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室田 武著 「原発の経済学」

 朝日文庫 (1993年8月)

高コスト、石油を多消費し、核兵器並みの危険性を持つ原発を国策で強行している現状から脱しよう

まず、最新の原子力行政の政府情報は経産省原子力安全保安院を参照ください。全世界で原発の出力は3億9212万Kwhで 435基が稼働中である。アメリカは1億Kwhで 104基稼動、  フランスは 6602万Kwhで 59基稼動、日本は 4946万Kwhで 55基稼動であり、日本は世界第3位の位置にいる(2008年データ-)。さて本書に入る前に2011年7月20日時点での日本の原子力発電所の最新情報を確認しておこう。下表には稼働中の日本の原発を示す。現在19の発電事業所で全55基の原発が存在し、2011年3月の大震災とそれに伴う福島第1原発の余波を受け運転を停止したのは東通原子力発電所、女川原子力発電所、福島第一原子力発電所、福島第二原子力発電所、東海第二発電所、浜岡原子力発電所の18基であり、定期点検で運転停止中を含め関西電力大飯原発1号機のトラブルで、2011年7月16日現在で稼働中の原発は18基(日本全体の1/3)に過ぎないという異常事態となっている。

稼働中の日本の原発
名称 電力会社立地場所炉数建設中/計画中炉型現況 備考
泊発電所北海道電力北海道古宇郡泊村3基
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加圧水型2基が運転中
東通原子力発電所東北電力
東京電力
青森県下北郡東通村1基 建設中1基
計画中2基
沸騰水型東北電力2基、東京電力2基。東北地方太平洋沖地震で運転停止中
女川原子力発電所東北電力宮城県牡鹿郡女川町3基
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沸騰水型東北地方太平洋沖地震で全3基が運転停止中
福島第一原子力発電所東京電力福島県双葉郡大熊町 (1-4号機)
福島県双葉郡双葉町(5,6号機)
6基 計画中2基 沸騰水型 東北地方太平洋沖地震により1-4号機破損、全6基が運転停止中。また1-4号機は廃炉すると発表されている。
福島第二原子力発電所東京電力福島県双葉郡富岡町4基
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沸騰水型東北地方太平洋沖地震で全4基が運転停止中
東海第二発電所日本原子力発電茨城県那珂郡東海村1基
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沸騰水型東北地方太平洋沖地震で運転停止中
柏崎刈羽原子力発電所東京電力新潟県柏崎市7基
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沸騰水型新潟県中越沖地震で運転停止も、2011年までに4基が運転再開
浜岡原子力発電所中部電力静岡県御前崎市3基計画中1基沸騰水型2基は2009年1月にすでに運転終了し廃炉へ。残る3基も運転中止(政府からの運転中止要請)
志賀原子力発電所北陸電力石川県羽咋郡志賀町2基
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沸騰水型運転停止中
敦賀発電所 日本原子力発電福井県敦賀市2基計画中2基加圧水型
沸騰水型
運転停止中
美浜発電所関西電力福井県三方郡美浜町 3基
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加圧水型 2号機のみ運転中
大飯発電所関西電力福井県大飯郡おおい町4基
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加圧水型2011年内に2基が定期検査で停止予定
高浜発電所関西電力福井県大飯郡高浜町4基
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加圧水型
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島根原子力発電所中国電力島根県松江市 2基 計画中1基沸騰水型
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伊方発電所四国電力愛媛県西宇和郡伊方町3基
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加圧水型
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玄海原子力発電所九州電力佐賀県東松浦郡玄海町4基
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加圧水型
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川内原子力発電所九州電力鹿児島県薩摩川内市2基計画中1基加圧水型
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もんじゅ日本原子力研究開発機構福井県敦賀市1基
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高速増殖炉1995年にナトリウム漏れ事故が起きて停止。2010年5月運転を再開し、2010年8月 燃料棒交換用の炉内中継装置部品を原子炉内に落下させる事故発生。
                   

去る2011年7月13日菅首相は国民向けに記者会見を行い、個人の見解と断って、「原発に依存しない社会を目指す」と言明した。1950年以降の首相の中で、「原発を見直し原発に依存しないエネルギー政策を!」を掲げたのは菅首相が始めてである。菅首相は3月の福島第1原発事故を受けて、静岡県浜岡原発の全面停止、九州玄海原発など定期点検中の原発運転再開に対してはストレステストの追加実施を求めて浮き足立った地方自治体(県)の動きを止め、そして今回の「原発に依存しない社会を目指す」発言となった。菅首相はなかなかの粘り腰である。それに対して財界はカンカンに怒っているので、あるいは菅さんの引き摺り下ろしを早めるかもしれない。さて本書は実は結構古い本である。1981年に日本評論社より「原子力の経済学」として発行され、1986年に同社より「新版 原子力の経済学」が刊行され、1993年4月に朝日文庫より「原発の経済学」として発行された。データなどは1991年までのデータが追加されているので、約20年前の本である。私はこの本を1994年に読んだ。東日本大震災による福島第1原発事故が起きて、長年の「原子力安全神話」は誰も信用しなくなり、かつ東電や経済産業省・原子力安全保安院の権威は失墜した。恥の上塗りのように九州電力の公開テレビ番組原発賛成メール指示事件がおきて、電力会社の卑劣な体質も露呈した。この時点で原発やエネルギー政策に関係する本がこれから沢山刊行されるだろうが、いまいちど室田 武著 「原発の経済学」を読み直そうと考えた。原発の仕組みや機構はそう変わっていないだろうから、本書は時代遅れになっているのか、案外本質は変わっていないのか、勉強の原点として本書を紹介する。

