130518

岡田雅彦 著作集

 1)  「ほどほど養生訓−実践編」(日本評論社 2013年3月)
2) 「医療から命をまもる」(日本評論社 2005年12月)
3) 「放射能と健康被害」(日本評論社 2011年11月)


医者・薬に頼らないで、ほどほどに健康長寿を楽しむには 

岡田雅彦 著 「ほどほど養生訓−実践編」(日本評論社 2013年3月)という本を知ったのは、朝日新聞の広告からで、「がん検診を受けてはならない」というフレーズにひかれたからである。その前から近藤誠氏の著作を読んで同様な主張があったので、現代医学界では異端の意見を言う人もいることを知った。という私も定年以降は人間ドックや行政が行う成人病健診を一切受けてこなかった。おかげでというか、にもかかわらずというかこれまで10年間がんにもならず病気らしいこともなく、健康で動いている。会社現役時代の約30年間は毎年1回の人間ドックは受けてきた。50歳を過ぎてからは様々な成人病の指標値(肝臓、高脂血症、潜血など)は高かったので医者に通ってことはあるが、薬では何一つ改善しないし、別に生活に支障があるわけでもないので、これは病気ではなく老化現象だと思っていた。鬱的傾向もあり精神科にいったり、脊柱管狭窄症で整形外科に行ったりしたが、医者に何ができるわけでもないのでついに放置し自分で治そうと心掛けた。すべては定年という時間とストレスのない生活が救ってくれたようだ。特別健康に気を付けているわけではなく、むしろ健康のことを忘れているだけのことかもしれない。運動は、天気のいい日に1日1時間のサイクリングと体操と軽いジョギングだけである。むろん極寒期2か月と酷暑期2か月には運動のリスクのほうが心配なので、戸外の運動は避けている。その期間は読書と趣味の絵画制作に励んでいる。結構忙しく動き回っているが、古希に近くなるとふと自分の体力がどこまで続くのかなと心配になったりする。そこで本書のような「養生訓」を読んでみたくなる。
本書巻末から著者岡田正彦氏のプロフィールを紹介する。1972年新潟大学医学部を卒業、現在は同大学名誉教授である。水野介護老人保健施設長をを務めている。予防医学を専門とし、米国心臓学会会員、IEEE誌や生体医工学誌編集長を歴任した。病気を予防するための診療を行い、日本人のガンや血管障害などの危険因子の調査に加わった。最近は高齢者医療に取り組んでいる。著書には「人はなぜふとるか」(岩波新書)、「がんは8割防げる」(祥伝社新書)、「がん検診の大罪」(新潮新書)、「薬なしで生きる」(技術評論社)、「検診で寿命は伸びない」(PHP新書)や本コーナーで取り上げた3冊の本がある(いずれも日本評論社)。




1) 岡田雅彦著 「ほどほど養生訓ー実践編」(日本評論社 2013年3月)

本書の構成は4部構成で、第1部日常編、第2部食事編、第3部運動編、第4部検査・治療編からなる。各部は10項目の章立てであるので全部で40章で、各章5ページで平易にまとめらた内容となる5×40=200ページの本である。養生訓という題名に一番近いのは第1部の内容である。第2部の食事編は特筆すべきことは語られていない、常識の範囲内である。ちょっと首をかしげるような内容もアあり、面白く記述されているが、要するに一言でいえばバランスよく食事をとることに尽きる。第3部運動編は生きている限りその人の年齢に合った運動を欠かしてはいけないということである。運動しない人は速くボケたり早死にする。第4部検査・治療編は近藤誠氏の著作と共通する内容があり面白い見解が述べられている。では以下に本書の内容をかいつまんで説明しよう。

第1部 日常編ーガン、生活習慣病、認知症を予防する

1) ビール腹はうそ

お酒を飲むことと肥満度とは一切関係ないことが分かっています。アルコールはエネルギー源であり体内に蓄積されるものではないのです。醸造酒にはエキスが少し残っていますが、蒸留酒(焼酎、ウイスキーなど)にはそのエキスもありません。毎日少しのお酒を飲んでいる人は、全く飲まない人に比べて血液中のLDLコレステロール値が低く、血糖値も適切な範囲にあることもわかっています。しかし飲みすぎの人に多い病気で死亡率の高いのは、口腔がん、咽頭がん、食道がん、乳がん、肝硬変、脳卒中などです。

2) 無理して痩せる必要はない

体重指数BMI=(体重)/(身長)・(身長)は体重をKg、身長をメートルとして計算します。BMIが22−26くらいの人が最も長生きしています。BMIが26以下であれば減量する必要はない(身長1.6メートルの人であれば67Kg以下)。メタボリック症候群としての腹囲測定には意味がありません。その人の体質によって健康で生き生きとした活動ができる体重は異なりますので、無理やり体重を落とすと生きがいまでなくしてしまいます。

3) 睡眠は7時間以下で足りる

高齢と不眠の関係は、やはり年を取るにつれ活動量が減るため、若いときより睡眠の必要性が少なくてもいいのです。平均の睡眠時間が6時間の人が最も病気が少ないことが分かりました。だから7時間も眠れば十分なのです。生き生きと目覚めることが重要です。不眠対策としては、昼間の運動をする、昼寝をしない、睡眠薬に頼らない、いつも同じ時間に寝床に着き、その前に活動はしないなどです。

4) ほどほどのストレスは体にいい

ストレスは体に適度な刺激を与え元気に生きていくために必要なものです。ストレスがあるから有意義な人間の活動ができるのです。弛みっぱなしでは何事もできません。しかし心筋梗塞や脳卒中などの病気はストレスによって誘発されますが、ストレスは寿命には関係しません。問題はストレスとうつ病の関係です。うつ病の予防策として、毎日適度な戸外の散歩・運動をすることです。

5) テレビの見すぎは短命の元

テレビばかり見ている人は寿命は短いといわれます。それは受け身で頭が働いておらず、ストレスがないからです。ソファーに横たわって長時間テレビを見ていると、カロリー消費もなくお菓子をつまんでいるともう肥満優等生となります。使わない筋肉や体重のかからない骨は廃用症候群となり退化します。家の中でも2階との往復をこまめするなど絶えず活動している必要があります。

6) 疲労回復にはぐっすり眠るしかない

疲労物質とは乳酸ではないかと考えられていましたが、今日ではフリーラジカルという活性物質のことだといわれています。このフリーラジカルを消滅させるのが抗酸化物質です。疲れたらドリンク剤という修正のある人が多いですが、何もブドウ糖やビタミンやカフェインを補う必要はありません。栄養補給より睡眠が一番です。

7) 水の飲みすぎに注意

熱中病の予防に水分補給は実は効果はありません。体温が上がることが原因で熱中病が起きるので、高温・高湿度に体を曝さないことです。炎天下で土木作業をする人に塩分や水分補給は重要ですが、高齢者にそんな必要はありません。脱水症状と熱中病は異なります。一日に市文が奪われる量は大体2-2.5リットルといわれます。のどが渇いたと思えば飲めばいいのです。水の摂りすぎは疲労・夏バテの原因でもあります。

8) トイレの回数で悩まない

中高年となると1日に8回以上トイレに行く人もいます。行っても出ないのにトイレに行くのは、脳の情報処理能の衰えからきています。気のせいです。排尿を我慢する運動(骨盤底筋運動)で尿管を締めることができます。

9) ガンの撲滅は家の中から

遺伝するガンも5%程度はありますが、7割以上は生活習慣と環境汚染が原因となっています。後は運が悪かったとしかいいようがありません。住んでいる環境や家の中にも危険性があります。煙、すす、埃、スプレーなどが肺がんの原因となります。

10) 免疫力は高めるな

世間で言われている免疫力強化の方法は実体がありません。免疫力を測る手法はないのに、免疫力強化とはおこがましい。信じても救われない新興宗教のようなものです。アレルギーが増えるのも、潔癖主義や抗菌グッズのせいかもしれません。

第2部 食事編ー医者いらずの体を手に入れる

11) 長寿の秘訣 和食にあり

日本人が世界一長寿である秘密は和食にある。つまり西洋人と日本人の違いは肉と魚の食生活の違いです。和食はカロリーが少なく、炭水化物と脂肪、タンパクの栄養バランスが絶妙だといわれます。過剰な脂質摂取を避け、もう少しタンパク質を取るように心がけましょう。

12) ご飯とパンの真実

ご飯には「精白米」と「玄米」、パンには「ホワイト」と「ブラウン」の違いがあります。外皮や胚芽を取り除かずに粉にした「全粒粉パン」を習慣的に食べる人には、心臓病が20%少なく、ガンが30−70%少なかったというデーターがあります。「全粒粉パン」には抗酸化物質、ビタミン、カルシウム、鉄などが多い。玄米の効果についてはデーターがないのでなんともいえません。

13) もっと魚を食べよう

魚を普段から食べている人は心臓病、高血圧症、不整脈、糖尿病、突然死などが少なく、関節リュウマチの症状も軽いといわれています。魚にはEPAやDHAが多く含まれ、その物質のサプリメントが出回っています。しかしこれらの物質を補給したとしても病気を予防できるわけではありません。魚という食材の総合力としか言いようがありません。ただ魚には有機塩素化合物が含まれており、沿岸の魚をさけ遠海の魚を選択し、皮や内臓は食べない、焦がさないなどの注意が必要です。

