レスター・ブラウン編著 ワールドウオッチ研究所
「地球白書2001-2002」 エコフォーラム21訳監修 

   
 「地球白書」とはどんな書か
  

本書の継続的キーワードは「公平」である。公平なくして環境の破壊を押しとどめることはできない。レスタ・ブラウン氏は米国農務省官僚出身で、1974年ロックフェラー財団の支援により環境シンクタンク「ワールドウオッチ研究所」を創設した。1984年より毎年「環境白書」を刊行している。本書の姉妹書に「地球環境データブック」がある。本書は総覧的レビューであるが、毎年発行されているので今年の主張点や変化点は昨年度分を読んでいないと分からない。しかし本書のみから判断すると水、食料、貧困に対する警告は的を得ているとみられる。しかしエネルギー戦略、技術分野の詰めは甘い。戦争と貧困が環境の敵であることは分かったが、「有能」な人間が富を独占することをよしとする米国人の「公平」意識の矛盾に目をつぶっている。従ってエネルギー配分問題でもある地球温暖化対策に本書は見識をもっていない。本書は風力などの新エネルギーに期待しているが、水素エネルギー経済や新交通手段の提案がない。「途上国を重債務から解放する」ことは本書の環境論からの逸脱であり、OECDで議論すべき問題である。またリサイクルへの言及が全く見られないのは、典型的資源浪費型米国経済への反省が全くない事でもあり、本書の重大な欠点である。米国がベンツやリンカーンを捨てて軽自動車に乗り、リサイクルをしない限り米国人の環境論は信用できない。資源皆無の国日本の有るべき姿として米国型環境論は参考にならないと深く考えさせられたのが本書読後感であった。以下各論の重要点をまとめる。

1)貧困と環境
世界は貧困と富裕層に2極化し、環境、疾病は貧困層へ集約している。2ドル/日以下の貧困世帯はインドで86%、インドネシアで66%、中国で54%、ロシアで25%、南ァで36%、ブラジルで17%である。
2)地下水汚染
地下水の滞留時間は1400年で、地下水汚染(農薬、塩素系溶剤)は一般に取り返しがつかない。
3)飢餓と食料
食糧問題と地域紛争は密接に関係している。人口は2050年に100億人になる。
4)両生類からの警告
生態系の最も弱いバロメータとしての両生類。生態系保護は環境保護と同意義である。
5)水素エネルギー経済
燃料の脱炭素化の流れ(石炭−石油−天然ガス)。燃料電池技術開発は水素生産で暗礁。

6)交通手段の選択
石油依存の交通手段(車、航空機)から選択肢の多様化に。ITは交通量増大につながる。
7)自然災害
生態系破壊が災害を招いている。その元凶は利権と汚職(公共事業土建行政)にある。
8)途上国の債務
貧困国を先進国に隷属させる債務の鎖(世銀、IMF)。途上国の汚職腐敗階級に資金供与。
9)国際環境犯罪
国際条約事務局員の監視不足により野生生物密輸、有害廃棄物不法投棄、フロン不正取り引き。
10)持続可能な社会
変革の担い手は市民、産業、政府にあり、これまで市民―政府―産業の間の一方向な情報の流れが、情報開示、インターネット時代には3者のスクランブル情報交流になる。不安感を利用した情報は変革の逆効果になるので、リスク情報を開示して代案を提案する当事者関係(ステーキホルダー)が必要である。
 

     
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