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大矢真一著 「ピタゴラスの定理」 
東海大学出版会(2001年8月)

幾何と代数のつなぎ目、ピタゴラスの定理の果たした役割と証明法の歴史


・・・・・  序  ・・・・・
 アニメで視覚化したピタゴラスの定理               ピタゴラスの定理証明法           敷石モデル


アニメによるピタゴラスの定理      ピタゴラスの定理と証明法(ダ・ヴィンチ)       ピタゴラスの定理と敷石モデル

ピタゴラスの定理は実用幾何学の中で最もポピュラーな定理で、応用範囲が広く重宝しています。ピタゴラスの定理と相似三角形の辺の比例則(タレスの定理)の二つで大概の問題は間に合うほどです。幾何学は直感的にわかることが基本となり、代数計算はしないのが美しい解法と言われています。幾何学には形から離れた演算は邪道という人もいます。補助線と円を引きまくって形で分かることだということです。ですからタレスの定理は直感で分かるが、ピタゴラスの定理は直感的には出て来ません。直感的に分からないから証明が必要になります。直感から出てこない定理がどうして発見されたのでしょうか。だれがいつごろこの法則に気が付いたのか全く分かっていません。ピタゴラスという紀元前6世紀のギリシャ人にその栄誉が与えられていますが、そのまえからバビロニアやエジプトでは知っていたようです。そのため古くからいろいろの証明法が考察されてきました。その歴史は本書に書かれているが、近世まで日本にはピタゴラスの定理の本は全く存在しなかった。本来日本では厳密な論理による証明という科学的な方法論がなかったので、セクト集団で伝授される和算という職人芸に過ぎなかった。著者大矢真一氏(1907年 - 1991年、日本の数学史学者、富士短期大学名誉教授)が本書を書いたのは昭和21年(1946年)のことであるが、版が紛失したこともあって1975年に新版ができたという。2001年に東海大学秋山教授の労によって東海大学出版部から発刊されたという経緯を持つ本である。ピタゴラスの定理とは平面幾何学において直角三角形の斜辺の長さを c、他の2辺の長さを a, b とすると、ピタゴラスの定理式が成り立つという定理です。ピタゴラスの定理によって、直角三角形をなす3辺の内、2辺の長さを知ることができれば、残りの1辺の長さを知ることができる。例えば、直交座標系において原点と任意の点を結ぶ線分の長さは、ピタゴラスの定理に従って、その点の座標成分を2乗したものの総和として表すことができる。このことは2次元の座標系に限らず、3次元の系やより大きな次元の系についても成り立ちます。この事実から、ピタゴラスの定理を用いて任意の2点の間の距離を測ることができ、ユークリッド距離と呼ばれる。「ピタゴラスが直角二等辺三角形のタイルが敷き詰められた床を見ていて、この定理を思いついた」など幾つかの逸話が知られているものの、この定理はピタゴラスが発見したかどうかは分からない。バビロニア数学のプリンプトンや古代エジプトなどでもピタゴラス数については知られていたが、彼らが定理を発見していたかどうかは定かではない。中国古代の数学書『九章算術』や『周髀算経』でもこの定理が取り上げられている。中国ではこの定理を勾股定理と呼び、日本では三平方の定理という。このピタゴラスの定理は3)ピタゴラス数(整数)で明らかになるが直角三角形の斜辺cと底辺bとの差が1または2という僅差ばかりで、三角形としては面白くない形です。三角関数ではsinθ=θ(斜辺と底辺のなす角度)というくらいの小さな角度しかありません。微分の創始者ニュートンはこの小さな角度での直角三角形を使って力学を幾何学から導きました。しかしピタゴラスの定理はそんな薄い直角三角形ばかりを扱うのではなく、実数という範囲では一般化されて応用の広い形になります。