14) 1日1個のリンゴで医者いらず

野菜果物には抗酸化物質が含まれています。細胞や遺伝子を傷つけるフリーラジカルを消す効果があるからです。抗酸化物質とはカロチン、ポリフェノール、カテキン、ビタミンCなどです。食物繊維については最近間違っていることが言われ、便秘や大腸がん予防の効果は証明されず、かえって便秘になるといわれています。リンゴの糖分は果糖です。5炭糖(ペントース)は消化されにくいので血糖値を上げません。

15) サプリメントに惑わされるな

サプリメントの効能については、膨大な追跡調査が行われた結果、サプリメントには病気予防や寿命を延ばす効果も見出せませんでした。結局食材をそのまま摂ることが大事なのです。ビタミンCやビタミンEも食材から摂れます。

16) お茶にはすごいパワーがある

お茶には抗酸化物質カテキンがたっぷり含まれています。コーヒーについては追跡調査の結果は白とも黒とも判別できませんでした。むしろコーヒーに含まれるカフェストールに悪玉コレストールを増やす働きがあることが分かっています。

17) 塩分の摂りすぎは万病の元

人間が一日に必要とする塩分はわずか3グラムだそうです。ところが日本人の塩分摂取量は平均11-12グラムです。塩分摂取が怖いのは、血圧が上昇するだけではなく、胃がんの最大の原因だからです。和食の食品には塩分が多いので、ラーメンやうどんのスープは全部飲まない、テーブルサルトを置かないとか、子供に塩分少なめの味覚を育てることが大切です。

18) ガンにならない食べ方

食肉自体には発がん性物質は存在しませんが、高温で加工するとリスクが高まります。農薬汚染野菜を避けるため地産品を使う、同じ食品を毎日取らない、カビの生えた食品は食べないとか注意が必要です。

19) 糖尿病にならない食品の見分け方

炭水化物を食べて2時間後にブドウ糖に変わる割合を示す「グリセミック指数」の高い食品は、肥満や糖尿病になりやすい。熱加工炭水化物は「グリセミック指数」が高くなり、「グリセミック指数」の低い食品は果物です。

20) カロリー計算ではなく、体重を測ろう

人によって同じカロリー数でも蓄積される栄養になる率は大きく異なります。だからカロリー計算はあてになりません。人によって基礎代謝量(成人で1800キロカロリー)はこtなります。高年齢になるとさらに少なくなります。筋肉質の人に比べて脂肪肥満体の人は基礎代謝量が少ない。だからカロリー計算ではなく、結果としての体重を測ることが簡便で有用です。体重はどんな検査値にも勝る最高の健康指標です。

21) 手作り弁当を持参しよう

働く人は揚げ物の多い外食をするよりは、手作り弁当をお勧めします。昨日の晩御飯の残り物を詰めるだけでいいのです。主食、おかず、野菜果物のバランスに気を付けましょう。

第3部 運動編ーいつまでも動ける体を作る

22) 運動しますか、それとも早死にしたいですか

運動を続けている人は、ガン、脳卒中、心臓病、認知症、気管支炎、関節リュウマチ、パーキンソン病などの病気になりにくく、病気なっても症状が軽いといわれています。毎日1時間運動している人は、ほとんど運動していない人に比べて死亡率が35%も低いというデーターがあります。日常的に歩いている距離と寿命には何の関係も見いだせなかった。だから激しい運動ではなく、軽い疲れない程度の運動量で十分なのです。高齢者は脈拍数が90を超えないこと(165−年齢が限界)です。正常な生活での脈拍数は50-90内に収まっています。自分の脈拍を測ってみましょう。血圧計に脈拍数も出ます。

23) まず心のストレッチをする

人は交感神経と副交感神経をスイッチさせて、興奮状態と冷静状態を作っています。活動状態では交感神経が動員され、休息時には副交感神経が働きます。この切り替え時に心臓のリズムが乱れることがあります。特に入浴時などです。体のストレッチ体操の時も心のストレッチが大切です。

24) ゆっくりやっても効果なし

普通に歩く時とジョギングの時の運動のきつさの差を体感しておきましょう。時速7Kmが「走る」と「歩く」の境界だといわれます。時速5−6Kmで歩くことが適度な運動といえます。これでも消費カロリー数はおにぎり1個分の100キロカロリー程度に過ぎません。健康のためにジョギングは自分の体重を実感することであり捨てがたい魅力がある。

25) おなかだけ痩せる方法はない

家庭用の運動機器がテレビショッピングではやっています。すぐにお蔵入りする人が多いのも事実です。電流を流したりする危険な器具もあるので注意しましょう。特定の部位だけスマートになる方法はない。

26) 筋トレで魔除けをしよう

高齢者の骨折は寝たきり生活の始まりであり、廃用症候群や認知症を誘発します。高齢者の骨折は骨がもろくなっていること、筋力が弱っていること、運動神経が鈍っていることから起こります。筋力だけはトレーニングできます。ダンベル体操が手軽で効果があります。特に女性におすすめです。

27) 女心と運動

女性は閉経後の40−50代に更年期を迎え、体重が増え始めます。女性ホルモンがなくなるにつれてエネルギー使用量が減るためです。時間的に余裕が出るこの年代こそ運動を始めるチャンスです。過激なダイエットは禁物です。体全体のバランスを失う危険があります。

28) 男心と運動

運動ジムに入って頑張って大量の汗をかくことは問題です。血管中の血液量が減って心筋梗塞や突然死などが起きかねません。熱中症を防ぐには運動をやめ、体を冷やして、冷たい水を飲むことです。それから他人と競ってむきにならないことです。

29) 正しい歩き方を知っていますか

だらだらと(ちんたらと)歩くのではなく、大股で背筋を伸ばして颯爽と速足で歩くことです。そしてかかとから着地します。歩く時は股関節が中心になってエネルギーが集中します。ジョギングの時はひざ関節に力が集中しまう。

30) 運動に定年はない

高齢者の調査では、週に4時間(毎日1時間として4日運動する)以上の運動をする人は、認知症になる割合がそうでない人に比べて25%に減りました。腰痛、関節痛などの病気を持つ人でも、運動によって痛みは改善され、どんな運動でもよく6か月は続けることです。

31) 運動を長続きさせる極意

健康のために行う運動は種目は問いません。長続きさせる方が一番大事です。飽きないように短時間(30分)で運動を終えることや、無理なく週に3-5回は行うことです。

第4部 検査・治療編ー健康に長生きできる

32) 自分の体質を知って、病気を防ぐ努力をする

血圧、血糖、コレステロールLDL、中性脂肪、尿酸の5項目検査値が重要です。体質によって努力目標が異なる。成人病は生活習慣の改善で予防できる病気は多い。

33) 検査を忘れて気楽に生きよう

健康診断をいくら受けても寿命が延びることはないというデーターが出ています。検査エックス線の発がんリスクの方が心配です。そして治療の薬には副作用が多い。意外な副作用があります。わずかな副作用でも帳消しになるほど薬の効果は小さいのです。手術をはじめ疑問の多い現代医学ですが、案外必要な検査は血液検査だけかもしれません。これほどいろいろの場合にエックス線検査を行っているのは日本だけです。検査の後には治療と薬が待っています。過激な治療で命を縮めることがあります。

34) がん検診は受けてはいけない

日本では胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮がんの5つの検診が決められています。しかしいくら追跡調査を行っても「早期発見・早期治療」が寿命を延ばしたという証拠はありません。特に日本では追跡調査を行という文化がないので、医者・医学会の思い込みで不要な検診や治療が行われているようだ。胃がんが減少したのは、塩分摂取量が減少したことによるもので、医学の進歩や胃がん検診が徹底したからではありません。がん検診で異常が見つかれば有無を言わさず手術や抗がん剤治療が始まります。しかし抗がん剤の効果とはがん病巣の増殖を抑えるとか縮小させるだけで、ガンを治すことはできませんし、また寿命が延びることはありません。それより抗がん剤の副作用は甚大でこれによって寿命を縮める結果になります。むしろ抗がん剤を使わなかった人のほうが長生きしていることは事実であります。世間でいわれている抗がん剤の延命効果の話はウソです。これには業界の戦略が強く働いています。治療技術が進歩したといわれますが、ガンで死ぬ人の割合は過去50年間全く変化していません。がん検診の「早期発見・早期治療」は最初から根拠のないつくり話だったのです。

35) ガンノイローゼにならないために

手遅れのガンでも結構長生きできるものです。なぜなら高齢者のがん増殖速度が遅いためで、ガンを抱えて長寿を全うする人は多い。がんが発生してから人の命を奪うまでには16ー33年かかることが分かりました。そして発見されたがんの大きさと死亡率は無関係だったという論文もある。「早期がんはやがて進行がんとなる」という話は間違っているのです。胃がんを治療せずに63%以上の人が5年以上生存しています。この数字はがんと診断され治療を受けた人よりずっと長生きしていたことを示します。皮肉なことに治療によって命を縮めたことになります。ガンだけはじたばたしてもダメということが結論です。がん検診は受けないことにすれば気持ちが軽くなります。

36) 薬に頼らない生活

高齢者が病院で5−10種類の薬を処方される場合がありますが、これを全部飲んだら病気になります。お互いに反する作用をする薬が一緒に処方されているのです。医者の不勉強とでたらめさを示しています。年とともに血圧が上がるのは自然なことで、これに過剰な治療が行われると命を縮める結果になる。薬が病気を招来するのです。

