安井至 編著 「21世紀の環境予測と対策」

(丸善 2000年)

     

東大生産技術研究所 安井至教授のプロフィール及び本書の成り立ち

本書は平成5‐9年文部省科学研究費重点領域研究「人間地球系―地球本位型社会の実現手法」の議論を纏めたものである。この研究目的は「いかに市民社会を持続可能型に変化させるか」にあった。環境問題が人間の生存と地球生態系の持続に係わるため、最終的な決定権は市民にある。ところが市民が持っている環境科学の知識と専門家の知識のギャップは拡大しつつあることに危機意識を持った安井教授は、市民社会におけるリーダ的存在を形成する必要があるとの認識にたってこれまで「市民のための環境学入門」(丸善、1998)やホームページ「市民のための環境学ガイド」を通じた活動を行なってこられた。

本書の構成

 

未来予測(安井)、エネルギー温暖化(山地、小島)、廃棄物(高月)、化学物質(中杉)、森林計画(松尾、新巻)、資源枯渇(安井)、技術移転(定方)、食料(川島)、社会システム(浅野、加藤、岩田、日引)

1)未来予測

環境の何を守る(健全性を持続する)のかは倫理に基づいた社会的契約である。21世紀の環境科学はタータルリスクミニマム(賢明な理性)と予測原則(科学的先見性と対応能力)に基づかなければならないということが安井教授の持論であろう。

2)エネルギー・温暖化門題

1997年気候変動枠組み条約第3回条約締結国会議(COP3 京都会議)で2012年までのCO2削減目標が合意された。その後の毎年の条約国締結会議では何一つ実質的進展がないことから、やはり技術的条件が成熟していないためと考えられ、短絡的政策を「後悔する政策」として危ぶむ声が出ている。1990年通産省は「地球再生計画」を提案したが、2030年までは省エネを中心とした政策を行ない、2030年から技術開発成果を投入して2100年までにCO2削減目標を達成するというものであった。時間的フレキシビリティがあるのだから、後悔する政策(石油より少ない資源へのシフト、エネルギー多消費型対策)よりは賢明でコストが少なくてすむ政策を選択すべきであるという考えかたである。確かに一理ある。

3)廃棄物問題

廃棄物問題はまさに資源問題であるという認識に立ち、拡大生産者責任制のもとで産業別にリサイクルシステムを確立することが解決法であろう。そのための法整備が1991年より矢継ぎ早になされてきたが、社会システム作りが未成熟で混乱しているのが現状である。そのための促進策としてデポジット、プロダクツチャージ制などの経済的政策が必要である。

4)資源枯渇

石油資源は2030年頃にピークを迎え、石炭の可採年数は長くて500年、高速増殖炉は現在頓挫しているが理論的には1000年供給可能である。それまでに自然エネルギー、燃料電池などの技術課題を克服しなければ未来が見えてこない。鉱物資源の枯渇は確実であるのでリサイクル社会の建設しかない。

5)社会システムの改革

法規制によるよりも、製造者責任制に基づく枠組み規制(協定的規制)と自主的取り組みの組み合わせが今後の企業活動の特徴となりかつコスト最小の方向として期待される。さらに炭素税の導入も税収入の還流策如何にいってはGDP減少抑制となり得る。これらの経済策については、石弘光「環境税とはなにか」、植田和弘「環境経済学への招待」に紹介されている。なお化学物質、森林計画、技術移転、食料生産の話題については紙面上省略した。



環境書評に戻る

ホームに戻る
inserted by FC2 system