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朝日新聞経済部著 「電気料金はなぜ上がるのか」 
岩波新書 (2013年8月 ) 

総括原価方式と地域独占体制に守られ、原発推進国策を担って国民にツケを回す電気料金

朝日新聞社は東京電力福島第1原発事故を受けて、特別報道部を組み長期連載「プロメテウスの罠」を開始した。「SPEEDIはなぜ活用されなかったのか」など独自の取材で原発事故の実態に迫ったシリーズとして、好評であった。朝日新聞経済部は2012年5月より「教えて、電気料金」という連載企画を開始した。13年2月にも同企画は連載を行い、電気料金の中へ原発事故処理費用および原発廃炉費用を織り込もうとする電力業界と経産省の動きを警告してきた。電気料金の中にはさらに核燃料サイクルなど実現性の乏しい技術開発費用も含まれている。本書はこの「教えて、電気料金」連載記事を再構成してつくられた書物であるという。このような電気料金の算出法を可能にしたのは、経産省の電力会社会計方式である「総括原価方式」であり、普通の民間会社での経営努力を必要としない電力会社の殿様商売が成り立っている。電力会社の言いなりに高い電気料金を払わざるを得ない消費者は、市場原理にもとずく安い電力会社を選択することができないからである。つまり9電力会社の地域独占体制が「電力の安定供給」というお題目のもとに経産省の指導と規制でできているためであり、そこには自由市場はない。国と電力会社の言いなりの状態でこのまま原発推進体制が維持されされていいのだろうか。そして再び原発事故という過ちを繰り返していいのだろうか。安倍内閣の下で原発再稼働と原発輸出が進められている今こそ、電力市場の自由化、つまり発電と送電事業の分離を行い、新規の電力会社の参入しやすい環境を整備することが、国策である原発推進と原子力ムラの独占体制を打破する糸口になるということが本書の結論である。原発事故後から相次ぐ電気料の値上げが行われたが、電力会社はつも「原発が止まり、火力発電の燃料費が増えたから」という説明をするが本当だろうか。2012年9月東京電力は家庭向けの電気料金を平均8.46%値上げをした。13年5月には関西電力が9.75%、九州電力が6.23%の値上げをし、東北電力が11.4%、四国電力が10.94%、北海道電力が10.2%の値上げを申請してる。もともと日本の電力料金はドイツ、イタリアに次いで高い。米国や韓国の2倍以上の電気料金を日本の家庭ではおとなしく支払っている。電力会社は電気料金の値上げを、原発再稼働の脅かしに使っている。「原発が止まっているから、高い石油やLPGという燃料を使わざるを得ないからだ」という説明である。では原発が再稼働したら、原発事故前の電気料金に戻るかということは決してありえない。別の理屈をつけて高止まりのままであろう。この電力会社の説明は、問題のすり替えであり、電気料金の値上げは原発と核燃料リサイクル政策を維持・推進するために行われているのである。それは原発のコストに占める燃料費の比率を見れば明らかである。福島原発事故後も、全国の原発を維持し管理するための巨額の費用が電気料金から賄われている。原発が動こうと止まろうと原発の維持に必要な費用は発生するのである。原価の言葉でいえば、原発の固定費用が膨大で、原発が止まっても石油発電のような比例費用とはならないである。このような仕組みを可能にする現状の電気料金計算方式を「総括原価方式」という。

福島原発事故後、再稼働が難しくなり各地の原発(2基以外)は止まっている。しかし原発マネーは止まってはいないのである。それを支えているのが消費者が払っている電気料金と税金である。本書はまず第1に原発コストは本当に安いのか、公表される原発コストには隠された部分がるのではないかという疑問からスタートする。そして第2に電気料金のからくりを経産省と電力会社の合作である「総括原価方式」にあるとみる。第3に集めた電気料金が流れ込む核燃料サイクルの欺瞞と浪費を暴く。この3章が本書の前半である電気料金のからくりである。本書の後半は原発再稼働を急ぐ原子力ムラの暗躍と電力会社の独占を打ち破る電力自由化について、そして廃炉にかかる費用と今後の課題についてである。さて電気料金の本論に入る前に、原発コストと原発の経済性について考察した本を2冊紹介する。一つは大島堅一著 「原発のコスト」 (岩波新書 2011年12月)である。著者の大島氏は民主党内閣の内閣官房国家戦略室 エネルギー・環境会議コスト等検証委員会委員に就任し、初会合で電力会社の有価証券報告書をもとに試算した発電単価が、政府試算の約2倍の11円から12円となることを発表した。ここでいう「原発コスト」とは狭い意味での「原発発電コスト」ではない。@福島第1原発事故損害賠償費用、A原発発電コスト、B立地対策費などの原発推進行政費用、Cリサイクル費用、放射性廃棄物処理費用など総合的な原発コストを考察している。ほかと比べて安いといわれてきた原発の発電コストには、立地対策費や使用済み核燃料の処理処分費用、さらにMOX燃料などのリサイクル費用さらに事故対策費用などが含まれておらず、いわゆる「社会的コスト」、「インフラコスト」はすべて政府と国民に押し付ける身勝手な「総括原価方式」であった。電力会社は政府の原発政策に乗って電力の安定供給に務めて潤沢な利益を受け取り、リスクや社会的コストは国民に投げるというスタンスで原発事業が推進されてきた。まずコストを皮革して考えるうえで現状の電源構成が究め恣意的であり、出力調整が出来ない原発ではフル運転(稼働率70%)が宿命つけられ、火力(稼働率45%)や水力発電(稼働率20%)がその出力調整役を担っている現状ではまともに比較できない。政策コストで最大の電源三法交付金(原発1基あたり廃炉までに1240億円の地方交付金)と技術開発費を考慮すると、なんてことは無い一番高いのが原発(10.25円/Kwh)であった。 火力発電が9.9円、水力発電が3.9円であったという。原発事故リスクコストを考慮すると原発コストはさらに1.2円/Kwhアップし、11.75円/Kwhとなる。原発事業は私企業でいえば事業の中枢たる研究開発部門および公害対策環境部門が国に依存しているのである。頭と尻を切り離してコストを計算しても製品の原価計算にはならない。これが原発の「総括原価方式」で経産省が認可している計算方式である。これでは原発で電力会社が儲かる仕組みであり、原発に傾かざるを得ないように誘導された原価計算である。大島氏の結論は、いわゆる「原子力村」(原子力複合体)という利益共同体は、学識経験者という専門集団、政治家、経産省と資源エネルギー庁、地方自治体、電力会社、プラントメーカーから構成され、「原発の安全神話」に乗っかって原発を強引に推進してきた。原発批判派、反対派は審議会などから徹底的に排除され御用学者だけの政策決定が行なわれ、電源立地3法から莫大な金が流れ込む地元地方政界では反対派には暴力を含む徹底した村八分が実施されてきた。この原子力複合体を解体することが、原発に依存しない社会形成や原発推進を阻止する有効な手立てとなる。そのためには発送電力分離方式で電力会社の独占体制をゆるがすこと、電力自由化により電力の選択肢をふやすこと、原発開発に関する組織の改廃が必要であるということである。