37) 風邪や下痢は自分で治す

風邪をひいたとき、欧米では薬を処方しません。咳、鼻水、発熱はウイルスを撃退するための生体反応です。これを薬で鎮静するとかえって回復を遅らせることになります。まして風邪に抗生物質を処方するのは業界のためかもしれません。熱が42度を超えたら冷水で体を冷やすことが推奨されています。下痢は薬で止めてはいけません。腸にある毒素を排除する必要があるから下痢をしているのです。脱水症状にならない程度にしておくべきです。

38) 軟膏の上手な使い方

軟膏の主成分はステロイドホルモンです。激しい炎症やアレルギー反応の特効薬です。赤ちゃんの汗もただれには「白色ワセリン」がよく使われます。肌を保護するだけで薬成分はありませんので安心です。

39) 血圧を測ろう

血圧が高いといわれたら、生活習慣の改善が大事なのです。高血圧の原因は分かっていませんが、180mmHgを超えたら要注意です。それ以下でほかに病気がなければ治療よりは生活改善です。運動と食事が基本で塩分を控え、カリやカルシウムを含む食品を取り、毎日1回血圧を測ることです。それ以上は気にしないことです。高齢者は血圧120−180ぐらいの人が一番長寿だというデーターがあります。

40) 血液検査で異常があった時にすること

健診で血液検査を受けて自分の体質を知ることです。そして自分の体質に合った生活改善の努力が必要です。

41) 自然が一番

過激な反応は厳禁です。ほどほどの健康術が生活の質を維持します。ほどほとは「自然に逆らわない生き方のこと」です。様々な健康法が喧伝されていますが、常識的に自然かどうかということです。脳血栓を防止するため大量の水を飲むのは果たして自然でしょうか。その害のほうが大きいのではないだろうか。




2) 岡田雅彦著 「医療から命をまもる」(日本評論社 2005年12月)

本書は近藤誠著 「医者に殺されない47の心得」(アスコム 2012年12月)にきわめて似た内容を持つ。刊行年は本書が早いのだから、近藤氏が本書を参考にしていた可能性が考えられる。非常な難病であること(ガンなど)が分かった場合、本当に助かる見込みがあるなら医者に全力を尽くしてもらっていいのだが、そうでない場合無駄な治療を無理やり行ったために、逆に命を縮めることがありはしないだろうか。病院や医者の経営のため検査や治療を安請け合いするのなら御免こうむりたい。本書は「比べる」ことをキーワードに、現代医学の常識と誤りを指摘し、自分の健康を守ることを説きます。題して「医療から命を守る」です。本書のあとがきに著者が10年前から一家そろって止めたことが2つあると書かれています。一つは自動車、もう一つはがん検診だそうです。自動車をやめてよく歩くようになり、家族全員がすっかり健康になったといいます。がん検診をやめた理由は本書のテーマでもあり、がん検診から治療の流れは、決して寿命の延ばすことにならないからです。社会学的にこれを「無用」といいます。結果の出ない徒労の作為だからです。では本論に入りましょう。

1) 医療の統計学(くじ引き試験、比較試験)

比べることを怠ったため信用されなかった薬として「ガンワクチン」、比べてみたらだめだった治療法として「鍼」、せっかく比べても方法に間違いがあって無効だった薬として「鎮痛・解熱剤」の一例を取り上げている。免疫ガンワクチンの失敗例として「丸山ワクチン」があります。これは「肺結核の人には肺がんが少ない」というある医師の思い込みから(現在ではこの関係は否定されている)、結核菌の死菌をワクチンとしてがん患者に注射するものでした。ガンが消えたという個別の話で一時有名になり、それが保険のきかない高い治療法となって商売に結び付きましたが、結局治験を行わずいきなりがん患者に投与され、しかもその結果が学術誌の論文とならない、民間療法の域を出ない治療法でした。つうじょうボランティアを募って、新薬と偽薬(ブラセボ)のグループに分けて投与試験を行い、新薬に効果があるかどう治験を行います。丸山ワクチンはこの比べるという基本を怠たったのです。新薬の許可には審査が必要となり、3段階の試験を行って認可され健康保険の対象医薬品となります。民間療法とは「効果や副作用を調べていないもの」ということです。毛生え薬(育毛剤)が医薬品でないことと同じです。サプリメント、特保、機能性食品なども医薬品ではありません。ビタミンCの市場は巨大で、アメリカ人はビタミンCを大量に摂取することで有名ですが、実はこのビタミンCの効能の比較試験を10年かけて行った結果では、風邪予防効果も、ガンや心臓秒を抑える効果も証明されませんでした。ビタミンCのみならず、A,B,E,ポリフェノール、カルチノイドなど病気を予防する効果は認められませんでした。抗酸化剤であれば、がにゃ病気を予防できそうだという思い込みだけで販売していたようです。今大流行で巨大市場をもつサプリメントの類は、このように思い込みや期待だけで成り立っています。逆に病気にならなければいいのですが、それも証明されていません。「鍼」は、腰の痛みが和らいだとか、風邪にきくとか症状のあいまいな効果を相手にしていますで、自己暗示が大きく働く分野です。「鍼」の腰の痛みを取る効果についてオーストラリアで比較試験が行われ、3つのグループとして鎮痛剤、鍼、カイロプラクティックだけの治療法を比べましたが、鍼には痛みを取る効果は全く認められなかったそうです。鎮痛剤治療はむしろ痛みが悪化したという結果でした。一時的な痛み止めはしだいに効かなくなるということです。東洋医学の神髄といわれる「鍼治療」は結果がすっきりしないもの、比べようがないものなどが多いことが特徴です。

かって解熱剤・鎮痛剤としてアスピリンが風邪治療に多用されていましたが、胃を痛めるとの理由でピリン系薬はすっかり使われなくなり非ピリン系解熱剤が主流を占めました。このアスピリンには血液が固まるのを強力に阻止する副作用がありました。そこでアスピリンを脳梗塞や心筋梗塞の予防薬として使わました。アメリカでアスピリンの調査が行われ、アスピリンは心筋梗塞を予防する効果が高かったが、脳梗塞を予防する効果は認められず逆に脳出血が増えるという副作用がありました。効果と副作用の割合が微妙なので使うべきかどうか結論はバラバラでした。それでも医者は脳梗塞予防にアスピリンを投与しています。このように薬の効果と副作用は別のものではなく(副作用はたまたまとか不幸にもとかいうマイナーな表現ではなく)、同一の作用であるとみるべきです。従って薬は万病の元と考えられます。抗がん剤はまさに作用と副作用は、細胞を殺すという作用の1点で同一です。がん細胞だけを殺すというのは期待か幻想にすぎません。ガンが死ぬか人が死ぬかのギリギリの刃渡りで使われるものです。手術を受ける目的は2つあります。@命を救って貰うため、A障害の原因や痛みなどを取って、その後の生活を快適にするためです。第2の目的は「人生の質QOLを向上させる」といいます。英国で膝関節の障害に関してQOLを細かくスコア‐化した例があります。医者の判断と患者のニーズが一致することが望ましいのですが、本当に知りたいことは手術を受けた場合と受けなかった場合の違いです。脳の血流を改善することでボケを防止できると主張する人がいます。欧米で生活の履歴と認知症の関係を調べた例があり、脳梗塞や高血圧、骨折などのある人に認知症が多いことが分かりましたが、認知症の予防策は今のところ存在しません。どうも医学上の常識には証明されていないことが多すぎます。「比べてみる」ということを怠った(しなかった)ため、健康法にまつわる多くのウソや間違いを明らかにすることが本書の目的です。

2) 医師の落とし穴

せっかくの検査や治療も、よく比べてみると実は効果がないばかりか、むしろ命を縮めていることがあるという証拠が出てきています。「手術は大成功だったのに、患者さんの体力がなくて死亡した」という笑えないお話があります。本当はやるべきではなかった手術の失敗を患者さんの責任にする傲慢な外科医の弁でしょうか。新薬による死亡の原因は患者さんの偶然の理由にあるという理由で副作用にカウントしない医者もいます。そこで総死亡数を副作用に入れて考えるべきではないでしょうか。抗がん剤の副作用に鬱的症状があり、患者さんが自殺した場合これを個人的(例外的)理由だとして、抗がん剤の副作用による死亡数に入れないのは間違いです。交通事故による死亡も考慮すべきです。抗インフルエンザウイルス薬による錯乱状態の転落死が社会問題化したのはつい昨今のことです。昔日本ではインフルエンザワクチンの集団接種が行われていましたが、インフルエンザワクチンの効用を証明することは難しいうえ、接種によるアレルギー死亡が15万人に1人に発生することが社会問題化し、希望者のみが医療機関に出向いて接種する方式に変わりました。毎年インフルエンザによって健常人や高齢者や幼児に死亡者が出ています。最近の調査ではほとんどの死亡例がインフルエンザによるものではなく、治療のために用いた解熱薬・抗ウイルス薬のせいらしいことが分かってきました。つまり治療や予防の効果だけでなく、副作用で痛い目に逢う確率を比較して決めるべきではないだろうか。これをリスクベネフィット理論というが、実地において社会がまだまだ身に着けていないようである。新しいガイドラインでは40歳以上の女性は2年に1回、鈍さのレントゲン検査を受けるべきだということになった。しかし欧米の研究によると乳房のレントゲン検査を受け続けると、むしろ寿命が短くなることが明らかになった。死期を早めてまでも乳がんを発見できればいいのは、患者なのでしょうか、医療側なのでしょうか。血圧が高くておこる病気は脳卒中ですが、血圧降下剤で本当に脳卒中が防げているのでしょうか。血圧降下薬市場の急膨張と無関係に脳卒中患者の数は減少していません。このような関係(血圧と脳卒中の発生)を調べるのがエビデンス(証拠)です。それだけでなく血圧降下剤には心筋梗塞を引き起こすという重大な副作用があります。それは降下剤がコレステロール値を上げるからだといわれています。そのため血圧降下剤を服用しても寿命が変わらないばかりか、むしろ短命になってしまいます。難病には最後の治療法として遺伝子治療という方法が脚光を浴びています。これまでの遺伝子治療法はすべて失敗で、患者さんは治療によってほとんどすべてが死亡しています。人類が遺伝子をコントロールできる段階になっていません。原子力をコントロールできないと同じことです。まだ人類はウイルスや遺伝子(ガンもその一つ)をコントロールする技術を持っていないので、人体に遺伝子を入れると制御不能になることは目に見えています。メディアはiPS細胞技術に目を奪われ遺伝子治療の危険性をしっかり認識できていません。

