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郭 四志著 「中国のエネルギー事情」 

 岩波新書 (2011年1月)

13億の人口と世界一のエネルギー消費国が地球を食い尽くすまで

本書は中国の「エネルギー白書」である。本書は考え方の本であると云うよりも、経済統計データーの本(官庁発行の白書の類)であるので、本来は統計表を出せば済む所を文章で表現しているものだからかえって読みづらい。著者の郭 四志氏は無論中国人である。1958年中国大連生まれで大連外国学院を卒業し吉林大学国際経済学修士課程を卒業後、来日し法政大学社会科学科博士課程を修了した。東京大学社会科学研究所外国人研究員を経て、2001年より日本エネルギー経済研究所研究員となる。主任研究員、研究主幹を経て、現在は帝京大学経済学部准教授である。専攻は国際経済、中国経済、エネルギー経済だそうだ。著書に「日本の対中国直接投資」(明徳出版)、「中国石油メジャー」(文真堂)などがある。日本の失われた10年以来、日本を尻目に2桁の目覚しい経済成長の続く中国は、2011年初めの時点で日本を追い抜いてGDPでは世界第2位に躍り出た。いまや世界1のエネルギー消費国となったが、地球温暖防止枠組み機構の「アフター京都」を話し合う席(COP15)では、あいかわらず先進国の責任を言い張って,自国の温暖化ガス抑制の方向へは動こうとしない。それはなぜかという回答が本書である。中国のインフラ整備段階は「重厚長大」路線を取らざるを得ず、日本に較べると40年以上前の発展段階である。中国経済が「軽薄短小」を言い出すにはまだ40年ほどかかるのである。そこまで石油があるかどうかは別として、中国の石油国内生産では全く足りず輸入に頼るだけでなく、海外での開発・権益確保を猛烈に進め、他方では発電所燃料の70%以上は依然として石炭であるため、環境汚染と地球温暖化への対応が喫緊の課題となっている。さらに石油・天然ガス確保のための海外戦略は国家主導で進められ、日本の経済産業省の官僚より優秀なバイヤーが世界を駆け巡っている。

中国は2009年にアメリカを抜いて世界一のエネルギー消費国となった。石油消費量は10年前の2.3倍となった。1993年より石油輸入国に転じ、石油の海外依存度は2010年で55%以上に達した。世界全体のエネルギー消費量の増大の7割は中国の需要増大によるものであった。このように中国のエネルギー需給の動向は、国債商品相場や国際政治・経済情勢に大きな影響を与えている。世界不況のあとの経済復興で国際原油価格は80ドル/バレルに高騰したのも中国の消費増の期待からである。2005年中国の石油メジャー(CNOOC)による米国石油会社ユノカル買収失敗以来、中国の石油権益確保に対する世界の批判をまねき、中国の国家エネルギー戦略は大きな転換を迫られた。グロバリゼーションのなかで、中国の国家エネルギー戦略は常に国際的視野に置かなければならず、国際社会との協力を通じて実現できる事を認識し始めた。中国政府は2020年までGDP成長率を7%以上に設定し、2049年の建国100周年までに一人当たりGDPを先進国並みにする計画である。そのためにエネルギー需要量は2035年には75%の増大が必要で、全世界エネルギー需要に占める中国のシェアーは現在の17%から22%に上昇することになる。今後の持続可能性経済成長のための課題は深刻である。

1) 中国の経済成長とエネルギー資源戦略

中国の工業は鉄鋼、セメント、石油化学、機械といった重化学産業依存型の経済成長であり、エネルギー消費量の膨大な増加をもたらした。GDPは世界の8%を占めるに過ぎないが、石油消費量は世界の消費量の10%、石炭は47%、アルミは30%、鋼材は44%、合成樹脂は39%、セメントは40%を占めるに至った。エネルギー消費量は2002年より急速に増加傾向にある。中国の人口は13億人うち農村人口が7億人以上を占めるので、今後都市化がさらに進行するので現在の重化学産業依存型の経済成長は続くものと考えられる。現在一次エネルギーに占める石炭消費シェアーは70%、石油消費シェアーは19%、天然ガス3%、水力・原子力はまだ微々たるものである。エネryギー需給状況では天然ガスと石炭はほぼ需給がつりあっているが、石油は国内のモータリゼーションの進行とともに増大し1993年より輸入国に転じた。09年には480万トンの原油を中東、アフリカ、南米などから輸入している。中国政府は輸入国の多様化・輸入ルートの分散化で海上輸送ルートの不安定要因に危機感を持っている。ホルムズ海峡、マラッカ海峡を経由する海上輸送のうち、とくにマラッカ海峡をコントロールする米軍の存在が中国政府の心配材料である。またアメリカ石油メジャーと資本の影響を懸念している。エネルギー中長期戦略(2005−2020年)では、@エネルギー効率向上、Aエネルギー源の多様化、B国内海外資源開発、C環境保護対策、Dエネルギー供給の多様化・安全保障などの課題を設定した。そして2005年「国家エネルギー指導グループ」が設立され、上の課題の推進を取り組むことになり、2010年「国家エネルギー委員会」を設立した。中国の積極的な海外資源開発は成果をあげてきたが、世界で多くの国の不満や反発を呼び石油利権を巡る競争を激化した。その結果非常に高いコストを支払うことになった。2005年ユノカル買収の失敗は戦略の見直しを促し、2006年胡錦濤首席は「エネルギーの国際的協力宣言」を発表した。

