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読書ノート

岡部哲郎 著 「病気を治せない医者ー現代医学の正体に迫る」 
光文社新書(2015年1月)

現代医学の治療法はほとんどが対症療法であり、今注目の中国伝統医学で根治療法に挑む

1935年から1949年にわたって世界の医学部の最高峰と呼ばれるハーバード大学医学部長であったシドニー・パウエル博士は、卒業式でこう述べた。「医学の教科書に書いてあることの半分は、生来間違っていることが証明される」つまり教わったことをドグマにように信じ切って診療にあたるな、医学知識は日進月歩で常に更新され続ける。医学の進歩を学習し、最新の適切な診療が行えるよう日々努力せよという戒めである。本書は西洋医学と盲点を明らかにし、東洋医学によって補完する医療を勧める一医学者の警告の本である。無用な軋轢を感じないように、まず筆者岡部哲郎氏の略歴を紹介しておこう。1948年群馬県生まれ、東京大学医学部卒業し長年東京大学医学部で研究をつづけた。2013年医学部特任教授となった。岡部哲郎氏はは東大病院にて臨床研修後、細胞生物学を中心にガン細胞の増殖や分化の研究を幅広く行ってきた。特に白血球増殖因子G-CSF産生腫瘍の培養株樹立にいち早く成功し、大量培養や遺伝子工学による量産化と臨床応用への道を開いた。また肺ガンに対するモノクローナル抗体を作成し肺ガンの免疫シンチグラフィーを開発し、分子標的(ミサイル)治療の先駆けとなった。東京大学の研究室では内外で活躍する多くの優秀な研究者を育成してきた。その間台湾の高名な漢方医である林天定一門に師事し中国伝統医学を研鑽し、漢方薬から治療薬の開発研究を行ってきた。東京大学大学院医学研究科の東大病院総合内科で漢方政体防御機能学講座に勤務し、東大病院では総合内科漢方外来で診察業務に従事した。漢方外来の責任者として診療を行い原因不明で治療方法が確立しておらず、生活面への長期にわたる支障がある難病に対して漢方内科治療を試みた。日本内科学会指導医、日本呼吸器学会指導医、日本東洋医学会指導医、日本東洋医学会常任理事を務めている。東大病院での経験を生かして、高血圧、糖尿病、喘息、リウマチ、シェーグレン症候群、うつ病、認知症、てんかん、緑内障、糖尿病性網膜症など種々の病気に対応するために、東京銀座で岡部漢方内科を開院した。 また、癌のミサイル療法など癌研究の経験に基づいた、転移のある末期癌に対して治癒を目指した最適な治療法のアドバイス(セカンドオピニオン)を行っている。高度な医療に係わる専門医には常に最新・最適治療を心がけなければならという。しかしながら自分の専門分野における新しい医学的真理に対しては批判的になる傾向がある。日本人に身近ながんに「大腸がん」がある。この25年で大腸ポリープはすべてがんになるという見方は否定された。大腸内視鏡検査で直径5mm以下のポリープはほとんどがんにならないことが分かったのである。最近は直径5mm以下のポリープは切らないで経過観察が常識となった。その一方でポリープではない平坦な病変はがんになりやすいことも分かった。成人大腸内視鏡検査で60%の人にポリープが発見されるが、つまり放っておいてもがんにならない。同じことは前立腺がんについても言える。70歳以上の男性の70%に前立腺がんが見つかるが、前立腺がんで死亡する人は少ない。他の臓器のがんと違って前立腺がんは人を殺すことは稀である。問題はPSA前立腺がん腫瘍マーカー検査で発見され手術や放射線治療を始める医師がいるが、これは過剰医療の典型である。アメリカでは腫瘍マーカーによる前立腺がんの検診について否定的な勧告を出した。医学はいつも正しいとは限らない。特に医学界の権威主義はひどい。現在の最高の医学システムをもってしても、2−3割の見落としは常である。検査の結果で安心していたら数か月後に発病ということは良く聞く話である。がんの診断治療に異議を発する医師の著作は多いが、中でも近藤誠著作集5冊(文春文庫、アスコム)が参考になるのでリンクさせる。元慶応大学病院放射線科の近藤誠医師が主張するのは、がんをすべて放置観察すればいいというのではなく、今の診断治療のシステムが患者のためになっていないことに警告を出しているのである。特に固形がんに対して抗がん剤を投与するのは殺人行為であるという。西洋医学の治療で評価できるのは「悪くなったものは切除するか、取り換える」という思想だけで、薬による治療は、えてして不得意である。西洋医学はこれまでも科学技術を駆使して新しい治療法を開発してきたが、それらは病気を完治させるものではなく、ほとんどが症状を押させるだけの対症療法に過ぎなかった。そのため死ぬまで薬を飲み続けて、医療費は膨れ上がり40兆円(2015年)を越した。西洋先進国では、がん、心臓病、脳卒中、生活習慣病に対して薬物化学療法の治療効果が上がらないことが明らかなになってきて、代替え医療への需要が高まっている。欧米で中国伝統医学への関心が高まり、大学での教育が75校(全125校)で行われている。筆者岡部哲郎氏は、少なくとも根治治療という点では、中国伝統医学は西洋医学より優れていると断言している。中国伝統医学が万能という意味ではなく、手術が必要ながんでは手術が治療の第1選択肢であることはいうまでもない。外科、救急医療、臓器移植、細菌感染症などの分野は西洋医学の方が断然優秀である。中国伝統医学は五臓(心、肝、脾、肺、腎)の各システムを調和させ、人体のシステムが病気になるのを防ぐことである。あなたが病気なった時には是非一考する価値がある治療法であるということが本書の結論です。

