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志賀櫻著 「タックス・イーター−消えてゆく税金」
岩波新書(2014年12月)

税金を食い尽くす政・官・業の鉄のトライアングル

オーストラリアを代表する動物がコアラなら、アメリカ・カルフォニア州を代表する動物はアンティ−ター(蟻食い)である。砂漠にすむ長い口と舌をもつ動物である。本書の題名「タックスイーター」とは税金を食う者という意味であろう。最初この本を手にしたときグローバル金融資本のような特別な集団のことか思ったが、読んでみれば国家予算に群がり予算を分捕ってゆく族政治家と官僚と産業界のことである。平たく言えば自民党の55体制のことである。税は国家財政の源泉であり、財政とは配分のことでどこへ富をばらまくか、つまり政治そのものである。ということは政治が税を食っていることになり、タックス・イーターとは広い意味で福祉の恩恵を受ける国民である。昔は軍部が税を食い国家財政を破たんさせた(昭和初期)。まっとうな意味で福祉に税が回されるなら、タックス・イーターには悪い意味はない。ところがそうにはなっていないところに、戦後の日本政治の悪弊の蓄積がみられる。その要因を分析することが本書の目的になる。つまり本書は日本の政治の総決算であり、破たんの歴史である。周知のように、日本の財政状況は今危機的な状況にある。単年度の国債依存度は43%になり、日本政府の予算96兆円をささえる税収は50兆円しかないということである。政府長期債務残高の対GDP比は200%を超える。金額にすると1010兆円である。歳出と税収の乖離は「ワニの口」と言われ近年広がるばかりである。一般会計の税収は1991年を最高として(60兆円)、以降税収は減るばかりであるが、歳出は増大の一途である。日本経済は1973年のニクソンショック(変動相場制移行)以降、財政金融政策の発動による景気浮揚策に慢性的に依存してきた。通産省が引き起こしたバブル崩壊後、その慢性的依存体質は致命的・末期的な依存体質へと変わったのである。そして膨大な長期債務を抱え込んだ財政赤字を立て直すことは当面あきらめ、せめて国債抜きの支出と収入(税収)を均衡させる「プライマリー・バランス」だけが、何とか目標になりそうと「2020年度までにプライマリー・バランスを均衡させる」と政府は言い出したが、それさえも達成不可能であることが明らかになってきた。日本の国家財政はもはや破綻しているのである。国民の税金を食いつぶしているタックスイーターは、我利我欲の亡者であり、国家という柱を食い尽すシロアリである。固定為替制度で高利潤を確保してきた(いまの中国もそうである)高度経済成長が突如終了し、低成長期になると財政金融政策の発動による景気浮揚策に慢性的に依存するのである。財政金融政策の発動しか「真水」はなくなった。対症療法に過ぎないと分かっていても、日本経済の根本的体質転換を図ることができなかった。それが最大の原因で、日本経済の底がいかに浅かったということである。規制による既得権益を守り、多くの公的資金を誘導しようとする勢力は政治家、官僚、業界でスクラムを組んで「政管業の鉄のトライアングル」を作り上げた。行政改革という規制緩和に猛烈な抵抗を示したタックスイーターは、厚生・建設・農水省の官僚機構を拠点とし、他者の介入を許さない強大な権力機構を構築した。本書にはかなり過激な表現がみられる。これは物財務官僚であった志賀櫻氏の思いがかぶさっているからです。著者は財務官僚として族議員の砦である各省の官僚機構を歯がゆく思い批判しているのであるが、財務省自身への批判は曖昧である。そこで志賀櫻氏のプロフィールを紹介する。1949年東京都生まれで、1971年東大法学部卒業で大蔵省入省、いろいろな機関への出向を経て主計局主計官を経て、1993年警察庁へ出向し、1998年金融監督庁参事官となり、2000年東京税関所長、2002年財務省を退官した。2010-2012年民主党政権の政府税制調査会税環境委員を務め、現在は弁護士であるという。著書に「タックス・ヘイブン」(岩波新書)という本書の姉妹書があり、「日銀発金融危機」(朝日新聞出版)などがある。

