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小此木潔著 「消費税をどうするか」

  岩波新書(2009年9月)

格差社会から社会保障の安定を目指して、富の再分配と負担の視点より考える

未曾有の世界金融危機がもたらした経済不況のため、日本社会の貧困と格差の問題が増幅され、経済危機と同様に社会崩壊の危機に見舞われている。小泉流「小さい政府」政策の規制緩和・予算削減政策によって、格差と労働環境の悪化が広がり、医療・介護・福祉・年金制度のセーフティネットがズタズタに切り裂かれた。今や日本はアメリカ以上に貧富の差が広がり市場原理主義の弱者切り捨て国家に陥った。その影響は端的に国家財政に影響し、税収入の減少と赤字国債の巨額化により「健全均衡財政」は破綻したままで一向に改善されるどころか悪化の一途を辿っている。その赤字財政の責任は長年の自民党と官僚の政策の失敗によることは明白である。「政権をとっても、4年間は消費税を上げない」と方針を掲げた民主党と、「景気回復後には社会保障の強化のために消費税を引き上げる」といった自民党・公明党が、2009年8月の選挙で戦い、国民は民主党を選択し政権が交代した。自民党が負けたのは別に消費税を焦点としたからではなく、長年の土建政治と官僚政治に国民が嫌気をさしたからである。弱者無視で企業と金持ち優先社会の現状を変えたかったからである。民主党も将来の消費税増税までは否定していない。当面は「改革と見直しによる福祉優先」を唱えているのである。いまや福祉強化は消費税を人質にしたかのような論議がまかり通っている。しかし本当にそうなのかというと、消費税=福祉目的税制度にしないかぎり、道路を作るための赤字国債の穴埋めに使われる可能性は隠匿されているに過ぎない。消費税導入からはや20年がたった。消費税だけでは税制の議論にならず、税制問題だけでは国家財政の健全化の議論にならない。国家財政だけでは経済・社会の制度設計の議論にはならない。結局は世界経済全体の問題から議論してゆかないといけない

2007年のサブプライムローン問題に端を発し、2008年9月の投資会社破綻から始まるアメリカの金融危機を前にして、戦争を推進し強欲な金融帝国を目指したブッシュ共和党大統領の退場を待って、2009年1月誕生したオバマ民主党大統領はこの未曾有の危機の克服に向けて舵を切った。「裕福な人をますます裕福にすれば、富が誰かにしたたり落ちるというトリクルダウンの経済学」、「企業と経済界が潤うように図れば国民生活もよくなるというサプライサイドの経済学」から。貧しい国民層に手を差し伸べる「ボトムアップ」を進めるとオバマ大統領は演説した。日本も2001年より小泉政権下で、公共工事や官僚政治にたいする国民の不満を利用して、「小さな政府」路線である規制緩和と予算削減政策という改革がさらに強力に進められた。歳出削減優先型の構造改革路線は結局のところ、社会保障費の抑制と国民に対する行政サーヴィスの著しい低下をもたらした。ようするに「小さな政府」志向の小泉構造改革は「貧弱な福祉」路線であった。これを新自由主義政策という。今回の2009年衆議院選挙で国民は社会保障削減型政治と官僚主導・利権誘導型自民党政治を拒否したのであった。すれば求められるのは「生活者本位・社会保障強化型の構造改革」路線であろう。ここでいつも「踏み絵」にされるのが、「小さな政府」か「大きな政府」かという図式であるが、オバマ大統領は「規模が問題なのではなく、政府の機能が問題なのである。賢い政府を目指そう」という答えを出した。すると政府の役割にとって財政が特に重要である。財政は歳出と歳入のバランス「均衡財政」を理想とする。何に金を使い、その財源を如何に確保するかということである。本書は歳入=「税制」を課題とする。政府(地方を含めて)だけが課税できる。税には法人税と所得税・資産などその他の税にかける直接税と、消費税の間接税に分けられる。政府にとって最も徴収しやすいのはサラリーマンの源泉徴収税(所得税)で企業が税務署の肩代わりをしてくれる。そして本書が問題とする消費税である。企業や商店主にかける税ははなんだかんだと逃げ回り税の節約に努めるのと、すぐに税負担が大きいと海外に逃げるぞと脅しをかけるからである。税の徴収は弱い者からという鉄則である。

