130729

目で見る科学1 藤田恒夫・牛木辰夫著 「細胞紳士録」 
岩波新書カラー版 (2004年3月 ) 

さまざまな形態と機能を持つ57の細胞の顔

細胞

細胞の基本構造

岩波新書カラー版に面白い企画の本があった。ひとつは本書 藤田恒夫・牛木辰夫著 「細胞紳士録」であり、二つは野本陽代・R.ウイリアムズ著 「ハッブル望遠鏡がみた宇宙」である。前者はミクロな世界を(といっても素粒子ではなくもっと大きなμ単位の細胞である)、後者はマクロな数千億光年という宇宙のことである。前者は光学・電子顕微鏡の見る世界で、後者はハッブル望遠鏡の見る世界である。どちらの本も理論を展開するのではなく、目で見る科学の本である。めったにお目にかかれる写真ではないので、その衝撃は大きかった。写真は形態を記録するもので、そこから直接的に理論が導かれるわけではない。ハッブル望遠鏡写真は、核の衝突で出てくる粒子の軌跡から新素粒子を実証するように、その背景には膨大な計算が必要である。その点細胞の顕微鏡写真は分子を見ることはできないが、細胞の働き(機能)の謎を解くことができる。細胞の形態はとくに進化や発生分化と密接に絡んでいるので、細胞の場所と形態は生物のミクロな情報を与えることができる。「構造と機能」という捉え方をすると、機能が先か構造が先かという問いには、やはり機能が先という考え方が素直である。進化論でいつも問題になるのは擬似動物心理学で説明するバカらしさであるが、発生の時点でその細胞が局所的に独自に与えられた機能を発揮するために適した独自の形態をとることで細胞は生き延びてきた。構造から機能は絶対に説明できないからである。上図にすべての細胞が持つ基本構造を示した。細胞は大きくは核と細胞質に分かれる。細胞には遺伝子を内蔵する核質があることが生物の基本である。遺伝子によって細胞は複製でき生命を伝達する。遺伝子はDNAであるが、これをRNAに転写する核小体が核質の中にある。DNAはクロマチンというタンパクと結びついて染色体を構成する。ここでできたRNAは核の穴を通ってリゾソームというたんぱく質翻訳製造工場へゆく。一番重要な遺伝子関係機関以外としては、細胞質に細胞小器官が内蔵されてる。リボソームもそうであるが、ゴルジ装置、小胞体、呼吸とエネルギー製造機関であるミトコンドリア、中心体、タンパク質分解装置であるライソゾーム、物質搬出機関である分泌顆粒などが細胞質に存在する。また細胞の骨格づくりと運動に欠かせない繊維であるアクチン、ミオシンも存在する。体の中のどの細胞も以上の器官を含んでいるが、構造の発達や配列の度合いの違いが細胞の顔つきとなる。むろん細胞は組織の一員であるので、その機能を発揮するために存在するので、バラバラの動きをするわけではない。特定の物質を製造するために遺伝子の発現が促進されたり抑制される。植物細胞にはどの細胞1つからでも植物全体を再生する能力があるが、動物細胞にはその能力はない。肝臓細胞が筋肉細胞になれるわけはないのである。ところがiPS細胞技術はこの細胞の分化機能を操作するためにがん細胞の増殖能関係遺伝子を入れるのである。だからその細胞の境界は遺伝子操作技術の進歩で次第にあいまいになりつつある。細胞の形や存在する物質を検出するため、光学顕微鏡では細胞固定と染色(ヘマトキシリン・エオジン染色)を行う。がん細胞検診では光学顕微鏡染色で行っている。経験によるがん細胞の顔つきの判定をおこなうので、がん細胞検診にはあいまいなところが多いのである。