第1章) 病気を治せない現代西洋医学

医学部での最高位とみなされる大学の教授になるには、優れた研究業績を上げなければならないが、その研究とは病気の治療とは何の関係もない基礎的研究に費やされる。例えば実験動物を使った遺伝子研究論文がネイチャーなど権威ある国際的科学雑誌に掲載されることで、その業績が評価され教授という地位を獲得できる。しかしこういう医者は患者の診療は不得意だそうだ。最初から臨床の専門家ではないからだ。マウスの生命メカニズムは人間には全く通用しない、基礎研究で外科の教授になって外科手術がうまくないなんて絵にもならない。2012年平成天皇の心臓手術を東大病院が東大病院で行われたが、執刀は東大教授ではなく順天堂大学心臓血管外科の天野篤のチームが行った。最高権威は必ずしも最高外科医ではなかった。「夢の抗がん剤」と騒がれた肺がん治療薬「イレッサ」、この薬は上皮細胞成長因子EGFの受容体拮抗剤でいわば分子標的治療薬の走りであった。副作用は少なく唯一「間質肺炎」だとされていたが、全身転移の末期肺がん患者の治療に当たっていた著者は、抗がん剤と免疫療法、中国伝統医学による治療を行い、患者は7年間無症状で日常生活を送ることが出来ていた。患者の希望で「イレッサ」を使用する治療に切り替えた治療を2か月間行い、退院して1か月後食欲が亡くなって3か月後に死亡した。EDFはがん細胞だけでなく健常細胞にも働いて成長増殖を停止させるのであった、当時の臨床試験のデーターでは胃腸障害の副作用は1%以下と言われていたが、その後多数の患者に使用されて胃腸障害は15%もあることが判明した。がんの専門医の必須条件は抗がん剤の副作用を熟知することである。ところが専門医の大半は製薬会社から日々追加される薬の添付資料を読んでいない。高血圧の治療薬に、アムロジピンベシル酸塩(商品名ノルバスク)がよく投薬されている。開発時および6年間の副作用報告は約4.6%である。副作用は肝機能障害からふらつきなど多岐にわたるが、問題は専門医はノルバスクの副作用の情報を知らないで処方していることである。
また最近の降圧剤として注目のアンジオテンシンU受容体拮抗剤のバルサルダン(商品名ディオバン)も副作用が極めて多い(21%)。アンジオテンシンUは血圧上昇ホルモンで、ディオバンはこの上昇作用を無効にする薬である。副作用について2,3の例を挙げて置く。熱中症の脱水症状では血清ナトリウム濃度低下が顕著であるが、ディオバンは副作用として低ナトリウム血症を起こすことが知られている。またディオバンは製薬会社と病院医師によるデーター捏造事件が発覚し、副作用情報がコントロールされていた。頻尿治療薬は緑内障を悪化させるので頻尿治療薬投与の前に緑内障かどうか確認が必要である。
また花粉症治療薬は抗ヒスタミン剤であり、神経系や胃腸系の副作用が多い。中でも抗コリン剤は眼圧を上げ緑内障を悪化させる。他に排尿困難になる危険性もある。総合感冒薬や花粉症治療薬に含まれる抗ヒスタミンは胃腸機能の不安定(過敏性大腸炎、下痢)の副作用がある。現代医学の教科書には治療効果のある薬剤の名前の網羅的紹介はあるが、薬物の作用機序、使用方法、具体的使用法、副作用については記述が不完全である。
著者が東大医学部で分子標的モノクロナール抗体に放射性抗がん剤を結合させる薬剤開発を行っている時、友人の勧めで漢方薬に興味を持ったという。高血圧、糖尿病、喘息などの慢性疾患には中国伝統医学で治療すればかなり効果が得られるようになってきた。大学病院で「治療法がありません」と言われたら、このような中国伝統医学による治療法は有力な代替え医療になると思える。関節リウマチは膠原病の一つで、免疫異常による炎症が関節を破壊する病気である。中国伝統医学では関節リウマチは「風湿性関節炎」と呼ばれ、低気圧と水分の問題であるそうだ。初期リウマチの80%は生薬で治すことができる。病態診断と治療処方がセットになった医学である。
西洋医学の免疫抑制剤や抗炎症薬、副腎ステロイドなどによる治療は対症療法である。肺がん、胆のうがん、すい臓がんは診断が確定すれば治療はできないのが西洋医学の限界といえる。前立腺がんも骨転移が認められるときは治療は不可能で2.3年内に患者は死亡する。ところがほとんどの前立腺がんは生涯無症状である。PSAマーカー検査で発見するのは問題であるし、さらに無用な前立腺がん治療が行われている現状は嘆かわしい。抗男性ホルモン「カソデックス」治療が行われているが、女性化、造血障害、肝機能障害、腎機能障害など副作用が大きい。前立腺がんを早期に発見され治療されると、とんでもない人生の迷路に入り込むことになる。整形外科では「脊柱管狭窄症」を腰椎の変形だとして、神経へ圧迫を取り除くためむやみに手術をしステンレスを埋め込む手術をする専門医が多い。手術による脊柱管周辺の血管やリンパ管の切断による血流障害の方が心配である。痛みやしびれの原因は骨の変形だけではなく、筋肉や末梢神経の機能減退、血管、リンパ管の流れ障害も原因である。手術によって良くなるどころかさらに悪化するケースが多い。