3) 治療で命の縮むこと

医療行為の±面を「総死亡」まで調べて比べるという考えは従来ありませんでしたが、欧米での最近の研究によると、命を救うはずの医療行為(検査・治療)が逆に命を縮めているということが分かりつつあります。まず不整脈の治療について見ましょう。上室性期外収縮、心室性期外収縮、心房細動ですが、通常これらの不整脈が命に係わることはありません。ところが心筋梗塞にかかった後に起こる心室細動が突然死の原因といわれています。AEDによって救命率が向上しました。それでも重症の不整脈の救命率は30%から2%といわれています。米国で重症不整脈を予防する薬3種の大規模調査が行われました。対象は心筋梗塞を起こした2300人の患者さんで、結果は総死亡がむしろ高くなって、調査を継続することが危険と判断され中止になりました。偽薬のグループの総死亡率は3%、薬投与グループで総死亡率は7.7%に増加したのです。それ以降も重症不整脈予防薬の大規模調査が行われてきましたが、結果は無効であるか有害であるということです。同じように抗がん剤の副作用は「発がん」であるという宿命があります。次にC型肝炎治療のホープであるインターフェロンの効用を調査した例を紹介します。C型肝炎ウイルスに感染すると、半数に人が慢性肝炎になり、10年間で約20%の人が肝硬変に進行し、さらに年間5%で穂とが肝硬変から肝がんへ進行するといわれています。そこでウイルスの増殖を抑えるというインターフェロンに期待が集まりました。ところがインターフェロンの効果について大規模調査が行われていません。肝硬変患者を対象としたインターフェロンの効果(肝がんへの進行を抑制する効果)を調べた比較試験があります。インターフェロン治療は最初高い熱が出るため、偽薬を使ってもばれてしまいますのでブラセボなしで試験が行われた。対象患者は99人で3年間、投与グループと無治療グループが比較された。肝臓がんに進行した人は治療区で5人、無治療区で9人となりインターフェロン投与の抑制効果がみられたが、問題は総死亡者で治療区で10人、無治療区では7人であった。インターフェロン治療のほうが短命であったということです。日本でのインターフェロン治療成績が抜群に優れているという報告は、治験数が少ないと、良い成績を出したい医療側で不都合な患者を除いたり、恣意的に対象を選択するという操作が暗黙裡に行われやすい体質を日本の医療界は持っている。つまり母集団にバイアスがかかり易いため、治験数(患者の数)が1000人以上でないとその調査結果はにわかには信じがたいものです。新聞の世論調査と同じ原理で、調査数が費用上の制約で数千人だと、新聞社の特徴があらわに出て自民党よりの読売新聞の世論調査では自民党に有利な世論が誘導され、中道左派の朝日新聞だとそうでない世論が誘導されるのである。むろんアンケートの文章や選択方式によって新聞社の望む結果が出るように仕組まれて(操作されて)いるからである。世論調査は数十万は必要である。むろん世論誘導は毎日の新聞記事や同系列のテレビ局報道などで執拗に行っているので、アンケート調査はそのことの確認に過ぎない。

4) がん検診の罪

大規模調査の結果が出ても、専門家や医師はそれを認めようとはしません。むしろ医療界は別の調査報告(内容的には真正面から反論するのではなく、恣意的な例を提示して)を出して欧米の調査結果に反論し、日本医療の優秀さを誇示する傾向があります。フランスの肺がん検診の有効性を検証する調査研究では、6000人を対象に3年間に年2回の肺がん検診(胸部レントゲンと痰細胞検診)を行うグループと検診を一切しないグループに分け、さらに3年間追跡調査を行いました。その結果とんでもないことが分かったのです。肺がんの発生率もまた総死亡率も、検診を受けたグループの方で圧倒的に大きくなっていました。この結果に対して数々の反論がなされました。一つは体質に偏りがなかったかどうかです。もう一つは偶然だったかもしれないという懸念です。科学はいつも反論可能でなければならないといわれます。検証しようのない立論は宗教と同じなります。だからこの大規模試験結果に反論が出て当たり前で、単なるなんくせをつけるのではなく、検証可能な反論をしなければなりません。フランスの研究では被験者の偏りをなくするため、肺がんの発生に影響を与えそうな要因が偏らないようしました。そして同じような独立した3つのチームの大規模調査結果も同じ結論になったといいます。では肺がん検診を受けたグループで肺がんの発生が多くなった理由とは、受けたレントゲンの影響ではないかと指摘されました。次に肺がん手術の結果が体の抵抗力を弱め寿命を縮めた可能性があります。ところが日本では欧州の研究は15年前の古いデータであるとして、このフランスの調査結果を否定するための研究が精力的に行われ、国家予算をつぎ込んで厚生労働省は2001年に結果を公表しました。328人のなくなった肺がん患者のデーターと、約2000人の肺がんでない人のデータを比べて、「毎年は胃がん検診を受けると死亡率が48%減る」という結論にしました。この厚労省の調査は試験研究ではなくデータの解釈に過ぎませんので、大規模比較試験とは言えません。結果を見てからの説明にです。母集団の偏りなどの説明がありません。採用したデーターは限りなくあいまいで疑問が湧くばかりです。総死亡数も比べていません。肺がん検診を受け続けることの不利益が言及されていません。これではフランスの研究に対する反論になっていません。権威でもって恣意的なデーター解釈を許しています。近藤誠氏は「コレステロール値が180以上の人や120以下の人の総死亡率が高いので、コレステロール値を下げる必要はない」と結論しています。これに対して著者の岡田氏は米国での研究をひいて、「コレステロール値は高いほど体に悪い」と結論します。「コレステロール値が低すぎるとがんになる」という主張も根拠がないと断言します。ただしコレステロールの正常値を決めることは根拠がないことは認めています。それは正常者と病人との区別ができないからです。

5) 思い込みで医療が行われ、実は根拠がない

私たちが何かを言うとき、証拠(エビデンス)に基づかなければなりません。医学の常識にも、きちんと比較しているようにみえて、じつは単なる思い込みに過ぎない事項もたくさんあります。日本人の死亡原因の1位はガンで約半数を占め、第2位の心臓病と第3位の脳卒中が残りを2分しています。脳卒中は脳梗塞が8割で脳出血が2割です。脳梗塞を起こした患者の再発予防にアスピリンとワーファリンの2つの薬が使われとぃますが、米国の比較試験が200人の患者さんを対象として、ブラセボと2つの薬の効果試験が行われました。薬を使ったグループは使わなかったグループより巣某率が少なくなり、かつ2つの薬の効果には差異がなかったというものです。脳梗塞の再発を抑える薬の効果が証明されました。ところが脳梗塞を起こしやすい体質を調べるため、「頸動脈エコー」という血管の内部を撮影する検査法が導入されました。ではこの検査で動脈硬化があると診断された人にアスピリンなどの治療をすべきなのでしょうか。英国で心筋梗塞の予防を目的に、ハイリスクグループから5000人を4つのグループに分けた比較試験が行われた。アスピリンとワーファリンの2剤投与グループ、2つの薬剤単独投与グループ、ブラセボグループです。数年後心筋梗塞、脳梗塞、脳出血の死亡率を比較したら薬投与グループで明らかに効果がありましたが、総死亡数を調べるとアスピリン投与グループの死亡が多くなった。すでに脳梗塞になった人には薬は効果あるからといって、ハイリスクとはいえ病気はなっていない人には有効とは言えない、害があるのです。一次予防と2次予防では話が別なのです。脳梗塞予防に検査値だけで治療を始めるのは危険だといえます。すでに病気なった人の再発防止に有効だったとしても、1次予防にも有効なはずという思い込みは根拠がないのです。世界中の100万人のデーターより、血圧が10mmHg上がると脳卒中の発生率は40%高くなるということが分かりましたが、血圧降下剤を服用したら脳卒中が減るかというとこれは別の話です。血圧降下剤の副作用で、鬱、ガンなどが増えて結果的に総死亡率が下がらないのです。世界中で脳卒中や心臓病などのある3万人の患者に、4種類の高血圧治療薬(サイアザイド系、ベーター遮断薬、カルシウム拮抗剤、アンギオテンシン変換酵素阻害剤)のうち、一番安価なサイアザイド系と高価なカルシウム拮抗剤、アンギオテンシン変換酵素阻害剤の効果比較試験が行われました。この試験のいきさつは効果が同じなら高価な薬剤の使用は社会投資の無駄使いではないかということから始まったものです。結論はどの薬も血圧を下げる効果は同じで、かつ総死亡数に差はなかったという。ところが日本の医療界ではこの結果を読み間違って、思い込みで「高血圧患者を診たら、とにかく薬で下げろ」と曲解されてしまいました。この研究の結論は一番安いサイアザイド系で十分だということですが、日本ではどんな薬でも使いなさいとなったのです。しかも2次予防の試験(脳卒中や心筋梗塞患者の再発防止)で証明されたことが、1次予防(高血圧だけのひと)まで拡大投与されたのです。1次予防で総死亡率を減少させる効果は証明されていません。