タックスイーターが生まれ巨大な権力機構となっていった日本社会の背景を概観しておこう。我々にとって最も身近な税制との接点は、言うまでもなく確定申告である。年が明けると恒例にように税務署から厚い冊子とともに申告書が送られてくる。昨年の失敗は復興税の申告を忘れて追徴されたことで、申告の手続きや計算方式はそれほど難しいものではない。震災による家屋補修費などは非課税となるなど知っておくと得をすることが多い。企業を離れて年金生活者になれば確定申告になるが、企業現役時代には全く税制に無頓着であった。ただ12月の年末調整に、生命保険支払い証明とか健康保険支払い証明とかをかき集めて、会社の経理に提出するだけである。日本の給与所得者は2013年で5422万人で、源泉徴収制度で税を支払っている。会社の経理〈源泉徴収義務者)が税務署の代行をやっているようである。給与所得者にとって楽な制度であるが、その代わり我々は税に対して無関心で、どんな理由でいくら取られるのかを知らない。源泉徴収制度は便利ではあるがこれも「愚民政策」にちかいし、収税行政コストの大幅削減に役立っている。確定申告の会場は選挙の投票場と同じく大勢の関係者が詰めていて、それだけでも大変な手間と金がかかっているようだ。憲法30条において「国民は納税の義務を負う」と規定している。納税の義務を負うからには、税について知る権利があり、税による福祉の分配を受ける権利もあるわけである。ただざいげんとしての税の顕著な特色は、政府の提供する公共サービスとの対価関係が必ずしも明確で兄ことである。野田内閣の時消費税の増税分は必ず社会保障と一体であるという宣伝をしたが、本来一般財源となってしまうと、その増税分が何に使われるか全く追跡不能となる。だから政治家の国民の無知に付け込んだウソに過ぎなかった。その「よく見えない」ところに特別会計予算(特会)がある。2013年の予算で見ると、一般会計の規模は96兆円で、重複分を除いた特会の純計額は185兆円であるので一般会計の約2倍である。特会の内訳は国債償還など84兆円、社会保障給付金58兆円、地方交付税交付金20兆円、財投資金への繰り入れ12兆円である。一般会計は国会の審議(予算員会など)を必要とするが、特快の査定は極めて甘いといわれる。そこに付け込まれる最大の理由があった。日本は戦後の憲法で戦争放棄を謳い、明治以来の軍事的・外交的拡張主義を捨て、経済の復興と発展のみに注力する「吉田ドクトリン」の下で、朝鮮特需を契機として目覚ましい復興を遂げた。そして高度経済成長路線を成し遂げたのであるが、戦後のある時期には、人・金・もののすべてを復興に回すため。限りある資源の下でいわゆる計画的・重点的産業政策である「傾斜生産方式」をとった。1960年安保闘争で国論を2分した争いとなったが、岸の後を受けた池田隼人首相は「所得倍増計画」によって、人心を掌握した。1965年の東京オリンピックまで高度経済成長が続いたが、オリンピック後の不況に際して、それまで禁じ手であった国債が発行された。

高度経済成長以降の日本の経済を3期に分けて示すと、
@高度成長期(1955-1973)戦後から石油ショックまで GDP15.5%、国税収入15.9%
A安定成長期(1973-1991)変動相場制導入からバブル崩壊まで GDP8.2% 国税収入9.1% 
B低成長期(1991−2008)平成の大不況からリーマンショックまで GDP0.3% 国税収入減少1.6% となる。
右上がりの経済成長期には税の自然増収は三等分され、歳出増と減税とバラマキに使われた。高度経済成長の幕引きとなったのは1971年のニクソンショックと1973年に始まる変動相場制である。円高によって日本経済が破滅されるという恐怖心から、財政金融政策の発動による景気浮揚策が各界から求められ、かくして1972年予算と財投融資は大幅に増加し、「調整インフレ」の名の下にマネーサプライによる過剰な流動性は狂乱物価の原因となった。今日のアベノミクスと日銀当局の手法はまさにこの歴史の忠実な再現である。高度成長期のような財政的余力はないにもかかわらず、円高対策として財政金融政策の発動が真っ先に行われる体質はこの時期以来の常とう手段となった。1971年までの固定為替制度で1ドル360円はニクソンショック後250円となり、さらに1985年のプラザ合意により1ドル150円となり、1995年オーバーシュートして1ドル79円となった。その後少し円安となり120円台で推移したが、2008年のリーマンショックで70−80円の円高で推移した。リーマンショック後の円安誘導策は輸出増にはつながらなかった。輸出型産業はすでに生産拠点を海外に移しており、日本経済は空洞化した。アベノミクスは円安政策をやってきたが、なんという認識違いであろうか。物価高騰を招くというマイナス面しかもたらさない。金融緩和によって誘導された円安は、当然外貨準備高は減少させ貿易収支は赤字に転落した。アベノミクスは近い将来、狂乱のバブルの2の舞を引き起こすであろう。円高で成り立たないビジネスは市場から退出させることで、経済の体質転換を図るのが正道である。成り立たないビジネスに国民の税金である大量の金を融資したら、経済全体の足を引っ張り続けるだけであろう。ただの一度も成功したことのない農水省の政策は、農林水産業=弱者という見方はいつもいびつな農業を育ててきた。農業の構造転換ができなかったのは至れり尽くせりの補助金制度が邪魔をしてきた。震災復興の19兆円の流用問題も本質的には税金の無駄遣いである。震災復興の名を借りて、従前どおりの各省の予算分捕り合戦に終始して、公共事業へ金がばらまかれたのである。円高に対する過剰なまでの恐怖心が、財投融資による景気対策は、国債残高の累積、過剰流動性に起因するバブル、、金融機関による金融危機を生んできた。アベノミクスの第1の矢は金融政策による円安誘導である。輸出型企業はすでに国内にはいないので何をやっているのか不明である。むしろ輸入物価上昇から産業を苦しめるであろう。第2の矢は機動的な財政政策である。これも効果は見られていない。そして最後に出口問題があり、いつ金融引き締めに戻るか(アメリカは2014年度末に金融を引締めたが、日銀は緩和策続行するという)である。判断を先延ばしにして誰もやりたがらないようだ。