著者室田武氏は実は私と大学の同級生であった。略歴を紹介しておく。1943年群馬県生まれ、1967年京都大学理学部卒、1969年大阪大学大学院経済学修士課程修了、1976年ミネソタ大学経済学博士号取得。1973年イリノイ大学専任講師、1975年國學院大學専任講師、1978年一橋大学助教授、1987年教授、1996年同志社大学経済学研究科教授だそうだ。私は京都大学理学部時代までしか知らない。彼は物理学科にゆき、私は化学科にいった。彼は大学卒業後経済学を勉強してアメリカで博士号をとったという変わり者である。本書を読めば経済学者というよりは物理学者としての面が如実に現れている。彼とは教養学部生の時代にマルクス「資本論」勉強会をやったことが懐かしく思い出される。まじめで勉強家だった。室井氏はじめエントロピー理論を研究し認められ、その後反原発運動に加わり、エコロジストとして活動、現在はコモンズ理論を唱えるという。その彼が原発の経済学という本を著わしたのだ。原発の核反応と廃棄物処理の困難さとその経済学的偽装は、結局国家権力化した電力会社と経産省の協同謀議によるものである。そこを見事に暴いている点はいまでも十二分に主張できる。なにか彼の論調までなつかしい。一度お会いしたいものだ。

1) 原子力利用と原発

この章は室田氏が物理学科出身でなければ書けないような、原子力利用開発史のドキュメントとなっている。原子力利用は最初から核兵器開発で始まったという人類の不幸な歴史を書くことになる。1940年次々と人工的に新元素が生み出された。カルフォニア大学のエーヴェルソンらはネプツニウムを、シーボーグらはサイクロトロンで加速した重水素をウラン238を衝撃した結果プルトニウムを得た。これらの実験は軍事機密下に置かれた。天然ウランにも極微量ながらプルトニウムの存在が見出され、ウラン238が中性子を吸収したためである事が分った。中性子によるウラン235の核分裂連鎖反応は1938年にドイツでも確認されていたが、亡命したハンガリー人のシラードが、ナチスが核兵器を作る前に、アメリカが核兵器を開発すべきであるとアインシュタインに進言したという。核兵器開発はウラン235の核分裂を利用する方向と、もうひとつの方向はウラン235の核分裂によって生成される中性子をウラン238に作用させてプルトニウム239を作り、プルトニウムを抽出分離して核兵器原料とする方向である。核兵器は飛行機で運搬可能という条件を満たすために、小型軽量化できるプルトニウム爆弾のことで、ウラン爆弾は製造されていない。プルトニウムが核兵器の原料であるとすれば、日本はいまや原発廃棄物からフランスでプルトニウムを回収してもらってプルトニウム保有大国になっている。隣の北朝鮮がわずかばかりのプルトニウムをかき集めて線香花火のような核実験?を行なっているが、日本は潜在的な核兵器大国の一歩手前で止まっている。

イタリアの物理学者フェルミはアメリカに亡命して、シカゴ大学冶金研究所に移って、「原始パイル CP-1」(フェルミ炉)の指導者となった。1942年12月アメリカのシカゴ大学ヤンパスの一隅で、6メータ四方の黒鉛レンガの「原始パイル CP-1」(340トン)が組み立てられ、レンガのいくつかには中に球形の金属ウラン(36トン)が埋め込まれ、外側から挿入できるカドミウム制御棒が入れてあった。ウランは天然ウランでウラン238が約99.3%、ウラン235が約0.7%であった。この実験の主役はカドミウムの制御棒を次々と引き抜いてゆくジョージ・ワイルと、計数管の針を追うフェルミであった。中性子密度がゆっくりと上昇し臨界が達成された。この実験原子炉の出力は数百Wで冷却法は空冷であった。黒鉛は中性子の運動を減速しウラン235に当たる確率を高める役目をする。1986年のソ連のウクライナで起きたチェルノブイリ原発4号炉が核開発の世界史上最悪の事故を引き起こした。チェルノブイリとシカゴパイルの方法や材料はそれほど違わない。制御棒の材質がホウ素カーバイドになっており、ウラン235は2%に高めた低濃縮ウランであった点だけである。しかし決定的に違ったのは熱出力である。シカゴCP-1は200W、チェルノブイリの場合320万kwの熱出力(電気出力100万kw)であった。チェルノブイリ事故の原因は、タービン慣性回転の効果を調べるため、低出力運転試験をした結果、核反応が異常に増進させ一気に核爆発に進んだものと考えられている。