原発発電コストよりさらに国策としての原発推進体制の経済性を検討した、室田 武著 「原発の経済学」(朝日文庫 1993年8月)をみると、総括原価方式の歴史は古い。1931年には戦争遂行のための官僚統制が強まり、電力事業法全文改正が行なわれ、電力料金は政府認可制に変わった。そこで料金算定のため「総括原価方式」が採用された。鉄道や電力は線路と電線というインフラ整備という技術的問題からある程度までは独占はやむをえないという「自然独占」とみなされた。「総括原価方式」は簡単にいうと適正原価+適正利潤を評価することである。民間の電力会社の反対があったものの1937年には「電力国策要綱」が閣議決定され、1939年には日本発送電(株)が発足した。戦後はGHQの指導のもと松永安左衛門は「日発を解体し、発送配電の9社案」を主張し、吉田内閣は9電力会社の地域独占を認めた。この時期に電力業界で議論されたのは、先の総括原価のうち適正利潤の算定法である。「積み上げ方式」は規制当局が支払利息、配当金、利益準備金などを加算する法式である。それにたいしてレートベース方式とは設備投資の促進に重点を置いて、投資のための社債発行、借り入れ金をスムーズにする方式で、既にガス事業では1956年から実施されていた。1960年通産省は「電気料金の算定基準に関する省令」によりレート方式を採用した。そこでは固定資産、建設中資産、運転資本、繰延べ資産の和がレートベースであるとされた。普通はアメリカの総括原価方式には建設仮勘定は導入されない。日本では半分の建設仮勘定を算定の加えたのは、設備投資拡大を急いでいたためである。さらに核燃料保有量を「特定投資」としてベースに加える。最後にベースに乗じる報酬率は8%(1987年からは7.2%)とされた。日本原電(株)に対する9電力会社の投資(株保有)は収益的投資とは見なさないという勝手な解釈も付け加えて、電気料金が評価されるのである。まとめるとレートベース=電気事業固定資産+保有・加工核燃料+建設中資産の半分+特定資産+運転資金+繰延資産となり、適正利潤=0.08×(レートベース)、総括原価=適正利潤+適正原価、電力単価=(総括原価)÷(販売電力量kWh)となる。こうした料金算定法による肥大した事業報酬を銀行借入金の利子払いに充当することで、一層多額の設備投資が可能となったのである。いたれりつくせりの政府の原発政策である。9電力合計でみる電源別発電単価は1990年度で水力が4.7円、火力が10.7円、原子力+揚水発電が12円/kWhであった。なお設備稼働率は1990年ではどの電源でも50%であった。原子力発電のコストが安いというのは真っ赤なウソである。むしろリスクを別にしても一番高いというべきである。 原子力発電は技術的に可能であることは、それが市場経済で経営的に成り立つ事業を保証するものではない。1957年アメリカの原子力委員会が見積った「大型原発の大事故の理論的可能性」によると、「損害額70億ドル、死者3400人、負傷者4万人」と見込まれ、もし民間保険会社に無制限の賠償を請求すれば、原発事業者と契約を結ぼうとする民間保険会社はいないだろう。そこでプライス・アンダーソン法を定めて「広衆にたいする責任負担として、民間保険6000万ドル、政府責任保険5億ドルを上限とする」とした。事故の責任の殆どは原発事業者ではなく国民の税金で賄うとする法律である。日本では1955年「自主・民主・公開」を原則とする原子力基本法が制定された。1956年に日米原子力協定が結ばれるとき、日本に濃縮ウランを引き渡す際一切の責任からアメリカ政府は免責されるということになった。アメリカ政府は原子力の危険を熟知していたのである。日本政府は1961年国会を通過した「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法)を公布した。そもそもこの法律は、自動車損害賠償保険法などと違って、最初から「被害者の保護」と「原発事業の健全な発達」を同等の目的としたものであった。原発事業をも事故から守る事を目的とする。原賠法は事故の責任は事業者が負い無限責任を謳っているものの、「異常に巨大な天災地変または社会的動乱」による原子力損害を、事業者責任の免責事由としている。9電力各社は最終需要者に対して電力の供給独占者であるばかりでなく、卸電気事業者(地方自治体水力事業、共同火力、私営水力、電源開発、日本原電など)に対して需要独占者の立場を法的に享受しているからである。電力の供給独占者としてグループごとに利潤最適化をはかる「価格差別化」を実施して独占利潤は極めて大きい。そして日本原電に対しては高い価格で電力を買い、地方自治体の水力発電は安く買い叩くという「完全価格差別化」政策を取れるのである。大口需要者であり9電力会社の筆頭株主や大株主でもある地方自治体は、小売価格の3倍前後の電力を買わなければならない。こうして電力会社は地方自治体を支配することが出来る権力そのものになっている。原発の発電コストが決して安くはないということが、増え続ける放射性廃棄物の処理や保管に要するコストが顕在化するにつれ明らかになってきた。原発総体コストは、大事故時の損害賠償は国が面倒を見るという気楽さはあるにしても、電力会社の経営を次第に圧迫しつつある。こうした原発の不経済性を端的に示すのが「使用済み核燃料の再処理」である。高速増殖炉のプルトニウムの再処理コストが動燃やフランスからの要求によって具体的な数値が出るに及び、1981年通産省も再処理費用がプルトニウムの燃料価値を上回る事を認めた。実際アメリカでは再処理の試みは失敗し実用化されていない。使用済み核燃料1トンあたり1億5000万円の損失となる。再処理はすればするほど経済的損失を生む。