第2章) 予防医療の問題点

この章では、予防医学として@高血圧降下剤、Aコレステロール降下剤、BHPVワクチンの三つ問題を取り上げる。
@ 高血圧降下剤: 現在、予防医学という名目で多くの人が永遠に薬漬けにされています。その異常かどうかを判断する基準値の設定次第で数千万人の健康な人が簡単に病気予備軍に組み込まれています。最高血圧が140mmHgを超えると高血圧と判定された人は2010年で約4300万人になります。国民の1/3が高血圧ということです。この辺の製薬・医師・厚生省の役割は「医療村(原発村)」という利益共同体によって企てられたことが、近藤誠著作集(文春文庫、アスコム)の近藤誠著「成人病の真実」(文春文庫)に詳しく書かれているし、本書と同じ趣旨のところは省略し、新たな知見だけを以下に記述します。1967年JAMAに最低血圧が115-129mmHgの重症患者に降圧剤の投与による死亡率低下という結果が報告され、これが「降圧剤で高血圧を治療すれば死亡率を低下できる」と一般化した医学常識が形成された。これはチャンピオンデーター(さくら)であり都合いいデータであった。その後次々と降圧剤の比較臨床実験が行われ、「降圧剤に心血管イベントや死亡率を予防する効果は余り期待できない」ということが分かった。降圧剤の効果があるのは下の血圧が110mmHg以上の重症患者のみであり、軽症では必ずしも降圧剤を使う必要はない。特に心筋梗塞というエンドポイントでは降圧剤の効果はないと断言できる。さらに血圧を下げると心筋疾患のリスクが上がるといういわゆる「Jカーブ」が出る。下の血圧を80mmHg以下になると死亡率が増加した。脳卒中や心筋梗塞などの血管合併症のリスクを高めるのは高血圧だけではない。心臓病、糖尿病なども危険因子である。これらハイリスク高血圧患者群(冠状動脈疾患、糖尿病、左室肥大、高齢者まど)に対して2010年以降の比較試験では、心血管病全体に対する降圧剤療法の有効性は実証できなかった。降圧剤の脳卒中予防効果に関しては、信頼できる比較臨床試験の報告はない。 2014年高血圧治療ガイドラインの見直しで、正常血圧を「正常域血圧」に改称し、降圧目標を130mmHg以下を上げて140/90mmHgを改定した。そして高齢者に対してはまず150mmHgを目指すことになった。筆者の考えでは高齢者では160mmHg/100を正常域とし、上の血圧が120mmHg以下では危険だという。生命予後(生命維持)のためである。
A コレステロール降下剤: 高脂血症薬も医薬品業界のドル箱である。NEJMに高脂血症薬(プラバスタチン)による心筋梗塞死減少効果を調査する論文が出たが、6595人の患者を対象に死亡率に統計的有意差は無かった。優位さが出たのは「心筋梗塞発作を起こした人+冠状動脈で死亡した群の死亡率は確かに減少した。このように二つのイベントを合わせて有意差を出す方法は統計的には無意味でトリッキーでかつインチキである。そしてプロバスタチン投与は心筋梗塞による死亡率の低下を減少させたという結論を出した。随分と都合の良い解釈である。権威ある医学者のやることではない。官僚は頻繁に使っている手口であるが。2002年日本で4万7294人の高コレステロール血症患者に対して高血症薬「シンバスタチン」を投与して、心筋梗塞、脳卒中、がんなどの死亡率とコレステロール値の関連を調査した臨床試験が行われた。総死亡率がノットも少ないのは総コレステロール値が180-259の人であった。コレステロール値はこれより高すぎても低すぎても総死亡率は上昇した。悪玉と言われる低密度コレステロールLDL値は80未満と200以上で総死亡率は有意に上昇した。がんの死亡率は総コレステロールの高い人には有意差は無いが、低い人には有意に上昇する。日本動脈硬化症疾患予防ガイドライン2012では、LDLは140mg/dl以上を高コレステロール血症と呼び、120−139までは境界域と呼ぶ。中性脂肪(トリグリセライド)は150mg/dl以上を基準値とした。しかしLDLは160mgまでは心血管イベントの発生率に有意な差は無く、200mgを超すと有意に死亡率は増加する。中性脂肪は心血管イベントが有意に増加するのは300mg以上で、総死亡率との関係はない。LDLは160mg、中性脂肪は300mg以上が順当であるが、ガイドラインは低すぎるのである、これでは高脂血症患者は見かけ上急増するのだ。男性は、総死亡率、心血管死亡率と総コレステロールとの関係はJカーブ現象を示すが、女性は逆にコレステロール値が高いほど死亡率は下がるのである。コレステロール値上昇は女性の更年期以降は必須の自然現象で生体防御作用で、女性はコレステロールは下げてはいけないということである。こうした性差、個体差、年齢差、ストレスなどは重要な生体反応を反映しているので、患者を均一とした大規模臨床試験結果は読み間違える恐れがある。少なくともガイドラインの基準値は性差別、年齢別に設定されるべきである。
B HPVワクチン: 1983年ドイツのハウゼン博士が子宮頸がん組織からヒトパピロ−マウイルスHPV16型と18型を分離したことを契機として、HPV遺伝子が90%以上の頸がん細胞中に存在することをもって子宮頸がんウイルス発がん説が流行し、2008年博士はノーベル賞を受賞した。しかしこのことはコッホの病原説3原則の二つ(存在と分離)を証明したまでで、最後の原則であるHPVに感染させるとがんを発生させることを証明したことではない。HPVに感染しても90%以上は自然に排出され、数年から数十年持続的に感染した場合その数%が発症するといわれている。子宮頸の上皮細胞の異形成CIN(1-3に分類され、3のみが上皮がんとなる)が起こり、3.3%がCIN3に、また0.15%が子宮頸がんになるといわれる。つまり子宮頸がんはハイリスク型HPV感染が引き起こす稀な合併症であり、これは性感染症の稀有な一つである。現在、日本で接種されている子宮頸がんワクチンは16型と18型(HPVの50−80%を占める)の持続感染の予防効果を持つワクチンである。サーバリックスとガ−ダンシルの2種類が発売されている。これはすでに感染しているHPVのウイルスを消失させるものではない。治療薬ではなく、インフルエンザワクチンと同じ予防ワクチンである。子宮頸がん予防ワクチンという呼び名はおかしく、欧米ではHPVワクチンと呼んでいる。子宮頸がんはHPV−DNA検査と細胞診で容易に100%識別でき、適切な治療で概ね100%治癒率が得られる。何故ワクチンを作る必要があるのか理解に苦しむ。厚生省の発表ではHPV感染者は全女性の0.7%である。持続感染者はその1/10で0.007%に過ぎない(女性10万人に7人)。この感染者のまれな事よりももっと重要なことは、重篤な副作用で10万人接種で31人に重篤な副作用が発生する。インフルエンザワクチンの52倍である。2009年から2012年に全国で述べ820万回(一人3回)ワクチンの接種が行われ1926例の副作用が出ている。重篤な副作用は861例であった。副作用はアナフラトキシーショックによる呼吸困難、失神、チアノーゼ、感覚マヒ、発熱、嘔吐、痙攣、疼痛などであった。筋無力症、ギランバレー症候群、全身性エリテマトーデス、散在性脳脊髄炎、多発性硬化症などの難病を併発し長期間治らないで苦しんでいる人もいる。
このような効果の実証されていないワクチンを鳴り物入りで騒いでワクチン接種を推進したのは、一部の政治家と婦人科の医師が国民の関心を集めるポピュリズム政策に走ったせいではないだろうか。西洋医学ではワクチンは病気を予防するするという性善説で推進される。更に問題なのはワクチン開発の専門家は基礎研究の研究者であり、動物試験に頼って効果を確認し、人を対象にする接種に持ち込むのである。しかし人間の免疫システムと動物の免疫システムは天地雲泥の差がある。現状では大学や病院には、ワクチンの臨床的有効性や副反応など、人間への応用に関する臨床医学の専門分野は存在しない。日本にはワクチン専門医は存在しない。インフルエンザ専門家委員会の「専門家」とは名ばかりで11名の委員の内ワクチンの副作用の専門家は一人であった。厚生省科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会の委員は10名のなかで、HPVワクチンの専門家は誰もいなかった。一体どんな議論をしたのだろうか。かくして、他の専門分野の知識しか持たない専門医と称する権威筋、政治家が結託して偽善的医療行政を強行したことは許されることではない。その上製薬会社とワクチン開発研究者、専門医の思惑が交錯した会議は人道上の問題である。
いつもワクチンの副作用の原因説として、免疫抗体製造のときに使用する免疫増強剤であるアジュバンド(アルミニウム)があげられる。パリ大学のフランソワ・オーシェ教授はアジュバンドのマクロファージ吸着説、エール大学のシン・ハン・リー元准教授はウイルスDNAのアジュバンド吸着による自己免疫疾患説を唱えた。にもかかわらず2014年1月厚生省の予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会の委員は、アジュバンド説を根拠なく否定し、原因は注射への恐怖が引き起こす「心身の反応」と結論付けた。2014年難病治療研究振興財団の研究チームは2515例を分析し、副反応は1112例だとした。これは厚生省検討会が認定した副作用の6倍にあたる。内科、小児科、精神科などの臨床医師10名が、接種から重い症状が出る期間を平均8.5か月まで観察した。そしてこの副作用を人類が経験したことがない「子宮頚がんワクチン関連神経免疫異常症候群」と名付けた。HPVワクチンはワクチンビジネスにとってドル箱ビジネスであり、いつも黒いうわさが絶えない。本来は性行為による感染症であるのに、その事は隠して思春期の女性をターゲットとした子宮頸がんの驚異を最大限に強調する宣伝が行われた。