さて、ピタゴラスの定理の本論に入る前に、ピタゴラスの伝記ピタゴラスの定理の曙を述べておきましょう。ピタゴラスは紀元前580年、エーゲ海にあるギリシャの植民地サモス島で生まれた。彼の生きた紀元前6世紀の年代は、インドでは釈迦が仏陀の教えを説いており、中国では春秋戦国時代になり孔子が儒教の遊説をした時代で、西側世界ではギリシャの黄金時代の初期にあたります。またローマ建国神話の時代でした。人類の文化の巨大な歩みが開始されたといえます。小さな地域に分散された農村社会のギリシャ人は、紀元前8世紀ごろから商業活動を始め、都市国家の文明開化の時代に入った。ギリシャの都市国家の数は膨張し、平地が少ないため紀元前8世紀末から9世紀にかけて活発に植民地を開拓した。主な植民地はエーゲ海から小アジアにかけての「イオニア植民地」および「ドリア植民地」であった。南イタリアにも植民地がつくられ「大ギリシャ」といわれた。都市国家と植民地は交易によって結ばれ、エジプトやバビロニアの文明や技術はギリシャにもたらされた。ピタゴラスがサモス島を出て留学に出かけた時にはサモスではポリュクラテスが王に就き宮廷では詩人アナクレオンが活躍をしていた。ヘラの神殿やユーパリノスの水道が作られた。ギリシャ科学文明の基礎はイオニア植民地のミレトスにあって、ミレトスのタレスはギリシャ幾何学の祖と言われた。タレスは天文学・哲学に通じていた。ピタゴラスははこのタレスの門をたたくためにサモス島を出た。タレスの教えを受け継いでエジプトにも遊学した。エジプトもバビロニアも古代国家としては衰退期にあり、ペルシャの支配下にあった。初期ギリシャ文明というものはエジプトやペルシャの書物の輸入で始まった。エジプトからサモスに帰国して、ピタゴラスは学校を開いたとされるが南イタリアの大ギリシャに移住した。ピタゴラス大ギリシャの都市lクロトンに学校を開いた。数学・自然科学・哲学を講じたとされるが、門徒は口外を許されない秘密結社のような学校であった。この団体は後世「ピタゴラス学派」と呼ばれ、ピタゴラスの定理もこの学派の業績となった。いわば一つの閉鎖的秘密宗教団体と見なされ、ソクラテスやプラトン、アルキメデスの流れには汲みこまれず、師の死後自然消滅した。この時代ギリシャは民主政に移行し、この学派は嫌われた。ピタゴラスは一冊の書物も残していない。この点はソクラテスと同じである。書くべき媒体(紙はもちろんのことパピルス、粘土板)の技術もなかったから、学問は必然的に口で伝える以外に方法がなかったといえる。ピタゴラスの伝記は彼の生きた時代より500年後のもので、有力な文献はそのさらに500年後のことである。ピタゴラス学派は数学をエジプトの実用目的から独立させ一つの科学(一般性を持つ知識集合体)にしたといわれている。ピタゴラス学派の業績を以下に列記する。
幾何学: @ピタゴラスの定理  A三角形の内角の和が二直角に等しい  B黄金分割の作図  C平面を正多角形で埋めること  D正多面体が5個あること(正四面体、立方体、正八面体、正十二面体、正二十面体)  E正方形の対角線と辺の長さは同じ単位ではない(無理数√2の発見)
数論: @数の分類(奇数と偶数、三角数は自然数の和である、四角数は奇数の和である、完全数、親和数)  Aピタゴラス数  B比例論(等差比例、等比比例、調和比例)  C素数
その他: @立体の中で完全なものは球である。地球・天体は球である  A弦の長さを1/2にすると1オクターブ高い音が出るなど音楽上の発見