著者小此木潔氏は朝日新聞東京本社論説副主幹である。プロフィールを紹介する。1952年群馬県生まれ。東大経済学部卒業後朝日新聞社入社。経済畑を担当し、大蔵、外務、通産、証券、金融などを取材してきた。主な著書には「財政構造改革」岩波新書、「デフレ論争のABC」岩波ブックレットがある。著者によると日本の不幸は小泉改革が民需型成長にむけた努力をしないで歳出削減と規制緩和路線を強行し日本社会の格差と貧困の拡大を助長したことによるという。そこへ2008年暮未曾有の世界金融危機が襲い社会に深刻な傷跡を残した。だが、日本社会に広がる貧困を、もはやこれ以上放置することはできない。市場経済は経済界のご都合で、自分は身軽になって自分への分配を高め、ツケを政府に押し付けた。そして社会福祉の名目で消費税率を上げろという(その実は赤字国債返済に流用する魂胆)。著者は自身の思想背景となる学者を二人挙げている。一人はリベラル派のクルーグマン教授であり、もう一人は神野直彦関西学院大学教授である。リベラル派とは「不正や格差を抑制する制度を信じる人々」のことだ。この二人の言説を下敷きにして本書が書かれたといえる。

1) 世界経済危機と財政

2008年9月リーマンブラザーズの経営破綻に始まるアメリカ金融危機の影響は世界中に波及し世界経済危機となった。この世界危機は「新自由主義」、「市場原理主義」、「規制緩和・小さな政府」のバブル経済思想を崩壊させた。2009年1月アメリカオバマ大統領は「ただ政府だけが雇用悪化と消費減少の悪循環を破ることが出来る」といって、7000億ドルの公的資金投入を行う法案を成立させた。今回の危機のなかで、市場原理主義者たちは政府と国民の税金に救いを求めた。日本でも12兆円の対策を決めた。国民総生産のなかで消費、投資、輸出と並んで政府支出も重要な要因で、大不況のなかでは政府支出を増やすことぐらいしかやれることはない。巨額の国債などの借金に頼って急場しのぎの財源を確保する事になった。アメリカの2010年連邦政府赤字は1兆1710億ドルに上る見通しとなった。日本の債務残高は2008年末で846兆6905億円となった。2009年度一般会計88兆円のうち、歳入のうち国債は33.3兆円を発行し、所得税は15.6兆円、法人税は10.5兆円、消費税は10.1兆円、ガソリン税・酒税などが9.9兆円、特別会計からの繰り入れなどが9.2兆円である。国債が37%を占め、財務省は国債増加の理由を「歳入面での景気の悪化や減税による税納の落ち込み」といっている。政府の財政再建路線は「基礎的財政収支(プライマリーバランス)」(国債を除いた財政収支を黒字化するであったが、順調に経済成長が続いておればそれに伴う税収入の増加によって財政収支の改善は可能である。しかしすでに企業や金持ち優遇の税制改正によって税収入は激減しており、今回の経済危機による税収入の落ち込みが重なって財政再建の見通しは遠のいた。小泉政権以来の一律予算削減政策が続いて、社会の機能は大幅に破壊された。社会保障費抑制は民意の限界を超え社会的セーフティネットは貧弱なレベルに後退した。手厚い企業福祉の時代が続いたが、その結果が今回の経済危機となっては、大幅な財政改革が求められる。2008年11月自民党政府は「中期プログラム」を閣議決定し、「中福祉」をめざして消費税増税で賄うとしたが、今回の選挙で国民からノーを突きつけられ大敗した。