1) タックス・イーターは何を食い物にしているかー予算と国債、財政投融資

政府依存型の経済体質と、円高恐怖症の呪縛が絡んで、日本の財政を破綻の淵へ導きました。この章では税金に群がるタックスイーターの正体を少しミクロにみてゆこう。まずタックスイーターが何に群がるかというと、@予算(一般会計、特別会計)、A財政投融資、B税(租税特別措置)、C国債の4つに大別される。以下それぞれ個別に見てゆく。
予算(一般会計、特別会計): 最も分かりやすい例は、地元選出族議員が公共事業を誘導して地元土建業を潤している構図です。田中角栄が先鞭をつけた道路建設が代表ですが、長良川河口堰、諫早湾干拓事業、八ッ場ダム等が、本当に必要な公共工事なのかどうかは議論の決着はつきません。これらの事業に予算が惜しみもなく注ぎ込まれ、公的法人が官僚の天下り先として用意されています。道路公団ファミリーがその典型です。一般会計だけでなく特別会計にもとてつもなく潤沢な金が使われてきました。それまで事業ごとの個別法で設置されていたが、行政改革の一環として2007年「特別会計法」で一本化された。その趣旨は@特会は一般会計に統合することが原則である。これを単一予算主義という。これにより31あった特会は17に削減された。A租税収入はすべて一般会計に計上する。B効果的に事業を実施する。2009年には2.3兆円の削減となった。C必要以上の資産を持たないよう剰余金の管理を適切にする。これが「埋蔵金」問題で、27兆円を回収した。D特会の財務情報を広く公開する。特別会計の入り組んだ仕組みを悪用して、とんでもない事態となったのが厚生省の社会保険制度(年金)であった。一般会計社会保障関係費の30兆円の会計で見ていてもよくわからないが、「年金特別会計」で処理される社会保険の支出は100兆円を超えているが、そのうち3/4ほどは保険方式をベースとしている。資金不足を税金が埋めているわけだが、1010兆円の政府長期債務残高とは別に膨大な簿外債務が厳然として存在する。日本の国民年金制度はすでに破綻している。国民年金の破綻を厚生年金と共済年金につけ回しするからくりが「年金特別会計」である。厚生省は国民年金(基礎年金)を第1段とし、厚生年金と共済年金を第2団とし、企業年金や国民年金基金や職域加算部分を第3段とする3段構造を説明するがこれは欺瞞である。日本の年金制度は国民保険、厚生年金、共済年金が分立する職域型(ビスマルク型)であったが、国民年金は破たんして持続できないので、そこで厚生年金と共済年金に負担を押し付け、国民年金に財政補てんをしているのである。この辺の議論は盛山和夫著 「年金問題の正しい考え方」(中公新書 2007年)に詳しく書かれている。問題はつまり社会保険に税金が絡んでいるのである。基礎年金の原資の約半分に公的資金出る税が投入されている。積立方式と賦課方式が混在しているいわゆる「修正賦課方式」となっている。デンマークやニュージランドでは100%税方式をとっている。今の日本の問題は、国民が負担とj給付の関係について実態を曖昧なままにして税金が投入されることである。厚生省は正確な情報を公表しなければならない。
財政投融資: 財投とは郵貯や年金を原資として、公共のための投資と融資を行うシステム全体のことを指します。財投は歳出予算ではないし、融資は利子をつけて戻ってきます。投資には原則配当も付きます。財投は、財政投融資計画として予算とともに国会に提出しなければならない。しかし計画に計上しない財投もある。国債の保有などである。こうして財投と財投計画の境界が不明瞭で、国民の目から隠蔽された部分が多かった。財投の最盛期の1995年には財投計画が一般会計予算と同じ規模に肥大化した。2001年より小泉改革の一環として財投改革が進められた。行政改革と財投改革は密接に関連していたのである。富田俊基著 「財投改革の虚と実」(東洋経済新報社 2008年)には、『財投(財政投融資)とは、国の信用力を背景に融資などの金融的手法を用いる財政政策であり、政治と市場による規律が求められる。12001年度より年郵便貯金と年金の財投への預託を廃止し自主運用にまかせ、特殊法人は財投機関債を市場へ発行して自主資金調達を行うとした財投改革がスタートした。自主調達が出来ない事業には、国が金融市場から調達した国債を精査した上で財投する2本立てとなった。同時に個別の財投事業見直しは「特殊法人等整理合理化計画」と「財政投融資の総点検」によって行われた。これらの改革によって財投計画の規模はピーク時の1996年度40兆円から2007年度の14兆円と1/3にまで減少した。財投計画残高も2007年度にはピーク時の約6割の250兆円に縮減した。財投の貸付先はかって大きなウエイトを占めていた公共事業のシェアーは10%以下に減り、代わって中小零細企業、学生、農業向けの財投機関と地方自治体向けの財投が8割を占めるようになった。2006年には財投の剰余金12兆円が国債償還に回された。この成果を生み出した財投改革とは、組織の改革や財投機関債の発行といったことではなく、個々の財投事業の見直しによって進展したと云うことである。前者の改革を「虚の改革」、後者の改革を「実の改革」と呼ぶ。2007年度から郵便・年金の預託金の払い戻しが完了し、財投債は全部が市場に発行される。2008年度より政策金融機関の改革が実施される。それまでに財務の健全性に問題がある財投機関は当該事業からの撤退を条件に財投への繰り上げ償還をペナルティ無しで行い、免除された補償金で財務の健全化を図る。これによって財投が不良債権を抱えていると云う懸念は払拭された。2008年度から財政投融資金特別会計と産業投資特別会計が統合された 』と書かれており、財投改革と行政改革を表裏一体で行う必要性を示した。