6) 医者は苦し紛れの言い訳をする

さー検査をしましょう、さー治療をしましょう、さー薬を飲みましょうという現代医学を推進する人たちには不利なデーターばかりが出てきました。そんな現実を突きつけられた彼らは苦し紛れの言い訳ばかりをしています。抗がん剤の併用療法は、がんを治せるかどうかは別にして常識になっていますが、脳卒中や高血圧に複数の薬を投与するとどうなるかに興味が移っています。脳卒中患者の再発防止にサイアザイド系とアンギオテンシン変換酵素阻害剤の童子服用について大規模調査が行われました。結果は2剤を服用することで最高血圧が12mmHg下げられることと脳卒中再発を43%抑えることができ、1剤だけでは血圧は下げられても脳卒中は減少しないということです。この調査がきっかけとなり今や世界中で2剤投与が勧奨されています。ところが1剤服用でもブラセボ偽薬と比べて総死亡数は減少しませんでした。今や日本の製薬業界の年間売り上げは6兆円産業となりました。血圧降下剤の開発競争はめまぐるしく、アンギオテンシンU受容体拮抗剤という新製品が注目されています。この薬に関するサイアザイド系薬剤との比較目的で大規模調査の結果が2003年に発表されました。結果は脳卒中による死亡も、心筋梗塞により死亡もサイアザイド系薬剤との差はなかった。さらに総死亡率についても両者に違いはなかった。こうなると新薬開発という話題のために、従来薬の効果比較という総論がどっかに忘れられてしまったようです。ガンは予防の方法はなく国民の半数はいずれガンで亡くなります。ガンには遺伝的要素(家族的)は少なく、生活習慣や環境汚染のほうが主要因となっています。ガンの試験で対象を均質にして行うのは困難で、かつ手術が終わってからでないとわからない情報も多いのです。ガンの大きさと浸潤の程度、転移、どこまで転移していたか、がん細胞の性質などです。これらの要因で治療の効果も随分異なります。肺がんの治療薬「イレッサ」による死亡や延命効果に対する社会の疑問(メディア)は頂点に達しました。抗がん剤に強い副作用があるのはイレッサに限りません。抗がん剤の医薬品としての認可条件は「20%以上の患者で、腫瘍の面積が半分以下になることで、その状態が4週間以上続くこと」です。抗がん剤について多数の大規模試験が行われ、2000年に完了しました。結果は「腫瘍を縮小させるが、ブラセボにくらべて延命効果はない」というものでした。乳がんの標準的治療薬である「タモキシフェン」の先を行くといわれた新薬「アロマターゼ阻害剤」(女性ホルモンの合成阻害剤)を世界中の医療機関で9000人の乳がん手術患者を対象にして、再発防止薬としてのブラセボを入れた単独アロマターゼ阻害剤と単独タモキシフェンの効果と、2剤併用効果が調べられました。5年後の乳がん再発数はアロマターゼ阻害剤が一番少なく、2剤併用が一番再発率が高かったという結果でした。ところが総死亡率を見ると、新薬と従来薬には延命効果の差異はありません。総死亡数の項目を無視して、アロマターゼ阻害剤の効果が宣伝され、新薬は世界中の注目を浴びました。またタモキシフェンを乳がんのハイリスクの人々に予防的に使えないかという目的で調査が行われましたが、総死亡率が2倍以上になってしまいました。死亡例は大腸がん、心筋梗塞、エコノミー症候群による死亡でした。女性ホルモンには出血を調整する大切な働きがあります。これを阻害するとホルモンバランスが崩れ心筋梗塞やエコノミ症候群が増えたのです。抗がん剤の効果をよく調べないで、抗がん剤の効果=腫瘍の縮小が腫瘍の縮小=がんが治ると短絡的な話にすり替わっていたようです。今もなお病院では抗がん剤が大量に使用されています。

7) 早期発見・早期治療のウソ

「がんに限らず病気は早期発見・早期治療が大切」といわれていますが、これは絶対に正しい認識なのでしょうか。これを疑った人はいませんでしたが、実際に調べてみると、とんでもないことが分かってきました。がん治療に関して専門医は「がんが治るようになったのは、集団検診が普及し、早期に手術できるようになったから」と自画自賛していますが本当でしょうか。胃がんによる死亡は最近激減していますが、これは塩分摂取量が減ってきているからだと米国の研究で明らかにされました。胃がん専門医は胃がん死が激減したのは自分たちの功績だと言い張っていますが、さてどちらの言い分が正しいのでしょうか。このトリックは胃がんになる人(つまり胃がんの発生)自体が減少していることに気が付けば一目瞭然です。医者はとんでもないウソを言うものです。早期発見のがん検診には難しい点が多い。内視鏡で細胞を切り取り細胞診を行うバイオプシーという検査法は、細胞核の形態を見てガンかどうかを判定する医者の経験だけが頼りの方法です。その結果は5段階のステージで評価します。このクラス分けが医者によって異なります。進行がんか良性かは肉眼観察の経験で判定されます。ここに多くの疑問が発生します。本当に手術する必要があったのか、ガンでない人を手術して治ったと称しているだけではないか、ガンを放置しておいたらどうなるのかなど疑問は尽きませんが、いったんがんと診断されると有無を言わさず手術が行われます。患者には手術を拒否して病院を追い出されるか、病院を逃げ出すかの選択肢は残っています。ガンを放置して行く末を観察した例が極めて少ないのです。バイオプシー診断法が間違っていたのではないかという証拠がいろいろあります。手術して命拾いをした人と同じくらいの人が手術しなかった方がよかったという大規模調査の結果が出ています。肺がん検診でも乳がん検診でも連続してレントゲン検査を受け続けると、寿命を縮めるという結論が大規模調査から出ています。たとえ乳がん死亡率が少なくなっても総死亡数がかえって多くなるのです。大腸がん検診(便の潜血検査からレントゲン精密検査や内視鏡検査)の大規模調査が行われましたが、結論は総死亡数が減少していないのです。レントゲンを使用しない内視鏡検査にも強い副作用があります。内視鏡検査を受けた4万人に人から140人の大腸がん患者が見つけられ、203人の人に穿孔や出血などの副作用が出ました。功罪半ばしています。

8) なぜ医療は変わらないのか

大規模試験調査の結果が続々出ているのに、がん検診推進派や手術第1主義の医療界は変わらないのでしょうか。かたくなに邁進する姿は原発推進派に似ています。つまりサプライヤー(医師・薬業・厚労官僚)業界の利益を守るため、国家権力やメディアを動員し、神話を作ってまでがむしゃらに進めているのです。専門家である医師の言うことはアプリオリに正しいと考えるのは、患者の無知によるか奴隷根性によるのです。医学では微妙なことが多く、専門家である医師の判断も、素人とたいして変わらないことが多いのです。傷口の消毒は強い薬を使うよりは、水でよく洗った方がよい。なぜなら強い消毒剤は、傷口の細胞が回復する力(自然治癒力)を奪うからです。何か抗がん剤の作用に似ていませんか。抗がん剤は固形がんが標的の場合、下手な鉄砲で正常細胞とがん細胞を見境なく殺します。たとえ本当のガンであったとしても、抗がん剤で患者さんは殺されてしまいます。とにかく人間のからだは、自明なことは何一つありません。医師の思い込みで人間の体の摂理に反して無理な治療を施すことが多いのです。外科医は人の体に対してもう少し謙虚で慎重であってほしいと思います。大規模調査の結果に対して、医師側はいつも反発をし、外国人のデーターでは役に立たない、統計的数字ではわからないとか、医師の経験を重要視すべきとか言って言い逃れをし、日本の医療技術は世界最高といって傲慢にも居直ります。人種や個人差を強調しては科学としての医療は成り立ちません。そもそも人種という言葉さえ幻想にすぎません。地球上には人類という人種が一つあるだけです。交雑可能なものは一つの種とみなします。正確に言えば体重、生活環境、食生活などの環境を整えればヒトは同じです。これを認めない人が人種差別をするのです。オーダーメード医療は広い意味では遺伝子診断の裏付けをもって行いますが、これは幻想にすぎません。個人差が遺伝子情報で解明できるとは思えないからです。狭い意味でのオーダーメード治療とは自分の細胞を使うなら、人工授精に近いのでとかく言う必要もありません。ただ現技術では、遺伝子操作細胞はがん細胞以上に制御困難であります。神の領域に踏み込む覚悟があるのでしょうか。この100年以上医学上の革新的な技術や治療薬開発をほとんど欧米の直輸入に頼っておいて、外国人のデーターは参考にならないというのは詭弁です。ということで大規模調査に対する医師側の反論はどれも正当性を持ちません。医療分野は最近細分化が進み、誰もが限られた情報しか持っていません。しかも医師は職人化しています。つまり保守的です。外科医と放射線医の葛藤はあまりに有名で、現在は外科医が主導権をもってガン患者にあたります。そし医療を受ける側も意識改革が必要です。インフォームドコンセントにおいて圧倒的な情報格差で医師に脅かされ自由な発言を封じ込められていますが、医師という専門職の限界も認識して自ら作った幻想や奴隷根性の呪縛から逃れる必要があります。これは福島原発事故の教訓でもありました。医師のパターナイズムから脱して専門家の言いなりにならないで自分の頭で考えよう。でなければ医師と患者の良い関係は永遠に築けません。