第3章) 対症療法と根治療法

現在、メディアや医療機関で悪玉コレステロールとか善玉腸内細菌とか、勧善懲悪思想で体内の物質代謝を二部するような考えが流布しているが、これはとんでもない割り切り方でそんな単純な二部法では体内代謝は説明できない。コレステロールは細胞膜を構成する重要な物質で、不足すると細胞膜の保護機能が弱くなりがんになりやすく成ったり、脳出血のリスクも上がります。コレステロールの代謝は一口で言うほど簡単ではありませんが、コレステロールは循環して利用されるシステムが出来上がっています。コレステロールは胆汁酸として十二指腸で分泌され、脂肪分解酵素リパーゼと一緒に働いて脂肪、ビタミンAの吸収を助けます。その90%は小腸で再吸収され、残りは大腸から排出されます。ですから肝臓から腸、腸から肝臓へと循環しています。これを腸肝循環と呼びます。こうしたコレステロールの輸送や、腸肝循環、代謝、分解、排せつのどこが障害を受けてもコレステロール値が高くなる原因です。高コレステロール血症にはそれ以外にも甲状腺の機能低下、エネルギー代謝、ホルモン異常などが多様な原因があります。現在の西洋医学の薬は原因一つに対して1対1の関係で作られています。一つの原因にしか対応できないので、病気を治すことはできません。対症療法に終始せざるを得ないのです。
C型肝炎ウイルスに感染しても人によって多種多様な病気や症状を引き起こします。このウイルスは一定の条件がが整わないと慢性肝炎や肝臓がんを起こすわけではないのです。ある研究では血清トランスアミラーゼ値が60以下のとき肝硬変や肝臓がんにはならないといわれる。西洋医学では体内に入り込んだC型肝炎ウイルスを抗ウイルス剤で駆除することは不可能です。又肝臓の組織自体を治療していないので、本当の肝炎治療になっていない。対症療法を行いながら本人の治癒力に頼っているに過ぎない。それに対して中国伝統医学には肝炎発症生体側の条件を整えながら、抗ウイルス作用のある生薬でC型肝炎発症を抑えることができる。肺炎などの感染症では西洋医学は抗生物質で細菌を駆除するだけである。炎症で破壊された肺組織を治療しているわけではない。だから原因不明の「間質性肺炎」となるとお手上げである。経過観察だけをやっているのである。
中国伝統医学では肺の熱、冷え、肺組織の脱水、血流障害の病態に応じた適切な生薬を投与し肺の病態を治療する。この「熱か寒か」というのは中国伝統医学の8つの病態診断大綱の一つである。ここで西洋医学と中国伝統医学の病態診断の違いに注目しよう。西洋医学の診断は血液中や尿中の物質量の値を基準にする。診断の基礎は物質である。それに対して中国伝統医療では、体内の物理現象を分析して診断する。そのための基準はあ第5章で説明する。第1に体を維持するエネルギーが十分か不足しているかの診断で、第2に体が熱いか冷えているかの診断です。例えば急性炎症は西洋医学では炎症を起こす物質に基づく診断であるが、中国伝統医学では熱証の診断となる。温度で体内組織の活性が大きく左右されるからである。免疫システム、消化システムは温度の影響を受ける。第3の病態診断には水分の存在様式が重要である。つまり中国伝統医学の診断では、エネルギー、熱、水分の状態変化といった物理現象に重きを置きます。現代医学では風邪も治せないことはよく知られた常識です。徹底的に対症療法に終始します。
風邪やインフルエンザにかかるとすぐに解熱剤が処方される。ウイルス感染に対応して熱が出るわけだが、ウイルスを退治するために人間自身が熱を出しているのです。ウイルスをやつける免疫機構は体温が高い方がスムーズにゆく。ウイルス感染で解熱剤を使って解熱すると、病気が治るのではなく病気の期間が長引く結果になる。特に小児インフルエンザに解熱剤は禁物です。解熱剤の非ステロイド性抗炎症剤によって脳血管が障害という副作用が起きる。ライ症候群もインフルエンザ脳症の一つである。アメリカではサリチル酸系製剤(アスピリン)とライ症候群の関係を認め、アスピリン投与は禁止されるとライ症候群は消滅したという。ボルタレン、ポンタ―ルもインフルエンザでは使用しないよう注意喚起されている。使用できるのはアセトアミノフェン(カロナール、アンヒバ座薬)が主体となる。解熱剤と同様、風のときよく処方されるのが、抗生物質と抗ヒスタミンである。風邪を治すわけではなく、随伴症状の緩和という目的以外には効果は無く、あるのは副作用のみである。
日本には「日本漢方」と「中国伝統医学」がありますが、その内容に格差が大きい。日本では明治時代に漢方医学は廃止され最近まで教育さえ行われていなかった。中国では中医薬大学で5年のカリキュラム、さらに3年間は専門医教育が行われて専門医が養成されている。だが日本には医学部で漢方医学を学ぶことはない。西洋医学一辺倒である。2001年に提示された医学教育モデルカリキュラムガイドラインでは学生は和漢薬の概説を学ぶことになった。しかし卒業の6年間までに和漢薬の講義は数時間に過ぎない。不慣れによる漢方薬のトラブルが相次いだ。整理不順の女性患者に婦人科の妙薬と言われ血流増加作用のある「当帰芍薬散」を投与して、子宮筋腫が2倍に膨れた。また関節痛のある患者に「越婢加尤湯」を投与し、関節痛は治ったが血圧が上昇したという。血圧をあげる麻黄が含まれていたからだ。がん専門病院では手術後の長期間に体に元気を与える「補中益気湯」を投与したが、体がほてって便秘になるという副作用が現れた。調合された漢方薬にも副作用成分があるので、注意が必要である。「補中益気湯」は体力が弱った患者によく処方されるが、胃腸屋や肺など上半身の働きが強められ、下半身の内臓の働きは弱まるのである。漢方薬は単一成分ではなく、病態に合わせた調合がなされるので、ワンパターンの投与は医師の経験と非力を暴露する。中国は西洋医学にそっぽを向いているのではなく、病気の患者さんをまず西洋医学の最新診断法で見る。診断結果が緊急措置や手術などの外科的治療が必要でないと判断されると、次に漢方医学でで有効な治療を受けるのである。つまり西洋医学と中国医学のいいとこどりを理想としている。                                                     