幾何学はエジプトのナイル川の氾濫後の耕作地形の策定という必要性から実用上の発展をしたと言われる。そもそも真っすぐな直線を引く事ことは二点を縄でピンと張ればできるが(今でも大工は炭壺に入った紐を2点で固定し、紐を持ち上げて落とせば直線になることは行われている)、二点間の長さは縄の一定間隔(単位)の結び目の数を数えれば測量できた。しかしに直線がなす角度の測定は容易ではなかったし、東西南北の線が直交するかどうかもわからなかったとしよう。中国の伝説では、伏義という神さんが定規を持ち、女禍という神さんがコンパスを持つ絵が描かれている。この書物は漢時代の書であり、少なくとも2000年以上前にはコンパスと定規があったようだ。エジプトでは紀元前1000年以上前「縄張師」という測量士がいたようである。縄張師は地上に幾重かの円を描き、真ん中に真っすぐな棒を垂直に立てその影が最も短くなる時が南中時であるので、その影を延長した線が南北線となるとし、そして御園と午後の影のアガサが一致する点を結ぶと東西線となる。その交差する角度が直角であるとした。こうして神殿や新しい耕作地境界の線引きができたという。ところが縄張師はそれとは別に(3:4:5)の原理と使って直角を作ったという。縄張師はこの方法で方形の角の直角を出していた。この三つの辺の長さが3,4,5の三角形が直角三角形であるということは、インドでも中国でもずっと古くから知られていた。古代中国の漢時代に書かれた数学の書物「周脾算経」には、周公の時代(今から3000年ほど前)に(3,4,5)の直角三角形ができることが書かれている。そのまま信用はできないとしても紀元前後にはピタゴラスの直角三角形は知られていたことにはなる。古代インドでも中国と同じような時代に(3,4,5)のピタゴラスの原理は知られていたようである。紀元前8世紀のものであるインドの書物には、(5,12,13)を使った直角三角形を作る方法が書かれている。この時代には証明はなかっただろうが、ピタゴラスの定理のは断片的に知られていたと考えるべきである。こうなるとピタゴラスの定理はピタゴラスよりもずっと以前に発見されていたといわなければならない。つぎにピタゴラスの定理の曙というべき、ピタゴラス以前にピタゴラスの定理はどうして発見されたかについて考えてみたい。平面幾何学において直角三角形の斜辺の長さを c、他の2辺の長さを a, b とすると、ピタゴラスの定理式がピタゴラスの定理です。(a,b,c)の整数の組をピタゴラスがどのようにして発見したのかは想像の域を脱しないが、今四角数から推測してみよう。平方数とは、ある整数の2乗(平方)で表される整数のことである。四角数とは、多角数の一種で、正方形の形に点を並べたときにそこに並ぶ点の総数に合致する整数のことである。それは同じものである。平方数を小さいものから順に列記すると、0, 1, 4, 9, 16, 25, 36, 49, 64, 81, 100, 121, 144, 169, 196, 225, 256, 289, 324, 361, 400, 441, 484, 529, 576, 625, 676, 729, 784, 841, 900, 961, …である。1=1×1、4=2×2、9=3×3、16=4×4、25=5×5、36=6×6、49=7×7・・・・・である。四角数は1+3+5+7+9+・・・のように1から始めて奇数を順に加えてゆくと、その和はいつもある数の平方になっており、1=1×1、4=2×2、9=3×3、16=4×4、25=5×5、・・・・・これを点として並べると四角形になる。推測であるがピタゴラスはその過程で一つの例として(9=3×3、16=4×4、25=5×5、すなわち9+16=25)ピタゴラスの定理式を発見したのではないかと思われる。二組の四角数の和が又何かの数の二乗となるの事の発見に結び付いたという推論である。この四角数という方法では、(3,4,5), (5,12,13),(7,12,13)といった斜辺と底辺の差が1という整数の組しか得られません。ピタゴラスの定理式が成り立つ整数(a,b,c)を探し出す一つの方法であるが、逆の定理であるこのような三角形が直角三角形になるという事は分かりません。そこでピタゴラスが石畳を見て発見したという説が有力になります。むろんこれは2つの直角二等辺三角形からなる正方形で隙間なく敷き詰めるモデルです。この直角二等辺三角形はピタゴラス学派を窮地に追いやりました。正方形を2つに割った直角二等辺三角形の直角を挟む辺の長さを1とすると、斜辺は√2になり、整数どころか無理数なのです。これをピタゴラスが学派は口外してはならない秘密の数として封印しました。ピタゴラスより前にピタゴラスの定理があったということが確かだとすると、ピタゴラスは何をしたのかということが問題となります。つぎに考えましょう。