9) 自分の健康は自分で守る

間違った知識に振り回されず、医療は賢く利用したいものです。そこで著者は健康を守る10か条を次のように述べています。
@ ストレスをためない: 自分や家族の健康問題でストレスをためてはいけない。検査の結果や治療の選択にそれほど神経質にならない。治療を行っても行わなくてもそれほど結果は変わりません。
A がん検診をやめる: 明らかに無益なのはがん検診です。現在まで総死亡数まで減少させたがん検診はありません。受けても受けなくても決して寿命には関係しません。レントゲンの発がんのほうが心配です。
B 何もしないという選択肢をもつ: 健診を受けても寿命が延びないということは手術を受けても寿命が延びないということです。がん検診で異常が見つかれば必ず手術になります。ガンの治療で延命効果が証明されたものはありません。長生きをするために治療を受けないという選択肢があってもいいのです。
C 過剰な検査、危険な検査は受けない: 学校や職場では法律で健康診断を受ける義務があります。また自主的にうける人間ドックがあります。病気になれば医療費という社会的費用が発生しますので、健康診断には一定の社会的効用がありますが、胃ガン検診・脳検診とか高額な費用が発生するMRI、CT検査の効用はないことは証明されています。レントゲン検診は放射線障害を受けますし、糖尿病検診の「糖負荷試験」は危険です。危険な検診を避け、安全な方法に替えましょう。
D レントゲンは最少限に: 人間ドックを始め、がん検診ではレントゲン撮影による放射線被ばくはけっして少なくはありません。優れた整形外科医は必要最小限しかレントゲンを撮りません。何回もレントゲンを撮る医師は金もうけのために人の命を軽んじる医者ですので、信用してはいけません。
E 気軽に病院へゆかない: 風邪を引いただけで医院を訪れてはいけません。インフルエンザなど伝染性の病気をうつされるか、薬の効かない細菌(MRSAなど)に感染します。またあきれるほど衛生概念の薄い病院もありますので要注意です。
F やめた方がいい薬は飲まない: どのような薬も5年以上連続して服用するとどんな副作用が出るかは調べられていません。たいした症状も出ていない成人病関係の薬をやめるという決意も必要です。薬をやめると急に元気になることがあります。薬の呪縛から逃れて気楽に暮らす方が寿命を延ばします。明らかに止めた方がいい薬は不整脈の薬です。睡眠薬、鎮痛薬、胃腸薬などを中毒のように飲み続けると危険です。何の症状もないのに、医者に続けて服用するように指示されている人は直ちにやめましょう。
G 慢性疾患の薬は功罪を判断して: 高血圧、非インスリン型糖尿病、高脂血症の慢性疾患(生活習慣病)の薬は功罪をよく判断しましょう。長期間飲み続けると利益・不利益が相半ばします。
H 足腰の痛みは薬に頼らない: 関節の痛みは動かして治しましょう。鎮痛剤は飲まないことです。
I やめてはいけない薬は慎重に: 脳卒中・心筋梗塞の再発防止のワーファリンのような血栓防止剤は急に止めると危険です。糖尿病のインスリン注射や重症アレルギーのステロイドや術後感染症予防の抗生物質は勝手に止めてはいけない。




3) 岡田雅彦著 「放射能と健康被害」(日本評論社 2011年11月)

本書の刊行は2011年11月なので、3.11の東日本大震災と東京電力福島第1原発事故を受けて急いで書かれたに違いない。確かにあの時は枝野官房長官が連日テレビの記者会見で、「直ちに影響を与えるものではない」といって福島県住民の不安を抑えるような発言を繰り返していた。むろん原発事故による放射線汚染は原爆被爆ではないので直接的影響ではないので、そういう意味では「直ちに影響を与えるものでない」ことは自明であるので官房長官の言は意味をなさない。しかし原発事故による低線量被ばくの長期的影響については大いに心配である。こういう発言は官僚的な詐欺的発言である。本書は医学的な本であるので、そういう政治的発言については詮索しないでおこう。しかし低線量被ばくの閾値問題とか累積的被ばく量(生涯線量)と発がんの関係こそが重大な関心事である。この観点で本書をまとめよう。戦後米国、フランス、英国、ソ連、中国(そして北朝鮮)の核実験は数えきれないほど行われ、隣国中国だけでも46回もの核実験が行われた。(地球破壊兵器である核保有国は国連安全保障理事会の常任理事国になれる。北朝鮮はそれを狙って核保有国=強国を目指しているのだろう。) したがって自然放射線量バックグラウンド値自体が上昇し、慢性的な放射線汚染状態であるといえる。チェルノブイリ原発事故の影響を調べる数々の調査団は、比較対象として自然状態が曖昧になり、純粋にチェルノブイリ事故の影響を抽出できないといわれた。チェルノブイリ原発事故から25年たってようやく健康被害と環境汚染に関する調査データーが続々発表されるようになった。放射線による健康被害は長い時間をかけないと見えてこない。「直ちに影響を与えるものでない」ことは自明なのである。だから安心できるわけでも、東電が免責されるわけでもないのである。筆者は放射線による健康被害の実態を科学的根拠エビデンスに基づいて、分かっていることから説き起こそうとした。医療あるいは健康診断に用いられている放射線であるエックス線も、原発事故と同じくらいに、あるいはそれ以上に危険なのである。

本書の構成は第1章放射能の基礎知識、第2章原発事故はなぜ起きるか、第3章チェルノブイリ事故の真実、第4章もっと危ないエックス線検査、第5章 放射能のない社会をつくろうからなる。第1章は放射線化学と放射線生物学の基礎を述べている。私も放射線生物学を学んだひとりで、コバルト60γ線で酵素活性の失活過程を研究していました。ですから第1章はあまりに初歩のことなのでスキップします。第2章は原発事故の起こる背景を書いています。事故発生以来今まで何十冊の東電事故関係の書物を紹介してきましたので次に代表的な書物を記します。
原発の技術面は淵上正朗/笠原直人/畑村洋太郎著 「福島原発で何が起こったかー政府事故調技術解説」(日刊工業新聞B&Tブックス)
原発行政と事故の背景については東京電力福島原発事故調査委員会著 「国会事故調 報告書」
を挙げてスキップします。そして第5章 放射能のない社会をつくろうでは原発は地球温暖化対策になるという説に対する反論として、地球温暖化説事態が欺瞞であることを述べていますが、これについては
地質学者より丸山茂徳著 「科学者の9割は地球温暖化炭酸ガス犯人説はウソだと知っている」(宝島社新書)
環境学者より武田邦彦著 「環境問題はなぜウソがまかり通るのか 2」(洋泉舎)
の反論が妥当と思われるの参照してください。
そして電力事情と再生可能エネルギーについては、長谷川公一著 「脱原子力社会へ」(岩波新書)
プルトニウムとプルサーマルの原子力行政については、佐藤栄佐久著 「福島原発の真実」(平凡社新書)
に詳しいので参照してほしい。ということで本書の核となる部分は第3章「チェルノブイリ事故の真実」と第4章「もっと危ないエックス線検査」にあります。本書の半分以上を占める第3章と第4章に著者の医学者としての神髄があると思われます。他の章は割愛(スキップ)します。なお「あとがき」によると、本書の著者岡田氏は新潟県巻町(新潟市に合併)のうまれである、1977年に巻町議会は東北電力角海浜原発計画受け入れを強行採決したが、1995年白紙撤回を願う住民投票条例が可決され町長はリコールされ、1996年の住民投票で61%が原発誘致に反対して、新町長が町有地を反対派に売却し原発計画は白紙撤回となったといういきさつを持つ。著者自身放射能の危険性、原子力行政のあやうさを早くから認識していたという原発反対意見の持ち主のようである。

