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井田 茂 著 「系外惑星と太陽系」 
岩波新書(2017年2月)

天文学の進歩で相次いで発見される系外惑星と太陽系を比べると、多様な惑星の進化が見える

   銀河系(想像図)とケプラー宇宙望遠鏡の探索範囲    ケプラー宇宙望遠鏡(想像図)    ハッブル宇宙望遠鏡(想像図)
銀河系とケプラー宇宙望遠鏡の探索する範囲                  ケプラー宇宙望遠鏡                      ハッブル宇宙望遠鏡


天の川として夜空に見える銀河系は、恒星が数千億個も集まったものである。最近の観測データによると太陽に似た恒星系には、そのなかの10−20%の恒星の周りに地球と同じくらいの大きさで、かつ液体の水を持つ惑星があるのではないかと推定されている。その中には生物が生きている可能性が考えられるという意味で「ハビタブル惑星」と呼ぶこともある。惑星は恒星に伴って回転しているので、地球のような惑星は数百億個あることになる。太陽系以外の惑星を「系外惑星」と呼ぶ。地球と同じような棋道、質量を持つ惑星も数多く存在しているのではないかと期待する人もいる。「我々は何処から来たのか、我々な何者なのか、我々は何処へゆくのか」(ゴーギャンの言葉)は人類への問いであり、生物学はこの問いに答えようとしている。これを生物科学(私の科学)という。これに対して宇宙論や素粒子物理学は天空の科学(彼岸の科学)といって、近年目覚ましく進展した。重力波、ヒッグス粒子、11次元超ひも理論、ブラックホール、ダークエネルギーらは人体から遠く離れた次元の科学である。系外惑星研究は天空の科学であるが、地球や生物とも深くつながっている。そういう意味で太陽系と系外惑星の比較は、共通点と差異に注目して議論してゆかなければならない。本書は「第2の地球」、「地球たち」、「ハビタブル惑星」という言葉が何を意味するかを考えるものである。ハビタブルという言葉の定義もあるようなないような状態ではあるが、惑星の質量、軌道と恒星の温度から、惑星「地球たち」の温度が決まり、そしてエネルギーと水・炭素・窒素の元素が供給されるかどうかだとすれば、地球に瓜二つでなくてもいい惑星だけでなく衛星もその候補になってくる。これは非常に広い(緩い)生命発生条件となる。一方、地球・太陽系中心主義はこれまでの天文学において常に中心にあった。特にそれはキリスト教の西欧文明のテーゼであった天動説からまず地動説にコペルニクス的転回を成し遂げ。ケプラーは精密な観測データーを解析して、コペルニクスやガリレイによる単純な地動説を超え、ニュートン力学の誕生に結び付いた。地球は惑星であるので、生物は惑星のどこにいても不思議ではないという「多世界論」はキリスト教を激しく衝突した。「地球は神に選ばれた特別な場所」でなくてもいいのである。ところが19世紀の天文学の進展と分光観測によって大気の組成や温度が測定され、太陽系で生命が住めるのは地球しかないことが分かった。太陽系にハビタブル惑星の可能性がなくなったので、系外惑星の探索に向かった。太陽は銀河を構成する無数の恒星の一つで、銀河系も宇宙に無数にある銀河に一つだということが分かり、太陽も宇宙の中心ではなくなった。太陽系と同じような惑星群銀河系の他の星々にも惑星が存在するだろうと考えられた。1940年頃から系外惑星の探索が行われたが、地上の直視望遠鏡では観測技術上の未熟により何も発見されなかった。だが1995年にケプラー宇宙望遠鏡が突如系外惑星を捉えた。発見されたのは中心の恒星のすぐ近くを4日間で高速回転するガス惑星(ホット・ジュピター)だった。ついで水星のように偏心した楕円軌道を巡るガス惑星(エキセントリック・ジュピター)だった。太陽系の惑星の常識を打ち破ったのである。木星よりははるかに小さく地球程度の岩石惑星と考えられる「スーパーアース」も今世紀に入って発見された。測定精度の著しい向上が多様な惑星の存在を実証したのである。分厚い水(水深1000Km)をもつM型星の惑星らは、自然と地球・太陽中心主義を打ち砕いた。心理学的に「無限」への恐怖に近い感情や唯一であるという「孤独感」も、宇宙像の観測精度向上の上に立って新しい宇宙像を描く過程で処理しなければならない。唯一の宇宙(ユニバース)から「マルチバース」は実証不可能である。それは哲学であるかもしれない。いま日本そして世界では人の興味が地球外生命に向かっている。これは夢かも知れないが2016年には隣の恒星のプロキシマ・ケンタウリに、海を持つかもしれない地球サイズの惑星が発見された。2018年にはトランジット(食観測)法で全天探索を行うTESS宇宙望遠鏡の打ち上げが予定されており、ハッブル宇宙望遠鏡を遥かに凌ぐ口径6.5mのジェームス・ウエップ宇宙望遠鏡(JWST)の打ち上げも真近かである。2020年には地上の超大型望遠鏡(TMT,E-ELT)が登場し系外ハビタブル惑星観測に加わる予定である。超大規模電波望遠鏡群(SKA)にも期待が持たれる。まるで素粒子論における高エネルギー粒子衝突装置の拡大競争のような大規模天文学装置時代がやって来た。莫大な国家予算を費やすることは間違いない。