1) ピタゴラスの定理の発見の歴史

* 紀元前2000年の古代エジプトのパピルスという草の繊維からできた紙に、直角三角形の3辺を示す数の組が4組書かれていました。その一つが1^2+(3/4)^2=(5/4)^2であって、これは(3,4,5)と同一であった。
* また同じころメソポタミア文明のバビロニアでは、エジプトよりも進んでいたようで、一般の直角三角形について、二辺から斜辺を計算できたようである。幾何学はギリシャ、代数学はアラビアという特徴がこの時代にもできていた。バビロニア人は粘土板(タブレット)に楔形文字で刻印し、高さ40、幅10の扉の対角線の長さを計算した結果を記した。答えの一つが41+15/60 でであった。a=40,b=10を代入すると、バビロニアの近似解は41+15/60=41.250で、ピタゴラスの定理からはc=√(a^2+b^2)=a(√(1+b^2/a^2)=41.2310なので、近似解としていいところまで行っている。
* インドでは紀元前8世紀ごろ「シュルヴァスートラ」という祭礼の儀式を書いた書物に祭壇を作る寸法が記されている。ピタゴラス数として3^2+4^2=5^2、5^2+12^2=13^2、8^2+15^2=17^2などが記されている。その後1000年ほどインドの数学は空白であったが、紀元7世紀の「ブラマグブタ」という書には、直角三角形のピタゴラス数(整数)に力を入れて、2mn,m^2-n^2,m^2+n^2を記している。ただこの時代のインドの数学は「シュルヴァスートラ」の後を継ぐものであるか、ギリシャのディオファントスの研究が伝わったのかは明確ではない。12世紀のバスカラという数学者はピタゴラスの定を証明できる図を描いて、ただ「見よ」という。
* 中国の周の時代(紀元前10世紀ごろ)に「周脾算経」の中に(3,4,5)が直角三角形になると示されていたが、算例でははっきりとピタゴラスの定理を使っている。「九章算術」は紀元前1世紀の書であるが、ピタゴラスの定理を使う問題が多い。これを「勾股弦の理」と呼んだ。インドや中国の数学は元来事実を述べるか実用例を示すのみで、証明をするものではないが、ところがピタゴラスの定理だけは証明している。図形の一部を移動し図解による定理の正しさを分からせるものであった。
* 厳密な理論的な証明はやはいギリシャ人によってはじめてなされた。ギリシャの幾何学の開祖であるタレスは比例の法則を発見した。その二代目にあたるピタゴラスのした仕事とは定理の理論的な証明であったと言われている。ではピタゴラスの行った証明法はどんなものであったかは皆目不明である。図形の移動法か比例の方法かは分からない。ピタゴラスより250年ほど後のギリシャ人であるユークリッドが行った証明法で、ピタゴラスの定理の理論的側面は終止符を打った。一般公式を出したのもユークリッドである。これ以降随分多くの人が新しい証明を行った。また整数のピタゴラス数は数論で研究する人が多かった。ピタゴラスの公式は斜辺と底辺の長さの差が1という極めて特殊な直角三角形で、二辺のなす角度をθとすると、sinθ≒θの領域である。ピタゴラスの定理は直角三角形の3辺の関係だけでなく、x^2+y^2=z^2の整数解を求める不定方程式の問題を提起し、それがフェルマーの定理(x^3+y^3=z^3の解は存在しない)となった。