日本で運転されている原発は殆どが「軽水炉 LWR」(重水に対して、普通の水のこと)で、燃料棒と制御棒を水に浸漬するタイプである。シカゴ大学のパイル実験では黒鉛で中性子を減速したが、水にも中性子を減速する性質を持っている。「軽水炉 LWR」は大別して「沸騰水型軽水炉 BWR」と「加圧水型軽水炉 PWR」の二つがある。福島第1原発事故以来4ヶ月、毎日テレビでは保安院が説明に使う「沸騰水型軽水炉 BWR」の絵が出ない日は無いといってもいいくらい、構造図は理解できたかどうかは別にして、この絵は人々の脳裏に焼きついているはずだ。原子炉の圧力容器内で300度くらいの高温高圧蒸気を発生させ、これをパイプでタービンに吹き付けてダイナモを回転させるものである。タービンを回したあとの水蒸気は大量の海水で冷却し水に戻して(復水)してポンプで圧力容器に戻すのである。これに対して「加圧水型軽水炉 PWR」では、さらに圧力容器内の圧力を高めて蒸気発生器におくり、1次側の熱水を細い多数の熱交換パイプで伝熱し、2次側の水を加熱して水蒸気を発生させる。1次冷却、2次冷却材もともに水である。2次側の蒸気がタービンを回して発電し、海水で冷やされて水に戻り蒸気発生器に送られることはBWRと同じである。PWRの特徴は熱交換方式で2重の冷却材方式であるため、通常の運転では放射能を含んだ水はタービン発電システム側に循環しないという安全なシステムである。ところが熱交換パイプの溶接部に亀裂が入ったりすると放射能漏れ事故となる。ごく稀な例であるが英国では冷却材としてガスを使う「ガス冷却炉 GCR」が存在し、「コールダーホール型」と呼ばれている。1次冷却ガスには炭酸ガスやヘリウムが使われ、このガスの熱が蒸気発生室の熱交換器を介して水蒸気を発生させタービンに導かれる。つぎに「高速増殖炉 FBR」の場合、炉心内の1次冷却材は金属ナトリウム液体であり、中間熱交換器で2次側の液体ナトリウムを加熱する。この2次冷却材の液体ナトリウムが蒸気発生室に導かれて水を加熱して水蒸気を発生させる。水蒸気がタービン室で発電するのはすべての発電システムで同じである。

原子力発電は原爆の原理と同じである事は再確認しておく必要がある。原発の運転を誤れば核爆発と同じことになり、そして通常運転でも「死の灰」を大量に発生し続けることは原爆と同じである。ウラン235という物質は中性子が衝突すると2つの原子核に分裂し、アインシュタインのエネルギー式E=mc^2の量のエネルギーが放出される。1945年8月6日広島の上空で約0.6Kgのウラン235が瞬時に分裂した。その熱と爆風で、14万人(当時の広島市の人口32万人)の人が死亡した。そして多くの人が白血病などの原爆症で苦しんだ。ウラン235は天然ウランの極小部分0.7%を占めるに過ぎないが、あとの99.3%はウラン238であり、このウラン238は中性子を受けてプルトニウム239に変わる。このプルトニウム239も中性子を受けると核分裂を起こす。8月9日に長崎に投下された原爆はプルトニウム239爆弾であった。この核分裂のスキームは原子力発電においても全く同じである。1gのウラン235が完全に核分裂すると、石油換算2トン相当のエネルギーが得られると言われる。日本の原発で使用される核燃料は3%の濃縮ウランといわれ、核燃料1トン(30Kgのウラン235)からおよそ20Kgの死の灰と、約7kgのプルトニウム239ができる。1979年3月28日アメリカのペンシルバニア州にあるスリーマイルアイランド(TMI)原子力発電所2号機(PWR型)において大事故が発生した。2次冷却水を蒸気発生器に送る2台の主給水ポンプが停止し、原子炉が加熱したため蒸気発生器の圧力逃がし便が開き固着した。炉心から噴出する蒸気は格納容器内に充満し、水素爆発(核燃料被覆管のジルコニウムが冷却水と反応し水素ガスを発生)をした。原子炉としてはクラス9事故となった。この事故の状況はなんと2011年3月の福島第1原発(BWR)の津波の電源喪失がもたらした冷却ポンプ停止による炉心メルトダウンと圧力制御プール亀裂による放射能漏れと格納容器の水素爆発とよく類似している。加圧水型をとる日本の福井県大飯原発、佐賀県玄海原発でもTMIと類似の事故を立て続けに起こした。

原発の炉心そのものが損傷する事故で最も恐れられていることは、@炉心溶融メルトダウン、A核暴走或いはB核爆発であろう。原発のどこかで異常が起きると、まず自動あるいは手動で制御棒が炉心に挿入されウランの核分裂は停止することになっている。これを「炉停止」という。それでも炉心に存在する核燃料は崩壊熱を大量に出し続ける。そこで崩壊熱を除去する冷却水の循環に支障が生じると、炉心は加熱状態となって溶融を始める。これを「メルトダウン」という。その溶けた核燃料が炉底に貫入し突き抜けて地価に達し、地下水を爆発させるような火山活動に似た状況を「チャイナシンドローム」という。原発ではまだ起きたことは無いが、地下貯蔵の核燃料や廃棄物の場合にはありうるかもしれない。TMI事故では炉心の70-80%は溶融していたと考えられる。つぎに核暴走(ニュクリアーランナウエイ)とは、一旦停止したはずの核分裂連鎖反応が再開する事を「再臨界」という。これについては実用規模での事故はどこにも起きていない。原爆の爆発と同じ第3の事故「核爆発」はチェルノブイリ原発で起きた。旧ソ連、日本、IAEAなどの原発推進当局はこれを認めようとはしないが、理研の槌田淳氏は核爆発説を主張している。チェルノブイリ原発事故以来日本の原発は安全策を強化してきたが、それでもあわやという事故を繰り返している。1988年中部電力の浜岡原発第1号炉の再循環ポンプの電源が失われ、制御棒の挿入もコントロールを失った。約12時間をかけて修復したという。1989年東電の福島第2原発3号炉の循環ポンプの軸受けベアリング異常があって炉を停止して調べたところ、ベアリングが破損して破片や金属粉が1次冷却水まで入り込んでいた。炉心の冷却も不十分でメルトダウンすれすれの状態であったという。1991年関西電力の美浜原発2号炉で蒸気発生室の伝熱細管1本がぽっきり折れて(ギロチン切断)、放射能混りの1次冷却蒸気が2次側冷却水に吹きだす事故があった。蒸気発生器細管の穴あき事故は日常的に発生している。