1) 隠された原発コストー電気料金値上げやむなしのウソ

電力会社が電気料金値上げの常套句としている「原発が止まり、代わりに動かす火力発電の燃料費がふえたから」という説明は本当なのだろうか。火力発電の燃料費が高いことは承知しているとしても、発電にかかる費用は発電量に比例する燃料費だけではない。原発には膨大な設備費が必要でありその償却にかかる費用、原発が稼働していなくとも維持・管理にかかる費用に多額の費用がかかっている。電気料金の値上げが「原発は安いから、原発の再稼働を」という論理へすり替えられていることが、最大の問題である。日本原子力発電という会社は原発専業発電会社で、東海村第2原発と福井県敦賀原発1,2号機を保有し、東電と関電に電力を売っている。2013年経産省は大阪で関電の電気料金値上げの市民向け公聴会を開いた。関電は日本原電の敦賀原発と北陸電力の志賀原発より電力を買っている。関電は原発の再稼働を前提とする原発維持管理経費「基本料金」としてあわせて年466億円を支払っていることが指摘され、市民から「活断層の疑いが濃い敦賀原発2号機は再稼働の可能性が低いのに基本料金を払い続けるのはおかしい」という疑問が出された。2012年11月関電の値上げ申請は、発電費用が年間2兆7000億円となり約3600億円増えるので、家庭向け料金をを平均11.88%値上げしたいというものであった。原発が稼働しているときの2つの電力会社への基本料金はあわせて594億円で、稼働しない現状でもその8割を支払うという契約である。その内訳は減価償却、諸経費、修繕費、人件費、再処理費用、事業報酬などである。原価でいうと基本料金という固定費と従量料金という比例費の2つかなる。もし関電、東電が日本原電に基本料金を払わないと間違いなく日本原電は倒産するので、その後始末を考えると電気料金から支払うか税金からという選択となる。結局電気料金からが一番取りやすいという経産省の目論見があったようだ。原発が止まった現在でも(関電の2基を除いて)電力9社と日本原電を合わせると原発費用として1兆4000億円を維持管理費用として費やしている。稼働しているときの平均74%となる。原発は動いても動かなくても大変な金を食うモンスターである。原発電力は総括原価方式で利益を約束された商品なので、動かないと電力会社の経営が極端に悪くなる。電力会社の原発関連費用には、福島原発事故の賠償金の負担も加わった。電力会社が払ってきた事故賠償保険「原子力損害賠償保険」(1200億円が限度)は焼け石に水であった。政府は福島原発自己賠償金を東電だけでなく11社からなる電力業界に求めた。賠償金を5兆円とみて特別国債を発行し「原子力損害賠償支援機構」を作り、11社(東電も含む)は一般負担金を初年度の2011年に1630億円を支払うことになる。東電は特別負担金(額未定)を支払うことになっている。30年かかって電力業界は国債を償還する予定である。東電の連帯保証人とされた10社の電力会社は早くも出し渋り始め、初年度は半分の1008億円しか集まらなかった。2012年11月東電は損害賠償額は10兆円にもなるとみて、早くもギブアップのサインを政府に送っている。賠償金以外にも溶融燃料棒処理や廃炉費用を東電は1兆円と経理上はみているが、汚染水漏れも加わって費用がいくらになるか予想もつかない。もし賠償と廃炉費用が10兆円かかるなら、原発発電コストは9.3円/Kwhとなる。この発電コストはLPGと同程度である。