光学顕微鏡の倍率は1,000倍が限度であり、透過型電子顕微鏡と走査型電子顕微鏡の世界では数万倍の拡大が可能である。透過型では切片標本をつくる点では光学顕微鏡と同じであるので、断面の透過像が白黒で撮影される。したがって細胞の内部が見える。走査型は反射光の処理により外形の形がそのまま観察できる面白さがあるが、内部は見えない。画像は白黒写真である。筆者らが在職していた(いる)新潟大学医学部第3解剖学教室(現在は顕微解剖学分野)は、走査型電顕による細胞の立体構造の研究では、特異な位置を占めて世界をリードしている。本書でも白黒の走査型電顕写真の組織画像に色を付けてわかりやすく説明するのがユニークである。明治時代のセピア写真に色を付けたようなレトロな感じのする画像である。では本書が披露する細胞写真を見てゆこう。人体の細胞のすべてではないが、代表的な細胞57種を取り上げている。本書には細胞1項目当たり4−7図ぐらいが掲載されており、光学顕微鏡染色写真、透過型電子顕微鏡写真、走査型電子顕微鏡写真のなかで、細胞の形態と機能が分かりやすい走査型電顕写真のみを下の表にアップする。細胞内の構造は透過型電顕写真が適しており、組織内の細胞の形と位置関係は走査型電顕が適している。

細胞紳士録
細胞名発見者・研究者存在する組織細胞の構造と機能電顕写真
1) 線維芽細胞マリー・スタンズ(1940)皮膚・筋肉組織膠原繊維(コラーゲン繊維)を生産、細胞の小胞体とゴルジ装置により合成される。右図は糸を吐き出す細胞は蚕のよう
線維芽細胞
2)  脂肪細胞
-
皮下、腸間膜油滴を細胞内に貯え、細胞膜にコラーゲン繊維を張り巡らす。レプチンというホルモンを生産して「満腹中枢」に伝える。
脂肪細胞
3) 軟骨細胞
-
軟骨軟骨細胞が分泌した軟骨基質に埋まっている。軟骨基質にはコラゲン細繊維とアグリカンという糖たんぱくが存在し水を蓄える。また細胞内に油滴を蓄える。軟骨組織に血管はない。
4) 骨細胞Jベンチャー(1738)
岡田正弘(1937
)骨組織の血液を通す中心管周りに同心円状に何層も存在骨芽細胞は骨の表面で成長期の層状骨形成を行うが、骨細胞は骨内部の無数の洞において骨の新陳代謝を行う。骨細胞には多くの突起で細胞がつながっている。
5) 破骨細胞
-
骨組織巨大な細胞で骨の表面に存在し骨の新陳代謝(消化吸収)を行う。細胞には数十個の核を持ち、ミトコンドリアが豊富である。細胞周辺には波状突起をもつ。塩酸を分泌し骨を溶かす。右図は透過型電顕写真である。甲状腺のカルシトニンをホルモンとして骨吸収を促進する。
6) エナメル芽細胞
-
エナメル小柱が象牙質から表面に伸びる。エナメル質の物質はリン酸カルシウムである。細胞の先端にはトームス突起よりエナメル質が分泌される。エナメル芽細胞は成熟期の名前で、形成が終わると九州細胞に変身する。右図はエナメル小柱である。断面と割断面を示す。
7) 象牙芽細胞Jトームス(1858)歯髄の象牙質細管豊富な粗面小胞体と大きなゴルジ体を持ち、カルシウムを分泌する。細管の中にトームス繊維という細胞突起を有する。葉の形成が終わると休眠し、虫歯が進行すると修復活動を行う。象牙芽細胞には神経が接しており痛みを伝える。
象牙質細胞
8) 水晶体細胞
-
眼球の水晶体線維水晶体は細胞がぎっしり折り重なって層状をなし、相互に突起によって関係している。筋肉のように滑りによる調節ではなく、繊維の弾性によって厚みを変える。弾性がなくなると老眼となり、水晶体の配列が乱れると濁って白内障となる。
