植田和弘著  「環境経済学への招待」

 
丸善ライブラリ−(1998年)

京都大学経済学部  植田和弘教授のプロフィール


  人類が貧困を追放し、豊かな社会を築くためには経済発展が不可欠であると理解して懸命に努力したのが20世紀であった。しかし豊かさを目指したはずの活動が地球温暖化、廃棄物など深刻な環境問題を引き起こすことを認め、この状況を打破して持続的発展が可能であるかどうかと質問を発したのも20世紀であった。環境破壊は経済活動の結果であるから、経済メカニズムを理解せづして適切な環境制御の方法を見出すことはできない。一方経済学の方も貨幣価値のつかない「環境」には関心を示さなかった。環境経済学とはまさに環境問題の経済的メカニズムを明らかにして、税制、行政、法制の面からインセンティブのある戦略を提案することである。教授は環境経済・政策学会、地球環境関西フォーラム、地域文化環境経済研究会、財政学研究会ならびに京都大学経済学部ゼミナールの討論成果を下敷きにして本書を執筆された。真に有効な環境政策とはなにかを考えるには格好な入門書であると考え紹介したい。


外部不経済と環境経済学


  ある経済活動が本来負担すべき費用を(大気汚染対策費、治療費など)無視または政府・自治体に負担させることにより(社会的費用)、不当に安い価格で経済競争を行なうことを外部不経済という。(資源そのものと環境はただという概念)これに対して環境には経済活動の共通基盤たるインフラストラクチャー(社会的共通資本)、居住環境としての地域固有財、不可逆的で絶対的損失という性格をもっている。環境破壊の結果、経済活動自体がなりたたなくなれば元も子もないので、環境の経済的価値の定量化と、環境保護政策の政財政的誘導策(インセンティブ)を講じるのが本学問の目的である。例えば廃棄物対策の制度的枠組みとしてデポジット制度、地球温暖化防止対策として炭素税制化などが議論された。


EU環境共通政策の試み(グローバル・エコノミー)


  全地球の環境政策を議論しても、南北問題ばかりが目立ち国益の衝突に終始して何一つ決まらない。そのため経済格差が比較的小さいEU内で共通環境政策が成功しなければ全世界で成功する筈がないといわれ、今EUの環境政策の成り行きに全世界の有識者の目が注がれている。第5次環境行動計画(1999-2002)の特別題目は「生活の質と生物資源の管理」、「エネルギーと持続的発展可能性」であり、環境政策の原則としては事後的対症療法から予見的アプローチすなわち「予防原則」へ転換すること、および汚染者負担原則を基礎に置いた市民、企業、政府の責任分担に基づくパートナーシップ原則を採用している。


環境の全経済的価値と環境制御への戦略


 環境の全経済的価値=利用価値+オプション価値+存在価値+遺贈価値
 環境を制御するために技術、情報、税政、法制の果たすべき課題を提案した。
技術環境政策が明確な目標を掲げること。(自動車排ガス規制による自動車産業の国際競争力強化)環境技術の生産技術への内生化(技術のグリーン化と地域化)。
情報環境情報公開制度(PRTRなど)が経営者の問題の重大性の認識に貢献する。環境情報の受発信と共有化を促進する仕組みをデザインすることが中心的な課題である(リスクコミュニケーション)。
税制環境税は環境政策手段としての目的税である。汚染者に課税し環境全投資や技術開発を促進するインセンティブを制度的に作り出すことである。環境税収入は膨大になるため行財政改革が必要。
法制環境政策は環境権を保障する法制改革が必要。基本的人権と差し止め請求としての環境権。




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