電気料金の「ご使用量お知らせ」には書かれていない見えない税金がある。「電源開発促進税」という原発を促進するために払っている税金である。税額は1Kwhあたり0.375円(毎月300Kwh使う家庭では110円になる)であるが、総額約3500億円となる。これは「特定財源」で約1000億円が「電源立地地区対策交付金」となる。この地方自治体への交付金は運転開始後減額されてゆくので、原発立地地方自治体にとって、頼みの綱となるか麻薬となるかの分かれ目である。ソフトには使えなくほとんどが箱モノにしか使えない。そして建設費用は一部自治体負担となり、負担金の返済と箱もの維持経費が地方自治体の財政を圧迫する。だから次の原発の増設を切望する魔の循環(しゃぶ切れ、禁断症状)となる。石橋克彦編 「原発を終らせる」(岩波新書 2011年7月)において、東京自治研究センターの伊藤久雄氏は「全国の原発立地市町村の財政状況を見ると、財政指数が1を上回り、歳入オーバーで繰越しが可能で、公債比率が10%以下の市町村は、東海村、刈羽村、大熊町、玄海町、御前崎市、女川町、泊村、東通村、楢葉町、敦賀市、おおい町、高浜町である。ところが原発所在地でも財政が苦しいのは、柏崎市、双葉町、美浜町,松江市、伊方町、石巻市、川内市などである。なぜかというと、原発関連交付金(電源三法による)と固定資産税収入による財政効果が違うからである。出力135万kwの原発立地の試算では原発関連交付金(電源三法による)により、10年の建設期間に481億円、運転開始から毎年約20数億円が市町村にはいり、そのほか国交付金が様々な名目で数億円づつが交付される仕組みである。ところが固定資産税は耐用年数16年で計算され、運転開始から5年で半額査定となり、20年経つと簿価1億円程度に減額される。だから古い原発を持っている市町村に入る固定資産税はと減価償却で激減してゆくのである。原発関連交付金(電源三法による)の財源は電力料金である。電気料金は1000kwあたり375円が電源開発促進税(年3100億円)として電力会社よりエネルギー特別会計にはいり、原発関連交付金(1638億円の7割 2010年)となる。原発マネーによって豊かな地域社会を築いてきた双葉町や大熊町は第1原発の廃炉によってその「豊かさの基盤」を失うのである。第2原発のある富岡、楢葉町は今避難を余儀なくされているが、今後の復興の道のりは険しい。」と述べている。また福島大学経済経営学類教授の清水修二氏は「原発の地元市町村長は原発運転再開を求める声が大きいと伝えている。地元にとっては「迷惑施設」を受け入れた見返りの電源三法による振興策は手っ取り早い地域振興策である。問題は今回の福島第1原発事故で原発は危険である事が分ったが、いまさら手を切るわけにもゆかない」という悩みであろう。電源立地効果の一過性問題で地元には一時的に金が入り、一躍トップクラスの所得水準になるが、原発の建設が行なわれると大きな産業構造変化を伴う。電力業界が第3次産業である事から第3時産業比率が一挙に高まり、一時的に建設業という第2次産業が栄えるのである。だから地元は原発の増設を願い、夢よもう一度と地元政治家を動かす。原発は麻薬だといわれる所以である。市町村は挙げて城下町になり地域経済の自律性は喪失される」という。次に不透明な電気料金制度の中で「再生エネルギー発電促進賦課金」は、電力会社は太陽光電力を38円/Kwhで買い取り、電力会社は10円で売るので差額 28円は利用者にお荷物のように負担してもらうというものだ。この制度が自然エネルギーの普及促進になるのか、原発至上主義の電力事業界の嫌がらせなのか微妙なところである。政府は2012年7月原子力損害賠償機構から1兆円を出資して東電の株式の過半数を持ち「実質上国有化」した。東電がつぶれるの防ぎ、当事者不在で政府が賠償責任や除染の責任をとるのを嫌がって形式的に東電を残したのである。その代わり莫大な負債を税金で負担することになった。2012年11月5電力会社はいずれも原発再稼働を前提とする電力料金値上げを申請をした。電力会社は再稼働の時期を13年7月とおいたが、原子力規制員会は7月に規制基準を決めたばかりで、再稼働申請はさらに先のことである。安倍内閣は再稼働の動きをさらに早めるかもしれない。その前に目の上のたん瘤である田中規制員会委員長の更迭もあるかもしれない。

2) 電気料金の仕組みー総括原価方式の甘い体質

たとえば2013年5月に申請された関西電力の電気料金の内訳は、図から読み取ると総額2.7兆円で1兆円弱が燃料費、3000億円が他社からの電力購入費、3000億円ほどが減価償却費、2500億円ほどが修繕費、2000億円が人件費、3000億円ほどがその他経費(広告、会費など)、2000億円ほどが税金、1000億円ほどが事業報酬となっている。電力会社の収入とはほとんどが電気料金である。いったん政府(経産省)に原価を認めてもらえば、料金設定ができる。事業報酬(一般企業では株主配当などの利益をいう)を確保したうえで、経営努力はさらなる経費削減に努めれば剰余金を蓄積できる。概してかっての政府系企業は(道路公団、国鉄など)はずぶずぶの高コスト体質であったといわれる。電力会社でも子会社、関連企業との取引や燃料購入には膨大な費用をかけても意に介さない体質があった。それはすべて原価に転嫁できるからである。官僚以上に官僚的といわれる東電はまさに国策企業で、民間企業の経営努力とは別世界にいたといえる。原価に入れている事業報酬、広告費、人件費、加盟団体への会費、厚生費について見てゆこう。電力会社の利益は原価の中に最初から組み込まれている。それは「事業報酬」という項目である。普通の民間企業は営業利益から借り入れ利子を払い、純利益から配当を出す仕組みであるが、電力会社の事業報酬とは借金の利子から株主配当まで含んでいる。事業報酬はどのように計算されるのだろうか。発電設備など「電気事業用資産」の評価を積み上げその合計額の30%を自己資本(株式発行などによる自己財産)とし、残り70%を「自己資本以外」(借入や社債をさす)とみなす。そのうえで電力会社によって数値は異なるが、九州電力の場合は自己資本に対して6.21%、自己資本以外に対しては1.49%を事業報酬として算出するのである。自己資本につぃては配当率が、自己資本以外に対しては借り入れ利率が念頭に置かれている。話を簡単にすると事業用総資産を1兆円とすれば、3000億円が自己資本、7000億円が自己資本以外となるので、事業報酬は290億円と計算され、事業報酬率は2.9%となる。ところが実際の電力会社にとって自己資本率は30%はない。東電では2012年3月決算では自己資本は5%に過ぎない。自己資本が過剰に見積もられた分だけ利用者は電気料金を過剰に支払うことになる。東電は1−4号機を廃炉とすることを決定しているので、2012年の有識者会議はその原価償却費を原価に含むことは認めらえないとしたので、東電はしばらく再稼働はありない5,6号機も含めて電気事業用資産から除外した。しかし福島第2原発の維持経費は原価に入れた。このように電気の発電に使われない設備費用も電気料金に含めることがなされている。普通の企業では見込み違いで生産をやめた場合、工場の建設費は無駄となり損失となるが、電力会社は違う。発電所の原発設備が生産をやめても、火力発電の原価に転嫁するようなものである。そこが電気料金の総括原価方式のからくりである。死んだ資産を含めて自己資産を過剰に見積もることで電力会社は事業報酬が貰える仕組みである。