税(租税特別措置): 脱税、租税回避のように課税を逃れる形で国の税源を減らす者もいれば、減税を叫んで少しでも租税負担を減らそうとする者もいる。所得税、法人税、消費税などすべての項目についてあるべき理念が存在する。これを各税の「標準構造」という。標準構造から離れて税の負担軽減を図る場合がある。投資促進税などが典型である。初年度で100%の原価償却を認めると、現年度の所得が減って租税負担が繰り延べになる。こういった特別の軽減措置が、歳出で補助金を出すのと同じ経済効果を持つ。特定の分野に狙いを定めて減税をする特別措置で、「租税特別措置」と呼ぶ。「租税特別措置」の真の受益者を明らかにするため、アメリカでは「租税歳出予算」と称して総計表を財務省に提出する。日本でも民主党政権の2010年「租税特別措置透明化法」が成立した。租税特別措置の例として「準備金」がある。引当金(例えば退職給与引当金など)はその年度の収益に関係し会計法でも認められているが、準備金は生来の支出や損失に備えるもので企業会計であって本来税制では認められない。「海外投資損出引当金」とか、研究開発費の法人税からの控除などである。また多くの特別償却が認められている。これらは経産省関連が多い。主税局が租税特別措置で控除という名の補助金を配ることになっている。移転価格税法、タックスヘイブン対策税法、歌唱資本税法のような国際的租税回避を防止する制度も、租税特別措置法において規定されている。これに対して株式移転・株式交換といった組織再編税法は最初から法人税法で扱われている。法人税の引き下げは国際的な潮流であるが、英国では20%に引き下げた。法人税を下げて経済全体を活性化すると法人税税収は増えるという「上げ潮派」の主張がそうさせるのである。法人所得税は経済理論から見ると難しい問題を含む。税負担は個人だけのもので、法人所得を株主の所得に上乗せして、株主が個人所得税を払う方式をかってドイツが採用していた。
国債: 1973年ニクソンショック後の経済成長が鈍化すると、円高恐怖症から輸出の拡大か財政投融資政策によるテコ入れかのいずれでしかなくなった。日本経済の悪化と財政の悪化とが相互作用になって悪循環に陥った。財政投融資の発動を持読めた関係者がタックスイーターである。タックスイーターは赤字国債発行を求め、将来世代にまで付けを回して、税金を食い尽くしている。財政と予算制度については、井手英策 著 「日本財政 転換の指針」(岩波新書 2013年 ) 田中秀明著 「日本の財政」 (中公新書 2013年 )を参照されたい。国債の原則発行禁止と日銀引き受け厳重禁止は戦後の財政法の二大原則であった。これは戦争を起させないようにするという国是からきている。その原則に目をつぶり政府が国債の発行に踏み切ったのは1965年東京オリンピックバブル後の不況期であった。建設国債ではなく特例国債(赤字国債)として発行された。こうして国債大量発行時代に突入した。長期国債残高はいまやGDPの2倍を超えた。
関税: 関税はsに始まりにおいては税収入を狙った財政関税であったが、今日では国内産業の保護を目的とする保護関税が主である。関税ではない輸出入に関する国境措置を「非関税障壁」という。関税については農業分野と工業分野でいつも対立する。農業分野は保護主義を求め、工業分野は自由貿易を求める。貿易自由化の問題は、各国との間で経済摩擦を引き起してきた。日米繊維協定、鉄鋼自主規制、自動車・半導体協定など外交問題にまで発展した。農産物のかたくなな保護主義から、工業生産品の輸出規制がバーター取引されるケースもあった。GATT(関税および貿易に関する一般協定)の関税引き下げは1995年ウルグアイラウンドの成果を取り入れてWTO(世界貿易機関)に受け継がれた。WTOの理念の一つは非関税措置の関税化である。定率関税以内であれば国境措置も合理的範囲に入るということである。WTOのドーハーラウンドは休眠状態であるが、今進んでいるのは2国間、数か国間の貿易協定であるFTAである。TPPは経済問題だけが交渉の核心ではないが、簡単に言えば米中の環太平洋地域を巡る覇権抗争である。高度に政治的問題(ハイポリティクス)である。経済理論を超えた政治的決着が図られる。農産物関税のほとんどは生産農家の補助金に使用される。「肉用牛の売却による農業所得の課税の特例」という租税特別措置」によって、所得税は免除される。ここにいうタックスイーターである受益者は生産農家のことである。農家の経営は苦しいと言いながら、大御殿を建てられるのは自民党の票田への見返りである。

