WTO加入前に政府の強引な国内メーカー育成策により、中国製部品を60%以上使用すること、外国メーカーは60%以上輸出する事という条件をつけた政策によって、国内メーカーのシェアーはしだいに向上し1999年に3%だったシェアーは2003年には55%となった。政府から生産許可を受けた中国メーカーは、自らは生産せず海外メーカーにODM生産を委託し、販売のみしか行わない。中国製製品といっても2002年には70%が、2003年には50%が韓国と台湾からの輸入品であった。中国市場では携帯電話機の機種が目茶目茶多い。日本ではメーカあたり10機種くらいで、生産量は1機種100万台であるが、中国では1メーカで60機種jくらいで生産量は1機種5万台くらいである。日本では携帯電話の製品ラインアップ企画は電話事業者にあり、新機能・新部品を含むため1年ほどの開発期間が必要である。ところが中国では僅か4ヶ月ほどで開発される。これは中国の開発力が旺盛であるということではなく、新機種といってもケースを代える程度の改良に過ぎない。部品についても中国では特注で作ることはせず、標準の部品を購入して済ますので開発費はべらぼうに安い。各社の製品が皆同じ顔になるという同質化は避けられない。携帯電話の中枢(パソコンで言えばCPU)であるICプラットフォームを自作するのではなく、海外メーカーのプラットフォームを購入してそこから何ができるかを設計する。しかも設計法は海外メーカの参照設計書を見てやるのである。さらに中国の携帯電話機メーカーは開発からODM生産までを委託していた時代から、2003年ごろより分業化生産方式となって、開発・設計・検証までを設計会社に委託し、生産を台湾系ODM、EMSに委託することで、自社は製品企画の一部と販売を担うだけとなった。いわば日本の通信事業者の役割を中国の携帯電話機メーカが担っているようだ。GSM規格の携帯電話機は国際ローミングを保証するため電話機本体と、加入者情報を記録したICカードが分離している。したがって他人の携帯電話機に自分のICカードを差し込めば電話できる仕組みである。携帯電話機と通信事業者が分離しているのである。ここでも互換性があって、安い事業者と安い電話機を適時選択できる。したがって日本式流通機構は成り立たない。中国では通信事業者の競争より、携帯電話機メーカー間の競争のほうが激しい。ということで日本方式は中国では全く通用しない。また日本の携帯電話機は進化しすぎて世界市場では機能過剰の異端児となっている。とくにGSMを採用している欧州、南アジア、南米などでもやはり同じである。日本でも第三世代機では電話機・カード分離方式をとるが、SIMロックがかかっているので他の通信事業者との互換性はない。

第三章 パソコン産業ー同質化の行き着く先

日本産業は「閉じられた垂直分裂」や「統合型インテグラル」製品を志向するのに比べて、中国企業は「オープンな垂直分裂」や「モジュラー型」製品を志向する。1981年IBMは自分のパソコンの仕様を公開してソフト開発会社の自由な参入をねらった。そしてIBMはアメリカでトップシェアーを獲得したが、同時にIBM互換機が次々に登場した。1988年にはIBMの世界シェアーは四分の一に低下した。1984年中国のレノボはIBM互換機に差し込んで中国語入力できるソフトを開発した。1990年にはいって中国はIBM規格を受け入れパソコンの生産をj始めた。大学のベンチャー企業が参入し、マザーボードからHDD、デイスプレー、メモリーなど部品を組み立てるキット式のブランドなし(兼用機)のパソコン生産であった。そしてソフトは違法コピーが重要な競争手段である。基本ソフト料がただなので安く出来るわけである。兼用機はブランド品に比べて二から三割安い。中国国産パソコンは1990年には30%に過ぎなかったが1999年には50%を占めた。つまり中国のパソコンは全部海賊版ソフトを前提としているので、国際特許法上から極めて遺憾な状態である。中国の四社のパソコンメーカーの利益率は3%以下で赤字のメーカーも多く、開発投資ゼロの企業は薄利多売に苦しんでいる。パソコン販売店の四分の三が組み立てサービスを行っている。キット式で買った人が組み立てるのではなく、販売店が組み立てて無料の違法コピーソフトを入れてくれる仕掛けになっている。中国パソコン市場には卸と小売の区別は明確ではない。勿論日本のような系列店はない。製品価格はすべて市場で決まるのである。日本の大手パソコンメーカーは小型化、画質、テレビやオーデイオ、電話など機能を付加することで差別化を図って来たが、中国の兼用機では組み立てに便利なデスクトップ型が85%を占める。中国のパソコン業界は価格競争で農村向け低価格製品に流れる一方、IBMの買収にみるようにブランド化も志向しているようだ。