これらの事故は炉心に絡む事故であるが、廃水や空気への漏出事故も恐ろしい。1981年日本電源の福井県敦賀原発の給水加熱期器のひび割れによる冷却水漏れコが(1974年まで遡る)が発見され、溶接修復した。福井県が敦賀原発の一般排水路を点検したところ、高濃度のコバルト60、マンガン54、セシウム137が検出された。これらは炉心の核分裂物質ではないが、中性子が配管に当たって発生する物質であるが、敦賀湾沿岸の漁業者に大打撃を与えた。1980年ごろから福島第1原発の周辺では海がコバルト60で汚染されいたが、小学校の校庭からも検出されたという。

2) 電気料金からみて原発は本当に安いのか

「日本原子力発電株式会社」(原電)は1957年に九電力会社の出資で創立され、日本最初の商業用原発として茨城県東海村にガス冷却型原発を建設し、1966年その営業を開始した。1970年には福井県敦賀発電所(BWR 35万Kw)、1979年には東海第2原発(BWR 110万Kw)の営業運転を開始した、原発のパイオニア会社である。原子力発電を専業とする原電の電力会社への売価は、東海発電所の東電への売電単価Kwあたり8円5銭(1979年)、敦賀発電所の売電単価は6円2銭であった。1977年の単価は10円であったにもかかわらず、創業以来赤字で無配当であった。1981年度決算で初めて黒字に転換した。ちなみに山梨県営笛吹川水力発電所は東電に買い上げてもらっているが、売電単価は1981年で5円1銭であった。それでも莫大な利益を山梨県にもたらし、あのミレーの「種まく人」の絵を1億700万円で買ったのもこの発電所の利益があったからだと言われている。他の発電方式に対して原発は安上がりだと言われているが本当だろうか。卸電気事業者のは公営と私営とがあるが、私営卸電気事業者20数社のうち、原子力専業である原電の売価は1987年度で10円68銭と、水力の黒部川電力では5円76銭、火力の君津共同火力では7円98銭、水力と火力の電源開発では9円74銭にくらべても原子力発電はかなり割高である。

日本の電気事業が9電力供給会社の独占に至った経緯を歴史的に見ておく必要がある。有限責任東京電燈会社が1887年に電気事業を開始した。1890年自家発電ということで古河鉱業が足尾水力発電を開始した。又地方自治体では京都市が琵琶湖疏水を利用した蹴上水力発電所を1892年に開始した。当時は競争が当然で政府の統制はなかったが、1896年に「電気事業取り締まり規則」により大臣許可制となった。料金規定は無く届け出でよかった。20世紀にはいり電力事業促進に力点を置いた「電力事業法」が1911年に制定され、料金については従来どおり届出制であった。満州事変の1931年には戦争遂行のための官僚統制が強まり、電力事業法全文改正が行なわれ、電力料金は政府認可制に変わった。そこで料金算定のため「総括原価方式」が採用された。鉄道や電力は線路と電線というインフラ整備という技術的問題からある程度までは独占はやむをえないという「自然独占」とみなされた。「総括原価方式」は簡単にいうと適正原価+適正利潤を評価することである。民間の電力会社の反対があったものの1937年には「電力国策要綱」が閣議決定され、1939年には日本発送電(株)が発足した。1938年「国家総動員法」のもと「配電統制令」が公布された。当時配電時グ王社は410もあったので、「配電統制令」は日本を九つのブロックに分けひとつづつの配電会社を設立するものであった。こうして今日の9電力会社が民間の株式会社として実質の管理権は政府にあると云う形で配電部門は完全独占が成立した。料金も政府認可から政府決定に移行した。戦争中の官僚中央集権統制の多くの残骸がそのまま今日の社会制度として残っている。官僚が力を持つわけである。戦後はGHQの指導のもと松永安左衛門は「日発を解体し、発送配電の9社案」が提出され、吉田茂首相は議会の紛糾を避ける形で1950年11月「電気事業再編政令」を公布し、1951年5月今日の9電力会社が創業した。なおこの制度は1964年の「新電力事業法」の制定までは、正式な法律なしで運営された。朝鮮戦争が契機のひとつとなって経済復興が進み発電能力の増強が望まれ、1952年には国策会社電源開発(株)を創設し9電力会社に卸供給を行なわせた。1955年に「原子力基本法」と「原子力委員会設置法」が制定され、原発開発の方向性が打ち出された。そして1957年には日本原電が設置されイギリスからガス炉型原発を輸入した。

