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五十嵐敬喜・小川昭雄著 「道路をどうするか」

  岩波新書(2008年12月)

道路利権集団による日本国食いつぶしを阻止するには、自民党政権の打倒しかない

五十嵐敬喜氏と小川昭雄氏の共著になる「公共事業(土建国家)の問題をどうにかしなければ、国民の生活は末代まで塗炭の苦しみを味わう事になる」という一連のシリーズものの最新版である。岩波新書で発行された共著8冊を以下に列記する。
1)「都市計画−利権の構図を超えて」 1993年
2)「議会−官僚支配を超えて」 1995年
3)「公共事業をどうするか」 1997年
4)「市民版 行政改革」 1999年
5)「公共事業は止まるか」 2001年
6)「都市再生を問う」 2003年
7)「建築紛争」 2006年
8)「道路をどうするか」 2008年
私はこの岩波新書シリーズの中で、「公共事業をどうするか」(1997年)、「公共事業は止まるか」(2001年)、「都市再生を問う」(2003年)を読み、そして今回「道路をどうするか」(2008年)を読んだ。著者の一人五十嵐敬喜氏のプロフィールを示す。早稲田大学法学部在学中に21歳で司法試験に合格し司法修習(20期)を経て、弁護士として不当な建築や都市計画による被害者の弁護活動に携わる一方、これまでの公共事業のあり方を批判し、「美の条例」(神奈川県真鶴町)制定に尽力するなど、美しい都市を創る権利の確立を訴えている。また日本において「日照権」という権利を初めて生み出したことで知られている。公共事業のチェック機構や都市計画の専門家として数多くの研究があり、近年は「市民の憲法研究会」を主宰して、国民主権の原理に立つ憲法の新たなあり方を提唱している。著書『市民の憲法』においては、大統領制を導入した効率的な小さな政府の実現という立場から、「市民の立場での改憲」を提唱している。2007年の東京都知事選挙では上原公子・細川佳代子らとともに浅野史郎に立候補を要請したが、現知事の石原氏に敗れる。現在は法政大学教授で弁護士活動を続けている。五十嵐氏は公共事業のなかでも都市計画を専門とされる弁護士(住環境関係の訴訟が多いためか)であるようだが、今回の著書では公共事業の本丸である道路に手を染められた。その論点が期待される。

「公共事業をどうするか」岩波新書1997年において、著者らはつぎのように総括している。
公共事業の七割は旧建設省、二割は農水省、一割は旧運輸省というシェアーである。(現在の省割では国土交通省が八割、農水省が二割ということになる)一般会計の累積赤字は240兆円、特別会計の債務残高80兆円、合計国の債務残高は320兆円になる。都道府県・市町村の債務は130兆円、旧国鉄など隠れ債務が43兆円、総計で485兆円という膨大な債務を日本国が背負っているのである。迫る財政破綻に対して国は公共事業にブレーキをかけるよりは増税による財政再建を目指している。公共事業には国が行う直轄事業、自治体に補助金を与えて行う補助事業、自治体が単独で行う単独事業がある。公共事業関係費の事業内訳は1980年以来変化はないが、道路事業が28%、下水道が18%、治水治山が17%、住宅が12.7%、農業農村整備が13%、港湾・漁港・空港が7.6%である。公共工事は天下りと官製談合入札がセットになって腐敗を生んでいる。国の補助金が全事業費を出してくれるわけではなく、足りない部分は県市町村が負担する。これを受益者負担というが押し付け負担ということも出来る。地方自治体はこの押し付けを拒否することが困難で、それが地自治体の膨大な財政負担になっている。公共事業が官僚独裁になっている理由は「総合計画の最終決定者は総理大臣であり、個別計画の場合は閣議決定になっていて国権の最高機関である国会は一切この決定過程には参加できない仕組みである。この法律に基づいて官僚は独裁的に計画や個別事業を裁量できるのである」mた「国土審議会」に諮られるというがこの審議会なるものは、官僚の計画に賛成の大政翼賛会的な審議会で反対論者は最初から官僚によって排除されている。