2) 石油・天然ガス 石油メジャーと海外資源開発

中国国産石油の原油確認埋蔵量は21億トン、可採年数10年(2009年)である。国内石油生産量は2億トン、天然ガスの生産量は2500屋m3であるが、中国の石油は開発の難しい超重質油で硫黄分が多い。90年代から既存の大慶、勝利、遼河の3大主力油田は老朽化し減産して、2009年には中国全体の41%以下となった。それに替わって西域の新疆油田,タリム油田が増産し、2億トン弱の生産量が維持できた。今後注目されるのは渤海湾沿岸海域の資源開発であり、外資導入による開発を推進している。石油・天然ガス開発と供給の担い手が国有の3大石油メジャーである。陸域として東北と西域を担当するCNPC、陸域として西南部と下流の精製部門を担当するSinopec、海域を担当するCNOOCである。1998年に3大メジャーによる「垂直統合編成がなされ、1999年に株式化と海外上場がなされた。2004年以降の編成では3大メジャーの地域別、海域陸域別の担当は廃止され、対等の競争関係に入った。新編成の3大メジャーはそれぞれ国際メジャーと提携し、CNPCはBP,香港系と、Sinopecはエクソン、BP,シェルらと、CNOOCはBP、シェルと提携した。原油生産規模はCNPCが1億300万トン、Sinopec4200万トン、CNOOC2200万トンである。なお石油輸入量は2009年で2億1840万トンであった。中国の石油の対外依存度は50%を超えた。輸入先は中東地域が47%、アフリカ30%、アジア太平洋地域4.7%、CISロシアと米大陸から17%である。中国が輸入する石油は殆どが船舶により、一部カザフスタンからパイプで輸送さている。輸入ルートの多様化に伴い3つのルートが計画・建設された。@東シベリア原油パイプライン、Aカザフスタンー新疆パイプライン、Bミヤンマーー昆明パイプラインである。@、Aは既に稼動しており、Bは2013年稼動予定である。又日本のタンカーに委託していた船舶輸送も、自国タンカーの建造計画がすすみ、2015年までに50隻以上を保有することになる。天然ガスの国内埋蔵量は5000億m3の見込みで、需要は2010年に1000億m3から2020年には2000億m3になる。輸入量は2010年には500−700億m3となるので、石油パイプラインに沿って3つの長距離パイプラインの計画が進んでいる。輸入港から中国国内消費地にむけてパイプラインの整備が進んでいる。中国のLPG基地は6箇所(広東、福建、上海、大連、江蘇、寧波)である。石油備蓄問題は18日分に過ぎなかったが、2004年4箇所の石油備蓄基地建設(大連、青島、鎮海、舟山)が進められ27日分の備蓄を目指した。政府は2020年までに90日分の備蓄を目指す。