水晶体
9) 小腸上皮細胞星猛小腸粘膜小腸上皮細胞の内面に無数の繊毛があり、腸内細菌が入り込まないように、6角柱の背の高い細胞で腸間バリアーを構成する。腸腺より上にはリンパ球が老朽化上皮細胞をバリアーを破壊しないように吸収する。図の右は光顕写真、左は走顕写真。
小腸上皮細胞
10) M細胞ロバート・オーエン(1974)
熊谷謙郎(1922)
小腸の回腸(盲腸)バイエル板の斑紋に埋め込まれたM細胞は、結核菌などの病原体を通過させる。腸管はどこもバリアーで障壁を作っているが、ここだけが免疫の寛容な窓である。
M細胞
11) 表層粘液細胞
-
胃粘膜の胃小窩の内面にある6角柱の細胞胃底腺の壁細胞は食物の分解や殺菌のために塩酸を分泌する。酸から胃粘膜を守るのが粘液(中性ムチン)の層である。ピロリ菌はこの粘膜の中にもぐりこんで酸から身を守る。図の右が胃小窩、左が表層粘液細胞である。
表層粘液細胞
12) 肺胞上皮細胞藤原哲郎(1980)
小林繁・江部達夫(1975)
血管と接する肺胞の上皮細胞、ここを血液空気関門という。血液空気関門を構成するのをT型肺胞上皮細胞といい、肺胞が呼吸の時につぶれないため表面活性剤サーフェクタンを分泌するU型肺胞上皮細胞に分かれる。U型肺胞上皮細胞の表面突起がセンサーとなり肺胞が縮むとサーファクタントを分泌する。
肺胞上皮細胞
13) たこ足細胞W・ツィンメルマン(1933)腎臓糸状体糸状体ではたこ足細胞と毛細血管の壁の間の基底膜をフィルターとして、原尿(90%以上は再吸収される)がこし取られる。たこ足細胞の先端突起(終足)から糖質ゼリーを分泌する。
たこ足細胞
14) 尿細管細胞
-
腎臓尿細管(近位尿細管、ヘレンのわな、遠位尿細管)糸状体を出た原尿(血球など大きなものをろ過しただけ)から栄養分を戻すために再度血液に水分を移す。それが尿細管の役割である。繊毛の発達した近位尿細管で水分と食塩、糖分・アミノ酸が再吸収される。繊毛と襞にあるトランスポーターという膜たんぱく質が栄養物質の運搬を行う。
尿細管細胞
15) ケラチノサイト
-
皮膚表面(基底層・有棘層・顆粒層・角質層)ケラチノサイトとは皮膚表面細胞の上に移動する成長と老化の過程である。基底層は結合組織に足を打ち込み、顆粒層にはメラニン色素を持ち光を吸収し、有棘層は細胞をケラチンというたんぱく質で爪などの角質を形成し、鱗状の突起をもち最後には剥離する。垢である。
ケラチノサイト
16) 線毛細胞
-
気管支内腔面2本セットの周辺細管9組をモータータンパク(ダイニン)が結ぶ。ATPをエネルギーとしてダイニンが一定方向へ滑り、線毛の運動が起きる。線毛の根っこは基底小体という細胞に結合している。線毛は分泌細胞が出す粘液に覆われ、侵入物は咳とともに気管外へ押し出される。
線毛細胞
17) 肝細胞ハンス・エリアス(1949)肝臓毛細血管を挟むように幹細胞板が囲む(ディッセ洞)。幹細胞は多面体で、微繊毛をはやす。幹細胞の働きは多面的で胆汁を外分泌し、グリコゲンの貯蔵と分解、血液タンパクアルブミンの分泌、有害物質の分解、アルコールの分解などで多彩である。働き者で優れもの、それは幹細胞である。
肝細胞
18) 膵腺房細胞
-
膵臓の外分泌細胞系インシュリンを内分泌するランゲンハンス島とは別に、腺房細胞は消化酵素(アミラーゼ、トリプシン、リパーゼなど10種以上)を腸へ外分泌する。肝臓細胞と出生を同じくする兄弟細胞である。CCKという消化管ホルモンによって調節される。大豆が膵臓の発達を助ける。図の右は走査電顕写真で、左は光顕写真である。導管系の内腔の周りにブドウ状の房が集団をなしている。細胞内には粗面小胞体が充満し、消化酵素を含む顆粒で満ちている。