「公共事業は止まるか」岩波新書 2001年において、著者らはまたこう総括している。
2001年夏の参議院選挙を戦うためについに「ミスター公共事業」といわれた亀井政調会長のスタンドプレーで公共事業の見直しを実施しました。ところがその内容たるや、すでに停止している233件の事業の停止(5万件の事業数から)の追認に過ぎず、公共事業総額は減らさないとか、整備新幹線は費用は倍増するとか、IT特別枠を設けるなど公共事業は縮小するどころか、「国土交通省」という巨大な利権官庁の発足によってまします勢いづいているようだ。バブル崩壊で低迷した日本経済をひたすら公共事業で切り抜けようとしているようだ。公共事業費は45兆円であるので社会保障費はその半分にも満たない。2000年度の国と地方の公的債務総額は645兆円(2007年で1000兆円ともいわれる)つまりGNPの129%に達すると大蔵省は予測した。そして銀行の倒産に国税を注ぎ込んだように、日本道路公団、関空株式会社、本四架橋公団などの特殊法人の赤字総額は300兆円に達しておりこれに税金を投入しようとする動きもある。そして郵便貯金や年金などが財政投融資で融資した金が不良債権化しそうである。なお公共事業を止めようとする全国各地の運動が紹介されている。 1:熊本県 川辺川ダム 2:徳島県 吉野川可動堰 3:首都圏 中央連絡自動車道 4:農水省 土地改良事業 5:牧の原 静岡空港 6:東京都 都市巨大再開発(汐留、六本木、丸の内) 7:島根県 中海干拓 8:北海道 千歳川放水路計画

そして本書は公共事業のなかでも最大の道路関係事業について、政官業の「鉄のトライアングル」に迫ってみようということである。2001年に成立した小泉内閣は道路改革に始めて手をつけようとして、道路公団民営化と道路特定財源の一般財源化を言い出した。ところが小泉内閣の本命は竹中平蔵氏と組んだ郵政民営化にあって、道路公団民営化は石原伸晃氏や猪瀬直樹氏に丸投げ状態で必ずしも政治的趣旨が徹底しなかった。道路公団民営化委員会の猪瀬氏が当時を振り返った書である、猪瀬直樹著 「 道路の権力」文春文庫(2006年)と猪瀬直樹著 「 道路の決着」小学館(2006年)から、道路公団民営化のいきさつを知る事が出来る。五十嵐氏はこの小泉流道路公団民営化について、改革の骨抜きを指摘するが後でその主張を見るとして、小泉改革のいきさつを次の2書から知る事が出来る。

猪瀬直樹著 「 道路の権力」文春文庫(2006年)
道路族といわれる実力者には、古賀誠氏、亀井静香氏(江藤隆美氏)、野中広務氏(鈴木宗男氏)、橋本竜太郎氏という大物が控え頑強な鉄のスクラムを組んでいた。これスクラムを崩すのは容易なことではない。誰も出来るとは思わなかった。国交省が道路公団を使って道路を建設できるのは潤沢な道路特定財源があるからである。国交省の道路整備特別会計は財務省の一般会計とは別で完全な聖域である。そこへ小泉首相は自動車重量税の一般財源化を指示したが、扇国交省大臣を初め猛烈な反対があった。
ここで道路特定財源のおさらいをしておこう。2001年時点では、自動車重量税は1兆円以上であった。そのうち7割が国へ3割が地方へ配分される。国では更にその8割が道路特定財源に入る。金額にすれば6000億円である。自動車取得税4800億円、自動車税1兆2000億円、軽自動車税1300億円と以上車体にかかる税金の小計は4兆2000億円、揮発油税2兆8000億円、軽油税1兆2000億円、石油ガス税300億円、消費税3600億円、以上走行燃料課税小計は4兆3600億円、車体と走行合わせて税収入は9兆円になる。目的税は道路整備特別会計へ回り、地方税も道路事業に回る。こうして道路特定財源は5兆8000億円となる。
2001年4月小泉内閣発足後、行革担当大臣に石原伸晃を任命した。猪瀬氏の「日本国の研究」に興味を示していた小泉首相に猪瀬氏は8月6日道路公団分割民営化案を示して、小泉首相より石原伸晃行革担当大臣と二人三脚で「行革断行評議会」を作るよう特命を受けたようだ。この行革断行評議会から2002年6月「道路公団民営化委員会」が発足し、2002年12月に道路公団民営化委員会の最終答申を提出したところまでを描いたのが本書である。小泉首相は全道路建設を主張する国交省案の再考を指示し、11月11日の行革断行フォーラムでは小泉首相は道路公団民営化論をぶち上げた。道路とは何か。道路とは資源配分の象徴であり族議員の集票装置なのである。また全国の知事にとって、道路公団の建設は地方自治体の負担ゼロで行われる建設工事というプレゼントであり全員の知事が熱烈に乞い求めるものであった。そしてこの構造が日本の政治を歪め、国家財政を危機に瀕するところまで追いやって政治家は誰も省みる事がなかった。11月21日NHKニュースで小泉首相は「日本道路公団に対する3000億円の投入を止め、公団の借金を50年以内に返済することを条件に道路建設を検討するよう指示をした。
2001年12月19日「特殊法人等整理合理化計画」が閣議決定され、道路四公団についてはこう記されていた。「日本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団、本州四国連絡公団の4公団は廃止する。それに替わる新たな組織について内閣に置く第三者機関において検討する。14年度中に具体的内容を纏める。日本道路公団については1)組織は民営化を前提とし、平成十七年度中に発足させる。2)国費は平成14年度以降は投入しない。3)事業コストを削減する。4)債務償還期間は50年以内とし、現行料金を引き下げる。5)道路建設は費用対効果分析を徹底して行い優先順位を決定する。首都高速道路公団、阪神高速道路公団、本州四国連絡公団も民営化する。」というように決定された。
そして翌年から道路公団民営化のための第三者委員会へ動いてゆくのである。委員会は12月3日の第35回委員会では国土交通省の言いなりの今井委員長は欠席のまま行われ、最終答申案の文面修正に入った。12月5日石原大臣は福田官房長官も入れて今井委員長を説得したがうまく行かず、12月6日第36回委員会で委員長は辞任した。そして最終答申案は石原大臣に答申され、小泉首相に意見書という形で提出された。