2) タックス・イーターとは何者かー政・官・業の鉄のトライアングル

族議員: タックスイーターの鉄のトライアングルの中心は政治家でいわゆる「族議員」です。数ある族の中でも農林族、建設族、厚生族、文教族、郵政族が強力であるという。農業人口の激減とともに農林族には往時のパワーはない。農水省の大臣と政務次官はかっては豊富な予算をばらまいて大きな顔ができるポストだった。今は最も不人気なポストになった。田中角栄の権力の根源は道路特定財源であった。小泉改革のとき「高?等事業は無駄なばらまき予算だ」と宣告され、厳しい削減対象となって、予算に群がった建設業は青息吐息となり人は去った。ところが安倍首相の第2の矢で再び公共事業による景気浮揚策が復活しそうである。厚生族が辣腕をふるった時代、3K赤字(コメ、国鉄、健康保険)に一つであったが、日本医師会長が強力な組織力を誇り、族議員と官僚が跋扈したという。規制が最も頑強なのは農水と医療である。それらを前にしてアベノミクスの第3の矢である規制緩和は行く手を阻まれている。坊ちゃん政治家にはそれを打ち破る根性がないときているから、先は見えている。文教族とは日教組対策で生まれた議員集団であったが、教科書無償、私学助成、帰国子女教育、高校無料化で予算を大幅に増やしてきた。郵政族が強力であったのは特定郵便局のネットワーク(都市銀行では全国一律サービスはできない)が強力な集票マシーンであったからだ。小泉改革の郵政民営化で決定的ダメージを受けた。政府税調とは別に自民党の「党税調」は実質的に租税特別措置を審議する場であった。かなりの専門知識・法知識を要することから、税の分配をめぐる利権を支配する決定機関となっている。政府税調より党税調が決定権を持っていた。税制改正要項目に優先順位をつけるため決定的場面では凄腕が必要であった。主税局の幹部は党税調に呼ばれると徹底的につるし上げられるという。主計局は党からはちやほやされるが、主税局は罵倒されるという。
官僚: 戦後の55体制では大蔵省が資源を分配する中枢となり絶対的な権限を握ることになった。税金を配るというより政策の優先順序を決めるという状態は、行政府として健全ではなく、金権亡者が横行する政治となっていった。大蔵省主計局の組織は予算を担当する9名の主計官がいて、3人の主計局次長が統括する。予算担当主計官以外には、企画担当、総括担当、法規担当の3人の主計官がいる。1970年代の主計官の優先席(ゆくゆくは次官や局長になる)は、農水、公共事業、厚生の3人で「大部屋」と呼ばれた。主計官は数名の主計官補佐(主査)を抱えていた。農林担当主計官がエリート中のエリート主計官であったのは、当時の農水予算が米価を中心とした政治的な大問題であったからである。当時の中選挙区制では地方への議員配分が厚く、地域利益誘導型政治になっていて、予算をばらまく事業官庁と地方の議員との結びつきは強力であったという。その事業官庁とは国交、農水、厚労の三省が代表である。予算規模でいうと厚労省の社会保障費が群を抜いている。高度経済成長が終わって税収入が減少すると国民年金が破たんし、無駄な事業(グルーンピアなど)に資金を注ぎ込むことはできなくなった。厚労省は最も悪質なタックスイーターであった。官庁の政府機関の他にも、特殊法人、認可法人、独立行政法人、特別民間法人という公的な性格を持つ法人が無数にある。財政投融資の機関には、特会、輸開銀、公庫などの政府金融機関、公団・事業団、特殊会社、地方公共団体などがある。特殊法人とは、NTT、日本郵政、日本郵便、日本政策投資銀行、国際協力銀行、NHK、日本年金機構、商工中金、首都高速道路、本州四国連絡橋公団などである。認可法人とは日本銀行、日本赤十字、預金保険機構、JA貯金保険機構、原子力損害賠償支援機構などである。独立行政法人とは職員が公務員型とそうでないものがあるが、国民生活センター、国際協力機構、造幣局、印刷局、理化学研究所、国立病院機構、国立がんセンター、日本貿易保険、JETRO、日本高速道路保有・債務返済機構、国立大学法人、法テラスなどである。独法は整理合理化によって101あったのが85に整理された。
鉄のトライアングル: 国会議員が専門化して担当官庁と密接な関係作りをして形成された政官業の「鉄のトライアングル」という政策システムが田中内閣の時にほぼ完成した。それには次のようなメリットがある。@族議員にとって業界団体は集票機構であり、かつ集金機構である。A官僚にとって予算に関して政治家の協力を得、業界との太いパイプを形成して天下り先の確保につながる。B関連業界にとって、予算では補助金、税制では租税優遇措置を獲得する。又業界に有利な法規制に導く場(ビューロー)となった。族議員と各省の官僚の癒着は、次第に大蔵省のコントロールを離れた。予算獲得において大蔵省を取り込むために各省の官僚は族議員を使った。その代り各省の財投機関への天下り先に大蔵省の席を用意した。業界を代表する経団連という古い「財界」派オールド・エコノミーと呼ばれ、法規制を甘受しかつ政府の財政出動を頼みの綱としている。それに対してIT企業やグローバル企業(多国籍企業)はもはや国境を超えているのである。これをニュー・エコノミーと呼ぶ。輸出力や国際競争力と言った概念は、国の経済振興にとって意味をなさなくなってきている。そのような状況でアベノミクスを行っても、企業は日本にいないのだから空振りか無効な結果に終わることは火を見るより明白である。中小企業対策としては意味があるかもしれないが。