膵腺房細胞
19) 杯細胞C・ルブロン小腸・大腸・気管支・結膜などの上皮に散在粘液を分泌し粘膜表面を保護する。細胞内部の小胞体とゴルジ装置でムチゲンという糖たんぱくを合成し、細胞上部に顆粒として貯え、腸粘膜に分泌する。杯細胞の上部表面には微繊毛がありセンサーとして働くようである。図の右は光顕写真で分泌された粘液が写っている、左は走査型電顕写真である。細胞内部の粒は顆粒である。
杯
20) パネート細胞ヨセフ・パネート(1888) 腸腺の縦孔の底リゾチームという殺菌酵素を顆粒に含んで、腸腔に分泌し細菌を殺す役目を持つ。腸内細菌の変動を神経を通じて感じ、抗菌物質を分泌する。右の図は透過型電顕写真で、顆粒を多数含む。
パネート細胞
21) 副腎皮質細胞ハンス・セリエ(1940)副腎皮質有害刺激やストレスによって、副腎皮質が肥大し、コルチコイドというステロイドホルモンがたまる。細胞内の油滴に貯えられる。肝細胞と同じように毛細血管の周りに副腎皮質細胞は発達し、細胞内には分泌顆粒は存在しない。右の図は細胞内の走査型電顕写真で、ミトコンドリア(緑色)と脂肪滴(茶色)が充満している。
副腎皮質細胞
22) ライディッヒ細胞フランツ・ライディッヒ(1850)精巣の精細管の間質に存在する男性ホルモン「テストステロン」を生産する。精細管の間質で血管に沿ってひも状の集団をつくる。細胞内には滑面小胞体が充満し、ミトコンドリアと脂肪滴(ステロイドホルモンの貯蔵)も豊富である。副腎皮質細胞に似た細胞である。活動するのは胎生期と思春期である。男性らしさを形作る。右の図は走査型電顕写真で、精細管のあいだにライディッヒ細胞の集団が見える。
ライディッヒ細胞
23) 甲状腺濾胞細胞藤田尚男甲状腺の濾胞甲状腺ホルモン(サイログロブリン)を作る甲状腺上皮細胞。濾胞腔内にはサイログロブリンとヨードが蓄積し、サイログロブリンはチロシンのS-S結合で2量体化している。濾胞を出る前にサイログロブリンは再度細胞内に入りライソゾームで切断加工され甲状腺ホルモンとなる。右の図は細胞内の走査型電顕写真で、核(紫色)の周りの粗面小胞体(緑色)が発達している、
甲状腺濾胞細胞
24) 壁細胞
-
胃の縦孔(胃小窩)の底にある胃底腺食物の酵素消化処理の前に分解する塩酸を分泌する細胞。細胞内にはミトコンドリアがぎっしり詰まっている。左の図は胃底腺の断面を走査型電顕で見た。壁細胞をピンク色、血管を茶色、神経を青色に着色している。塩酸の分泌時には細胞内小管が活性化しプロトンポンプが働く。
壁細胞
25) マクロファージE・メチ二コフ(1883)組織常駐型(肝臓クッパー細胞、肺の塵埃細胞のほかリンパ節、脾臓、骨など)と滲出型白血球食細胞といわれ、大型の食細胞をマクロファージという。右の図は肝臓にいるクッパー細胞である。アメーバーのように動いて異物老廃物を突起でとらえて細胞内に取り込み分解する。サイトカインやケモカインを分泌してリンパ球に伝達し免疫反応を増強する。
マクロファージ
26) ランゲルハンス細胞パウル・ランゲルハンス(1868)
MS・バーベック(1961)
