吉田文和著「IT 汚染」岩波新書(2001年)

   

1)吉田文和 北海道大学教授のプロフィール

教授の専攻は環境経済学、産業技術論で、10数年前に同じ岩波新書で「ハイテク汚染」を著した。「ハイテク汚染」で提起した問題が今日どのように展開したかを検証する目的で本書が企画された。シリコンバレーの変遷とアジア諸国のIT産業興隆に象徴される企業のグローバル化が同時に環境問題のグローバル化を引き起こしたことが今回の最大の論点になっている。

2)シリコンバレーの変遷と負の遺産

今シリコンバレーでは半導体の研究開発とインターネットのソフト開発拠点は残留させながら、従来のウェハー製造工場は賃金,土地の高騰と厳しい環境規制を逃れてシリコンバレーを脱出する動きが続いてしる。同様な動きは日本の山形県東根市ハイテク工業団地や福井県武生市などでも見られる。IT製品の海外生産拠点化により工場の撤退が進み雇用喪失と税収減に直面し、汚染だけが残るという負の遺産を地方自治体が背負うことになった。そして矛盾は東南アジアで噴出した。

3)IT生産と環境問題

@IT製品の生産に係る環境負荷
a)半導体生産に使用される化学物質の安全性、毒性問題
有毒ガス(特殊材料ガス)、有害化学物質(砒素、ヒドラジン、塩素系有機溶剤、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,1,1トリクロロエタン、ジクロロメタン)、温室効果ガス(フロン、HCFC、PFC)
b)半導体製造のための水使用量増大、エネルギー消費の増大
c)半導体製造の産業廃棄物  廃油(廃塩素系有機溶剤)、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック

A使用済みIT製品の環境負荷
a)IT製品に含まれる有害物質
鉛(CRTブラウン管、半田)、塩ビ(電線)、Cd(電池)、Cr(板金)、Hg(電池)、臭素系難燃剤(配線版、封止材)、リン(ウエハー)、アンチモン(封止材)、砒素(ウエハー、液晶ガラス)、インジウム(液晶)
b)廃棄物処理とリサイクル再資源化

BITと環境問題   水環境汚染、土壌・地下水汚染、有害廃棄物

4)IT産業と労働衛生問題

@化学物質による職業病の高い発生率 : 全産業 5.9% 半導体産業 9.2%
A半導体工場における高い流産率 : 相対リスク 1.4倍 (グリコールエーテル)
B肝機能障害、生殖毒性 :臭化プロパン

5)日本における土壌・地下水汚染問題

多くの事例が報告されているが、対策費が巨額であった例としてキャノン鹿沼工場のテトラクロロエタン地下水汚染事故があり、総額100億円とも言われている。富士ゼロックス の12億円が次いでいる。「環境対策は後手に回るほど高くつく」を教訓に次の対応が望まれる。

6)IT汚染を防ぐために

@有害物質の使用削減と代替物質の開発:環境適合製品アセスメントでリスクの摘出が必要
A日本版スーパファンド法の早期制定(汚染者負担原則)による浄化促進
BIT機器リサイクルの向上 :パソコン回収義務(2001年4月 改正リサイクル法)             OECD 拡大生産者責任制などが拍車を駆ける可能性
   

 
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