第4章) 高齢者医療の諸問題

大多数の高齢者は複数の慢性疾患を抱え服用している薬剤も多い。加齢に伴う生理的な反応、疾患の現れ方、治療に対する反応性、そして個人差が極め大きく出る。この多病、多様性が高齢者の特徴である。しかしながら現状では高齢者を対象とした診療ガイドラインは十分確立しているとは言えない。たとえば高齢者の血圧は、上(収縮期高血圧)下(弛緩期血圧)ともに安定せず、上(収縮期高血圧)が増える特徴がある。高齢者の血管の弾力性が低下し、流れが悪くなるのが原因である。それと同時に自律神経の働きも低下するので心臓の機能が落ちるからである。血流量を維持する調整機能のため高齢者は脳に血液を送るのに高い圧力を要する。降圧剤を使用して血圧が下がると、脳への血流量は減少しめまい、立ち眩み、だるさが現れ、脳梗塞や脳萎縮が進行するという論文がある。したがって脳梗塞や心筋梗塞がある場合、血圧は慎重にコントロールする必要がある。また高齢者には腎機能の低下があって降圧剤の排せつが遅れて重篤な血圧低下になる場合がある。近年医療はエビデンス(証拠)を重要視する医療EBMという診療理念が提唱されている。医師の個人的経験、勘、思い込みによる診療方法のばらつきを少なくし治療法はガイドラインに示され、EBMは比較臨床研究に基づいて統計学的に有効性が証明された治療を実施することで質の高い医療を提供するのである。EBMが有効なのは60−90%の患者とされているが、個人差、病態、病歴の違いなどでスタンダードな治療が功を奏さない場合もあるので、それを打開するのは医師の経験とアイデアである。EBMは臓器の働きが比較的均質な若年層に向いている統計医学である。高齢者は多様性を特徴とするので高齢者には個体差を重視するNBM(病歴、全人的話し合い)による診療が適しているようだ。つまりオーダーメイド医療であるべきだ。
嚥下障害、体の痛み、歩行障害、転倒、認知機能障害、うつ、せん妄、失禁、貧血、筋力低下、めまいなどの「老年症候群」が実は常用している薬の副作用であることも多い。これを「薬剤起因性老年症候群」と呼ぶ。なかでも抗不安剤や睡眠薬として服用しているベンゾジアゼピン系薬剤(商品名ハルシオン、リスミー、サイレース、デパス)が「薬剤起因性老年症候群」を起こしやすい。高齢者では腎臓、肝臓の働きが弱っているのでこれら薬剤の解毒・排せつがうまくゆかないからだ。ほかにトランキライザーといった抗不安剤・抗てんかん剤・抗うつ剤といったさまざまな中枢神経系薬剤はせん妄を引き起こしやすい。ベンゾジアゼピン系薬剤・フェノチアジン系薬剤といった薬剤は尿排泄困難、パーキンソン症候群、抑うつ症状、意識レベルの低下を引き起こす。老人が熱中症で病院に運ばれるニュースは毎年夏の恒例となっているが、ある老人は逆流性食道炎の薬(胃酸抑制プロトポンプ阻害剤)と降圧剤としてアンジオテンシンU受容体拮抗剤ディオバンの二つを長年服用していて、熱中症で入院した。喘息と便秘がなかなか治らなかったのは低ナトリウム血症を併発していたからであった。老人は低ナトリウム血症になりやすいので、逆流性食道炎の薬の投与は4−8週間に留めることが大切である。こういった高齢者の生活の質QOLに配慮しつつ高齢者特有の問題に対処する老年病専門医の充実が求められている。さらに高齢者疾患は多くは臓器機能低下からくるので、治癒を期待できない慢性疾患である。治癒より緩和療法が求められる。
中国伝統医学は抗老化治療を得意とする。中国伝統医学では、疾患は正気の虚、つまり生体の恒常性維持能力の低下がある場合、病気の原因が生体を侵犯しておこると考える。中国伝統医学の病気の治療とは、病態を除去すると同時に正気の虚を恢復させることを重視する。正気の虚を恢復させることは抗老化治療に通じるのである。加齢によって低下した臓器や器官の機能を強化することが治療目的の一つである。西洋医学では「年だから仕方がないですね」と言って治療を放棄されることが多いが、中国伝統医学ではめまい、失禁、腰痛、膝関節痛、頻尿といった老年症候群の症状の緩和を可能にする。