猪瀬直樹著 「 道路の決着」小学館(2006年)
道路公団民営化では本四公団に1兆3400億円の税金を投入するものの、基本的には新会社で自力返済を可能とする解決に至った。そして2005年10月1日五つの民営高速道路会社がスタートした。道路は日本の政治のタブーいや政冶そのものであった。まして道路公団が解体民営化されると考えた政治家がいただろうか。道路公団民営化委員会は徹底した情報公開で公開請求した資料に基づいて官政談合摘発し内田道路公団副総裁を逮捕させた。保有・債務返済機構には40兆円の債務が引き継がれ、分割民営化新会社は機構へリース料金を支払うことになる。「民営化への基本的枠組み」では機構は独立行政法人とし道路財産を保有し、会社に貸し付ける。リース料金を徴収して債務を返済する。機構は民営化後45年で解散するというもので、機構の職員は90名程度となった。また全国料金プール制はなくなり、東名の上がりは本四連絡橋には回さないことが基本である。1月20日には「民営化への基本的枠組み」に従った「民営化法案骨子」が政府より発表された。6月2日ついに道路公団民営化法は国会を通過した。

今世界では100年に一度といわれるほどの金融危機が襲っている。この経済縮小の嵐のなかで、大きな影響を受けることなく、むしろ景気対策と称してより大規模に事業が進んでいるのが日本の公共事業である。公共事業と一体化した自民党の一党支配では日本の公共事業の見直しは一向に進んでいない。ダムや河川では一部欺瞞的見直し(停止中の計画の追認)が行われているようだが、全国の道路建設には未だブレーキがかからない。小泉内閣の「道路公団民営化」の際も、道路族は法案のの骨抜きに成功し、道路建設をこれまで以上に行える体制を確認して民営化に賛成したといわれている。これでは何のための民営化だったのかわからない。借金は国へあずけ、財源には政府保証をつけて、必要な道路(計画どうり全部必要といえばそれで済む)を自由自在に作れる体制を確認したに過ぎない。そして道路特定財源分は使いきろうと、道路以外のハコモノや都市再開発にまで金を使っているのである。これでは道路特定財源の余った金は一般財源へという閣議申し合わせは有名無実となっている。欧米では既に数十年前に道路特定財源化は廃止されている。日本の政官業の道路利権集団だけが国是とばかりに道路特定財源にしがみついているだ。2008年の福田政権の時の「ガソリン国会」では、「道路特定財源延長法案」と「暫定税率の維持関連法案」は衆議院2/3条項を使って成立した。これまで5年間の期限付き法案をなんと10年間に延長しようとするひどい法律であった。小泉政権の遺産である劇毒薬の効果に酔いしれた利権集団の動きである。小泉政権以来、阿部・福田・麻生と三代続いたお坊ちゃま内閣は、2009年から道路特定財源を一般財源化するという閣議決定を今日にいたるまで実現していない。「道路族恐るべし」である。かれらには公約という言葉はないも同然である。これでは政権交代に期待する以外にはない。

1) 道路建設と道路特定財源

「アクアライン」の通行料が走行距離15Kmでバカに高い事(4900円)は有名である。これでも実は大変な赤字に陥っているのである。1987年中曽根首相の民活利用で「夢の架け橋」と謳われた道路であるが、1997年の開通と同時に「悪夢の架け橋」となった。推定交通量は1972年の計画時に7万台/日、事業費は4800億円と考え通行料金は2100円を設定していた。ところが、開通後の1999年の通行台数は1万1900台/日と机上の計算は脆くも崩れ去った。計画の1/6に過ぎなかった。事業費は1兆4800億円に膨れ上がっていた。料金収入が144億円、管理費54億円、金利返済が404億円、収支はマイナス314億円となった。そのため料金を値上げしたが追いつく数値ではない。道路公団、自治体、民間企業の作る東京湾横断道路会社の赤字では倒産は間違いないが、官僚は京葉道路を含む「千葉プール」という大きな有料道路集団のなかに赤字を隠すという姑息な手で隠蔽している。