本書には@ピタゴラスの定理の発見の歴史、Aピタゴラス数の研究の歴史、B中国・日本におけるピタゴラスの定理に関して付録を設けている。まず@ピタゴラスの定理の発見の歴史については、T・ヒース「ギリシャの数学史」第1巻第5章「ピタゴラス学派の幾何学の中のピタゴラスの定理」(1921年)の抄訳から要点を紹介したい。このピタゴラスの定理は伝説によってピタゴラスの名が冠せられているが、それが実際彼の手によって発見さたという証拠は何もない。その伝説とは、アポロドラスの詩句「ピタゴラス、かの名高き命題を発見したるとき、彼は見事な牡牛を神に犠牲として捧げたりき」を引用する人が多い。かれは「図形」というが何の図形だかわからない。またキケロは、ピタゴラス学派の祭式では、血を流す犠牲は禁じられているからこの話は信じられないという。前1世紀のヴィツルヴィウスは子の犠牲は(3,4,5)の特殊な三角形に対してであるという。プルタークはアポロドラスの詩句を引用して、直角三角形の平方の定理であるとする。これに賛成する見解は、紀元2世紀のアテネウスやポルフィリやディゲネス・ラティアスらがいる。ところがプロクレスは、紀元前3世紀のユークリッドの「原論」(幾何原本エレメント)を引用して、ピタゴラスの定理をピタゴラスに帰す人が多いことを認めつつ、原論第1巻第47の定理においてユークリッドが科学的な論証によってこの定理を一層一般的な定理にしていると述べた。定理の発見に対してはインドもその権利を主張する。紀元前4,5世紀の「アパスタンバ・サルバ・スートラ」という書物において、その内容は更に古い時代の事が書かれており、(15,36,39)の長さの縄を用いて直角三角形を作ることは、紀元前8世紀の書「タイチリア・サムヒタ」に書かれているとしている。「アパスタンバ・サルバ・スートラ」には(3,4,5),(5,12,13),(8,15,17),(12,35,37)ら7個の直角三角形の例(実際に示されたたのは左の4例のみ)が示されてるが、すべての直角三角形を作る一般的な規則を持っていなかった。また直角二等辺三角形(正方形の対角線)の作図が示され、√2の級数的近似値の計算法が示されている。原正方形の3倍の面積を持つ正方形の作図法を示しているが、(2,1,√3)の直角三角形の辺の長さ√3の近似値を求めている。そこには一般的な証明の兆候は見当たらない。直角三角形の性質には@最長辺の上の正方形が、他の2辺の上の三角形の和に等しい。A後の2辺は直角を挟む。インドのレベルは実際は整数の比を為す三角形のいくつかの例を経験的に知っていただけのことで、一般的な科学的証明法を知っていたという証拠はない。では次の問題はピタゴラス学派はいかにして定理を証明したのかということですが、一つは序の左の図のダ・ヴィンチの方法など(それだけでも数種類の移動法があります)によって、図形の三角形や長方形の部分的移動や結合に依ったか、もう一つの方法は比例の定理を発展して使ったという可能性もあります。比例の方法は次章の2) ピタゴラスの定理の証明で説明します。なお中国・日本におけるピタゴラスの定理については本書ではかなりの分量を割いて貴重な文献の紹介に努めています。しかし中国のピタゴラスの定理の解説には、証明には重点をおかず、数学的に面白いわけではない。単に定理を当てはめるだけの計算例の紹介を長々とやっている。また日本のピタゴラスの定理の文献が17,18,19世紀のものでいまさら世界の話題にもならないし、中国の文献と同じように論理的証明の観点が全くない、結果だけの紹介に過ぎない。中国・日本の希少な数学文献紹介としての価値はあるが、著者には悪いが一切割愛させていただく。