この時期に電力業界で議論されたのは、先の総括原価のうち適正利潤の算定法である。「積み上げ方式」は規制当局が支払利息、配当金、利益準備金などを加算する法式である。それにたいしてレートベース方式とは設備投資の促進に重点を置いて、投資のための社債発行、借り入れ金をスムーズにする方式で、既にガス事業では1956年から実施されていた。1960年通産省は「電気料金の算定基準に関する省令」によりレート方式を採用した。そこでは固定資産、建設中資産、運転資本、繰延べ資産の和がレートベースであるとされた。普通はアメリカの総括原価方式には建設仮勘定は導入されない。日本では半分の建設仮勘定を算定の加えたのは、設備投資拡大を急いでいたためである。さらに核燃料保有量を「特定投資」としてベースに加える。最後にベースに乗じる報酬率は8%(1987年からは7.2%)とされた。1964年の新電力事業法にはレートベースも総括原価という言葉もないが、実際の計算は資源エネルギー庁の「供給規程料金算定要領」による。日本原電(株)に対する9電力会社の投資(株保有)は収益的投資とは見なさないという勝手な解釈も付け加えて、電気料金が評価されるのである。まとめるとレートベース=電気事業固定資産+保有・加工核燃料+建設中資産の半分+特定資産+運転資金+繰延資産となり、適正利潤=0.08×(レートベース)、総括原価=適正利潤+適正原価、電力単価=(総括原価)÷(販売電力量kWh)となる。こうした料金算定法による肥大した事業報酬を銀行借入金の利子払いに充当することで、一層多額の設備投資が可能となったのである。いたれりつくせりの政府の原発政策である。9電力合計でみる電源別発電単価は1990年度で水力が4.7円、火力が10.7円、原子力+揚水発電が12円/kWhであった。なお設備稼働率は1990年ではどの電源でも50%であった。結論として原子力発電のコストが安いというのは真っ赤なウソである。むしろリスクを別にしても一番高いというべきである。

原子力発電固有の危険性(リスク)を考えると、民間会社で原発事業推進は可能なのかという疑問を考える。原発の放射線障害には2種類ある。ひとつは1999年の東海村JCO臨界事故にみる濃縮ウランによる急性障害で、強度の放射線被爆により死亡、火傷、染色体崩壊となる。原爆の直接被爆と同じである。2つ目に低線量の被爆により、数年後に白血病やガンなどにかかって死亡する障害である。これを晩発性障害という。又遺伝子損傷が数世代たってから遺伝性の障害とんる場合もある。こうした遺伝子損傷には閾値が無く、浴びた放射線量に応じて障害が現れるという厄介なリスクである。危険な放射線には3種類あり、α線(正の電荷を持つ粒子)、β線(負の電荷を持つ粒子)、γ線(電磁波)である。α線は透過力が無くフィルム1枚でカットできるが、もしその粒子を体の中に取り込むと、排泄しない限り体内で放射線を出し続ける厄介なものである。福島県の牛が汚染された藁を食べて肉に放射線が検出されたのもこの体内被曝によるものである。β線とγ線は透過力が強いが、γ線はX線と同じく電磁波なので照射を浴びたかぎりの影響で残留性は無い。放射線の放射能は1キューリーと定義され、1秒間に370億個の原子が崩壊する放射線放出量である。1秒間に1個の原子が崩壊する場合は1ベクレルという。放射性の元素が自然崩壊して初めの半分の放射能となる時間を半減期といい、代表的な放射性元素の半減期を示すと、ヨウ素131は8日、キセノン131は12日、セシウム134は2.3年、クリプトン85は10.7年、トリチウム3は12.2年、ストロンチウム90は28年、セシウム137は30年、プルトニウム239は24360年である。

原子力発電は技術的に可能であることは、それが市場経済で経営的に成り立つ事業を保証するものではない。1957年アメリカの原子力委員会が見積もった「大型原発の大事故の理論的可能性」によると、「損害額70億ドル、死者3400人、負傷者4万人」と見込まれ、もし民間保険会社に無制限の賠償を請求すれば、原発事業者と契約を結ぼうとする民間保険会社はいないだろう。そこでプライス・アンダーソン法を定めて「広衆にたいする責任負担として、民間保険6000万ドル、政府責任保険5億ドルを上限とする」とした。事故の責任の殆どは原発事業者ではなく国民の税金で賄うとする法律である。日本では1955年「自主・民主・公開」を原則とする原子力基本法が制定された。1956年に日米原子力協定が結ばれるとき、日本に濃縮ウランを引き渡す際一切の責任からアメリカ政府は免責されるということになった。アメリカ政府は原子力の危険を熟知していたのである。日英原子力協定でも同じ了解がなされた。日本政府は1961年国会を通過した「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法)を公布した。そもそもこの法律は、自動車損害賠償保険法などと違って、最初から「被害者の保護」と「原発事業の健全な発達」を同等の目的としたものであった。原発事業をも事故から守る事を目的とする。原賠法は序子の責任は事業者が負い無限責任を謳っているものの、「異常に巨大な天災地変または社会的動乱」による原子力損害を、事業者責任の免責事由としている。今回の東日本大震災による福島第1原発メルトダウンと水素爆発事故は最初から国が全面責任と賠償を負うことでスタートしている。事故後に菅首相が「原発国有化」論を議論にしたのも、ここまで国が原発開発を推進し、かつ損害賠償を負うならばそれは国有化と同じではないか、東電は国の官僚組織の一員にすぎないという認識からきたのだ。