「道路法」3条によると、路線の指定・認定・建設・管理・費用が規定され、高速自動車堂、一般国道、都道府県道、市町村道に区分される。一般国道にも地元のの自治体に負担金の支払いを義務付けており、逆に都道府県道や市町村道に国の補助金が交付されるなど、道路は中央集権支配になっている。日本の道路財政は2006年度で13兆9082億円であり、その内訳と使徒を下の表にまとめた。

道路財源(単位は億円、2006年)
国特定財源
35561
地方特定財源
22321
地方一般財源
18390
高速道路料金収入など
23598
高速道路財投資金調達(借入金)
27718
道路会社資金
9805

道路財政の使途(単位は億円、2006年)
国一般道路事業
20852
一般会計繰り入れ
6091
地方一般道路事業
24121
地方単独事業
23200
高速道路会社事業
13149
高速道路債務返済費
46986
その他業務管理費
4683

道路特定財源は5兆7782億円であり、国が3兆5561億円、地方は2兆2321億円である。国の特定財源3兆5561億円のうち、補助金として6000億円、交付金として7000億円合計1兆3000億円が地方へ廻される。道路特定財源とは戦後の「新道路法」が1952年に田中角栄氏らの議員立法で成立したことに遡る。新法は国による補助金制度という、中央集権主義と政官業利権集団という日本の政治の運命を決めた大変重要な法律である。おなじ年に成立した「道路整備特別措置法」によって、通行料金を取って道路整備に当てることが決められた。道路特定財源と道路建設計画を一本にした法律「道路整備費の財源に関する臨時措置法」が1953年に定められ、戦後の道路行政の基本形を定めた。第二条に道路整備5ヵ年計画は閣議で定めることになった。国会の承認を必要としないことで、時の政府が任意に計画を推進できることになった。官僚に道路計画権が委嘱され、かつ国会の承認を必要としないことから、官僚裁量の土建国家が形成されたのである。第3条に道路特別財源の記述があり、「揮発油税法」による収入を国の財源に当てなければならないとされた。第4条は補助金を決めている。財政上特定財源制度は出来るだけ避けることが求められてきたのも関らず、目的税をもうけることで道路建設が制約を受けずに暴走できることになった悪法である。最初は揮発油税だけであったが、1955年に地方道路税、1956年には軽油取引税、1965年から石油ガス税、1967年からは自動車取得税も、1970年からは自動車重量税も特定財源化された。そして1974年から「租税特別措置法改正」によって、2年間だけ揮発油税、地方道路税、自動車重量税、自動車取得税を本則の定める税率の約2倍にする暫定税率を導入し、今日まで法律を毎回延長してきた。

2) 道路優先の国土開発

道路建設をその上位計画である「国土総合開発法」に基づく「全国総合開発計画」(全総)の中で見て行こう。全総は約10年の長期計画で、これまで1全総から5全総まであり、小泉内閣の時から「国土形成計画」(全国計画)と呼ぶようになった。日本の法律の条文は外国に較べて驚くくらい短い。それは記述しない事によって実施する行政機関(官僚)の裁量幅を広くし、かつ解釈を都合のいいように幅を持たせるためである。これによって日本の官僚が異常な権力を手にする源泉になる。官僚用語として昔から「法は三条でよい」という。そして第7条において、国土総合開発計画は国土審議会が調査審議して国土交通大臣に勧告することで、大臣が計画を作製するというきわめて簡単な手続きでよい。国土審議会の委員は国土交通省が選任する御用機関であるので、最終的には計画にお墨付きを与える事は自明である。そして「全国総合開発計画」は閣議で決定され、国会でチェックされることはない。チェックされるのは予算編成のみである。下の表にその概略を示す。

全国開発計画の概略
1全総2全総3全総4全総5全総全国計画
内閣と閣議決定年池田内閣 1962年佐藤内閣 1969年福田内閣 1777年中曽根内閣 1986年橋本内閣 1998年福田内閣 2008年
期間1966年ー1980年1976年ー1990年1986年ー2000年2010年ー2015年
予算規模130−170兆円370兆円1000兆円無限大
全総の重点項目地域間の均衡ある発展
拠点開発方式
鹿島、水島、大分ほか
開発計画の全国展開(苫小牧、むつ小川原など)田園都市構想 多極分散型国土形成
東京一極型と国際化
参加と連携の21世紀の国土開発
4本の開発軸設定 拡大路線
アジア一日圏構想
シームレスアジア
道州制
道路計画道路整備長期構想 (1962−1980)
総額23兆8610億円
第4次道路整備5ヶ年計画(1964年より)4兆円
第8次道路整備5ヶ年計画(1978年より)
 総額28兆5000億円 
高速道路1万キロ
高規格幹線道路 1万4000キロ高規格道路1万4000キロと地域高規格道路8000キロ
六大架橋
2003年道路整備5カ年計画費用38兆円
2008年より中期計画10年65兆円
高規格道路21兆700億円