本書の著者井田茂氏の本を読むのは初めてですので、氏のプロフィールを紹介する。井田 茂氏は、日本の惑星科学者。専門は、惑星物理学である。1960年:東京都に生まれる。1984年京都大学理学部物理系卒業。1989年3月東京大学大学院理学研究科地球物理学専攻博士課程修了、理学博士号を取得。1990年東京大学教養学部宇宙地球科学教室の助手となる。1993年東京工業大学理学部地球・惑星科学科助教授となる。1995年:カリフォルニア大学サンタクルーズ校、コロラド大学ボルダー校に留学。2006年東京工業大学理学部地球惑星科学科教授に就任。2007年日本天文学会林忠四郎賞受賞(「惑星系形成過程の理論的研究」) 主な著書に「地球外生命」(共著 岩波新書)、「系外惑星」(ちくまプリマ―新書)、「系外惑星の事典」(共著 朝倉書店)、「一億個の地球」(共著 岩波科学ライブラリー 1999年)、井田茂 「異形の惑星 - 系外惑星形成理論から」( 日本放送出版協会〈NHKブックス〉2003年)、「系外惑星』」(東京大学出版会、2007年)、「スーパーアース」( PHP研究所、2011年)などである。天文学関係の本を読んだことも少ないが、次の3冊が関係すると思われるので、本書に関係する部分の概要を示しておこく。
@ 野本陽代、R・ウイリアムズ著 「ハッブル望遠鏡が見た宇宙」(岩波新書 1997年)
地上約600km上空の地球周回軌道をまわる「ハッブル望遠鏡」(長さ13.1メートル、重さ11トンの筒型)は、1986年のスペースシャトルチャレンジャー号の悲劇的な事故のために打ち上げ延期を余儀なくされたが、1990年予定より4年遅れて打ち上げられた。ところが直後に直径2.4mの反射鏡の周辺球面誤差のために球面収差という深刻な光学的欠陥が分かり、光軸周りの光だけを利用するソフト変更で15%の暗い望遠鏡で使用したが、1993年第1回サービスミッションで補正光学系を挿入して収差問題は解決した。それ以来バッフル望遠鏡は順調に機能し、数々の予想もしなかった発見がなされ、ブラックホールやビッグバンの情報が得られつつある。宇宙は超高温・超高密度な状態から、ビッグバンと呼ばれる爆発的な膨張によって誕生した。それから140億年の間に、銀河・星・惑星が形成され、その惑星の一つに生命が誕生した。この宇宙の進化を極めるのが天文学である。天文学者にとって主たる研究手段は望遠鏡であり、地球大気の影響を受けない明るい望遠鏡は夢であった。1970年代に始まるNASAのスペースシャトル計画によって地球周回軌道を回る望遠鏡の可能性が開け、アメリカ科学アカデミーの計画がやがてバッフル望遠鏡として実現した。第1回の修理が終わったばかりのバッフル顕微鏡は1994年1月より素晴らしい画像を送り始めた。オリオン星雲・渦巻銀河M100・大マゼラン星雲などこれまで見たことのない鮮明なカラー写真を送ってきた。それ以降天文学の学界や会議で発表される研究はハッブル望遠鏡なしでは語られないほどである。ハッブル望遠鏡によってはじめて観察できるようになった成果は、誕生して間もないころの姿をとどめる遠くの宇宙であった。バッフル望遠鏡は当初15年の運用期間の予定(1990−2005年)であったが、次のようなサービス修理を行いながら、今なお運用されている。ハッブル望遠鏡は宇宙の始まりについていろいろな情報を発見した。地球の位置を宇宙の階層であえて書くとしたら、「大宇宙、おとめ座超銀河団、局所銀河群、天の川銀河、オリオン腕、太陽系、地球」となる。重力でのみ結ばれた集団を、星→星団→銀河→銀河団→超銀河団となずける。その構造は決して一様ではない。銀河が10億個も入る何もない空間「ボイド」、5億光年も延々とつながる銀河の壁「グレートウォール」、銀河を引き付ける巨大な重力源「グレートアトラクター」などの大規模構造が続々発見されている。私たちが住む天の川銀河が属する局所銀河群は、銀河団としては半径が300万光年、構成メンバーが30余りしかない、小さな銀河群である。大小マゼラン雲、アンドロメダ銀河が仲間である。左の写真は220万光年離れたアンドロメダ銀河の中心にある一番明るい球状星団G1ですくなくとも30万個の星が含まれている。アンドロメダ銀河には2つの核があり、暗いほうが銀河の中心で明るい核は周辺にある。これは銀河がほかの銀河を飲み込んだ結果ではないかと推測される。次にちょうこくしつ座の「車輪銀河」は、5億光年のかなたにある。約2億年前大きな銀河の中心を小さな銀河が突き抜け、その衝撃波が周りの物質と衝突してリングが作られた。その証拠は近くに2つの銀河が存在するからである宇宙誕生のころ銀河同士のニアミスや衝突はたえず起きていたようだ。星が爆発的生まれている領域(スターバースト銀河)が、さんかく座の渦巻銀河M33やちょうこくしつ座の銀河NGC253、渦巻銀河M51などにみられ、星の密度は極めて高く、明るさは太陽の1億倍、質量は太陽の4億倍もある。活発な活動をしている銀河M87は約5200万光年の距離にあって、500光年の長さを持つガスの円盤が見つかった。中心に太陽30億個分の質量を持つブラックホールが存在する。1996年6月ハッブル望遠鏡は約90億光年のかなたのクエーサー(準恒星状電波源 活動銀河核の一種)を発見した。上の天体は約70億光年の先にある楕円銀河である。クエーサーにエネルギーを提供しているのはブラックホールである。ブラックホールに星が落ち込むとき強烈な放射があるからである。宇宙の距離に指標となるセファイド型変光星を用いた観測で、2つに銀河の距離を求め、宇宙の膨張速度は距離の2乗に比例する原理で宇宙の年齢をを求めて推算すると、宇宙の年齢は140億年と考えられている。
A ホーキング著 林一訳 「ホーキング宇宙を語る」(ハヤカワ文庫 1995年)
ホーキングは宇宙像について次のように述べている。宇宙はどこから来たのか、どこへ行こうとしているのか、宇宙には始まりがあるのか、あるとすればどのようなことが起ったのか、時間とは何か、時間には始まりと終わりがあるのか、宇宙には涯がないのか、・・・私たちは宇宙について何を知っているのだろうかという「何故」から本書は始まる。紀元前340年のギリシャの哲学者アリストテレスは「天体論」を著し、地球は丸い球だと見抜いていたが、地球は宇宙の中心であり、円運動は天空に最もふさわしい「完全な運動」だと信じていた。紀元2世紀プトレマイオスはアリストテレスの考えを完全な宇宙モデルに仕立て上げた。地球を宇宙の中心として、月、水星、金星、太陽、火星、木星、土星、恒星の順に円軌道を描いているとしたモデルである。彼のモデルは今から見ると矛盾だらけであったが、広く受け入れられ教会もこのモデルを聖書に一致する宇宙像として採用した。しかし1514年コペルニクスはもっと単純なモデルを異端裁判を恐れて匿名で発表した。太陽がが中心に静止し地球と惑星がその周りを円運動するというものであったが、1世紀のあいだ誰からも注目されず放置された。その後1609年イタリアのガリレオ・ガリレイは望遠鏡で観測し、コペルニクス説では軌道が観測とぴったり一致しないが、コペルニクス説を支持した。同じころドイツのヨハネス・ケプラーはコペルニクス説を修正し、惑星は円軌道ではなく楕円軌道を動いていると主張した。しかし惑星の運動を生じる力については磁力説を考えた。1687年イギリスのアイザック・ニュートンは「プリンピキア」を著して、太陽との距離の二乗に反比例する万有引力を仮定して楕円軌道をえがくことを証明した。月に地球を巡る楕円軌道を描き、惑星に太陽を巡る楕円軌道を描かせる力が万有引力(重力)だとする説を唱えた。ニュートンの重力理論が常に引力として働くような条件では、無限大の静的宇宙モデルはあり得ないことが示唆された。20世紀になるまで宇宙が膨張するとか収縮するとか考える人は誰もいなかった。遠方の星が太陽の表面と同じように輝いているのは、有限の時間に光りはじめたと仮定する以外にはない。すると星の灯りを最初に灯したのは何かという問題となる。宇宙の起源については太古の昔より宗教によって論じられてきた。宇宙の第一原因として「神」が設定されたのである。聖アウグスチヌスは「神の国」で宇宙創造の時期を紀元前5000年に設定した。アリストテレスは神の関与が大きすぎるとして天地創造説を取らなかった。カントは1781年「純粋理性批判」において宇宙の時間的な始まりや宇宙空間に限界があるかどうかを検討した。どちらにしても矛盾(二律背反)があるとして、結論は出さなかった。宇宙は静的であり変化がないと信じていたころは、宇宙に始まりがあったかどうかは形而上学あるいは神学の問題であった。しかし1929年エドウィン・ハッブルが遠方の銀河が我々から急速に遠ざかっているという画期的な観測を行った。宇宙が膨張しつつあるのだ。初期には天体の物質密度は高かった。ハッブルの観測は、宇宙が無限に小さく、無限に濃密だったビックバンと呼ばれる時点があったことを示唆した。それは現在に何も影響を与えないのだから、それ以前の観測可能な結果は存在しない。それ以前の時間は定義不能であるという意味で、ビッグバンが時間の始まりであった。宇宙について語る科学理論とは、@恣意的な要素を小数しか含まないモデルで多くの観測結果を正確に説明できること、A観測の結果について確定的な予測を行うものと理解される。どのような物理理論も仮設であり、暫定的なものであることを免れないが、観測によって原理上反証すなわち否認できるような予測をこなうことができることが、良い理論の条件である。科学理論の最終目標は、全宇宙を記述できる単一の理論を提供することであるとされる。これまで宇宙の起源を検証することは形而上学の問題であった。宇宙を一掴みすることは非常に困難である。したがって部分理論を構築して攻めることになる。ニュートンの重力理論、一般相対性理論、量子力学が部分理論として存在する。一般相対性理論と量子力学を統合して重力の量子論を作ることが精力的に進められてきた。これが今日の物理学の主要な課題である。
B 巽好幸著 「なぜ地球にだけ、陸と海があるのか」(岩波科学ライブラリー 2012年)
  本書は地球科学であり、地球の誕生に関する天文学の部分のみを概括すると惑星地球は次のようになる。一般的に星は宇宙空間に漂うガスとダストを原料として誕生した。衝撃波の揺らぎで分子雲の凝縮が進むと、中心に太陽を持つ「原子太陽系円盤}が作られた。太陽から三天文単位(地球・太陽間距離1.5億Km×3)に位置する「雪線」(H2Oの昇華温度170°K)の内側では岩石や金属、外側では氷が主成分である。雪線ないでは岩石の微惑星(大きさ数Km)が形成され、重力による衝突・合体を繰り返す。大きいものほど重力によってさらに大きくなる「暴走的成長」が進み、月程度の大きさの岩石型「原始惑星」と成長する。太陽からの距離が遠くなるほど広い範囲から微惑星を集めることができるので、大きな惑星が形成されやすい。地球型惑星の領域では、原子惑星がさらに衝突・合体して惑星が作られた。木星よりさらに外側の惑星は衝突頻度が低いためガスが散逸し密度の低い惑星になった。太陽からの距離によって、しっかりしまった地球型惑星、巨大な木星型惑星、天王星型惑星に分けられる。地球型惑星の外側には、木星の巨大な質量によって星になり損ねた小惑星帯がある。この帯から隕石が地球に落ちることがある。そのなかには「始原的」な「炭素質コンドライト」の岩石も僅かながらある。いまから45億7000万年前に太陽系惑星の形成が始まったとされている。それはビックバンより93億年後の事である。集積と合体のエネルギーは熱に転換された。その岩石の揮発成分がガス化して宇宙へ散逸したものもあるが、十分大きな質量を持つ地球では重力によって原子大気の誕生となった。原始地球は高温で全体が溶融して「マグマオーシャン」が分布していた。密度の高い金属は中心に沈んでゆき地球に金属核が作られた。45億2000年前、巨大惑星「ティア」が地球に衝突し月が誕生した。隕石の集中的落下・集積は、38億年前から40億年前で止まった。微惑星の集積がほぼ終了し地球表面が冷却に向かったのは38億年前となる。45億年前から38億年前の時代を「冥王代」と呼ぶ。冷却に伴い地殻が構成され、プレートテクトニクスが作動しはじめた。グリーンランドのイスアにその滑り込み地層に付着した「付加体」が発見され、地球最古の生命の誕生を物語る。ここから「始生代」とよぶ。よく知られているように地球最初の生命は、今から35億年ー38億年前に原始の海洋で熱水が噴き出す場所で誕生したようです。水がないと生命の誕生はなかった。確かに水の存在は地球の惑星としての進化にも決定的な影響を与えた。同じ地球型惑星である金星や火星の大気に比べて圧倒的に二酸化炭素に乏しかった地球大気は、生物の光合成による取り込みや、海水への溶け込みによる炭酸塩としての岩石への固定のためである。地球の変動を支配するプレートテクトニクスは、地球を覆う蓋(地殻)が水を含むために、流動性や脆弱性によって動くことができたのである。水が存在しない金星では剛体の蓋がしっかり地殻を固め、その下でマントルが対流するだけで、蓋(プレート)が移動することはなかった。そこで注目したいことは地球表面の三割は陸でおおわれている。つまり陸と海は相補的に働いているのです。海底の下に陸の起源があることに注目して本書が生まれたのです。なぜ地球だけに陸地と海があるのかという問いに本書は大陸地殻の形成モデルを利用して展開しています。しかしながらなぜ地球だけに海があるのかという問いには答えていません。海ありきからスタートし、それが大陸地殻形成に与えた影響とその動因を議論しているようです。

