安井 至著  「環境と健康」・「続・環境と健康」
丸善出版 (2002年8月初版)・ 丸善出版 (2003年1月初版)

   

安井至東京大学生産技術研究所教授の専門はガラス材料工学であったが、現在は材料のLCA解析を中心とした環境工学的活動が顕著である。氏の著作である「市民のための環境学入門」(丸善ライブラリー)、「21世紀の環境予測と対策」(丸善)は本誌で紹介したことがある。氏の主張は市民の環境リテラシー(読み書きそろばん)の向上が、行政と経済産業とのコミュニケーションにとって必須であり有効な環境行政に欠かせないいうことである。近年健康影響問題が話題になることが多いため科学的議論なしには正しい判断が下せない。「科学的」に厳密を期せば、市民排除のバリアになる。「因果関係が科学的に証明されていない」ことを理由に事業者擁護に利用され被害の深刻化を招来することは水俣病の歴史をみれば明らかである。近年の公害法では「被害が実証されれば被害者に因果関係の実証義務はない」との解釈が定着した。
安井氏は個人ホームページ(http//plaza13.meb.or.jp)「市民のための環境学ガイド」で数年前から環境時事問題を論じてきた。今回取上げた2冊の本はこのHPのトピックスを編集されたものである。環境問題にまつわる誤解、氏の環境学講義など分かりやすく紹介されている。個々の論点を整理してテーマ別に分けて見解を述べたい。

リサイクル問題:リサイクルは法的に整備されたと言われるが、技術的・社会システムとしては揺籃期にあり問題が山積している。自動車、包装材、プラスチック、紙など個々のシステム毎に正しい知識が必要であって、現時点でリサイクル品が高コスト、低品質であることをもって非難されるべきではない。

テレビの健康ショーや健康食品・機器問題:テレビでやっている健康食品・機器の根拠が無い話には踊らされないことが肝要。マイナスイオン、遠赤外線利用健康機器、電磁波防止製品などはインチキ商品である。物理化学的に良く考えれば分かるはず。健康を人質に取った企業ビジネスである。

食のリスク:有機栽培と農薬、狂牛病、遺伝子組替食品などすべてに食のリスクが存在する。食品添加物・農薬などの安全性について無闇に恐怖心を煽ることは賢明でない。

化学物質の安全性:リスクは絶対にゼロではないが一概に恐怖する問題でもない。

環境ホルモン・ダイオキシン騒動のウソ:ダイオキシン騒動では統計的に明白なウソが報道された。環境省の環境ホルモン物質リスト公表も明らかな扇動である。これらの騒動で儲けたのは環境省、環境研究者と分析機関、焼却炉設備メーカであった。仕組まれた騒動ともいえる。

化石燃料代替エネルギー:自然エネルギー、水素燃料電池自動車、電気自動車、核融合、宇宙発電など石油燃料発電に取って代わる可能性は当面考えられない。化石燃料の経済的可採埋蔵量は悲観的では無く数百年は持つだろう。省エネルギーの推進が技術的可能政策である。

地球温暖化と京都議定書:経済状態の異なった後進国には差異ある対応を求め、先進国は省エネ産業活動と生活スタイルの改善を進めなければならない。

環境倫理と地球環境問題:地球環境問題の基本は生命と健康、食料、エネルギー、社会システムである。自分および自分の世代のみの利益追求は公平の原則に違反する。


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