宇沢弘文 著  「社会的共通資本」
 岩波新書(2000年)

   

1)宇沢弘文東大名誉教授のプロフィール

  

宇沢弘文氏は数学科出身の経済学者である。「自動車の社会的費用」(岩波新書)が最も著名な著書と見られるが、最近「地球温暖化を考える」(岩波新書)、「日本の教育を考える」(岩波新書)などの課題と人間の経済活動との関連で注目すべき視点を提出された。


2)社会的共通資本の定義

  社会的共通資本とは「豊かな経済生活を営み、優れた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を安定的に維持する社会的装置」と定義され、次の構成要素からなる。
@自然環境 (大気、森林、河川、水、土壌、野生生物など) [環境]
A社会的インフラストラクチャー (道路、上下水道、住居、ガス、交通通信網など) [ハード]
B制度資本 (教育、医療、司法、金融、福祉、年金など) [ソフト]
  すなわち人が豊かに生活できる社会の総システムを指し、資本主義、社会主義の枠を超えたシステムの構築を目指す。生活のし易さは所得体系(税、賃金)だけではなく、受けられる総サービスの量と質すなわち社会制度による所が大である。すなわち社会の総体でしか評価できないことを示す。

3)社会的共通資本の考え方の経済史

 

Aケインズ経済学(1936年から1970年)
  資源配分の最適化と市場均衡も安定を否定し、経済活動の水準つまり有効需要の大きさは経済主体の固定的資本形成、総資本顎であるとした。金融資本の投機的性格による不安定性を明らかにした。しかしケインズの経済学は資源の私有制と所得配分の不公正には眼をつぶり、生存権の保障は所得の再配分つまり事後的救済策によった。雇用問題と米国のベトナム戦争、財政崩壊により有効性を失った。

B反ケインズ経済学(新保守主義)(1970から1990年)
  政府の役割縮小、資源の私有と生産主体に私的性格を強め、マネタリズム、合理主義経済、サプライサイド経済学、合理的期待形成仮説など多様な形態をとるが、極めて政策的要素が強い。レーガン、サッチャー、中曽根が民活、規制緩和、福祉切り捨てなど制限なしの企業活動を支援した。グローバル化が進行したのもこの時期である。その結果バブル経済を招来し金融システムの腐敗を招いて崩壊した。

Cスティルヴェブレン「制度主義」(社会的共通資本とそれを支える社会組織)
アダムスミスの「国富論」に回帰することが理想となり、「民主的過程を経て経済的社会的条件が展開され、最適な経済制度を求める」。制度主義の経済制度の特徴は社会的共通資本とそれを管理する社会的組織である。市民の基本的権利である生活権(生存権)を充実するのが目的であるから政府官僚の規制を廃し、市場的基準に支配されてはならない。「信託」の概念で管理運営される。




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