1) 銀河系と系外惑星

宇宙には、織物模様のように「銀河」が存在する。銀河は一様に宇宙に分布しているのではなく、塊(銀河団、超銀河団)が会ったり、それらが繋がったようなパターンが見えてくる。銀河には多くの恒星と主として希薄な水素とヘリウムガスと正体不明の暗黒物質(ダークマター)が集って出来ている。階層的には、「大宇宙、おとめ座超銀河団、局所銀河群、天の川銀河、オリオン腕、太陽系、地球」となる。我々の銀河系(天の川銀河)も銀河の一つである。銀河系には数千億の恒星があり、その内の一つである太陽には、地球を含めて惑星がいくつも周回している。惑星は太陽に比べると小さな天体であり、最も大きな木星でも質量は太陽の約1/1000である。1940年代には天文学者は太陽以外の恒星の周りの惑星(系外惑星)探し始めた。最初の内は惑星の公転によって恒星の位置が周期的に変化するのを精密に測定することで惑星を探した。地球上での測定では大気の揺らぎがある中で恒星の位置を正確に求めること難しく、かつ公転周期が長い(数年ー何十年)ので観測期間が長いという欠陥を持っていた。そこで中心星の動きを色の変化で調べる「視線速度法」が採用された。しかし1990年までは何も発見できなかった。1995年のホット・ジュピターの発見後は次々と新惑星が発見され、2003年に系外惑星の発見数は100個を超え、2010年には500個、2016年には3500個となった。2009年にケプラー宇宙望遠鏡が打ち上げられて、惑星の発見数が加速された。観測によって系外惑星が多様な姿をしており、かつ系外惑星は偏在していることが分かった。太陽型恒星(重さ、表面温度、エネルギー)の実に半分くらいに惑星が回っている。太陽と地球間の距離(1天文単位)ほどで、地球くらいの大きさの小さな惑星は観測することは容易ではない。地球に似た惑星の存在確立は約10−20%になる。以上は銀河系で太陽の近くの恒星だけを探索したに過ぎない。太陽系ができたモデルに「遭遇説」という考えがあった。それは極めて事象確率の低い現象である。太陽、地球の存在をアプリオリに認める考えを「人間原理」、「太陽系中心主義」、「地球中心主義」と呼ぶ。太陽系は特別な存在という考えには西欧キリスト文化が影響してようである。それに対して標準的な惑星形成モデルの最も基本的な考えは、惑星系はガス円盤からできたとする「円盤仮説」である。ガス円盤が実際に観測されてからは仮説ではなくなった。銀河系には水素とヘリウムを主成分とする星間ガス雲が漂っている。その濃い部分で重力によりさらに密度が高まりやがてガス星の中心に原始星が形成される。その中心温度が1億年ぐらいには水素の核融合を起こして光り出し安定な恒星となる。収縮前の星間ガスはわずかながら回転しており、収縮が進行するにつれ回転が早まり遠心力で原始星から離れ、その周りを円盤状に周回するようになる。これが惑星系のもとになるガス円盤である。ほぼすべての原始星の周りにガス円盤が存在することが望遠鏡で観察される。太陽系では惑星の軌道面は揃っているので平たい円盤惑星系ができたと考えられる。銀河のガスの中には、酸素、炭素、ネオン、窒素、マグネシウム、ケイ素、鉄などの微量元素(重元素)が微量ながら含まれる。他の恒星が燃える時に中心部でつくられ、その星の最期のステージで超新星爆発をおこして銀河にばらまかれる。微小なチリに凝縮しガスの中を漂っている。これらが惑星のもとになる。地球や火星は岩石や鉄でできているが、天王星や海王星には氷も多い。木星や土星はガスの塊だが中心には岩石、鉄の芯があるようだ。これらの塵が衝突合体を繰り返し惑星を作ってゆく。こうして恒星の周りには必然的に惑星系が形成されるのである。