この計画は官僚のアドバルーンであり、嘘は出来るだけ大きい方がよいという方式の作文であるので、各年度の予算がこの通りにゆくわけはない。全総がスローガン倒れに終っているのに対して、公共工事のなかでも道路だけは着実に拡大してきた。これだけ道路を作っても、利権集団はまだ足らないという。日本中の国土をコンクリートで固め、アスファルトで化粧してもまだ満足しない。そこで各国の高速道路の密度比較を可住面積あたりの延長長さmで表すと、アメリカが16.5m、ドイツが52.3mに対して日本は91mである。全道路ではアメリカが2km、ドイツが1kmであるに対して、日本は15kmである。日本は一桁道路が多いのだ。道路は交通の利便性からみて全面的に歓迎すべき事柄かというと、最近は弊害ばかりが目立つようになった。その最大の問題は旧市街地のドーナツ現象とシャッター商店街である。そして高速道路は地方の過疎化を促進した。四国への架橋が三本になったことで、人が四国に集まったかというと逆に四国から人が流出してしまった。これを「ストロー現象」という。官僚の作文では「都市と地方の格差解消」というのは嘘っぱちで、道路のために格差拡大となったのである。

3) 無駄な道路建設

公共事業は無駄が多いとされるが、その最たるものはやはり道路である。高速道路の赤字の山を見てゆこう。道路四公団民営化推進委員会が明らかにした2002年度までの黒字路線は、東名高速道(利益/コスト比)+2077%、中央自動車道+11627%、東北縦貫自動車道+1477%の3路線だけで、東名高速など5路線は債務を完済している。赤字は北海道縦貫自動車道−399%、東海北陸自動車道−325%、四国縦貫自動車道−323%など挙げてゆけば切りがないのでやめるが、42路線のうち26路線で料金収入が経費を下回り、借入金を返済できずに赤字が累積している。日本道路公団の累積赤字は28兆円、首都高速は5兆円、阪神高速は4兆円、四国連絡橋は4兆円ということで4つの公団の累積赤字の合計は約40兆円に達していた。どうしてこのような赤字路線が次々と建設される仕組みが出来上がったのだろうか。その根源は田中角栄氏の議員立法で1952年にできた「道路整備特別措置法」にある。この法律の意義は「高速道路を借金で作り、利用者から利用料を取って借金の返済に充て、借金が返済できれば無料開放するという償還主義で道路を作る」制度である。ところが無料開放された高速道路はどこにもない。大黒字でとっくに返済がすんでいる東名高速道が無料になったとは聞かない。全体が累積赤字で苦しんでいるから無料開放が「絵に描いた餅」になっている。1956年日本道路公団が設立された。政府は公団に対して「長期・短期の資金の貸付をし、または道路債権の引受をし、元金および利子の支払いを保証する」のである。そして1959年に首都高道路公団、1962年に首都高速道路公団、1970年には四国連絡橋公団ができ、1970年には「地方道路公社法」も成立した。1966年「国土開発幹線自動車道路建設法」(国幹道法)が六つの高速道路をまとめた基本計画を定める基になった。計画立案権は首相から建設大臣(実質は建設官僚)に移って道路官僚が大きな権限を持ち、基本計画から整備計画を定め、審議機関と閣議決定だけで予定路線を決めることが出来る。イエスマンを集めた審議会とサイン会に過ぎない閣議で済むということで、事務次官会議が閣議提出案件をきめているので、道路行政は実質は官僚内閣制となっている。そして高規格自動車国道は高速自動車道路と一般国道自動車専用道路の2本立てになっており、一般国道を高速道路とする一般国道自動車専用道路は道路局長が基本計画を立てるので審議会の手間も省けるのである。その他、高速道路には「合併施行方式」といって、国と公団の共同建設事業(実質的には平均負担率は国が69%)で有料高速道路建設が出来る。これに道路特定財源から4兆3595億円の税金が投入されている。その他に「高速道路に並行する一般国道自動車専用道路」や、「地域高規格道路」など国が実質的に関与する高速道路建設事業などがあり、官僚の悪知恵ここに極まれ利という感がする。