1) チェルノブイリの真実

チェルノブイリ原発事故とその健康影響については、正直まとまった話を聞いたことがなく、白血病が増えたとか、はたまた人体には何の影響もなかったとする意見が相乱れて交錯する、曖昧模糊たる世界であった。事故当時のソ連という国の秘密主義(日本も負けて劣らず秘密主義だが)に阻まれて、事故の詳細が明らかにされなかったことも一因であるが、低線量被ばくの発がん影響は10−30年たたなければ出てこないという、がんの増殖速度が極めて遅いということに由来する宿命でもあった。事故の数年後から東欧とソ連邦が崩壊してゆくので、チェルノブイリ事故がソ連の体制を破壊したといわれる。ゴルバチョフ元大統領はこの事故をとらえて「ソ連という体制の最も非能率かつ非合理な体質が暴露された」と回想録で述べている。社会主義体制と中央集権官僚制のことである。日本の自民党にとって、歴史に「タラレバ」は禁物であるが、もし福島原発事故が自民党政権で起きていたら歴代政権の罪悪として自民党体制(55体制)は吹き飛んでいただろう。事故時は民主党政権であったため、事故の原因より政権の処理の不手際をなじることで自民党政権は奇跡の復活を成し遂げた。歴史は皮肉なもので、自民党体制がもたらした原発事故という集積した矛盾が、なんと民主党政権を吹き飛ばしたのである。そこでチェルノブイリ原発事故の経緯をみておこう。事故は1986年4月26日深夜に起きた。4号炉の定期点検にあたり、冷却ポンプ(循環ポンプ)の電源の調子が悪かったので非常用電源に切り替えて点検作業を行おうとした。非常用電源に切り替えた瞬間50秒ほどは電圧が降下するので、自動運転モードを手動に切り替え、発電量を一定にするため核燃料棒をすべて抜き取り、冷却ポンプの電源を非常用に切り替えた。この時電圧が異常に下がって冷却水の循環量が急激に低下し炉心温度が急上昇した。自動運転ならばここで原子炉は自動停止しするはずなのだが、制御棒が元に戻らなかったので炉心が超高温となり爆発した。爆発は2回起こり、火災は10日間続いた。この爆発で7人の作業員が死亡し、火災消火のため駆けつけた消防士47名、原発従業員31人が放射線障害で死亡した。140人が重大な放射線障害を受けた。事故後もチェルノブイリ原子力発電所は操業を続け、全面廃止となったのは2000年12月のことである。狂気の沙汰としか言いようがない人間の所作であった。

@ チェルノブイリで行われた調査

「医療は科学的な根拠エビデンスに基づいておこなわれるべき」という場合のエビデンスとは、T多数の人間を対象に実際に調べること、U比べる対象を公平に決める、V長い年月をかけて結果を見るという研究手法のことです。ここに述べるチェルノブイリ原発事故の教訓は、25年に及ぶ歳月と命がけの調査でえられた本物のエビデンスであると著者はまず宣言する。チェルノブイリ事故による放射能汚染はロシア、ウクライナ、ベラルーシの3国に集中した。チェルノブイリ原発より半径600キロメーターの地域である。低線量の汚染は遠く欧州にも広がり、半径2000キロメーターのノルウエー、スウェーデン、英国、イタリアまで達したのである。そのため学術調査は次の3つのグループに分けて分析が行われた。大グループは原発従業員、消防隊員・救急隊員、行政・調査スタッフなど直接原発に入った人々(60万人)、第2グループは半径30キロメーター域内の住民のうち事故後も避難しなかった人たち、第3グループは周辺住民で事故後避難した人たちである(21万6000人)。本書は被ばく量を自然放射線量(年間0.5ミリシーベルト)を1単位として、その何倍かという計算をする。第1グループの人の被ばく量は20−32000単位であるという。調査は事故後の3年間は行われなかったが4年後から国際原子力機関IAEAが住民検診を開始した。ソ連から要請を受けたIAEAは200人の専門家が入り調査を行った。対象は第2グループに属する地域住民82万5000人で、おもに放射線被ばく量の推定が行われた。放射線被ばく量の測定は8000人にバッジ式検出器をつけてもらい、ホールボデイカウンターを9000人に実施した。そして生涯線量は160−320単位と推定された。外部被ばくは内部被ばくの3−4倍多いこともわかった。

A 子供への健康影響ー甲状腺がん

原発が事故を起こすと約100種類の放射性物質が放出されるが、なかでも放射性ヨードが半減期8日と短いため、事故直後に被ばくする。体内に入った放射性ヨードはすべて甲状腺に蓄積する。世界保健機構WHOの「チェルノブイリ健康被害国際プロジェクト」は21万人の子供を対象に放射線被ばくの健康調査を行い、565人の甲状腺がんを発見した(0.27%)。日本の「笹川チェルノブイリ医療協力」はソ連の要請を受けて5台の測定器を備えた専用バスを送り込み、子供の甲状腺がんの調査を行った。10歳以下の子供10万人から63人の甲状腺がんを発見した(0.05%)。対象となった子供の生涯線量は平均320単位とみられる。被ばくしていない子供たちの調査も行って、2000単位の被ばくで甲状腺がんになる割合は(被爆しなかった子供に比べて)5.5−8.4倍であった。被ばく単位が1単位増えると甲状腺がんは約0.35%増えることになる。原発事故の半年後以降に生まれた子供には甲状腺がんは発生しなかった。国際合同調査団は子供の食生活と甲状腺がんの発生率を調べた。調査対象は事故当時16歳未満で甲状腺がんの手術を受けた276人である。食事でヨードを十分にとっている子供は甲状腺がんになりにくいことがわかった。野菜、肉、牛乳などに含まれるヨードは土壌中のヨード濃度に比例するので食材中のヨード量を推測することができた。ヨードを十分摂取していると、そこへ放射性ヨードが体内に入ってもすぐに排泄されるので、甲状腺に蓄積されることはない。子供の年齢と甲状腺被ばく量の関係は、幼い子供ほど被ばく量が多いことが分かった。2歳未満は800単位、10歳以上は86単位である。したがって原発事故の直後に子供を中心にヨード剤の服用が望まれるが、日本人の場合は海藻をよく食べるためにヨード摂取量は過剰である。ポーランドでは事故後3日目に1000万人の子供と600万人の大人にヨード剤を服用させ、牛乳と野菜の摂取を制限したという。事故後約20年間甲状腺がんの発生を追跡した研究者がいた。対象は第2グループの3万人である。20年後の検診で、858人の住民(6.8%)が精密検診を行い、65人が甲状腺がんであることが分かった(0.5%)。幼いころ被曝した人は20年後も甲状腺がんになる可能性がある。

B 子供への健康影響ー白血病

放射性のストロンチウムやセシウムはカルシウムに構造が似ているために骨に集まりやすい。骨髄にある造血組織が放射線をあびて白血病や再生不良性貧血を引き起こす。白血病は骨髄性白血病とリンパ性白血病に分かれ、かつ急性と慢性とがある。これまで被ばくによって白血病が増えたかどうかはっきりした見解がなかったが、2009年英国の研究者がチェルノブイリ調査報告の多くと国際放射性防護委員会ICRPの見解を訂正した。ICRPは「2000単位の放射線被ばくでガン、遺伝への影響は5%高まる」という指針を出している。欧州の各国が受けた放射線被ばく量は平均2単位であるので、がんになるリスクは0.005%だという見解であった。英国、ドイツ、ギリシャで150万人の新生児を対象に白血病発生の調査が行われた。チェルノブイリ事故後を3期に分け最初の1.5年間の環境放射線量は0.13単位ほど高く、この期に限って白血病の発生は43%も高いと英国の研究者は主張した。研究者は内部被ばくを重視したのである。ウクライナの研究者はチェルノブイリ周辺で事故後0−5歳の子供だった人で10年間に白血病と診断された265人を対象に厳しく精査して、最終的に246人が改めて白血病と確認された。外部被ばくと内部被ばくの予測式をたてて分析を行い、生涯線量が20−627単位の人は、6単位未満の人に比べて白血病になる割合は2.5倍高いことが分かったという。ICRPのリスク評価に比べると八秒リスクは8−238倍も高かった。米国、ベラルーシ、ロシア混成チームが、ロシア、ベラルーシ、ウクライナの3国の白血病発生を調査した。15年間の急性白血病と診断された子供を対象とした。421人の患者を厳選し(急性リンパ性と急性骨髄性白血病の比率は4対1で、日本とほぼ同じであった)、エックス線検査被ばくも考慮した。結果は白血病の子供の被ばく量は21.7単位、健康な子供の被ばく量は12.6単位であった。3国の結果がまちまちであることから、白血病と被ばく線量の関係はさらに検討を要するという慎重な結論であった。

C 大人への健康影響ー乳がんと白血病

ウクライナとフランスのチームは事故後18年間(2004年まで)のウクライナ全土の人々の行動と医療記録を集めた。@「チェルノブイリで行われた調査」に述べた3グループにわけて、第1グループ(事故後2年間チェルノブイリ原発で働いた)6万人、第2グループ(事故前後24年間汚染地域に住み続けた)36万人、第3グループ(30km以内の住民で事故後避難した)5万人を対象としたがん登録データーを分析した。第1グループの人の白血病を除くがん発生率は17%も増えていた。中でも女性の乳がんは2倍も増えていたのである。ウクライナの北にある国がベラルーシでがん登録データが存在し、この2国併せて3万7000人の乳がん患者登録から、1997-2001年で生涯線量が80単位を超えた人々乳がん発生率が(10単位以下の人に比べて)約2倍に増えていた。また成人の白血病のうち、リンパ性白血病にスポットを当てたウクライナの研究がある。「成熟B細胞腫瘍」(慢性リンパ性白血病、多発性骨髄腫)と呼ばれるガンについて、生涯線量が150−500単位の被ばくを受けた人の発生率を調べた。照査した結果285人の多発性骨髄腫を確認し、同国民の発生率平均に比べて明らかに高いと判定した。しかし放射線被ばくで乳がんや多発性骨髄腫の発生の可能性は示唆されるが、まだ調査は不十分である。