2) ピタゴラスの定理の証明
2-1)  図形の移動もしくは幾何学的な証明
ピタゴラスの定理―バスカラ ピタゴラスの定理   ピタゴラスの定理―ユークリッド   ピタゴラスお定理ピタゴラス1 ピタゴラスの定理ピタゴラス2
バスカラ(インド)の方法(左 視覚的表示)                        ユークリッドの方法                           伝ピタゴラスの方法
 

ピタゴラスの定理の証明法は数十はあるだろうといわれているが、本書では定理の証明の仕方によって、@図を動かして証明する方法として5例、A代数的な証明法として6例、B幾何学的な証明法として5例をあげている。いずれも純粋に幾何学学的、代数的と別けられるものでなく、幾何学的と言っても計算が入ってくるし、代数的といっても図形を基にしている限り幾何ともいえる。そこで@とBは図形の移動もしくは幾何学的な証明としてくくり、Aは比例関係を基にしている代数的方法としてくくる。なお本書に出てくる大矢真一氏によるピタゴラスの定理の証明とその図の説明は、山口大学の渡辺氏のホームページに紹介されている。本書を買って読めば見る必要もないのだが、一応参考までにアクセスしてみてください。むしろ山口大学の説明の方が分かり易いかなと思われる。著名な証明法だけを下に記す。
@まず第1にレオナルド・ダ・ヴィンチの方法は序の初めの真ん中の図に示した。赤色の四角形、黄色の四角形、水色の四角形の面積はすべて等しい。二つの五角形の面積も等しいので、、不要部分の三角形の面積を引くと2つの正方形の和は斜辺の正方形の面積に等しなる。
Aユークリッドの方法(原論より)は、平行四辺形による等積変形と三角形の合同により一目瞭然で言葉はいらない。幾何学に式や計算はいらない、しかし説明は必要だ。だからアニメや視覚化がしやすいのだろう。
B伝ピタゴラスの方法は、左図の4つの青色の三角形を正方形内で移動させまとめると右図のようになり、c^2緑色の面積は、二つの三角形の和a^2+Bb^2に等しいことによる。
Cインドのバスカラの方法は、左図に視覚的にアニメで示した。これだけで幾何学的な説明としては十分なのであるが、右図では平行・直行する線を引いてa,b上の正角形を切り分けて、斜辺c上の正方形に合同関係を利用して移してゆくものである。この切り分け方からさらに多くの証明法が生まれるのですが、それは煩雑になるので省略します。

2-2) 比例則及び代数的な証明
ピタゴラスの定理比例1ー伝アインシュタイン            ピタゴラスの定理ー比例2          ピタゴラスの定理ー内接円              ピタゴラスの定理―台形ガルフィールド
三角形の比例による方法ー伝アインシュタイン    比例による方法           三角形の面積と内接円による方法            台形面積ーガルフィールドの方法

二つの三角形の対応する三角が等しい時、この二つの三角形は相似であるといい、対応する辺の長さの比は一定であることから、辺の長さa,b,cのいろいろな関係が代数的な計算によって求められる。これを利用したピタゴラスの定理の証明法は。天才的な図形の補助線を引く必要もなく、四則演算則と比例則から導くことができるので、幾何学的方法より簡単明瞭だと思う人は多い。私もその一人である。その中から4例を紹介する。
@伝アインシュタインの方法は三角形の比例による極めて簡素で短い証明です。私が大矢氏の本書を読む前に、ピタゴラスの定理の証明をやりましたが、奇しくもこの方法で、「何だ簡単じゃん」と思いました。Aから対辺BCに向かって垂線を下ろし、aをXとyに分割するとします。すると△ABH∝△ABC、△ACH∝△ABC、△ACH∝△ABHであり、3つの三角形は互いに相似関係にあり、辺の長さは比例関係にあります。a/c=c/y、a/b=b/y、x+y=aから c^2+b^2=a^2となります。
A比例による方法は∠Bの二等分線を引いて対辺ACと交わる点をDとする。Dより辺ABに垂線をおろしHで交わる。△BDH≡△BDC、△ABC∝DHAより、ピタゴラスの定理が得られる。@の方法を複雑にしただけのことである。価値はない。
B三角形の面積と内接円による方法は比例則は使っていないので、三角形の面積を求める方法である。内接円の半径をr(内接円がどう描けるかの吟味はない、描けることを自明としている)とすると、△ABC=(1/2)(a+b+c)r  2r=a+b-cなので、4△ABC=(a+b+c)(a+b-c)=(a+b)^2-c^2となり、△ABC=ab/2より 2ab=(a+b)^2-c^2 ∴a^2+b^2=c^2
C台形面積ガルフィールドの方法は、四辺形の面積は3つの直角三角形の和です。2(1/2)ab+(1/2)c^2 また四辺形は台形であるのでその面積は(1/2)(並行辺の和×高さ)=(1/2)(a+b)(a+b)=(1/2)(ab+c^2) ∴c^2=a^2+b^2となる。
Dオイラーの公式による方法は近代数学の父オイラーの公式から極めて単純に見出すことができる。ユークリッドの時代からかけ離れているでどうかなと思うが、異質な分野から思い掛けない証明が出てくる。
オイラーの公式はオイラーの公式 直角三角形の2辺は  と表して  ∴