すべての表皮アレルギー性皮膚炎(白斑症など)を引き起こす免疫細胞。ランゲルハンス細胞内の奇妙な形をした顆粒(バーベックの顆粒)が同細胞の同定となる。細胞はS100タンパクというマーカを持つので、抗体染色法で染めることができる。歯肉炎にもランゲルハンス細胞が強く反応する。右の図は表皮の操作型電顕写真で、ケラチノサイトの間に突起を広げるランゲルハンス細胞(赤に着色)である。
ランゲルハンス細胞
27) 樹状細胞JE・フェルドマン(1970)
松野健二
全身のリンパ節・脾臓ランゲルハンス細胞と仲間の細胞で、広くは同じ細胞である。突起をもつ「かみ合い細胞」ともいう。細胞表面に組織適合性抗原を持ち、骨髄でつくられ血管を移動して表皮などの組織で刺激を受けて異物を認識する。抗原を取り込んでリンパ節に移動してT細胞に抗原を提示する役割である。つまり免疫系の見張り番である。拒絶反応が始まる引き金となる。右の図は走査型電顕写真で、リンパ節内でリンパ球を抱き込んでいる樹状細胞である。
樹状細胞
28) リンパ球
-
全身免疫系の細胞で病原体の監視や排除がん細胞まで排除する機能をもつ多彩な種類がある。抗体を作る専業のBリンパ球と免疫系の監視をするTリンパ球に分かれ、Tリンパ球はさらにヘルパー細胞、サプレッサー細胞、キラー細胞がある。BでもTでもないナチュラルキラー細胞はがん細胞を破壊する生まれつきの殺し屋である。右の図は走査型電顕写真で、マクロファージ(緑着色)がリンパ球(青着色)に抗原提示をしている場面である。
リンパ球
29) 果粒球P・エールリッヒ全身果粒を持つ白血球は好酸球・好塩基球・好中球に分けられる。白血球の70%は好中球で偽足で動き回る。走化因子に誘われて血管をすり抜け全身に移動する。右の図は走査型電顕写真で、走化因子FMLPに刺激された好中球(緑に着色)が内皮に付着し1匹は内皮にもぐりこんだ様子を示す。好中球は炎症の場所に移動し細菌や異物の処理にあたる。
果粒球
30) 肥満細胞P・エーリッヒ(1877)全身(特に皮膚や内臓)好塩球の仲間で、肝臓の肥満細胞にはヘパリン(抗血液凝固)を分泌する顆粒を含む。また花粉症などのアレルギー反応を引き起こすヒスタミン顆粒を含む。右の図はヒスタミン遊離剤を与えて、ヒスタミン(ピンク色着色)を分泌する様子を示す走査型電顕写真。
31) 赤血球
-
全身(血管、骨)赤血球は骨髄で造られる。赤血球には核がない。核が抜けて扁平になった赤血球細胞は血管を流れるのに抵抗が少ない。右の図は赤血球が流れる様子を示す走査型電顕写真。赤血球は骨髄の赤芽球島でマクロファージと接触して育てられる。老化した赤血球を消化するのもマクロファージである。
赤血球
32) 巨核球J・ライト(1906)
山田英智(1957)
全身(血管周り)血小板を作り血管内に注入する。巨核球が血管分離膜で分解して血小板ができる。血小板は血液凝固剤で、核はない。右の図は血管に纏わりつく巨核球の突起が血管内に侵入する様子を示した走査型電顕写真。血小板は巨核球をちぎっては投げ込むもちみたいな接着剤である。
巨核球
33) 内皮細胞パラーデ(1960)
小林繁(1970)
毛細血管の壁面毛細血管の物質交換を行う内皮細胞である。右の図は腎糸球体、肝臓の電顕写真で、内皮細胞には穴が開いていることが分かる。
内皮細胞
34) 周皮細胞ツィンメルマン(1923)
村上正浩(1979)
毛細血管のまわり周皮細胞は毛細血管に纏わりついて血管の収縮に関与し、アクチンとミオシンを持つことから平滑筋細胞の仲間であることが分かった。血管新生を抑制するらしい。
周皮細胞