3) 行政改革ータックスイーターとの戦い

国民の税金の無駄遣いを防止する。これが行政改革である。行政改革はタックスイーター退治の主役であった。歴代内閣のすべてが行政改革に取り組んだが、行革の歴史は失敗の歴史である。行革が本格的に始まったのは1981年の「第2次臨調」(「土光臨調」)からで、当時の鈴木善幸首相は「増税なき財政再建」を掲げた。もっぱら経費節減の方向で進められ、予算増分をゼロにする「ゼロシーリング」から「マイナスシーリング」で締め付けた。次の中曽根行革では日本専売公社、国鉄、電電公社の三公社の民営化がなされた。この行革では28兆円の赤字を一般会計に付け替えただけのことで、それはいまでも新幹線の建設が国費でおこなわれていることに現れている。自立した民間のJRとはとても言えない。1985年ドルの水準を引き下げて、米国の経常収支の赤字を解消しようとする「プラザ合意」が日米間で極秘裏に成立した。その結果予想以上に円高が進んだので、お決まりの財政金融政策の発動となった。公定歩合は3.5%という最低水準となった。そしてこの頃から6兆円規模の「真水」で公共工事が行われるようになった。1986年公定歩合の第4次引き下げで3%となった。宮澤喜一蔵相と澄田日銀総裁はマネーサプライの大増発となり、バブルが発生した。円高恐怖症が財政金融の発動となり、マネーサプライの急増によってバブル発生という市場の失敗に終わった。プラザ合意後も日本の輸出競争力が強く米国の貿易収支赤字は改善されなかった。そこで1989年「日米構造協議」において、日本の貯蓄過剰を内需拡大に結び付けるように要求した。10年間で430兆円に上る巨額の公共投資を日本は約束した。それに1500兆円の個人金融資産を持つ日本のマーケットを狙った、アメリカを中心とする金融自由化をもとめる「外圧」が拍車をかけた。日本の金融自由化は1993年頃には終了した。しかしそのころバブル崩壊による不良債権問題に直面した。1996年に始まる橋本龍三郎内閣は、「行革」、「金融システム改革」、「経済構造改革」、「社会保障改革」、「教育改革」の六大改革を提唱した。規制に利益を見出す企業や、規制で権限を強化する各省など既得権を有する側の抵抗はすさまじかった。橋本内閣は「経済審議会」で六大改革の規制緩和を公開で審議した。官僚にとって公開は、ごまかしのきかないお白洲となった。省庁再編も「一府十二省庁」となった。大蔵省の腐敗を暴いたスキャンダルにより、金融庁が切り離されて財務省と替わった。日本の金融自由化は規制改革と同時期に進行した。「護送船団方式」という規制に守られた金融制度の仕組みが、生長する日本経済にとって桎梏となっていた。1996年橋本内閣は「日本版金融ビックバン」を実施した。こうした金融規制の緩和に取り組む中で1998年日本初の金融危機が発生した。政府系メガバンクと山一證券・三洋証券が倒産または国有化された。金融監督庁は柳澤・野中・4小渕のコンビで、金融機関の国有化をはじめとする金融システムの再建という荒治療を行い、金融機関の破たん処理、一律3000億円の横並び公的資金の導入となる第1次、第2次の公的心金御導入によってようやく沈静化した。その後日本のメガバンクの整理統合がおこなわれ、外国と競争しても潰れない規模とする3つないし6つに集約された。ところで行政改革は果たして成功したのだろうか。どうもはっきりしない。行政改革と金は非常に密接に結び付いている。道路特定財源と日本道路公団ファミリーの関係である。もう一つは年金福祉事業団と厚生年金・共済年金の潤沢な資金を切り離すことができないのである。2001年小泉内閣の制度改革が始まった。財投改革は制度の中に巣くっていた官僚機構というタックスイーターを追い出す重要な戦いとなった。2005年日本道路公団は3つの地域会社に分割された。2001年に年金福祉事業団は解散させられ、2006年より年金積立金管理運用独法となった。2008年には3つの公庫は統合され日本政策金融公庫となった。財政投融資は、資金の入り口である郵便貯金・年金基金・簡易保険の2本柱であり、出口が特別会計・公庫・公団などの特殊法人や地方自治体であった。2001年「特殊法人等改革基本法」が成立して、資金の入り口を金融市場を介することになった。この小泉改革によって相当規模の規制緩和と公共部門の縮小が進んだ。その最後の仕上げが郵政民営化であった。小泉政権の総括としては、内山融著「小泉政権」(中公新書 2007年)に詳しい。小泉政権が行った行革とは、@財政改革と公共事業費の削減、A不良債権処理と金融再生、B社会保障制度改革: 年金制度と医療制度改革、C特殊法人改革: 石油公団の廃止と特殊法人の民営化、道路公団の民営化郵政事業の民営化、D地方財政制度改革: 補助金の削減、地方への税源移動、地方交付税改革という三位一体改革、E規制緩和:構造特区制度、市場化テストなどである。日本政府の行革は、橋本龍三郎と小泉信一郎の二人が果たした業績に支えられているといえる。

