070824

半田滋著 「自衛隊vs.北朝鮮」

 新潮新書(2003年8月)

第二次朝鮮戦争のシナリオと自衛隊の限界と法整備課題を明らかにする

第二次朝鮮戦争勃発!そのとき自衛隊に何が出来るのか、何が出来ないのか。防衛庁統合幕僚会議が1993年にまとめた「K半島事態対処計画」がある。内容はかなり古い計画でなんでいまごろこんな古い計画をリークするのか不思議である。大体計画は米軍であれば2年ごとに見直すので最新版はどうなっているのか著者にに問いたい。著者半田滋氏は東京新聞社の防衛庁担当記者(いわゆる番記者)であるが、氏はこの文書を極秘文書だといって興奮している。馬鹿げたことで、極秘文書のコピーが新聞記者に出回るようでは自衛隊の機密保持が疑われる。計画的に法整備を進めたい防衛庁幕僚がこんな自虐的恐怖文書を記者にばら撒いて、世論をあおり法整備をスムーズに進めたい意向がはっきりと読み取れる。従って本書はそう意味で防衛庁の宣伝プロパガンダ文書と理解してよい。同じような本としてアメリカ軍の朝鮮戦争計画「operation5027]があるが、こちらのほうが総合的に第二次朝鮮戦争のシナリオが分りやすく書いてある。すでに本コーナーでも紹介した相馬勝著 「北朝鮮最終殲滅計画」講談社+α新書(2006年2月)に詳しく紹介した。本書に入る前に最新版の5027計画(2006年版)をみておこう。

1) 相馬勝著 「北朝鮮最終殲滅計画」 講談社+α新書(2006年2月)  

何やら恐ろしいハードボイルド風の恐怖小説かと思わせる題名だ。著者相馬勝氏は長く産経新聞の中国担当記者であった、1992年と1998年に米国に留学して東アジア問題を研究した。今は産経新聞外信部勤務だそうだ。序章は「日本に核が撃ち込まれる日」というセンセーショナルな始まりである。この本が書かれたときは2005年2月北朝鮮が「核爆弾保有宣言」をして急に北朝鮮の核問題が現実味を帯びてきた矢先のことである。その後2006年9月ついに北朝鮮は核実験(失敗と見られる)を実施し国連安保理事会は北朝鮮非難を決議し、米日を初めとする経済封鎖処置が始まった。核のみならず1998年にはノドンミサイルが日本の上空を通過して太平洋に落ちる事件が発生して日本中がパニックに陥った。その経験から本書は書かれている。

 本書が書かれたいきさつは、著者が留学中に入手した米国国防省の二つの文書を入手し、米国の対北朝鮮軍事戦略を知るに至ったことである。その二つの文書とは<国防省発行 「Operational Plan 5027」と「軍事作戦教本」である。「Operational Plan 5027」は韓国や日本外務省にも通知されている文章で特に極秘ではない。「軍事作戦教本」は駐韓米軍の教科書である。これらを著者は興奮して軍事機密文書といっているが、そんな文書は情報公開制度の完備した米国では誰でも入手できる文書である。本当に軍事機密文書ならどうして一留学生に供与されるのか。そしてそれをとがめられずに日本に持ち帰ることが出来るのか。まあそんなことはどうでもいいのだが、著者はこの文書を読んで次のように感じたといっている。「もう米軍は北朝鮮との戦争を躊躇していない。イラクと同じように本気で北朝鮮の金正日政権をこの地上から消滅させる気だ、先制核攻撃を行う可能性もある」というぐあいに、大変威勢のいい話だ。これも米国の脅かし戦術かもしれない。脅かしの宣伝に著者が使われた可能性のほうが高い。その証拠に米国は北を攻撃する気配は全く感じられない。イラクの時のようなブッシュUの猛り狂った威勢のいい進軍ラッパは到底聞こえてこない。むしろ北朝鮮に鼻面を引きずり回され騙され続けるとんまな米国政府という感じしか受けない。ようするに軍事戦略と面子だけでは米国政府は動かないのだ。戦争の見返りつまりイラク・イランにおける石油資源利権が存在しなければ先制攻撃をかける気もしない。メリットがなくリスクが大きすぎるのだ。中国・米国からは「騙されてやるから、何とかおとなしくして頂戴」というお願いしか見えてこない。