2012年夏以来、全国で2基(関電大飯原発3,4号機)しか原発は動いていないが(日本での稼働原発は54基あった)電力不足はなかった理由は、消費者の節電と電力会社が電気をやり取りする工夫を始めたからである。夏の電力ピーク時に余る発電能力を「予備率」というが、政府は10%程度を目安としている。2013年9月7日の朝日新聞は大飯原発停止後の電力需給見通しを報じていた。『関西電力は6日、大飯発電所4号機(福井県おおい町、出力118万キロワット)が停止し、再び「原発ゼロ」になる再来週の平日(17〜20日)も、供給力に対する電力使用率は最大で90%に収まりそうだと発表した。猛暑が一段落し、電力供給は当面、安定する見込み。 大飯3号機が停止した今週(2〜6日)は気温が低めだったため、使用率は77〜82%で推移。』という。関電では原発の再稼働計画を実行すれば2015年には予備率は15%にもなる。節電のために毎年51億円の広告費をかけて呼びかけているが、電力料金値上げによってさらに節電へのインセンティティヴが働くはずである。電力会社の本根は本源的節電だと売電量が下がるので、節減効率を上げながら電力使用量を増やしてほしいといういうに言われぬ矛盾した願いを持っているようだ。電器メーカーは省エネルギー機器の売り上げ増加を狙う。電力業界の広告宣伝費は巨額である。2011年の10電力の合計は866億円で、リーマンショック以来トヨタは宣伝費を半減したが電力業界は16%しか減らなかった。電力業界は宣伝費を減らすという経営努力をしない理由には、電力原価に「普及開発促進費」がふくまれているからである。電力業界の広告単価は他の業界の5割高であるそうだ。東電の「普及開発促進費」は2011年度で269億円、テレビラジオ向けに70億円、新聞雑誌広告に46億円、PR施設に43億円となっている。事故後2012年度の「普及開発促進費」はさすがに20億円に減った。経産省が値上げの際にルール変更を行い公共目的情報提供以外の広告宣伝費を原価に含めることを許可しなかったからである。東電は2012年の電気料金値上げで、Kwh当たり2円40銭引き上げた。家庭用で8.5%、大口電力は15%の値上げ幅となった。値上げ前の単価は家庭用で23円34銭/Kwh、スーパーなど6000ボルト高圧で19円51銭、2万ボルト特高の大口電力では14円5銭であった。企業向けの大口電力単価が交渉で決まるようになったのは2000年以降の電力自由化のためである。11年の調査によると東電の利益の9割は家庭用であり、10電力会社の5年間の電力売り上げでは家庭用が全体の4割に過ぎないが、利益の7割を占めていることが経産省審議会で明らかにされた。電力会社は自由化の及ばない規制部門である家庭用で儲けている構図となる。家庭では高い電気量を払わされている。

「人件費」で計上されている従業員の給料は他の業種に比べて妥当であるだろうか。2012年度の社員の平均年収は九州電力で826万円であった。地元大企業のの平均年収が646万円を大きく上回っていた。社員一人当たりの売電量という労働生産性が高いという説明は、委託の別会社にして社員を異動させ分母を減らすからくりである。事故を起こした東電では2012年の電気料金改定において社員の年収を30%減額し、平均590万円として公務員以下にしたという。役員報酬は関電で平均4100万円であったのを中央官庁幹部並みの1800万円に下げたという。次に原価の中に含ませている「一般厚生費」とは、各種福利厚生施設や旅行補助金などであるが、関電では年57億円であった。関電は値上げ申請にあたって、2013年夏のボーナスをゼロとし、保養所を全廃したという。さらにアベノミクスによる円安促進政策は燃料を輸入に頼っている電力業界には負担増につながる。「燃料費調整制度」とは「平均燃料価格」が別途定めた「基準燃料価格」の1.5倍までは自動的に料金に反映させる制度であるが、「基準燃料価格」を2008年以降電気料金改定に合わせてリセットできるような仕組みにした。これにより燃料価格の暴騰には上限なく電気料金に上乗せできるのである。これを制度の骨抜きという。自分たちが作った規則を都合で無きものにする裏技である。燃料費が高騰している昨今であるが、明るいニュースがある。それは米国産シェールガス価格が日本の購入価格(マレーシア、オーストラリア、中東カタールなどから輸入)の1/4以下に下がったことである。東電の電気料金値上げ申請審議において、経産省は休んでる原発の維持費や安定化費用を原価に含めるとしたが、廃炉や賠償の費用は原価には入っていない。東電の事故処理費を電気料金から出してゆくと、東電は経営が圧迫され、つぶれない程度でしか事故処理に対応しないという事態になる。東電が汚染水漏れ、除染、賠償などでお粗末な対応しかしないのはそのせいである。国が廃炉や除染、賠償にどこまで前面に立つか今後の国民の合意が必要である。