4) タックスヘイブンー多国籍企業の租税回避

2013年ギリシャ国債の暴落の余波を受けてキプロスは一気に金融危機に陥った。なぜならキプロスの金融機関の資産が同国のGDPの8倍もあったからである。米国では等倍、日本では4倍なので、小さい国としては異常であった。キプロスは1990年代託す・ヘイブンとして有名であった。EU加盟に際しては法人税を5%から10%に引き上げた位、企業の税率は低かった。金融資産の半分近くはロシア・マフィアとロシア新興財閥の脱税資金であったという。裏の経済規模(アングラマネー)は推計であるが、約2000兆円―3000兆円と言われている。世界経済規模GDPはおよそ7000兆円である。スターバックスが2011年から2014年の3年間で1億ポンドの収入がありながら、法人税を英国に全く収めていなかったことで英国国民の反発を引きおこした。その仕組みの秘密は「スイス・トレーディング・カンパニー」を介する国際的税回避手法にあった。米国に本社を持ち、英国に販売会社を置き、オランダに統括会社、スイスにスイス・トレーディング・カンパニーを置く。物の流れはスイストレーディング・カンパニーでコーヒー原産国から輸入し、オランダの焙煎会社から英国の販売会社に納入される。金の流れは、販売会社から売り上げ金をアメリカ本社に利息支払いとして、オランダ統括会社にライセンス料として送る。「スイス・トレーディング・カンパニー」は豆の輸入ではなく取引のコミッション料だけをとる。するとスイスでは外外取引の優遇税制5%が適用されるだけである。次にアップルの租税回避法は「ダブル・アイリッシュ・ウイズ・ダッチ・サンドウィッチ」と呼ばれた。米国に本社を持つアップルは、アイルランドの販売会社と統括会社を置き、オランダに導管会社、バミューダに管理会社を置く。導管会社がグローバル販売をするアイルランドの販社と統括会社にライセンス供与をし、ライセンス料をオランダの導管会社に納入する。アイルランドの法人税は12.5%であるが、アイルランドの法人税制は「管理支配地主義」であるので、バミューダの管理会社の支配を受けているアイルランどの販社はほとんど無税である。米国の法律では法人ではないとみなされ、タックスヘイブン対策税制の適用を回避できる。こうしてアップルはどこの国にも納税せずに済む仕組みである。アップルやスターバックスなどの多国籍企業はオランダを利用する。オランダは外国資本を優遇する様々税制上の仕組みがある。金はオランダの上を流れるだけであるが、アムステルダムの金融センターとしての地位を保つことができる。小さな国の生き残りをかけた智恵かもしれない。複雑で巧妙な租税回避をしているグローバル企業は、スターバックスやアップル以外にも、グーグル、アマゾン、マイクロソフトなどがある。2013年どの、米国外で収入を得て、本国に送金していない企業の主だった会社は、アップル、GE、マイクロソフト、ファイザー、メルク、IBM、J&J、シスコシステム、エクソンモービル、シティグループ、P&G、グーグル、HP,ペプシコなどである。究極のタックスイーターである。世界の貿易額はふえつづけているが、その2/3はこれら多国籍企業の内部取引ではないかという推測がなされている。金融機関の場合は支店の網を張り巡らせるので、金融安定理事会FSBは「グローバルにシステム上重要な銀行」をリストしている。これに指定されると自己資本率規制が重くなる。本国に送金していない多国籍企業はいわば無国籍企業であり、その特徴はメーカーとしての商品ではなく「無形資産」を事業の中核においている。問題はその利益の出し方にあり、これら無形財産(ビジネスモデル)をタックスヘイブンにからめることで租税を回避しているからである。企業の中枢は弁護士や会計士が占め、節税プランという財テクに精力を費やしている。近年タックスヘイブンの調査と規制について検討が進んでいる。無国籍企業をターゲットにし、国際調査報道ジャーナリスト連合ICIJはタックスヘイブンにある秘密口座のデータを公開した。2013年OECDの下部機関FTAもICIJのデータを入手した。日本では「国外財産調書制度」がスタートし、海外に5000万円以上の資産がある人は確定申告を義務付けられる。OECD租税委員会では「税源浸食及び利益移転BEPS」というプロジェクトに着手した。BEPSはG20/OECDプロジェクトに昇格し、15のアクションプランを21014年末までに実施するという。これは米国大統領選で共和党が勝利するとこれらのプランを潰しにかかるだろうという配慮からである。国際決済銀行BISの2013年調査では、外為市場の一日の取引は約500兆円で、実需に基づくのは10%以下であろうとされる。デリバティブの想定元金残高は約70000兆円(実物セクターは年7000兆円)である。いかに金融セクターが肥大化していることが分かる。その中心がタックスヘイブンなのである。経済学が捉える統計データにはタックスヘイブンに蓄積される過剰流動性マネーの動きは取り込まれていない。ましてその投機性の危うさ(バブル、金融危機)は予測外に置かれているので「3年に1回はバブルが引き起こされる」という。このアングラ経済が突然表の経済に襲い掛かるのである。BEPSと金融安定理事会FSBは、リーマンショックのような過剰流動性によるマネーゲームの危険性を指摘し、健全性規制の作業を開始した。その対処すべきメカニズムは次の8つからなる。@金融セクタ―の肥大化、A金融セクターと実物セクターの乖離、B金融セクターのマネーゲームの実態、Cそれによりバブルの生成と破裂、Dバブルの実物セクターへの影響、Eメガ金融機関の救済、F救済する金融政策による過剰流動性の再発、G過剰流動性による次のバブルの生成である。かくして「バブルは3年に1回起きる」のである。