35) 伊藤細胞伊藤俊夫(1950)肝臓のディッセ洞(類洞)肝洞内の食細胞であるクッパー細胞とは別で、別名「脂肪摂取細胞」ともいい、細胞内の脂肪滴にビタミンAを摂取貯蔵する。肝小葉内でコラゲン繊維を産生する唯一の細胞で、肝臓組織の接着剤であるが、肝硬変時にはコラゲンが肝臓を埋め尽くす。右の図は肝洞内の4つの伊藤細胞を着色して示す。サイコロ状の幹細胞にアメーバーのようにくっついている。
伊藤細胞
36) 平滑筋細胞
-
全身(消化管、子宮)平滑筋細胞は独立した細胞が突起でとなりの細胞と連絡し、協調して収縮膨張を行う。細胞膜にはアクチンフィラメントにミオシンが挟まり繊維網をつくる。神経支配を受ける平滑筋もあれば、半ば自律した運動をする肝臓血管や腸の平滑筋もある。右の図は小動脈を取り巻く平滑筋細胞とその拡大した繊維を示す走査型電顕写真である。
平滑筋細胞
37) メサンギウム細胞ツィンメルマン(1929)腎臓糸状球の毛細管壁毛細管の血管間膜のようである。糸状球の血管をつなぎ合わせ一定の形に保つ役割である。細胞は毛細管内皮まで食い込んでいる。小動脈壁の平滑筋細胞が糸状球に入り込んで、メサンギウムに形を変えたものらしい。アクチンとミオシンを含むことから平滑筋細胞の仲間とみられる。
メサンギウム細胞
38) 骨格筋細胞ボウマン(1840)
江橋節郎(1959)
筋肉長大な数千本の骨格筋細胞が融合した束が「線維(筋原線維)」といわれる。横紋筋ともいう。右の図は筋線維の内部を示すと透過型電顕と、走査型電顕写真である。筋原線維がアクチンとミオシンのフィラメントからなり、ミトコンドリアのAPを使って筋肉の収取を行う。筋原線維のまわりの筋小胞体にあるカルシウムを蓄え筋収縮を行うのである。筋線維の中央には神経の終端が接触している。運動の命令が出される。
骨格筋細胞
39) 心房筋細胞松尾壽之(1984)心臓心臓の筋肉は骨格筋と同じ横紋を持つが、右の図のように細胞は長くはなく節で途切れたり枝分かれをしている。心室の筋肉は収縮が仕事であるが、心房の筋肉には利尿ペプチドANPを生産する役割もある。心房筋が伸びるとANPが放出される。
心房筋細胞
40) 刺激伝達系筋細胞田原淳(1906)
へーリング(1910)
心臓の心室と心房を結ぶ「房室結節」樹木のような筋線維の網がまとまって心室から心房につながっている。心室の興奮が心房へ刺激伝達を行っているのである。これが収縮リズムを決めるペースメーカとなる。自律神経は筋線維に密着して、交感神経がリズムを早め、副交感神経はリズムを遅くする。
刺激伝達系筋細胞
41) ニューロンカミロ・ゴルジ(1873)神経細胞と突起を特徴としたニューロンが複雑に接触して情報伝達を行う、神経を構成する単位である。接触部をシナップスという。右の図は神経芽細胞の走査型電顕写真と、シナップス部分の透過型電顕写真である。接触部に神経伝達物質の顆粒が多数集結している。
ニューロン
42) グリア細胞ウイルヒョウ(1864)
ラモニ・カハール(1920)
脳のニューロンのまわりグリア細胞はニューロンの10倍もあり脳の半分を占める、いわばニューロンの生活環境を整えることが仕事である。グリア細胞はアストロサイト、ゴデンドロサイト、ミクログリアに分類される。右の図は模型図であるが、神経細胞と血管と連絡するグリア細胞の働きを模型にした。アストロサイトは血管からグルコースを取り込むことである。また神経伝達物質のグルタミン酸を回収する膜タンパクを有する。グリア細胞は神経栄養因子であるセリンを放出する。
グリア細胞