3) 電気料金はどこへ流れるかーブラックホール化した核燃料サイクル事業

電気料金が支えているのは原発の維持・建設コストだけではない。国の原子力政策である「核燃料リサイクル事業」を推進するために使用されている。1995年日本原子力研究開発機構が敦賀で運転を開始した高速増殖炉「もんじゅ」は運転開始に直後ナトリウム漏れを起して停止し2010年に運転再開直後に事故で停止した。試運転準備中の2013年5月1万個近い点検漏れが分かり原子力規制員会から準備の停止を求められた。1兆円近くの国費を投入した高速増殖炉は大量のプルトニウムを「増殖」できるという夢のプロジェクトであったがほとんど動かないまま20年近くになる。日本の原発の使用済み核燃料は外国(イギリス、フランス)に再処理を委託し、プルトニウム濃度を上げMOX燃料として再輸入する事業であるが、MOX燃料を燃料とする「プルサーマル」原発は東電福島第1の3号炉、東電刈羽原発など数か所で始まったが、福島原発事故後現在すべて稼働を中断している。1997年日本で再処理工場を動かそうとして始まった日本原燃の再処理工場は、青森6か所村の工場運転に19回も失敗をしていまも動いていない。東電福島第1原発「プルサーマル」導入の動きについては前福島県知事が身を張って抵抗した記録である佐藤栄佐久著 「福島原発の真実」(平凡社新書 2011年6月)が大変参考になる。2013年6月福井県高浜町にフランスからMOX燃料集合体が陸揚げされたことは耳に新しい。2010年までの統計によるとMOX燃料の価格は12体で106億円、1体(670Kg)8.8億円、通常のウラン燃料は1体約1億900万円である。MOX燃料は普通のウラン燃料の8−9倍である。通常の原発(ウラン燃料)は、201億円の燃料費で296億Kwhを発電するので、1Kwhあたりの燃料費は0.68円となる。これをLPG火力発電では10.12円、石炭火力発電では3.9円、石油火力発電では14.89円なので、MOX燃料費は石炭よりは高くLNGよりは安いレベルとなる。しかし原発のコストは燃料費だけではなく、再処理費用と最終処分時用を合わせた「バックエンド費用」を計算すると、普通のウラン燃料で1.53円/Kwh、MOX燃料で6.5円/Kwhである。さらの発電設備の費用と修繕費は、火力発電では1.4円/Kwh、原発は3.85円でこれらをすべて加えるとLNGは11.5円、MOX燃料は10.4円程度となる。ただし原発の事故処理費や賠償費用は考慮していない。1999年MOX燃料の英国検査データねつ造事件・東電トラブル隠し事件があって、核燃料サイクル計画は一時頓挫したが、2009年MOX燃料輸送は再開され、浜岡原発、伊方原発、玄海原発に計65体のMOXの燃料が降ろされた。しかし計画はスムーズには行かなかった。そこで5年間で60億円の「核燃料サイクル交付金」という原発マネーによって露骨に誘導すると、福井県、静岡県、北海道、島根県、福島県が受け入れを決めた。2010年12月関電高浜原発でプルサーマル発電が開始された。福島原発事故により浜岡原発が止まったことを受けて、英国セラフィールド社は2011年8月日本向けMOX燃料工場を閉鎖すると発表した。2011年7月九州電力幹部による「やらせメール」事件が発覚した。こうした問題は、電力会社・国・自治体と地元の住民の間に、原発安全神話が崩れたことにより信頼関係がなくなり認識に深い溝があることによる。

2013年2月英国から使用済み核燃料を固めた「ガラス固化体」28本が日本に送り返され、青森県6か所村の日本原燃に持ち込まれた。ガラス固化体は輸入の形をとり価格は28本で34億円である。フランスに委託した高レベル核廃棄物処理の返還は1995年から始まり12年間に1310本が戻り、費用は計55億円であった。英国からの返還は2010年から始まりこれまで計132本、費用は125億円であった。今後約790本が戻る予定で、費用は計1000億円になるという。欧米で核燃料サイクルを続けているのはフランスだけであり、核燃料廃棄物はワンスルーで最終処分するというのが世界の先進国の常識となった。この委託処理及び運搬料金の契約が総括原価方式に守られ、恐ろしく高利潤を確保して日本だけがお得意さんであるにもかかわらず年3000億円の売り上げである。6か所村の再処理工場では、ガラス溶融炉に高レベル核廃棄物廃液を流し込み撹拌する作業がうまくゆかず、試運転中何度も失敗をして、工場竣工は17回延期され建設費は計画の7600億円をはるかに超え、約3倍の2兆2000億円になっている。いまだに日本では再処理工場は運転できていない。一方英仏への搬出をやめた使用済み核燃料は、各原発の燃料プールと6か所村の貯蔵施設にたまり続け、いまや1.7トンとなった。原発発電事業所はまさに言葉通りの「トイレのないマンション」となって糞詰り状態である。原発を持つ10社は再処理のための費用を経産省の「原子力環境整備促進・資金管理センター」に積み立ててきた。その残高は2012年末で2兆5700億円である。この積立金も電力会社の電気料金原価に組込まれている。2006年以来再処理実証実験のため、日本原燃に支払う3000億円をこの基金から取り崩して支払い積立金は減少し始めた。12年度まで日本原燃に流れた金は計2兆1800億円となった。それに福島原発事故によって拠出金が滞り始めた。電力業界(電事連)は再処理や最終処分のバックエンド費用を19兆円と試算した。内訳はプルトニウム取り出し費用を7兆600億円、ガラス固化最終処分費用が11兆円である。すでに積立金から2兆1800億円を使っている。日本原燃は再処理工場建設費を2兆円も使ってなお未完成なのに、MOX加工工場の建設に取り掛かった。計画ではMOX燃料を4800トン作る予定である。価格は9000億円に相当する。それには19兆円の費用がかかるという。高速増殖炉や核燃料サイクルといった欧米先進国がギブアップした技術に、日本ではだれも責任を取らない形で営々と金をつぎ込んでいる様は背筋が寒くなる気がする。官僚無責任大国日本の面目躍如である。

