柳沢幸雄、石川哲、宮田幹夫 共著 「化学物質過敏症」
 文春新書(2002年 2月)

   

  

柳沢幸雄教授は東大新領域創生科学研究科教授、石川哲、宮田幹夫博士は北里研究所病院臨床環境医学センター長、部長である。

1)化学物質過敏症の医学的特徴 (石川哲、宮田幹夫 執筆)
   

現在の医学界では「化学物質過敏症はない」という否定的な考え方がいまだにある。1950年代に初めて化学物質過敏症を一つの疫病として確立した米国の医師セロン・ランドルフは化学物質過敏症を次のように定義した。
「過去にかなり大量の化学物質に接触した後、または微量な化学物質に長期にわたって接触した後で、つぎの機会に非常に微量な同種または同系統の化学物質に再度接触した際に出てくる不愉快な症状」

米国では1989年に(1999年に項目E追加)5項目の診断基準が合意された。
@症状は何度もの化学物質曝露によって再現している。
A慢性の経過を示す。
B通常では何の症状も示さない低レベルの曝露で症状が出てくる。
C症状は原因物質の除去で改善または軽快する。
D化学的に無関係な多種類の化学物質に反応する。
E症状は多種類の器官系にまたがる。
客観的な化学物質過敏症の検査法の詳細は述べないが
@瞳孔反応検査
A眼球追従運動検査
Bコントラスト感度検査
C眼調節検査
D脳血流SPECT検査
E前頭部大脳皮質機能変動検査
F負荷検査などがある。
化学物質過敏症も精神神経症も海馬や扁桃体といった大脳周縁系で異常が起きているため化学物質過敏症に関する正しい知識を持っていないと見分けが難しい。このため化学物質過敏症患者の人格に誤った偏見を持たれる危険性が付き纏う。大脳周縁系は情動脳といわれ快・不快・恐怖を司る。化学物質の臭いも嗅神経を通じて大脳周縁系に伝わるためこの部分に異常が現れると精神疾患と似た症状を示すわけである。

2)個人被曝量の測定(柳沢幸雄 執筆)
   

2000年12月段階で厚生省は4物質について室内濃度指針(ガイドライン)を設定した。(2002年1月現在では15物質の室内濃度指針が策定された。)個人の被曝量はパッシブサンプリング、アクティブサンプリングで測定できるが、ヒトは少なくとも10種類の化学物質に曝されていた。健常者は100ppb以上の濃度でも平気で曝露されているが、過敏症患者は細心の注意を払って化学物質を回避しており数〜数10ppbの濃度でも過敏症に苦しんでいる。健常人のシックハウス、シックスクール、シックビルディング症候群はこれらのガイドラインで救われるが、化学物質過敏症患者は通常家屋にも住めず、学校にも行けず非常に不自由な生活を強いられている。

3)化学物質過敏症対策の現状と課題
  

化学物質過敏症は農薬、防蟻剤(有機りん化合物)、揮発性有機化合物(VOC)で誘発されるが、新築住宅の室内空気はホルマリン、有機リン、トルエン、その他の順で危険性が高い。花粉症と同じように誰でもある時に過敏症を誘発される可能性があるといえるが、過敏症患者はまず化学物質から逃避すること、医療設備を併設した避難基地(学校、事務所)で生活することが要求される。医学、行政面での進展に期待するところが大であるが、化学物質を製造する側でも環境への排出抑制はもちろんのこと、製品材料の見直し、製法転換などの開発努力を惜しんではならない。

         
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