43) シュワン細胞T・シュワン(1837)末梢神経線維をくるむシュワン細胞は神経線維の周りに巻き付いて白い髄鞘をつくる。神経の電気信号絶縁体の役割を果たす。右の図はシュワン細胞が神経線維(水色の着色)の周りに鎖状に連なって、1個の細胞が1つのさやをつくる。くびれた部分を「ランヴィエの絞輪」という。この部分を通じて興奮信号の伝達が行われる。シュワン細胞は神経成長因子やサイトカインを作って軸索の伸長を促す。
シュワン細胞
44) 脊髄神経節細胞ラモニ・カハール(1891)
大塚正徳(1980)
脊髄神経節知覚ニューロンの集合場所である脊髄神経節は、発生学的に脳や脊髄由来のニューロンではない。右の図に、丸い脊髄神経節細胞ニューロンから伸びた突起に2個のシュワン細胞がこぶを作っている。突起は一つは脊髄へ一つは末梢へつながる。末梢神経は知覚の終末につながっている。脊髄神経節細胞が分泌するサブスタンスPが神経節から脳への伝達物質であることを発見したのが大塚である。
脊髄神経節細胞
45) 神経分泌細胞W・バルクマン(1948)間脳の視床下部ニューロンが腺(分泌器官)として働く神経分泌をおこなう。視床下部の神経細胞が顆粒を生産し長い神経突起をたどって下垂体後葉に達し、下垂体がペプチドホルモンを分泌する役割である。ヴァソプッレッシン(高血圧)やオキシトシン(子宮収縮)というホルモンである。
神経分泌細胞
46) 副腎髄質細胞高峰譲吉・上中啓三(1901)副腎髄質副腎髄質にはアミン系の物質アドレナリンを生産するA細胞とノルアドレナリンを生産するNA細胞とがある。またペプチド系のホルモン「エンケファリン」を生産する。エンケファリンはアドレナリンと同時に分泌される麻酔性ペプチドである。攻撃性のアドレナリンと癒し系のエンケファリンの相乗作用で人はストレスに頑張れるのである。副腎髄質細胞は発生学的には交感神経ニューロンと仲間である。右の図にはNGFによってニューロンになった副腎髄質細胞を示す。
副腎皮質細胞
47) 下垂体前葉細胞大黒成夫(1982)間脳の下垂体下垂体は発生学的には、口腔上皮の窪み「ラトケ嚢」に神経線維が集まったものである。下垂体前葉は内分泌生産工場である。成長ホルモン、甲状腺、副腎皮質、卵巣、乳腺に刺激ホルモンを伝達する。組織学的には間脳のニューロンに似ている。星状の突起を持つアストロサイトと共通の性質を持つ。神経細胞が分泌細胞になったという。
下垂体前葉細胞
48) 膵島B細胞
-
膵臓ランゲルハルス島内分泌細胞集団が膵臓ランゲルハルス島に住む。A細胞はグルカゴンを分泌し、B細胞はインスリンを分泌し、D細胞はソマスタチンを分泌する。膵島は神経の支配をうけないし、下垂体から刺激ホルモンの分泌を必要としない。B細胞がインスリンを分泌しないとT型糖尿病で、分泌量が少ないくらいであれば成人U型糖尿病といわれ運動や食事療法で治る。右の図は板状の顆粒を出すB細胞の電顕写真である。B細胞はシュワン細胞に覆われている点ではニューロンと近いのだろう。発生学的には腸の上皮からできた味見細胞であるので、グルコース検知役がインスリン生産を行うようになった。
膵島B細胞
49) 腸センサー細胞E・ソルチア(1967)胃腸食物や胃酸を検知してホルモンを生産する細胞の総称。基底顆粒細胞が腺となったもので、センサー兼分泌細胞である。胃幽門ガストリン細胞、セクレチン細胞、CCK細胞、消化液分泌細胞などがある。EC細胞は毒物を検知しセロトニンを分泌して下痢を引き起こす。察知した神経は嘔吐を催す。
腸センサー細胞