系外惑星の知見には観測方法の制約というバイアスがかかっている。系外惑星が今見えてこないのは無いのではなく、観測技術の上で見えないだけであるかもしれないことも心しなければならない。系外惑星を発見する観測法には、大別すると望遠鏡で直接見る「直接撮像法」、中心星の光の変動から間接的に惑星を発見する「間接法」がある。中心星の強烈な光の側にある惑星の光を捉えるのは容易ではない。なぜなら中心星と惑星の光度比は1億倍以上もあるので惑星の光は誤差に埋もれる可能性が高い。しかし中心星から数十天天文単位離れた軌道を回る巨大惑星は直接撮像が成功している。「間接法」には何種類もの観測方法がある。ドップラー効果を使って中心部のふらつきを波長の変化で見る「視線速度法」、惑星が中心星の一部を隠す「食」で見つける「トランジット法」、アインシュタインの一般相対性理論を使って重力レンズ効果を見る「重力マイクロレンズ法」、「位置観測法」などである。1995年までは視線速度法」が最も重要な方法だったが、2009年NASAが打ち上げたケプラー宇宙望遠鏡の活躍により「トランジット法」が新系外惑星を次々と発見している。「位置観測法」は昔からの伝統的な方法だが新系外惑星を一つも発見していない。「重力マイクロレンズ法」は「視線速度法」や「トランジット法」では発見しにくい中心星から数天文単位しか離れていない惑星が発見されやすい。「直接撮像法」では数十天文単位以上遠い軌道の惑星を発見できるという、方法毎に一長一短がある、相補的な関係である。「視線速度法」、「トランジット法」、「重力マイクロレンズ法」の三つの方法についてさらに述べよう。
「視線速度法」: 太陽系外の惑星を発見する観測手法の1つで、ドップラー法ともよばれている。惑星をもつ恒星は,公転する惑星の重力によって周期的にふらつく。観測者の視線方向に恒星が近づいているときには、恒星から発せられた光の波長は短くなり、遠ざかるときには長くなる。そのような周期的な波長の変化を観測することによって惑星の存在が検出される。これまでに発見された系外惑星の多くは,この手法によるものである。天体を観測したときの視線に垂直な速度成分を接線速度 といい、視線速度と接線速度のベクトルを合成したものがその天体の空間速度 である。多くの連星では普通、我々地球から観測した時の軌道面が視線に対して傾いているため、軌道運動によって両方の星の視線速度が数km/s程度変動する。このような星ではスペクトルがドップラー効果によって周期的に変化するため、光学機器を用いた実視観測で2つの星を分解できない場合でも、実際には連星であることが分かる。中心星に対する惑星の公転周期はニュートン力学より距離の3/2乗に比例する。中心星(恒星)のふらつきの半径は2つの星の重心の距離であり、2つの星の距離を質量で分けたものであるので、惑星が重いほどふれ半径は大きくなる。ふれの速度はふれの円周を公転周期で割ったもので、公転周期の短い中心星やふれ半径の大きい重い(連星の重心が惑星側に近くなる)ほど大きくなる。そういう惑星ほど発見しやすい。ドップラー効果の変動周期が分かると惑星に軌道半径がわかる、ドップラー効果の強さがわかれば、惑星の質量が分かる。ホット・ジュピターでは視線速度は50−100m/sなので容易に検出できる(現在の検出限界は1m/s)。太陽から4.25光年しか離れていないプロキシマ・ケンタウリス星の惑星が視線速度法で発見された。公転周期の長い惑星(軌道半径が大きい惑星)は、観測を公転周期間は続けなければならないので十数年かかる惑星は確認できない。
「トランジット法」: 中心星の前を惑星が通過すると「食」になり中心星の明るさが減る。例えば太陽の前を木星がさえぎると減光率は1%となり、容易に判定できる。周期的に減光が起きればその周期が惑星の公転周期であり、惑星の軌道半径が求まり、減光の大きさから惑星の断面積が分かる。ケプラー宇宙望遠鏡は空気の揺らぎがない宇宙空間での観測なので、減光率0.01% までの減光を測定可能で、太陽に対する地球や火星の大きさの惑星を観察できる。「視線速度法」においても議論したように、食を観測できるには惑星軌道面と視線方向が同じであることが必要で、軌道面が視線方向に垂直なら、決して食は観察できない。しかし惑星が中心星のすぐ近くを廻っているなら、軌道面角度が少しずれていても食は観察できる。0,05天文単位にいるホット・ジュピターの場合は食が観察できる確率は10%程度になる。公転周期ごとに食が起きるので、ホット・ジュピターの場合数日に1回はそのチャンスがある。木星は12年に1回である。 従って「トランジット法」は惑星が中心星から離れるほど非常に不利になる。「視線速度法」は観察可能な軌道半径、質量の範囲に入っているなら、基本的にいつでも可能である。
「重力マイクロレンズ法」:

重力レンズ
重力レンズ

重力レンズとは、光が曲がることは一般相対性理論から導かれる現象で、一般相対性理論の正当性を証明した現象のひとつである。光は重力にひきつけられて曲がるわけではなく、重い物体によってゆがめられた時空を進むために曲がる。対象物と観測者の間に大きい重力源があると、この現象により光が曲がり、観測者に複数の経路を通った光が到達することがある。これにより、同一の対象物が複数の像(虚像)となって見える。光が曲がる状態が光学レンズによる光の屈折と似ているため重力レンズと言われる。マイクロレンズ とは、非常に小さいレンズ源のためレンズ効果は弱いが、光の曲がりではなく、光の明るさの時間変化によってレンズ現象だと推定される現象。背後の恒星の光が増光される。銀河内のダークハローを形成する小天体が、地球から遠方の天体との視線方向を横切るときなどに発生する例が知られている。惑星の軌道半径が数天文単位のとき一番大きな増光となる。この方法は、軌道半径が小さな惑星の検出が得意な「視線速度法」や「トランジット法」、数十天文単位以上の惑星を検出しやすい「直接撮像法」と違って、火星ぐらいの軌道半径の惑星を検出ことができる。