原賠法は民間保険(責任保険契約)300億円(1986年)を結ぶ事を定めているが、これには3つの重要な免責事項があり、@正常運転による事故、A地震・津波・噴火による事故、B損害発生から10年以降の請求となっており、@によれば民間保険の契約とはとんでもないミス運転しか保証していない。想定外の事故はすべて免責されている。かつAによれば、原賠法にいう「異常に巨大な」という言葉も省かれ、通常の地震・津波・噴火という天災一般による事故損害も民間保険契約では免責されている。つまり天災、異常時の原発事故は100%国が損害を賠償するのである。つまり原発の損害は国民の税金から支出される。このような契約は世界ひろしといえど日本だけである。民間保険の契約額の根拠はなにかというと、国際原子力保険プールを再保険として引き受ける上限として50億ドルを決めているからだ。そこからくる300億円以上のリスクを負うと、民間原子力事業は成り立たないのである。民間のリスクを超えてもやらなければならない事業(戦争など)、これは国家事業である。その300億円の保険のために原発は1000kWhあたり、35円の保険料を支払っている。(1992年度 水力は4円29銭、火力は6円23銭)

3) 原発は石油を節約するのか

原発建設を国を挙げて推進するようになったのは、1973年の第1次石油ショック以来のことである。そのとき石油価格が高騰しショックを受けた政府は、不安を覆い隠すように原発が経済的であり、かつ日本の石油消費を節約すると宣伝した。ところがそうした政府の期待も空しく、第1の期待である経済性については、原発がきわめて金食い虫で政府の至れり尽くせりの支援策で辛うじて成り立つほど経済的基盤は脆弱で、原発開発促進のために電気料金は値上がりした。第2の期待である、原発により石油消費量が減少したのだろうか、そして脱石油社会が実現出来たのだろうかというと、現実はもっと違う。そこで原発推進理由として登場してきたのが、「地球温暖化」ドグマである。「地球温暖化」は本書の目的では無いので省略するが、武田邦彦著 「環境問題はなぜウソがまかり通るのか 2」 洋泉舎を参考にしていただきたい。すべてはエネルギー戦略から来ている事を理解すればいい。経産省や原発開発担当部局の官僚はこんな下手な口は聞かないが、「いくら電気料金が高かろうとも、いかに原発が危険であろうとも、原子力は石油の代替エネルギーとすることが国策なのだから、無理を承知で開発する必要がある」というならば、それでは1gのウラン235を得るのにどれくらいの石油が必要なのだろうかと質問するといい。1975年当時アメリカでは「原発のエネルギー収支」計算が展開され、原発の方が火力より13倍ほど石油節約効果が大きいというエネルギー研究開発局DOEの報告が出た。この計算の根拠はいずれも実証されたことがない恣意的な諸設定にある。(今日の政府の各種審議会の出す報告書はまず結論ありきで、政府に依嘱されたシンクタンクはそれに合う様にパラメータをいじくって計算機からはじき出すので信用できないというのが常識である)そこで著者らは核分裂型原発についてデータを解析・試算して1976年に発表したが、「原発の第1次的な原料はウランではなく、石油であること」を明らかにした。次のそれを示そう。

「原子力発電は石油にとってかわるものである」という説を検討しよう。一口に石油代替といっても次の3つの意味がある。@石油置き換え説、A原子力のエネルギー収支プラス説、B石油有効利用説:@、Aでなくても、同一エネルギー生産方式を較べると原子力の方が石油節約的だ。という3つの説を順次打破してゆこう。@、Aが否定されるとBは成り立たないので、ここでは@、Aだけを検討する。
1) 「石油置き換え説」
それが真であるためには次の3つの命題を同時に満たすことが必要である。命題1:今日の社会における石油使用分野のすべてを原子力がまかなうことが出来るだろうか。命題2:原子力利用技術が石油なしで実行可能だろうか。命題3:石油は自らを拡大生産が可能であるが、原子力は拡大生産ができるのか。増殖能を持つのか。
命題1は容易に棄却できる。石油はプラスチック原料に利用できるが核燃料は原発にしか利用できない。飛行機や自動車の燃料は石油が中心で核燃料を利用できないし、ハイブリッドのような補完も出来ない。発電以外の石油の用途に原発は利用できない。発電方式でも原発のエネルギー熱量は高々30%に過ぎない。命題2については、ウラン鉱石の採掘、精錬、濃縮、輸送、加工などの諸過程および発電所の建設や廃棄物保管のための石油利用は不可欠で、一部の電力は原発で代替できるが、大半は置き換えは不可能である。命題3については、命題2より核燃料1トンから発生する電力によって、1トンを上回る核燃料を石油なしで得ることは不可能である。露天掘りの石炭採掘では増殖率は50倍、石油については7倍とされている。こうして命題1−3は満たされないので1)の「石油置き換え説」は否定された。