第5章) 中国伝統医学の考え方と治療法

西洋医学と中国伝統医学の根本的な違いは、西洋医学が帰納的(現象から本質へ向かう)であるとすると、中国伝統医学は演繹的(人体の全体像把握から個々の病態へ向かう)であるという言い方はある程度当たっている。ある高熱患者がいたとする。西洋医学ではさまざまな検査を行った結果、抗核抗体が発見されたら膠原病であると診断する。しかし膠原病だけが唯一の原因ではない。まだファジーというべきである。中国伝統医学では、ほぼすべての病態に関して分類や鑑別診断の方法が完成されている。中国の健康観は「黄帝内経」によると、恬淡虚無な生活をすれば無病息災、健康に生きられるといいます。中国伝統医学によると病気の原因は大きく3つに分類される。内因、外因、不内外因である。心身一如の治療を行う。内因とは怒・喜・思・憂・悲・恐・驚の七つの情緒変化である。これは西洋医学では精神的ストレスと呼ぶ。喘息は精神的ストレスから起きる場合があるが、西洋医学には抗ストレス剤は存在しない。外因とは季節や気候の変化が発病の原因となる場合である。風・暑・火・湿・燥・寒の6種に分ける。関節リュウマチは風湿病と言われ低気圧と共にやってくる。西洋医学では免疫異常が原因と考え、免疫抑制剤と抗炎症剤で治療を行う。花粉症も漢方では風邪と熱を除去する生薬を使う。生体の諸条件を改善するだけである。西洋医学では特異的IgE抗体結合による炎症と考え、抗ヒスタミン剤で鼻炎緩和治療ののみを行う。しかし特異的IgEは原因の一つに過ぎず、Th2リンパ球、好酸球、肥満細胞などが絡み合って発症するのである。特異的IgE遺伝子は一度リンパ球で作られると、一生消えることは無い。3つ目の原因である不内外因とは、暴飲暴食、外傷、過労がこれに相当する。体にダメージを与えることで五臓システムが不調になって起こる病気である。中国伝統医学では五臓システムは3つの媒体(気、血、津液)で養われるという。気とはエネルギーで、生命活動を維持する。血とは全身に栄養、酸素を運搬する。津液とはリンパ液、細胞の間質液、関節の潤滑液、消化液、唾液、汗、涙、尿などである。過労は筋骨を痛め、気、血を消耗する。
中国伝統医学で最も重要な五臓というシステム論を紹介する。西洋医学で五臓というと、具体的な臓器のことである。各臓器ごとに蓄積された医学知識・診断・治療経験は膨大である。それに対して中国伝統医学でいう五臓システムとは西洋医学の臓器概念とは違い、「生理システム」を意味している。中国伝統医学はすべてこの五臓システムから出発する演繹的医学である。人体は、異なる機能を持つ「肝・心・脾・肺・腎」という5つのシステムからなり、気というエネルギーで養われていると考える。陰陽思想の上に立つ中国伝統医学では、五臓の機能を陽とし、物質面を陰とする。五臓の陰陽の調和とは、機能と物質のバランスがとれている状態をいう。なおツボ(経絡)は針灸の重要な理論であり、電気抵抗の低い(電気がよく流れる電解質液、イオン液)の流れが皮下組織や臓器の間隙に帯状になって存在する。主なルートは12あるが「正経十二経」という。その多くは臓器の健康状態を知りことができるという。
心: 心臓による動脈血液循環と、意識、睡眠、精神を司る脳の働きをいう。ここから4つの臓器に命令を出していると考える。
肝: 情緒的には怒り、精神的にはものごとを成し遂げる意思、神経的には運動や交換神経を包含する。内臓としての肝臓機能に加え静脈系や毛細管の血液循環、免疫などを司る。
脾: 消化器系を意味する。胃、すい臓、腸などを含み、食物からエネルギーを生産する。臓器が弱体化しエネルギーが生産できないと気の不足の状態となる。
肺: 空気から酸素を得る呼吸作用を意味し、体表の免疫機能や皮膚の健康を維持する。
腎: 水分代謝が主要な機能で、内分泌系の統御システムとしてホルモンや遺伝子発現をコントロールする。成長、生殖、老化も重要な機能である。