財政法は財政の健全化を維持するため「均衡財政主義」を掲げている。国の歳出は、公債または借入金以外の歳入をもってそ、その財源としなければならない」という。しかしその財政法4条で「公共事業費、出資金、貸付金の財源については国会の議決をへて公債を発行することが出来る」という建設国債の抜け穴を作った。その張本人が田中角栄氏であった。1972年以降は際限なく建設国債が発行された。公共事業は補助金とともに、自民党の政治的基盤を磐石なものとした。1980年以降日本の輸出の伸びによって財政赤字に悩む米国から日本の内需拡大を求められた。「日米構造協議」において1990年430兆円の公共投資計画を約束させられた。1990年の土地バブル崩壊によって、日本は1158兆円の資産を失った。追い討ちをかけるように1997年アジア通貨危機が襲い、橋本・小渕・森内閣で多額の公共事業が繰り返され、土建国家といわれる歪んだ資源配分が固定された。2001年より小泉内閣の予算抑制政策で、日本は20年にわたる長期のデフレに見舞われた。政府の失政がつづいて景気はふたたび悪化し、2001年実質的なゼロ金利政策に復帰した。政治と官僚が犯した経済運営の失敗が近年の在性赤字の主犯であった。この長期デフレによって税収は大きく減少した。1990年に60兆円の税収入があったが、2003年には45兆円に低下し、景気回復によって2008年には税収入は53兆円まで回復した。所得税は1990年26兆円が2003年に18兆円に落ち込み、法人税は1990年16兆円が2003年には8兆円に落ち込んだ。財政赤字を決定的にした失政は小泉内閣の法人税、所得税率の税制改革(改悪)であった。法人税の標準税率の引き下げ(43.3%から30%へ)、所得税の最高税率の引き下げ(50%から37%へ)により、1997年の税収入53.9兆円が2004年度に45.6兆円と8.3兆円も減少したのは税制改革による減収である。「小さな政府」は税収を減少させてまで企業と金持ちを優遇したのだ。2008年度には53兆円まで税収入が回復したのに、なお財政が黒字化しない理由は、デフレと税制改革である。この税収入減少による財政赤字を埋め合わせるために消費税の増化が政府と財界で叫ばれたのである。高齢化による福祉費自然増加は主たる要因ではなく、消費税増額のためのアドバルーンである。政府はさらに「税の直間比率の是正」をいう。企業や商店主から取る直接税より、一般から確実に取れる間接税に期待したいのだ。経団連は繰り返し、「規制緩和」と「法人税減税」を求め、その一方で消費税の税率引き上げを求め続けた。外国からグローバル資本を誘致しようとして税制の優遇措置を競うために、国民に消費税の負担を求める図式である。

2) 消費税の歴史

消費税は1979年大平内閣で閣議決定されたが翌年断念し、1987年中曽根内閣は5%の売上税法案を提出したが廃案となった。1988年竹下内閣が3%の消費税法案を提出し国会を通した。翌1989年消費税が導入された。1994年細川内閣は税率7%の「国民福祉法案」構想を発表したが直ぐに撤回した。1997年橋本内閣で消費税は3%から5%に引き上げられた。2009年麻生内閣は大不況が終った時点で、消費税を引き上げると発表して選挙で敗れる。このようにさまざまな政権のもとで消費税は繰り返し論議されてきたが、増税をいうと選挙に負けるというジンクスがあって、政府はいつも及び腰であった。小さな政府路線は税による「所得再配分機能」を弱める方向で一貫してきた。その象徴が法人税の軽減であり、個人所得税の累進構造の緩和、そして逆進性のつよい消費税の導入と税率引き上げであった。「新自由主義」は富裕層の所得をなるべく再配分しないようにする経済イデオロギーであった。これは米大統領レーガンの経済学「レーガノミックス」という「サプライサイドの経済学」に立脚した。企業の生産性を高めることを最重要視することで経済成長を促進させることであり、その妨げになる規制や税制を緩和することであった。日本では中曽根から小泉元首相の「小さな政府」や「民に出来ることは民に」路線が続いた。経済界は法人税や所得税は下げて、消費税は上げるという要求をだし、政府税制調査会でも「消費税は公平な税金の取り方だ」という論点が出された。税制改革をめぐる意見「経済成長による上げ潮」派、「歳出削減による行政改革」派、「財政破綻から増税」派の意見は、いずれも「均衡財政」と「小さな政府」こそ経済成長を可能とするという常識にたっていた。新自由主義の路線を前提としていた。(ケインズ主義的福祉国家論では、所得再配分機能の高い所得税と法人税中心主義である。) 小泉改革の評価はいろいろあるが、金融再生プログラムによる不良債権処理に豪腕を発揮したことは評価され、公共事業を毎年削減し続けることで「土建国家か痛い」をすすめ自民党の基盤を根底から崩したことは賛否両論で、郵政改革で民営化したことは意味がいまいち不明であり、道路公団民営化は将に欺瞞であり、社会福祉関係費を毎年削減したこと、そして労働者派遣法を製造業まで自由化したことは格差拡大とセーフティネットの破壊となった。小泉改革がもたらした社会の貧困化は大きな社会不安をもたらした。格差と貧困問題については朝日新聞特別報道チーム著 「偽装請負ー格差社会の労働現場」 朝日新書を参考にしてほしい。