石油確保策のひとつとして、海外開発・権益確保といった海外資源確保の方向で、中国は豊富な外貨準備高(2兆4000億ドル)を利用して活発に海外投資に努めてきた。2010年の買収額は431億ドルとなり、2009年の輸入石油1億8000万トンのうち権益石油は6000億トンとなった。3大メジャーの開発案件は30カ国、178件となった。2008年の世界経済危機による原油先物価格の低下のなかで、中国石油メジャーは世界中の権益を買い集めた。中国の石油三社は海外での探鉱開発や権益買収を通じて上流資産を強化拡大することが海外戦略の中心である。欧米の石油メジャーの隙間をぬって、リスクの高い地域の権益を集めている。米国石油会社ユノカルの買収失敗を経験として、政府が前面に出る事を控え、関係諸国との理解を得て、外国企業と強調して買収を進める方針に転換した。中国は伝統的にアジア・アフリカ・中東・南米の新興国と友好関係にあったので、中国政府首脳が外交的に訪問し援助や借款、融資と絡み合わせて買収の商談を進めた。3大石油会社の幹部は政府要人と人脈が深いので、石油戦略に政府首脳を動かすことが容易である。海外権益の買収問題の課題は、日欧米との競争に勝つために投資コストが高いこと、Aプロジェクトの成功は保証されたものではない。リスクも高い、B投資先の政情不安、治安、C現地独裁政権を援助しているとの欧米の批判への対応、D3大メジャー会社の株主には外国資本が多くなってきたので、中国の資源確保戦略の担い手以外の株主対応という問題がある。

3) 石炭と電力需給

中国は世界一のエネルギー消費国であるが、石炭に過度に依存していること(70%以上)が特徴である。それは中国は昔から世界一の石炭生産・消費国であったからだ。世界の石炭生産は、中国が45%、アメリカが16%、オーストラリアが6.7%、インドが6%という順番である。石油の用途は主に輸送、石油化学製品に、石炭の用途は火力発電、鉄鋼燃料、工業材料、ボイラー燃料である。現在火力発電の80%は石炭で、エネルギー転換部門の71%が石炭である。2001年より中国政府の石炭政策は、乱掘・事故多発・環境破壊・生産効率の点から小規模地方政府・郷鎮炭鉱の整理縮小、13箇所の政府系大規模探鉱への集中生産を目指している。石炭はパイプとポンプでは輸送できず、鉄道などのインフラ整備が遅れているため国内企業は近隣諸国(ベトナム、インドネシア)からの輸入が進んでいる。2009年中国は石炭の輸入国に転じた。中国の石炭生産量は20億トン(2009)、輸入量は1億2600万トンとなった。石炭の最大問題は環境保全である。中国は世界の炭酸ガス排出量の第1位で20%を占めている。2030年には35%になることが予想される。石炭は炭酸ガスと硫化物のおもな発生源である。硫化物の排出量も95年には米国を抜いて世界一になり、2000万トンと世界の20%を排出している。2000年以降中国政府はようやく真剣になって排煙脱硫装置の導入を図り、2010年には石炭火力発電所の6割に設置した。また地球温暖化対策の排出権取引のCDMなど技術取引には日本のオッファーを受けて進めている。

中国の電力産業は2002年の改革法案により、発電5社、送電2社、サポート事業5社に分割された。これで競争メカニズムが働くものとはおもえないが、国家電力監督委員会が規制・監督に当たる。中国の電力政策は、@エンルギー効率を石炭単位で335g/kWh、A二酸化硫黄排出量を2.7Kg/kWh、B水力、原子力、再生ネルギー発電,天然ガス発電の推進となっている。中国の電力構成は2009年の総発電量87405万kWに対して、火力77.4%(石炭)、水力20.6%、原子力1.2%であるが、日本では火力発電64%(石油)、水力18%、原子力18%である。中国の火力発電の特徴は、石炭依存度が90%と極めて高いことである。kWhあたりの炭酸ガス発生量は日本の2倍である。二酸化硫黄、アンモニア、煤塵など大気汚染物質排出量の40−60%は発電由来である。沿岸都市の発電所以外では排煙脱硫装置は普及しておらず、発電量の34%は排煙脱硫装置なしで稼動している状態である。環境を犠牲にした発電である。中国政府は2020年までに電源構成を石炭火力60%、石油火力3.7%、水力27%、原子力6.4%、自然2.8%の持ってゆく計画であるという。電源構成のクリーン化比率の向上に努めるらしい。クリーン石炭発電技術として「石炭ガス複合発電」を先進国からの技術導入で進めており、スマートグリッド送電システムを2020年まで基本的に導入する予定であると云う。また中国は2020年までに二酸化炭素排出量を05年に較べて50%削減すると表明したが、COP15では中国に対する圧力が高まった。