2) 「エネルギー収支プラス説」
原発のために投入される石油の熱量に較べて、原発の産出する熱量のうち人間社会に有効なエンルギー量が多いときエネルギー収支はプラスであると云う。ところが原発建設からウラン採鉱・濃縮、廃棄物保管に至る全過程のデータを有するはずの原発推進部局が全データーを公開しない限り考察できないのだが、アメリカDOEの出力100万kWhのPWR型原発の例を想定したデータがある。0.2%のウラン235を含む天然ウラン鉱からスタートし、原発の耐用年数全期間の産出する電力は1600億kWh(137兆換算)、ここへ投入される石油エネルギーは36兆kcalである。したがってこの場合エネルギー収支はプラスとなり、投入に対する産出非は3.8である。そして上記の電力を得る火力発電で消費する石油は459兆kcalであるという。すると36÷459=0.08となり、原発は火力発電の13分の1程度の石油使用量であることになる。ということでDOEは原発開発には積極的な意味があるとした。そこで置いた様々な仮定を検証しよう。主な仮定は次のようなものがある。
@原発の耐用年数30年でその間の平均設備利用率61%とする
A維持管理用の投入エネルギーは設備建設投入エネルギー程度
B揚水発電所などの付属設備の建設維持の投入エネルギーは無視
C廃炉処分のためのエネルギー無視、使用済み核燃料保管期間は原発運転の30年のみ
というものだ。まず@の設備稼働率であるが30年間も61%を維持できることは常識を逸している。日本の稼働率実績は当初70%くらいあったものでも7,8年後には40%以下になる。そこで常識的に耐用年数20年として利用率45%とすると、産出電力は半分の800億Kwhと落ち込む。それは核燃料のエネルギー投入量も半分となるので、ところが核燃料の輸送などに使った熱量はDOEの計算では微々たる物でいいのだが、日本ではその輸入にその10倍の0.7兆Kcalとなる。次にAの仮定では、設備稼働率が低いと言うことはそれだけ故障や事故にかかる費用を見積もらなくてはならない。DOEの計算では事故の費用は全く見積もっていないで経常的な維持管理費用のみである。DOEの出力100万kWhの建設費が約4000億円(1975年ごろ)として、1回の修理に数百億円を要するケースも稀ではないとすれば、全30年間の維持管理と修理費用の合計が原発建設費用程度ということは信じがたい。次に仮定Bであるが、大型原発の宿命として、定格出力で運転を続ける技術的必要性があるので、夜間の余剰電力の一部を使って揚水発電所を作ることが一般化されており、その揚水発電効率は60%くらいであろうとされる。損を承知で夜間電力をすべて無駄にしない政策であるが、そもそも負荷対応運転が出来ない巨象の運転にその本質がある。産出電力の800億Kwhのうちこの損失を除くと純産出電力は600億kWh程度となる。100kWh原発に付帯される揚水発電所の建設・維持に投入するエネルギー量は、2.2兆kcal(科学技術庁試算)である。これでは揚水発電で節約されるエネルギーと相殺するくらいである。次にCの仮定であるが、大型原発の廃炉処分費用の実証例がないが、米国の報告では建設費と同程度のエネルギー2.9兆kcalとみる。次に使用済み核燃料の保管をDOEは運転期間の30年と置いて1000億kcalとしている。これにはごまかしがあり、ストロンチウム90やセシウム137の半減期の30年に合わせているが、半減期とは放射能が半分になるに過ぎない。これでは廃棄物を処分したことにはならない。放射能が1/1000になるには300年もかかる。問題はプルトニウム239である。耐用期間20年としても340トンのウランが使われそこから2.4トンのプルトニウムが発生する。プルトニウム239の半減期は24000年である。天文学的年代が必要でだれも真剣に考えられない。こうしてみれば原発が作り出す放射性廃棄物の保管は事実上不可能である。

仮定@,A,B,Cをまとめて考察しよう。筆者が行なった試算の結果を示す。アメリカDOE(1976)の試算では30年間、稼働率61%の運転で発電量は1600億kWh(137.5兆kcal)となっているが、これは耐用年数20年稼働率45%に修正し、かつ定格運転ロス、自家消費と送電ロスを考慮して608億kWhに補正する。投入エネルギー量はDOEの試算では揚水発電建設・維持と廃炉処分エネルギーを無視しているが、これを考慮しかつ原発維持管理修理のエネルギー、輸送エネルギー、使用済み核燃料の長期保管を考慮すると、DOEの36兆kcalは補正されて81兆kcal(半減期のみ)、513兆kcal(10倍半減期)となる。もし608億kWhの電力を火力発電によって得るために投入されるべきエネルギーは160兆kcal(熱効率35%として)である。DOEの試算では生産電力エネルギー137兆kcalに対して投入エネルギーは36兆kcalと原発のエネルギー収支はプラスと主張されているが、筆者の計算では生産電力を補正すると608億kWh(52兆kcal)となり、投入エネルギーに使用済み核燃料処分を加味すると81兆kcalとなって、エネルギー収支はマイナスである。DOEの試算では投入エネルギーには頭の核燃料製造エネルギー30兆kcalに注目していただけのことで、お尻の最終処分エネルギーをほぼ無視していたことが特徴である。最後に「高速増殖炉」という言葉の意味がまぎらわしいので、高速増殖炉とは何かを考えてゆこう。敦賀原発「もんじゅ」においてただ1基が建設されたが、1995年のナトリウム爆発により運転は停止され、2010年運転が再開されたがすぐに事故を起こして再び停止中である。ほとんど運転経験がないまま老朽化が心配されている。文殊の知恵を借りてもなお人類はまだナトリウムという熱媒体を利用できないでいる。今天然ウラン1トンあると、核分裂を起こしうるウラン235は7Kgあり(993kgはプルトニウム238)、このウラン235が1Kgが核分裂をすると、プルトニウム238が1.1から1.4Kgのプルトニウム239という核分裂物質に変わる。このプルトニウムを核燃料とみると増殖率は1.1−1.4だといえる。しかしウラン238原子1個から生まれるウラン239原子は1個であり、天然ウランの潜在能力を高めるものではない。ようするに軽水炉の使用済み核燃料を再利用してプルトニウム239を回収することにある。核物質を産出しない日本で核物質が回収出来るということである。したがって政策的には青森県六ケ所村の再処理工場は、敦賀の「もんじゅ」と連動するということをいう。逆にいうと敦賀がこければ六ヶ所村の工場は不要となる。いまでも開店休業状態であるのはそのためである。