3) 欧米の税・財政

世界同時危機の対応で減税や財政出動が行われただけでなく、新自由主義路線を押し進めたアメリカやイギリスの路線転換が今後どのような変化を見せるのかが、同じような道を選択した日本にとって注目される。2009年1月に成立した米オバマ政権は景気対策に8000億ドルに近い財政出動に乗り出すと同時に、医療保険の拡充など所得再分配を強化し、ボトムアップ政策を実現するために、富裕層への増税を強化することを明らかにした。国民皆保険に向けた6300億ドルの社会保障基金設立のため、所得税の最高税率を35%から40%に引き上げるほか、ブッシュ大統領がきめた富裕層への減税を廃止する。民主党にもいろいろあって、穏健な新自由主義を信奉する右派と、クルーグマン教授を代表とする社会保障の強化などリベラルな政策をとる「新ケインズ主義」派である。オバマ大統領はいわば穏健な真自由主義と新ケインズ主義の2本足で立っているといえる。共和党ブッシュ大統領のむき出しの市場原理主義路線が米国の財政赤字を膨張させたが、取って代った民主党のオバマ政権は今度は危機克服のため、巨額の財政出動によって財政赤字を更に膨らませるという皮肉な結果を背負わざるを得なかった。米国の税制の歴史は1981年にレーガン大統領以来、それは法人税と所得税の減税の歴史といっていいほどだ。所得税の税率は14−70%の15段階から一気に11%と28%の二段階に簡素化した。民主党のクリントン大統領は所得税の最高税率を39.6%に、法人税も引き上げたことによって2000年の財政は黒字に転換した。ところがブッシュ共和党大統領は大幅減税をおこない、かつ同時テロ事件後の戦争によって2004年には4127億ドルの赤字に転落した。戦争によって景気は回復したが、住宅バブル崩壊と金融危機の深刻化に伴う財政支出が増え2008年度の財政赤字は1兆ドルを超えた。クルーグマン教授は現在の課題を「累進課税を復活させ、それで得た増収を中間層世帯を援助する手当てや給付金に使うようして、社会のセーフティネットを拡大する新ニューディール政策を行うことだ」という。

英国のブレアー労働党政権は政治的には米国ブッシュの戦争政策を支持したが、後を継いだブラウン首相は2009年世界同時不況に対して個人消費を支えることに主眼を置き、暫定的な減税を柱とする景気刺激策をとった。これまで17.5%だった付加価値税を15%に減税し、所得税の最高税率を10%引き上げて50%とした。英国は累進課税の近代的さきがけとして名高い。ロイド・ジョージ蔵相が導入した累進課税制度を、新自由主義の旗頭の保守党サッチャー首相が1979年に法人税と所得税最高税率を40%に引き下げ、付加価値税率を8%から15%に引き上げたのであった。ブレアー政権は保守党と同じく法人税を30%にまでj引き下げた。法人税と所得税を引き下げ、付加価値税を引き上げるという政策で進んできたイギリスで国民の不満が顕在化しなかった理由には、「食料品の付加価値税ゼロ」、必需品には軽減税率を適用する三段階方式の付加価値税であったからだといわれる。世界同時危機に対してドイツは6兆円の財政出動を行ったが、ドイツのメルケル首相は2007年の税制改革で付加価値税を16%から19%に引き上げ、所得税も法人税も42%から45%に引き上げていた。EU加盟国の付加価値税率の平均は20%であることと、マーストリヒト条約(債務残高がGDPの60%以下である事、毎年の財政赤字幅はGDPの3%以下におさえること)から財政の健全化が強く求められていたからだ。フランスのサルコジ大統領は危機克服に約3兆円の景気対策を行った。付加価値税率は20.6%から19.6%に引き下げたが財政危機には陥ってない。北欧の付加価値税率が税収全体に占める割合が高く(スウェーデンで約44%)、財政基盤が安定している。付加価値税率はスウェーデンで標準25%、軽減税率12%、6%、非課税の4段階となっている。

