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坂岡洋子著 「老前整理」

 徳間書店 (2011年1月)

元気なうちに不要な物をそぎ落とし、新しい生き方に備えよう。

私は京都生まれなので、家の中の片付け整理にはうるさいほうで、女房のだらしなさをいつも口うるさくしかっているほうである。しかし本書を読んで、これは収納に関することに過ぎず、タンス・押入れや本棚を開けばやはり、何年も使っていないものが数多くある事に気がついた。さっそくサラリーマン時代からのネクタイやワイシャツそしてカビの生えたスーツなどを棄てた。又引き出しから電気器具の取扱説明書やカタログ、保証書なども棄てた。これは本書の直接的なおかげである。しかし自分は何をしたくて何を不要とするかはまだよく考えていないので、何をどう整理するかこれからゆっくり計画を立てたい。本書は数時間で読みきれる簡単で分かりやすい本で、すぐ行動を起こしたくなるように書かれている。著者坂岡洋子氏のプロフィールを紹介する。氏は1957年生まれ。大阪デザイナー専門学校スペースデザイン科, 関西鍼灸柔整専門学校二部高等科, 京都造形芸術大学通信教育部芸術学科芸術学コース卒業, 近畿大学豊岡短期大学社会福祉士課程修了して、株式会社あまもく、株式会社近畿ハイムで、インテリアコーディネート、住宅設計に携わり、東武株式会社にて、大手弱電メーカー3社の家電製品の企画・デザインを担当した後、1989年フリーインテリアコーディネーターとして活動開始した。バリアフリーに必要性を感じてケアマネージャー資格を取った。在宅介護の現場で高齢者の生活がものに埋もれている事を発見し、年寄りの暮らしを軽くする事を目的として,2007年株式会社「くらしかる」を設立した。人生の節目を迎えた時に、頭と物を整理する「老前整理」を提唱し、商標登録も済ませた。講座・ワークショップなどの活動でその普及に努めている。著者が代表をつとめる「くらしかる」のホームページも参考に挙げる。

本書の前書きに本書の目的を、「あなたがこれからどういう自分になりたいのか、どういう生き方をしたいのかを考え、何が必要かをあなた自身で決め、不要なものを削ぎ落とし、新しい生き方、暮らし方をする、そのための道筋をつけるためのお手伝いをしたい」としている。これまでの自分の人生を振り返って、今後の人生を考えるためには心の整理が必要だ。それが必要ないものの整理につながる。 闇雲に棄てるなら過去の自分の全否定となるので、取捨選択する力を身につけること、そのために自分の頭と心を整理することから始まるというわけだ。日本では1970年代から大量消費社会が「花開いた」モノの豊かな時代となった。戦後派や団塊といわれる世代(つまり私の世代)は高度経済成長の時代に生きた。あふれほどのモノが身の回りに集積されたのである。ものがあれば安心と考えたのだろう。ところがバブル崩壊から金融危機を経て急速に日本社会は人口と経済の縮小の時代になった。そしてエコが社会の主導原理に成りつつある。この新しい時代にいつまでもバブル景気気分ではいけないし、大量消費大量廃棄では資源節約にも反するわけでもある。日本社会全体が整理に入り、当然団塊の私たちも身の回りを整理してゆかなければ、身が軽くならないのである。整理するには気力体力時間が必要である。したがって老いる前にやって置かなければならない。「老前整理」と「生前整理」とは違う。まして「遺品整理」とは異なる。ここいらで「人生の棚卸し」をしようではないですか。片付けると気持ちがすっきり、新たな気分で再スタートができる。「使うものと使えるものとは違う」ということがよく言われる。自分が何年も使っていないものは無いも同然です。これから自分が何を必要としているかという自分との対話を繰り返して、心の整理と決断を進めよう。そして整理とは収納とイコールではない。むしろ減らすという意味である。しかし棄てるには自分のルールと勇気が必要だ。今役に立っているモノは棄てられない。また思い入れのある物は棄てられない。役にも立たず思い入れのないものは棄てる覚悟が必要です。たとえば何年も使っていない洋服や履、日用品は棄てる候補生となる。使えるものなら人にあげる(人も嫌がるなら棄てる)ことも選択肢です。

著者が唱える老前整理の五原則とは、@一度で片付けようとはしない、A最初から完璧を目指さない、B家族のものには手を出さない、C片付けに収納用具は買わない、D使えると使うはちがう、ということです。要するに気長に楽しみながら使わないモノを減らしてゆきましょうということに尽きる。そして整理するものはモノだけでなく人間関係も必要です。退職した会社関係者や、何十年合っていない人への年賀状もそろそろ止めにしましょう。明るい老後はお付き合いの整理も必要です。子供の巣立ち時に子供部屋の整理のチャンスである。特に男性は片づけが下手であると著者はいう。たしかに重いもの大きいものの整理の男性の力が必要で、しかも力のあるうちにやらなければならない。人間関係、お付き合い、対話などコミュニケーションに関することは、これからの人生にとって最大の関心事である。だからこそ棚卸しが必要なのです。「もったいない」という言葉が今エコ分野で流行しています。大量消費時代にはなかった言葉です。すくない物を大事に使おうということであって、大量の物資は全部使い切れるものではない。だからもったいないという言葉の前に、いらないものは持たないということが必要となる。老後の家が「ごみ屋敷」にならないように。


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