4) 電力業界の思惑ー再稼働、原発輸出、電力自由化

2012年自民党安倍第2次内閣が成立したとき、もっとも復旧したのは原発政策かもしれない。茂木経産省大臣は「2030年代に原発ゼロという前内閣の方針を見直し、原発の新設は認めないという方針も白紙に戻す」という考えを示した。政治的には河野談話や村山談話を見直すという自民党保守派の主張と符牒するのである。しかし2013年秋に行った討論型世論調査では国民は「原発ゼロ」の意見に賛成した。このような国民の声を無視するかのように、水面下では昔の原子力ムラ(電力業界・原発メーカー・経産省・商社・原発設置地方自治体・学者ら)は自民党政権になって勢いづいている。2013年6月に安倍内閣が発表した成長戦略には「原発の活用」が盛り込まれている。原発再稼働に向けて政府一丸となって最大限取り組むという姿勢である。また自民党のなかでは電力業界の意を受けて電力の完全自由化の前提である「発送電分離」を骨抜きにしようとする動きが活発である。自由化が進まなければ、総括原価方式が維持され、電気料金は下がらないのである。電力業界は原発事故への何の反省もなく、事故前の体制に逆戻りする意図が見え見えである。それほどアンシャンレジームはおいしかったのである。2013年2月電力会社と原発メーカらがメンバーとなる「エネルギー原子力政策懇談会」(会長有馬朗人元文部相)は安倍首相に「緊急提言」なる3か条を手渡した。@福島の再生なくして原子力の未来はない、A国際標準の専門的安全規制の確立を(現在の原子力規制員会をつぶす意図が見える)、B安全を前提としたエネルギーの総合最適計画を確立する(原発の再稼働を明言)というものであった。この提言は経産省官僚が作文したか、深く関与した様子が伺える。東海第2原発の再稼働に反対の村上東海村村長は「電力業界は自民党政権復帰で自信を取り戻している。目の上の瘤は規制委員会だけなのだろう」という。自民党は再稼働を急ぐため規制委員会に強力な圧力をかけ、それでもいうことを聞かなければ委員長を更迭するという手段をとるだろう。現在13年9月時点で稼働している原発は大飯原発3,4号機だけである。攻撃の矛先が規制委員会そのものに向かっている。九州電力は川内原発2基の再稼働を、東電は刈羽原発2基の再稼働を申請した。また安倍首相は山口県で中国電力上関原発建設計画凍結方針を白紙に戻す考えを述べたという。(上関原発のいきさつと反対運動については、山秋 真著「原発をつくらせない人びとー祝島から未来へ」 岩波新書2012年12月20日 が参考になる) 2013年5月安倍首相は中東を訪問し、アラブ首長国連邦とトルコで原発輸出の前提となる原子力協定を結んだ。さらにサウジアラビア・インドとの協定締結を進めることになった。レベル7の福島原発事故を起こした日本の首相が、どのような顔をして原発を売り込んだのかその反省のなさに絶句する。安倍首相の身辺にいる経産省関係者が筋書きを描いて、安倍首相はその通りしゃべっているようである。

2012年東電の西沢社長は電力料金値上げ申請において「値上げは権利」という身勝手な発言をしてひんしゅくを買った。これまで電力会社は独占体制に胡坐をかいて値上げを欲しい儘に許したことに国民が多いに反発をしたのである。自由な競争原理に基づく経営努力をしてこなかった電力会社の体質はこの独占にあった。電力自由化は2つのルートで電気料金を引き下げるであろう。一つは従来の総括原価主義の規制下のように、無駄なコストまで料金に上乗せすることができなくなる。反面、コストを引き下げた企業はその分利潤を増大することができる。このため競争によって発電コストが下がるのである。第2に電力料金が需給のバランスで決まるようになると夏のピーク時間帯の電力料金は高くなる。夏が蒸し暑い日本では、夏の冷房電力需要量が大きく、このピーク時間帯の需要に備えて過大な送電や発電の設備がつくられてきた。ピーク時の高い電力料金によってこの時間帯の需要量が抑えられると、これまでのような過大な施設は不用になり、ピーク時以外の時間帯の電力料金は大幅に引き下げられる。電力自由化または電力市場の自由化とは、広い意味において従来自然独占(地域独占)とされてきた電気事業において市場参入規制を緩和し、市場競争を導入することである。電気料金の引き下げや電気事業における資源配分の効率化を進めることを目的としている。具体的に行われることとしては
1, 誰でも電力供給事業者になることができる(発電の自由化)
2, どの供給事業者からでも電力を買えるようにする(小売の自由化)
3, 誰でもどこへでも既設の送・配電網を使って電気を送・配電できるようにする(送・配電の自由化)
4, 既存の電力会社の発電部門と送電部門を切り離すことで競争的環境を整える(発送電分離)
5, 電力卸売市場の整備
などがある。今最も自由化の前提となるのは、発送電の分離といわれているが、発送電分離とは電力会社の発電事業と送電事業を分離することである。分離の類型としては以下がある。
1, 会計分離: 内部補助を禁止するため、既存電力会社の発電・送電の部門毎に財務諸表を作成する。
2, 機能分離(運用分離とも): 系統運用の中立性・公平性を確保するため、発電・送電部門間の情報を遮断する。
3, 法的分離: 送電系統運用部門を分社化する。資本関係が持ち株会社を通じて維持されることは許容される。
4, 所有分離: 送電部門全体を資本関係を含めて完全に別会社化する。
1の会計分離や2の機能分離は医薬分業と同じことで、同じ会社内でのコントロールが効いているときは書類上の分離に過ぎず実質的に無意味である。3の法的分離や4の所有分離だけがマイルドな現実的分離といわれる。望ましくは資本系列の違う会社や人事交流のない会社の競争が必要である。