北朝鮮軍の兵力

 北朝鮮はGNPの25%をしめる18億ドルの軍事費を支出し(韓国は4%)、正規軍(人民軍)は110万人、予備軍が470万人である。軍人の数だけで言えば世界第5位の軍事大国である。(日本の自衛隊は20万人)しかし北朝鮮軍が保有する武器、装備は殆どが旧ソ連軍のお下げ物か中国から購入したものである。旧ソ連武器で武装した化石(シーラカンス)軍隊と言われている。 陸軍兵力95万人、20軍団からなり、歩兵は27師団、機甲旅団15で装備は戦車3500台、火砲10400門、地対空ミサイル約1万基、地対地ミサイル約30基、ノドン、テポドン開発中。 海軍は46000人、中国製ソ連製潜水艦26基、高速ミサイル艇43隻、戦艦船約300隻、南浦に艦隊指令部 空軍11万人、作戦機584機、ヘリコプター24機、ソ連製爆撃機80機、戦闘機はソ連製で504機、輸送機300機 北朝鮮の基本的戦略は戦端が開かれてから米軍支援本体が活動できるまでの1ヶ月以内に朝鮮半島を占領することである。緒戦攻撃の主力は特殊部隊、平城守備の主力は首都防衛隊である。北朝鮮軍は現在休戦ラインの約40キロ付近に全兵力の2/3の約80万人が終結して開戦即時体制にある。北朝鮮は500基以上の長距離砲でソウルを爆撃できる。全700機の戦闘機のうち40%の300機が前線に配置されている。北朝鮮の緒戦の攻撃目標は韓国の40%の人口が集中するソウル近辺を陥落させるか火の海にすることだ。

「Operational Plan 5027」米軍の朝鮮有事の戦争計画

 米国の対北朝鮮戦略を見てゆこう。1974年アジア地区紛争の軍事作戦「Operational Plan 5027」を定め、1994年からは2年に一度改定してきた。今の改訂版は第8回目の2006年度版である。第2次朝鮮戦争について、米韓は迎撃戦にするか先制攻撃にするかは状況いかんによるが、基本的には米軍主力50−60万人が配置されるのは1ヶ月近くかかるので基本的には迎撃戦になるだろう。状況によっては空母数隻が戦端前に配置され空爆、上陸の先制攻撃もなきにしもあらず。米韓合同軍(在韓米軍三万人、在日米軍4万人、韓国軍65万人)が最初の数週間を耐える必要がある。作戦は次の三段階に分かれる。第一段階はソウルを死守すること、第二段階は朝鮮半島全体の重要な戦略拠点を奪取すること、第三段階は米軍主力60万人ほどが揃ったところで北朝鮮へ反撃するを開始し北朝鮮軍隊と金正日政権を殲滅する。第一第二の段階では攻撃の主力は米軍爆撃機による空爆と艦船から長距離爆撃であり、守備は韓国軍陸上兵力が担う。恐らく開戦直後に、ソウルとピョンヤンは破壊し尽くされるだろう。少なくとも15日間は北朝鮮軍の侵攻を持ちこたえる必要がある。でなければ米韓軍は釜山から玄界灘に落とされることになる。2000年韓国国防白書によると、朝鮮半島有事の際、米軍は韓国防衛のため69万人の兵力が派遣されると見ている。米軍は二正面戦争を想定して、朝鮮半島には海軍兵力の40%、空軍兵力の50%、海兵隊兵力の70%を注入することが可能である。

2) 半田滋著 「自衛隊vs.北朝鮮」 新潮新書(2003年8月)

ソ連や新生中国人民共和国らの共産圏の団結が強い時期であった1950年代初期の第1次朝鮮戦争は確かに悲劇であった。これには日本の朝鮮占領政策も絡んでおり、日本帝国は北部朝鮮を重工業地帯とし、南部朝鮮を食糧生産地帯とする方針で指導していた。従って兵力の基盤は北朝鮮にあった。南は非武装地帯のようなものである。当時ソ連軍の最新鋭軍備を利用できた北朝鮮軍が怒涛の勢いで南下し、ソウルを陥落後釜山に迫る勢いであった。しかし現在は全く状況は異なる。ソ連は崩壊し、新生ロシアは中立をまもり北朝鮮を護る気は全くない。中国は経済発展により国際的な活動をするうえで北朝鮮というシーラカンス国家は重荷になっている。いま北朝鮮のエネルギーは中国のパイプラインで辛うじて支えられているが、中国自体も石油は不足しておりバルブを絞れば北朝鮮は枯渇する。ということで米軍/韓国軍・自衛隊の協力で完全な北包囲網が出来る。なんら畏れるに足りずである。命中精度の悪い500−1000Kgの爆薬を積んだ北のミサイルが仮に日本に落ちても焼けるのはテニスコート1面くらいで、畏れるようなレベルではない。旧ドイツが発射したV2ロケットがロンドンに着弾したのは500発で死者2600人でミサイル1発での死者は五人にすぎなかった。過剰に恐怖心を持つ必要はない。北のミサイル基地は瞬時に米軍機爆撃で破壊されるだろう。では何故こんな古い防衛庁の計画が10年以上たって新聞記者にリークされたのか。答えは明白である。自衛隊の認知と国際活動の法的整備のために利用されたのである。新聞記者もこんな提灯記事を書いているようではたいしたメデァアではない。とはいうものの一通り内容を眺めておこう。