資源枯渇問題の前提にある、石炭、石油、天然ガスがはたして化石燃料であるかどうかにはまだ結論が出ていない。地球深部には過去の生物活動によらない量の炭化水素物質が存在するかもしれないという仮設が出されている。とはいえ石油生産のエネルギーコストは次第に高くなってきている。工業国では原材料の生産過程が普通供給エネルギーの20−30%を消費することが知られている。その最大の物が鉄鋼である。採掘に要するエネルギ効率は時代とともに悪化し(地球深くへ行くため)、逆に精製に要するエネルギーコストは技術の進歩によって低下してくる。したがってある時期まで生産コストは低下してくるが、次第に枯渇とともにコストの急上昇を招く。今日の日本におけるエネルギー政策をみると、原発がダメなら自然エネルギーでという単細胞的な議論が出てくるが、稀薄な太陽エネルギーへの代替などは殆ど期待できないにもかかわらず、原発と太陽エネルギーが対比されるのは、エネルギー政策当局にとってそれが実現可能と見ているのではなく、より一層の工業化とサービス業化という社会経済的な目的と科学技術を通じての人間管理という心理学的・政治的目的に役立つなら、一時的に何に幻想を抱かせてもいいのである。原発の破綻が明らかになればその時点でなにかに乗り換えればいい、工業社会の永続性(持続性)という幻想だけは支配者にとって何とか崩壊しないようにしたいのである。工業社会のエネルギーコストは開発に伴ってますます高いもののなってゆく。電力会社は「節約して大量に使ってください」といって来た。原発発電分30%がない生活をしましょうとは決して云わない。エネルギー多消費社会は地下水の枯渇、農地の風化・砂漠化をもたらすのみである。中東の砂漠地帯の石油産出国では油を水よりもふんだんに使い、我々の100倍の造水コストの「海水淡水化」設備を利用するという笑えない矛盾を抱えている。

4) 電力需要・供給の独占構造

1990年時点での地方自治体の公営水力発電所の年間発電総量は約90億kWhで、電力9社への契約単価は9.6円/1kWhであった。それを村民は14円以上で買い戻していたのである。電力会社から見ると安い単価で買って、供給者に高い値段で売っていた。なぜこのようなことが可能かといえば、9電力各社は最終需要者に対して電力の供給独占者であるばかりでなく、卸電気事業者(地方自治体水力事業、共同火力、私営水力、電源開発、日本原電など)に対して需要独占者の立場を法的に享受しているからである。電力の供給独占者としてグループごとに利潤最適化をはかる「価格差別化」を実施して独占利潤は極めて大きい。そして日本原電に対しては高い価格で電力を買い、地方自治体の水力発電は安く買い叩くという「完全価格差別化」政策を取れるのである。大口需要者であり9電力会社の筆頭株主や大株主でもある地方自治体は、小売価格の3倍前後の電力を買わなければならない。こうして電力会社は地方自治体を支配することが出来る権力そのものになっている。このような重大問題が発生する根本原因は、独占禁止法第21条「鉄道、電気事業、ガス事業などその性質上当然の独占となる事業を営む者には、この法を適用しない」にある。地方自治体は9電力会社の支配を脱するには、地方での安定した電力供給体制が組めるなら、自家消費と考えるかコジェネと考えて、余剰電力のみを9電力会社に売ることに活路を見出すべきだろう。さらに今後「ごみ火力発電」で熱利用プールのみならず、蒸気タービンを設備すればごみ焼却場は立派な火力発電所となる。

5) 原発の安全性と維持・再利用・廃棄物処理費用

原発の発電コストが決して安くはないということが、増え続ける放射性廃棄物の処理や保管に要するコストが顕在化するにつれ明らかになってきた。原発総体コストは、大事故時の損害賠償は国が面倒を見るという気楽さはあるにしても、電力会社の経営を次第に圧迫しつつある。こうした原発の不経済性を端的に示すのが「使用済み核燃料の再処理」である。高速増殖炉のプルトニウムの再処理コストが動燃やフランスからの要求によって具体的な数値が出るに及び、1981年通産省も再処理費用がプルトニウムの燃料価値を上回る事を認めた。実際アメリカでは再処理の試みは失敗し実用化されていない。プルトニウムの燃料価値をどう算出するかについては、イギリスはゼロと見、動燃はウランと等価と見た。それでも使用済み核燃料1トンあたり1億5000万円の損失となる。再処理はすればするほど経済的損失を生む。動燃の1年あたりの使用済み核燃料は800トンとすると、毎年1200億円の損失となる。敦賀もんじゅの高速増殖炉が15年以上停止状態にあることから、むつ小川原開発(株)構想は大失敗であったことが明らかである。原発の放射性廃棄物は、道具類への低汚染物から、放射性廃液、使用済み核燃料、そして最後には廃炉がある。廃炉は100万kWh原発1基につき60万トンになると見込まれる。最終核廃棄物の捨て場には原発会社は頭を悩ましており、時折過疎に苦しむ市町村が収入増を狙って苦し紛れに受け入れを表明することがあっても、県知事がこれを拒否するケースがあった(高知県など)。原発は資源皆無の日本にとって救世主となるか(ウランだって日本にはないが)、はたまた広島型原爆の数万倍の死の灰にうずまって亡国の道を選ぶかの岐路に立っている。本書の巻末に1952年から1993年までの大小100件の原子炉関連事故例が略記されている。他山の石としないよう、類似事故はいつでもどこでも発生しているのである。


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