国税収入に占める個人所得課税の比率は、米国で約60%と、欧州や日本の約30%に較べると著しく高い。これは消費税など間接税が無いことによる。売上税などは州の財源になっているが連邦政府には入らない。個人所得の最高税率は日本が40%、米国は35%、欧州は45%である。欧州は消費税率が高く、税収入に占める消費税の割合が高いのが特徴である。欧州は間接税が主体で、日米は直接税が主体といえる。それぞれの国の歴史が税金の使い道を含めて収入を考えるコンセンサスが出来てきたのである。経団連は「税と社会保険をあわせた国民負担率は2008年度で日本は40%であるが、欧州のように概ね50%を目標値するのが妥当である」というが、これも税を何に使うかという国民的コンセンサスが得られればいいのである。道路建設や国防費に使われてしまっては国民的合意は得られない。価値観のながい議論が必要なのだ。

4) 危機を超える税制改革のために

世界経済危機、貧困と格差の社会的危機、財政危機を克服するための基本戦略は、人間らしい生活を全ての人に保障するという目的を土台にするものでなくてはならない。それには政府は「再配分強化型改革」に直ちに着手する必要がある。当面は赤字国債の増発や歳出の見直しと無駄の排除に頼るしかないが、長期的には経済成長による税収入増や何らかの増税による財源確保を考えなければ、自然的に拡大する社会保障事業に対処することは難しい。埋蔵金(特別会計の積立金の取り崩し)に頼ることもあってもそれは一時しのぎに過ぎない。民主党のいう予算の張替えによって透明性は増すが、恒久的な問題は国民的議論をしなければならない。増税分を赤字国債の穴埋めに使うという発想を棄てないと、「財政再建」のための増税に国民的理解は得られない。基礎的財政収支の改善には、経済成長による税収増と、社会保障及び教育をのぞく公共事業費、防衛費など予算の削減が政府の当面の課題であろう。労働、医療や介護、育児、教育などを充実させることが再分配の目玉であって、弱者に優しい社会の建設に取り組まなければならない。長年にわたって政府税調などでは「増税するなら消費税」というイメージを作ってきた。エンゲル係数の高い低所得者にとって、所得税は逆進性の負担増となって抵抗感が強い。一方所得税は負担力に応じて税を納める「応能負担」原則に基づく。累進課税もこの原則から導入された。個人所得は消費、貯蓄、租税に分けられるので、個人の生活には大差がないとしても、格差を是正するには貯蓄に回る所得量で加減せざるを得ないのだ。ここを放置すると格差は累進的に拡大する。そこで所得税を上げるにしても、生活を圧迫しないように生活必需品に対してはゼロ税率や軽減税率を導入する手がある。1世帯の消費支出は平均25万円として、食料品は約23%で6万円である。この食料品を現行税率に据え置いて消費税を2%引き上げると4兆円の税増収である。軽減税率をもうけないと5.2兆円の税増収である。5兆円の財源が欲しい時、食料品を5%の軽減税率とすれば標準税率は8%にする必要がある。年収200万円以下のワーキングプア−層には「給付つき税額控除制度」という手がある。年10万円を給付して消費税分負担分を還付するのだ。

消費税だけが答えではない。これまで最高税率引き下げが続いてきた結果、高額所得層が潤ってきたきらいがある。だから所得税を累進性強化の方向で見直すことは有力な選択しである。米国が40%に引き上げ、ドイツは45%に引き上げた。英国は50%に引き上げる予定である。日本の国の法人税と地方の法人住民税や事業税を合わせると約40%である。経団連は国際競争力から30%への引き下げを主張しているが、これは虫が良すぎるので、「租税特別措置」をなくするなどで税収入増を図ることが出来る。民主党は当面赤字減らしには増税ではなく無駄を減らす方向で歳出削減が可能だという。地方自治体への補助金を地方移譲するとか、天下り官僚の持参金となる法人への補助金を削減すれば20兆円の削減は可能であるというのだ。また個人の所得にたいして総合課税にしてキャピタルゲインの課税を強化する方法が検討されているが、年金の名寄せと同じ納税者背番号制度が必要である。年金制度改革、健康保険制度などの制度設計と平行して税制度改革が進行しなければならない。年金の税方式は弊害が大きいといわれる。環境問題には環境税や炭素税などの検討が行われている。これらの社会保障制度設計は官僚に任せておくと徒に屋上屋を重ねて天下り先を増やすだけの結果となる可能性が大きいので、国民的な議論を起こさなければならない。ただ消費税だけの問題では無い。


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