中国では長い間、石油価格が原油価格と逆ザヤになっている。国内製品価格と国際市場価格をリンクさせない統制価格政策を改革することが、国内需要への安定供給、セキュリティの根本的解決にならない事を認識している。2008年「石油製品価格と税制改革」通知で、内税として徴収するガソリン消費税を引き上げた。しかし依然として政府が石油製品価格をコントロールしており、国内石油メジャーの独占状態は変わっていない。天然ガスも政府統制価格となっている。高い輸入価格と国内市場の安い価格のギャップが、天然ガス不足の原因である。石炭価格と流通市場は政府のコントロール下にあった。2007年に石炭価格改定委員会が廃止され、政府の石炭価格への関与はなくなったが、電力価格は生活に密接するという理由で以前政府の制御下にある。電力価格の石炭価格への連動制はまだ働かない。この政府によるエネルギー価格統制は、インフレ防止、社会不安の軽減、経済発展を図る狙いからであるが、市場メカニズムが働かない現状は、エネルギーの安定供給や消費の抑制・需給バランスを阻害している。

4) 自然エネルギーと原子力発電 

太陽光・風力などの自然エネルギー利用は現状では微々たるもので、利用促進策も「絵に描いた餅」のように頼りないものなので省略する。中国の原子力発電は田湾、泰山、広東の3箇所(13基)で稼働中で、2010年の発電量は1080万kWで電源構成の1.2%に過ぎない。建設中の原子力発電設備は25基である。技術導入した設備は欧州加圧水型原子炉PWRである。中国ではまだ基幹技術の圧力容器、ポンプ、蒸気発生器の自主生産は出来ていない。2020年には電源構成で6.4%まで高める予定(目標発電量8000万kW)であるから、天然ウランの年間消費量も16000トンになる。現在中国の天然ウラン生産量は年間750トン(需要量の半分)に過ぎない。主な輸入先はカザフスタン、ロシア、ニジェールなどである。今後カナダ、オーストラリア、モンゴルなどの鉱山開発・買収を進めているという。重要技術のウラン濃縮は現在日本に頼っている。核燃料棒加工は内モンゴルで生産しているという。要するに今の中国における原子力発電関連技術開発レベルは低いといわざるを得ない。

5) エネルギー安全保障戦略

中国では都市化率の向上を目指して、インフラ整備・工業化・設備投資にかかわる重化学工業を発展させる基本方針は引き続いて堅持する模様である。したがって環境問題や省エネなどが最重要課題である。中国は規模が大きいから何をやっても世界への影響も大きい。モータリゼーションの進行により石油不足は2020年には5億トン、2030年には6億トンになろうとしている。中国の石油消費の7割以上が自動車・輸送分野によるもので、自動車保有台数は現在6000万台だが、2020年には2億台になるだろう。結局海外石油資源に頼るほかはないが、国債政治情勢、石油価格の高騰、グローバルな石油争奪戦など懸念材料は多い。中国は海外石油資源の確保において、膨大な外貨準備高を楯に、市場購入よりも直接投資を通じて、産油国の開発・探鉱・買収を行なってきた。競争激化により投資コストの高騰、開発案件を巡る国際競争の激化をもたらし、中国の動向が国際市場のファンダメンタルズの要因となった。そして中国政府は、オバマ大統領の提案したグリーン投資、環境対策投資、原子力開発に力を入れる方針である。近年日本の貿易相手国比率は、アメリカが13%、中国が21%と逆転した。日本の投資収益率は中国で10%、アメリカで5%、EUで5%となり、日本の経常黒字に中国市場は大きな役割を果たした。日本は中国の経済成長、購買力、特に高機能製品の拡大に期待するところが大きく、日本の経済成長は中国市場なしには考えられない。エネルギー消費量については、中国、アメリカ、日本の順に消費大国である。とりわけエネルギーの安全保障は1国のみでは達成できないので、ここに日中が協力することが必要である。エネルギー供給サイド、需要サイドで日中の協力はなくてはならない。本書は最後に日本に対して苦情を言っている。面白いので記しておこう。
「日本は潜在力を持ちながら、石炭液化、原子力、再生エネルギー利用、環境設備などにおいて、欧米諸国に較べると中国への展開が遅い。中国の模倣を懸念してのことであろう。日本の技術レベルは高いが価格も高い。主要技術と源氏技術のつながりに無関心、現地技術者との連携が弱い、導入後のケアーが不十分、政府の関与が少ないなど欧米に負けている。クリーンコール事業、石炭液化、排出権取引、風力発電など、日本は単なる対中技術移転に止まらず、人材育成、省エネ、原発安全運営、石油備蓄の運営ノーハウ、エネルギーベストミックス設計法管理法などで中国に協力し、情報を共有することが、日中のエネルギーセキュリティと日中両国の利益につながると考えられる。」


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