鬼頭 宏 「人口から読む日本の歴史」

    
講談社学術文庫 (2000年5月)
 
少子高齢化問題への正しい対処法・・・・若者いじめ、年金問題の歪曲は許せない
 

先日来、ごまめの歯ぎしり日記(04.08.29と040831)において少年犯罪と年金制度問題での「大人(官僚)の子供いじめ」を嘆いてきた。少年犯罪ではいわれの無い「少年の凶暴化」を統計データより論破した。また年金問題では汚職無能官僚と政治家による「少子高齢化」原因説と若年層の年金不払い原因説の虚構を暴いた。しかし少子高齢化は現代の趨勢であり事実である。問題は子供を増やせばいいという「少子」にすり替えてはならないし、生めよ増やせよという大本営政策には戦前の悪夢(鉄砲玉よけの兵士製造)につながるものがあり生理的に反発する。少子高齢化は直面せざるを得ない問題で、それに対応するために歴史に学ばなければならない。人口の減退は文明の停滞と相関し、「人間万事塞翁が馬」にように人口減がつぎの経済活動のばねになることも歴史が示している。そこで鬼頭 宏 「人口から読む日本の歴史」という面白い本をかって読んでいたことを思い出して再読し、少子高齢化への歴史的理解と対応策を考える機会としたい。なお鬼頭宏氏が唱える歴史人口学の4段階文明論は本稿の直接の対象ではないが、参考までに示すので背景として読んでほしい。

文明システムの比較 
- 縄文システム 水稲農耕システム 経済社会システム 工業化システム
人口密度 人/Km2 0.9 24 112 338
文明 自然社会 農業社会 農業社会・商業社会 工業化社会
エネルギー 自然エネルギー
生物+人力
自然エネルギー
生物+人力
自然エネルギー
生物+人力
化石エネルギー
経済様式 伝統経済 伝統+指令経済 伝統+指令+市場経済 市場経済
社会集団 原始共同社会 氏社会 家社会 集団産業化社会
主食 堅果・魚介 米・雑穀 米・魚介・野菜 多様化雑食

歴史的人口増加パターン

歴史人口学では縄文システム、弥生水稲農耕システムの人口を人口統計があるはずも無い時代にさかのぼって実に巧妙に推計するが、その学問的推計精度を云々できるわけでもないので私は鼻から信用しないでこの2つの時代は省略したい。奈良平安時代も人口統計はないが全くデータが無いわけでもないので信用して、上の日本の人口グラフは奈良時代725年から今日1995年までの人口変化である。江戸時代の初期と明治時代から今日まで人口の増加が顕著であることが分かる。人口は出生と死亡から決定されることはあまりに明確であるとしても、社会システム(人口維持力)と人口との緊張関係により次の人口波動パターンをとると考えられている。
マルサスの人口論とは人口維持力は短期的に見て一定とした場合、一定の環境条件での生物個体数の変化を見るのと同じようにシグモイド曲線(ロジスチック曲線)として推移し平衡(飽和)を経て衰退に向かうという見方である。しかし平衡関係の緊張が長引くと人口圧力が高まりより高度な文明装置(経済社会システム)が開発されるといういわば自由主義経済の「神の手」に近い救いの手が出される。これをボズラップの理論というが、これにより人口は再び増加傾向に転じて、長期的(数百年のオーダでみると)には複数のシグモイド曲線が階段状に上ってゆく様子が予測される。未来永劫にエンドレスに停滞を伴った人口増加が繰り返されるかというとその見方も甘い。地球という有限の空間と有限の資源の枠がはまっている。これが今日の地球環境問題である。

成長の限界と日本の少子化問題

大国のGNPが大きいのは規模の問題であって、人口密度で相関を求めると優位な関係は無い。したがって人口が多ければ繁栄するというのは虚構である。GNPの大きい国では出生率、死亡率はともに低く、発展途上国では出生率が高く人口増加率も高いということである。発展途上国の人口増加率は人口転換の過渡現象でいずれ都市化による文明の恩恵(被害?)を受けて先進国なみに人口減退の波に入るはずだ。経済の人口維持力より人口爆発が大きければ経済発展の足を引っ張ることになる。つまり人口は経済発展のブレーキとなる側面がある。人口が多ければ総需要が増えるというのはあまりに浅はかな見方である。企業ではリストラと称して利益を維持したまま人口を減少させる動きが必死である。これは当面の利益を上げて分け前を増やそうとするする経営者の欲求から来ている。地球環境問題では成長の限界を前提として、あらたなソフトランディングを模索している。1999年の世界人口は60億人、2050年には89億人と予測している。21世紀末にはせ界人口も日本人口も停滞を余儀なくされる。
日本の少子化高齢化は一段と加速されるだろう。2025年には人口は減少に転じ、2050年に1億人になり、2100年には6700万人に減少すると予想されている。そこで少子化の功罪を見てみよう。全体として経済的社会的なマイナス面のみが宣伝されている。たしかに少子化高齢化は購買力の減退、労働人口を減少させ、従属扶養人口を増加させるため社会負担を重くするなどマイナス面は多い。少子化を否定して何とか出生率を引き上げるべきだという論者がいるが、人口減少という大きな波動を小手先の出産補助金という官僚発想で何とかなると思っているのだろうか。笑止千万である。たしかに少子高齢化は我々にとって初めての経験であるが、じたばたするような問題ではない。まして人口停滞を豊かな時代の成熟しない若者の身勝手などと非難するほうが間違っている。歴史的に見れば今まで何度も人口停滞を経験している。人口停滞は文明システムの成熟化に必ず現れる現象だといえる。現在日本で起きている人口変動は次の特徴を持っている。

  1. 少子化
  2. 長寿化
  3. 晩婚化もしくは非婚化
  4. 核家族化と高齢者単独世帯の増加
  5. 人口の都市集中

この傾向を否定し、かっての右あがり成長を夢見るものは反動と呼んでいい。むしろこの傾向を受け入れ賢明な策を講じる必要がある。鬼頭氏が言う日本の課題とは、

  1. 簡素で豊かな生活・・・・・スローライフ、循環型社会
  2. 少子化の受け入れと静止人口の実現・・・・・・社会、地域人口の再配置、多様な労働構成員を認めるの寛容さ、80歳長寿社会の制度的・家族的対応
  3. 公私、官民の役割の明確化・・・・・・救済措置、法制度、技術開発、社会資本整備

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