太陽系では一番軽い水星、二番目の火星の軌道は比較的偏心しているが(楕円離心率0.21、0.093)、それ以外の惑星の軌道はほぼ円である。発見された系外惑星を軌道半径、質量、軌道偏心幅で示すと、太陽系に比べ異なる多様な姿をしている。視線速度法で発見された惑星の質量と軌道長半径をプロットして分布を見ると、惑星質量が重く(木星を1として)、軌道長半径は短い(地球の天文単位を1として)ゾーンに固まっている。逆に言うと太陽系の惑星は全体として中心星太陽から離れた軌道にある。視線速度法で発見できる惑星を持つ恒星は全体の半分程度と言われている。太陽系惑星は系外惑星に比べて異様である。古典的標準モデルでは軌道半径が小さい領域には岩石を主成分とする惑星と、その外側にはガスを主成分とする巨大ガス星雲に分かれる。その質量比は1000倍になるものもある。視線速度法で質量が分かり、トランジット法で大きさが分かるので両方のデーターがあれば密度は推定できる。密度からガス惑星なのか、岩石や氷惑星なのか区別がつく。発見された系外惑星で特異な惑星をピックアップしておこう。
@ ホット・ジュピター
系外惑星は太陽系惑星に比べて軌道半径が小さい傾向にある。視線速度法が軌道半径の小さい惑星を発見しやすいという事情があるが、想像を絶するほど中心星に近い巨大惑星があることが分かる。中心星に近いことはすなわち灼熱の惑星であるということだ。この系外の巨大ガス惑星を「ホット・ジュピター」(木星クラスの惑星)と呼ぶ。0.1天文単位以下を特にホットという。1995年に発見された「ペガサス座51番星b」はホット・ジュピターであった。軌道半径が0.05天文単位で公転周期は4日であった。軌道周期以上観測年月を必要とするので、かっては1天文単位が限度であったが、今では5天文単位までは観測可能となった。するとホット・ジュピターの方が少数派で、ちょっと離れた巨大ガス惑星が主流派となった。 
A エキセントリック・ジュピター
巨大惑星の軌道は軌道が歪んだものが多い。太陽系の惑星は皆円に近い軌道を描くが、系外惑星や彗星は偏心して歪んだ楕円軌道を持つものが多い。太陽系惑星では水星が離心率0.21と一番歪んでいる。系外惑星の質量と離心率をプロットした分布図を見ると、質量が大きくなると離心率も大きくなる傾向がある。ハレー彗星は離心率が0.97となるくらい歪んでいる。灼熱から極寒を繰り返しているのである。こうした巨大ガス惑星を「エキセントリック・ジュピター」と呼ぶ。
B さらに異常なホット・ジュピター
視線速度法とトランジット法で密度を計算すると、ホット・ジュピターの中には、水素ガス、ヘリウムガスより密度の低いことがある。逆に惑星構成物質の大半が岩石であるかのような非常に密度の高い巨大(ガス)惑星もある。 ホット・ジュピターの中には中心星の自転とは逆向きに公転しているものがある・太陽系の惑星はすべて太陽の自転と同じ方向に公転している。系外惑星では中心星の自転とは逆向きに公転したり、垂直方向に公転するものもある。これらを「逆行ホット・ジュピター」と呼ぶ。視線速度法(ドップラー効果)とトランジット法(食波長変化)の巧妙な組み合わせで観測する。
C ホット・スーパーアースとホット・ネプチューン
ホット・ジュピターが存在するような中心星に近い距離に地球の10倍以上の質量を持つ系外惑星がある。密度推定によると岩石か氷と思われる。少なくともガス惑星ではない。このような高温領域にある密度の高い惑星を「ホット・ネプチューン(海王星)」あるいは「ホット・スーパーアース」と呼ぶ。
D アースとプロキシ・ケンタウリb
地球サイズの惑星を「アース」と呼ぶ。視線速度法で観測された「プロキシ・ケンタウリb」(中心星質量は太陽の1/8、惑星軌道半径は0.05天文単位)のように、中心星が極めて軽く、軌道長半径が非常に小さいもの以外は容易ではない。一方ケプラー望遠鏡によるトランジット法では、地球規模の惑星が次々に発見された。ケプラー望遠鏡が発見した系外惑星の惑星半径と軌道長半径(天文単位)をプロットした分布図では、地球軌道半径(1天文単位)以下、そして惑星半径が地球以上(海王星、天王星以下)のゾーンに多くが存在する。軌道長半径が0.1天文単位あたりに多くの惑星があるように見えるのは、視線速度法の食を観測しやすい利点で検出確率が高いだけの事で他の範囲に惑星がないことではない。それでも地球規模の2−3倍のスーパーアースサイズの惑星が密集している。ホット・ジュピターよりもホット・スーパーアースが圧倒的に多いということである。
E 海を持つ惑星ヘビタブル・ゾーン
惑星表面に液体の海が存在するような環境温度をもつ軌道の範囲を「ヘビタブル・ゾーン」と呼ぶ。もし太陽と同じ明るさの恒星を持つ銀河系では、ハビタブル・ゾーンは0.9-1.5天文単位と考えられる。視線速度法でのハビタブル・ゾーンの地球サイズの惑星発見は難しい。ケプラー望遠鏡では小さい軌道半径からハビタブル・ゾーンまで観測範囲がつながっている。「太陽と似た恒星には地球のような大きさで海を持つ可能性のある惑星が発見できる確率は10-20%である」と概念的には言える。暗く赤いM型星では、ハビタブル・ゾーンはもっと中心星に近い。プロキシ・ケンタウリbもそのひとつである。

2) 太陽系の形成

16世紀にコペルニクスやガリレイが地動説を提唱し、17世紀にケプラーが惑星の楕円軌道を基礎づけ、ニュートンが力学を完成して、太陽系というものが認識された。しかしその起源は依然不明であった。18世紀にはカントやラプラースが太陽の周りの円盤上のガス雲から惑星ができたとする「星雲説」を提唱した。これは円盤仮説の一種であった。20世紀に入ると太陽の近くを通過した他の恒星が太陽から惑星が引っ張り出されたとする「遭遇説」も出た。1960年代には天体物理学による恒星の形成と進化の理論が進展し、1980年代にはそれを基礎にして、太陽系形成の「古典的標準モデル」が確立した。古典的標準モデルは、太陽系の姿は合理的で必然的だという見解が支配的であった。1995年に系外惑星が発見されるまで、人類は太陽系しか知らなかったので当然の認識だし、なるようになるという「人間原理」も成り立つのである。猛烈な勢いで系外惑星が発見されたことで、惑星系形成も太陽系形成も比較の対象となり、「太陽系中心主義」から解放された目で見るようになった。まず太陽系形成の「古典的標準モデル」の進歩を見てゆこう。古典的標準モデルは「円盤仮説」、「微惑星仮説」の二本柱を基礎にした、次のような多段階プロセスとなる。なお惑星の軌道は水星を除いてほぼ円軌道にある。
(0) 銀河系に浮かぶ巨大ガス雲の密度の高いところが収縮して太陽質量程度の原始星が形成される。
@ 原子星の周りに小さい質量の原始惑星系円盤が形成される。円盤はほとんどが水素、ヘリウムガスからなる。
A 円盤内で微粒子ダストが凝縮し、ケイ酸塩(岩石成分)と鉄(金属コアー成分)が固体ダスト(数μm径)となる。数天文単位では氷も存在する。
B ダストは中心星重力によって素も円盤赤道面に沈殿する。十分な厚さのダスト層が形成されると、ダスト層は割れて無数の塊「微粒子」(数Km径)が形成される。
C 微粒子は中心星を周回し、まれに衝突しながら合体成長してゆく。
D 数天文単位以内では、岩石と鉄成分からできた小型地球型岩石惑星(水星、金星、地球、火星)が形成される。
E 数天文単位より遠い半径では氷も加わり大きな固体惑星ができる。地球質量の5−6倍以上になると強い惑星重力の為円盤ガスが流入し、巨大ガス惑星(木星、土星)が形成される。
F 数百万年も経つと、原始惑星系円盤ガスは消失する。
G 20、30天文単位にある天王星や海王星が完成した時には円盤は消失しており、大量のガスを伴わない氷惑星として残る。

アルマ電波望遠鏡パラボラアンテナ群  原始惑星円盤
アルマ電波望遠鏡パラボラアンテナ群(チリ)               アルマ電波望遠鏡が観測した原始惑星円盤