情報収集

「K半島事態対処計画」のフェーズ1は国連の経済制裁前後に北朝鮮が何らかの軍事行動を日本に取ろうとしている情報とは何かを問題にしている。北朝鮮の国内でのヒトモノの動きの監視であるが、公安警察6万人に比べると自衛隊の調査隊800人は少ない。自衛隊の情報収集力はお粗末である。この本の書き方は状況に対して自衛隊の無対応振り、とか設備のお粗末振りとか、法的に手も足を縛られて何も出来ないという泣き言を綿々と綴って、読者を唖然とさせ恐怖に陥れて法改正へ向わせるという手口を取っている。これまでどのくらいの金を使ったのか知らないが自衛隊には膨大な予算が使われていてなおこのお粗末とは信じがたいが或いはそうかもと思わせるのである。もっと予算を入れろ、最新施設を作れの大合唱である。聞いてられないがマー聞いておこう。前に進まないからだ。しかし実際戦争になったら、相手が攻撃するまで打てないとか、防衛ゾーンは国内のみとかは言っていられないはず。当然非常事態の首相指揮権が設定され機敏な対応が取られるはずだが、本書では自衛隊を漫画チックに自縛状態においている。人工衛星による北朝鮮監視は1日4回観測している。北朝鮮にとって日本は米軍の後方地になるので当然後方かく乱部隊が送られるだろうとか原発爆破などを任務とするコマンドを水際作戦でどう防ぐか、米軍の衛星監視体制とのリンクなど課題は多い。

開戦前夜(在留邦人救出計画、難民対策、米軍支援)

韓国に住む2万人近い邦人の救出は民間機や民間船舶を使ってシュミレーションが行われるが、開戦数日でソウルが陥落した場合の邦人の被害、空港で軍用機と帰還機の混乱など、南部韓国からの脱出は容易であろうがソウルからの脱出か開戦の前に完了しなければ多大の被害が出る。難民の発生を27万人と予測しているが、それは殆ど中国やロシア、韓国内のことで一般人用の船舶なぞ存在しない北朝鮮から日本への難民はありえないはず。第1次朝鮮戦争で難民は日本には押し寄せなかった。そして恐ろしいことに難民の暴動化や在日朝鮮人との共謀によるゲリラを想定しているが、これは関東大震災で朝鮮人暴動のデマから虐殺に到った歴史を振り返って恐ろしい想定ではないか。民族差別もはなはだしい。この防衛庁の人権と差別感覚は問題だ。在日朝鮮人の隔離政策をとるなら、米軍の日本人隔離政策と同じになる。「Operational Plan 5027」米軍の朝鮮有事の戦争計画に見るように米軍は最大60万人を投入し、韓国軍65万人とあわせ北朝鮮を殲滅する計画である。従って日本は後方ロジスチック(兵站)を受け持ち、自衛隊は米軍の後方支援に当たる。恐らく第1次朝鮮戦争のときのように戦火は日本に及ぶこともなく好景気に沸くことだろう。ただ米軍は当時日本の占領軍でもあったので日本を自由に使ったが、現時点では法的に日本は協力関係で後方支援に当たる。この辺の法的整備が急務である。今の法律では自衛隊は戦争地域に出ても手足纏いで誰かに護ってもらうことになるの世界の笑われ者である。

戦争(日米韓の共同訓練、弾道ミサイル、北朝鮮軍の実力)

「K半島事態対処計画」の後半に米韓共同訓練に日本が参加することで北朝鮮の韓国侵攻を止められると期待している。米韓共同訓練はチームスピリット93から、小規模のフォールイーグルに移った。2003年1月北朝鮮はNPN(核拡散防止条約)から脱退し核兵器製造に踏み切った。直後2003年3月米軍はイラク戦争を開始した。完璧に空爆でイラクは降伏したが、いまだに政情は安定どころか泥沼に入っている。戦争のシナリオは「Operational Plan 5027」米軍の朝鮮有事の戦争計画どおりであるので省略する。ここでは弾道ミサイルは恐れるに値しないが、しかしミサイル防衛技術は今はないと見たほうがいい。敵のミサイルを本土に落ちる前に打ち落とすなんて出来ないと考えておくべきだ。しかし通常爆弾搭載ミサイルの火力は玩具みたいなもので、小さな核を1,2発もっていたとしても核搭載ミサイルの技術は北朝鮮には存在しない。瞬時に北のミサイル基地は爆撃破壊され戦争は米軍の圧倒的勝利で終了する。今回は中国は人民軍を派遣することは出来ないであろう。


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