D 影響は遺伝するかー染色体異常と先天性奇形

ロシアでは原発事故後に作業に従事した男性の子供を対象とした遺伝的な影響を研究した。父親の条件は普段は汚染されていない地域に住んでいて、原発事故後作業にあたり期間は2−6か月出会った男性を対象とした。平均年齢は28歳、平均生涯被ばく量は452単位の強い被ばくを受けた第1グループの男性である。子供の条件は事故後11か月以降20年間以内に生まれたこと、そして放射線被ばくのない地域で育ったことである。31組の両親と39人の子供が選ばれた。対照として被ばくしてない9組の親子とした。結果は子供の染色体異常が4倍増加していた。米国とウクライナの研究チームはチェルノブイリから250Km離れたリブネ州で、2000−2006年に生まれた幼児9万6438人の先天性異常を調べた。ヨーロッパの基準で判定すると、神経管閉鎖障害、小頭症、小眼症の3つの異常がホットスポット汚染地域で多くなっていた。幼児の先天性異常は母親の喫煙や飲酒、妊娠時期などにも関係するが、特別この地方の母親の生活が不健康であったとはいえない。これらの結果より、放射線被ばくは子供の遺伝子に何らかの悪影響があるようだ。

E 低線量被ばくの影響

チェルノブイリから700Km離れたポーランドの研究者は、56−88歳の男女の骨に蓄積した放射性物質(セシウム、アメリシウム、ストロンチウム、プルトニウムなど)を調べた。汚染源によってアメリシウムとセシウムの比率が異なるので、この調査結果はチェルノブイリ原発事故によるものではなく、長年の他国の核実験による大気汚染のせいであることが分かった。チェルノブイリから遠く離れた北欧のノルウエイで胎児の脳に対する放射線被ばくの影響が調査された。事故後18か月以内に汚染地区で生まれた84人を対象として、生後18歳の知能異数を検査した。汚染地区に生まれた子供の知能指数が5点ほ度低いという驚くべき結果となったが、調査数があまりに少なすぎてこれから何が言えるかは問題である。放射線被ばくと知能障害との関係は差があるという研究と、ないとする研究が半ばして結論は出ない。

F 食品の放射線汚染

米国とウクライナの調査チームはチェルノブイリから西に250Km離れた地域(先天性奇形を調査した地域)で344名の女性を対象に、食生活と放射線被ばくの関係を調べた。食品の放射線汚染と摂取量基準を比べると、事故後最初から摂取を禁じられた牛肉を除いて、基準を超えるものは牛乳・乳製品ときのこであった。原発事故後は牛肉と乳製品が最も放射線汚染を受けやすいが、木になる果物や根菜類はよく洗えば比較的安心な食材であるといえる。北欧のフィンランドで食肉汚染の半減期(放射性物質の物理的半減期とは違うので誤解のないように)は、排せつによるので比較的短い。トナカイの肉のセシウム137は1−5年で半分の濃度に低下する。アメリシウムとセシウムの比率より、フィンランドの食肉中の放射性物質の50−80%はチェルノブイリ事故による汚染であったとされた。それ以外は過去の核実験の結果であった。チェルノブイリから南へ700Km離れたクロアチアでは20年間にわたって食品中の放射性物質と雨水中の放射線量を測定し続けた貴重なデータがある。その結果は雨水中の放射線量と牛肉の汚染度は比例していることであった。事故後の両者の減衰曲線は一致し、事故後5年間の半減期は6か月で、その後15年の半減期は5年と緩やかになった。魚介類の放射線汚染はイタリア北西部のリグニア海で調べられた。予想通り沿岸部で獲れる魚が最も汚染されていた。最初の半年は沿岸魚は摂取しない方がいい。ヒトの体内に入った放射性物質は約97日で半分になる(排せつされる)こともわかった。

G 生態系への影響

生物が放射線汚染の影響を受けることは人と同じである。ただ人の生活に(食材は別として)関係しないあまり研究はできていない。まして自然の生物の多様性は現時点でなにもわかっていないので、放射線汚染を受けてどうなるかは皆目わからない。ただ高濃度汚染地区から人がいなくなって、自然が回復し、野生生物が繁殖してきたことは皮肉な結論である。自然の最大の破壊者は人であった。

H 情報を見抜くには

チェルノブイリ原発事故でも東電福島第原発事故でも、政府関係者や専門家先生(使用言語の違い、狼狽、しどろもどろの対応と発言には国民全員が唖然とした)の言うことは人々から全く信用されなくなり、メディア情報がさらにパニックを拡大した。チェルノブイリに関する研究論文や解説記事の内容には重大な疑惑が発生した。研究論文を掲載する科学雑誌にも一流とそうでない雑誌がある。影響力指数インパクトファクターが0−69であるが、2でも一流誌である。ほとんどの雑誌は1以下であるという。レビューのある雑誌でもガセネタを見抜くことは学者先生でも難しい。再試験をやるしかないのであるがそんな手間を取る学者はいない。しかし結果に再現性がない論文は次第に淘汰され見捨てられる。うそがあれば学者として再起することは不可能である。そこで正しい情報、間違った情報を見分ける3原則は、@対象の数、調査期間、対照となる相手の具体的データが記されているか、A情報源(引用文献など)など責任の所在が明記されているか、引用が正しいか、B複数の調査で同じ結論となっているである。

2) もっと危ないエックス線検査

日本では労働安全衛生法で従業員に健康診断が義務付けられ、胸部エックス線検査を受けるようになっている。しかも40歳以上は毎年受けることとなっている。米国エネルギー庁によると胸部エックス線検査の被ばく量は1回0.2単位である。がん検診は「健康増進法」によって厚労省が指針を定め自治体が実施している。受けるかどうかは個人の自由である。人間ドックは2009年には受診者は300万人を超えた。しかし欧米の政府や学会は「健康な人が定期的に検査を受けても死亡率は減少しない」というエビデンスによって、定期的な検査を推奨していない。人間ドックを国を挙げて推奨しているのは日本だけである。胸部レントゲン検査、食道・胃のエックス線検査、CT、カテーテル検査・治療の被ばく量が多い。一番多いのがカテーテル検査である。胸部エックス線1枚の被ばく量は0.2単位、乳がん検診マンモグラフィーが0.2−3.6単位、心臓CTが24−82単位、東部CTが3.8−212単位、食道・胃の検査が20−200単位、大腸検査が80−200単位、心臓カテーテル検査が4000単位である。このようにかなり幅のある表現となっているのは、条件によってかなり異なり、かつ論文にも条件が書かれていないからである。医学側からいつもいわれることは「エックス線の危険性はゼロではないが、医療の利益がそれを上回るので問題ない」という回答である。専門家は放射線のリスクを無視するか問題視しない。ところが大規模比較試験の結果によると、がん検診で寿命が延びたという証拠はないか、むしろ肺がんに至っては定期的に検査を受けている人の方で死亡者が多いという結果である。胸部エックス線検査の具体的なリスクを求めた研究では、年2回検査を受けるグループと検診を一切しないグループに分け3年間検査を行い、エックス線検査を受けたグループで肺がんで死亡した人の割合は27%増えることが分かった。つまり1回の検査で5.4%リスクが増えたことになる。エックス線検査の被ばく量は0.2単位であるので、1単位当たりのリスクは27%である。日本人はエックス線検査を受ける回数が多いだけでなく、放射線被ばくが原因と思われる2次ガンによる死亡者が圧倒的に多く、府がん死亡全体の3.2%−4.4%を占めるという研究がある。アメリカではこの数値は2%程度である。これでもってエックス線検査の利益は明らかだといえるのだろうか。リスクが明らかだというべきではないか。

早期発見・早期治療というスローガンは果たして人の命を延ばしたのだろうか。検診でがんが発見されれば、手術。抗がん剤治療・放射線療法など現代医学の治療が必ず行われる。それにもかかわらずがん死亡率が低下しなかった理由として、@検査自体に死亡率を上げる要因が存在する、Aがんの治療に重大な欠陥があり、早期発見・早期治療にもかかわらず患者やさんを救うことができない。これは現代医学がガンを知り尽くしていないことや、治療が的を得ていないか、ガンを征服すること自体が至難の技かもしれないといえる。エックス検査のリスクはひょっとすると利益よりも大きいのではないかという疑念が起きる。最後に原発事故で被ばくした線量は胸部エックス線より少ないといった言がまことしやかに話されている。生涯線量とはがんは被ばく強度のみならず、少量の被ばく線量の累積で発生することを知らないか、黙殺する意見である。生涯被ばく量は大小を問わず、閾値を設けないことが現代の常識となっている。国際放射線防護委員会ICRPでは、がんになる確率は被ばく2000単位当たり5%高まる(1単位では0.0025%)という指針を示す。これは広島・長崎の被爆者調査が基になっている。チェルノブイリ事故から得られたエビデンスでは、子供の甲状腺がんは生涯被ばく量が1単位で0.35% 増える。5歳未満の幼児では20単位以上の生涯線量で白血病になるリスクは数倍増える。生涯線量が10単位を増えると成人のガンが明らかに増加するという結果であった。ICRP指針よりかなり大きな数値であるが、これより胸部エックス線検査の肺がんリスクは1単位で27%高まるという結果であった。すると放射線被ばくのリスクは原爆→原発事故→エックス線検査の順に大きくなる。ということで、エックス線被ばくから身を守るためには、「何も自覚症状がなければ、人間は基本的には健康であると考えてよい。健康な人があらさがしのように定期的に検査を受けても得することはなく、医者のカモにされるだけで、安心のためだけにエックス線検査を受けるのは愚かな行為であろう」ということを肝に銘じるべきだというのが本書の結論です。


随筆・雑感・書評に戻る  ホームに戻る
inserted by FC2 system