4) 道路 日本の危機の元凶

この国を支配する権力者集団の権力の源泉はあからさまにいえば「利権の中心に道路がある」といえる。この権力構造を作ったのが天才的土建政治家田中角栄氏であった。自民党の一党優先政治(55体制)の伝統も彼の手腕によるところ大である。GDPにしめる公共事業費の割合を見ると日本が6%で、アメリカは2.2%、ドイツは1.5%である。国土可住面積あたりに投資した道路建設額は日本が96M\/km2、アメリカは3.4M\/km2、イギリスが8.7K\/Km2である。桁外れに日本の公共事業なかでも道路建設が多いことがわかる。だから土建国家といわれのだ。2008年に国の公債残高は553兆円、地方の公債残高は197兆円、合計750兆円の公債残高である。そのうち国の道路公債は約250兆円を占めている。2003年の公共事業のなかで道路関係が28%、ダムや下水道や農林水産や文教施設などの比率が各々10%以下であるのに対して、道路だけが一方的に増加している。これが地方自治体のレベルになると、道路ほしさに負担金や債権を重ねて、道路特定財源が予算の急所を支配した。昨年2008年4月の暫定税率法切れには、薬の切れた麻薬患者のようにのた打ち回った地方自治体首長の醜態は記憶に新しい。たとえば2008年2月の新聞記事に「福岡県の道路財源587億円の行方」があった。道路特定財源からきた360億円と一般財源からきた227億円の合計587億円の財源の約9割509億円が借入金の返済へ消え、残った78億円を担保に、政府から238億円の国直轄事業費を貰い、県単独事業(借入金が殆ど)352億円、そして別途国費と借入金で国補助金事業で445億円に使うのである。つまり78億円を担保にして1035億円の道路事業をしている。なんかヘッジファンドの梃子効果(レヴァレッジ)に似ていませんか。他の県でも似たり寄ったりの借金漬けの状況です。昨今全国都道府県知事会が地方分権を叫んでいるのは、どうも自治拡大というよりは、税財源移譲によって多少やりくりが楽になるのではないかという目論見が先行しているようだ。道路依存体質はそのままにして国の税金を我田引水したいのが本音であろう。補助金と負担金という錯綜した依存関係(協力関係)の呪縛から逃れたいのだが、道路建設の累積借金はどうする積もりなのだろうか。親方日の丸が潰れるまでは税金をしゃぶりつくしたいという知事の根性が丸見えである。

このように地方自治体が借金漬けになった理由は、自治体が道路を欲しがったからです。最も手っ取り早い産業振興と税収入源であったからです。なんせ事業から補助金まで国がプレゼントしてくれるようなものです。地方の道路予算は@国直轄事業、A国庫補助・交付金事業、B県単独事業の3つに分けられる。国が直轄で「指定区間の国道」を工事する場合、国が負担する費用は2/3で地方は1/3を負担する(受益者負担という)。「指定区間外の国道」を工事する場合、国は1/2を負担し、地方も1/2を負担する。地方が負担する分を地方は借入金で賄っているのである。それが積もり積もって福岡県の場合は借入金の返済分が道路財源の9割を占めているのだ。まさに麻薬患者のように国からの道路特定財源の注入を待ち、またそれの何倍も膨らんだ借金を余儀なくさせ決定的に体を蝕んでゆくのである。補助金事業は工事も管理も地方であるが、国から補助金を貰うには対応する事業資金(見せ金)を自治体が用意しなければならない。補助金と負担金が入れ子構造になって関連している。だから橋下大阪府知事がいうような負担金ボイコットは矛盾した言い方である。補助金は受け取って負担金は払わないなら、金を払わないで物を貰う論理である。

都道府県の道路関係費
1998年の予算 億円(比率%)2006年の予算 億円(比率%)
公債費10464(13.4)21223(35.6)
経常費4411(5.6)4069(6.8)
国直轄負担金7067(9.7)5868(9.9)
補助事業25004(32)11894(20)
単独事業30765(39.3)16491(27.7)
総額7824259545

都道府県の道路事業がピークに達した1998年と景気後退の2006年を比較すると、上の表に見るように補助事業と単独事業費は半分に減少しているにもかかわらず、公債費は2.7倍に増えている。日本の地方の道路関係費用の35.6%は公債費つまり過去の道路建設の借金の元利払い費用なのである。内容的に見れば生活道路への投資が激減している。地方での財政逼迫によって公共事業費の削減が続き、現に道路特定財源は使いきれない事態になっている。そのため都市開発の「町作り交付金」が箱物つくりに使われている。都市再開発事業には殆どノーチェックで交付金が支給される(6割地元負担であるが)。今の日本の格差社会は大量の貧困層を生み出したが、これは小泉政権の自由主義政策と福祉の切り捨てだけによるのではなく、長年の道路建設に国費が使われたために疲弊した国家財政をそのままにしておいたのでは解決の道は無い。約6兆円の道路特定財源を一般財源に戻して財政健全化を図らないといけない時期が来ていることは明らかである。