この「古典的標準モデル」は1960年代ソ連のサフロノフによって先鞭がつけられ、1970年代京都大学の林忠四郎らのチームによって理論化されたものである。著者井田茂氏は1990年代東京大学の大学院生・助手時代に、微惑星集積過程のスパコン・シュミレーションの研究を行い、太陽系の「古典的標準モデル」は普遍的であることを確認したという。1995年に「ペガサス座51番星b」のホット・ジュピターが発見されて以来、原始惑星系円盤ガスの寿命は数百万年だとする論文が出された。「古典的標準モデル」では円盤ガス寿命は1000万年以上だとされていたので、これでは木星・土星の巨大ガス惑星は形成できない。すると木星を持つ太陽系は稀な存在となる。「ペガサス座51番星b」の発見者は、スイス・ジュネーブ天文台のチームであったが、後の系外惑星発見のリーダーシップはUCサンタクルーズ校のリック天文台がけん引した。こうして「古典的標準モデル」の再検討と変革が始まった。@の原始惑星系円盤である。原始円盤の観測は1990年代に始まりアルマ電波望遠鏡の果たす役割が大きい。太陽系の惑星の軌道面がほとんど揃っていることは母体となる円盤から惑星が派生した有力な証拠になるのだが、系外惑星系では中心星の赤道面と垂直の軌道面を持つ惑星があったり、中心星の自転と逆方向に公転する惑星がある。しかし円盤が普遍的に存在することに揺るぎはなくもはや円盤仮説は仮説ではなく確実な基礎となった。標準モデルの「微惑星仮説」は、A、B、C、Dの過程を経てダスト→微惑星→小天体(ビルディングブロック)→固体惑星になるというものである。星間ガス雲の濃い部分が自身の重力で収縮して形成されるとき、かならず原始惑星系円盤が形成されることを、1990年代パラボラアンテナ電波望遠鏡で観測された。なぜ電波望遠鏡を使うかというと、原始惑星系円盤の温度が恒星に比べて非常に低いため、可視光では見えないので波長の長い電波(0.1-1mm)を観測するてめである。ちなみに携帯電話の電波は10cm、テレビ電波は1-10mである。物体発する電磁波は温度によって異なる。原始惑星系円盤では中心星に近い部分の温度は1000−2000K(ケルビン)、中心から離れると温度は10−100Kである。そこから発せられる電磁波の波長は0.3-0.03mmである。電波望遠鏡の反射面は少々粗くても構わないのでパラボラアンテナで十分なのである。アルマ電波望遠鏡では10Kmの範囲に50台以上のパラボラアンテナを地上に設置し、強大な口径をもつ一つの望遠鏡としてデーターを合成するのである。電波の総量から原始惑星系円盤の質量を推定すると、円盤の質量は中心星の質量の1000分の1〜10の範囲であり、その中心値は中心星質量の100分の1となる。こは古典的標準モデルの太陽系円盤の質量に一致する。円盤の半径は数十〜数百天文単位であった。観測によると円盤は数百万年で消失する。円盤の存在確率は1000万年では10%に過ぎない。円盤ガスは乱流状態で摩擦によってエネルギーを失い主に中心星に落ちて消えてゆくと考えられる。円盤ガスは中心星形成のかりそめの状態で、最後に取り残されたのが惑星である。重元素は高温の恒星の中ではガスであるが、低温の円盤では一部は微粒子ダストとして凝縮する。1400Kで鉄やケイ酸化合物の岩石成分は凝縮する。150Kでは氷が凝縮し、100K以下ではアンモニアや炭酸ガス、硫化水素も凝縮する。円盤の温度は中心星からの加熱と放熱のバランスで決まり、中心星からの距離によって低下してゆく。これを「平衡温度」と呼ぶ。入射量は物体の断面積、放熱は表面積に比例するので、平衡温度は物体の大きさに関係なく中心星からの距離だけで決まる。円盤からの電波のほとんどはダストが発生源である。従って電波の強さは円盤内の総ダスト質量であって、太陽の重元素組成を基にしたダストとガスの比(約100倍)をかけて円盤のガスとダスト総質量を見積もる。ダストの密度と円盤温度が中心星の距離に応じてどう分布していたかという惑星の初期条件であるが、これは仮定して進まざるを得ない。現在の太陽系惑星を作るのに必要な円盤は「太陽系最小質量モデル」と言われる、太陽系では惑星が分布する数十天文単位に入る円盤総質量は、太陽質量の約100分の1である。電波望遠鏡によって観察された系外惑星の円盤総質量の範囲は、1000分の1〜100という広い範囲であった。

「古典的標準モデル」の問題はダストから微惑星への成長過程の理論の弱さにある。微惑星を作る「1メートルの壁」の問題がクローズアップされた。マイクロメートルクラスのダストは空気抵抗によってガスと一緒に浮遊しており、そのままだと円盤ガスと一緒になって数百万年かけてじわじわと中心星に落ち込んでゆく。しかしダストは静電気で互いに付着するので、もし数キロメートルの大きさになればガス抵抗は無くなり、円盤ガスとは独立の運動として中心星の周りを周回する。このおおきさを「微惑星」と呼ぶ。円盤ガスは乱流状態にあり、マイクロメートルからキロメートルになる間で一途に成長するわけではない。10cm〜1mサイズになるとガス抵抗を受けて公転のエネルギーを失い中心星に螺旋を描いて落ちてしまう。メートルサイズの粒子は1天文単位をわずか100年で落下する計算になる。この難点を救って惑星を急速に成長させるモデル「小石集積モデル」が登場した。電波顕微鏡が捕らえた円盤ガスの写真には、リング状の縞模様が見える。ダウトが落ちてゆく過程でこのリング上で微惑星に成長するという仮説が提唱されている。微惑星は円盤ガスの抵抗は受けないで、中心星の周りを公転する。最初は円軌道であった微惑星どうしの重力で軌道が楕円軌道になり、出会い頭に衝突することもある。衝突分解というより重力合体するのである。微惑星が成長する過程にものすごく時間がかかるのである。特定の微惑星が、他の多数の小さなものをかき集めて暴走的に巨大化するプロセスがある。微惑星が大きくなるにつれて、衝突確率がどんどん増えて暴走的な成長をする抜きんでた惑星を「原始惑星」と呼び、ひとつの周回軌道を一つの惑星が独占して成長することを「寡占成長」という。独占資本の形成過程に似ている。もう衝突する相手がいなくなった時の限界質量を「孤立質量」と呼ぶ。太陽系復元円盤では孤立質量は1天文単位では地球質量の1/5から1/10くらいにしかならない。水を集めることができる3天文単位以上で質量はさらに増え、5天文単位の木星では円盤ガスを集めて地球質量の5倍程度となる。では1天文単位の地球や金星で孤立質量が少ない難点を救ったのが「巨大衝突モデル」であった。原始惑星は円軌道を持つと予想される。原始惑星は微惑星を重力で散乱することにより平均的に円軌道を持つ微惑星の軌道になってゆく。すなわち相手が自分よりかなり小さい時、重力が抵抗力にように働くのである。そして微惑星がかき集められ、円盤ガスもなくなってゆくと、原始惑星の軌道を円にたもつ力が働かなくなり、原始惑星の軌道が楕円になり、原始惑星どうしの軌道が交差するようになる。この楕円軌道化によって、原始惑星同士が衝突する巨大衝突の時代となる。0.5から1.5天文単位にあった10個から20個の原始惑星が衝突を繰り返して巨大化し、現在の地球や金星のような質量を持つ惑星が生まれたとされる。水星や火星の質量は孤立質量に近いし、巨大衝突をたまたま逃れ他原始惑星だと考えられる。火星と木星の間にある小惑星群の総質量は地球質量の1/1000に過ぎない。「古典的標準モデル」によると孤立質量は外側に向かって少しづつ大きくなるはずである。だkら太陽系惑星の水星や火星質量の少なさは説明できない。地球質量を1として、内側から外側への太陽系惑星の質量を並べると、水星0.055、金星0.82、地球1、火星0.11、木星3.18、土星95、天王星15、海王星17である。地球の衛星である月はこの巨大衝突によって形成されたとみなされている。原始地球に火星サイズの小惑星が斜めに衝突し、その破片が集って月になったという説である。地球と月の密度はかなり異なり付きの密度は低い。これは地球の表面にあるマントルの岩石成分のみで月ができたからである。だから月には鉄のコアがないと考えられる。原始地球は微惑星や原始惑星の衝突エネルギーのため、内部が高温で溶けて重い鉄成分が中心に沈んでコアとなった。月と地球の岩石成分の酸素同位体分析でほとんど同時代の材料でできていることが分かった。太陽から3天文単位以上離れた場所では氷ダストが凝縮する。木星や土星が存在する5〜10天文単位では惑星の孤立質量は地球質量の5倍程度になる。ところが木星は地球の318倍、土星は95倍の質量を持つ。これは地球型惑星(水星、金星、地球、火星)は孤立質量時代から巨大衝突時代となったが、木星や土星は孤立質量時代から巨大ガス惑星へ劇的に変化したからである。天王星の軌道半径は19天文単位、海王星は30天文単位である。天王星と海王星の質量は孤立質量にとどまっている。つまり天王星や海王星は、木星や土星と違ってガス流入を起さずに終わった固体惑星である。木星や土星が、微惑星から固体惑星になる時間は軌道半径の3乗に比例すると「古典的標準モデル」は見積もっている。すると集積の推定時間が円盤の寿命を超えるという問題が分かった。ダストという材料がなくなってしまうという矛盾に直面した。天王星や海王星の集積時間では太陽系の年齢の46億年を超える計算になることも分かった。チリを集める時間だけでは説明できない。さらに木星形成の最大の問題は、惑星落下問題である。地球型原始惑星の「1メートル問題」は「小石集積モデル」で乗り越えたように思われたが、木星形成の場合は、地球質量の5−10倍で、5天文単位にあるときこれも10万年程度で中心星に落下してしまうと指摘されていた。円盤ガスが十分にある時までにその質量に達しなければならない。この円盤ガスを取り込むプロセスはまだ分かっていない。