2-3) ピタゴラスの定理の応用
余弦定理    ハップスの定理    ヒポクラテス    直方体の対角線     直角三角錐の面積
三角形の余弦定理            ハップスの定理               ヒポクラテスの定理                 直方体の対角線                    直角三角錐の面積

ピタゴラスの定理は「直角三角形の斜辺の上の正方形は、直角を挟む2辺のの上の正方形の和に等しい」という事でしたが、次に直角三角形の代わりに普通の三角形ならばどうなるかを考えましょう。5つの結果について説明します。
@2辺の長さから底辺の長さを求める公式(余弦定理)です。 [上の図で、いま対辺をbとする頂点Bの角度αとし、Bを挟む辺の長さをa,cとすると、b^2=a^2+c^2-2accosαという公式です。] -2accosαという補正項がなければピタゴラスの定理ですね。証明は至って簡単で、b^2=AH^2+CH^2=(c-acosα)^2+[a^2-(acosα)^2]=c^2+a^2-2accosαとなります
Aハップスによる平行四辺形の面積です。 [任意の三角形ABCの2辺AC,ABの上に任意の平行四辺形ABFJとACGHをつくる。FJ,HGの延長の交点をEとAを結んだ直線EAを延長し、BCとの交点をDとする。EDの延長にEAに等しい辺を持つ平行四辺形BCLMを作ると、平行四辺形BCLM=平行四辺形ACGH+平行四辺形ABFJである。] ピタゴラスの定理が直角三角形の定理で各辺の上に作る正方形の関係(a^2+b^2=c^2)は、直角三角形でない普通の三角形の時は、平行四辺形の面積どうしでピタゴラスの関係にあります。平行四辺形の面積は(底辺×高さ)/2ですので、ピタゴラスの定理と同じ手法で定理が容易に導けます。
Bユークリッドによる直角三角形上の平行四辺形の問題の問題です。 [直角三角形の3辺の上に相似形の任意の平行四辺形を作るとき、直角を挟む2辺の上の平行四辺形の面積の和は、斜辺の上の平行四辺形の面積に等しい。] Aの定理で三角形が特殊な直角三角形で、かつこれはピタゴラスの定理の結果を用いていない。直角の頂点から垂線CDを下してアインシュタインの方法のように三角形の相似関係から、相似関係にある図形の面積は対応辺の二乗の等しいことから証明は容易です。この定理があるとピタゴラスの定理が証明されたことになります。平行四辺形も正方形も同じです。
Cヒポクラテスによる直角二等辺三角形の月形の面積の問題です。 [直角二等辺三角形ABCを直径とする半円を作り、またAB,ACを直径とする半円を作ると、そこにできる二つの月形(ア、イ)の面積の和は元の直角三角形の面積に等しい。] ヒポクラテスは直角二等辺三角形しか考えなかったが、一般の直角三角形に対しても一般的に成り立つ。その証明には次のユークリッドの方法を使用する。ですからこの定理は次のユークリッドの方法の特殊例に過ぎません。
Dヒポクラテスの定理の直角三角形の月形の面積の問題です。 [直角三角形の各辺の上に上のヒポクラテスの図にように二つの半円を書く時、その斜辺BCを直径とする半円との間に作られる2つの月形の面積の和は、元の三角形の面積に等しい。月形(ア)+月形(イ)=直角三角形ABC」 半円の面積は(1/4)直径(三角形の各辺)の二乗×πであるので、ピタゴラスの定理を使って、半円AB+半円AC=半円BC,となる。弓形の和=半円BC-△ABC、月形ア+月形イの和は共通部分である弓形を取り除くと、月形の和=△ABCが得られる。
E直方体のピタゴラスの定理(対角線の長さ)の問題です。[直方体の三つの稜の長さをa,b,cとすれば、その対角線ABの二乗は、a^2+b^2+c^2である。] 証明は容易であるので省略する。△CBD△CBD
F直角三角錐の面積の問題です。[稜AB,BC,BDが三直交軸をなす三角錐の底面を△ACDとするとその面積の二乗は、斜面をなす直角三角形△ABC、△ABD、△CBDの面積の二乗の和に等しい。△ACD^2=△ABC^2+△ABD^2+△CBD^2 ] 三角錐の頂点BよりCDに垂線を下ろすと、AHもmたBCに垂直である。稜線と垂線の間にピタゴラスの定理を使って容易に証明できる。