5) 小泉改革の無残な失敗

この章では、小泉首相以下自民党内閣による「道路特定財源の一般財源化」の不履行と、「道路四公団民営化」の偽装改革について考える。小泉首相は2001年7月の参議院選挙で「一般財源化」を協調し、その後しばらくうやむやにされていたが、2005年12月「道路特定財源の見直しに関する基本方針」を決定した。しかし2006年度予算で一般財源化されたのは自動車重量税の一部472億円に過ぎなかった。阿部内閣も2006年12月に「道路特定財源の見直しに関する具体策」という閣議決定をしたが、内容的には後退していた。暫定税率が現状維持で、あまった特定財源のみを一般財源化するという趣旨では、官僚は全額使いきろうとするだけである。2007年11月には「道路の中期計画」を定め、5ヵ年計画を10ヵ年計画に延長し、事業総額を65兆円とするという破格の計画がぶち上げられた。毎年の約6兆円の特定財源10年分で約60兆円を全部使い切る挑発的な道路族の計画であった。さらに当年度に使い切れなかった予算は翌年度の予算に組み入れることができるという無茶苦茶な永久繰越使用権を主張するものだ。続く福田首相は2008年3月「道路特別財源は2008年度税制改正時に廃止し、2009年度から一般財源化する」と表明した。ところが5月のガソリン国会において「道路特別財源延長法案」を再可決して、福田首相の公約は破られた。それでも福田首相は5月13日「道路特定財源に関する基本方針」を閣議決定した。道路特定財源制度は2009年度から一般財源化する、中期計画は5年とするという国会通過法案とは違う決定をするなど全く混乱を呈して9月に辞任した。こうして小泉・阿部に続いて福田首相にも騙された。また麻生首相は一般財源化には黙ったままである。公約を無残にも違反し続けた歴代首相の力の無さと道路利権集団の力関係には、政権の根本を変えなければなかなか実現しないものだという感慨を強くする。

小泉首相が道路公団の民営化論をぶち上げた時、これで第二の国鉄化は避けられ、採算の取れない無駄な道路作りはなくなると期待した人は多かった。ところが、これも全くの空手形どころか偽装改革だったことが明らかになった。自民党の「改革」の実像はこの程度のものかいまさら納得させられる。小泉首相のパフォーマンスに惑わされ期待を持ったほうが甘かったのだ。2001年小泉首相は「特殊法人等整理合理化計画」を閣議決定した。2002年6月「道路関係四公団民営化推進委員会設置法案」が成立した。7名の委員会は今井経団連名誉会長(新日鉄会長)を委員長とし、猪瀬直樹氏の異色のメンバーも入っていた。2002年12月の委員会で意見書採択で省寄りの委員長が辞任するハプニングがあったが、保有返済機構を設置し、40年で借金を返済するという「改革案」であった。しかし道路建設にはブレーキはかからなかった。「新直轄方式」で赤字路線を国と地方の費用負担で行うという旧態依然の内容であった。2003年11月「民営化法案」の骨子は@民営会社と返済機構という上下分離にして、45年で債務を返済する。債務返済が終了したら道路は無料開放される。聞こえはいいが45年間は有料であるということだ。A道路公団を3分割し、首都高速と阪神高速を民営化する。合計五つの民営会社に分割 B民営会社が自前で調達した資金で道路を建設することが出来、借金には政府が保証をつける。C国土交通大臣と民営会社は協議して道路計画をおこなう。という内容である。借金返済には独立行政法人ができ、公団時代と同じように道路を作り続けることが出来るシステムである。民営化後も「新直轄方式」や借入金政府保証などの隠し玉をもって、国の財源を使えば道路建設はいくらでも可能なのである。2002年12月に国土交通省大臣諮問機関の第1回国幹会議が開かれ、2005年の民営化後は2006年2月に第2回国幹会議が開かれて、整備計画のあった高速道路の全線建設が決まった。無駄な道路作らないという民営化とは何だったのだろうか。全部必要ですといわれればはいそうですかと認めてしまう言葉のお遊びに過ぎなかったのか。民営会社といっても役員と職員は全部官僚の天下りで、国の資金が使えるという民間会社は「国有化」ではないだろうか。このあまりに強力な「道路族」を明らかにしておこう。「道路族」の狭い定義は「自民党の道理調査会の議員」を指すが、道路を利権とする人々と定義すると膨大な集団となる。自民党の高速道路建設推進議員連盟とか道路整備促進期成同盟全国協議会、日本経団連、地方6団体(全国知事会、全国都道府県議会議長会、全国市長会、全国市議会議長会、全国相町村会、全国町村議会議長会)などがある。全国知事会は反中央ではなく道路族なのである。そのほかに関係業界では日本道路建設業協会、日本建設業団体連合会なども強力である。仕事を貰う圧力団体である見返りに自民党の投票マシーンである。業界でも自動車や石油関係団体は税制が販売コストに響くことから、道路族とは見なされない。