中国伝統医学のシステム医学による治療法の例を、高血圧と糖尿病治療および難病の治療についてまとめる。
@ 高血圧: 西洋医学では高血圧の治療は、対症療法でただ降圧剤を一生投与するだけである。中国伝統医学では血圧をあげている原因を取り除く治療を行う。だから治癒が期待できる。高血圧の原因には二つある。内臓の酸素不足に対する自己防衛と、血圧を上げる人体の仕組みが狂った場合である。高血圧の患者の病態を見ると、神経の異常が100%、胃腸の異常が80%、ホルモンの異常が60%、心臓の臂場が30%で見つかった。人によって原因の組み合わせは複数あり。原因も多岐にわたる。また高血圧は年齢によってその原因は異なる。40才の高血圧と70才の高血圧ではその原因と治療法も異なる。したがって治療法も人それぞれ違うものになる。次に高血圧の原因別の分類と治療法を紹介する。これらもモデルケースに過ぎない。
A:肝陽上亢(神経の異常による高血圧) 精神的ストレスによる神経の熱を冷やす竜胆、黄連、アロエなどの処方を用いる
B:痰湿阻逆(胃腸の痰による高血圧) 胃腸に負担をかけすぎると神経系を傷害し血圧があがる。治療は痰湿を取り除く竹如温胆湯などを用いる。 
C:肝腎陰虚(水分不足による高血圧) 香辛料の過剰摂取、精神ストレス、老化は全身の水分不足となる。腎陰(水分)を補う六味地黄丸、七物降下湯を併用する。
D:陰陽両虚(水分不足と代謝の低下による高血圧) 動悸息切れ夜間頻尿など老人特有の症状がでる。六味地黄丸に牛車腎気丸に桂枝加竜牡蠣湯を併用する。
E:気虚血於(エネルギー不足が原因の血流減少による高血圧) 脾虚(消火器系の機能低下)による疲労、不眠、めまいの症状がエネルギ不足によって加速される。補中益気湯、帰脾湯などを用いる。
F:衝任虚損(更年期の高血圧) 女性特有の火照り、イライラ、耳鳴り、不眠、高血圧、高コレステロール症が出る。腎を補う二仙湯と交感神経を安定させる逍遥散を併用する
A 糖尿病: 西洋医学の糖尿病治療は上がった血糖値を下げる対症療法である。インスリンの注射、インスリンの分泌促進、肝臓での糖化を抑える薬、腸管からの吸収を抑える薬などを使用する。中国伝統医療では血糖値上昇の原因を取り除く治療を行い、患者の心身をリセットする。
A:肺胃燥熱(肺と胃の熱による乾燥) 典型的な糖尿病で強い渇きを覚え、大量の水を飲み頻尿で尿は濁っている。次第に痩せて来る。原因は飲食の不摂生で出で生じた熱が肺を焼く。胃の熱を冷やす白虎加人参湯、石膏を処方し、便秘があるなら麻子仁丸を用いる。
B:気陰両虚(エネルギー不足と陰液の欠乏) 原因は脱水とエネルギー不足。動悸があり不眠症など精神症が見られる。気と水分を補い胃熱を冷やす玉女煎等を用いる。
C:肝腎陰虚(神経や内分泌器官の陰液の欠乏) AとBが長く続き全身が乾燥する。陰液を補う治療を行い、六味地黄丸、滋陰降火湯、当帰飲子を併用する。
D:陰陽両虚(陰液の欠乏とエネルギー不足による冷え) A,B.Cの状態を経るとこの状態になる。顔色は黒ずみ手足は冷える。治療は陰液を補い体を温めること、八味地黄丸を用い、炮附子、麦門冬湯を併用する。
E:脾胃気虚(胃腸の虚弱) 原因は消化器の機能低下。脱水状態になり、下痢が続き疲れやすい。治療は参苓白述散、八味地黄丸を用いる。
F:脾胃湿熱(消化器の水分が煮詰まった状態) 消化管に生じた湿と胃に生じた熱の結合が原因。多食多飲多汗、軟便の症状が出る。黄苓滑石湯を用いるが、脾胃気虚(消化器の機能低下)があるのでその治療も合わせて行う。
B 難病: 中国伝統医学では西洋医学とは違うシステムと薬物で治療が可能である。だから現代医学で「治療法がありません」と言われた難病も治療が可能な場合がある。これを欧米では「補完・代替え医療」と呼ぶ。次に筆者の経験をもとに治療が成功した例を提示する。
A:脊髄小脳変性症 小脳が徐々に変性萎縮するため、体のバランスが取れず歩行困難となり、最後は車いす生活になる病気である。優生に遺伝する病気である。異常な遺伝子は明らかになったが遺伝治療はまだ開発されていない。現在まで7例の脊髄小脳変性症(SCA6タイプ)に数か月20-30種類の生薬(肝と腎の陰液不足対策)を処方し、5症例で効果を確認した。SCA8タイプの症例では、腎、肺、肝の生体システムに異常が見られたので、竜骨や牡蠣をふくむ24種のブレンドでふらつきを改善した。実は遺伝性でない脊髄小脳変性症の方が多い。小脳への血流不足を改善するため桂枝、熟地黄、当帰など23種の生薬で2か月処方し歩行困難などの症状を改善した。
B:メニエール病 内耳性めまいを引き起こす疾患をメニエール病という。病気の本体は内耳の水膨れ状態(リンパ水腫)である。女性患者の方は消化器系の機能低下であったので、水分除去の生薬22種を処方し4週間後にはめまい・耳鳴りはなくなった。神経系の虚弱からメニエール病になった人には、神経系に対する生薬と神経系を正常化する治療を6か月続けて完治した。
C:潰瘍性大腸炎 下痢と血便が続く潰瘍性大腸炎患者には大腸の病態を見極めて原因を探り、精神的ストレスからくる神経の異常にも対処した処方で治癒した。潰瘍性大腸炎の病態は各人で全く異なるので、病態に応じた生薬を組み合わせないと効果はない。
D:シェーングレン症候群 涙が出なくて眼が乾燥する病気をシェーングレン症候群という。一般には膠原病の一種で主に中年女性に発症する。全身の乾燥状態がひどく、口の渇き、膝の痛み、火照り、瞼の痙攣、便秘など症状が多い。ある女性患者の場合、肺の乾燥と神経系の興奮とみて4か月の治療で完治した。つまりステロイド以外にも治療法がある。
E:シャルコイドーシス 肺、リンパ節、皮膚、眼、心臓、筋肉など全身諸臓器に肉芽腫ができる難病である。原因不明で現代医学では根治療法はなく、重篤な場合はステロイド治療が行われる。ステロイド治療には副作用があるので短期で治療をやめなければならない。中年の女性が全身倦怠感、微熱、霧見、眼圧上昇などシャルコイドーシスによるブドウ膜炎の症状で来院され、肉芽腫のマーカーである血清ACE値は非常に高かった。診断で病態は血液の炎症性充血、肺及び肝の熱と判明して、肺と血の熱を冷ます生薬25種類を投薬し、3か月後には症状は治まった。これが完治かどうかは今後の観察を待つ。