3) ピタゴラス数(整数論)

三つの辺の長さがすべて整数でありa^2+b^2=c^2を満たす直角三角形の辺の組のことを「ピタゴラス数」といいます。大昔どうして見つけたのかは一切明らかではない。そこで推測であるが、第1段でその整数の二乗を順n書いてゆく。第2段で二乗の数の差を一つ置きに求める。ピタゴラスの四角数と同じようにすると
第1段: 0 1 4 9 16 25 36 49 64 81 100 121 144 169・・・・・
第2段:   4 8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 38 52・・・・・
3^2+4^2=5^2より(3,4,5)、6^2+8^2=10^2 より(6,8,10)=(3,4,5) また8^2+15^2=17^2より(8,15,17)などが得られる。これからすべてのピタゴラス数が得られるはずであろうが、大変なことである。もう少し規則的な方法はないのだろうかと古来いろいろな公式が工夫されてきた。ピタゴラスの方法(推測)は前に示した。プラトン、プロクルスユークリッド・ジオファントス、ジオファントスの方法がある。そこで最もポピュラーなユークリッド・ジオファントスの方法によるピタゴラス数の求め方を示します。
直角三角形 @倍角の公式 A B
@ABより、 a = k(1 - t^2) ,b = k・2t ,c = k(1 + t^2)   …C
a, b, cは自然数なので t は有理数とならなくてはなりません。よってt = n / m   …D とおくことができます。ここでm, n は互いに素であり、0 < t < 1 より0 < n < m となります。CDより,
   a = k(1 - t^2) = k(1 - n2/m2) = k/m^2 (m^2 - n^2) = k'・(m^2 - n^2)
   b = k・2t = k(2 ・ n/m) = k/m^2 ・ 2mn = k'・2mn
   c = k(1 + t^2) = k(1 + n^2/m^2) = k/m^2 (m^2 + n^2) = k'・(m^2 + n^2)
ここで、m - n は奇数としてよいことになります。これらのことからピタゴラス数は (a, b, c) = (m^2 - n^2, 2mn, m^2 + n^2) (ただし,、m, n は互いに素であり0 < n < m、m - n は奇数)

ピタゴラス数表(一部)
ピタゴラス数表



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