政界、財界、官僚の利害が一致した電力行政は一般に原子力ムラと呼ばれるが、旧通産省時代から問題を指摘する官僚(自由化派)はいた。「電力会社は総括原価の枠でなんでも高く買う。つまり安く競争するという発想やインセンティブは働かなかったので、プラントメーカーも商社も鉄鋼メーカーも電力会社に甘やかされてきた。円高が進んだ1990年代後半、日本企業は海外プラント受注で連戦連敗をした。国内経済でも地域経済は電力会社の動向に左右され、構造腐敗がすすんでいた」といい、1995年電気事業法が改正され、発電した電力(例えば鉄鋼会社やガス会社で発電)を既存の電力会社に卸売りする事業が認められた。また特区を決めて新規の発電会社が電力を小売りすること(特定電気事業)も自由化された。2000年には2万ボルト以上の超高圧で電力を受ける工場への電力供給が自由化された。そして2001年の省庁改編に伴い通産省は経産省へ、電力とガス事業はこれまで「公益事業部」だったのを「電力・ガス事業部」へ、原発規制はこれまで文部省管轄だったのを、経産省直轄の「安全・保安院」として推進と規制が同じ手に集約された。2003年の電力改革に向けて東電社長の南直哉氏は家庭用を含めて自由化する自由化論者であったが、発電は誰でもできるから手放してもいいと考えていた。むしろ電力会社の神髄は配送電網(系統){グリッド・システム」にあるという。しかし自由化に積極的だったのは東電トップだけで、新規参入を恐れる電力会社から猛反発を受けたそうだ。こうした守旧派電力業界は官僚主流派を巻き込んで自由派に対する総反撃に出た。2002年の電力改革第3弾は自由化の範囲を超高圧の契約にとどめた。発送電分離には、電力の自由化のために公正な競争が行われる環境を整備するという目的があった。経営努力と無駄排除、原発からの離脱で電力料金の値下げもありうる。電力会社が公益事業(国営企業)から私企業の会社になることである。自由化で真っ先に見直されるのは、経済原則から外れた国策事業である「核燃料サイクル」である。全く採算が取れない「プルサーマル発電」から撤退し、欧米がギブアップした高速増殖炉と使用済み核燃料再処理に膨大な金を注ぎ込む経済的自殺行為から一刻も早く離脱することである。もし原発発電が経済的行為であるならば、赤字垂れ流しを消費者に電気料金値上げで転嫁するということはできない。官僚は「鉄は国家なり」とか「電力は国家なり」という古い国策に正常な判断力を失っている。いまや「核は国家なり」という言葉に酔いしれてプルトニウム大国を目指すことは、すなわち核抑止力競争に巻き込まれることになる。

5) 廃炉そしてその先へ

2012年原子炉等規制法改正により、原発は原則40年で運転を終えることになる。しかし40年を超えた原発3基(日本原子力発電敦賀原発1号機、関電美浜原発1号機、2号機)が再稼働を待っている。原発建設費が膨大なため老朽原発も動かしたい電力会社の要望をふまえて、経産省は廃炉には及び腰である。銀行の不良債権処理を深刻化させた大蔵省の態度に似ている。2012年9月経産省から切り離された規制部門は環境省外局として原子力規制員会となった。2013年7月規制委員会は新しい審査基準を作ったが、新基準への対応にはお金がかかるので、定年に近い原発にお金をかけたのでは回収できない。電力会社は既得権を盾に抵抗するのか、政治的圧力をかけて40年を過ぎても再稼働を認可するよう規制委員会に働きかけるのか予断はできない。運転開始後34年を経過した東海第2原発は再稼働に向けて準備をしている。日本原電が持つ3基の原発のうち、敦賀原発第1号機は40年を経た老朽原発であり、2号機は原子力員会が直下に活断層があると認定したため、東海第2原発は日本原電の頼みの綱である。東海村の村上村長は原発反対の立場を鮮明にして、日本原電に東海村と6市町村と安全協定を結ぶよう求めている。東海第2原発を含め1970年代に運転し始めた原発は計14基もある。原子力規制委員会は古い原発の既得権を認めない(古い原発には新しい基準を適用しないか甘くする)方針であるので業界から猛烈な攻撃を受けている。業界は30年以上経過する原発には、回収できない追加投資をしたくないからである。そこで問題となるのが廃炉費用である。これまで廃炉を決めた原発は東海原発、浜岡原発1,2号機のほかに、今回の事故で廃炉となった福島第1原発1−4号機がある。日本原電は規模の小さい東海原発の廃炉費用に約855億円かかるとみている。2008年中部電力は浜岡原発2基の廃炉に1536億円の特別損失を出した。浜岡原発の場合は廃炉費用の積立金があったので、足りない分を損失としたのである。つまり2基の廃炉費用は全体で2260億円である。実際の廃炉費用は1000億円程度である。廃炉費用の積み立ては発電した期間に限るという制度であるので、浜岡原発は事故が多くて15年間の積み立て不足があった。経産省は2013年5月自民党に対して50原発の廃炉費用と積立金状況を報告した。経産省の積み立て基準は原発稼働率を76%を前提にしているが、どこの原発も稼働率不足からくる積立金不足があり、約1700億円の不足である。電力会社には会計原則の例外が認められており、このような積立金方式が可能である。経産省の会計処置に基づいているため、世間の常識とは違う会計法である。これは以前銀行の不良債権処理を大蔵省が決めていたのと同じ構造である。そこで経産省が狙うのは電力会社の原発廃炉処理による損失を分割して電気料金で穴埋めすることである。2013年6月「電気料金審査専門委員会」の下に「廃炉にかかわる会計制度検証ワーキンググループ」を設けた。電力会社が廃炉で損失を出すと経営が悪化する印象を与えるので、と言って廃炉に公的資金を使うと原発は安いというウソがばれるので、電気料金の原価に潜らせて国民がよくわからないうちに支払わせるつもりである。東電は福島第1発電所原発1−4号機の廃炉費用を1兆円と見込んでいるが、これで済むわけがないことは東電が一番よく知っている。東電の関係者が期待し、新規電力事業者がおそれているのは、この廃炉費用を送電費用に上乗せすることである。そうすると消費者は新規電力会社から電力を買っても、東電の電線を使用する限り廃炉費用を負担することになる。NTTの回線を使いながらNTTより使用料金が安くなる通信情報改革は、この電力事業には全く関係ないかのようである。権力と結びついた電力事業の救いがたい悪弊である。独占公益事業はやはり経済的行為ではない。日本郵便とクロネコヤマトの闘争にも独占公益事業の醜悪さがみられた。


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