5) 財政改革ー問題と対策

タックス・イーター対策を考えるに際して、まず公共部門における会計の現状を正確に把握できていないことが厳然として存在する。現在の官僚組織には納税者に対する情報提供という姿勢は全くない。納税者がみても全く理解できないように情報をコントロールしているし、公開しても数字はすでに操作されているからである。国税庁は税務訴訟のデータを長い間統制(年間300件ほどあるのを1件と言ってきた)してきた。数字的データーに関する秘密主義は、ある意味官僚による権力独占の根源である。それには現状を正確に把握できる国際会計基準による表記が第1歩である。公会社(特別会計)ではひたすら赤字を垂れ流していることが分かる。会計基準が法律ごとに異なり、異なる会計基準が林立しているので、これを統一した会計基準に改めることであろう。特別会計は一般会計に統合し一覧性を持たせなければならない。2007年に制定された「特別会計に関する法律」がそれである。特に社会保障制度においては、一般会計30兆円だけではわからない。社会保障の全体の支出ベースは100兆円を超えているからである。そうでないと一般会計からわかる1010兆円に及ぶ政府長期債務残高よりはるかに大きな債務が存在するのである(別に1500兆円ともいわれる)。有名無実の予算制度の実態と課題については田中秀明著 「日本の財政」 (中公新書 2013年 )が指摘する通りなので省略する。結局予算のチェック機能(予算と実施について)である、会計検査院制度に問題がるようだ。憲法第90条に「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は次の年度にその検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない」となっており、国会、内閣、裁判所という三権から独立した機関であると定めている。会計検査院はタックス・イーターの監視と是正の権限を与えられているにもかかわらず、その機能を果たす意欲も能力もない。会計検査院は単位「会計経理」の仕事だけの時期もあったが、2005年の法改正があり、政府の政策の経済性、効率性及び有効性などの観点d仕事をすることが謳われた。ところが会計検査院は会計監査の域にとどまり、業務監査まで踏み込んでいない。会計検査院に番犬として機能が要求されるのである。民主党政権の時「事業仕分け」という仕組みで政治家を動員して公開の会計検査を行っただけで定着はしていない。会計年度の決算に関する問題は、国会両院の議決に法的効果がないことである。政治家もマスコミも国民もだれも決算(金の使われ方)に関心をもたない。両院の決算委員会はまじめに審査を行わない。2年以上審議をせずにたなざらしすることもあった。1997年国会法が改正され衆・参議院に「決算行政監視委員会」が設けられた。ところが実際は税務署に会計検査院の査察が入るだけで、大規模プロジェクトの評価(高速道の建設など)はできていない。会計検査院には審査請求をすることができるが、裁判所では「利害当事者ではない」といつも玄関払いをしてきた。「司法消極主義」は一つの懸案事項である。国にたいする公金検査住民訴訟制度がないことが最大の問題であるが、2005年日弁連は「公金検査請求訴訟制度」の提言をした。「財政改革ー問題と対策」という主題に対しては、著者の結論は尻切れトンボに終わっている。物足りなさを感じる。


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