50) 味細胞吉沢紀夫舌の有核乳頭(味蕾)V字型の味蕾は団扇型に並んだ細胞で分泌顆粒を生産し、そこに神経がシナップス結合している。これを「パラニューロン」とみて、神経特異エノラーゼの研究が進んでいるがまだ何もわからない。右の図は透過型電顕写真で黄色に着色した神経シナップス周辺に分泌顆粒が集合している様子を示す。模式図には刺激に対応して神経への伝達と、交際血管や小唾液腺への伝達物質分泌を示す。
味細胞
51) 嗅細胞永原義彦(1940)鼻腔臭上皮は匂いの受容細胞(嗅細胞)と支持細胞からなる。細胞は上皮に向かって数本の「嗅毛」という微繊毛を出す。これから嗅細胞をニューロンとして扱われたが、この細胞は未分化な絶えず新生を続ける。インフルエンザによって嗅細胞が全滅する場合もある。臭細胞
52) 視細胞
-
眼球の網膜光信号を電気信号に変えるトランスデュ―サーである。味細胞、嗅細胞、視細胞というセンサーはいずれも細長い形をしている。右の図にみるように細胞の杵状体にロドプシンが含まれ、光によって分解しシグナルを出す。細胞のサイコロ状(錘状体)には色の認識に必要な3色の物質が別々の視細胞に存在する。色を認識できるのは霊長類だけである。視細胞は人では網膜1平方ミリに15万個ほどある。
視細胞
53) 内耳有毛細胞グスタフ・レチウス(1884)内耳コルチ器センサー細胞して細長い形状で、V字形の外有毛細胞(聴毛)である。右の図はコルチ器の走査型電顕写真で、ピアノのような精密な楽器のようにも見える。有毛細胞を支えるのはダイテルス細胞の腕である。カタツムリ器官の振動がリンパ液の振動に変えられ、基底板を振るわせることで圧力を察知した聴毛が興奮する。有毛細胞は「ストマイつんぼ」という薬物難聴を引き起こす。
内耳有毛細胞
54) メルケル細胞メルケル(1875)
イゴー(1969)
全身の表皮 体毛の付け根にある毛盤持続する触覚を伝えるのがメルケル細胞、瞬間の触感はマイスナー小体という神経終末である。唇、猫の髭にもメルケル細胞がある。右の図は団子状の微繊毛を持つメルケル細胞(茶色着色)と神経(黄色)シナップスの透過型電顕写真である。メルケル細胞は触ると分泌顆粒(神経ホルモンエンケファリン)を分泌する。
メルケル細胞
55) セルトリ細胞エンリコ・セルトリ(1865)精巣にある精細管の壁精祖細胞と精細胞(精子)を保育する支持細胞である。折りたたまれた250mの精細管の壁にある。右の図は精粗細胞(紫着色)と精細胞(青着色)を保護している様子を示す走査型電顕写真と光顕写真である。セルトリ細胞は「血液精巣関門」という仕切りをつくり、血液から精巣を守っている。セルトリ細胞は男性ホルモン結合タンパクを生産し、精細胞の教育などの生活環境を構成している。
セルトリ細胞
56) 精細胞
-
精細管精液1mlに1億個の精細胞が存在する。精細管の壁では幼若な精粗細胞が一生涯分裂を続ける幹細胞と精子(精母から精子細胞へ)に分化する。精子細胞は減数分裂をして本体を守るヘルメットである先体と運動モータである鞭毛が成長し、左の図にみるように育んでくれた精細管の壁を巣立つ。
精細胞
57) 卵細胞
-
卵巣卵母細胞は思春期まで眠っている。卵母細胞は卵胞にくるまれ、卵胞上皮は女性ホルモンエストロゲンを産生する。右の図は成熟卵胞の走査型電顕写真である。卵細胞は卵胞上皮細胞に取り囲まれて、卵細胞の生活環境を作っている。卵細胞

随筆・雑感・書評に戻る  ホームに戻る
inserted by FC2 system