3) 系外惑星系の多様性

系外惑星系の多くは太陽毛糸はあまりに異なる多様な姿をしている。太陽系の「古典的標準モデル」ではそのままでは多様な系外惑星系を説明することはできない。一方太陽系形成の問題も疑問がいっぱいあるようだ。太陽系を含む系外惑星系の多様性の起源を考えてゆこう。円盤仮説は基本的に正しいようだが、系外巨大ガス惑星をどう説明できるか、1995年のペガサス座51番星bの発見以来理論モデルが数多く提案され、同心円状に整然と回転する惑星群という古典モデルは、軌道が移動しまくる動的なモデルにいやおうなく変わった。しかしホット・ジュピターとエキセントリック・ジュピターの発見は、整然とした惑星系という見方を破壊してしまった。1995年に発見された「ペガサス座51番星b」はホット・ジュピターであった。軌道半径が0.05天文単位で公転周期は4日であった。ホット・ジュピターの軌道半径は木星の100分の1しかない。中心星のすぐそばで巨大ガス惑星の芯を構成できるほどの材料はないのである。やはり円盤の中で材料物質の多い外側の軌道で形成されと考え、形成後に内側に移動したと考える方が素直である。巨大なガス惑星は惑星重量が非常に大きくなり、円盤ガスを散乱させ惑星軌道に沿って円盤に溝を作る。そこで惑星の成長は止まる。そして円盤ガスは数百万年かかって中心星に落ちてゆくときに惑星も巻き込んで落ちるのである。このモデルはホット・ジュピターの起源の最有力モデルである、太陽系の木星や土星の巨大ガス惑星は落ちていない。これは円盤ガスがあるときは一緒に落ちるが、円盤ガスが無くなるときの絶妙のタイミングで巨大ガス惑星である木星や土星が形成されたというべきであろう。木星は軌道移動はなかったが、系外惑星の巨大ガス惑星には軌道不安定という激しいプロセスもあったようだ。系外巨大ガス惑星の半分くらいは離心率が0.2を超える軌道を持つ。中には離心率0.9の彗星のようなものもある。太陽系の木星や土星のきどうはほぼ円軌道であるが、系外巨大ガス惑星は強く歪んだ楕円軌道を持つ。 その理由は、最初は系外巨大ガス惑星は円軌道で形成されるが、形成後の惑星間重力によってによる散乱で飛び散って、残った惑星は大きく歪んだ軌道となるというモデルが有力である。太陽系との違いは、その巨大ガス惑星が2個以下(太陽系)なのか、3個以上(系外巨大ガス惑星)なのかの違いである。材料物質が多い円盤では巨大ガス惑星が3つ以上並ぶことも稀ではなく、重力の影響で軌道が歪みやがて軌道面が交差する機会が多いのである。軌道交差の結果ある惑星は跳ね飛ばされ、残ったものは軌道が歪むのである。太陽系のように巨大ガス惑星が2個以下の場合は互いの影響で軌道が乱れるがその影響は規則的であり、円になったり楕円に成ったりする変化を繰り返すが軌道面が交差することはないと考えられる。内側に跳ね飛ばされたものが、視線速度で観察されるエキセントリック・ジュピターにほかならない。系外に吹っ飛んだ巨大ガス惑星は宇宙空間をさまよう浮遊惑星となる。重力マイクロレンズの観察で、木星クラスの天体が銀河系をさまよってことが発見された。その内側に飛んだ巨大ガス惑星はハピタブルゾーンの地球型惑星に対して大きな影響を与える。地球型惑星は中心星に叩き込まれるか、系外にはじき出されるのである。中心星の自転の方向とは逆向きに公転するホット・ジュピターは、太陽系の惑星の公転原理に反する動きである。内側に吹き飛ばされた巨大ガス惑星エキセントリック・ジュピターの中には離心率が高く、近点距離が0.05天文単位まで中心星に近づくものがある。その時中心星の強い重力(潮汐力)で惑星自体の形が歪むのである。この惑星の変形によってガスの摩擦熱が出て、惑星の運動エネルギーが減少するので、惑星は次第に中心星に近い円軌道となってゆく。惑星軌道が長楕円軌道になって、巨大ガス惑星どうしの強い散乱を受けると弾き飛ばされないまでも長軸を中心に回転して裏返しになり、そのあとで円軌道に安定しても逆行するホット・ジュピターになる可能性がある。系外惑星系のスーパーアースは、太陽系では地球型惑星が存在しえないほど中心星に近い軌道で発見される。中心星に近い領域では大きな惑星を作る材料がないので、スーパーアースは材料の豊富な外側の領域で形成され移動してきたと考えられる。アルマ電波望遠鏡が観測したように、円盤の動径方向の密度分布に凸凹があり縞模様が見られた。その濃い密度の輪の上で原始惑星が形成される。太陽系では原始惑星が0.7〜1天文単位および5〜10天文単位の2カ所に密度の濃いゾーンがあった。その範囲に多くの原始惑星が形成され、衝突と合体を繰り返すうちに水星、金星、地球、火星の質量と軌道が形成された。一番内側の水星と外側の火星は材料が少なかったために地球に比べて極めて小さいのである。このような系外惑星の多様性を説明するモデルが数多く提案されたところで、太陽系の古典標準モデルを振り返ってみると、惑星は現在あるが姿で整然と並んでいたわけではなく、あちこち動きまわり、軌道が落ち込んだり、外へ弾き飛ばされたりというダイナミックな様相を想定しなければならない。「グランドタック」モデルは一度内側の軌道に押し込まれた木星や土星といった惑星が、後に外側へ引き戻されというトリッキーなモデルもある。カイパーベルト天体(外縁天体)である天王星や海王星の軌道分布は外側へ動いたという説が確実視されている。7天文単位から30天文単位に到達したらしい。動いた原因は微粒子(小石)円盤との相互作用かも知れないし、木星や土星という巨大ガス惑星の形成のためかもしれない。これを「ニース・モデル」と呼び、初期条件を調整して惑星軌道は移動してもよいという考え方である。

ホットジュピターとエクセントリックジュピターの軌道          ホットジュピター概念図
ホットジュピターとエクセントリックジュピターの軌道           ホットジュピター(イメージ図)
4) 地球とは