第四章 自動車産業ーオープンな垂直分裂

日本においても自動車メーカーが社内で作る部品はボディ(骨組みと外側)とエンジン、トランスミッションぐらいで、残る部品は社外から購入している。ただし自動車産業の垂直分裂は「閉じられた垂直分裂」である。汎用部品は1割以下で、残りの9割は特定メーカの特定車種向けの特注部品なのである。そのメリットは最適設計された特注部品の組み合わせによりインテグラルな造り込みができ他社にない品質や機能が実現できることである。特注部品は他者に売ることを禁止されているので差別化が可能であることだ。中でもエンジンは最も差別化にとって重要であるとするのが日本の自動車メーカーの伝統である。中国の自動車の革新はフォルクスワーゲンとの合弁で「サンタナ」の生産を開始したことから始まる。2000年より輸入外国車の競合で価格の低下がおきて一般消費者のカーブームが始まった。いまでも乗用車生産の三分の二は外資系のメーカーが占めている。現在車の生産量は米国、日本についで世界第三位になった。中国の自動車産業は世界の常識からおよそかけ離れたもので、エンジンなど主要部品さえ買ってきて組み立てのみに特化する小規模メーカー153社の乱立状態である。これは中国の計画経済の特徴であって、政府の果たす役割が大きい。「車体メーカ」といわれるもので、自動車会社はシャーシーのみの製造である。複数のエンジンメーカーから購入する企業は93%以上ある。何故エンジンを購入するのかというと、多くの自動車メーカーは零細で生産台数が年間1万台以下である。したがってエンジンを開発する技術も生産設備に投資する金も持たない。「村の鍛冶屋」というのがぴったりのメーカー規模である。そして行政単位(バス運行、農機具など)、地方ごとにで自動車会社が存在し内輪で優先して購入するから、斯くも多くのメーカーが存在できるのである。生産台数が年間5万台を越えるメーカではエンジンを含めて部品は系列化され複数社から購入している。複数のエンジンメーカが互換性のあるエンジンを生産しているからできることである。他社エンジンを売り物にする製品品揃えも出来る。排気量が同じエンジンであれば中国製エンジンを搭載した自動車の価格を1とすると、三菱との合弁会社製エンジンの自動車では1.3倍の価格で、トヨタ製エンジンであれば1.7倍の価格がつけられる。つまり自社ブランド力の不足を定評ある外国車メーカーのブランドで補おうとする戦略である。2000年までは中国政府は外国車の完成車輸入の認可を出さなかったため、日本の自動車メーカーはエンジンの外販に活路を見出そうとした。2005年三菱の合弁会社のエンジンは実に24社に販売された。ただ互換性のあるエンジンが存在するからといって、自動車が「オープンモジュラー型アーキテクチャー」に転換したわけではない。コックピットパネルのモジュール生産は世界で進められているが、信頼性・品質からして自動車はそれほど容易にモジュラー組み立てできるものではない。自動車の価格分析によると、エンジンとトランスミッションの容量と特徴で自動車価格の77%は説明される。すると成熟した市場で中国式自動車生産のメリットはない。中国でも自社開発できる力のあるメーカーへ淘汰が進むか、最終製品で競争力があるメーカー(同一品質を安く作る)が基幹部品を購入する垂直分裂構造が生き残るかである。


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