6) 利権の壁を乗越えるには

2008年1月16日の産経新聞世論調査では、「道路の暴走」を止めるべきだという結果が66%と賛成派29%を上回った。欧州では道路特定財源の一般財源化はかなり昔に行われた。イギリスでは1937年に、ドイツでは1960年に、フランスでは1981年に一般財源化の法改正を行った。そして欧州ではガソリン価格は日本に較べてかなり高いのは(200円/リットル以上)、ガソリン税比率が高くそれが社会福祉や教育などに廻されている伝統があるからだ。日本のガソリン税率はガソリン価格の約45%であるが欧州では70%近くを占める。また通行料は欧米では無料であるが、日本では年間2兆5000億円も払っている。そのガソリン税と通行料金がすべて道路建設に廻され、福祉や教育に行き渡らないだけでなく小泉改革では毎年3%の削減が義務付けられているため、医療費・健康保険や年金を含め社会のセーフティーネットはもうズタズタになった。戦後50年以上道路は建設され続けているにも関らず、まだ35%は建設中だという。これは国土交通省の怠慢で計画が未達成ということではなく、計画の目標をその都度引き上げて、達成度を押さえ込んでいるからだ。あたかも馬の面の先のニンジンのようにいくら走っても追いつけない仕組みである。未来永劫高速道路を作り続けようとする政官業の利権集団の鉄のトライアングルを打ち破るにはどうしたらいいのだろうか。そこで著者は改革のための8つの提案をおこなった。列記すると、
1) 欧米諸国が昔に実行したように、道路特定財源を一般財源化して国民のためにバランスの取れた財務構成とする。
2) 道路行政の中央集権主義にブレーキをかけるため、地方負担制を廃止し、補助金制度も廃止する。
3) 財源移動による地方分権を確立する。都道府県道・市町村道は地方の管轄とする。
4) 国土交通省の道路局などの職務は政権の指示によって計画原案を作成する。また地方の出先機関が行っている新設から修理までの業務は中止する。
5) 計画の閣議決定は廃止し、国会での審議と議決を必要とする。道路計画は「国家環境政策法」を作って、勧告と承認を得るものとする。国幹会議や審議会は全て解体する。
6) 官僚の天下りは全面的に禁止する。 7)高速道路の計画建設はいったん全て凍結する。再評価は特別委員会を設けておこなう。
8)道路問題緊急調査委員会を設置し、債務返済機構が抱えている40兆円の債務返済を確実に実行する。

猪瀬直樹氏も指摘したように、道路公団はずぶずぶの高コスト体質であった。それは税金を使って、鉄のトライアングルが甘い蜜を吸い上げるためである。官僚側は天下りをして優雅な老後をおくるため、道路族は政治資金と票を得るため、建設業と鉄鋼業は談合によって高い見積もりで受注し利潤を高めるためである。欧米に較べて日本の高速道路の建設費用は10倍から30倍は高いことがわかった。ロンドンの高速道路は1キロ当り12億8000万円であるが、日本の首都高の圏央道では1キロ当り174億円もかかった。衆議院予算会議でも「日本の高速道路はキロ当たり50億円の事業費が必要だ」という証言があった。これはアメリカの30倍にあたる。鉄のトライアングルは建設費が高い方が全員が潤うからで、財源は税金なので誰も気にすることなく湯水のように使えるからだ。そして天下りと談合は一体化している。業界が勝手に談合しているのではなく、建設業の天下り役員が官僚から情報を得てリストに従って、談合を繰り返しているのである。官僚が談合をしているのである。2008年鉄鋼製橋梁工事を巡って内田道路公団元理事長に有罪の判決が出たが、業界49社のうち42社の200人の国土交通省OBが天下りをしていた。うち18社は役員待遇の天下りであった。発注元の国土交通省からお土産付き(一定の受注量を約束)で天下りを受け入れ、彼らを受注の窓口にして業界企業は受注を繰り返していた。国家予算の成り立ちを見るとその国の民主主義が見えてくるというが、アメリカは議会が予算を作り、イギリスは政府が予算を作り、日本は官僚が予算を作るのである。これらの実体を国民に知らせて議論を起こす役目のあった日本のメデァは、官僚の垂れ流し情報を貰うだけで独自の取材をしなかった。これは怠慢というより裏切り行為である。2009年夏は自民党政権の腐敗から、いまや政権交代という千載一遇のチャンスがやってきた。いまこそマニフェストを作って、政党公約を実行しうる政党に変わる時である。


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