この章は天文学というよりは地球科学の話である。それについては、巽好幸著 「なぜ地球にだけ、陸と海があるのか」(岩波科学ライブラリー 2012年)をご参照ください。こちらの方がはるかに専門的で詳しく書かれている。著者は天文学者であるが、大学院生の時地球科学を専攻したというだけあって造詣の深い内容ではある。地球は生命が棲息する天体である点で唯一の天体である。生命科学は地球科学であり天体に普遍性は見い出していない。「地球はそれ自体が一つの生命体のようなシステムである」とガイア仮説は述べている。地球は精緻な物質・エネルギー循環、気候調節、生命との相互作用による自己調節システムを備えている。生物学者は生命のシステムは奇跡であり、他の惑星に地球外生命がいる可能性は信じられないとまで言う。地球と全く同じ特徴を備えた惑星はないとしても、そのなかでの生命システム(その定義は極めて困難であるが)はあってもいいのではないかを考える前に、「地球」の固有性の特徴を知ることは重要である。本書は@地球の構成物質、A水、炭素、窒素の物質循環、B地球の内部構造、C地球の表層構造(プレート・テクトニクス)と大気、からなっている。前記の書に書かれたことは既知として、重複しないように話を進める。鉄、ケイ酸塩(岩石)、氷などはダストとして地球型惑星の材料となる。鉄と岩石の凝縮温度はほぼ同じで、数天文単位内では水は結晶しないので、惑星の主成分は鉄と岩石である。その比率は原始円盤の初期条件で決まる。ビッグバンの時作られた銀河には水素とヘリウムしかない。中心星の構成内部の高温高圧条件で次々と重い元素が核融合されて生み出される。恒星の質量放出や超新星爆発によって星間ガスに戻り、また恒星が生まれるという繰り返しの中で、段々と原子番号の大きな元素が生まれ宇宙に蓄積される。現在の銀河系では重元素の重量比は平均で1−2%程度である。だから系外惑星の構成成分もだいたい地球を同じ物質で構成されていると予想される。太陽系地球型惑星である水星、金星、火星の組成はほぼ地球と同じとみてよい。地球では鉄と岩石の重量比率は3対7で、それらは地球内部で分離し、核コア部分では鉄、マントルと表皮部分では岩石成分と比重の違いで層となっている。火星の密度が低いのは、その総重量が地球の1/10程度しかなく地震の重力による圧縮効果が弱いからである。ウラン238、トリウム232、カリウム40などの放射性元素は微量ではあるが、惑星の熱源として重要な元素である。放射性元素の半減期はそれぞれ45億年、7億年、140億年、12.5億年であるので長寿命放射性元素と呼ばれる。これらの崩壊熱は現在の地熱の半分程度の熱源となっており、この熱のために対流が起り、磁場が発生し、マントルの流れはプレート・テクトニクスや火山活動のエネルギー源である。惑星が十分な大気を持つうえ、表面に液体の海が存在できる軌道範囲を「ハビタブルゾーン」という。つまり大気を保持できるだけ惑星が大きく、大気の保温効果があると、中心星からかなり離れていても良いことになる。太陽系でいうと、水星は太陽に近すぎて熱すぎ、火星は質量が小さいので大気を保持できずかつ太陽から遠いので寒すぎ、地球だけがハビタブルブルゾーンにある。また水が液体状態で存在できる条件は表面温度が300K前後にあることが必要である。地球の水の総質量は地球全体の0.02%に過ぎない。岩石に含まれる水をあわせても0.2%程度である。海の平均深さは4Kmなので文字通り薄皮一枚に過ぎない。火星と木星に間にある小惑星ゾーンからは水は氷に凝縮する。この氷と水の境界半径を「氷境界」と呼ぶ。土星の温度は100K以下なので、アンモニア、炭酸ガス、メタンガスさえ凝縮して液体になる。地球にある小量の水や炭素、窒素はどのようにして地球に持ち込まれたのだろうか。今のところ確実なことは何もわからないが、いろいろな説が唱えられている。地球が形成された後氷を含む小天体が地球に衝突したことが第1の可能性、彗星の酸素とチッソの同位体分析により、地球とはずいぶん組成が異なることが分かった。炭素質コンドライトと言われる隕石の同位体組成が地球に似ていることから小惑星群のC型小惑星群(10%の水を含む)が地球に水を運んだという説が有力である。氷境界の外側で形成された原始惑星が内側に落ちて来て地球と衝突し水が運ばれたという説が第2の可能性である。第3の可能性は地球形成時に原始惑星系円盤の温度がずっと低くて、地球軌道付近でも氷ダストが凝縮し大量の水を地球が取り込んだという説である。円盤ガスが数百万年をかけて太陽に向けて落ちて来る際に地球に到達したガス中の水蒸気が地球下凝縮したという。この章のB地球の内部構造、C地球の表層構造(プレート・テクトニクス)については天文学ではなく、巽好幸著 「なぜ地球にだけ、陸と海があるのか」(岩波科学ライブラリー 2012年)に書かれた地球科学の知見と一致するので省略する。ただし系外惑星の表面状態を観測するために、2022年完成予定の日米加中印共同の30メートル近赤外線鏡面反射望遠鏡(TMT)の写真を下に示す。主鏡は492枚の六角形の鏡を組み合わせた複合鏡。合成主鏡有効径は30メートルとなる。観測装置は、初期には可視光の多天体分光器WFOS、近赤外線の面分光器IRIS、近赤外線の多天体分光器IRMSが取り付けられる予定である。IRISとIRMSには補償光学装置を備える。観測波長は、近・中間赤外線であり、初期の宇宙、原始星、遠方銀河、ブラックホール、褐色矮星、分子雲などの詳細が観測される。

TMT望遠鏡完成予想図       反射鏡配置図
TMT望遠鏡完成予想図                      TMT反射鏡配置概念図

5) 系外ハビタブル惑星と地球外生命

ハビタブル惑星とは「生命が住める」という意味である。しかしどのような条件がハビタブルかというと生命の誕生が謎のままで定義は難しい。系外惑星系のハビタブル・ゾーンにはアースやスーパーアースの存在確立は高い。ハビタブル惑星を空想小説ではなく実証的な科学とするためには、議論されている条件が観測可能かどうかが第一の関門である。「地球とは似ても似つかない天体」であるが、M型星や大型衛星なども議論されている。ハビタブル惑星の地球中心主義からの解放である。我々が知っている生命とは地球生命だけである。遺伝暗号が現在のシステムである必然性は何もない。生命には何系統もの生命があったかもしれないが、生き残って進化したのが現在の系統進化図と考えることも可能である。地球は45億年前に誕生し、現存する最古の岩石は40億年前で、38億年前の岩石に生命らしい痕跡(生物特有の炭素同位体より)が見つかっている。生命と地球の共進化については、丸山茂徳・磯崎行雄 著 「生命と地球の歴史」(岩波新書 1998年)に詳しいので、地球生命の歴史については省略する。海は全休凍結(スノーボール)時代を除いて「氷河時代」を通じて現在まで存在し続けた。6億〜7億年前マリノアン氷河時代が終わると、それまで海の中のみにいた生命は一気に陸に上がり植物や動物に進化した。この生命の爆発的進化を「カンブリア大爆発」と呼ぶ。系外惑星に、太陽系の地球サイズの惑星が存在する確率は20%と計算されるが、実際そこに惑星が存在することを観測したわけではない。微惑星集積を一様にばら撒かれたケースから地球型惑星の存在確立をコンピューターシュミレ―ションすると、地球と同じような軌道長半径と質量を有する惑星が多数形成され、それらの軌道は円軌道に近い。惑星落下の効果も入れて計算するのだが、太陽系のような4つ(水星、金星、地球、火星)の地球型惑星が残ろというケースは再現されない。地球質量の1/3〜3倍でハビタブル・ゾーンに入る確率は30-40 %に達する。綜合してハビタブル・ゾーンに地球サイズの惑星が存在する確率は10%はあるとみても、そうあてずっぽうではないという程度の話である。この地球での炭素循環は、海と陸が存在すること。プレート・テクトニクスが働いていることが条件である。その事は巽好幸著 「なぜ地球にだけ、陸と海があるのか」(岩波科学ライブラリー 2012年)にも述べられている。2020年代中頃に観測開始予定のTMT望遠鏡の分光測定によって、ハビタブル・ゾーンのスーパーアースを中心星から分離して観測が可能となることが期待されている。最後に、木星の衛星エウロバ、土星の衛星エンケラドスの氷の下には液体の海があることがほぼ確実視されている。するとこれもハビタブル・ゾーンの候補生となる。暗いM型星(赤色矮星)のサイズや明るさは様々であるが、太陽系に最も近い恒星のプロキシマ・ケンタウリは、質量・半径がともに太陽の7分の1程度、可視光での明るさは1万8000分の1に過ぎないがハビタブル・ゾーンの候補生である。

エンケラドス   赤色矮星(イメージ)
土星の衛星エンケラドスの下に海                      M型星(赤色矮星)


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