F:後縦靭帯骨化症 脊椎錐体の後縁を連結する後縦靭帯が骨化し、脊柱管が狭くなって神経が圧迫され、肩腕の痛みやしびれ、手足の運動障害を引き起こす病気である。脊柱管狭窄症の一原因である。整形外科では手術しかないというので漢方内科に来られた患者がいた。この人の病態は肺と肝の熱、血液の炎症性充血だと診断し、血流障害を改善する生薬を中心に、肺、肝を冷やす生薬を加えて25種類の生薬を処方した。3週間後には肩の痛みはなくなり症状は緩和した。後縦靭帯の骨化が短期間で治るわけではないので肩の痛みが軽快したのである。、
C 中国伝統医学が得意とする分野: 
A:関節リュウマチ 女性に多い関節リューマチは免疫の異常によって全身の関節に炎症が起き腫れや痛みが出る病気である。関節リュウマチの治療は中国伝統医学の得意分野にひとつであり、生薬治療で軽快する例が豊富にある。ある女性の場合は職業柄ストレスによる五臓の病態が確認された。2か月の生薬処方で軽快した。現在医学では各種炎症性サイトカイン受容体に対するモノクロナール抗体(抗TNF受容体抗体 商品名エンブレル)の注射が行われる。炎症反応マーカー値CRPは高かったので、中国伝統医学の診断を行い、風・寒・湿による関節の血流不足と浮腫が原因と判明した。生薬投与1か月後、関節痛は消失し2か月後には関節症状は完治した。中国では関節リューマチ処方は80%の奏効率である。
B:間質性肺炎 突発性間質性肺炎は、肺が固くなって呼吸が出来なくなる原因不明の難病で現代医学では治療法はない。50代の女性患者の病態は肺の熱と血液の炎症性充血と消化器機能低下が主体であった。灰の熱を冷まし血流改善の生薬を2,3種処方したところ、思うように肺組織破壊マーカー値は下がらないばかりか関節リューマチが現れ、そこで抗リューマチ作用のある20種の処方に変更したところ、関節痛は治り肺炎症反応も正常値となった。この方の間質性肺炎は関節リウマチによるものであった。突発性間質性肺炎ではなかったようだ。
C:緑内障 緑内障は失明原因の上位にあり高齢になると増加する傾向にある。緑内障の原因は眼球内圧が相対的に高くなって視神経が障害されることにある。この症状は日本人の緑内陣の半数を占め「正常眼圧緑内障」と呼ばれる。現代医学ではレーザー治療や手術で眼圧を下げる治療が行われるが対症療法である。完治することは無い。中国伝統医学ではストレス、水分の貯留、視神経病弱の3つの原因に対して治療が行われる。眼圧が上る緑内障ならば2−3か月の生薬処方で完治する。乳幼児の早発型発達緑内障は前房形成不良により水分の排せつが低下して眼圧が上昇する。手術を7か月の乳児に施すには問題があったので、漢方生薬で眼圧低下処方を行った。最初40もあった眼圧は2か月の投与で16まで低下した。
D:失明 完全失明から1年経過した50代後半の女性の病態は、視神経への血流不足と消化器系の機能低下によるエネルギー不足、交感神経の異常興奮であった。24種類の生薬したところ2か月後には物の輪郭が見える程度に回復した。この方は血液中の抗アクアポリン4抗体が原因となる視神経脊髄炎であった。
E:本態性振戦 原因不明の不随意運動で頭や手が震えて止まらない病気である。65歳以上では6人に一人はこの症状がある身近な疾患であるが、現代医療では治療法はない。パーキンソン病と誤診されることもある。79歳の女性患者は本態性振戦に効くといわれるアロチノロールを服用していた。体内の水分や痰を抜く生薬を中心に26種類をブレンドし3か月処方した。手と頭の震えは止まり、血圧も正常値となった。中国伝統医学ではよく治る病気である。
F:掌蹠膿疱症 掌蹠膿疱症は手のひらや足底に無菌の膿疱を繰り返す病気である。さらに関節炎を合併する場合もある。原因不明で現代医学ではステロイド軟こうなどが使われるが完治しない。中国伝統医学では3つの病態がある。消化器系の湿熱と肝の熱の病態、血液の炎症充血、肺、腎の陰液不足の病態がある。3か月の生薬処方で効果があり手足の皮疹は消失した。
G:突発性膝骨壊死 膝の激痛で整形外科に来られた70歳の女性のMRI像は脛骨骨壊死と診断された。現代医学では骨切除か人工膝関節置換術という手術となる。漢方治療を希望されたので、診断したところ内臓や骨格の水分不足と判明した。内臓に水分を与え血流を良くする生薬を24種類をブレンドし処方した。3か月後痛みがなくなり完治した。現代医学では大変な手術を必要とするが、中国伝統医学では治療は難しくない。
H:てんかん 現代医学では治療薬の進歩(商品名テグトール、デパケン)でてんかんの70%は薬を飲み続ければ発作は抑制されが、てんかんは治るわけではない。13歳の男児の診察でストレスによる交感神経の熱と消化器系の水分不足の病態であった。20種類の生薬を処方し、半年ごとにてんかん波の推移を観察した。3年後の脳波では消失し、22歳まで経過したが脳波の異常は見られない。てんかん発作も一度も再発していない。5年発作が無ければ完治とみなす。
I:肺気腫 肺気腫は肺胞細胞が徐々に壊れて呼吸機能が低下した状態をいう。体への酸素供給が不足して動くと貧血のような息切れがする。日常の生活でも酸素吸入が必要である。慢性呼吸不全をひき起こす閉塞性肺疾患である。原因は主に煙草である。70歳の男性を診断した。肺及び腎の陰液の欠乏状態にあった。肺、腎の水分補充と赤血球の働きを強める生薬を処方した。酸素飽和度が93%から4か月後96%に上昇したので、治療は継続中である。
J:尋常性乾癬 30代の女性の病態は血液の炎症性熱、消化器系の炎症の熱であった。18種類の生薬を調合し投与したが3か月続けても効果は出て来なかったので、そこで生薬の最高品質を使用すると1か月後日は紅斑が消失した。同じ処方でも高品質の生薬に変えると効果が出ることがある、また皮膚の美容効果もでる。
K:骨粗鬆症 骨粗鬆症による腰の痛みを訴える二人の初老の夫人が整形外科から漢方内科にきた。骨粗鬆症で鎮痛剤のみ処方されていた。年だからあきらめろということらしい。栄養と血液を増強する生薬を処方したが、3か月投与しても進展がなかった。そこで漢方薬の品質の問題に気付き、最高品質の生薬を投与すると、1か月後には痛みは消え、3か月後には骨密度を測定すると増加が見られた。また慢性心不全の患者に最高品質の人参を投与したら治ったという例もある。1本2万円の人参も、5000円から50万円の相場の幅がある。



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